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虚無の魔術師と黒蟻の使い魔-09-2


「ぶっちゃけて言うとよ、お前さんのそれ、水の魔法だなんて嘘だろ」
夜。
学院の中庭にデルフリンガーを携えたルイズがいた。
「いや、別にな。これを見てそう思ったわけじゃないぞ。最初っからな、お前さんに最初に握られたときから解ってたことだぜ」
ルイズの周りにはいくつかのクレーターが出来ている。系統魔法のトレーニングをした結果だ。
今にして思えば、水の魔法だなんて嘘はルイズが系統魔法を使えないということを知らない武器屋の店主相手だからこそ通じる嘘だった。
ただデルフリンガーの言を信じば、始めから系統魔法ではないことは気づいていたということだ。とりあえずこの剣を回収しておいたのは正解だった。
「で? 系統魔法じゃなければ何だって言うの?」
ルイズはデルフリンガーに聞く。この剣はどこまで知っているのか。
「うーん。系統魔法じゃないことは確かだが、先住とも違う気がするな。良く解らん力だ。使い手とも違うし……未知の力だな。俺は結構長く生きてきたつもりだが、俺が解らないってことはハルケギニアにとって未知の力といってもいいかもな。
それにさっきちょろっと見せてくれた蟻からも似た力を感じたな。蟻は使い手とは遠い気がするが、蟻とお前さんの力の嵩上げは似た所から来る力だ」
デルフリンガーの言葉は余すところなく正鵠を得ていた。
「……100点満点よ。ご褒美に海の底と呪いの壁、好きな方を選ばせてあげる」
「な、なんでそうなるんだよ! どこが褒美なんだよ!」
「私はメイジなわけだけど、そんな私が系統魔法でもなんでもない、得体の知れない力を使ってるなんて知られるわけにはいかないでしょう?」
禍根は断つべきか。ルイズは考える。
「いや、言わねえよ。お前さんの力が何だって俺には関係ねえし。俺はただ使い手に振られてえだけだし、お前のそれが使い手のそれに似てるならそれはそれで俺的には望むところだし」
デルフリンガーは言う。
その言葉を信じていいのか?
正直、剣の考えることなど解るわけもない。ただ、確かに人間のように異端だなんだといったことは問題にはしなさそうではあるが。
「大体、系統魔法だって、6000年以上前は得体の知れない力だったんだろ。多分、俺、6000年ぐらい生きてる気がするから俺が保証するぜ。力は力だ。剣振ろうと、杖振ろうと、得体の知れない力だろうと、敵をぶっ飛ばすなら変わりねえだろ」
目の前の敵を打ちのめす。武器として生まれたものに意思があるなら、その思想は単純なのかもしれない。
剣に信仰がないのなら、密告の恐れはないだろう。ただ、うっかり口を滑らす可能性は否定できないが。
「6000年って随分吹くわね。そんなの伝説のレベルよ」
「おうよ。俺は伝説だ。伝説の魔剣、デルフリンガー様ってな。だから捨てたら勿体無いから俺のこと使ってくれよー」
この剣はただ自分のことを使ってほしいだけなのかもしれない。それが武器として生まれたものとしては自然な志向か。
ただ、ルイズとしては体を鍛えることには積極的でも、武器を使うということに関してはそれほど積極的な志向を持ってはいないのだが。

「3つ、約束できるならアンタのこと使ってやらなくもないわ」
「3つ?」
秘密の漏洩さえなければ、デルフリンガーを処分する必要はない。むしろ100エキュー払ってしまった以上使わずに処分してしまうというのは勿体無い。
「まず一番重要なこと。その得体の知れない力については私以外に言わないこと。これは絶対。これが守れないなら、私はアンタの存在を許容できないわ」
「任せとけ。口は堅いぜ。鉄で出来てるからな」
「次。使い手のこと、それ以外も、思い出したことは私に言いなさい」
「おう。思い出したらな」
ルイズの言葉に、威勢よく答えるデルフリンガー。
「最後に。目覚まし時計にもなること」
「目覚まし時計?」
ただ、3つ目の条件は即答とはいかなかった。
「毎朝、お前さんを起こせって?」
「そうよ。『ジリリリリ』ってベルみたいな音出せる?」
「いや、俺の声は人間のそれと同じと思ってくれ。人間が口で出せる音だけだ。つーか冗談じゃねえ。俺は剣だぜ。それは剣の仕事じゃねえ」
デルフリンガーが不満を言う。
「あら、剣の仕事しかしないんだったら魔剣の意味がないじゃない」
「んー? そう言われると、そう、なのかぁ?」
ルイズの言葉にない首を捻るデルフリンガー。
「決まりね! じゃぁ明日の朝からお願い」
ルイズは無理やり話をまとめる。
「あー仕方ねえなぁ。まぁ、よろしく頼むぜ、相棒」
仕方なし、といった調子でデルフリンガーは了解する。
「相棒?」
「俺を使ってくれるなら相棒だろ。本当は使い手が相棒なんだが、いない使い手より実際に使ってくれる相棒こそ相棒だぜ」
「相棒ねぇ」
「俺のことはデルフって呼んでくれてかまわないぜ」
そう言うと金具をカチカチと鳴らし笑うデルフリンガー。
「まぁ、よろしく頼むわ。デルフ」
「おう」
そんなやり取りの後、ルイズはデルフリンガーを振り上げた。

「相棒ってまるっきりド素人なのな。ある意味おでれーたぜ」
ルイズはデルフリンガーを振り上げ、そして振り下ろす。それだけの行為を繰り返していた。
それは傍から見れば不恰好で、剣を振るというより、鍬を振るような動きであった。実際に、振り下ろし勢いのついたその重量を止めるには力が足りず、一振りごとに地面を掘り返している。
乳母日傘で育てられた、と言う程甘やかされたわけでもなく、むしろ厳しい両親をもつルイズではあるが、そこは貴族。軍人としての教育で設けていない限り、杖より重いものを振り回すなんてことはしたことがなくて当たり前だ。
一振りごとにデルフリンガーから「腰が入っていない」だの「腋を締めろ」だのと言われるが、腰が入っている状態と言うのがどのようなものを指すのかもルイズにはいまいち分からない。
ざくり、と切っ先が地上に埋まった。
それを引き抜き振り上げ振るおろすというルーチンが続いていたが、それが止まる。
ルイズはデルフリンガーを杖のようにしてもたれかかると、肩で息をする。
「ダメッ。もー駄目。腕上がんない」
音を上げるルイズ。
「まったく。フォームがなってないから余計な力を使うんだぜ。ちゃんと敵をぶった切ることを想定して素振りしなきゃあな」
「うるさい……。振ってて解ったけど、それ、まだ無理。絶対振り下ろした勢いを止めらんない。兎に角もっと腕力つけないことにはまともに振るのも無理だわ」
「あー、腕力だけじゃねえな。下半身も弱いから振った勢いで体が流れちまうんだ。走りこめ」
デルフリンガーがルイズに駄目出しをする。
その点はインテリジェンスソードを買ってよかったかもしれない。
ルイズ一人ではただ闇雲に剣を振るだけで、自分に何が足りていないのかなど解らない。
デルフリンガーなら、数多の剣士に使われた経験(デルフリンガーがどれだけ覚えているのかは不明だが)をもとにルイズを指導することが出来る。
(なんか、無機物にばっかものを教わってる私ってどうなんだろ……)
ルイズは息を整えながらそんなことを考える。
「まぁお前さんの場合走り込みしなくても、その『肉体強化』ってやつの修行をすりゃいいのか?」
デルフリンガーがルイズに聞く。
剣を振りながらも、デルフリンガーには黒蟻と肉体強化については説明した。
系統魔法でも先住魔法でもない別の魔法だとだけ。
モッカニアの『本』のこと、モッカニアの世界のことはまだ話してはいない。
それはもう少しデルフリンガーと信頼関係を築けたら考えよう。
「駄目よ。もとの筋力が強ければ肉体強化の魔法の効果もさらに上がるのよ。魔術審議は一日に何度も出来るわけじゃないし、黒蟻の魔法との兼ね合いもあるから。実際に体を鍛えたほうが効率がいいわ」
ルイズは説明する。
何だかんだと言っても、ルイズはハルケギニアに生まれたメイジである。
どちらも魔法ではあるが、肉体強化のような魔法にはまるで見えない力よりは黒蟻の方に重きを置きたい。
それに、武装司書なら誰もが使う肉体強化より、モッカニアしか使えない黒蟻の魔法のほうが、モッカニアとの繋がりを感じることができる。
また、肉体強化はあまり高いレベルまで突き詰めてしまうと、ハルケギニアの常識からあまりにも外れた次元まで行ってしまう。
そこまでの身体能力は必要ないし、亜人を超えるような身体能力を周りの人間に見られたらどうなることか。
「それに、こうやって魔術審議ではなく実際に体を鍛えることは布石でもあるのよ」
「布石?」
「それは……」
ルイズが魔術審議ではなく実際に体を鍛える理由。それを説明すべく口を開いたところに、急に視界が暗くなる。
月明かりが遮られ、ルイズの周りに影が落ちる。
頭上からバサバサという音がする。
ルイズが顔を上げると、ルイズの頭上に一匹の風竜が浮いていた。


「あらルイズ。何よその剣。魔法は諦めて剣士にでもなるの?」
風竜から降りてきたのはキュルケとその友人のタバサ。ルイズはタバサとは特に交流がないが、風竜を使い魔として呼び出したことを記憶していた。
そんなキュルケがルイズの様子を見るなり口を開いた。
(なんでよりによってこいつなのよ)
ルイズは剣を持っているところを、選りに選って己が敵と看做しているキュルケに見られたことに舌打ちする。
(キュルケ以外だったら誰でも良かったのにー)
布石。
デルフリンガーに言いかけた布石とは、すなわち周りの貴族に自分が剣を持ち、それを振るうための鍛錬をしているということを見せるということ。
当然のことながら、貴族でありながら剣を持つということは本来有り得ない。
杖は貴族の象徴であり、剣は平民の象徴である。
そして、ルイズにとっても剣を持つということは己のプライドを著しく損なうことであるのは事実だ。
幾ら今のルイズがハルケギニアの一般的な貴族観から外れた存在になりつつあるとはいえ、16年間培ってきた貴族としての価値観をそう簡単に変えられるわけではない。
自分が剣を持っているということ。そしてそれを他の者に見られるということ。
内心では忸怩たる思いがある。
だがルイズはそれでも剣を持ち、あまつさえ他の者に見せつけるつもりでいた。
それこそが布石。
いずれ、己が身に付けた身体能力を公然と振るうための布石。
黒蟻の魔法を使い魔として周知させたように、身体能力にも何らかの理由付けが必要なのだ。
現状のような男子生徒と互角程度のレベルならともかく、それ以上の力を発揮しようと思うなら、それに相応しい理由が必要になる。
自分の身体能力がどのレベルまで辿りつけるかは解らない。
武装司書レベルか。亜人レベルか。メイジ殺しレベルか。
そのどれにしたところで特に体格に恵まれているわけでもない貴族の娘が突如身に付けたならば異常な事態だ。
ならば、普段からその身を異常に置いておく。
貴族でありながら、剣を振るい、その身を鍛える。
ただ体を鍛えるというのではなく剣を振るうのも、それがより異常であるから。
異常であればより印象に残るから。
何かを守るためにその力を誰かの前で振るうことがあった場合。「貴族でありながらまるで平民のように剣を振るい、体を鍛えていた」という認識があれば、多少速く、強く動けすぎたところで誰もおかしな事だとは思わないだろう。
魔法権利を隠匿しなくてはならないルイズにとって、魔法権利はハルケギニアにある既存の力に扮する必要がある。
その点、肉体強化については、体を鍛える己を周囲に知らしめれば、よほど度を過ぎない限り問題ないだろう。
そもそもが人間が人間として手足を動かす、その延長線上なのだから。
地道なピーアールを欠かさなければ、その力に疑問を持つものはいないだろう。

そういった理由から剣を振る姿を見られることは想定内ではあるのだが、キュルケに見られるというのは気分的によくない。
誰に見られてところで、馬鹿にされ笑われることは覚悟しているが、キュルケにそれをされるのは我慢ならない。
「誰が魔法をあきらめるですって? 馬鹿なこと言わないでよ!」
ルイズがキュルケに反論すると、キュルケはちらりと周囲に目をやると、
「そうね。確かに魔法の練習そっちのけで剣を振ってたってわけじゃあなさそうね」
そう言った。
ルイズの周辺のクレーターを踏まえたうえでの言葉だ。
「やい! なんだおめーら。剣を振ることの何が悪いってんだ!」
突然、デルフリンガーが二人のやりとりに割って入った。
「あら? インテリジェンスソードなの?」
「デルフ! ややこしくなるからあんたは黙ってなさい!」
ルイズはデルフリンガーを黙らせようとするが、デルフリンガーは黙らない。
「いや、言うぜ。乳がでかくても、俺のことを振り上げられねー様な貧弱娘が偉そうなこと言うんじゃねーや」
だがその言葉を吐いた瞬間、
「あ? 乳がなんだって?」
「いや、スミマセン……。乳は関係ないです。相棒は最高です」
ルイズから背筋も凍るような気配が発せられる。
「で? なんで剣なんて振ってるのよ?」
ルイズの乳限定の凄味などいつものことと、キュルケは意に関せずにルイズに質問を浴びせた。
「そんなの剣を使えるようになるために決まってるじゃない」
ルイズは当たり前のように言った。
だが、それでは質問の答えになっていない。
「だから、何で剣を使えるようになりたいのよ?」
「こっちこそ聞きたいわよ。剣を使えるようになりたいってことに何か疑問があるわけ? 剣を使えるようになって損することなんてないわよ。魔法も剣も使えれば、魔法しか使えないやつより優秀ってことじゃない」
ルイズはやはり当たり前のように言う。
だが実際にはそれが当たり前から大きく外れていることも自覚しているし、そして、真意からも外れている。
あくまで肉体強化の理由付けこそが目的。
「ふーん、そう」
そんなルイズの言葉に対するキュルケの反応は素っ気ないものだった。
その反応にルイズは肩透かしを食らった。
「なによ。馬鹿にしたいならすればいいわよ!」
剣を使うという貴族として逸脱した行為。
肉体強化の魔法をものにするための過程において、貴族として逸脱した行為を衆目に晒すと決めた。その時に侮蔑や嘲笑されることは覚悟済みだ。
貴族として弱きものを守るためにもそれに見合う力が必要。そのためならそれぐらい耐えねばならぬ。
そういう覚悟はできていた。
「馬鹿になんてしないわよ。強くなりたいって思ってそのうえで自分で考えた結果なんでしょ?」
だが、キュルケは侮蔑も嘲笑もしなかった。
「決闘のときは随分ご大層なことを言ってたけど、そのためにそんな力が必要だってあなた自身で考えたのなら私がどうこう言う余地なんてないじゃない」 
キュルケはルイズを敵と看做している。だからと言って、理由もなくルイズを馬鹿にしたりはしない。
もしルイズが貴族であることをあきらめ、キュルケに対する対抗心も失ってしまった結果として平民の真似ごとをするのなら、嘲笑では済まない。
それをする価値もないと判断するだろう。
だがルイズは、強くなるための努力としてそれをやっているというのだ。
それならば、何も言うまい。
「ただ『魔法も剣も』って、まず魔法使えるようになってから言いなさいよって突っ込みたくはなるけどね」
「う、うるさい! すぐに魔法だって使えるようになるんだから!」


「それに、爆発だってそこらの魔法よりよっぽど威力があるんだから!」
ルイズの言葉にキュルケが目を丸くする。
ゼロの象徴である爆発を、ルイズがこのように肯定的に捕らえてるとは思わなかった。
いや、決闘のときも爆発を戦力として計算した上で闘っていた。
やはり、キュルケが感じていた通り、使い魔召喚以来ルイズの中で何かが変わっているのだ。
「そんなこと言うけど、私に言わせればそんな爆発、怖くもなんともないわね」
「なによ!」
「ならあなた、あそこの木を狙って爆発当てられる?」
キュルケが10メイル程離れた気を指差して言う。
「私だったら……そうね、あの本塔の壁あたりの距離でも、正確に魔法を当てる自信があるわ」
そして木を指していた指をその上方へと向けて言う。
「わ、私だってそれぐらい出来るわ!」
ルイズが声を張り上げる。
「あら、そう? じゃぁやってもらおうかしら。……何か的がいるわね」
キュルケはそう言うとあたりを見渡す。
そしてデルフリンガーの所で目を止める。
「じゃぁ、タバサ。シルフィード使ってこの剣を壁の近くにロープかなんかでぶら下げてくれない?」
「ちょっ。なんで俺なんだよ!」
デルフリンガーが慌てた様子で言うが、
「大丈夫よ。あなたは的じゃなくて目印だから。ルイズにはあなたをぶら下げているロープを狙ってもらうわ。ルイズはあの距離でもきちんと狙えるらしいから何も問題はないわよね」
キュルケはそう言って取り合わず、むしろルイズをけしかける。
「あ、当たり前じゃない! この程度の距離、何の問題もないわ。きっちりロープだけ切ってやるわよ!」
「ちょっ!」
ルイズはものの見事にキュルケに乗せられていた。
「決まりね! じゃぁタバサお願い」
「…………」
今まで全く会話に加わろうとしなかったタバサは、あいも変わらず沈黙を守ったままだったが、キュルケに視線をやると黙って首肯した。
だが、デルフリンガーを拾うために近づいていく際、キュルケのすぐ脇に達したとき、
「お節介」
一言ぼそりと呟いた。
爆発を戦力の一つと数えるのには致命的な欠陥がある。狙いのあまりの不正確さである。
それはルイズも自覚しているのだろう。決闘の際は、ワルキューレにぴったりくっついた上で魔法を使うことで狙いの不正確さを克服した。
だが、それは二度通じる手ではない。
平民が貴族に敵わない決定的な理由。それは距離。
魔法による距離をおいての攻撃。非メイジである平民には、その距離に対抗する手段が乏しいのだ。
弓は使いどころが限られ、銃は距離があると狙いがつかない。
離れた的に対して狙いを付けれらないのなら、ルイズの爆発は対メイジの戦闘において戦力とはなりえない。
キュルケがルイズをけしかけたのは、克服すべき欠陥を知らしめるためだ。
タバサの言葉はそれを察したからこそのものだった。
タバサはそれを踏まえて、キュルケが指し示した木、本塔の壁に目をやる。
キュルケが最初に指し示した木までの距離、10メイル。それはメイジとして最低限手に入れたい距離。
それだけの距離がないと平民に対する優位性すら危うくなる。それ以下では詠唱が完成する前に接近を許す恐れがある。
そして本搭までの距離。およそ30メイル。
それだけあればドットやラインのメイジの中でも優秀な部類と言える距離。
つくづくお節介だとタバサは思う。
普段、敵だ何だと言ってるのに、遠まわしではあるがルイズにアドバイスしている。
だが、そんなキュルケだからこそ友達甲斐があるのだともタバサは思う。

「……まずいんじゃないかしら、これ」
「ど、どど、どうしよう」
「…………」
「おでれーた」
「きゅい~」
3人はそろって同じ場所を見ていた。
デルフリンガーには目はないが、それでもその意識はやはり3人と同じところに向いていた。
タバサの使い魔であるシルフィードも3人に倣い同じところを見ていたが、彼女たちの焦る理由が理解できていないのか暢気な鳴き声をあげていた。
タバサがデルフリンガーにロープを結ぼうとしたときに、デルフリンガーがぎゃあぎゃあと喚き、必死に的にされるのを避けようとしたり、
それに対してルイズがそんなに信用できないのかとデルフリンガーに切れたり、それを見てキュルケが笑ったり、タバサは相変わらず無表情だったり。
そんな紆余曲折は省略して、さらにルイズが魔法を放つ場面さえ省略して、現在。
結果から言えば、ルイズの魔法はデルフリンガーを吊り下げるロープに当たることもなければ、デルフリンガーにも当たらなかった。
その代わり、その背後。本塔の壁に当たり、その壁に罅を入れるに至らしめた。
3人はその壁を見ながら呆然としている。
「これって、私のせい、かな」
ルイズが重々しく口を開く。
「連帯責任……」
タバサが言うと、
「……よね」
キュルケが頷いた。
実際に壁に罅を入れたのはルイズの魔法だが、その壁の近くを的にするように指定したのはキュルケだし、実際に的を設置したのはタバサだ。
そもそもが、ルイズの魔法は遠くのものに狙いを付けられないということから始まったのだ。
それなら、的の近くのものが爆発に巻き込まれるのは想像に難くないことであり、誰かがそれを指摘し場所を変えるべきだった。
「どうしよう……」
「お説教……だけで済むかしら? ルイズ、謹慎明けたばっかのあなたがまた謹慎ってなったら、流石に、その、御免」
「…………」
3人はやはり呆然と罅の入った壁を見ている。
が、突如タバサが視線をルイズとキュルケのほうに向けた。
「……私は何も見ていない」
そしてそんなことを言った。
「私たちは何も見ていない。私とキュルケは街から帰ってシルフィードから降りると、ここでルイズと出くわした。他愛のない言葉を2・3交わした後、そろって寮のほうに帰った。良く見たわけではないので定かではないが、その時、特に壁に異常はなかったように思う」
普段まるでしゃべらないタバサが、立て板に水を流すがごとく捲くし立てる。
その内容は、ルイズもつい最近使った奥の手。『無かったことにする』というものだった。
「そ、そうね。私たちは何も見なかったわ」
それにキュルケが乗ると、
「壁に罅なんて入ってないわよ。私の目には見えない」
ルイズも乗った。
「おめーら……」
「デルフも何も見てないわよね?」
何か言いかけたデルフリンガーにルイズが釘を刺す。

「さて、もう夜も遅いし寮にもどりましょう」
キュルケが言うと、それに倣いルイズとタバサも本塔に背を向け、寮へと歩き出す。
歩きながら軽く周囲を見渡す。誰もいない。目撃者がいたらなかったことにするもなにもない。
とりあえず見渡す限り人のいる気配がないことに胸をなでおろす3人。
だが3人は見渡す限りしか見ていなかった。背を向けた、目を背けた、なかったことにした本塔の付近は、無意識に注意を外していた。
だからそこに潜んでいた人物に気付かなかった。
しかし、次の瞬間に現れたものはどれだけ注意の外にあろうと気づかぬなどということのありえない代物だった。
本塔に並び立つように、30メイルはあろうかという巨大なゴーレムが突如現れた。

「な、なななななーっ!?」
ルイズは叫んだ。
「え?ちょ?な?えぇ!?」
キュルケも叫んだ。
「!!!!」
タバサは叫んだような雰囲気を出した。
突如現れた巨大なゴーレム。思わず3人とも呆気にとられてしまった。
そんな3人をまるで相手にすることもなく、ゴーレムは本塔の罅の入っている辺りへとその拳を叩き込んだ。
どぉんという轟音と共に殴られた外壁は口をあける。
そして、ゴーレムはしばらくその姿勢のまま硬直していたかと思うと、不意に動き出し、学院の外へと向けて歩き出した。
時間にして3分にも満たない早業。ゴーレムのその淀みない動きを3人はただ見ているだけだった。
「あそこって、罅入ってたところかしら?」
キュルケが呆然としたまま言う。
「穴あいちゃったけど、それって私のせい……」
ルイズも呆然としたまま言う。
だが、タバサだけはいち早く平静を取り戻していた。
そして淡々とした声で言う。
「さっきも言ったようにあそこに罅はなかった。それに、罅などなくてもあの重量のゴーレムなら壁に穴をあけることなど造作ないはず」
タバサの言葉はルイズとキュルケに責任を感じさせまいとして発したものだったが、逆にルイズは現実に引き戻され、不安が生じる。
「あのゴーレムはなに? 穴のあいた場所って……」
「宝物庫よね……」
ルイズの言葉をキュルケが引き継ぐ。
どんどん冷静さを取り戻していくと同時に、それに比例して事態の大変さにを認識していく。
「盗賊。おそらく『土くれ』のフーケ」
タバサが短く言い放つ。
その名は昼間に、武器やで聞いた名だ。巷を賑わしている盗賊。当然キュルケもその名を知っている。
あの罅がどれだけ影響を与えたのかは解らないが、その罅めがけ拳を打ち込み、穴をあけて、中の宝物を盗んでいった。
今起こったのはそういうことだ。
「ちょっ! ちょちょ! ちょっと! ゴーレムが行っちゃうわよ!」
やっと目の前で起こったことのあらましを理解するにいたったルイズは慌てて叫んだ。
「追わないと! タバサ! シルフィードを!」
キュルケも慌てて言う。
「危険。それに下手に捕まえても、罅のことで責任を取らされる可能性もある」
そう言いながらも、タバサは指笛を鳴らしシルフィードを呼び寄せる。
キュルケもルイズも性格からして、そんな理由で黙ってゴーレムを見送ることなど出来ないだろう。
「保身のために盗賊を見逃していいわけないじゃない!」
ルイズが叫び、
「捕まえて盗まれたものを取り戻せばそんなのチャラよ!」
キュルケも威勢よく言う。
案の定だと内心で思いながら、地上に降り立ったシルフィードに屈ませる。
3人はその背に乗り込み、双月の輝く夜空に舞い上がった。


しかし威勢の良い二人とは裏腹に、タバサはあくまで冷静だった。
二人に呼応し、フーケを追ってはいるものの、この先で大捕物が起こることなどないだろう。だから危険はない。二人が納得するまで追いかけるだけだ。
そんな風に考えていた。
フーケが見事な手際でこちらが呆気に取られているうちに撤退を始めた時点で、フーケの勝ちは決まっている。
いまさら追いかけても捕まえることなどできやしない。


結局、タバサの考えた通りになった。
シルフィードの速さを持ってすればゴーレムに追いつくことだけなら容易かったが、追いついたところでゴーレムの腕をかいくぐって接近できるわけでもなし。
ならばと、ゴーレムの腕の届かないところから魔法で攻めても、やはりその腕で防御され、なかなか効果が上がらない。
そうしている間にもゴーレムは森に辿り着き、突如その身をただの土くれへと変えてしまった。
それでフーケを見逃してしまい、さらに降下するためのポイントを探す間にフーケに時間の猶予を与えてしまう。
そうなったらもうどうしようもない。
フーケは当然、逃走手段なり隠れ場所を用意しているはず。
まして、フーケは間違いなくトライアングル以上の土メイジ。地中に穴でも掘って隠れているかもしれない。
夜の森で本格的に隠れる、もしくは逃げる人間を見つけ出すなど、よほど優秀な猟犬でもいるか、でなければ人海戦術しかあるまい。
そのどちらの手段もとることができない。
打つ手なしだ。


その後、教師たちがフーケに侵入された宝物庫を見聞すると、その壁に挑発的なサインが刻まれていた。
それは『土くれ』のフーケのお決まりのもの。
盗まれた者を嘲笑うように、毎回領収のサインを残していくのだ。
魔法学院の宝物庫にはこう刻まれていた。
『蜘蛛の魔剣、確かに領収いたしました 土くれのフーケ』



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