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ゲヘナ・ゼロ-01


 灼熱の砂が私を焼く。
 照りつける光と、熱砂からの輻射熱が私を炙る。
 周りは、見渡す限りの砂、砂、砂。
 水分の代わりに砂を含んだ風が吹き、遠くには揺らめく蜃気楼。
 沢山居た仲間も7割は魔物に食われ、生き残った者達とは離れ離れになってしまった。
 逃走の過程で方角を見失い、城に帰る事も出来ない。
 ふと、自らの体を見下ろす。
 砂避けと、直射光を防ぐ為のマントはボロボロで、マントに隠れている服も砂だらけだ。
 体は、擦り傷と打撲で悲鳴を上げ、口の中は、砂のジャリジャリした感触に混じって血の味がする。
 それでも、私は歩みを止めない。

 空は燈色に染まり、夕刻を告げている。
 しかし、西の空に見えるはずの太陽は、何処にも見当たらず、空の色は濃淡の差が殆ど見受けられない。
 それもその筈、見えているあの空は、真実空ではなく、偽りの空なのだ。
 偽りの空だとしても、降り注いでくる光は確かな熱を持ち、時間によって色を変えている。
 いずれ、空は赤く変化し、その後闇が訪れる。
 夜が来ると、剥き出しの地表では、熱を蓄える力に乏しく、容易く冷え込んでしまう。
 そうなれば、火を焚かなくては成らないのだが、その火は魔物を引き寄せてしまう。
 かつては、御伽噺の中にしか居なかった筈の恐ろしい魔物達。
 そいつ等に見つかったならば、私は生き延びる事は出来ないだろう。
 如何に虚無の担い手であろうと、一人では死に抗う事など出来はしない。
 灼熱の砂と、乾いた風で体力を奪われ、残った精神力も小規模の『爆発』が使える程度しか残っていない。

『此の侭だったら、ミイラが一人分出来上がるわね……
 いえ……
 魔物の餌になるのが関の山か』

 間近に迫った死に恐怖するが、私は死ぬ事は出来ない。
 私には、死に逃げる事など許されては居ない。
 こうなってしまったのも、全ては私が原因なのだから。
 責任を果たさなければ、死ぬ事など出来ない。

『絶対に死ねない!
 死んでしまったら、犯した罪を贖う事が出来ない。
 それが、それが何よりも恐ろしい……』

 無責任に死ぬ事に恐怖しているのだ、私は。
 何故あの時、アンリエッタを慰める事ができなかったのか?
 何故あの時、ウェールズ王子を無理矢理にでも連れて帰らなかったのか?
 何故あの時、あんなモノを呼び出してしまったのか?


 もう半年ほど前になるだろうか。
 あの頃の私は、まだ自らの属性に目覚めておらず、劣等感に苛まれていた。
 2年次に上がって直ぐに行われる、使い間召喚の儀式。
 同級生達が、次々に儀式を成功させていくなか、私は一人失敗し続けていた。
 何度も失敗し、その度に笑い声が聞こえてくる。
 怒り、憎しみ、悔しさ、羞恥、諦め。
 言葉では表しきれない感情が、私の中で渦巻き、破れかぶれで召喚を行った結果、奴が現れたのだ。


 召喚に答えたモノは、漆黒の長髪を持つ美しい女であり、名をシェヘラザード。
 女は私に従順で、あらゆる望みを実現させた。
 私を『ゼロ』と馬鹿にした奴らを見返すこと、夜にはクックベリーパイが食べたい等、大小様々な望みを女は叶えていく。
 ある時、私は女が余りにも従順なので、その理由を問うた。

「私は、貴女が自らを幸せにする望みならば、幾らでも叶えましょう。
 それが私の目的に繋がるのです」

 あの時、その目的を聴いておけば、何かが違っていたかもしれない。
 深く問い詰めておけば、女が何を望み、いかに邪悪な存在であるかを気づく事が出来たはずだ。
 しかし、今になっては後の祭りであり、幾ら後悔しても後戻りは出来ない。

 女は私の欲望だけではなく、その他多くの人間の欲望を叶えた。 
 『青銅』の二つ名を持つ少年は、多くの女性と関係を持った。
 『雪風』の二つ名を持つ少女は、復讐を成し遂げた。
 …………
 ………
 ……
 …

 女は常に囁き、誘惑する。
 人は、その囁きを拒むほどに強くはなれず、囁きに耳を貸し、安易に欲望は満たされていった。
 やがて、其れを当然の事と思い、女に頼る事に慣れていく自分に気がつく。

 女は、そんな私達を見て嘲っていたのだろう。
 容易く誘惑に屈し、欲望に流される姿を見て蔑んでいたのだろう。
 私達は堕落してしまった。
 ソレこそが女の目的。その目的とは、人間を誘惑し堕落させる事。
 私に従順に振舞っていたのも、望みを叶えたのも、全てはその為。
 如何に人間が堕落した存在であり、神に愛される資格など無いと言う証明の為。

 気づいた時には既に遅く、破滅への流れを止める事は出来なかった。
 戦乱の嵐が、ハルケギニア中を包み込む。
 ウェールズ王子は死に、アルビオンは滅びた。
 ガリアでは、無能王ジョゼフが暗殺され、新たな女王に王女と王妃は処刑された。
 ゲルマニアでは、革命の嵐が吹き荒れ、貴族はその地位を追われた。
 ロマリアは、聖地をめぐってエルフに宣戦布告し、血みどろの戦いを繰り広げている。
 トリステインには、レコン・キスタの足音が迫り、確実に破滅の刻は近づいていた。


 そんな情勢の中、トリステインは浮き足立っていた。大規模な戦争など、この数十年無かった事だ。
 アンリエッタは、愛する人を失ったショックで、王女としての務めを放棄し、部屋に閉じこもり泣き続けている。
 それに見かねたマリアンヌ王妃は、政治の全権をマザリーニ枢機卿に委ねた。
 既に虚無に目覚めていた私は、軍に志願し国の助けになろうと決心する。
 案の定、父は私が戦場に出る事に難色を示したが、結局ヴァリエール公爵の副官として従軍する事になった。
 私は、副官としての務めに追われて、アンリエッタと話す機会は作れなかった。
 いや、これは言い訳だ。
 私は、アンリエッタに掛ける言葉が見つからず、時間が解決してくれると思い放って置いてしまったのだ。
 そんな状況を、女は静かに微笑んでいた。形の良い唇を愉悦に曲げ、心の底から嗤っていた。
 他の者なら魅力的な微笑みに見えただろうが、その女から感じるのは、魂が凍えるほどの怖気。
 その時になって漸く、私は自らの愚かさに気付き始めた。


 戦いの準備が進む中でも、アンリエッタは喪に伏し、王子の事を想って泣いている。
 部屋の中からの嗚咽は、途切れる事は無く、やがてそれは城の空気に溶け込んでいった。
 そんな彼女に、女は囁き誘惑する。
 何と囁き掛けたのかは分からないが、おそらくウェールズ王子を生き返らせるとでも言ったのだろう。
 アンリエッタがその誘惑に飛びついたのは、想像に難くない。
 そして、女の提示した条件をアンリエッタは呑んだのだ。
 その条件とは、国を犠牲にする事。
 私が駆け付けた時には既に遅く、光の灯らない瞳で私を一瞥した後、アンリエッタはゆっくりと頷いた。

 アンリエッタの悲しみと、戦争で流された血、怨霊の嘆き、他の様々な要因が重なり合いトリステインは墜ちていった。
 墜ちた先は死者の居る場所。生者が決して来る事が出来ない筈の場所。
 不毛の砂漠が広がり、魔物が跳梁する魔境。其処は、人が地獄と呼ぶ場所であった。



 地獄は、人が生きていくには、余りにも厳しい場所だ。
 草が余り生えない砂漠では、昼夜の寒暖差が激しい。
 昼間は熱砂に炙られ、夜は冷えた空気に体温を奪われる。
 そして、こんな場所で生き抜くためには水の確保が必要不可欠である。
 水のメイジ達は水脈を探し、私達はオアシスの探索に繰り出した。
 結果はこの有様である。
 探索の途中で、数人の仲間が何かに憑かれたかの様に暴れだし、その混乱の中、魔物に襲われて探索隊は壊滅した。 
 私は、生き延びるために足を動かす。
 空は真紅に染まり、血を流しているかのようだ。
 やがて夜が来る。
 そうなったなら、防寒具も身を守る術も貧弱な私では、力尽きる事は明白だ。
 周りを見渡しても、身を隠すような場所は無い。

「水が……飲みたい……」

 水はとうの昔に飲み干してしまい、食べ物も持ってはいない。
 耐え難い渇きが私を苛み、耳元であの女の囁きが聞こえる。

「助けて欲しかったら、何時でも私の名前を呼びなさい。
 そうすれば、どんな望みも叶えてあげる。
 ただし、自分の幸せに関することだけですよ。
 自分を犠牲にして…… と言うのは駄目ですよ? ふふふっ」

 蹲って両手で耳を塞いで眼を閉じ、誘惑に耐える。
 アンリエッタの瞳を見たときに、もう奴の誘惑には乗らないと誓ったのだ。
 どんなに苦しくても、自分の力だけで生き延びる。

「見くびらないでっ!
 誰があなたなんかに頼ったりするものですかっ!
 絶対にあなたを倒すっ!
 それが私のケジメの付け方よっ!」

 決然と立ち上がり、虚空を睨み付けて叫ぶ。
 当然そこには誰も居らず、叫び声は響く事無く、風に掻き消される。
 一段と強く砂塵が舞い、視界が砂色に埋まった。




 砂丘を登って辺りを見渡す。
 正面には黒い砂の地帯が広がっている。
 あの黒い砂は呪いの砂だ。あれには近づく事さえ出来ず、これ以上は進む事ができない。
 失望と死への秒読みが近づいてくるなか、私は奇妙なものを見つけた。
 今居る砂丘と黒沙帯の中ほどに、大きな樹が生えている。
 探索を進める過程では、見かけなかった大型の植物だ。
 砂丘を駆け下り、それを目指す。
 それは、今までに見たことの無い樹だった。
 高さは4,5メイル程あり、私の胸元の高さで二股に分かれている。
 枝には長く太い葉が生い茂り、枝は葉と実の重みで大きく垂れ下がっている。 

「ひぃっ!」

 生っている果実を見て、息を飲む。それは、まるで人の顔のようだ。
 恐る恐る背を伸ばして、その一つを手に取ってみる。
 その果実は青く、苦悶の表情さえ浮かべているように見える。
 醜悪な果実を見て、改めて此処が地獄だという事を思い知らされる。
 とりあえず、此処から離れなくては成らない、黒沙が風に乗って私を蝕む前に。
 足早にその場を去り、来た道を引き返して砂丘まで戻る。

 空を仰ぐと空は、汚れた血の色にまで変色していた。
 もうすぐ夜が来る。襲ってくる寒気に体を強張らせる。
 右手を硬く握ると、あの果実を握りこんでいる事に気づいた。
 生きて夜を越そうとするなら、少しでも体力が必要なのだが、この果実はとても食べられる様には見えない。
 しかし、そんな贅沢を言っていられる場合ではない。

「私は死ねない。死んじゃいけない。死んでなるものか! 絶対に生き延びる! そうでないと……っ!」

 私は賭けに出る。もし毒ならば、此処で終わりだ。
 しかし、生き延びる可能性を少しでも高める手段があるなら、それをしなければ。
 覚悟を決める。
 果実を口に含み、咀嚼し、嚥下する。その過程で、口の中の傷が再び開き、血が果実と混ざる。
 次の瞬間、体が灼熱する。飲み込んだ果実が、体の中で暴れまわっている。
 まるで、ドロドロに溶けた銅が、腹の中で煮えくり返っているようだ。
 四肢がバラバラになる様な苦痛と、魂が引き裂かれるような消失感が襲い掛かってくる。
 必死に意識を保ちながら、砂漠に倒れ伏し苦悶に耐える。
 光と闇が明滅する意識の中で、嗤っている女を睨み付ける。

「絶対に死なない…… アンタを倒して必ず地上に……」

 女の胸元にあるルーンが煌き、私の意識が奈落に沈んでいく。
 次に目覚める時、私は私でなくなっている。
 そんな奇妙な確信を感じながら、私は意識を手放した。



 to be continued?


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