灼熱の砂が私を焼く。
照りつける光と、熱砂からの輻射熱が私を炙る。
周りは、見渡す限りの砂、砂、砂。
水分の代わりに砂を含んだ風が吹き、遠くには揺らめく蜃気楼。
沢山居た仲間も7割は魔物に食われ、生き残った者達とは離れ離れになってしまった。
逃走の過程で方角を見失い、城に帰る事も出来ない。
ふと、自らの体を見下ろす。
砂避けと、直射光を防ぐ為のマントはボロボロで、マントに隠れている服も砂だらけだ。
体は、擦り傷と打撲で悲鳴を上げ、口の中は、砂のジャリジャリした感触に混じって血の味がする。
それでも、私は歩みを止めない。
照りつける光と、熱砂からの輻射熱が私を炙る。
周りは、見渡す限りの砂、砂、砂。
水分の代わりに砂を含んだ風が吹き、遠くには揺らめく蜃気楼。
沢山居た仲間も7割は魔物に食われ、生き残った者達とは離れ離れになってしまった。
逃走の過程で方角を見失い、城に帰る事も出来ない。
ふと、自らの体を見下ろす。
砂避けと、直射光を防ぐ為のマントはボロボロで、マントに隠れている服も砂だらけだ。
体は、擦り傷と打撲で悲鳴を上げ、口の中は、砂のジャリジャリした感触に混じって血の味がする。
それでも、私は歩みを止めない。
空は燈色に染まり、夕刻を告げている。
しかし、西の空に見えるはずの太陽は、何処にも見当たらず、空の色は濃淡の差が殆ど見受けられない。
それもその筈、見えているあの空は、真実空ではなく、偽りの空なのだ。
偽りの空だとしても、降り注いでくる光は確かな熱を持ち、時間によって色を変えている。
いずれ、空は赤く変化し、その後闇が訪れる。
夜が来ると、剥き出しの地表では、熱を蓄える力に乏しく、容易く冷え込んでしまう。
そうなれば、火を焚かなくては成らないのだが、その火は魔物を引き寄せてしまう。
かつては、御伽噺の中にしか居なかった筈の恐ろしい魔物達。
そいつ等に見つかったならば、私は生き延びる事は出来ないだろう。
如何に虚無の担い手であろうと、一人では死に抗う事など出来はしない。
灼熱の砂と、乾いた風で体力を奪われ、残った精神力も小規模の『爆発』が使える程度しか残っていない。
しかし、西の空に見えるはずの太陽は、何処にも見当たらず、空の色は濃淡の差が殆ど見受けられない。
それもその筈、見えているあの空は、真実空ではなく、偽りの空なのだ。
偽りの空だとしても、降り注いでくる光は確かな熱を持ち、時間によって色を変えている。
いずれ、空は赤く変化し、その後闇が訪れる。
夜が来ると、剥き出しの地表では、熱を蓄える力に乏しく、容易く冷え込んでしまう。
そうなれば、火を焚かなくては成らないのだが、その火は魔物を引き寄せてしまう。
かつては、御伽噺の中にしか居なかった筈の恐ろしい魔物達。
そいつ等に見つかったならば、私は生き延びる事は出来ないだろう。
如何に虚無の担い手であろうと、一人では死に抗う事など出来はしない。
灼熱の砂と、乾いた風で体力を奪われ、残った精神力も小規模の『爆発』が使える程度しか残っていない。
『此の侭だったら、ミイラが一人分出来上がるわね……
いえ……
魔物の餌になるのが関の山か』
いえ……
魔物の餌になるのが関の山か』
間近に迫った死に恐怖するが、私は死ぬ事は出来ない。
私には、死に逃げる事など許されては居ない。
こうなってしまったのも、全ては私が原因なのだから。
責任を果たさなければ、死ぬ事など出来ない。
私には、死に逃げる事など許されては居ない。
こうなってしまったのも、全ては私が原因なのだから。
責任を果たさなければ、死ぬ事など出来ない。
『絶対に死ねない!
死んでしまったら、犯した罪を贖う事が出来ない。
それが、それが何よりも恐ろしい……』
死んでしまったら、犯した罪を贖う事が出来ない。
それが、それが何よりも恐ろしい……』
無責任に死ぬ事に恐怖しているのだ、私は。
何故あの時、アンリエッタを慰める事ができなかったのか?
何故あの時、ウェールズ王子を無理矢理にでも連れて帰らなかったのか?
何故あの時、あんなモノを呼び出してしまったのか?
何故あの時、アンリエッタを慰める事ができなかったのか?
何故あの時、ウェールズ王子を無理矢理にでも連れて帰らなかったのか?
何故あの時、あんなモノを呼び出してしまったのか?
もう半年ほど前になるだろうか。
あの頃の私は、まだ自らの属性に目覚めておらず、劣等感に苛まれていた。
2年次に上がって直ぐに行われる、使い間召喚の儀式。
同級生達が、次々に儀式を成功させていくなか、私は一人失敗し続けていた。
何度も失敗し、その度に笑い声が聞こえてくる。
怒り、憎しみ、悔しさ、羞恥、諦め。
言葉では表しきれない感情が、私の中で渦巻き、破れかぶれで召喚を行った結果、奴が現れたのだ。
あの頃の私は、まだ自らの属性に目覚めておらず、劣等感に苛まれていた。
2年次に上がって直ぐに行われる、使い間召喚の儀式。
同級生達が、次々に儀式を成功させていくなか、私は一人失敗し続けていた。
何度も失敗し、その度に笑い声が聞こえてくる。
怒り、憎しみ、悔しさ、羞恥、諦め。
言葉では表しきれない感情が、私の中で渦巻き、破れかぶれで召喚を行った結果、奴が現れたのだ。
召喚に答えたモノは、漆黒の長髪を持つ美しい女であり、名をシェヘラザード。
女は私に従順で、あらゆる望みを実現させた。
私を『ゼロ』と馬鹿にした奴らを見返すこと、夜にはクックベリーパイが食べたい等、大小様々な望みを女は叶えていく。
ある時、私は女が余りにも従順なので、その理由を問うた。
女は私に従順で、あらゆる望みを実現させた。
私を『ゼロ』と馬鹿にした奴らを見返すこと、夜にはクックベリーパイが食べたい等、大小様々な望みを女は叶えていく。
ある時、私は女が余りにも従順なので、その理由を問うた。
「私は、貴女が自らを幸せにする望みならば、幾らでも叶えましょう。
それが私の目的に繋がるのです」
それが私の目的に繋がるのです」
あの時、その目的を聴いておけば、何かが違っていたかもしれない。
深く問い詰めておけば、女が何を望み、いかに邪悪な存在であるかを気づく事が出来たはずだ。
しかし、今になっては後の祭りであり、幾ら後悔しても後戻りは出来ない。
深く問い詰めておけば、女が何を望み、いかに邪悪な存在であるかを気づく事が出来たはずだ。
しかし、今になっては後の祭りであり、幾ら後悔しても後戻りは出来ない。
女は私の欲望だけではなく、その他多くの人間の欲望を叶えた。
『青銅』の二つ名を持つ少年は、多くの女性と関係を持った。
『雪風』の二つ名を持つ少女は、復讐を成し遂げた。
…………
………
……
…
『青銅』の二つ名を持つ少年は、多くの女性と関係を持った。
『雪風』の二つ名を持つ少女は、復讐を成し遂げた。
…………
………
……
…
女は常に囁き、誘惑する。
人は、その囁きを拒むほどに強くはなれず、囁きに耳を貸し、安易に欲望は満たされていった。
やがて、其れを当然の事と思い、女に頼る事に慣れていく自分に気がつく。
人は、その囁きを拒むほどに強くはなれず、囁きに耳を貸し、安易に欲望は満たされていった。
やがて、其れを当然の事と思い、女に頼る事に慣れていく自分に気がつく。
女は、そんな私達を見て嘲っていたのだろう。
容易く誘惑に屈し、欲望に流される姿を見て蔑んでいたのだろう。
私達は堕落してしまった。
ソレこそが女の目的。その目的とは、人間を誘惑し堕落させる事。
私に従順に振舞っていたのも、望みを叶えたのも、全てはその為。
如何に人間が堕落した存在であり、神に愛される資格など無いと言う証明の為。
容易く誘惑に屈し、欲望に流される姿を見て蔑んでいたのだろう。
私達は堕落してしまった。
ソレこそが女の目的。その目的とは、人間を誘惑し堕落させる事。
私に従順に振舞っていたのも、望みを叶えたのも、全てはその為。
如何に人間が堕落した存在であり、神に愛される資格など無いと言う証明の為。
気づいた時には既に遅く、破滅への流れを止める事は出来なかった。
戦乱の嵐が、ハルケギニア中を包み込む。
ウェールズ王子は死に、アルビオンは滅びた。
ガリアでは、無能王ジョゼフが暗殺され、新たな女王に王女と王妃は処刑された。
ゲルマニアでは、革命の嵐が吹き荒れ、貴族はその地位を追われた。
ロマリアは、聖地をめぐってエルフに宣戦布告し、血みどろの戦いを繰り広げている。
トリステインには、レコン・キスタの足音が迫り、確実に破滅の刻は近づいていた。
戦乱の嵐が、ハルケギニア中を包み込む。
ウェールズ王子は死に、アルビオンは滅びた。
ガリアでは、無能王ジョゼフが暗殺され、新たな女王に王女と王妃は処刑された。
ゲルマニアでは、革命の嵐が吹き荒れ、貴族はその地位を追われた。
ロマリアは、聖地をめぐってエルフに宣戦布告し、血みどろの戦いを繰り広げている。
トリステインには、レコン・キスタの足音が迫り、確実に破滅の刻は近づいていた。
そんな情勢の中、トリステインは浮き足立っていた。大規模な戦争など、この数十年無かった事だ。
アンリエッタは、愛する人を失ったショックで、王女としての務めを放棄し、部屋に閉じこもり泣き続けている。
それに見かねたマリアンヌ王妃は、政治の全権をマザリーニ枢機卿に委ねた。
既に虚無に目覚めていた私は、軍に志願し国の助けになろうと決心する。
案の定、父は私が戦場に出る事に難色を示したが、結局ヴァリエール公爵の副官として従軍する事になった。
私は、副官としての務めに追われて、アンリエッタと話す機会は作れなかった。
いや、これは言い訳だ。
私は、アンリエッタに掛ける言葉が見つからず、時間が解決してくれると思い放って置いてしまったのだ。
そんな状況を、女は静かに微笑んでいた。形の良い唇を愉悦に曲げ、心の底から嗤っていた。
他の者なら魅力的な微笑みに見えただろうが、その女から感じるのは、魂が凍えるほどの怖気。
その時になって漸く、私は自らの愚かさに気付き始めた。
アンリエッタは、愛する人を失ったショックで、王女としての務めを放棄し、部屋に閉じこもり泣き続けている。
それに見かねたマリアンヌ王妃は、政治の全権をマザリーニ枢機卿に委ねた。
既に虚無に目覚めていた私は、軍に志願し国の助けになろうと決心する。
案の定、父は私が戦場に出る事に難色を示したが、結局ヴァリエール公爵の副官として従軍する事になった。
私は、副官としての務めに追われて、アンリエッタと話す機会は作れなかった。
いや、これは言い訳だ。
私は、アンリエッタに掛ける言葉が見つからず、時間が解決してくれると思い放って置いてしまったのだ。
そんな状況を、女は静かに微笑んでいた。形の良い唇を愉悦に曲げ、心の底から嗤っていた。
他の者なら魅力的な微笑みに見えただろうが、その女から感じるのは、魂が凍えるほどの怖気。
その時になって漸く、私は自らの愚かさに気付き始めた。
戦いの準備が進む中でも、アンリエッタは喪に伏し、王子の事を想って泣いている。
部屋の中からの嗚咽は、途切れる事は無く、やがてそれは城の空気に溶け込んでいった。
そんな彼女に、女は囁き誘惑する。
何と囁き掛けたのかは分からないが、おそらくウェールズ王子を生き返らせるとでも言ったのだろう。
アンリエッタがその誘惑に飛びついたのは、想像に難くない。
そして、女の提示した条件をアンリエッタは呑んだのだ。
その条件とは、国を犠牲にする事。
私が駆け付けた時には既に遅く、光の灯らない瞳で私を一瞥した後、アンリエッタはゆっくりと頷いた。
部屋の中からの嗚咽は、途切れる事は無く、やがてそれは城の空気に溶け込んでいった。
そんな彼女に、女は囁き誘惑する。
何と囁き掛けたのかは分からないが、おそらくウェールズ王子を生き返らせるとでも言ったのだろう。
アンリエッタがその誘惑に飛びついたのは、想像に難くない。
そして、女の提示した条件をアンリエッタは呑んだのだ。
その条件とは、国を犠牲にする事。
私が駆け付けた時には既に遅く、光の灯らない瞳で私を一瞥した後、アンリエッタはゆっくりと頷いた。
アンリエッタの悲しみと、戦争で流された血、怨霊の嘆き、他の様々な要因が重なり合いトリステインは墜ちていった。
墜ちた先は死者の居る場所。生者が決して来る事が出来ない筈の場所。
不毛の砂漠が広がり、魔物が跳梁する魔境。其処は、人が地獄と呼ぶ場所であった。
墜ちた先は死者の居る場所。生者が決して来る事が出来ない筈の場所。
不毛の砂漠が広がり、魔物が跳梁する魔境。其処は、人が地獄と呼ぶ場所であった。
地獄は、人が生きていくには、余りにも厳しい場所だ。
草が余り生えない砂漠では、昼夜の寒暖差が激しい。
昼間は熱砂に炙られ、夜は冷えた空気に体温を奪われる。
そして、こんな場所で生き抜くためには水の確保が必要不可欠である。
水のメイジ達は水脈を探し、私達はオアシスの探索に繰り出した。
結果はこの有様である。
探索の途中で、数人の仲間が何かに憑かれたかの様に暴れだし、その混乱の中、魔物に襲われて探索隊は壊滅した。
私は、生き延びるために足を動かす。
空は真紅に染まり、血を流しているかのようだ。
やがて夜が来る。
そうなったなら、防寒具も身を守る術も貧弱な私では、力尽きる事は明白だ。
周りを見渡しても、身を隠すような場所は無い。
草が余り生えない砂漠では、昼夜の寒暖差が激しい。
昼間は熱砂に炙られ、夜は冷えた空気に体温を奪われる。
そして、こんな場所で生き抜くためには水の確保が必要不可欠である。
水のメイジ達は水脈を探し、私達はオアシスの探索に繰り出した。
結果はこの有様である。
探索の途中で、数人の仲間が何かに憑かれたかの様に暴れだし、その混乱の中、魔物に襲われて探索隊は壊滅した。
私は、生き延びるために足を動かす。
空は真紅に染まり、血を流しているかのようだ。
やがて夜が来る。
そうなったなら、防寒具も身を守る術も貧弱な私では、力尽きる事は明白だ。
周りを見渡しても、身を隠すような場所は無い。
「水が……飲みたい……」
水はとうの昔に飲み干してしまい、食べ物も持ってはいない。
耐え難い渇きが私を苛み、耳元であの女の囁きが聞こえる。
耐え難い渇きが私を苛み、耳元であの女の囁きが聞こえる。
「助けて欲しかったら、何時でも私の名前を呼びなさい。
そうすれば、どんな望みも叶えてあげる。
ただし、自分の幸せに関することだけですよ。
自分を犠牲にして…… と言うのは駄目ですよ? ふふふっ」
そうすれば、どんな望みも叶えてあげる。
ただし、自分の幸せに関することだけですよ。
自分を犠牲にして…… と言うのは駄目ですよ? ふふふっ」
蹲って両手で耳を塞いで眼を閉じ、誘惑に耐える。
アンリエッタの瞳を見たときに、もう奴の誘惑には乗らないと誓ったのだ。
どんなに苦しくても、自分の力だけで生き延びる。
アンリエッタの瞳を見たときに、もう奴の誘惑には乗らないと誓ったのだ。
どんなに苦しくても、自分の力だけで生き延びる。
「見くびらないでっ!
誰があなたなんかに頼ったりするものですかっ!
絶対にあなたを倒すっ!
それが私のケジメの付け方よっ!」
誰があなたなんかに頼ったりするものですかっ!
絶対にあなたを倒すっ!
それが私のケジメの付け方よっ!」
決然と立ち上がり、虚空を睨み付けて叫ぶ。
当然そこには誰も居らず、叫び声は響く事無く、風に掻き消される。
一段と強く砂塵が舞い、視界が砂色に埋まった。
当然そこには誰も居らず、叫び声は響く事無く、風に掻き消される。
一段と強く砂塵が舞い、視界が砂色に埋まった。
砂丘を登って辺りを見渡す。
正面には黒い砂の地帯が広がっている。
あの黒い砂は呪いの砂だ。あれには近づく事さえ出来ず、これ以上は進む事ができない。
失望と死への秒読みが近づいてくるなか、私は奇妙なものを見つけた。
今居る砂丘と黒沙帯の中ほどに、大きな樹が生えている。
探索を進める過程では、見かけなかった大型の植物だ。
砂丘を駆け下り、それを目指す。
それは、今までに見たことの無い樹だった。
高さは4,5メイル程あり、私の胸元の高さで二股に分かれている。
枝には長く太い葉が生い茂り、枝は葉と実の重みで大きく垂れ下がっている。
正面には黒い砂の地帯が広がっている。
あの黒い砂は呪いの砂だ。あれには近づく事さえ出来ず、これ以上は進む事ができない。
失望と死への秒読みが近づいてくるなか、私は奇妙なものを見つけた。
今居る砂丘と黒沙帯の中ほどに、大きな樹が生えている。
探索を進める過程では、見かけなかった大型の植物だ。
砂丘を駆け下り、それを目指す。
それは、今までに見たことの無い樹だった。
高さは4,5メイル程あり、私の胸元の高さで二股に分かれている。
枝には長く太い葉が生い茂り、枝は葉と実の重みで大きく垂れ下がっている。
「ひぃっ!」
生っている果実を見て、息を飲む。それは、まるで人の顔のようだ。
恐る恐る背を伸ばして、その一つを手に取ってみる。
その果実は青く、苦悶の表情さえ浮かべているように見える。
醜悪な果実を見て、改めて此処が地獄だという事を思い知らされる。
とりあえず、此処から離れなくては成らない、黒沙が風に乗って私を蝕む前に。
足早にその場を去り、来た道を引き返して砂丘まで戻る。
恐る恐る背を伸ばして、その一つを手に取ってみる。
その果実は青く、苦悶の表情さえ浮かべているように見える。
醜悪な果実を見て、改めて此処が地獄だという事を思い知らされる。
とりあえず、此処から離れなくては成らない、黒沙が風に乗って私を蝕む前に。
足早にその場を去り、来た道を引き返して砂丘まで戻る。
空を仰ぐと空は、汚れた血の色にまで変色していた。
もうすぐ夜が来る。襲ってくる寒気に体を強張らせる。
右手を硬く握ると、あの果実を握りこんでいる事に気づいた。
生きて夜を越そうとするなら、少しでも体力が必要なのだが、この果実はとても食べられる様には見えない。
しかし、そんな贅沢を言っていられる場合ではない。
もうすぐ夜が来る。襲ってくる寒気に体を強張らせる。
右手を硬く握ると、あの果実を握りこんでいる事に気づいた。
生きて夜を越そうとするなら、少しでも体力が必要なのだが、この果実はとても食べられる様には見えない。
しかし、そんな贅沢を言っていられる場合ではない。
「私は死ねない。死んじゃいけない。死んでなるものか! 絶対に生き延びる! そうでないと……っ!」
私は賭けに出る。もし毒ならば、此処で終わりだ。
しかし、生き延びる可能性を少しでも高める手段があるなら、それをしなければ。
覚悟を決める。
果実を口に含み、咀嚼し、嚥下する。その過程で、口の中の傷が再び開き、血が果実と混ざる。
次の瞬間、体が灼熱する。飲み込んだ果実が、体の中で暴れまわっている。
まるで、ドロドロに溶けた銅が、腹の中で煮えくり返っているようだ。
四肢がバラバラになる様な苦痛と、魂が引き裂かれるような消失感が襲い掛かってくる。
必死に意識を保ちながら、砂漠に倒れ伏し苦悶に耐える。
光と闇が明滅する意識の中で、嗤っている女を睨み付ける。
しかし、生き延びる可能性を少しでも高める手段があるなら、それをしなければ。
覚悟を決める。
果実を口に含み、咀嚼し、嚥下する。その過程で、口の中の傷が再び開き、血が果実と混ざる。
次の瞬間、体が灼熱する。飲み込んだ果実が、体の中で暴れまわっている。
まるで、ドロドロに溶けた銅が、腹の中で煮えくり返っているようだ。
四肢がバラバラになる様な苦痛と、魂が引き裂かれるような消失感が襲い掛かってくる。
必死に意識を保ちながら、砂漠に倒れ伏し苦悶に耐える。
光と闇が明滅する意識の中で、嗤っている女を睨み付ける。
「絶対に死なない…… アンタを倒して必ず地上に……」
女の胸元にあるルーンが煌き、私の意識が奈落に沈んでいく。
次に目覚める時、私は私でなくなっている。
そんな奇妙な確信を感じながら、私は意識を手放した。
次に目覚める時、私は私でなくなっている。
そんな奇妙な確信を感じながら、私は意識を手放した。
to be continued?