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ゼロのエルクゥ - 20


「おっほぉ! 王子さん達も無茶しやがるねぇ! おお、飛び降りやがった! こりゃ壮観だ! はっはぁ!」

 爆音を上げ、砲弾を撒き散らしながら上空を通過していくイーグル号に、デルフリンガーはその刀身でオーク鬼の首を刎ね飛ばしながら興奮しきった声を上げた。
 その甲板から、降下部隊の如く、マントを翻したメイジ達が出撃していく。勇壮な光景だった。
 全ての乗組員が飛び降りたのか、イーグル号はそのままの速度で地面に激突し、まるで焼き討ち船と見紛うばかりに大きく爆発、炎上した。おそらく艦そのものも弾丸のつもりで、あの時の硫黄から作った火薬をしこたま積んであったのだろう。

「あ、あれは本陣の方向じゃないか!?」
「て、撤退だ! 撤退しろ! 本陣を守れぇ!」
「うわぁ! 化け物がこっちにきたあああ!!」

 その腹に響くような地響きに、周囲の混乱がやにわに激しくなる。
 れっきとした敵軍の襲撃を目の当たりにして、ただでさえ眼前の正体不明の黒い鬼に半ば以上崩壊していた戦線は、決定的に崩れた。
 ガラ空きのはずのニューカッスル城に突撃するか、本陣に駆け戻るかして一手柄上げてやろう、という判断ができる腕と経験を持つ者は極わずかであり……そして、そのような猛者は、とっくの昔に黒き鬼から遠く逃げ出した後であった。

「■■■■■■■■■■■■■■■ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!」

 響き渡る咆哮は、精神を灼く。
 中堅から後方に配置されていた、まだ徴兵されたばかりといった風情の若い兵達が、足元を黄色い水で濡らしながらばたばたと倒れ伏した。
 かろうじて意識を保った兵達の逃げ惑う背中に爪を突き立てようと四肢に力をこめた、その時。

「ずいぶんと暴れてくれたじゃないか。ガンダールヴ」

 背後から、強烈な風が吹きつけた。
 『ウィンド・ブレイク』。猛烈な風を塊にし、相手にぶつける魔法。
 それをぶつけられた身長3メイルの黒き鬼は、小揺るぎもせずにそちらへと振り返る。

「……吹き飛ばすつもりだったのだがね。まったく、規格外もいいところだ」

 その黒い羽帽子とグリフォンが形どられたマントに、鬼の内なる黒い業火が音を立てて燃え上がる気がした。天を焦がし、地を焼く巨大なかがり火は鬼の心をも焼き、その四肢に莫大なるエネルギーを満ち渡らせる。

「くくく、まだ心が震えやがるか。なんてぇ使い手だ。おいそこのヒゲ。今の相棒の前に立つのはやめといたほうがいいぜ?」
「ご忠告感謝するよ、インテリジェンスソード君。なに、心配するな。そんな事、とっくの昔にわかっている」

 赤い瞳の先では、ワルドが一分の隙もなく杖を構えていた。

「君のおかげで、『レコン・キスタ』陸戦隊五万が壊滅だ。ここで君を討ち果たさねば、僕の目的が果たされぬ。本陣には今から全力で飛んでも間に合わぬ故、僕の役目はここで君を討ち果たす事だ」

 鬼は、肉食動物が今にも飛び掛らんとするように、全身を震わせている。

「……どうやら、その姿では言葉を話せぬようだな。ワーウルフ……にしては、随分と物騒だ。それとも、言葉が出ぬほど僕が憎いか」

 既に二人の周囲には、生きて彼らを眺めるものは一人もいなかった。血臭をたっぷリ含んだ湿った風が通り抜けていく。

「行くぞ。『風』の真髄を以って君を討つ」

 ユビキタス・デル・ウィンデ―――。
 呪文と共にワルドの姿が蜃気楼のように揺らぎ、その幾つもの揺らぎがそれぞれに形を持ち始め、そして。

「風は『遍在』する」
「風の吹くところ、何処となくさ迷い現れ」
「その距離は意思の力に比例し」
「その身を風そのものと成す風のメイジは、世界に遍在する!」

 4人のワルドが、全く同じ姿でその場にいた。間髪要れず別の呪文を唱えると、それぞれの杖が青白く光を放つ。

「風の刃を作り出す『エア・ブレイド』はそこの剣にやられたが……この『エア・ニードル』は杖そのものを超振動の刃と化す! 吸い込む事はできぬぞ!」

 4人のワルドが刃と化した杖を構え、躍りかかるのに呼応するように―――エルクゥも、その身を大きくしならせた。

「■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!」

§

「『エア・ハンマー』!」

 ウェールズの杖の一振りで数人の警備兵がまとめて吹き飛ばされ、手近な天幕に激突した。布と柱に潰されて、しばらくは動けないだろう。

「パリー! 本幕はっ!」
「定石通りであれば、あれのはずですな」

 傍らを駆ける侍従が指したのは、多くの衛兵が周囲を囲む一番大きな天幕だった。

「いかがなされますか?」
「こんなところまで連れてきておいて愚問だな、パリー!」
「ほっほ。この老骨、殿下の意向に従う事が仕事です故、なっ!」

 パリーがぶん、と杖を振ると、地面から巨大な土のモノリスが隆起し、飛来した火球と風の矢を苦もなく受け止めた。

「さあ、行かれませ殿下! ここはこの『鉄壁』に任せられい! かぁーっ!」

 一喝と共に、身の丈10メイルの黒光りするゴーレムが、侍従の左右に1体ずつ現れる。
 二人の後ろを追っていたメイジが、その威容にたたらを踏んだ。

「来い! ケツの青い小僧どもが、この『鉄壁』を貫けると思うでないぞ!」

 轟音と共に、鉄の巨人はその腕を振り上げた。

§

「か―――ふっ」

 勝負は、一瞬でついた。

「く、ははっ」

 体の一部がこそげ落ちた3人のワルドが、風に溶けるようにして消えていく。
 残った一人の左胸を、丸太のような漆黒の腕が貫いていた。

「まったく……女性のご機嫌を伺うというのは、一番苦手なのだがね……勝利の女神というのは、ご機嫌を取らないと、ずいぶんへそを曲げてしまうらしい……」
「けっ、よく言うぜ。娘っ子相手にはさんざん愛想振り撒いてたじゃねーか」
「娘は騙せても、女神は騙せまいよ。あのような、下手な演技ではね。まあ……」

 腕が引き抜かれ、ワルドがどさりと地面に崩れ落ちる。

「世間知らずのお嬢さんすら、騙せなかったようだけど、ね……」

 剥き出しの地面に、赤い水たまりがゆっくりと広がっていく。

「ああ、苦しいなあ……苦しい、とは、一体何なのだろうなあ……」

 誰に聞かせるでもないうわごとのように呟くと、ワルドはそのまま動かなくなった。

「…………」
「相棒」

 まるで、周囲のもの全てを焼き尽くしてしまった炎のように、黒き鬼は鎮まり、無音でそれを見つめている。
 ひゅう、と、血塗れの風が、そこに音を運んだ。
 剣戟。爆発。悲鳴。怒号。それは、戦いの旋律。鬼の心を躍らせる血風の神楽。

「■■……■■■…………!」

 その首が微かに動いた。
 いまだ炎と煙が上がるその一角を眺めると、喉奥から、獣の呻きがせり上がってくる。
 まだ殺す者がいる。
 戦いを続けるものがいる。
 ならば殺さねばならない。
 殺し殺される場を作り出す人間など、主を危険に晒す人間など、すべて殺し尽くさねばならないッ!

『耕一さん!』

「■■■……―――ッ!?」

 大きく雄叫びを上げようと鬼がその肺を膨らませた、その時だった。

「ア……ぐぁ……ぁ……!!」
「相棒? どうした、相棒!」

 獣の声しか生み出さなかったその口が、人の声を放った。
 がくり、と膝をつき、手で頭を支えるように抑える。

『耕一さん! 耕一さん! 耕一さんっ!!』

「あ、ぐあァッ! ぐああぁあっっ!!」

 頭の中に直接響く声。
 それは、懐かしい声。求めていた声。愛する者の声。
 そして―――左手から身体中を貫いていく、強烈な激痛。

「あぁァぁぁぁああああぁっ!!」

 牙を剥き、苦悶の声と共に吐き出した。

「か……え、でぇっ!!」

 その眼に理性の光が灯り、弾かれるように天を仰ぐ。

「耕一さあんっ!!!」

 確認する暇もなく、上空から落下してきたその人影は、そのままの勢いで鬼の首元に抱きつき、ぎゅうと手を回した。
 衝撃に抗わず、鬼が尻餅を付く。からん、と音を立て、握られていた剣が手を離れて地面に落ちた。
 黒く硬質な光を放つその腕が、震えながら、小さな背を抱き返す。

「耕一さん! 耕一さん!! 耕一さんっ!!!」

 抱きついてすすり泣く声。抱きしめた小さな体の感触。戦場の血煙の中にそっと香る柔らかな髪の匂い……全てが、彼の、柏木耕一の愛する恋人だと示していた。
 鬼が、ゆっくりと、その体躯を縮め始める。
 巨躯を構成していた老廃物がばさばさと周囲に降り積もり、先程まで全ての命を狩り尽くす鬼であったそれは……ただの人間の青年にまで、その姿を変えた。

「楓、ちゃん……?」
「耕一さんっ……! よかっ、良かった……っ! 戻って、くれたっ……!」

 抱きついたままの少女は、わんわんと声を上げて泣き出してしまう。

「俺、は……」

 楓を抱きながら、耕一は鈍痛の走る頭を抱えた。
 いつか見たあの夢のような、しかし確実に夢ではない実感―――命を奪う実感に、静かに体が震え出す。

「俺は、エルクゥに……っ!」
「違いますっ!」

 エルクゥに支配されて暴走してしまった―――そう言葉にしようとした瞬間、楓がそれを遮った。

「楓ちゃん……?」
「さっきまでのは、きっと……違います。変だったんです」
「変、って……?」

 呆然と問う耕一に、ゆっくりと首を横に振る楓。

「……わかりません。けれど、エルクゥの心が無かった。あの残忍な狩猟者じゃない、何か別の、黒い金属みたいなものに無理矢理力を引き出させられているような……そんな感じがして……」

 まだ涙を浮かべながら言うそれはきっと、嘘ではない。
 けれど、幾千もの人を殺した肉の感触は、体にありありと染み付いていて―――。

「……ありがとう、楓ちゃん」
「耕一さん」

 耕一はゆっくりとうなだれ、すがりつくように楓を抱きしめた。

「く……ぅっ」
「……耕一さん」

 その胸に顔を埋め、小さく肩を震わせる。
 しばらく、くぐもったような嗚咽の声が、戦場の跡に静かに染み渡っていた。

§

 幾人かの側近と共に衛兵を薙ぎ倒し、本幕に雪崩れ込んだウェールズが目にしたのは、たった一人の人影だった。

「やあ、皇太子。久しぶりだね」
「クロムウェル司教……」

 緑色の法衣に丸帽を被った中年の僧は、静かに微笑みを湛えていた。

「覚悟を決めたか、司教」
「ああ、君達の秘密兵器にしてやられたよ。あれはなんだい? あの……我が軍勢をことごとく殺したという、黒い鬼というのは」
「…………我が王国への、最後の大使殿さ」
「それは、また私も運がない」

 少し考えていったウェールズに、クロムウェルはくつくつと軽快に喉を鳴らす。

「さあ、その杖で私を討ちたまえ。君達の勝ちだ、皇太子」
「言われずとも!」

 ウェールズの杖に渦巻いた『エア・ブレイド』が、寸分の狂いなくクロムウェルの心の臓に吸い込まれる。
 ざしゅ、と粘ついた水音が、天幕に響いた。

「ふ、ふふ……」
「何が可笑しい、司教」
「いや、なに……久方ぶりに私を縛る糸が切れたのが、何とも爽快でね。思わず踊り出したくなりそうだ」
「糸、だと?」
「ああ。操り人形の糸さ。私の身体中に絡みついていた、ね」

 ウェールズと側近の顔が、驚愕に強張った。

「……黒幕が、いるというのか?」
「ご聡明で何よりだ。私はただの傀儡だよ。魔法も使えぬただの司教に、これほどまでの勢力を築く力などないさ」
「何者だ! このアルビオンを同胞の血で汚そうとしたその者はっ!」
「ガリア王、ジョゼフ一世」
「なっ!?」

 ためらいなく、クロムウェルはその名を口にした。答えが返ってくると思っていなかったウェールズは、目を見開く。

「ジョゼフ? あの『無能王』が!?」
「『無能』と侮られる事こそ、彼奴の狙いよ。武人である皇太子殿ならば、自らを侮る相手の足をすくう事がいかに容易いか、わかろう?」

 法衣を血に染め、息を切らしながら話を続けるクロムウェルに、ウェールズは杖を鞘に収めた。

「……なぜ、僕に話した」
「感謝の気持ちだよ。私を縛る糸を断ち切ってくれた、ね」

 膝をつき、傷口を抑え、クロムウェルは天を仰いだ。

「ジョゼフは智謀の王。私もその姦計に掛かり、こんな舞台に昇らされてしまった。ゆめゆめ気をつけられよ、皇太子。アルビオンを、頼む」

 笑みを絶やさぬまま、その場に倒れ伏す。
 すると、湯の中に入れた氷のように、見る見るうちにその体が縮んでいき……ころりと、一体のアルヴィーが床に転がった。

「『スキルニル』……!」

 それは、血を与える事で、その者の写し身へと変化する魔法人形。
 彼は、文字通りの傀儡であったのだ。

「……全軍に伝えよ。総司令官オリヴァー・クロムウェルは討ち取った。この戦、我等の勝利であると」
「はっ!」

 ウェールズの言葉に、側近の一人が天幕の外へと駆け出していく。

「……許さぬぞ、ジョゼフ」

 物言わぬアルヴィーを見つめながら、ウェールズは低く呟いた。

§

「負けちゃいましたね、クロさん」
「そうだね、サイトくん」
「はあ。やれやれ、あいつに何て言おうかなあ……」

 中年とその秘書は、一騎の風竜の背の上で、揃って体操座りをしていた。
 時は夕方。水平線の向こうに太陽が身を隠しつつある、束の間の朱の時間だった。

「……クロさん、なんか嬉しそうっすね」
「……そう見えるかい?」

 その中年の方―――アルビオン反乱軍前総司令官オリヴァー・クロムウェルは、どこか憑き物が落ちたかのような穏やかな顔で、流れ行く雲を見やっていた。

「まあ、肩の荷がようやく降りたってところさ。元々、私は王なんて器じゃないんだからね」
「……羨ましいっす。俺なんて、やめたくてもやめられないし」
「はは。あんな物騒な舞台から五体満足で降りられるとは、私は幸運だな」

 秘書の顔を隠していたフードは、吹き付ける風にはためき、その役目を果たしていなかった。
 ハルケギニアには珍しい、まだ子供っぽさの残る黒髪の少年は、穏やかな表情のクロムウェルとは真逆の深刻な顔で、言葉を切り出した。

「クロさん、この前話した事なんですが」
「うむ。この『アンドバリ』の指輪だね。間違いなく、君の言う通りにしよう」
「そうです。すんません。危険な事頼んじゃって」
「気にするな。あの無能王に逆らえぬ身でありながら私を救ってくれた君への、せめてもの礼だよ。あんな事態を引き起こした私が楽隠居に落ち着く為の試練とでも思わせてもらうさ」
「お願いします」

 深く頭を下げた少年が、思いついたように手を鳴らす。

「そうだ、これを持ってってください」
「これは……短剣?」

 少年が差し出したそれは、細かく意匠の凝らされた銀色の短剣であった。

「"地下水"、頼めるか」
「ふふん。ま、お前についていくよりかは退屈そうだが、しゃーねえな。お前さんの恋しい恋しい娘っ子は、俺様が華麗に助けておいてやるぜ」
「な、ななな、何言ってんだ! そ、そ、そんなんじゃねーよ!」

 けけけ、という意地の悪そうな笑い声は、その手の短剣から響いている。

「イ、インテリジェンス・ソードかい?」
「そうです。こいつ自身が魔法を使えるし、持ち主の体を操る事もできます。護衛にはもってこいだと思います」
「……すごいものだね」

 クロムウェルが、短剣を手に目を丸くしていた。

「無事に終わったら、適当な賊にでもあげてください。そいつの体を操って、ついでに盗賊団でも一つ潰しながら勝手にこっちに戻ってくると思うんで」
「わ、わかった。ありがたく使わせてもらうよ」

 クロムウェルが頷くと、眼下に夕陽に染まったハルケギニアの大地が近付いてくる。
 俯瞰の世界は、変わらず静かに佇んでいるだけだった。


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