あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

割れぬなら……-06


ワルドは疲れていた、綿のように疲れていた。

何しろ今の彼は逃亡者なのだ。
この2日間で気の休まる瞬間は少しも無かった筈だ。
王党派による落ち武者狩りを常に警戒しなくてはならないが、かつて味方だった者でも容易に信用する事はできない。
どんなに善良そうな顔をしていても、どんなに熱く友情を誓いあったとしても、例え友情合体(勇者的な意味で)が可能な程の間柄であったとしても、
反乱軍に身を置いていた時点で限りなくクロに近いグレーであると言えよう。
仲間を売って自分だけが助かろうとした者は、ハルゲニアの歴史には数多い。
まして今のワルドの精神状態ならば、自分以外の人間は全てが敵に見えた事だろう。
これではどんなに疲れていても眠る事もできない。
本当なら港に近づくのもかなりの危険を伴った行為である。
何故なら国外逃亡を考えるのなら誰でも港を最初に連想する。
となれば当然、港に近づけば近づくほど落ち武者狩りに警戒しなくてはならなくなる。
しかしながら今まで酷使し続けてきたグリフォンに大陸間を渡る体力は残っておらず、
また時が経つにつれて王国軍が勢力を盛り返していく事を鑑みれば、次にアルビオンがハルゲニアに接近するのを待つ訳にもいかなかった。
さらに食糧は自生している果実等がわずかに手に入ったのみで、
そのわずかな食糧も空を飛ぶことで多くの体力を消耗するグリフォンに与えなければなかなかった。

結果、ワルドもルイズもこの2日間は水以外何も口にしていなかった。
以上の理由によってワルドは疲れ果て、空腹で、しかも睡眠不足だった。
彼の肉体や精神は既にボロボロと表現するのが適当であり、船室に身を隠すと緊張の糸が途切れてしまったのか、深い深い眠りについた。


ルイズは手足の他に口も封じられて、もぞもぞと身じろぎをするのがせいぜいであった。
ギーシュとキュルケが船室に現れたのはそんな時だ。
さて、読者の皆さんにも考えていただきたい。
縛られてもがく美少女(美が少ない女の子)と、その婚約者であるヒゲダンディー(擲弾兵にあらず。ロリ疑惑)。
さて、貴方ならばこの状況下で何を考えるだろうか?
ギーシュとキュルケの場合……

「縛りプレイ?」「放置プレイ?」

ズレているようで方向性はまったく同じであった。
ズレといっても着眼点の違いだけだ。
美少女とヒゲダンディーを見た場合、どちらが先に目に入るかの違いでしかない。
無論縛りプレイには性的な意味を多く含む。
まあ、正直に言ってこんな話は本筋とは全く関係が無い。
真面目な話に入る前の息抜きのようなものだ。
2人を見たルイズは怒るでもなく恥ずかしがるでもなく、しかし必死に戒めを解こうともがき始めた。
流石にこれは何か良くない事でも起きたのかと感じたギーシュはナイフを錬成し、ルイズの戒めを解く。

……さて、もう一度考えていただきたい。
貴方がルイズだったらどのような行動をとるだろうか?

ワルドが眠っている間に船から脱出し、後は野となれ山となれ。
脱出した後、近くの警備兵に通報する。
眠っているワルドを攻撃するというのも、下策ではあるが可なりだ。
しかし、ここしばらく一言も喋れなかったルイズは下策以上に論外な行動に出た。

「前回までのあらすじっ!!」

……文面通りに話した訳ではないが、概ねこのような内容を喋った。

大声で。

最後に一つだけ考えていただきたい。
眠っている人間の近くで大声をだすとどうなるだろうか?
おそらく、たいていの人間は目覚めるだろう。


優秀な軍人であるワルドは一瞬で自分の置かれた状況を理解し、素早く戦闘態勢に移った。
3人が初撃のエア・ニードルを防げたのは奇跡に近い。
偶然、キュルケの視界にワルドが入り、偶然、ギーシュが手にしていた青銅のナイフが刺突を防いだのだ。
そこから先は有無を言わせずに戦闘開始である。
ギーシュが7体のワルキューレを出現させ、ワルドと自分達の間に入らせる。
キュルケも得意の火術で応戦した。
ルイズは……杖が無いので見学。
対するワルドだが、前述したとおり彼は疲れ果て、空腹で、しかも睡眠不足である。
そんな状態で多量に精神力を消耗する大技……ライトニング・クラウドや偏在による連携攻撃を行おうとすれば、
5秒と保たずにブッ倒れてしまうような状態だった。
ワルドはそんな状態だったが、彼と3人(実質2人)との戦いはほぼ互角のまま続いていった。
尤も、満身創痍のヒゲダンディと若くて体力がある2人による戦いなので、先に息切れするのはワルドの方である。
ワルド本人もそんな事は重々承知なのだが、目が霞んで握力も弱まっているのではどうする事もできない。
よって、長期戦になる前に撤退するしかない……と、考えていた。
彼にとって幸いな事に、キュルケは火のメイジで、火術を使わざる得ない程度には戦力が拮抗していた。
この時代の船はごく一部の例外を除いて木製である。
では船室の中で火のメイジが戦うとどうなるだろうか?

答え……燃える。当然の話である。

先ほど長期戦はワルドに不利と書いたが、実はこの戦いは長期戦になりようがない。
もしも長期戦になれば4人とも焼け死んでしまうからである。
人が集まる事は本来ワルドにとって望むことではないが、逃げ出すのには有利である。
5分、10分と過ぎ、徐々に火がまわり、さらに人が騒ぎだしてきた。

「頃合いかな……」

と、ワルドが呟いた。
今ならこの連中を文字通り煙に巻ける。そう判断したのだろう。


そんな時だ。
燃え盛る炎の壁を突き破り、一匹の竜がその部屋に飛び込んできた。

「タバサ! 消火しろ!」

竜の背に乗る男が叫び、多数の氷塊が浮かび上がる。
同じく飛び込んできた少女が杖を振ると、空中の氷が次々と炎に激突していった。

「ソウソウ!?」

ルイズがいち早く乱入した男の名を呼んだ。

「ガンダールヴだと!?」

ワルドが青ざめる。
嫌でも2日前の悪夢が蘇ってしまう。
男……曹操がシルフィードの背から飛び降り、ワルキューレを押しのけ、一直線にワルドに向かう。
ワルドは瞬時に反応し、エア・ハンマーで迎撃を試みる。

「剣で!?」

……受け止めた。
ワルドは驚愕した。
彼の知る限り、剣で魔法を受け止めた者など存在しなかった。
曹操は少しも勢いを緩めず、一気に間合いを詰める。

「受け止め……」

……た。
彼の最後の言葉が発せられるより早く、曹操の剣がワルドの喉元に突きつけられた。
一瞬でも妙な動きを見せれば、死ぬ事になる。
レコン・キスタの乱最後の戦いが終結したのだ。

「ふぅ……最後まで出番が無いかと焦ったぜ」



「殺せ」

それはワルドの意地であり、名誉を守るための言葉であった。
しかし曹操はいともあっさりと剣を引き、鞘に納めた。

「おいっ! オレの出番これだけ……」

……もはや誰も聞いていない。

「姫殿下を見て、先が無いと感じたか?」

曹操が問う。
ワルドは何も答えない。
ルイズが何かを言いたそうにしているが、場の空気に圧されて何も言えない。

「官僚の腐敗に失望したのか?」

曹操が問う。

「そうだと言ったら……どうする?」

逆にワルドが曹操に問う。

「叛く事も、仕える事も、やる事は変わらない。しかしだ!」

ゆっくりとした口調であったが、ワルドは気圧されていた。
それは体調に起因するものではない。
その場にいた全員が曹操の言外の圧力に目を見開いていた。

「もしトリステイン王家が仕えるに足りないのであるならば。この曹操に仕えてみろ」

「何を言っているのアンタは!?」

ルイズがその言葉に反応する。
それは聞き方によっては謀反人ととられてしまう言い方だった。
ワルドも彼女と同じ事を考えた。
だが、その言葉がただの戯れであるとはどうしても思えなかった。

「……本気なのか?」

曹操は無言で肯定した。
ワルドは考える、実に様々な事を。
今後の身の置き方、自身の矜持、曹操の評価……その上で、

ジャン・ジャック・フランシス・ド・ワルドはこの日、曹操と主従の誓いを結ぶのであった。



新着情報

取得中です。