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第17話 ミョっちゃんからガンダーへ



クロムウェルの天幕を訪れると、見張りの兵士が留守を告げた。
こんな夜遅くにどこに行っているのか? 兵士も行き先を知らないようだった。
不審に思い、彼女はクロムウェルを探して歩き回る。
そして。
「こと……のは……?」
「ええ。奇妙な名前と服装の平民で、ワルド様にお仕えしていらしたとか」
「……その女はどこに?」
「あちらの天幕をご使用していらっしゃいますが」
「そう」
その会話が成されている頃、言葉は?

「こんな時間に、どちらへ?」
巡回中の兵士に捕まっていた。
すぐ後ろ、天幕の出入り口を潜ればクロムウェルの死体がある。
一歩でも踏み入られたら最後、兵士から武器を奪って力ずくで逃亡するしかない。
どう殺すかを考えている言葉に無用心に近づいた兵士は、
衣服の乱れと火照った身体に気づき、天幕の中で何があったかを想像する。
その想像は半分だけではあるが正解であった。
兵士の視線が、シャツから覗く胸の谷間へと落ち、ごくりと唾を飲む。
「……の、喉が渇いて、水を……」
行為により喉が渇いてる事は事実だったし、兵士も不審には思わなかった。
「そ、そうでしたか。よろしければお持ちしますが」
「いえ、夜風にも当たりたいので、自分で……」
「でしたら水場までご一緒しましょう」
色香を漂わせる言葉をもうしばらく近くにいたいという下心と、
客人を守らなければならないという職務の両方で兵士は申し出たのだが、
言葉は一刻も早くロサイスから逃亡しフーケと合流したかった。
約束の時間は、日が沈む時間と、昇る時間の両方。
つまり早ければ今日の夜明けには合流できる。急ぎたかった。
「申し訳ありません……少し、一人になりたいんです」
その一言で、兵士の想像は完成した。


(深夜、彼女の天幕を訪れるクロ……えーと、お偉いさん。
 いい生活をさせてやるとかどうとか言い包めて身体を要求。
 平民がお偉いさんに逆らえるはずもなく、散る純潔。
 傷心の少女は気晴らしに、一人夜風に当たりに行く……そういう訳だな!?)
目頭が熱くなるのをこらえながら、兵士は「ではお気をつけて」と言葉を見送った。
そのまましばらくその場に立ち尽くし、天幕の中の出来事を妄想していると、
フードをかぶり顔を隠した小柄な少女がやってきた。
どういう役職なのかは知らないが、クロムウェルの客人であるため、無礼があってはならない。
「ここが、妙な名前と服装の平民の天幕?」
「え? あ、はい。コトノハ様の天幕です」
「そう」
それだけ聞き、フードの少女は天幕に入ろうとした。
「あ、しかしコトノハ様は現在外出中にございます」
構わずフードの少女は天幕の中を覗き込み、濃密な血の匂いに軽いめまいを覚える。
匂いが外に漏れぬよう素早く中に入り、ベッドの上で仰向けに眠っている男の姿を確認する。
ピクリとも動かない。近づく。全裸のクロムウェル。しわくちゃで赤黒く濡れたシーツ。
死んでいる。
傀儡を失ってしまい、少女は真の主に報告すべきか一瞬だけ迷った。
しかし、その前に、どうしても、確かめたい。報告するのはそれからでいい。
「桂、言葉……」
少女は正確な発音で言葉の名前を言った。ここでは明かされていない苗字を含めて。

酷く喉が渇いていたため、本当に水場に行こうかとも考えた。
しかしロサイスに留まれば留まるほど、クロムウェル殺害が発覚する可能性が高まっていく。
人目を忍びながら、ロサイスの外壁までたどり着く。
門には当然、門番がおり、呼び止められてしまう。
かといって外壁を登るのは、仮にガンダールヴの力を使っても難しいだろう。
どこかに抜け道でもないものか? いっそ強行突破でもしてしまうか?
いずれにしろ武器を手に入れておきたい。今の自分は無力な小娘だ。
「そこで何をしているの?」
突如背中から声をかけられ、言葉はポケットに手をいれナイフを掴んだ。
「……道に、迷ってしまって」
微笑を浮かべて振り返ると、そこにはフードを深くかぶって顔を隠した少女。
背は言葉よりも低く、年齢は中学生程度に見える。


「クロムウェルを殺したの?」
「……何の事か解りません」
殺すか。しかし武器を持っている様子はない、女官? いや、メイジか? 杖なら隠し持てる。
だとしたらやっかいな相手だ。
メイジと素手で戦って勝ち目は無いし、万が一勝っても武器は得られない。
そもそも騒ぎになった時点で、兵士達が駆けつけてきて袋のねずみ。
先手を取って、一撃で殺すしかない。
この距離で? 大またでも三歩。その間に杖を抜かれ、駄目だ、間に合わない。
「アンドバリの指輪は」
「何を言っているのか解りません」
フードの中で、少女の額がわずかに光った。
「左のポケット」
なぜ指輪を入れている場所が解ったのか。
このままではどんどん不利な状況に追い込まれるだけだが、今動いたら返り討ちに合うのも事実。
例え不利になったとしても耐えるしかない。隙が生まれるのを待つしかない。
「……狙いは、最初からアンドバリの指輪だったの?」
どうせもうバレているのだから、下手に嘘をつき続けるよりも正直に答えるべきか。
「……そうです」
「指輪の力を知っているの?」
「死んでしまった人を生き返らせられる……ですよね」
「……。指輪を手に入れたのは、虚無の正体を暴くため?」
言葉の事情を知らない側から推理するなら、なるほど確かに妥当な答え。
どうするか。

言葉は世界<ハルケギニア>のすべてを裏切った。
まだ手を差し伸べてくれる人はいるけれど、もう自分はその手を掴むつもりは無い。
利用できるなら利用するだけ。
でも。
誠だけは裏切らない。裏切れない。
だからといって、ここで嘘をついたとして、誠を裏切ったとはならないだろう。
でも誠に関する事で嘘をつくのは、純粋に嫌だった。

「生き返らせたい人がいるんです」
「……誰を?」
「……誠君を」
「ま、こ……?」
どうしたのだろうか。フードの少女は狼狽し、致命的な隙を作りながらよろめいている。
殺せる、と思いながらも予想外の反応に言葉は眉をひそめた。


「誠君を知っているんですか?」
「……どうして、その人は死んだの?」
「殺されたんです」
「誰に……!?」

名前を言った。

膝が砕け、その場に崩れ落ちる少女。
まさか、この少女はあの女と関係のある人物?
だとすれば言葉同様、地球から召喚された、虚無の使い魔?

――ヴィンダーやミョっちゃんならともかく、ガンダーになら任せちゃう。

水の精霊が口にした名前を思い出す。
ガンダーとは、ガンダールヴを示しているのだろう。
コルベールならば、ヴィンダーとミョっちゃんの正しい名前も知っていただろうか?
ふと、コルベールの悲しそうな顔を思い出す。今はそんな事どうでもいいはずだった。
「あなた、もしかしてミョっちゃんですか?」
からかうように言葉は言った。
すでに殺害のチャンスではあるが、相手の正体を言い当てる事で優位に立ち、
情報を引き出そうと思っている――のだが、何のために?
ルイズの優しい顔が浮かんだ。これも、今は、どうでもいい思い出のはず。
言葉は思い出を振り払い、少女の反応をうかがった。
「ど、どうして――」
少女の動揺はさらに大きくなる。
『ヴィンダー』ではなく『ミョっちゃん』の方がちゃん付けな分、
相手を馬鹿にするかのような言い方になる。
そんな理由で先に『ミョっちゃん』の名前を出したのだが、
どうやらお見事大正解。


「……あなたは、ガンダールヴ?」
少女が問い返してくる。
ヴィンダーではなくガンダールヴの名前を出してきた理由は何だろうか?
もしかしたらもうヴィンダーとは接触しているのかもしれない。
あるいはクロムウェルを『武器』で殺したからそう思われたのか?
といっても食事用のナイフはガンダールヴにとって『武器』ではないが。
「ガンダーでいいですよ、ミョっちゃん。
 ところでヴィンダーが誰かご存知ですか?」
挑発するように言葉は言った。
水の精霊のもたらした何気ない情報が、意外なところで役に立った。
「ヴィンダールヴの事なら、知らない」
「そうですか」
つまり第三の虚無の使い魔は、レコン・キスタも掴んでいないという訳だ。
それにしても、ショックを受けているからなのか、ずいぶんと口の軽い使い魔だ。
いっそミョっちゃんの主が誰なのか問いかけてみたら、答えてくれるかもしれない。
だがそれ以上に気になるのは、ミョっちゃんの正体だ。
誠を知っていてこの身長だと、誠の中学の後輩だろうか?
いや、しかしこの声、聞き覚えがある。
(ああ、そういえば、背の低いクラスメイトが……)
言葉の瞳に憎悪の色が灯った。

西園寺さんは私を裏切った。
でもこの人も西園寺さんを裏切って、誠君に……。
だから、この人は、西園寺さんの、同類……。

「……教えて。世界は、どうしてる?」
今度は向こうが質問をしてくる。
「死にました」
簡潔に冷徹に答えた。
私が殺しましたと言ってもよかったが、短く答えようとして自然と今のセリフになった。
もし誰が殺したかを明かしたら、彼女が自分に敵意や憎悪を抱く可能性もあったため、
言葉の答え方は正しい判断と言えたが、そうなったらそうなったで言葉は気にしないし、
殺せばすむ問題なので、「死にました」という答えは他意の無いものだった。


言葉はポケットの中でナイフを握りしめたまま、彼女に近づく。
しかし素の腕力と食事用のナイフなんかで、フード越しに殺せるかは疑問だった。
ナイフを刺せる位置まであと一歩という段になって、うつむいたままの彼女が言う。
「ミョっちゃんからガンダーへ、ふたつだけアドバイス。
 アンドバリの指輪は、偽りの生命を与えるだけでなく、人の心を操る。
 その力を使えばロサイスはもちろん、アルビオンから脱出できるはず」
「……そうですか」
「でも覚えておいて。これがふたつめのアドバイス。
 もしあなたが伊藤を生き返らせても、それは元の伊藤じゃない。
 生き返らせたあなたの操り人形。あなたの望むように行動する、ただの人形」
「誠君は、元々私の望むようにしてくれています。誠君は私の彼氏ですから。
 だから私も誠君の望むようにしているんです。私は誠君の彼女ですから」
「……そう……そうなったの?」
そう呟く彼女が惨めな負け犬のように見え、言葉は冷笑した。
誠の愛は、自分に向いている。こんな泥棒猫なんかには決して向かない。

だから、言葉は殺すのをやめた。

「信じられないようですから、今度見せて上げます。
 私と誠君が、どれだけ愛し合ってるかを……」
そのために言葉は、彼女を殺さず、その場を去った。
そして指輪を左手の中指にはめ、門番に向けて使う。
「私を見逃しなさい。ついでにあなたが持ってる槍を私に、それと灯りを」
こうして武器とカンテラを手に入れつつ、騒ぎも起こさずに言葉はロサイスから脱出した。
しかし、そう遠く離れないうちにロサイスが騒がしくなる。
クロムウェルの死体が見つかったのだろう。言葉は約束の森へと急ぐ。

ミョっちゃんことミョズニトニルンは、
クロムウェルの暗殺で大騒ぎになっているロサイスの中で、
ぼんやりと双月を眺めていた。
飛行機の中で、召喚のゲートに吸い込まれてから、色々な事があった。
大切な人々と離れ離れになり、恐らくもう二度と会えない。
誠と世界がどうなったのか、決して知る事ができない。

そう、思ってたのに。
二人とも、とっくに、死んでいた。
「世界……伊藤……」
涙があふれ、双月が歪む。


第17話 ミョっちゃんからガンダーへ


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