あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

Missing zero 魔法使いと魔女の物語-02



――噂話――

「ねえ、知ってる? ミスロングビルが行方不明だって」
「何それ?」
「何って。言葉のまま、行方不明よ」
「何処か町とかに行って、戻ってこれなかっただけじゃない?」
「でも……門番の人は、誰も外に出てないって」
「じゃあ、出る時に門番が居なかっただけじゃない?」
「うーん。……そう考えたらそうかもね」
「でしょ? そうそう行方不明なんか起きないよ」
「でもさ、消えた場所ってのが。……宝物庫なんだよね」
「……あんた噂に影響されすぎ。誰かミスロングビルが宝物庫で消えた瞬間でも見たの?」
「…………いやー。七不思議ってこわいねっ!」
「無理矢理まとめるなっ! ……全く」
「じゃあじゃあ。自分に欠けている物が補えるおまじない知ってる?」
「あんたも好きだね。そういう類の話が」
「乙女ですから」
「……で、今回はどういうおまじない?」
「聞きたい!? それはね…………」


――間章――

 コルベールは一心不乱に本を漁っていく。
 それは何かを忘れようとする行為に見えなくもない。
 その事については、コルベール自身も理解していた。微かな自嘲の笑みが浮かぶ。
 それは、忘れてはならない。……そして忘れる事など出来ない事。
 一つ頭を振り、資料の検索を再開する。
 古い文献、中期の文献、新しい文献。一般の生徒にも閲覧が可能な本棚にも。
 そして教師のみが閲覧を許されるフェニアのライブラリーにも、今のところ目的の情報は見当たらなかった。
 自らを学究の徒、までは思わない。だが諦める事は好奇心が許さなかった。
 今まで自分の目で見た事がないルーン。いままで20年の教師生活においても類似する物がないルーン。
 しかし、どこかで目にした事がある気がした。矛盾していることなど分かっている。
 だが、どうしてもその正体を知りたかった。

 ばたん!

 ライブラリーの外で何かが落ちる音がした。
 一般書庫には、彼の教え子であるタバサがいたはずだった。
 ――彼女が本でも落としたかな?


 普段なら気にもしないで、調べ物を続行するはずだったが。
 なぜだか、胸がざわついた。
 理由も分からない、だが何かが気になる。コルベールは一般書庫を覗いてみた。
 書庫にはタバサがいつもと同じ場所で座っていた。
 彼女は誰かと喋っている。声までは聞き取れないが、少し声に余裕がない気がする。これは中々珍しい事だった。
 教師である自分とも一言二言しか会話を交わしたことがないのに。いったい何を話しているのかが少し気になった。 
 いや、これは悪趣味だ。彼女には彼女の領域がある。人に聞かれたくないこともあるだろう。
 そう思い、視線を外そうとすると、本棚から床に向かって、何か半透明の紐のような物がすっと伸びていた。
 眼鏡を直し、じっと注視する。

「…………―――――――――!」

 悲鳴すら出なかった。

 本棚から伸びている紐のような物体は、無数の手の集まりだった。

 ゆらゆらと揺れながら、まるで蛸や烏賊の触手の様に枝分かれしながら、ゆっくりと、風に揺られるように床に落ちている本に向かっている。
 それは、限りなく透明に近い青白い手はして本を包むように、ゆっくりと蠢いている。
 狭まった視界の中、一面が手の中。
 その手の中を、タバサは掻き分けるかのように本に近づいてい行く。
 彼女はまるで[手など存在しない]とでもいうかのように。
 行く手を遮る青白い手を、ぶちぶちと千切りながら本に手を伸ばす。
 床に落ちた千切れた手は、断面から血の様な液体を流しながら、びくびくと痙攣したように震えながらも本に向かって這う。
 ――――声を掛けなければ。……本を開いてしまう。本を開けば彼女は、

     間違いなく、何処か此処では無い何処かに消えてしまう。

 納得できるような理由や根拠はない、だが直観として思った。

「ミスタバサ!!」

 声を出すだけで、心臓が破裂しそうになった。
 タバサはコルベールに気付き、手を本から離し、コルベールに目を向ける。
 同時にあれほど視界一面を占めていた手は、ふっと空気に溶けるかの様に霧散した。
「……なにか?」
 タバサはまるで何も見えていなかったかのように普段と変わらない返事を返す。
「手……の事だが?」
 彼女は何を言っているんだか? とでも言いたげに首を傾げる。
 ――今の事は自分しか認識できなかったのか? もしくはただの幻覚か? いずれにしろ自分の生徒には何もなかった。それで良かったとしておこう。
 コルベールは無理矢理に自分を納得させた。


「いや、なんでもないんだ。ところで、その本はなんだい?」
「……落ちてきた」   
 タバサは本が一か所だけ抜け落ちた本棚に指を射す。
 ぎょっとして視線をずらす。
 落ちていた本に目を移すと、表紙には貸出禁止と書かれていた。
 通常、貸出禁止の本は一般の書庫には無い。それこそフェニアのライブラリーにしかないはずなのに。
 本に手を伸ばそうとしているタバサに。
「それは私が片付けておきます。授業が始まりますよ、もう帰りなさい」
 と言い、本を持ってフェニアのライブラリーに戻っていく。
 何となくだが、彼女にだけは、この本を見せてはいけない気がした。
 今も本棚の本が抜け落ちた場所から、じいっとタバサと本を見つめる目があったから。


 薄暗いライブラリの中で、コルベールは机の上に本を置いた。
 タバサの事も気になったが、目を向けることはなかった。
 じっと、本を眺める。
 自分はこの本を読めるのか。躊躇した。
 先ほどのあの手を思い出す。あの手は確かに本を開こうとしていた。
 読めば、自分はどうなるか判らなかった。 
 あの青白い手の感覚は、まるでいつも見る悪夢が現実に現れたようだった。
 だから、余計に恐ろしかった。
 唾をごくりと飲み込み、覚悟を決めた。
 開かないならそれでも良かった。だが知らない事に対する好奇心の方が多かった。
 ――この本が知りたい。ただその一点。
 本に掛けた指に力を込め、表紙をめくった。
 瞬間、

――――ばちんっ!

 何かを鋏で切ったような音。そして、ライブラリの照明が全て消え、部屋の全てが暗闇に包まれる。
 そして目の前の闇が“どろり”と甘く昏く囁いた。

「……やめておきたまえ…………」 

 声を聞いた瞬間、目の前の机に、忽然と“彼”は座っていた。
 夜色の外蓑を身に纏い、小さな丸眼鏡を掛け、漆黒の長髪のを垂らした宵闇は、影と共にそこに居た。
 そして……三日月のように、口の端を引き上げ、闇は嗤った。
「…………死神……」
 意図せずに、擦れた声が出た。目の前の“彼”を表す言葉が他に見つからなかった。
 その闇の圧倒的な存在感は、コルベールに明確な死を予見させる。
 それは数多の生死を漂い、眼前の全てを焼き払った炎蛇を圧倒させるほどの暗黒。
「……何故そう思うかね?」


 闇はくつくつと面白そうに笑いを漏らす、この世の物では有り得ないほど甘く昏く。
 端正な白すぎる顔は、怖気を震うほどに壮絶に嗤っていた。
 そのまま数秒の、しかし永遠とも思える時間が過ぎる。
 やがて、闇は呟いた。
「――――君の『願望』は、その書物を知ることではない」
 闇の言葉は、コルベールの鼓膜に直接囁いているかのように染み込んだ。
 その異様な感覚に、恐怖に、全身が総毛立つ。
 魔法を使って逃げ出そうとするも。出来なかった、指の一本さえ動かせない。
 脳だけ覚醒したような異常な感覚に、恐怖が湧き気が狂いそうになる。
 眼前に迫った死が恐ろしいのか。それとも、ただ単純にこの“闇”が恐ろしいのか。
 それでも聞かずにはいられなかった。恐怖を理性と好奇心で押し隠し、コルベールは彼に問う。
「何故……ですか? それに、私の『願望』?」 
 コルベールの質問に“彼”が答える。
「……やめておきたまえ……」
 くつくつと笑いながら“彼”は続ける。
「――警告しよう……その書物を知ることは君の『願望』為にならない…………」
 “彼は”そう言い、コルベールの手元にあった本の上に手を乗せ自分の方に引く。
「……そして君が知ることは、もう一つの『願望』の為にならない物だ」
 コルベールは手元から引かれる本を見ながらも思う。ああ、自分はこの本は見れないのだなと。
 そして新たな疑問が沸きあがる。いったい“彼”は何者なのだ。
「…………あなたは……」
「……何者か、か?」
 言葉にならないコルベールの台詞を、“彼”は引き取った。
「君には、この書物と私の記憶は消させて貰う。それでも構わないと言うのならば答えよう」 
 それでも知りたい。そう思った。
 “彼”は詠うように答えた。
「“夜闇の魔王”“名付けられし暗黒”様々な名で私は呼ばれる。だがもし、最も本質的かつ無意味な名で私を呼ぶのであれば――」
 闇が一段と濃くなり。無の明かりに“彼”の白い顔は浮かび上がる。
「――私の名は神野陰之という」
 神野の言葉の終わりと同時に、コルベールの意識は靄に包まれるように消えかけて行く。
 ――それが、何故、此処に……
「私は“叶える者”にして“すべての善と悪の肯定者”そして、そこに『願望』が有るのならば、私が此処に居るのは必然なのだよ――――」
 ……………………
 ……………………………………

 コルベールは眼を醒ました。
 どうやら資料を探している内に眠ってしまったようだ。
 目の前の机の上には一冊の古文書があった。
 良く見ると、この本には見覚えがあった。
 薄ぼんやりとした記憶によると。確かこの本には、古いルーンが載っていたはず。
 コルベールは意気揚揚と、それに目を通し始めた。


――鏡――

 薄暗闇の中。目が覚めると、見知らぬ天井があった。
 静寂の闇の中で湧き上がる疑問。
 ここはどこなんだろう? なんで僕はこんな所で寝ているんだろう?
 考えていると、ちくりと左目が痛くなった。 
「痛っ……」
 ゴミでも入ったのだろうか、左目を擦ろうとすると、違和感。
 それは片目の景色。
 ――左目が見えない。
 すぐに触って確かめる。指先の感覚は包帯だった。僕の左目には、包帯が架かっていた。
 じゃあ、ここは医務室か。
 何故こんな事に? 僕は記憶を辿った。
 最後の記憶は昼食。……確か、平民の使い魔に香水を拾われて、僕の浮気がばれたんだった。
 それでケティに五段突きを喰らわされた。みぞおちから顎までが、ずきずきと痛んだ。
 それで僕は医務室に……いや、違う。それでは――――この目と鼻のいたみが説明できない。
 ああ……そうだ。
 僕はモンモランシーに剛……思い出せない。……というか思い出したくない。
 ……それから僕は、あのにこにこした平民の使い魔を見て逆上したんだっけ。
 何故か分からないけど。あのにこにこした顔を見たら腹が立ってきたんだ。
 そこそこ可愛かったけど。あの無邪気な微笑みを見ていたら、すごく心が不安定になった。
 自分が異常なんじゃないかって。だから、あの微笑みを止めてやろうと思ったんだった。
 怖がらして、あの笑みを消してやろう。それで、決闘だ! なんて言ったんだ。
 だけど平民の笑顔は変わらなかった。
 怖かった。気持ち悪かった。あの無邪気な微笑みが恐ろしかった。
 今も、思い出すだけで身震いした。
 そして皆が煽る中……掲げた腕の中の香水の瓶が割れたんだった。
 僕に降る光、硝子の雨。
 それから、僕は……僕は……


「うっぅぅ……」
 その時、左目が焼けるように痛んだ。
 目の中で何かがごりごりと無理矢理に動くようなおぞましい感覚がした。
 まるで、眼窩に到達していた異物が表に出ようとするような、神経を掻き出すような痛み。
 目の包帯が涙か血、あるいは両方の液体で濡れていくのが頬の感触で分かった。 
「……ああぁぁぁぁぁっ」
 痛みで身体が壊れると思った。
 暴れだしてしまいそうな痛みに、投げ出された左手が何かに触れ、掴んだ。
 それは、柔らかく暖かかった。
「ギ―シュ……起きたの?」
 僕の限られた視界の外から聞き覚えのある声がした。
「……モンモランシーかい?」
 僕は荒い息を治す。
「ギ―シュ、ごめんね。私の瓶の、私の所為で……ごめんね」
 彼女は泣いていた。見えなかったので声でしかわからない。
「君は何も悪くないよ。……悪かったのは僕の運じゃないかな」
 良く考えたら最悪だな、運が悪すぎる。何も掲げた時に割れなくてもいいじゃないか。逆恨みしたくなる。
「……ははっ」
 苦笑が出た。僕の手は何も無い空間を触ったが、何度目かにモンモランシーの頭に到達し頭を撫でた。
「何で笑ってるのよ。あなたの左目はもう……」
「見えないかもしれない、だろ?」
 馬鹿でも解る。あれだけの破片が目に入ったら……
「じゃあなんで笑ってるのよ!」
 どうやらちゃんと笑えているようだ。
「僕は薔薇だよ。薔薇は女の子を悲しませない物さ」
 精一杯の強がり。正直なとこ泣き出したい。だけど彼女を悲しませるよりはいいかな、と思った。
 あれだけ痛かった目の痛みは、いつのまにか治まっていた。
 頬には外気に触れて、冷たくなった包帯の感触が残った。



新着情報

取得中です。