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超少女明日香召喚-02



転勤が頻繁すぎたから学校に慣れる間はほとんどなかったけれど、成績は悪くはなかった。でなければ転入試験をクリアすることなどできなかったろうし、そもそも明日香の学校選択の基準は『住み込み先に一番近い』ことが最優先で、時には進学校だったりもしたのだ。
だから空に浮かぶ二つの月を見るまでもなく、ここが地球ではないことを理解してしまった。
「……過去や未来に迷い込んだことはありますけど、地球外というのは初めてです」
それなのに、重力や大気に殆ど違和感を感じないというのは、随分と都合が良過ぎないだろうか。

気がつくとベッドの中にいた。
明かりの落とされた部屋でも、これだけ月明かりがあれば明日香の目には昼間と変わらない。
横を見れば、先刻自分に痛い思いをさせた少女が丸くなっている。
起こさないように、静かにベッドから降りて、部屋の中を見回す。
クローゼットや机も随所に細工が施された高級品と分かるし、壁に掛けられたタペストリーも美しいものだ。少女自身が言うとおり名家の子女なのだろう。
身体の調子を確かめてみる。怪我はしていない。少しお腹が空いているけど。隅においてあった自分の風呂敷包みも確認。
やはり気になるのは右手を覆う文様だ。袖を捲れば、手の甲から肘の上まで広がっている。今は痛みもないけれど、これが現れたときには骨まで削られるような痛みだった。
「つまり、ただ皮膚に描いただけ、というわけではないんですよね」
本来秘されるべき砂神の里の隠し紋。手荷物の中から手ぬぐいを出して腕に巻きつけておく。
一瞬この少女のせいかとも思ったけれど、明日香は首を振って否定した。この紋章は、砂神の里が滅んだ今では、明日香以外知るはずがないのだから。全部の責任を少女一人に押し付けることはできない。
口伝でもこんな事例は聞いたことがない。異界だからで片付けるのは不安なのだが、今の時点ではどうしようもない。
心細いのにパニックにならないですんでいるのは、自然の声がここでも変わることなく明日香を包んでいるから。
それは明日香がこの世界から拒絶されていないということ。
すいと右手を差し伸べれば、そこに小さく風が渦巻いた。
指を向ければ、水差しの水がぴちゃりと踊った。
その度にほんのりと右腕の紋様が暖かく感じられて、明日香は声を出さずに微笑んだ。
呼ばれたということは、この地でも何かが起こるのかもしれない。自然を巻き込んだ戦いが。
(なんとか満期まで無事に勤め上げて、ぼっちゃんの元に帰りますから。待っていてくださいね)
戦いは勿論大事、だけどこれも明日香の本心。
それにしても、
むにゃむにゃと可愛い寝言を零す少女の乱れたシーツを直しながら、
異界から使用人を呼びつけるとは、中々豪快なご主人様だ。
机を見れば、広げられていた本とノートには、明日香には見覚えのない文字が踊っている。
覚えないといけないことも多そうだ。そろそろ自分も寝た方がいいだろう。
おやすみなさい
呟きに風が答えてくれたのを瞼の奥で感じながら、明日香は眠りに着いた。

* *


「ご主人様、朝ですよー」
軽く揺さぶられる。
むむとシーツに潜り込もうとするけど、
「他の部屋の方もそろそろ起きているようですから、ご主人様も急いだ方がよいのではないでしょうか」
あれ? うちの侍女にこんな声の娘いたかしら?
ぱかと目を開ければ、明るい栗色のふわふわ髪の女が自分を覗き込んできた。どうでもいいけど、その前髪じゃ前が見えないんじゃないの?
「あんた、だれ……ああ、そっか、昨日」
だんだん思い出してきた。それと同時にむかむかしてきそうだったんだけど、何と言うか、この女のほにゃとした雰囲気に流されるというか。
ぼうっとしてたら、首の後ろにそっと手が差し込まれて、優しく抱き起こされてしまった。
こんな風にされたのって、6歳くらいまで。恥ずかしさと一緒に分かる。この女、一流の侍女だ。
どこの田舎から来たのかと思ったけど、実は違ったのだろうか。
促されるままに顔を洗って、タオルが差し出されるタイミングもばっちり。
ちらと見やれば、にこにことしてる。服装は珍妙なのに、変な女だ。
「ええと、名前はアスカって言ったかしら?」
「はい、砂姫明日香と申します、ご主人様」
使い魔を呼んだ筈なんだけど、私メイドを呼んじゃったんだろうか。呪文間違えたのかな。
「いいわ。とりあえず着替えさせて」
「今日はどちらのお召し物を?」
「制服よ。ああ、そこに掛けてある奴」
厳し目に採点するつもりだったけど、減点するところがないのがちょっと悔しい。
ふと、右腕に巻きつけてある布に気がついた。
「それ、もしかしてまだ痛いの?」
「いいえ、もう痛みはありませんが、あまり見目良いものではありませんし、今日にでも手袋を縫うつもりです」
へぇ
手袋まで縫えるのか。専門の職人でもないのにさらっと言ったアスカは、見た目よりもずっと優秀らしい。
使い魔としてじゃなければ、かなりの拾い物……なんだけど。
早めに起こしてくれたから少し時間がある。出る前に話しておいた方がいいだろう。
「昨日言えなかったから今言わせて貰うわね。あなたは私の使い魔として召喚されたの。ここまでは分かる?」
時間も押してるから概略だけざっと。他はおいおい説明すればいいだろう。第一人間の使い魔なんて私だってどうしていいか分からないんだもの。
物分りの良さそうなアスカだったけど、使い魔の契約は死ぬまでで、帰還呪文なんて知らないって言ったときだけは顔が引きつってた。
生意気な奴だったら気にも留めないところだけど。
そう言えば、アスカがいたところから連れてきちゃったのよね。帰すことはできないけど、主人として気を使ってやるくらいのことはしないと。
「使い魔だけど、取り合えずアスカは私のメイドとして仕えてもらうから」
主人を守るのが使い魔だって言ったって、ほややんとしたアスカに戦いは無理だろう。
それ以前に、私が戦うことだってないんだし。
廊下も騒がしくなってきた。そろそろ時間か。アスカを促して廊下に出たところで、嫌な奴に捕まった。

* *


ご主人様が同級生のキュルケさんと言い合っているけれど、私が口を挟むところではなさそうなので、
それよりもサラマンダーをまじまじと見つめる。
随分と火の気が強い。けして乱暴ではないけれど。
ふと、右手の甲がちりりと疼いたら、気のせいかもしれないけど、サラマンダーの表情が読めるような。
こんにちは、と小さく頭を下げてみると、相手もひょこりとお辞儀をしてきた。
ええと、今日はいい天気で、気持ちがいいですねー
ひょこと振ったしっぽが、こんな日は室内に篭っているよりも外で昼寝をするのが気持ちいい、と
それは私も思います。それにお布団を干しておくのにもいいんですよ
なるほど、自分は布団で眠る習性はないが、その気持ちは分かる

はっと気がついたら、ご主人様とキュルケさんが、私とサラマンダーのことをじっと見つめていた。
「あ、いえ別にその……何でもありません、はい」
こそこそとご主人様の後ろに隠れる。
「アスカって、トカゲと話もできるの?」
「いえ、そんなことは……ただあの子懐っこいから相手をしてくれてただけですよ」
「はぁ……まぁいいわ。でもあんまり人前ではやめなさいよ。トカゲ相手にニコニコ手を振ったりしてたら変な人に見られちゃうから」
「はい、気をつけます」
ばいばいと手を振ると、サラマンダーも尻尾を振り替えしてくれた。そう、フレイムっていう名前なんだ。

元々木々とは馴染んでいた。これもその延長なのかもしれないと、布で隔した右手を摩った。



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