あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

S-O2 星の使い魔-20


 メイジと使い魔。

 メイジは使い魔を扶養し、その所業等の一切に責任を持つ。
 使い魔はメイジを、その一命を賭して守護する義務を負う。

 ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。
 クロードの主にして、魔法の使えぬメイジ。人呼んで『ゼロのルイズ』
 そのことを思い知っているからこそ人一倍努力し、誇り高き貴族たらんとする少女。

 クロードにとってルイズはかつての自分であり、なりたかった自分そのものだった。
 失意に打ちのめされながら、それでも歯を食いしばって立ち上がる。
 諦めずに光を求めて手を伸ばし続ける姿が、ひどく眩しく見えた。
 彼女には自分のように逃げて欲しくなかった。折れて欲しくなかった。
 彼女と一緒なら、自分ももう一度立ち上がれるような気がした。
 そう、思っていたつもりだった。

「……さっきの言葉、気にしてんのか、相棒?」
「……だろうな。きっと、気にしてるんだろう」

 懐からの声に他人事のような言葉で答え、自嘲じみた笑みを浮かべるクロード。
 空には双月が穏やかな光を湛えている。

 夕食を終えてからずっと、クロードは一人ヴェストリの広場に佇んでいた。
 ルイズには何も話していない。
 きっと、帰ったらお説教が待っていることだろう。
 もしかしたら今頃はキュルケ辺りに言いがかりをつけて怒鳴り込んでいるかもしれない。何しろ前科持ちだ。
 何はともあれ、しばらく一人になりたかった。

 ルイズのことを恨んでいるつもりはない。
 きっかけや経緯はどうあれ、彼女は自分を新しい世界を連れ出してくれた人だ。
 一人の人間として尊敬しているし、魅力的な女性だとも思う。
 まあ、その、いわゆる女性的な色気という点においては若干のハンデがあるかもしれないが。

 それらクロードの感情は全て、思い過ごしだったのだろうか?
 そう思うように、知らず知らずのうちに誘導されていたのだろうか?

「俺が言うのもなんだがよ、相棒。
 何でもかんでも真面目に考えすぎなんじゃねえのか?」
「……ああ。そうかもな」

 そう言ってクロードは天を仰ぐ。
 今更デルフに言われるまでもない。これまで散々言われてきたことだ。

 自分自身のこと。クロード=C=ケニーとしてのアイデンティティ。
 対象が父から主に摩り替わったとは言え、これまでずっと抱え続けてきた悩みそのものである。
 今日一日で解決するには話が大きすぎる。
 今晩くらいは安酒でも喰らって、何もかも忘れるくらいに潰れてしまおうか。
 そうすれば明日は少しはマシな顔になっているだろうか。
 そんなことばかりを考えながら、クロードは重い腰を上げる。

「なあ、デルフ」
「ん、どうした?」
「……」
 何となしに問いかけたクロードであったが、言葉が続かずに黙り込んでしまう。
 聞きたいことはいくらでもあるはずなのに、喉に引っかかって声にならない。
 足は進めど口は動かず、クロードの足音ばかりが夜の学園に響いていた。

(……もう少し、気楽に考えられないモンかね)
 デルフは静かに思う。
 何かにつけて、この相棒は問題を自分一人で抱え込んでしまう。
 相手に気を遣っているのか、それとも意地っ張りなのか。おそらくは両方なのだろう。
 年齢の割には落ち着いているくせに、逆にひどく子どもっぽく見えることもある。
 要するにアンバランスなのだ。
 その辺が解決すれば、使い手と一人の男としても文句の付けようがない男となるだろうに。

 と、不意にクロードの足が止まる。

「おい、どうしたよ相棒?」
「しっ!」

 不平をこぼすデルフを黙らせ、顎で方向を指示する。
 10メイルほど離れた先には黒い外套に身を包み、辺りを伺う人影一つ。
 フードを目深に被ったその表情は夜の闇に紛れて見えない。

「……怪しいってレベルじゃねーぞ」
「……ああ、怪しいな」
 いかにも不審人物でござい、と言わんばかりの出で立ちにクロードも迂闊に手を出せず、様子を伺っている。
 ここまで来ると、逆にいっそ清清しいと言えぬこともない。

 どうする。それとなく呼び止めて職務質問でもしてみるか?
 それとも不意を付いて実力行使に出るか?

 だが、状況はクロードにそこまでの余裕を与えてくれなかった。

「───ッ!」
 懐から杖を取り出すのを確認し、クロードの顔色が変わる。

 弾かれるように飛び出し、併せて足元の小石を拾って前方へと投げつける。
 これは攻撃のためではない。狙いはあくまで相手の気を引くためのフェイクだ。
 果たして効果は覿面、石つぶての風切りと大地を跳ねる音に、相手は極端なほどびくりと反応する。
 これだけハッキリと反応してくれるのならば話は早い。

「うっ……」
 ドスッ、という低い音とくぐもった呻き。
 クロードの右手が侵入者の腹に深々と突き刺さった。
 そのまま正体を失って力無く崩れ落ちるところを左手で抱きとめる。

「っと、すいません」
「お美事。やるじゃねえか、相棒」
 懐のデルフが賞賛の声をあげた。
 さて、これからどうしたものだろう。
 腕にかかる体重の思わぬ軽さと線の細さ、そして声の質からしてどうやら女性らしい。
 レディ相手にちょっと乱暴だったかと思わないでもなかったが、
 土くれのフーケと言う前例があった以上、仕方が無いことだろうと自分を納得させる。

 とりあえず、人目に付くと面倒なので建物の影へと移動する。
 そして顔を覆うフードを外すと、思わずクロードは息を呑んだ。

「ほー、こりゃまた別嬪さんだな。
 いいとこのお嬢さんか何かじゃねーか?」
 デルフの言うとおり、黒衣を除けて月明かりに下に晒されたその素顔は、美少女だった。それもとびきりの。

 年の頃はルイズ達とさほど違わないくらいだろうか。
 艶やかな紫髪は肩口で切りそろえられ、慎ましくも滑らかなシルクのドレスに包んだ華奢な肢体は、
 まさに深窓の令嬢という言葉に相応しい気品を備えている。
 先ほどの魔法を使おうとした素振りといい、ド素人そのものと言える反応といい、
 デルフの言うとおり、どこかの貴族のお嬢様だろうか。

(……早まったかもしれないな)
 ここに来てクロードのこめかみにたら~りと汗が流れる。
 気付かなかったとは言え、貴族のお嬢様に手を上げてしまったとなれば、これはもう大問題だ。
 果たして説教ン時間コースで済むかどうか。下手をすれば肉体言語がセットで付いてくるかもしれない。
 もっとも、こんな夜中にこんな怪しい格好をしていた相手だから情状酌量の余地はあるだろう。
 とりあえず、こんなところを目撃されてはマズいので、人目につかないように建物の影へと運び込む。
 既に自分が不審人物になっている気がしないでもないが、まあそれはそれ。

「で、これからどーするよ、相棒」
「僕一人じゃどうしようもないな。この人が何者なのかも解らないんだ。
 誰かに聞かなきゃどうしようもないし、力になってくれる人が居るといいんだけど……」
 そう言って辺りを見回すクロード。
 と、ちょうど見知った顔が通りかかった。

「シエスタ、ちょっといいかな?」
「え、ちょ、ク、クロードさんっ!?」
 煌々と月の輝く夜更け、建物の影にメイドを引きずり込む男が一人。
 ますます不審人物一直線である。

「いけません、こんなところで……! あ、でも、こういうのも───」
「ごめんね、シエスタ。この人、誰だか解る?」
 軽くトリップしかけたシエスタを鮮やかにスルーして自分の話題に持ち込むクロード。
 流石と言うか何と言うか。その一方でちょっぴり残念そうなシエスタであった。

 さて、改めて人目につかぬように建物の隙間に運び込んだ黒衣の女性と対峙する二人。
 クロードに手を引かれたシエスタの顔がさっと青ざめる。
「このお方は……!」
「シエスタ、知ってるのかい?」




「……アンリエッタ王女殿下じゃないですか……」



「……マジ?」
「……はい」
「……本気と書いて?」
「……はい」

 冷や汗が背中を滑り落ちる。顔面中の筋肉が引き攣って歯がカチカチと鳴る。
 顔面の筋肉が引き攣るあまり、表情はまるで笑っているかのよう。笑うしかないとも言う。
 一方のシエスタも言葉の意味こそ解らなかったが、クロードのただならぬ様子にうんうんと頷いた。

 ヤバイ。ヤバイヤバイよマジヤバイ。
 どのくらいヤバイかって言うと、電子レンジの中のダイナマイトくらい。
 今のクロードは屈んで待ち受ける軍人に飛び込むレスラーのようなものだ。
 このままでは月の子が集う暇すら与えられずに塵一つ残さず消滅させられてしまう。


「あのう、何があったんですか?」
 クロードの全身から漂う『やってもうたオーラ』を感じ取りつつ、恐る恐るシエスタは尋ねる。
 聞かない方が良かったんだろうと解ってはいたのだが。
 果たして、ギギギ、という音がしそうな勢いで首を向け、泣きそうな顔のクロードが口を開いた。

「……お姫様、殴って気絶させちゃった……」
「……はい?」

 今度はシエスタの表情が凍りつく。
 もともと緊張のあまり青白くなっていた顔からはますます血の気が引き、
 微かに差し込む月夜に照らされた土気色のその顔色は、まさに死人のそれ。
 うっかり人が通りかかれば恐怖のあまり叫び出すこと請け合いだ。
 既に初夏の足跡の聞こえる季節だというのに、吹き抜ける風が嫌に寒々しく感じられたのは、
 きっと彼らの気のせいではなかっただろう。

「いや、何しろこんな格好してるからさ、てっきり賊か何かだと思ったんだ」
「……はい」
「こう、貫手で肋骨の隙間を抜いて肺を、ね?」
「……はい」
「あ、あはははは…… どうしよう?」
「……はい」
「とりあえず目を覚ますまで待って、頭下げて話を聞いてもらうしか……」
「……はい」
「あの、シエスタ、大丈夫?」
「……はい」
「もしもし、シエスタさ~ん?」
「……はい」

 反応が嫌な方向に怪しいことに気付き、思わずクロードはシエスタの瞳を覗き込む。
 シエスタの瞳は死んだ魚のように濁り、ぽかんと虚空を見つめていた。
 何度呼びかけてみても、頬をぺちぺち叩いてみても、反応に変化は無し。
 うわ言のように、壊れた人形のように生返事を繰り返すばかり。


 どう見ても魂があっちの世界に旅立ってます。本当にありがとうございました。


「アッー! 待ってシエスタ! 僕を一人にしないでーっ!!」
 立ったまま真っ白な灰と化したシエスタの肩をがっくんがっくん揺するクロード。
 彼らの明日はどっちだ。



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