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ゼロのエルクゥ - 17


「ついに来たか!」

 アルビオン国王、ジェームズ一世は、部下からの報告にしわがれた声で気勢を上げた。

「はっ! 『レコン・キスタ』総司令官、オリヴァー・クロムウェルの名で、明日の正午に全面攻撃を開始するとの次第、伝えて参りました!」

 片膝を付いた衛兵が、威勢良く報告の声をあげる。

「恥知らずの坊主風情めが。言いおるわい」
「その連中にここまで追い詰められているのは僕達さ、パリー」
「腹立たしい事この上も無きですな。しかし、こちらには殿下のもたらした硫黄がございます。せめて死に際の恥ぐらいは雪ぐ事が出来ましょうぞ」
「めでたい事だ。これは今夜の宴が楽しみだな!」
「ほほ、早速準備させませぬとな。ほれ! 祝宴の支度じゃ! ぼやっとしとらんと各部に通達せい!」
「は、はっ!」

 パリーの一喝に衛兵が慌てて駆け出していくと、玉座の傍らに立つウェールズとパリーは朗らかに笑った。
 時は朝。アルビオンの寝ぼすけな太陽は、いまだ地平線に姿を見せていなかった。

§

「そう、明日にはもう……」
「ああ。先ほど向こうから宣戦布告があったそうだ。それに応じ、明日の朝にイーグル号とマリー・ガラント号が出港する。僕達はそれに乗って帰るわけだ」

 与えられた客室で、ルイズは何をするでもなく外を見たり、貰った手紙をいじくったりしていた。耕一はその横で、手紙を奪おうとするような刺客が窓の外あたりから来ないかどうか目を光らせながら、デルフリンガーと雑談をしたりしている。
 ワルドが報告を持ってきたのは、そんな折であった。

「ついては、今日の夜に祝宴が開かれるそうだよ。是非大使殿一行にも参加してほしい、だそうだ」
「祝宴……」

 出陣前の宴席。
 他の所の適当な戦争ならそれはさぞ華々しいパーティになるのだろうが、玉砕が目に見えている今この状況では、それは物悲しさ以上のものをルイズの心にもたらす事は出来なかった。
 いや―――他のそういうパーティだって、華々しさなんて表面だけで、実はこんなに悲しいのかもしれない。
 ノブレス・オブリージュ。力ある者の義務と誇り。
 少し前までルイズの存在の基盤であったそれは、昨夜の思索とも相まって、随分ともろい物のように感じられた。

「さて、その余興というわけでもないのだが、ミスタに一つお願いがあるんだ」
「俺にですか?」
「ああ。……一手、お手合わせ願えないか、とね」
「ワルドッ!?」

 ルイズが目を見開いて立ち上がる。耕一は、一手? はて暇潰しの将棋―――じゃなくてチェスか何かか。と首を捻っていたが、その反応でふと、学院にいる時の事を思い出した。

「決闘……ですか?」

 ワルドは答えず、ニヤリと口元だけに笑みを浮かべた。その通りであったらしい。

「なに、他意はないよ。純粋に、現在のルイズのナイトである君と技をぶつけ合いたいだけさ。これでも、杖一本で衛士隊隊長まで昇りつめたという自負があるものでね。武人としての心が疼くのだよ」

 決闘というより、組手だね。そう言ってワルドはまた笑った。

「……俺、亜人なんで、使えるのは持って生まれた力だけですよ。そういう武を競うみたいな戦いを期待されても困っちゃうんですが」
「構わんさ。僕のけじめでもあるんだ。そう固く構えてくれなくてもいい」

 婚約者として他の男には負けられん、という事だろうか。なるほど、同じ男としてわからなくもない。
 熟した男性の雰囲気を漂わせているが、案外熱い奴なのかもしれなかった。

「……まあ、そういう事なら。怪我しないようお手柔らかにお願いしますよ」
「ふふ。武装した夜盗の集団を秒で蹴散らす男の言葉じゃないぞ? 本気でやらせてもらうから、怪我をしたくなければ気張りたまえ」

 ふっふっふ、と含んで笑いながら腕を合わせる男二人に、ルイズは付き合ってられないわ、とばかりに視線を外した。
 空に一筋の流れ星でも駆けてやしないだろうか。それとも、稲光が荒れ狂っているか。

「ルイズも立ち会ってもらえないか?」
「ええ? 私も?」

 しかし、そんな男の世界に入りきれないルイズを知ってか知らずか、ワルドは引き込もうとしてくる。

「男と男の決闘だ。両者に縁のある女が見てくれていれば気も張るというものさ」

 すかした事を言いながらもどこか子供っぽいワルドの口調に、ルイズはやれやれ、と肩を竦めた後、仕方なさげに立ち上がった。暇だったのは確かであるし、彼らの実力自体にも興味があったからだ。

「わかったわよ。二人とも、そんなお遊びで怪我なんてしたら承知しないんだからね」

 ワルドが、誰にも気付かれないぐらいに小さく、ニヤリと口元を歪めた。

§

 ニューカッスル城は、岬の突端に位置する。
 それは陸の要所を守る砦ではなく、空の要所を見張る港だ。規模は小さくとも、そこは贅を凝らした貴族の邸宅ではなく、実用一点張りの軍施設の一つだった。洞窟の隠し港などはその最たる仕掛けだろう。
 よって、練兵場などの施設には事欠かない。今回の戦の準備には使われないその一つを借り、ワルドと耕一は静かに対峙していた。

「音に聞くトリステイン魔法衛士隊の隊長と、亜人の使い魔殿との立会いとは!」
「なかなか粋な見世物をなさる! さすがは大使殿よ!」
「おやグレッグ候、もう飲んでいらっしゃるのか? 宴は夜からというのに、気が早いですぞ」
「かっかっか! こんな最高の肴を前にして、酒がなくっちゃ始まらんじゃろうが!」
「違いない! わっはっは!」

 その周囲には、アルビオン貴族達が緩やかな輪を作って笑いあい、宴の準備からくすねてきたのか酒を持ち込んでいる老貴族までいた。
 ルイズは、向き合う二人の真ん中に立って頭を抱えながら……隣に立っている、王立空軍大将、本国艦隊司令長官に目を向けた。

「……もう、ウェールズ殿下までこんなところにいらっしゃって。しかも介添人だなんて」
「ははは。この死地までついてきてくれた皆、生粋の武人だ。技を競う決闘と聞いてじっとしていられる者などおらんよ。その介添人になれるとあらば、これ名誉の一言だ」

 端整な顔に人好きのする笑みを浮かべて、ウェールズは笑った。
 明日の昼にはその死地の真ん中に飛び込むというのに、どうしてこんなに笑っていられるのだろう。
 ルイズは、アンリエッタにアルビオン行きを誓った時の自分の心を思い返しながら、そんな事を思っていた。
 あの時は、何の迷いも無かった。いや、今だって、この任務は何より大事のはずだ。命に代えてもと思う気持ちは変わらない。
 なのに……この、彼ら誇り高きアルビオン王党派の、真に貴族の誇りたるべき場面を前にしての、この寂寥感は……何なのだろう―――。

「両者、よろしいか」

 杖を高く掲げたウェールズの声と静まり返る場に、ルイズは思索から引き戻された。
 ざり、と、どちらかもわからない靴が砂を噛む音がする。
 ゆっくりと、金属と金属が擦れあう音がして、ワルドがその細身の突剣に見立てた自らの杖を抜き放ち、フェンシングのように構えた。
 耕一は、足を軽く開いた自然体のまま、じっとそれを見据えている。

「―――はじめッ!」

 ウェールズが杖を振り下ろす合図とほぼ同時に、ワルドが翔けた。
 その迅さはまさに風。スピードだけなら、エルクゥにも遜色のない突進だった。

「『閃光』のワルド、参る!」
「くっ!」

 二つ名通りの閃光のような突きが走る。
 剣に見立ててあるとはいえ、あくまでも杖であるそれの突端は丸く、青銅ゴーレムの全力パンチですら平然と受け止める耕一には牽制の効果すら見込めない。

「相棒! 避けろ!」
「っ!?」

 デルフリンガーの一喝で、耕一はざっと飛び退り、ワルドから距離を取った。

「よく見破った」

 びゅうん、とワルドの杖の周りに風が渦巻く。目には見えない空気の刃がそこにある。

「『エア・ブレイド』だ。いつの間に唱えたんだ」

 『ブレイド』。杖の周りに、地水火風四属性の刃を纏わせ、己が剣と成す魔法。
 風のスクウェア・メイジであるワルドの使うそれは、『エア・ブレイド』。目に見えぬ風の刃は、距離を狂わせ、回避を困難とする。

「僕の『閃光』の二つ名は、詠唱の速度から来ているのだよ。さあ、この切っ先、触れれば斬れるぞ!」

 ワルドが構える。

「……どんな装甲だろうと撃ち貫くのみ。とか言えばいいのかな、ここは」

 右手の指を猛獣の爪のように見立ててパキパキと動かしながら、耕一は目を細めた。
 じり、じり、とお互いに円を描き、目配せで牽制しあい……先に飛び出したのは、耕一の方だった。
 神速で懐に飛び込み、腕を真横に一閃。

「速いな! だが、当たらぬ!」
「くっ!」

 しかし、ヒラリと身軽にそれをかわしたワルドが『ブレイド』を袈裟懸けに振り下ろす。
 耕一は真後ろに跳躍して回避し、二人は先程と同じ位置に戻った。

 その一合で、周囲を囲むアルビオン貴族の喧騒はぱたりとやみ、皆顔を引き締めた。この試合、一瞬たりとも見逃しては恥だとその顔が心境を表していた。

「だああっ!」
「ふんっ!」

 再び耕一が突撃し、ワルドがかわす。もう一度。しかし当たらない。
 エルクゥの致命的なパワーもスピードも、当たらなければ意味は無かった。

「力だけでは風のメイジに当てる事は出来んよ。其は風に舞う木の葉の如く。落ちる木の葉を掴もうと力をこめればこめるほど、その力の起こす風に木の葉は飛ばされ、掴む事叶わぬ」

 そんな事を言いながら、ヒラリヒラリと耕一の腕をかわして『ブレイド』を振るうワルド。反射神経で『ブレイド』をかわす耕一。
 距離を離し、三度、遠目に対峙する。

「…………へへ」

 知らず、耕一の顔に笑みが浮かんでいた。
 魔法という反則が存在するとはいえ、エルクゥに比肩しうる技術と速度を持つヒト。
 それは、耕一の心を躍らせた。
 人なる身でエルクゥを打倒する。それが可能ならば―――呪われた一族は、ただの猛獣に過ぎなくなるのだから。
 耕一は、笑みを隠さないまま、デルフリンガーをスラリと抜き放った。その左手のルーンが淡く輝き出すのを、ワルドが目を細めて見つめている。

「お、俺の出番かい? 相棒!」
「アレに武器なしじゃちょっと辛いもんでね。力を貸してくれ!」
「おう、任せな! へへ、やっとの出番だ。これはオイラ活躍フラグじゃね!?」

 構えるは、八双の型。次郎衛門の記憶から、というより、体が勝手にこの構えを取っていた。
 体が軽い。ワルドの微細な動きに合わせて自然に対応してくれる。まるで剣の達人にでもなったかのようだ。

「不思議な構えだな。だが隙は無い。君の故郷の技か……ふふ、興味深い。その力、見せてもらおうっ!」

 ワルドが跳ぶ。

「相棒っ! 『ブレイド』に俺を当てろっ!」
「っ!」
「なにっ!?」

 デルフリンガーの叫びに答える事が出来たのは、この不思議な体の軽さのおかげだっただろう。
 長剣は杖の先に巻きつく風に当たり、そのまま鍔迫り合い―――をする事なく、何の衝撃も起こらずにその風の刃が掻き消えた。

「うおっ!?」
「くっ!」

 てっきり剣同士のぶつかりあう衝撃があるものと思っていた耕一は、思いっきり剣を振り抜いてしまった。
 ワルドも、なぜか消え失せてしまった『エア・ブレイド』を再び纏わせるのが精一杯だったのか、その隙の追撃はなく、二人はお互いに跳び退って距離を取る。

「へへっ、どーよ。チャチな魔法だったらいくらでも吸収してやるぜ!」
「先に言えっ!」

 耕一の簡潔な抗議に、周囲を囲んでいたアルビオン貴族の中でまだ余裕のある者は、然りと頷いた。めんごめんご、と謝るデルフリンガーに、あまり謝意はなさそうだ。

「……魔法を吸収するとはね。城が一つ買える値段がつくぞ。ヴァリエール家の宝物か何かかい?」

 ワルドが涼しげな笑みを浮かべながら、杖を構える。

「場末の武器屋で金貨100枚で買った、って言ったら信じる?」
「それは……掘り出し物もいいところだね。―――さて、やはり、まともに叩くのは無理か。二つで満足しておくしかあるまいな」

 ワルドの笑みが、徐々に獰猛なそれに変わっていく。

「くるぞっ! 相棒っ!」

 ワルドの『エア・ブレイド』が不意に解除されたかと思った瞬間、ぶおん! と大きな音が鳴った。
 台風の中、暴風に煽られたかのような衝撃。『ウィンド・ブレイク』の魔法が耕一を襲う。足を踏ん張ってなんとか踏み止まり、本能的に剣を掲げた顔の正面だけに緩やかなそよ風が吹いた。

「横だっ!」

 その隙に、ワルドは耕一の側面に回りこみ、『エア・ブレイド』を構えて突進してくる。
 迎え撃つように耕一が跳ぶ。今度は振り切らないように、デルフリンガーを風の刃に当てて迎撃―――。

「フッ……」
「なにっ!?」

 ぶぅん、と、ワルドの刃が振られるはずの場所を迎え撃とうとした耕一の剣が空を切った。ワルドは杖を微動だにさせないまま、耕一の横をそのままの勢いで通り過ぎていく。
 その先には―――介添人である、ウェールズとルイズが立っていた。

§

 二人の顔が驚愕に歪む前に、ガンダールヴが振り向く前に、周囲のボンクラどもが事態に気付く前に……自らの『ブレイド』はその使命を全うする。ワルドはそう確信して、疾駆する速度を上げた。
 その使命とは―――彼の所属する『レコン・キスタ』の敵、アルビオン王国皇太子、ウェールズ・テューダーの命。そして、その傍らに立つルイズの持つ、アンリエッタの恋文。
 その二つがあれば、『レコン・キスタ』は瞬く間にアルビオンとトリステインをその版図に含める事が出来るだろう。
 もう一つの目的は、ルイズ自身であったが……手紙と一緒に気絶させて持ち帰り、もう一度話をすればいい。どうしても反抗するのであれば、その首を手折るまでだ。
 そんなワルドの計算は、9割9分までが正解だった。
 唯一の誤算は―――ルイズの心を、無力な子供と舐めすぎた事だった。

§

 コーイチの横をすり抜けて、ワルドが向かってくる。その顔には、見た事もないような獰猛な笑み。
 心が真っ黄色に染まる。それは、エルクゥの警告信号。

 『敵に、気をつけろ』

 それまでのルイズであれば、きっと何も出来ずにいた。
 事態を把握できず、事実を認識できず、状況の動く様子を眺めるだけであっただろう。
 しかし、今のルイズは、違う。
 事態を把握し、事実を認識し、状況を見据える。そうあろうと決めたルイズの心は、明確に判断を下した。あれは敵。狙っているのは、自らの傍らに立つ、おともだちの大事な人。
 振り向きつつあるコーイチの足では間に合わない。周囲の貴族達もまだ事態に気付いていない。唯一間に合うのは―――自分だけだ。

 ルイズは、とんっ、と軽く床を叩く靴音を残し、兇刃と、刃の狙う先との間に、その小さな体を滑り込ませた。


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