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第13話 滅入る少女



気分が滅入る。
任務も折り返し地点まで見事に果たしたというのに。
憧れの婚約者から求婚されたというのに。
気分が滅入る。

理由は解っている。
ウェールズに亡命する気は無く、ここで死ぬつもりで、説得しても無理だった。
だからアンリエッタは悲しむだろう。彼の死を聞いて悲しむだろう。
手紙を持ち帰るという任務を果たせても、姫殿下の幸福は果たせない。
なぜ、死ぬと解っていて、逃げようとしないのか。
決まっている、貴族の名誉を守るためだ。
もし自分が同じ状況に立たされたらどうするか?
決まっている、貴族の名誉を守るために戦って死ぬ。
当たり前だと思っていた事を、いざ目の当たりにする事で、ルイズは涙があふれそうになった。
でも、仕方ない、自分には何もできない。
気分が滅入る。

理由が解らない。
「結婚しよう」と彼は言った。「ここで式を挙げよう」と彼は言った。
憧れの婚約者。ワルドが言ってくれた。
でも、嬉しさよりも、困惑が先に立つ。
どうして? どうして、今、ここで?
誇り高き貴族として死んでいこうとするウェールズに、
是非婚礼を行って欲しいと説明されて、一応の納得はした。
けれど、これから死のうとする人々の前で、幸せの象徴である結婚式を行うだなんて。
だがウェールズは、こんな時だからこそと、喜んで引き受けてくれた。
解らない事じゃない。ワルドの考えも、ウェールズの考えも、解らない事じゃ……ない。
だからルイズは、結婚するのだと思う。ここで、ワルドと。
それはとても幸せな……でも、しかし、けれど……。
気分が滅入る。


だから。
これ以上気分が滅入るのは勘弁して欲しいと、ルイズは思うのだった。
なのに。
余計に気分が滅入りそうな事をしようとする自分が何だかおかしくて、少しだけ笑った。

「ねえ、コトノハ。ちょっといい?」
ウェールズとの話も終え、手紙を受け取り、ワルドとの結婚話も進み、
夜の宴を待つ段になって、ルイズは己の使い魔に声をかけた。
言葉はまだ結婚式の件を知らないので、それを話しておこうと思い、
ついでに、最近ワルドとばかり一緒にいたから、言葉と一緒の時間も持とうと考えたのだ。
言葉の事は、怖いし、気持ち悪いし、指輪の件で裏がありそうで、でも嫌いじゃない。
だから言葉と話す事で多少は気が晴れればという気持ちがある反面、
結婚の話をしても、誠の首を後生大事に持ってる言葉が相手では、
余計に気分が滅入るのではと酷く不安でもあった。
「宴まで時間があるし、久し振りに話さない? 最近はワルド様とばかりだったし、
 ほったらかしって訳じゃないけど、あまり話せなかったから」
「……そうですね、少しお話をしましょうか」
鞄を持って言葉はルイズの後について行き、ルイズは空の見えるテラスへと誘う。
日はすでに暮れ、星々が頭上で輝いている。
「こうして三人で星を見るのも、久し振りですね」
と、言葉は鞄を開ける。
「マコトを出しちゃ駄目よ、人に見られたら面倒だから」
「誠君にも星を見せて上げたいんです。ここから見る星は、学院で見る星よりも綺麗ですから」
浮遊大陸アルビオン、より空に近い場所から見る星は、数も多く、そして強く輝いている。
「だからさ、鞄を開けるだけにして、マコトを上に向けるとか。
 窮屈で悪いけど、そこは学院に帰るまで我慢してもら……えないかな?」
すっかり誠を気遣うのも慣れてしまったルイズ。
言われた通りにする言葉を横目で見つつ、ふと思う。
(はぁ。何だかここまでくると、マコトにある種の愛着が湧いてきたような気さえ……)
と思って鞄の中を覗いて、瞳孔全開で灰色の肌の顔を確認する。
(いや、やっぱり無いわ、絶対無い。天地がひっくり返ってもありえない)
何だかんだでやっぱり自分は言葉を好いているけれど、
言葉から聞いた話で誠を不憫にも思っているけれど、
やっぱり死体で、それも首だけの男は、ちょっと無理。絶対無理。


(でも)
その無理に、彼女はすがっているのだと思うと……。
「学院を出てから、今日、ここにたどり着くまで、夜の散歩、ずっとしてなかったっけ。
 ごめんね、ほったらかしにして」
「いえ……誠君と一緒でしたから」
淀んだ瞳で見上げる言葉。空には星々、教えられた星座の名前。
鳶色の瞳は憂いに揺れながら星を見た。
「星座の名前……いっぱい教えたよね。覚えてる? コトノハ」
「……ええ。たくさん、教えてもらいました」
楽しかったと、言おうとして、口をつぐんだのは、ルイズと言葉の両方だった。
楽しい話をしたいけれど、そういう気にはなれない。
お互い、思うところがあった。話していない事があった。
言葉は、ワルドがレコン・キスタの人間であり自分を誘っている事を秘している。
ルイズは。

「コトノハ。私ね、結婚するかもしれない」
「え」
「ワルド様に求婚されて、明日、アルビオンを発つ前に、
 ウェールズ殿下に婚姻の媒酌を行ってもらう約束を、すでにしてしまっていて……」
「でしたら」
これもワルドの計画のうちか。結婚すればレコン・キスタに引き入れやすくなる?
「するかもしれない……じゃなくて、するんでしょう? 結婚」
「うん……でも、あまりにも急すぎて。
 長い間会ってなくて、ほんの数日前に再会して、気持ちが現実に追いつかない感じ」
「……マリッジブルー。結婚を前にあれこれと想像して、不安になってるだけですよ」
「そうかしら?」
「ルイズさんはワルドさんが好きで、ワルドさんもルイズさんが好きなら、
 ずっと一緒にいられるのはとても幸せに違いありません。
 私と誠君が、世界の果てよりも遠い、異世界でも、幸せでいられるように」
「コトノハは祝福してくれるんだ? 私達の結婚」
「……。そういう、訳じゃないです」
祝福していると、言えばいいのに。
でも、下心のある自分では、トリステインを裏切るつもりの自分の口からは、言えない。
……トリステイン。そうだ、ルイズはトリステインを裏切れるのだろうか?
あの人のよさそうな王女様を裏切れるのだろうか?


「ルイズさんが一番好きな人は、ワルドさんですよね」
だったら裏切れるはずだ。
ワルドのために、祖国アルビオンを、友アンリエッタを。
「……よく、解らないわ。気持ちの整理、つかないもの」
「じゃあ、ワルドさんとアンリエッタ様、どっちが好きですか?」
「質問の意味がよく解らないわ。好きの意味が、二人では違うでしょ?」
「ではどちらかを選ばなければならないとしたら?」
「私は貴族よ、誇り高きヴァリエールの。
 だから、この命は姫殿下のために捧げているわ。
 でもそれはワルド様も一緒。私もワルド様も、姫殿下を選ぶわ」
「……そうですか」
ワルドは、アンリエッタより、レコン・キスタを選んでいるのに。
本当に説得できるのだろうか? ルイズを。
もし説得できなかった時、ワルドはルイズをどうする気だろうか。

「力ずくでもさらっていくさ。我々の崇高な使命を知れば、彼女も心変わりする」
「そうですか」
結局、ルイズと星について語り合ったりはしなかった。
胸中で渦巻く疑念が言葉を無口にさせ、その雰囲気が伝わりルイズも無口になった。
そうして星空を眺めている間に、アルビオン王家最後の宴が始まってしまった。
今は宴の席で、ルイズは気分が優れないと客室で休んでいる。
一人で考えたい事があると、婚約者のワルドも部屋には入れないのだ。
言葉は宴の席に姿を出してるものの、鞄を持ったまま部屋の隅に立っているだけで、そこにワルドが声をかけてきたのだ。
そこで言葉は質問してみた。ルイズの説得に失敗したらどうするのか?
答えは前述の通りだった。
「ルイズさんは誇り高い人です。ルイズさんの心を動かせるのは、ワルドさんしかいません」
「ミス・コトノハ、君の協力にも期待しているよ。
 婚約者である僕と、使い魔である君とで説得すれば、きっとうまくいくさ」
「そうですね」
「ところでその鞄、いったい何が入ってるんだい?」
「これは……」
言葉が視線を落とすと同時に、ウェールズ皇太子の声が響いた。
「アルビオン万歳!」
『アルビオン万歳!』
杯を掲げる王党派の面々。
言葉は、彼等を裏切っている事実にふと気づいた。
でも、その事で心は痛まない。
でも、ルイズを思い浮かべてしまった。
説得が成功しなければ、説得するまで、真実を明かすまで。
(私は、ルイズさんを裏切っている……?)


西園寺世界。
誠との中を取り持っておきながら、寝取った女。裏切った女。
友達面をして、裏で仲間と共謀し、誠を奪い取った、裏切り者。
誠の気を引くために妊娠しただなとと狂言までした浅ましい人。
桂言葉を、裏切った西園寺世界。
裏切っ……た……。

(なら、私は)
(私も、同じ)
(違う、絶対)
(彼女、とは)
(違う、から)

宴など、どうでもいい。
ワルドも立ち去り、声をかけてくるアルビオンの騎士達もあしらい、
用意された客室に戻った言葉は、しっかりと鍵をかけると、鞄を開いた。

「誠君」
取り出す、誠の頭部。
固定化の魔法をかけれれて、朽ちぬままの遺体。
「もうすぐですから……もう、すぐ……」
もうすぐ、何もかもがうまくいく。
だのに、なぜだろう。
気分が滅入る。

翌朝になって、言葉は教会にいた。参列者は言葉一人だった。
一応、誠も参列しているが、言葉の鞄の中で静かにしてもらっている。
ウェールズがいる。ワルドがいる。ルイズがいる。結婚式が始まる。

第13話 滅入る少女



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