あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

第12話 悪魔のささやき



風の国アルビオンにある寂れた教会。
人気は無く、薄暗くて寒い、しかしそこがアンリエッタから知らされた場所。
ルイズ達はこの教会に行くよう指示されていた。
恐らく王党派と連絡を取れる場所なのだろうと推測しながらも、
同行するワルドはいつでも杖を抜けるよう警戒し、
言葉もまた鞄を開けっぱなしにしいつでもチェーンソーを取り出せるようにしている。
そんな三人が部屋の真ん中まで来ると、柱の影から甲冑を着たメイジが現れた。
四方を囲んで四人。全員が杖を三人に向けてくる。
言葉は双眸を細めると、頭の中でメイジ達を皆殺すシミュレートを開始する。
ガンダールヴのパワーとスピードなら、あんな甲冑など問題にならない。

「私はルイズ・フランソワーズ! トリステイン王国、アンリエッタ姫殿下の使者でございます。
 ウェールズ皇太子へのお目通りを!」
言葉がそんな物騒な事を考えてるとは露知らず、ルイズは堂々と名乗りを上げた。
アンリエッタに言われてこの教会に来たのだから、
当然ここにいる甲冑騎士達は王党派のメイジなのだろうと決めつけている。
もう少し疑ったり慎重になった方が安全なのだが、今回はこの愚直さが正解だった。
柱の陰から新たな甲冑の騎士が現れると、鉄仮面の奥からルイズへ視線を向ける。
そして、左手の指に輝く青の宝石に気づくと、堂々とした足取りで歩み寄ってきた。
その立ち振る舞いに敵意が無いと気づきながらも、ワルドは警戒を解かない。
言葉は、敵意があろうが無かろうが警戒を解く気は無い。
ルイズの前までやってきた甲冑の騎士は、鉄の小手を外すと、
そこにはめられていた指輪を取り、ルイズに向けた。
「指輪を」
言われて、ルイズは左手を前に出す。
薬指にはめられている水のルビーが、騎士の指輪のルビーと共鳴するように光り、虹色の輝きが二人の間に現れた。
「間違いない。君がはめているのは、アンリエッタの持つ水のルビーだ。
 そして、僕の指にあるこれは、アルビオン王家に伝わる、風のルビー。
 水と風、二つのルビーは虹を作る。王家と王家を結ぶ架け橋のような虹を」
「では、その風のルビーを持つ貴方は」
「そうだ」
甲冑の騎士はゆっくりとした所作で鉄仮面を脱ぎ、
金髪の見目麗しい美青年の姿をあらわにする。
「僕がアルビオン王国皇太子、ウェールズ・テューダーだ」
そこでようやく、ワルドは警戒を解いて杖をしまった。
しかし、未だ消えぬ殺気を感じ取り視線を向ける。
言葉が、闇夜の海のように深く暗い眼差しでウェールズを見ている。
この少女、ルイズの使い魔であるはずなのに、なぜウェールズを敵視するのか?
その疑問に、ワルドは想像を働かせた。


ニューカッスル城に案内されたルイズ一行は客間に通され、
そこで休むよう言われたが、ルイズだけはウェールズの部屋に呼ばれた。
アンリエッタからの密書を渡し、任務を果たさねばならないからだ。
だから、ワルドは使い魔の少女と二人きりという状況で、それを好機と受け取った。
「コトノハ……といったね?」
ソファーに腰を下ろしたワルドは、紳士的な口調で言葉に声をかける。
しかし言葉は、武器の入った重そうな鞄を持ったまま、
窓際に立ち外の景色を見つめている。振り向きもしない。
「少し質問があるんだが、いいかな」
話を進めたいため、沈黙を肯定として受け取る事にして、ワルドは続けた。
「君はルイズの忠実な使い魔だ。そうだろう?
 だから、ルイズの身に危機が及んだ時、そう、教会で騎士に囲まれた時、
 僕も君も、ルイズを守るために警戒し、いつでも戦えるよう、構えた。
 けれど、相手がウェールズ皇太子と解って尚、君は警戒を解かなかった。
 いや、警戒は解いたのかもしれないが、敵意は解かなかった。そうだろう?
 なぜなんだい? まさかあの皇太子を、偽者だなんて疑っているのかい?」
「あなたには関係ありません」
ようやく出た返答は拒絶だった。
しかし、自分の想像が当たっているのなら、当然の反応であった。
「君はまさか、アルビオンに対し害意を抱いているのではなかろうか?
 もしそうであるならば、君がルイズの使い魔であったとしても、
 今ここで成敗せねばならなくなる」
言いながら杖を抜くワルド。
ようやく、言葉が振り向いた。
「まさか。そんな訳、あるはずがありません」
柔らかい口調とは裏腹に、後ろに回した鞄をゆっくりと開ける言葉。
ワルドは、鞄の中身を知らない。
しかしそこに武器があるだろうとは承知していたし、
平民の使い魔が単身であの土くれのフーケを倒したという事は、
それだけ強力な武器であろうと判断している。
「ところでワルドさん。あなたは、ルイズさんの婚約者ですよね?」
「……ああ」
「では、ルイズさんを愛していらっしゃるんですね?」
これはつまり、ルイズの味方かどうか答えろという意味か。
ワルドは返答に困った。


幾つか、ワルドは言葉の真意を想像してある。

まず、言葉がアルビオンに対し害意を抱いている可能性。
あるいはレコン・キスタという組織に入りたがっている可能性。
これは、正直言ってありがたい。
ルイズにさえ秘している真の目的を果たすため、取り込めるからだ。
そして使い魔である彼女を取り込めば、
あの潔癖で気高いルイズを丸め込むいい道具として利用もできる。

それとは別に、ルイズへの裏切りを考えている可能性。
これはこれで利用できる。
この少女の真意をルイズに暴露すれば、さぞ落ち込むだろう。
つまり心に隙が出来、懐柔は容易になってくる。
この場合、この少女は始末せねばならない。その方が都合がいい。

別の可能性。
この少女はルイズに忠実ではあるが、それ以外を一切信用しないというもの。
しかしこれは無いだろうとワルドは思う。
騎士の正体がウェールズだと解った時点で、この少女は警戒を解いた。
例え敵意まで解かなかったとはいえど、警戒を解いたという事は、
一応ウェールズを信用したと判断していいだろう。
それにルイズにのみ忠実であるなら、彼女にとっては突如現れたルイズの婚約者、
すなわち自分に対しもっと警戒していいはずだ。
魔法学院からここアルビオンまでの旅路、
彼女はワルドを敵視するような素振りは見せなかった。
ルイズがワルドを信頼しているから、彼女もワルドを信頼してくれたというのは無い。
ルイズがウェールズを信頼した時点で、彼女はウェールズを信頼しなかったから。
だからこの可能性は無いと考えていい。
否定する材料はもうひとつある。
ラ・ロシェールの街で彼女は、ルイズと自分に隠れて、土くれのフーケと会っていた。
ワルドがこの事実を知っている事を、彼女もフーケも、ルイズも知らない。

果たして、この使い魔、コトノハの真意は如何に?
それによって、己の返答も変わってくる。


「どうなんですか。婚約者なんですよね? だったら愛しているんでしょう?」
「……ああ、僕はルイズを愛している。この気持ちに偽りはない」
彼女がルイズの敵であるならば、それを明らかにし排除すればいい。
彼女がアルビオンの敵であるならば……。
「そうですか」
言葉は安心したように微笑んだ。
(ルイズへの裏切り行為……フーケと密かに会っているが、
 ルイズ自身を敵視している訳ではないという事か?)
判断材料が足りない。下手に突いてやぶ蛇になっても厄介だ。
口封じは容易いが、今はアルビオンの城の中、疑惑の目は避けたい。
しかしこの使い魔の少女自体がイレギュラーとなりかねない。
だったらと、彼は訊ねた。
「君はラ・ロシェールの街外れで、土くれのフーケと会っていたね」
言葉の双眸がわずかに細まる。
「何の……事でしょう?」
「土くれのフーケ……どう脱獄したかは知らないが、手引きした者がいたはずだ」
その手引きを自分がするはずだったと、ワルドは言わなかった。
手引きをして、スカウトするつもりだったのに、何者かが先にフーケを解放した。
「何を企んでいる。返答次第では――」
「私の邪魔をするというのなら、貴方でも容赦しません」
言葉の手が鞄の中に沈む。
「土くれのフーケと組んでいるという事は、王党派は敵……か?」
ワルドは、事前調査してあったフーケの正体、
アルビオン王家によって貴族としての地位を追われた元貴族である事を思い出し、訊ねた。
「ルイズを裏切ってまで、君は何をしようとしている」
その目的によっては、取り込める。
「……私はただ……誠君を生き返らせたいだけです」
言葉はチェーンソーを握り締め、鞄から取り出そうとした。
土くれのフーケとの件を知られてしまったのなら、もうここにはいられない。
ワルドを倒し――殺しはしない、彼には役目がある――ウェールズの首を取り、
レコン・キスタに行きクロムウェルに会わねばならないのだから。
だから、ワルドには悪いが、治療で助かる程度の、しかしこの場から動けなくなるほどの、
重傷を負ってもらわねばならない。
鞄から、チェーンソーを、しかし、その直前、ワルドが言う。
「ならば私達は手を取り合える」


言葉の目的を理解したワルドは会心の笑みを浮かべた。
「なるほど、君は生き返って欲しい人がいる。
 そして、人を生き返らせるなどという魔法を使える者はこの世にただ一人。
 虚無の担い手、クロムウェル。
 しかし『生き返らせてください』と頼んだところで、
 いちいち聞いてやるほどクロムウェルは暇ではない。
 そこで! 願いを聞き入れてもらえるだけの手土産を持っていけば……。
 それほどのものといえば、皇太子の首など、さぞ喜ばれるだろう。
 警戒を解いて尚、敵意を解かなかった理由は、それだね?」
見抜かれた事ではなく、手を取り合えるという発言が、言葉の手を止めていた。
いつでもチェーンソーを起動できるよう言葉は身構えたまま、話を聞く。
「ふふふっ、それは主であるルイズを裏切ってでもかなえたい願いと見える。
 だったら話は早い。その願い、私がかなえよう」
「……貴方が?」
「そうだ。君が私に協力してくれるなら……私は君を、クロムウェル様に会わせよう」
「……レコン・キスタ……? 貴方はレコン・キスタの方? ……裏切り者?」
「裏切り者はお互い様だろう、ミス・コトノハ。
 君がフーケと共に私の側について、私の任務に協力してくれるのなら、
 私がその功績をクロムウェル様に報告し、
 マコト君とやらを生き返らせてもらうよう頼んで上げるよ」
「……貴方の、任務は?」
「ウェールズ皇太子の持つ手紙の入手。ウェールズ皇太子の命。この二つだ」
「……そうですか。では、ルイズさんはどうするおつもりですか?」
「もちろん連れて行く。彼女は私の愛しい婚約者だからね、説得するよ」
「………………解りました。ワルドさん、貴方に、協力しましょう」

言葉は思っていた。
ルイズを裏切り、レコン・キスタに行き、クロムウェルから指輪を奪おうと。
しかし、しかしこれなら。
ワルドに協力するならば。
レコン・キスタに行き、誠を生き返らせてもらい、また一緒にいられる。
そして。

戸が開く。ノックもせず入ってきたのは、ルイズだった。
向き合っているワルドと言葉を見て、眉をひそめる。
「ただいま……。ワルド様、コトノハ、どうかしたの?」
「いいえ、何でもありません。ちょっとお話をしていただけです」
「そう?」

そして、ワルドがルイズを説得してくれるのなら。
ルイズも共にレコン・キスタへ行ってくれるのなら。
誠だけじゃなく、ルイズとも、一緒にいられる。
あの日見た――もう忘れてしまった、けれど幸せだった夢が現実となる。
だから。

第12話 悪魔のささやき



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