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白州纐纈城 二

「お姉さま! 早く行きましょ! おなかがすいたの! おにく おにく!」

ガリア王都リュティス。人の群れでごった返す町並みを、
青髪の少女がふたり、連れ立って進む。

「でも めずらしいのね 普段なら 真っ直ぐお屋敷に帰るのに?」
そう言ったのは、件の風韻竜、シルフィード。

タバサは普段、人前でシルフィードに人語を喋る事を禁じている。それが彼女には苦痛である。
と言って、人里に降り立つ度に、いちいちシルフィードを化けさせるのも煩わしい。
自然、城下での買い物は最小限とし、寄り道もせず目的地へ向かうのが常となっていた。

タバサは無言で進んでいく。
彼女の目的は、先の任務中に出くわした『異変』に対する情報の収集である。
ガリアで北花壇騎士の勤めを続けていく以上、いつ又、先の怪物と遭遇するか分からない。
いや、状況によっては、今後あの化け物を追討を命令される可能性も少なくはないだろう。
哀れなセレスタンと同じ轍を踏まぬためにも、少しでも異変の正体に繋がる手がかりが欲しかった。

-と、
不意に、むわっとした靄の中に全身を包まれるような感覚に、タバサの意識が引きずり込まれる。
むせ返るような血の臭いが鼻腔を襲う。先の湿地で味わったのと同じ、例えようのない違和感。意味不明な焦燥。

「お姉さま?」

タバサの尋常ではない様子にシルフィードが問いかける。
いつしかタバサを包む靄は去り、平穏な日常が戻っていた。

タバサは暫くの間、キョロキョロと辺りを見回していたが、ある一点で目を留めた。
後方、ひょこひょこと片足を引き摺りながら歩いていく、行商人風の背中。
平和な昼下がりの雑踏の中にあって、その男だけが妙におかしい。
胸騒ぎがタバサの本能に訴えてくる。
先の感覚は、すれ違いざまにあの異形から感じ取ったに違いあるまい。

「食事はおあずけ・・・!」
使い魔の抗議も聞かず、タバサが踵を返す。
食事時の繁華街、人波を掻き分けながら、何とか異形を追いかける。
行商風の男は、まるで手品のようにひょこんひょこんと人の間をすり抜け、みるみる小さな点になっていく。
やがて、男が小さな路地へと消えていく。ややあって、タバサが追う。

男の姿は既にそこには無い。路地の先は、高い建物に囲まれた袋小路であった。

人並みに揉まれる使い魔の声を遠くに聞きながら、タバサは町に留まる必要を感じていた。



異変はその日の夜、王宮で起こった・・・。


紅一色の視界
白骨の玉座
屍体と肉片の折り重なった島
膝まで覆うぬるりとした赤黒い大河
死臭、獣臭、腐臭、血と汗と糞尿のにおい・・・

私の手にはずしりとした無骨な斧。死刑執行人の使う、首を斬るためだけの斧。
目の前にいるのは、両手両足を絶たれ、地虫の如く這いつくばった・・・私。
涙と鼻水を垂れ流し、金魚のように何事か口をパクパクとさせている顔。舌が無いので命乞いもできない。
一息に、脳天を唐竹割りにする。滑稽にも、真っ二つになった顔面に突き刺さる斧。

同時に腹部に熱いものが走る。見覚えのある下半身を残し、私の体が仰向けに転がる。
間をおいて、鮮血を噴水の如く噴出しながら半身が崩れ落ちる。臍の下から桃色の紐がこぼれる。
目の前にいたのは、涙と鼻水を垂れ流し、歯を食いしばって大剣を振りかぶる・・・私。

腕が跳ね、脳漿がこぼれ、目玉が飛び出し、串刺しになり、喉を絞られ、杵で潰され、首が舞う。
殺すのも私、殺されるのも私。
殺して殺され殺して殺され殺して殺され殺して殺され殺して殺され殺して殺され殺して殺され殺して殺され殺して殺され殺して殺され

「ここは地獄だ! 地の池地獄! 無間地獄! 私は何度殺せばいい! 私は何度殺されるんだ!」

只一つ、最後にボウガンで貫かれたのだけは私ではなかった。

私と同じ、青い髪をした少女であった・・・。


プチ・トロワの主、ガリア王女イザベラはそこで目を覚ました。

寝汗がぐっしょりと全身を濡らしている。
頭を振るい、鉛のように重い半身を起こす。窓の外には、未だ双つの月が爛々と瞬いていた。

―権力者の歴史とは、陰惨な血に裏打ちされた、謀略と暗殺の歴史である。
ハルケギニア随一の大国であり、同時に多くの貴族を抱え、門閥を築いては有史以来政争に明け暮れていたガリアでは殊更であった。
イザベラの父、ジャゼフ一世からして、即位の折、有能なる自らの弟を排除することで、現在の地位を磐石なるものとしたのだ。

あるいは先程の夢は、ガリアの王族に流れる血の記憶が紡いだものではないのか?
イザベラがそんな埒も無い発想を抱いたのは、夢の最後、自らの従兄弟に突き刺さった矢の由来を思ったからである。

―ふと、イザベラが室内の違和感に気づいた。
部屋の中央、血で染め上げたように紅い反物が転がっている。
どこかで見覚えのある・・・ そう、昼間の行商人が売りつけていった物だ。
普段ならば下賤の品物と思い、買い求めたりはしない彼女であったが、
その時は丁度、任務に失敗して戻ってきたガーゴイル娘を散々っぱら罵倒した後で、エラく機嫌がよかった。
またその布に、どこか得体の知れない、突き放しがたい魅力があったのも事実である。

―と、思考を巡らすイザベラの眼前で、反物が突如、ころころと転がりだした。
大きく伸びた布の先端がふわりと浮いて、見えない空中の何かへ、しゅるしゅると巻きついていく。

「イ・・ザベ・・ラ・・・ イザベラ・・」
「・・・ッ!?」

紅い布のカタマリが、何事か人語を喚く。
地の底から響くような、人間とは思えぬ低い声、にも関わらず、イザベラははっきりと声の主を直感した。

「わがむす め・・・ アルビオ・・・コイ・・・白の クニ・・・ 纐纈城・・・」
「父上ッ!?」
イザベラが駆け寄る。
途端、布は重力に引かれてストンと落ち、単なる反物へと還った。


「お父上はご病気なのでございます。」

突然、部屋の隅から聞こえた声にイザベラが驚いて振り向く。
そこにいたのは、片足の悪い、件の行商人。

「な ん・・・病気?」

「纐纈布に惹かれましたな 地獄を夢に見ましたな 血の記憶を辿りましたな
 長上長上 さあ 白の国へ・・・纐纈城へと参りましょう」

ひょこり、と男が動く、あわせてイザベラが後ずさる。

「白の国・・・アルビオン? それにコウケツ? 貴様は何を言っている!?」

「私は御城主様の お父上の使いの者です 
 御城主様の病を治すため イザベラ王女にご足労願いたいのでございます」

「ふざけるな! 下賤の輩がッ! 一国の王女の寝室に踏み込んだばかりか 父の名を語ろうとは!
 ここで私が成敗してやるッ!」

そう叫ぶと、イザベラは机に置いてあった杖を拾い上げる。

「成敗? 成敗!? ハハハ それは困りますな
 やむを得ませぬな アルビオンにお越し願うのは 一部だけということで・・・」

ひゅん、と何かがイザベラの眼前に飛んでくる。
イザベラは咄嗟にのけぞり、無様に尻餅を付く。 なにものかは脇の窓硝子を叩き割り、男の元へと戻る。
つ・・・、とイザベラの頬を紅い粒が伝う。

イザベラを襲ったのは腕である。3メイルはあろうかという細長い腕が、男の右肩から、新たに一本にょきりと生えていた。

「ご病気を癒すのに欲しいのは 薬の材料だけでございます。
 あなた様のキモを頂いて ヒッヒ! 新鮮な内に纐纈布へとくるんで持ち帰ると致しましょう」

「ヒッ・・・ この バケモノめ!」

イザベラが部屋を飛び出す。叫び声をあげながら長い廊下を駆ける。
足がもつれ、幾度と無く転倒する。 ひょこん、ひょこんと三本腕が後ろから迫る。

「誰か・・・ 誰かいないのか!?」
四つん這いで、転がるように階段を下り、広間の扉を必死の形相で押し開く。


扉の先は、夢の続きであった。


床一面を覆う、真紅の絨毯。
苦悶の形相で首を捻じ切られた兵士。
前衛芸術のように、無造作に床に投げ捨てられた侍女たちの部分。
混ざり合い、あちこち転がされてどれが誰のか判別もつかない。
死臭、獣臭、腐臭、血と汗と糞尿のにおい・・・

現実感を喪失した光景を前に、イザベラが立ち尽くす。
一方で、彼女の中の冷静な部分が、彼女自身を罵倒する。

しっかりしろ! この程度の事で呆けて動けないだと! それでも一国の王女か!
役立たずの給料泥棒どもは死んだ! 不従順な女どもも死んだ! それがどうした!
化け物が一段一段 階段を下りてくる音が聞こえないのか!?
大体お前は奴らの事が大嫌いだっただろうが!
意思も無ければプライドもなく ビクビクとこちらの顔色を伺っては追従の笑いを浮かべる!
それでいてお前がいなくなれば容赦無く陰口を叩き 何かと従兄弟の肩ばかり持つ!
数分前まで 一緒になっていじめていた共犯者であるにも関わらずだ!
あんな奴らは死んで当然! お前は違うだろイザベラ とっとと我に返って足を動かさないか・・・!


二階に到着した三本腕が見たのは、広間の中央で立ち尽くすイザベラの姿だった。

「ハ ハハハ 私の事を待っていて下さいましたか 長上 長上」

「・・・・・・」

「どうなさいます? 御一緒にアルビオンまでお越し願えますかな?
 その方が五臓も新鮮でいい 
 尤も 遅かれ早かれ 首から下とはお別れせねばなりませ・・・」

「オラァッ!」
「ギョッヒャアアア!!」

厭らしい笑みを浮かべた男の顔面に、イザベラが振り向きざま、鉄仮面を思い切り投げつける。
メイジ、それも一国の王女とは思えぬ野蛮な不意打ちが直撃し、異形が叫ぶ。 鼻血が宙を舞う。

「汚らわしい化け物の三下風情が よくも私の庭で好き勝手やってくれたじゃあないか!
 女王イザベラを舐めるで無いよッ!!」




「・・・ギヘ! これは・・・ いやはや・・・ 流石はあのお方のお子様
 いいでしょう こちらも張り合いがあるってものでさあああ!!」

「フン!」

走り出そうとした三本腕の先を取り、イザベラが杖を振るう。
直後、男の両脇にあった死体の中から、二体の重騎士が飛び出してくる。

「・・・! ガーゴイル!? こんな小細工ガァ!」
両手でガーゴイルの頭部を抑えた男の眼前に、今度は壷が飛んでくる。
男が三本目の腕で叩き割る。 中の水が男の全身を濡らす。

「どうしたァ!? こんな こんな・・・なっ!?」

「舐めるで無いと言った!」

「これは・・・ こ 凍る!?」

イザベラは魔法の才能に恵まれていない。
通常ならば、対手の体を丸ごと凍らせる魔法など、行使できる筈が無い。 ただし、通常の場合なら だ。
ガーゴイルで体を固定し、全身を濡らした水が容赦なく敵の体温を奪っていく条件下でなら話は別である。

「さあ・・・! 凍れ・・・凍れッ! 凍っちまいな!」

「クハッ ハ アハ・・・ これはお見事 実にお見事! ・・・だが!」
「!? な・・・!」

男の腹から、筋骨たくましい腕が新たに二本、ずぼりと飛び出してくる。
ガーゴイルを振り払い、凍りかけた全身を持ち上げると、男は驚くべき速さで腕だけで走り出した。
魔法に集中していたイザベラに、回避する余裕は無い
体当たりを腹部に受け、息が詰まる。 視界が一瞬赤く染まる。
肋骨の折れる音を聞きながら、5メイル程勢いよく吹き飛ばされた。

「やや!? イカン! 腹を狙ってはイカンのだった!」

心底困った表情を浮かべながら、のっしのっしと男が迫る。

「王女様 ハラワタを傷つけないようにやりたいんで これ以上抵抗しないで貰えませんかね?」
「・・・殺して ・・・やる!」

イザベラが必死で杖を構えるも、視界がぼやけてマトモに動けない。
異形が長い腕を振りかぶる。

―直後、広間の硝子を突き破り、複数の氷の槍が高速で飛び込んでくる。
狙いすました連劇が、男の手足を根こそぎふっ飛ばし、更に一本が脇腹を直撃する。
勢いのままに男が真横へと転がる。

「ギャガガガガガッ! だれだ! だれがこんなヒドイ事をッ!?」

「・・・七号ッ!」

突き破った窓から、広間の中に飛び込んできたのは、北花壇騎士団の七号・『雪風』のタバサだった。

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