あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

いぬかみっな使い魔-18


いぬかみっな使い魔 第18話(実質17話)

 チェサピーク領上空で行われた事から、後にチェサピーク空戦と呼ばれる
戦いの終了後、アンリエッタは艦隊旗艦メルカトール号上で、戦勝の演説を
行っていた。戦闘前の演説と同じく、魔法で全ての艦に声が届けられている。

「皆の者、良くやった! 我はそなた達を褒め称えよう! 良く攻撃した、と!
今日はよき日である。そなた達は今日、転換点となる歴史を作ったのだ!
思えばこの数十年、トリスティンはただ攻め込まれ、守りの戦ばかりをしてきた。
外征を一度足りと行えず、領土を切り取られるばかりであった!
さぞや鬱屈が溜まっていたであろう。己が祖国を小国と揶揄することすらあった!
だが我は、本日ただいまよりはその揶揄を捨てることを宣言する!
見よ、8隻ものほぼ無傷な、見事な戦列艦を! 
他にも多数の艦艇をわがトリスティンは手に入れた!
これだけの砲艦を手に入れたとなれば、わが国はすでに小国ではない!
ハルケギニアに胸を晴れる大国である!
しかも、これは我らトリスティンの先遣艦隊のみが勝ち得た戦果なのである! 
後続艦隊が到着すれば、その力はいかほどにまでなるか!
レコンキスタ、恐れるに足らず! 鎧袖一触とはまさにこのこと! 
将兵達よ、誇れ! 胸を張れ! 汝らは強い! トリスティンに栄光あれ!」

 アンリエッタの力強い演説が途切れると、艦上の将兵達の声が唱和した。

「我らは強い!」「我らは強い! 我らは強い! 我らは強い!」
「トリスティンに栄光あれ!」「トリスティンに栄光あれ!
 トリスティンに栄光あれ! トリスティンに栄光あれ!」
「アンリエッタ王女殿下、万歳!」「 アンリエッタ王女殿下、万歳!
アンリエッタ王女殿下、万歳! アンリエッタ王女殿下、万歳!」

 遠く離れた僚艦上からも、アンリエッタを称える声が木霊のように返ってくる。
だが空の上に木霊を返す障害物などあるはずもなく、音速の壁による伝播の
時間差でしかない。全ての僚艦上でアンリエッタを称えているのだ。
アンリエッタが手を上げ、続きを話すことを示すと、唱和は潮が引くように
消え去り、静寂が戻ってくる。

「我は、このよき日に、そなた等に更なる栄光を加えることを許す!
我は今日、3度の勝利を約束する! たった一度の、まぐれの勝利ではなく、
実力による完全なる勝利を証明するに足る、3度の勝利を約束する!
 そのふたつ目の勝利は、2時間後に与えられるであろう! 
邪悪なる背教者、レコンキスタの根拠地と成り果てたスカボロー港!
我らは、これを開放するのである! 皆、急ぎ次なる戦いの準備をせよ!
終わった者より、交代で仮眠を取り、ワイン1杯とパイを食す事を許す!
次の戦いは2時間後の予定である。それまで、英気を養うのだ!」

 怒号のような歓声が上がる。まぐれではなく、実力を証明する更なる勝利!
アンリエッタの約束したものがまさに与えられたばかりの彼らは、
更なる勝利の約束に熱狂していた。

 演説の後、堂々とした歩き振りで自室に戻ったアンリエッタ王女は。
椅子に座って寛いで…もとい、茹で上がっていた。
「姫様、又顔真っ赤です。」
高空なので結構涼しい、もとい寒いというのにアンリエッタの顔は真っ赤である。
ルイズとともはねが二人して扇で扇いでいるほどだ。
「伝令や戦況監察官も含めて丸ごと拿捕の完勝を記念する、
良い演説でございました。というわけで、次はこの演説をですな。」
と啓太は計画の第5段階を姫に説明して演説草稿を渡している。隣に立った
マザリーニ枢機卿も説明を受けており、自分用の演説草稿を読んでいる。
「やだ…またこんな恥ずかしい演説を!?」
説明する啓太にぼやくアンリエッタを、難しい顔のマザリーニが諭す。
「人の上に立つ者の仕事の一つにございます。おあきらめ下さいますよう。」
「で、でも。」
先ほどの演説も本当に恥ずかしかったらしく、アンリエッタは抗弁する。
戦闘開始前の演説においても、アンリエッタは茹蛸になっていた。
椅子に座っていれば大概の船員に見えない角度だったのは勿怪の幸いであった。
「啓太殿の言うとおりですな。これが一番効果的です。」
「おお、お分かりいただけますかな、枢機卿殿。姫殿下、ご理解ください。
王族には将兵を守り、聡し、導き、時には操る義務がございますのです。」

 かくして、アンリエッタは降伏したレコンキスタ艦に行幸した。武装を解除
され杖を奪われた貴族士官達。武装を解除され、縄をかけられた水兵達。
アンリエッタがまとうのは、啓太が貸した白銀のマント。日の光を浴びて
まるでダイヤモンドで織られたかのごとく、眩い輝きを反射するマントは、
清楚な乙女の身を飾るに実にふさわしく、アンリエッタを引き立てた。
(本当にダイヤモンド製なので当然なのだが)
その両脇に立つのがマザリーニ枢機卿とマンティコア隊隊長ド・ゼッサールだ。
啓太とともはね、ルイズなどはつつましく後ろに控えている。
上空にはいつでも降下ボーディングが可能な位置と砲撃可能な位置に
トリスティン戦列艦が並び、無言の威圧を放っている。

 レコンキスタ艦隊の主だった者と旗艦の水兵を集めたメインデッキを
見下ろすアッパーデッキ上にアンリエッタ達は立ち、演説を始めた。
多数のトリスティン水兵やメイジ達が見張りとして展開している。
その人数は、おおよそレコンキスタ4人につき1人といったところである。
彼らは安全確保の見張りのためという名目でアンリエッタ達に背を向けて
話を聞くことを命じられていた。だがそれは建前。彼らは、各担当の
レコンキスタ将兵の表情を重点して見ていろ、と言われている。


 演説の最初は、マザリーニ枢機卿だった。クロムウェルが虚無を
装うためにアンドバリの指輪を使っていること、それは始祖ブリミルの虚無を
冒涜する行為であり、レコンキスタに加担することは背教者として
異端審問にて有罪となるに充分な行為である事を知らしめた。
彼らレコンキスタの将兵に対し、レコンキスタの背教行為を説明したのだ。
(この時、ロマリア教皇の怒りに触れるで“あろう”等と推測形で言っている
だけであり、嘘ではない)

 ついで、ド・ゼッサールが説明し、アンドバリの指輪を使って
心を操る事によって主だった武将を反乱させたクロムウェルの行為を非難し、
操られた上官ゆえに従っていたと考えるものは後で名乗り出よと伝えた。
同時に、突然思考を翻し、操られたと思しき者達の情報提供を呼びかけた。

 最後にアンリエッタが、アルビオン国王の姪として救援に来たこと、
このままでは連合軍によってレコンキスタとその支配地域が
蹂躙されるであろう事、その前に素早く反乱を鎮め、アルビオンを荒廃から
救うために、アルビオンを思うものたちは協力して欲しいと訴えた。
(このままだとトリスティン以外が食指を伸ばすだろうから嘘ではない)

 最初に前に進み出たのは、一人の艦長だった。
「レコンキスタ艦隊重巡洋艦ワシントン艦長サー・ヘンリー・ボーウッド
にございます。私は上司の命令で仕方なくレコンキスタに組していました。
同時に、ロンディニウムの監獄塔に仲の良い同僚や部下達を囚われ、
彼らを人質代わりにされて従ってきたのです。アルビオン王党派よりの立場
だったが故に囚われた、頼もしく頼りになる仲間達でございます。なにとぞ、
彼らをお助けくださいますよう。さすれば私はこの場で従いましょう。」

 救出を訴えるボーウッドにアンリエッタが問いただす。
「レコンキスタは、そなた達に具体的にどう申したのです?」
「は。レコンキスタは、我らが良く働くのであれば牢の待遇もよくなるだろう、
戦後は流刑地に送るが殺しはしない。そう約束しました。ですが。我らが
寝返ったとなれば、生かしておく理由が消えまする。時間がございませぬ。」

 深い苦悩をにじませる訴えに、アンリエッタは、にこりと笑って答えた。
「レコンキスタが約束を守っているのであれば、救出の望みはありますね。
よろしい。我が従兄弟の忠実な部下達を助けるため、出来る限りの
努力をいたしましょう。代償はレコンキスタを叩き潰すまでのそなた達の忠誠。」
アンリエッタは、ついと片手を差し出した。
ボーウッドは、うやうやしくアンリエッタの手に接吻した。
怒号のように歓声が沸き起こる。この瞬間、アンリエッタは
レコンキスタ艦隊将兵の半分の心を掴んだ。





 次に名乗り出たのは、フィッシャー砲術長だ。
「私はジョン・アルバスノット・フィッシャー砲術長。どうにも我慢ならぬ
事これあるにつき、恐れながら申し上げたく存じまする。
これを解消していただけるのであれば、姫殿下に忠誠を誓いまする。」

「聞きましょう。どのような不満なのです?」
「ありがたき幸せ。当艦隊には、無能なる将校が数多くおりまする。
中にはレコンキスタ万歳と真っ先に叫んだだけの理由で下士官から副艦長に、
よいですか、下士官から副艦長に昇進した者までおるのです。
このような暴虐非道、天の道理をわきまえぬ人事は、断じて我慢できませぬ。
しかし、レコンキスタに不満を漏らせば牢に入れられ、あるいは降格され
己の部下の中から選ばれたものが後釜に座るだけであるため、仕方なく
従っている者がなんと多いことか! 正当なる人事。これを望みまする。」

「そなた達の不満と鬱屈、確かに聞き届けました。」
 そういって、アンリエッタは居並ぶものたちを見渡し、宣言した。
「レコンキスタによって不当に地位を貶められたもの、不当な上司を
あてがわれたものは申し出るように。見張りの者達が多くいるはずゆえ、
それらに申し出ればよい! 正当なる人事が、直ちに行われよう!
ふさわしい者が遠き牢に囚われ、空いているポストは今は代理を立てよ!
近いうちにそのポストにはふさわしい人物が就くであろう!」
またも歓声が爆発した。アンリエッタの指示は、救出された上司や同僚が
帰ってくる事を意味していたのだ。

こうしてアンリエッタは、残る5割のうち、4割の心を掴んだのである。

 これらの話の間に、レコンキスタ将兵はじっくりと観察されていた。
観察していたトリスティン将兵達は、危険そうな者、反抗的な者、
レコンキスタに組して昇進していた者達等を分別して船倉に追いやり、
残る信頼できそうな者達を本来の地位そのままに使用したのである。
 無論、メイジの杖は取り合えげられていたし水兵の武器も取り上げられていた。
見張りのために、戦列艦に降下した魔法衛士隊員を中心とした
一群が乗り込んでもいたが、他は以前とほとんど変わりない。
信頼され慕われている副艦長などの人事が以前に戻った事を含めれば、
さらに変化は乏しく見えた。しかし、その所属と行動原理はまさしく正反対
となっていたのである。このあたりは、組織というものの長所であり欠点だ。
上に立つもの次第でその性質はいかようにも変わる。
だからこそ人事権を握る事が組織を握ることに等しくなるのである。

 レコンキスタの対トリスティン艦隊序列2位の重巡洋艦ワシントンは、
艦名を昔のヴァンガードへと戻した。サー・ヘンリー・ボーウッドは
艦隊指令代理となり、旗艦機能はニューヤーク改めタイコンデロガから
ヴァンガードへと移った。慣れた艦のほうが、指揮に集中できるからである。
“アルビオン親征艦隊”指令兼ヴァンガード艦長となったボーウッドは、
アンリエッタの命ずるままの通信をスカボローにと送っていた。
通信筒を運ぶのはレコンキスタ軍の制服を着たトリスティンの竜騎士である。
道案内として杖を預かられたアルビオンの竜騎士が先導する。
スカボロー港の所定の場所へ無事通信筒を届けた竜騎士達はそのまま艦隊に
とんぼ返りする。通信の内容は、平たく言うと

「現在艦隊指令方が負傷されたため、本官が代理で通信を送る。
トリスティン艦隊と行動を共にしていたガリア艦隊がスカボローに
向かっているので迎撃を求む。現在我が艦隊はトリスティン艦隊の掃討中にて
追撃不能。ガリア艦隊は民間船を装っているので注意せよ。航路は(後略)」

 というものである。直ちにガリア艦隊を迎え撃つために、
スカボロー駐留艦隊が出撃した。偽の情報に合わせた航路をたどって。

 それからしばらくして、次なる通信筒が届いた。平たくまとめると
「無事トリスティン艦隊を撃退するも相応の被害を受けたため緊急に修理と
補給の必要あり、比較的近い貴港にて修理を求む。準備を整えられたし。」
というものである。

 “アルビオン親征艦隊”には、アルビオン水兵服を着込んだ多数の
トリスティン陸戦隊が乗り込んだ。同時に、トリスティン艦隊からもたらされた
多くのうまい食い物…アルビオンの食事は食えればいいという程度で、
他国人からはうまい食材をわざとまずくする調理していると評される…と
うまいエールを与えられてご機嫌で協力を約束した元レコンキスタ陸戦隊とが
いまや遅しと出撃準備を整えていた。目指すは、スカボロー港である。

 大破もしくは中破したスループ船やフリゲート艦を
曳航した“レコンキスタ艦隊”が入港してくると、世界樹の枝には多くの
港湾労働者が群がり、接岸作業に入る。ほぼ全ての接岸作業が終わる頃、
一部の者達が疑問を感じた。艦隊司令部に向かった者達以外、誰も降りてこない。
その事を聞くと、一様に「取り逃がしたトリスティン艦隊が残っていて
こちらに破れかぶれの奇襲を仕掛けてくるかもしれないので下船禁止だ。」
との答えが返ってくる。
そんなものか? と納得していた彼らは目をむいた。
高らかに艦隊司令部のほうから鳴ったトランペットの『いざ切り込む時だ』
の曲と共に、するするとレコンキスタ旗が降ろされ、かわりにアルビオン旗が
掲げられたのだ。


 同時に、多数の陸戦隊が整然と上陸を始めた。
アルビオン水兵のように、あまりに数の多い下級兵士は、レコンキスタ専用の
制服というものを与えられていない。そこまで大量の制服の発注が
間に合わず、また反乱によってころころと所属が変わるたびに制服を与えるのでは
どうにも対処が難しいからである。よって、新規に制服を与えられたのは
レコンキスタ士官達である。艦の中から走り出て陸戦隊の前に出た士官達は、
一様にトリスティン艦隊の士官服を着ていた。

 港湾労働者に彼らを止められるはずも無く、止める理由も無い。
港の戦力のほとんどは“ガリア艦隊”が向かっているので迎撃されよ、
との偽情報で出払っており、まともな防衛行動は不可能だった。
スカボロー港艦隊司令部には、充分な数の魔法使い達が到着しており、
そのままあっさりと制圧された。そこに、無傷のトリスティン先遣艦隊が接近。
ほぼ無血で、スカボロー港は落ちたのである。味方が血の一滴も流さない、
完全勝利であった。

 陸戦隊を下ろしたトリスティン艦隊とアルビオン親征艦隊は、
一路東を目指した。そちらに、第3の獲物が待っているのである。

 レコンキスタ、タイン陣地艦隊総司令部にて、サックス・コーバーグ・
オブ・サウスゴータ(マチルダの叔父)は、はなはだ不穏当な報告を聞いていた。
「な、なんだと! 対トリスティン警戒艦隊が消息を絶った!?」
「は! スカボローにトリスティン艦隊と行動を共にしていたガリア艦隊が
向かっているので警戒するように、敵は民間船を装っているので注意せよ、
との竜騎士の通信筒による報告を最後に消息を絶ちました!」
「くっ! そういえばスカボローからの情報では!」
「スカボローからは、敵艦隊がこちらに向かっているとの情報を得たため
迎撃後タイン陣地に向かう、ついては集結に遅れるので許されよ、
との伝令が来ております!」
「うぬ、ガリア艦隊が来るはずが無いなどと! サイトとかいう新参者の
言を信じた我が馬鹿であったわ! 複数から発見情報が来ているではないか!
こちらは数で押しているのだ、余計な介入さえ排除すれば充分地上戦で
勝てるというのに、艦隊を移動させてしまったせいで対処しきれん!」

 詳しいアルビオンの切り抜き地図と、ハルケギニアの地図が重ねられた戦況卓。
アルビオンの地図は、時間に従ってハルケギニアの地図上を移動させられる。
その地図上には、いくつものレコンキスタ艦隊の駒が移動中を示す
マーカーと共に置かれている。どれもタイン陣地に向けて移動中であった。
移動中ということは遊兵化している、という意味でもある。
今現在は、敵と戦うことも警戒のため即応体制にも無いということ。
港に駐留している場合と比べて、片方の場所の特定が難しいため
情報の伝達も困難になる。 まさにそのタイミングを狙ったかのように、
敵が連携して同時攻撃を仕掛けてきたように見える。

「まさか敵の狙いはこの状況で叩くことだったのか!?
だとすれば一体何箇所で我らが艦隊が攻撃を受けているかわからん!
くそ! 私はクロムウェル閣下に報告してくる、ここを頼むぞ!」


 この世界に通信機はない。ある種の強力なマジックアイテムを使って
遠距離即時通話が可能な場合もある、という程度の世界である。
当然ながらほとんどの情報は自分でおもむくか、あるいは伝令などを使うしか
集める手段がない。集めた情報は移動にかかった時間の分だけ古いものである、
ということを考慮して使用する必要がある。
タイン川沿いのレコンキスタ本陣で大騒ぎが持ち上がっていた頃、
ガリア船団はレコンキスタ艦隊の接近を確認していた。

 ガリア『艦隊』ではない。ガリア『船団』である。
彼らはラ・ロシェールで異端船拿捕が始まる寸前までに出航した連中である。
啓太が意図的に選別して出航許可を与えるよう指示した船団だ。

「このリスト見るとずいぶんガリアの船が多いな?」
 先日、啓太の私設秘書団の一人と化したレイナールの報告書に、
啓太は疑問を呈し、いくつかの説明を受けた。
「それはもう、戦でもっとも必要なのは火の秘薬、硫黄だからね。
アルビオンには硫黄のまともな鉱山が無くて、買い入れるしかないんだ。
ガリアには火竜山脈という火山地帯があって、良質の硫黄を産出する鉱山が
たくさんあるんだ。なんでもレコンキスタは黄金並みの値を硫黄につけて
買いあさってるそうだよ。」
「なんだと!? 詳しく話せ! というか、詳しい奴は根こそぎ呼んで来い!」
啓太は、ほんの10分の情報収集と指示で、この作戦を展開した。
だが、本当に重要なのは、非常に有効なこの作戦の立案ではなかった。
それについては、後に説明するとして、今は『ガリア艦隊作戦』を追おう。

 商船の選別条件は、ガリア船籍でガリア人傭兵や戦略物資を運び、
船足が同じくらいで特定の同じ港、この場合スカボロー港、が目的地であること、
少しは武装していること、なおかつガリア王直轄商船もしくは異端容疑で脅して
大金をふんだくるのが難しいバックを持つ船、といったものである。
(ようするに、ガリア王ジョゼフに打撃を与えられそうな船)
これらを、「軍事訓練の都合上この時間帯しか出航を許可できない、
次は3日後だ」と通達して同じ時間帯に出航させ、「空賊船が出没しているから
なるべく固まっていったほうがいい」と“忠告”してあたかも一つの部隊として
統制されているかのごときまとまりを持った船団としてしまったのである。

 啓太の出した偽伝令によって疑心暗鬼となっているレコンキスタ艦隊は見た。
通常はばらばらに出航してばらばらにアルビオンに向かう商船団のはずが、
一塊になってスカボローを目指している。掲げる旗は全てガリア国旗。
偽装したガリア艦隊が来た、と誤解させるに充分であった。


 しかも、接触の少し前にガリア船団を守るかのように風竜隊が出現した。
先頭を駆るのは、小型の風竜に乗った、青い髪の少女だ。
「良いか、皆の者、この戦いの目的は敵に打撃を与えることではない!
攻撃を受けたという事実を作ることこそが目的である! 
必要の無い戦闘で一騎なりと部下を失うことを私は好まない! 
皆、生きて帰る事を至上とせよ! 攻撃、開始!」
啓太に入れ知恵された無口なはずの“シャルロット王女”が
長口上で檄を飛ばすと、制服を定めず思い思いの飛行服に身を包んだ
風竜隊がレコンキスタ艦隊…の周りを哨戒する竜騎士隊に襲い掛かった。
わずか数分の攻撃。というよりも、かなわぬまでも襲い掛かったが
あっというまに追い返された、とでも言うべき戦闘。
双方とも被害は無く、逃げる竜騎士隊の追撃も、
「深追いするな、ガリア艦隊におびき寄せる罠だ!」
とすぐに止められる。彼らの逃げる先に、遠く“ガリア船団”が見えていた。

 ガリア船団には、多くのガリア傭兵が乗り込んでいた。高い賃金を払う
レコンキスタ軍に雇ってもらうために乗り込んでいるのだ。
傭兵達は、船員達の邪魔にならない甲板上で、思い思いに寛いでいる。
それは、どう見てもガリア軍艦の陸戦隊にしか見えなかった。

 当然ながらレコンキスタ艦隊は問答無用で“ガリア艦隊”を攻撃した。
商船団である、との旗流信号も無視された。しかたなく自衛用のわずかな
大砲で反撃する船が続出したが、レコンキスタの誤解を深めるだけである。
“ガリア艦隊”は蹴散らされ、ほうほうの体で逃げ散ったのである。

 レコンキスタ艦隊が誤解と気づいたのは、完全に“ガリア艦隊”
を蹴散らしてしまった後だった。こんな報告をタイン本陣に送れるはずもなく、
艦隊指令はこのように報告した。

「わが艦隊は卑怯にも商船団に偽装した有力なるガリア艦隊を発見。
竜騎士隊ならびに大砲での攻撃を受けるも撃退、戦闘用スループ船3、
戦列艦1を撃墜、陸戦隊多数を殺傷。他国救援艦隊に補給のために
随行したと思われる輸送船多数を撃破・もしくは拿捕せしむ。」

 ガリア船団の船員達は当然帰った後にレコンキスタの海賊行為を語り伝えた。
これはガリア(国王ではなく)王国とレコンキスタの間に大きな溝を作り、
ラ・ロシェールを使用する商人達の対レコンキスタ感情の悪化を招いた。
レコンキスタ陣営に存在しないはずのガリア艦隊の来襲をしらしめて
ガリアとトリスティン以外の艦隊の実在を信じさせ、弾薬や風石の射耗を強要し、
兵員を疲労させ、拿捕船と言うお荷物を押し付けて動きを鈍くし、
レコンキスタ艦隊を誘引してアルビオン軍への攻撃に参加することを阻止し、
レコンキスタへの今後の補給を阻害した。豊富な資金を持ち硫黄を黄金並みの
値段で買い取るほどだったレコンキスタへの荷が止まったことにより
軍需物資の値段が暴落、トリスティンの物資調達が楽になるだろう事もあろうか。

 かくして、なんら腹の痛まない作戦により、啓太は多くの戦果を得たのである。
だが、最大の目的は、一時的に敵艦隊をスカボローから離れさせ、
その後良い位置で彼らを補足、撃破する絶好の機会を作ったことだろう。


 夕方、ガリア船を曳航してスカボローに帰ってきたレコンキスタ艦隊は、
アルビオン親征艦隊と“黒色枢機卿艦隊”の十字砲火とボーディングにより、
実にあっさりと撃破され、降伏もしくは逃亡したのである。

 トリスティン艦隊ではなく、“黒色枢機卿艦隊”によって、である。
啓太は、素早く取り付けられる支柱と畳1枚分程度のベニヤ板を多数組み合わせ、
艦のメインデッキの舷側近くに斜めに板を張り巡らせるプレハブ方式の
偽装装甲を施した。通常の船に翼をつけた艦形のトリスティン艦隊は、
それだけで飛行船型をした新式の船に(少しだが)形が似る事になり、
印象ががらりと変わる。さらに、メインデッキに張り巡らされた
偽装装甲板には両舷にいくつもの砲撃口が開いており、大砲が設置されていた。
ただの大砲ではない。木砲である。これは木製の大砲で、威力も弱く、
砲身の寿命も短く、単なる数合わせに使用されるものであるが、
軽く簡単に作れるのが利点だ。表面を青銅に錬金し、黒い塗装を施したので
傍から見る限りは本物に見える。これで、外形上はまるで別物である。

 さらに艦名を記した銘板をロマリア艦隊風のものに交換させ、ロマリア国旗と
枢機卿旗、司教旗、司祭旗などを掲げさせ、マストにブリミル紋を
白く染め抜いた黒い帆を上げさせたのである。船体は黒くタールで塗らせた。
トリスティン艦隊も腐敗を防ぐためタールを船体に塗っているが、船体に一筋
白い線を描いており、それが視覚的特徴とも言える。その部分を黒く塗らせたのだ。
これは、枢機卿自らが座上する旗艦を持つ場合だけに許される艦隊の特徴だ。

 ちなみに、法的には枢機卿が率いる艦隊ならどれでも黒色枢機卿艦隊となる。
しかし、枢機卿自身が個人として艦隊を持つことなどありえず、
前例から言って必ずロマリアの教皇聖下の命でロマリア艦隊から抽出される。
そこを突いたのである。しかも、ロマリア人司祭達が、各人金貨1枚で
“トリスティン艦を雇い、自分の配下とした”のである。命令は唯一つ
「マザリーニ枢機卿の命令に従え。」
こうして、形の上からはロマリア人の私設艦隊となったトリスティン艦隊は、
慌てふためくレコンキスタ艦隊を夕日の薄暗い光の中蹴散らしたのである。

 レコンキスタ本陣に最後に届けられたのは、陥落寸前のスカボロー港からの
報告とスカボロー駐留艦隊が逃走後によこした報告である。それによると、

 トリスティン艦隊を警戒しいていた艦隊はあっさりとトリスティンに
拿捕された、もしくは寝返ってスカボローを襲い、ガリア艦隊は
撃破されたものの実在し、ロマリアの黒色枢機卿艦隊が現れて我がほうの艦隊を
蹴散らしたため再集結しているかもしれない。
トリスティン艦隊はスカボロー出航後行方がわからず、
ゲルマニア艦隊は目撃情報があるにもかかわらず所在がつかめない。

 レコンキスタは戦慄した。明らかに、連合艦隊が来て我がほうに補足されない
様に動いている、しかも、味方艦隊がいつ寝返るかわからない、と。
彼らは集結させようとした艦隊を警戒のため再び分散せざるを得なくなったのである。


 レコンキスタが接収し、司令部としている小さな村。住民はとうの昔に
逃げ出しており軍人のみが闊歩している。その村長宅には司令部が置かれ、
平賀才人に与えられた部屋は少し離れた一軒家にあった。隣には大きな納屋。
「サイト様!」「お帰りなさいませ。」「夕食になさいますか?」
「お風呂を先にします?」「それとも…ワ・タ・シ?」「ちょっと!」
「マノン、あんた昨日抱いてもらったばかりでしょ!」「今夜は私よ!」
「一人なんておっしゃらず私も!」「でしたら私も!」「私も!」
4人もの美女を与えられた才人は、相好を崩したが、一瞬後には顔を引き締めた。
「すまないが、全ては後だ。部屋に一人きりにし、盗聴されないようにしてくれ。」
 美女4人の顔も引き締まった。何度も調べているというのに改めて
調査を行い、魔法を使って調べ、2階の1室に結界を張った。
そこで才人は携帯電話で時間を確かめ、ヘッドバンドを取って
額に刻まれたルーンを露にするとひざまずき、ぶつぶつと独り言を繰り出した。

「陛下。陛下。偉大なる陛下の忠実なる僕、平賀才人にございます。
どうか、お声をお聞かせ願いたく。陛下。陛下。」
額のルーンが、淡く光る。5分ほどもそうしていただろうか。才人の顔が、喜びに輝いた。

 その頃、数日にわたる狩猟から王都リュティスはヴェルサルテイル宮殿に戻った
ガリア王ジョゼフは、部屋で一人となり、人形に向けて一人遊びを始めていた。

「おお、我が忠実なるミョズニトニルンよ。どうだ、そちらの手はずは。
もう王党派を撃破したか? なに? いまだ抵抗している? どういうことだ?
なんと、連合艦隊が!? わがガリア艦隊まで参加しているだと!?
ばかな、では、我のあずかり知らぬ連中が密かに参戦したとでも言うのか?
ふむ、それは面白い、こうまで我の思うが侭では、まったくつまらぬ。
少しは歯ごたえが無くては、ゲームともいえぬ。
なに、これでよいのか、だと?
はははは! かまわぬ、そもそも真の謀略とは、失敗したとて
己の利益となるように用意しておくものよ。
我が此度の謀略で、どれだけの物を得たのか、知っておろう!
 レコンキスタという反王家組織を表の顔として、我がガリア王国に
巣食う我に反目する者どもと接触してその実態の8割を掴んだ。
最近多い我に不満を持つものの暗躍とテロのうち、大きなものは皆事前に
思いとどまるよう誘導し、取るに足らぬ小さなテロや陰謀のみに押さえ込んだ。
 アルビオン王国の戦力を内乱で潰し合わせることによってアルビオンへの
警戒に割く戦力を削り、我に反するものどもへの警戒に回せた!
資金をレコンキスタに援助し、高値で硫黄を買わせることで値を吊り上げ、
我が所有する硫黄鉱山の価値を何倍にもし、硫黄商人たちにも膨大な税をかけて
膨大な利益を得た。その中からレコンキスタへの援助をしていたのは痛快だ。
奴らは、アルビオン貴族の領地を一つ手に入れるたび、溜め込んだ黄金を
我がガリアに流し込んでいることすら気づいておらぬ!
足りない分をまた援助してやれば、我の代理人に感謝して言うがまま。
いつでもレコンキスタを利用できる状態を維持しておる。他の国々も硫黄の
値上がりによって金を我がガリアに供給しておることに気づいておらぬ。
戦とはな、経済活動の一種だ、サイト。すなわち、我はもうすでに勝利しておる!」


「なに? それでも、できるだけ当初の予定通りに進めたい?
そんなにも張り切らずとも良いであろうに。我への忠誠のため?
サクシャとやらに弱体化される前に召喚した事への礼という訳か?
おぬしの言うことは時々良くわからぬ。しかしな、我は王党派、
レコンキスタ、どちらが勝利しようとかまわぬのだ。
 レコンキスタが勝てば、我の操る政権が誕生する。金銭感覚を破壊
してやった政権だ。すぐに破綻し、われが征服する下地となろう。
 王党派が勝てば、反旗を翻した貴族達への粛清が始まり、メイジの数を減らした
アルビオンは弱体化し、恨みと反乱の種がまかれ、我が征服する下地が出来る。
 潰しあいの末共倒れになるのであればやはり我が征服するにた易くなる。
 他の国が征服したのであれば、よほどうまく統治せぬ限り反乱の温床となる。
うまい統治などさせねば良い以上、解放者として我が征服するにた易くなるな。
いずれにせよ、我の得にしかならぬ。」

 それは、啓太の教える『リソースは少なく、常に一石二鳥も三鳥も狙うべし』
という方法をさらに1段上回る方法論であった。この段階にいたれば、
結果がどう転ぼうと失敗とはならない。成功し続ける事が可能なのだ。
失敗する場合は唯一つ。まったく予測不能な事態が起き、想定外の
方向に物事が転んでいく、という場合である。
すなわち、イレギュラーに弱いのだ。

 跪いた平賀才人は、一抹の不安を感じていた。ガリアを含む
連合艦隊が突如として救援に訪れるなど、想定外だった。
全ての宮廷で、事前に入念な誘導を仕掛けて救援するにあたわずと
世論を操作していたはずなのだ。それなのに、このタイミングでの
圧倒的な数の増援。ありえない。まったくのイレギュラーが起きている。

今後もそのイレギュラーが連鎖しないと、誰が言えるだろうか?

 無論、救援艦隊が来た以上、アルビオンは領土の一部割譲くらいは
飲まねばならないであろう。そうなれば、ガリア艦隊も来た以上、
アルビオン大陸に橋頭堡ができる事になる。レコンキスタが敗北したとて、
それはそれでめでたいことであり、問題は無いはずではあるのだが。
 才人は、意を決してガリア王ジョゼフに進言した。


「陛下。サイバインまでは必要ないでしょうが、せめてゼロの使用許可を。」


新着情報

取得中です。