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ゼロの軌跡-17


ゼロの軌跡

第十七話 タルブ村の死闘 後編


 村の各所で鬨の声が上がる中、レンは空戦力を組織して村の広場に陣取っていた。

 既に<パテル=マテル>にグリフォンや風竜を相手取って大空中戦を仕掛けられるほどの余力は残っていない。打ち落とすための弾丸の一発もなく、立ち回るための速度も出ない。

 そのために空を飛べる使い魔を持つ生徒たちを掻き集めたのだが、そもそも飛行可能な使い魔の絶対数が少ない上に、タバサほどの力を持つ者は極稀。
生徒達の多くはドットやラインであり、使い魔を持ってまだ日が浅い生徒が大半を占める。

 相手にする部隊の性質上、待ち伏せや挟撃を恃みにするわけにはいかない。
 故に、最も苦戦する部隊になることは疑いようもなかった。

「必ず二人一組で行動しなさい。それが出来ない場合は全力で逃げ回ること。自分の身の安全を第一に考えて、機会を待ちなさい」

 どうにか捻り出した苦肉の策がこれ。どれだけの効果を挙げるかは分からなかったが、何もしないよりは多少ましだろう。


 広場には何本もの篝火が焚かれ、時を待つ彼らの顔を、沈み行く夕日と相まって、赤く染めていた。
 レンの横に居るタバサの、その色素の薄い顔も例外ではなかった。いや、もしかすると戦いの緊張感に紅潮しているのかもしれなかった。いつもは眠たげに細められている瞳も、今は強い眼光を放っている。

 初めは村の入り口から、次に森に通じる林道から。そしてそれに呼応するようにあちこちで上がる喊声を聞きながらも、彼らは静かに佇んでいた。
前だけを見つめて、身じろぎ一つせず、しわぶきの音すらもなく鎮座している。
 その様子にここは僧院か何かなのではないかと錯覚しそうにもなるが、彼らがいるのは紛れもなく戦場であり、上げるのは読経の声でなく敵を打ち倒すための呪であるのだった。

 彼らには何時間にも思えた待つだけの三十分が過ぎ、そして。

「来たわよ!十騎。真っ直ぐこちらに飛んでくるわ!」

 <パテル=マテル>のセンサーを活かし、空中で見張っていたルイズが敵襲を知らせる。
 まだ十騎も残っていたか。相当数撃墜したと思っていたが。多少数の上では優位だが、それでも敵に倍するほどではない。
 レンは唇を噛んで立ち上がる。

 皆立ち上がって使い魔に飛び乗る。レンはシルフィードに乗り込んだ。幸いレンもタバサも小柄だったから、二人を乗せてもシルフィードの動きが鈍ることはなかった。

「よろしくね。タバサ、シルフィ」
「…」
「きゅい!」

 タバサは無言で頷き、シルフィードは嬉しそうに啼いた。

「さあ、行くわよ!全騎、私に続け!」

 返答の代わりに、十数騎が羽音を立てて風を切り、一斉に天高く飛び上がった。

「さあ、行け!僕のヴェルダンデ」

 百人ほどの一団が突撃してきたのを見て取り、ギーシュはそばに控えていたジャイアントモールに囁いた。頷いてヴェルダンデは地中へと潜っていく。
 放たれた魔法をどうにかかいくぐって突き進んできたレコン・キスタ兵の足元に一瞬にして大きく穴が開く。足元を掬われた彼らの頭上から七体のワルキューレが槍を降らせた。 

「グラモンの小僧、なかなかやりよるのう。同じ土メイジとしてはどうじゃ?ロングビル君」
「実戦に勝る訓練なし、と言いますわ。きっといい軍人になるでしょう」

 村の入り口付近ではオスマンらが堅牢な防御陣をひいて遅滞戦闘を行っていた。
 目の前の敵をいくら打ち倒してもその数は減らなかったが、流石は<四大>の二つ名は伊達ではなく、いくら猛攻を受けても抜かれる気配は見せていなかった。

 戦法はいたって単純なものだった。バリケードに隠れて遠距離から銃や弓、魔法で牽制する。近寄ってくる敵部隊を追い返せなくなってきたらゴーレムを呼び出して力技で押し返す。
 オスマンらは決して村の入り口から離れようとはしない。雨のように降り注ぐ魔法を受け混乱するレコン・キスタ兵に一斉に襲い掛かり、ある程度の被害を与えたら波のように退いていく。

 敵の中にもメイジは多く存在したが、オスマンやロングビル、その他の魔法学院の教師に比肩し得るほどの実力を持ったものは多くはなく、
たとえクラスの高いメイジであっても、遮蔽物のない道の真ん中で悠々と呪文を唱えるような真似が出来るはずがない。

 大挙して攻めかかろうにも狭い田舎道がそれを阻んでいた。密集すればただの的になり、散開すればオスマンらを打ち倒すほどの攻撃力が生まれない。
 手を拱いているわけにもいかず、道の両側に広がる雑木林を突破させようとも試みたが木立に足を踏み込んだ瞬間、無数の使い魔に襲われて断念せざるを得なかった。


 幾度目かの襲撃を防ぎきったオスマン、彼の元に偵察に出していた使い魔、モートソグニルが戻ってくる。その鼠がもたらしたのは朗報。聞いてオスマンはニンマリと笑った。

「例の物、用意はいいかの?」

 いつでも、大丈夫です。との答えを受け、彼は顔を引き締め号令を下す。

「煙幕弾、投擲せよ!」

 迫るレコン・キスタ兵に向けて幾つもの火薬が投げ入れられる。彼らはわずかに怯みを見せたが、ただの煙だと分かると再度の突撃を敢行する。

 しかし、彼らは白煙の中から突如現れたメイジの集団にしたたかに逆撃を受けることになった。
 一メイル先すら白く閉ざされた檻の中で一方的な戦闘が展開される。奇撃するものとされるものの隔たりはあまりにも大きい。
 視界の外から飛んできた風の針を胸に受け一人が崩れ落ちる。その隣に居た兵士は怖気をふるって逃げ出そうとしたが、土の壁にぶつかる。その壁は見る間に人の姿を取って腕を振るい彼を吹き飛ばした。

 煙が晴れる頃には、襲ってきたメイジは既に撤退を完了し、道には倒れ伏したレコン・キスタ兵が見えるだけだった。

「見事な手並みじゃの、コルベール君」
「林道は炎で封鎖しました。我々もこちらに加わります。オールド・オスマンは少しお休みください」
「では、そうさせてもらうとするか。よろしく頼むぞ」

 他の部隊が善戦する中、レン率いる空中部隊は苦戦を強いられていた。

 レン達は数で多少勝ってはいても、その質は大きく劣っていたと言ってもいい。敵騎と対等に渡り合えるのは数人だけで、残りの者は慣れない空中での戦闘にまごついていた。

 開幕早々、すれ違いざまに一騎を落としたまでは良かったが、徐々に集団としての力の差が明らかになっていくのだった。

「…このままじゃ不味い」

 タバサが懸念を口にしたが、かといって打開策はなかった。シルフィードも二騎に追われ、どうにか凌ぐのが精一杯。数だけが頼みなのに、お互いを援護し合える状況になかった。
 ルイズが上空から指揮してはいたが、この混戦ではそれに対応出来るような状況にすらならなかった。

 シルフィードを狙って放たれた幾つもの火球を地面を這うように回避する。後ろを取られたまま追い回されるわけにもいかない。懸命に回頭しようとしたが、同じ風竜に張り付かれてはそれも叶わなかった。

 味方の援護にも向かえず、後ろの二騎に反撃も出来ず、逃げ回るだけだったレンとタバサに上空からルイズの指示が飛ぶ。

「何騎かひきつけて森へ向かって!」

 簡単に言ってくれる。とシルフィードを操るのに必死なタバサは思ったが、このままでは事態は悪化するばかりだ。一か八か、やるしかない。

 大きく迂回し、敵味方入り混じって飛び交う中に魔法を放ちながら突っ込んでいく。炎が翼を掠めたが、減速せずにそのまま森に向かう。
 シルフィードを追って来るのは四騎に増えた。このままではそう長くは持たない。
 一体森に何があるのだろう。レンは疑問に思ったが、暗い森の中に見えた一点の明かりで全てを諒解する。

「タバサ、森すれすれに低く飛んで」

 見る間にシルフィードは高度を下げ、木々の間を縫うように飛んでいく。追う敵騎もそれに続く。
 密度の上がった魔法をなんとかかわし、光点を過ぎたところでシルフィードは天に向かって再浮上した。
 レコン・キスタ兵も機首を上に向けて飛び上がろうとしたが、いきなり彼らを標的として森の中から攻撃があった。

 キュルケは林道での戦闘を追えた後、伏兵として森の一点に隠れていた。レン達の部隊が苦戦しているのを見て、ルイズに合図を送ったのだ。
 成功するかどうかは分からない作戦であったが、五人程度なら保険として機能するであろうというコルベールの指示だった。

 予想外の場所からの攻撃に、上を向いていたレコン・キスタ兵達は反応できなかった。
 火球を乗騎の腹に受け、ゆっくりときりもみしながら落ちていく。尖った岩が背中を直撃し、もう一人が暗い森へと吸い込まれていった。

 しかし、残る二騎は放たれた魔法をかわし、尚もレンとタバサを追いすがる。 
 そして遂に死の爪が彼女らを捉えた。エア・ハンマーを避けきれずに空中で大きくバランスを失うシルフィード。それを見て敵兵は必殺の一撃を放とうと杖を構えた。

 避けきれない。 
 二人が思わずシルフィードにしがみついたが、彼女らを襲うはずの衝撃はなく、代わりに<パテル=マテル>からの一筋の閃光が二騎の敵兵を吹き飛ばして彼方へと消えていった。

 助かったはずのレンは歓喜ではなく、絶望的な思いを抱いてルイズと<パテル=マテル>を見やる。 
 悪手だ。それも致命的な。それだけはやってはいけなかった。

 今のダブルバスターキャノンで、既にダブルではないのだが、レコン・キスタは<パテル=マテル>に戦艦を迎撃する能力がないことを知っただろう。
 <パテル=マテル>は戦闘には加わらずとも、その砲台としての力はまだ健在であると誤魔化し続けていなければならなかった。
 しかし、出力も落ち、片方の砲身からしか撃てなかったのを見られてしまった。
 直にレコン・キスタの船がこのタルブ村へと押し寄せて来るに違いない。そうなっては勝ちの目は完全に消える。それどころか撤退することすら叶わないかもしれない。

 だが、レンはルイズに感謝はしても、責める気にはどうしてもならなかった。
 ルイズの援護がなければレンもタバサも助かってはいなかっただろうし、もしここで二人を見捨てるような真似をする人間だったら、そもそもレンはルイズといようとはしなかったはずだ。
 レンの部隊だけでは敗北は必至だった。他に選択肢はなかったと、そういうことだ。

「…今考えるべき問題はこれからどうするか」

 タバサの言葉にレンは大きく頷く。シルフィードは再びその翼をはためかせて飛び立った。
 既に残りのレコン・キスタ兵は一目散に逃げ出している。ともかくも、この場は敵を退けることに成功した。

「撤退するわ。全部隊に通達して」



「全員集まりました。どこからこの村を抜けますか?」
「村の反対側の森に、人一人がやっと通れるような小さい獣道があるわ。そこから脱出しましょう」

 ルイズ達は力の限り走る。
 十分ほどもすればレコン・キスタはがら空きになった村の入り口から押し寄せてくるだろう。その前に逃げ切り、追撃されぬように道を塞がなくてはならない。

 やっと小道が見えてきた時、先行して偵察していたタバサが顔色を変えて戻ってくる。
 皆その様子に悪い予感を抱き、果たしてそれは的中した。

「三百人ほどが向こうで待ち伏せている。この道は通れない」

 レコン・キスタの方が数は多くとも、こちらは腕利きのメイジが大勢揃っている。本来ならそれほどの障害にもならないはずだったが、この場合条件が悪すぎた。

 一人しか通れない道の出口を扼されては、先頭から順になぶり殺しにされるだけ。細く長く伸びた隊列など各個撃破される対象でしかない。
 先ほどオスマンらが村の入り口を守ってやっていたことが、今度は攻守ところを代えて再現されることになるだろう。
 そして、たった一度それをされてしまえば彼らに次はないのだった。

「どうするの?ルイズ。早くしないと敵が来るわ」
「…別の場所から森の中を突っ切る。難行軍になるけど、使い魔の助けを借りればレコン・キスタよりは早く進めるはずよ。そして、そのまま闇に紛れて逃げましょう」

 ルイズの頭に浮かんだのは、あの石碑。何故そこに行こうと考えたのか、それは彼女にも分からなかったが、逡巡している暇は一秒もなかった。

 祈るような思いで彼らは再び走る。

 しかし、目指す場所にたどり着いたルイズ達にもたらされたものは、森の奥からたちこめる煙と、木々が爆ぜる音だった。
 おそらくは、先ほど待ち伏せていた部隊が火を放ったのだろう。

 一体誰ならこの猛火の中を進んでいくことが出来るというのだろうか。

 絶望に立ち尽くすルイズ達の背後から、鬨の声と馬蹄が地を蹴る音、軍靴のぶつかり合う鋼の音が聞こえてくる。


 目の前には道らしき道一つすらなく、後ずさることは許されず。
 ルイズ達は、死に包囲されていた。



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