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ゼロのエルクゥ閑話


 隆山は柏木邸の居間には、どんよりと重く暗い空気がのしかかっていた。

「楓のヤツ、メシも食わないで部屋に篭っちまって……クソっ、何処ほっつき歩いてんだ、あいつは」

 苛立ちを隠し切れない様子なのは、次女の梓。

「今はそっとしておきましょう。たぶん、一度倒れるまではやめないと思うわ」

 長女の千鶴は、慈愛と強さを湛えた瞳を、夜の帳へと向けていた。

「楓お姉ちゃんも、お兄ちゃんも、大丈夫かな……」

 耕一をして『天使の笑顔』と言わしめた末娘の初音も、今は表情が暗い。

 楓から事の顛末を聞いた姉妹の反応はそれぞれだった。
 最初に聞かされた初音は驚きに声を失い、信じられないと暴れかけた梓を、『非現実というなら鬼などという存在の方が非現実である』と千鶴が諌め、なんとか惨事は免れている。
 あれから夜になっても耕一は戻ってこず、説明するなり部屋に戻ってしまった楓は、夕食に呼んでも自室から出てこなかった。

「梓は、すぐに楓のフォローに回れるようにしておいてね。初音も手伝ってあげて。耕一さんについては……鶴来屋の方でも調べてもらってみるけど、まずは私たちが信じてあげなくちゃ。ね?」
「うん、わかったよ、千鶴お姉ちゃん」
「言われなくてもそのつもりだよ。ったく、面倒ばっか掛けやがって」

 暗い雰囲気の中にも、そこには確かな暖かさと強さがあった。

 楓は、ひたすら自らの内に潜っていた。
 エルクゥは、意識を通じあわせる事が出来る。宇宙に進出した人類が得た精神世界のネットワークには、距離など関係ない。
 人間の脳が知覚できる限界として、距離的なものはある。東京にいる耕一と、いつでもテレパスで会話が出来るわけではない。
 しかし、存在を感じるだけならば、人の身でも可能だ。なんとなく、としか表現しようのない、気配とか、雰囲気とか、空気とか、温度とか、重さとか、そんな感覚的な、しかし確固たる"存在感"ならば、いつでも感じていた。
 そして、『それ』が『無くなってしまった』事に、楓は焦っていた。
 それは、『この空間』に彼は存在しない事を意味する。大気とか真空とか地上とか宇宙とか、そういう事ではなく、200億光年の彼方に続いていく、『空間』に、だ。

 愛しき者を喪う。
 かつては、自らが喪われる側だった。一族の掟に背いたエディフェルは、愛し愛された次郎衛門を残し、同族に殺された。
 それは、柏木にまつわる全ての悲劇の始まりであり、幼い頃からエディフェルの転生として記憶を押し付けられた楓には、忌むべき感情だった。
 エディフェルや次郎衛門の気持ちもわかるが、もう少しなんとかならなかったのか、と。

 しかし、喪う側になってわかる。これは、ダメだ。
 現実的な対処をしろ、といくら理性が訴えても、心は狂おしく暴れ、食事を求めて泣く乳幼児のように、ただ求め続けることをやめてくれない。
 それは、次郎衛門を喪ったエディフェルのものではない。
 柏木耕一を見失ってしまった柏木楓の、素のままの感情だった。
 ネットワークを伸ばし、探り。ぽっかりと空いてしまった心の穴に戻ってきてくれる『存在』を求め続ける。



 ―――その奇跡を、あえて言葉にするなら……とどのつまり、『恋する乙女は無敵なのだ』と。そういう事なのだろう。



 楓は、あまりにも細く、しかし確かに、耕一が飲み込まれたあの緑の楕円形と同じ波動を持つそれの存在を感じ取ると、意識の全てをそれに委ねた。


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