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ゼロの軌跡-14


第十四話 銃火のマドリガル


「ルイズ、あなたは<パテル=マテル>と行動して」
「何言い出すのよ!どうしてレンが<パテル=マテル>と離れなければいけないの」

 レンがルイズに告げた内容は驚くべきものだった。
 <パテル=マテル>はルイズと行動を共にし、レンは単独で戦場に出るというのである。

「レンは前線に出なければならないわ。いくら士気が高くて地の利がこちらにあるとはいえ、訓練を受けた軍人相手に戦争の素人である平民が立ち向かうのは無理だから。
 でもそれだとレンが積極的に動くことは出来なくなる。
 後方で指揮を取りつつ援護、前線が崩壊しそうになったら救援に向かう役が必要。それが可能なのはルイズと<パテル=マテル>だけなのよ」
「でも…。私、そんなこと出来ないわ」

 戦で指揮を取った経験もなければ、<パテル=マテル>を上手く動かせる自信もルイズにはない。
 それでも、ルイズ以外にその役を肩代わり出来る者はいないのもまた確かだった。

「ルイズにやってもらうしかないの。私達には後なんてないのだから。
 …早速来たわよ。覚悟を決めなさい」



 姿を現したのは歩兵。ちらほらと杖を持ったメイジも散見される。進軍速度がゆっくりなのは先の騎馬隊の轍を踏まないためか。その陣は重厚で容易には崩せそうになかった。

「銃隊前に、構え!」

 レンの号令に銃を持った男たちが応える。一糸乱れずとは言えないが、寄せ集めの民兵にこれ以上を望むのは酷というものだろう。
 敵の目鼻が見える距離まで引き付ける。彼らが突撃の姿勢を見せた瞬間、矢の様に引き絞られた声が飛んだ。

「今よ!撃て!」

 さして広くもない街道に密集した集団に向けて放たれた弾丸は狙いを外しようもなく、その全ては標的へと吸い込まれていく。前面の幾人かは腹や足を押さえ、また幾人かは腕を動かすことなくその場に倒れ伏した。
 後の先を見事に取られたレコン・キスタ兵は一瞬怯みを見せたが、自分達が敵兵より遥かに多いことを思い出し、再び喊声を挙げて走り出した。

 このままでは不利とみて、レンはオーブメントに手をかざす。このペースで強力なアーツを使い続けては近いうちにクォーツのエネルギーも空になるだろうことは分かっていたが、
かといって今ここで退けばその『近いうち』さえレン達には訪れはしないだろう。


 <パテル=マテル>の存在が恋しかったが、その助力は得られない。おそらくはこの部隊のほかに別働隊がいるはずだ。それもグリフォンなどを連れたメイジが。

 レンは騎馬隊を退けた後、次にレコン・キスタが打つであろう手を予測した。
 もしレコン・キスタが正面からタルブ村を攻め落とそうとすれば、たとえそれが出来たとしてもレコン・キスタ軍に無視できない被害が出るだろう。
 ならば空中機動力のある部隊でタルブ村の内部に侵入し、お互いを孤立させて各個撃破すればいい。

 敵将が馬鹿でなかったらその位は策を弄するだろう。そうなってから対策を講じては遅い。
 だから、<パテル=マテル>をルイズに託したのだ。
 ここは何があってもレンとその指揮下の百五十人で防ぎきらなくてはならなかった。


 オーブメントの回路が駆動する感触を得て、レンは呪文とともに鎌を振り下ろす。

「滾り吹き上げる大地の血、骸を糧とし触れる総てを朱に染めよ!ナパームブレス!」

 融けずにあった氷に覆われていた道は赤く燃え盛る火炎に飲み込まれ、舞い上がった氷の結晶は吹き荒れる火の粉に取って代わられた。
 火に巻かれのたうち転がりまわる者の悲鳴が響く中、獣の嘶きと共に遠くの森から飛び上がる姿があった。

 やはり別働隊がいたか、とレンは舌打ちしたが眼前の敵を放置することは出来ず、後ろを振り向かずに敵中へとその身を踊らせた。

「頼むわよ、ルイズ。<パテル=マテル>を立派に操ってみなさい」

 ルイズは民家の屋根に登り戦局を見守っていた。
 向かってくる歩兵の数はレンが指揮する部隊よりずっと多い。そうそうに出番があるかもしれないと考え、いつでも援護に出れるように準備していた。

 しかし、レンの放ったアーツで炎が地面を裂いて溢れた瞬間、森の上に現れた人影にそれを断念する。十数の空行騎が一直線にルイズのほうに飛んでくるのが見えたからだ。

「<パテル=マテル>、少しだけ力を貸して」

 ルイズの請願に応え、<パテル=マテル>からミサイルが発射される。空中に放り出されたそれは一瞬頭上で回転していたが、点火されると敵兵目掛けて雲を引きながら飛んでいく。
 命中したのは数発だったが、爆風と熱波は周りを巻き込む。悲鳴を上げて墜落したのはおよそ十騎。

 あとは肉弾戦で仕留める他ない。
 ルイズが大きな手のひらに飛び乗ると、<パテル=マテル>は青白い炎を噴出し空中へと飛び上がった。

 敵兵は散開してルイズを囲むように飛び回る。そのうちの一騎に狙いを定め、接近して鉄の拳を叩き込んだ。真上から振り下ろされたそれを受け流すことは出来ずに、一人と一匹は真下の民家の屋根を抜いた。

 その間に敵が手を拱いているはずもなく、魔法が続けざまに<パテル=マテル>に襲い掛かる。土で作られたゴーレムがその手を伸ばす。それをどうにかすり抜けたところにファイヤーボールが直撃した。
 <パテル=マテル>の手がルイズを包んで守ってくれたが、熱までは防ぎようがなく彼女の白い足に水泡が膨れ上がる。

 回避に専念しようかとも考えたが、この巨体では敵の魔法をかわすことは困難だと判断し、ルイズは再び攻勢に出る。
 鉄の軋む音を聞き竜が怯え竦んだのを見て取り、<パテル=マテル>は杖を構えて呪文を唱えていたメイジを乗騎もろとも吹き飛ばした。



「まさに化け物だな、あのゴーレムは…」

 ワルドはグリフォンの手綱を操り、必死に逃げ回っていた。
 既に五騎が落とされ、戦場を飛んでいるのは<パテル=マテル>と彼の操るグリフォンのみ。
 未だ目の前に立ちはだかる鉄のゴーレムを打倒する方法が浮かばないでいた。

 エア・ハンマーは既に何発も放っている。うち一発は関節部に命中し、数本のパイプをもぎ取ってはいたが、決定打には程遠かった。
 <パテル=マテル>を行動不能にするまでエア・ハンマーを撃ち続けようとしたが、残りの精神力も囮になってくれる味方もワルドは持ち合わせていなかった。

 このまま引き下がっては貴重な空戦力の浪費にしかならない、せめて倒すための糸口を見つけられないかと逃げながら観察していると、<パテル=マテル>の左手に立つ人影を見出した。
 おそらくはあれがこのゴーレムを操っている術者だろうとあたりを付け、彼は戦局を変えるべく賭けに出た。

 身の危険も顧みず、ワルドは剣を抜き<パテル=マテル>に向かって直進する。
 振り下ろされる右手を紙一重で避け、手のひらの上で身動きの取れないメイジにそのまま剣を突き出そうとする。しかし、そのメイジはワルドがよく見知った、意外な人物だった。

「ルイズ!」
「ワルド様!」

 思わず剣を引いたワルドに、彼の婚約者から声が掛かった。

「何故ワルド様がレコン・キスタの軍に身を投じているのですか?」
「ああ、僕の可愛いルイズ。どうして婚約者同士が争わなければならないのだい。さあ、こっちへおいで」

 ワルドの頭の中では、ルイズは小さくか弱い少女でしかなかった。甘言を弄せば自分に従うだろうと予想し、彼は昔のようにルイズに囁く。
 しかし、ルイズは以前のような世間知らずの令嬢ではなかった。既に彼女は一人のトリステイン貴族として己のなすべきことを見据えていた。

「ワルド様、もう一度お聞きします。どうして魔法衛士隊隊長のあなたがレコン・キスタに参加しているのですか?返答次第では、私はあなたを倒さねばなりません」

 その言葉が本当か否か、それが読み取れないほどワルドは愚かではなかった。
 一つ息を吐き、彼女に別れの言葉を告げる。

「大人になったのだね、ルイズ」
「ワルド様、一体何を…?」
「僕は僕の目的のためにレコン・キスタの旗の下に居る。国と民を捨てて自分のためだけに行動している。君に罵られても、軽蔑されても、杖を向けられてもなさなければならないことがある。
 だから、お別れだ。ルイズ。

 君が僕の前に立つのなら、僕はまた君に剣を向けるだろう。その時は容赦はしない」
「私もです。ワルド様」
「ここは一旦退こう。…さようなら、もう僕のものではない、可愛いルイズ」

 それから三度の侵攻があった。ルイズ達は辛くもそれを退けて村を守ったが、一戦するごとに被害は幾何級数的に増大した。負傷者が増え、戦闘要員が減り、更に負傷者が増える悪循環。
 敗北はもう目の前にまで迫っていた。


「戦闘が可能な人数は何人?」
「七十三人です。そのうち軽症を負っている者が二十八人」
「重傷者の搬送も追いついていません。手当てするにも人手が足りない有様です」

 既に村の入り口は抜かれ、防衛線は広場まで後退している。砲弾で吹き飛ばされたバリケードをかき集め、民家の家具をありったけ積み上げてなんとか防いでいるという状態だった。

「<パテル=マテル>も右足が動かないわ。常に飛んで移動しなくちゃならないから出力もだいぶ落ちてるみたい」
「困ったわね、レンのアーツもあと二、三発ってところかしら」

 レンがオーブメントにカプセルを差し込むと、クォーツにわずかだが光が戻る。これでEPチャージも最後の一本を使い果たした。
 空になったそれを投げ捨ててレンは立ち上がる。その拍子に腕に巻いた白い包帯が取れそうになったが、生憎と頓着している暇はなかった。

「もう限界よ、ルイズ。撤退するしかないわ」
「まだアンリエッタ様の軍が到着するまで四、五時間は掛かるのよ!」
「次の侵攻を防げるかどうかすら分からないわ。もし防げたとしても、その時には撤退出来るような余力は残されてないの。負傷者を見捨てていくわけにはいかないでしょう」
「でもこのままじゃ「敵襲です!歩兵、騎馬合わせておよそ八百!」」

 二人の会話を敵襲の知らせが遮った。全ての選択肢は消えて失せ、絶望が村を覆った。
 決まりね。と、レンは言って鎌を持ち直す。


「村人は全員、即刻退去しなさい。レンと<パテル=マテル>で逃げるだけの時間は稼ぐわ」
「レンちゃん!そんなの危険すぎます!」
「シエスタ。あなたはまだ動けるでしょう。怪我人に肩を貸して早く避難しなさい」

 なおも言い募るシエスタだったが、それを切って捨てたのはレンではなくルイズだった。

「あなたが残ったら私もレンも逃げることが出来なくなるの。あなたがここで出来ることはもうないわ。わかったら、早くなさい」
「でも、でも、そんなことって」
「レンと私を殺したいの?シエスタ?」

 シエスタはしばらく俯いて拳を震わせていたが、ルイズとレンが翻意することのないのを悟ると、彼女に出来ることをなすために重傷者の中へと走っていった。 


 広場に残ったのはルイズとレンの二人。そして傍らには<パテル=マテル>。

「私は止めないのね。レン」
「あなたには言っても無駄だからよ。頑固者のルイズ」

 これから二人が始めるのは死に向かう進軍だった。懸絶した戦力の差を前にして、それでも二人は並んで立っていた。
 数百メイル離れた所には死神が列を成して歩いていた。それでも二人は笑っていた。

「死ぬんじゃないわよ」
「あなたこそ」

 ルイズは右手を、レンは左手を、それぞれ固めた。そして一度だけ、互いの手を打ち付ける。


 オーブメントを起動させ、<パテル=マテル>の手に飛び乗り、二人は敵陣に向かって疾走する。



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