あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

モノノ怪「枕返し」

「モノノ怪の形と真と理、お聞かせ願いたく候」
 ただの薬売りを名乗った相手から放たれたその言葉に、無能と呼ばれた王は笑った。

 モノノ怪 枕返し 一の幕

 ――ペルスランはかくの如く語る。
 全てのことの始まりはガリアに二人の王子が生まれたことでございます。
 ジョゼフとシャルル。そう名付けられた兄弟は大層仲良く育ちました。
 兄であるジョゼフが物心つくまでは……
「そう、王族でありながら弟と違って兄は全く魔法の才能に恵まれなかった!」
 ですが弟にはそんなこと関係なかったのです。周囲がなんと言おうと、シャルル様にとってジョゼフが最愛の兄であることになんら違いはなかったのですから、ですがジョゼフは別でした。
 自分より優れた、己の理想とも言える弟に優しくされることに耐えられなかったのです。
 ジョゼフは荒れていきました、日ごと部屋に籠もり酒と女と遊戯に溺れーーしかし一日中たりとも魔法の修練を欠かさなかったのは自らと弟君への凄まじい執念からでございましょう。
 そんな折り、この国を揺るがす事件が起きたのです……

「父は死の床で余を己が後継者に指名したのだ!世の民草、リュテュスの乞食どもにまで無能と知られた余がガリアの王だと!?」

 それはこれまでなにも持たなかった彼にとって唯一弟に勝てる部分でありました。だからこそ零れものの玉座であると知りつつも言ってしまったのです。

「どうだシャルルよ、余こそがガリアの王だ!」

(おめでとう、兄さん)

 その一言を聞いた瞬間ジョゼフの心は砕け散ったのでしょう。最愛の弟を手に掛けしまった哀れな王はもはやもはやひきかえせない道へと足を踏み出してしまったのです。


「そうだ、余は弟殺しの狂王である。して薬売りよ、これを聞いても尚モノノ怪などと言う世迷い言をのたまうか?」

「まだモノノ怪の真をお聞かせ頂いておりませぬ故」

「真、だと?」

 まさか、本当にお忘れになられたので御座いますか!? ならば仕方ありますまい、この老骨が墓の下まで持っていくつもりでございましたが全てお話したしましょう。シャルル様が残した真を……

 あの日はやけに朝焼けが目に痛い朝でございました、いつも通りシャルル様を起こそうとシャルル様の部屋に向かった私めはそこで信じられないものを見たのでございます。

「さて、一体何をご覧になったので?」

 涙ながらに抱き合うシャルル様とジョセフ殿下のお姿でございます。

「な、何を申すか!」

「これは異な事を。所詮戯言と笑ったのは貴方の筈、それよりもお気を強くお持ちください、さもないと……」

ーー返されますよ?






モノノ怪 枕返し 二の幕

(ニハッ、ニハ、ニハハニニニニハハハッハ)


「な、なんだ今の笑い声は!?」
「どうなされました?話の途中に、急に立ち上がるとは」
「お前たち何を企んでいる!?」
「これは異なことを私たちは何も企んでなどおりませんし、それにーー企むのはあなたの十八番じゃありませんか」

 失礼、どうやらほんとうに殿下はおぼえておられない様子、ならば続きを話させいただきましょう。あの日、あの時私めが見た光景のことを。

(悲しまないで兄さん、ガリアの為にはこれが一番いいんだから)
 ――ペルスランの語りと共にジョゼフの脳裏に記憶にない光景がいくつも閃いた。

「なんだ、なんだこれは」
 そう、私めが見たのでは互いにに抱き合い、涙を流すシャルル様とジョゼフ殿下の姿なのです。
(これ以上オルレアン公派を押し留めることはできないんだ、僕が頭にならなければ間違いなく計画もなにもなく自分たちだけで蜂起する。そうならばこのガリアを真っ二つに割る内戦が起きる)
 そしてお二人が語る内容は、シャルル様暗殺の筋書きでございました。

「うっ、嘘を、嘘を申すな!」

 誓って嘘では御座いません。
(頼んだよ兄さん、僕には政の才能はなかった。だからこの命兄さんに捧げよう、だからお願いだ僕が愛するこの美しいガリアが二つに分かれて争うハメにだけはならないようにして欲しい)
シャルル様は自ら進んで死にに行ったのです。


 刺客の正体が分からなかったのも当たり前の話で御座います、凶弾に倒れたシャルル様ご自身が魔弾の射手であろうとは誰も想像だにしますまい。


(ニハッ、ニハハ、ニハハ!)
「五月蝿い、やめろ!もうその笑い声をやめろ、やめろっ!」
(ニハッ、ニハン、ニイハ――ニイハン)


「やめろ、やめ、やめめめめ」

 ――くるりとジョゼフの頭の裏返る、そこに張り付いていたのは人の顔の胴体を持つ小鬼であった。

(ニイサン、にいさん、兄さん、兄さん!兄さん!)

 ――最愛の弟の顔をした小鬼が、くるりと首をねじ回す。

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


 しかしそれは所詮幻覚。
 自身が生み出した夢、幻。
 だが今ので分かってしまった、そうだ――余は……いや俺は……

「そしてあなたは弟君の願いに従い、王としてこの国を導いた」

 そうだ、無能と言われても気にならなかった。どんな汚いことも進んでやった。すべては、全ては……

「けれどやがて耐えられなくなった」
「なん、だと……」
「呷ったのでしょう?エルフの毒薬を」

そうだ、俺は耐えきれなくなって呷ったのだ。心を狂わせるエルフの猛毒を、だが……

「だがそれでもあなたは狂えなかった」


 カチン



モノノ怪 枕返し 大詰め


「それでも、あなたは狂えなかった」

 そうだ、それでも俺は狂えなかった。
 シャルルへ向けた親愛の情をどうしても捨て去ることが出来なかったのだ。

「その結果貴方は」

 最愛の弟を一方的に謀殺したと言う偽りの記憶をでっち上げ。

「心に満ちる愛情を、憎しみだと誤魔化して」

 大切なものを失った傷を見ないようにして

「狂ったふりで」

 非道なふりで

「孤独なまま、王として君臨し続けてきたのですね」

 そうだ、それこそが俺の"虚無"

「それこそが枕返し」

 心に蟠る、石の如く固まった妄念の結晶

「貴方はそれを裏返された」

 愛おしい愛おしいシャルル、お前を殺したままおめおめと生き続けることなど出来ようか。

「だから貴方は」

 だから俺は

「「毒の力を借りて、己が心を捻じ曲げた」」


 カチン


 ――その言葉を呟いた瞬間、ジョゼフの首が真横に折れた。
 ――べきべきと音を立てながら曲がる曲がる

「こ、これは一体な、何が!?」


 ――ぐるんぐるんと首が回る、ジョゼフの頭が裏返る。


「毒の沼の底に沈めた弟への愛、腐り果て、虚無の石で封じて尚沸きあがろうとするその思い」

 気づいてしまえば立ち行かぬその思いを裏返す欺瞞こそこのモノノ怪の正体。

 ――やがてジョゼフの首の回転は止まった、そこの後頭部に四本の腕と四本の足でへばりついているのはシャルルの顔。
 ――聖人の如く笑みを浮かべたシャルルの生首が、ジョゼフの頭と溶け合っていた。

「二人で決めていた弟の死に耐え切れず貴方はエルフより授かった毒を煽った」
 ――それが真

「毒によって凍り付いた心をごまかす為に、あなたは弟への愛情を憎悪と偽った。その欺瞞に挟まれた貴方の心に妖が取り付いた」
 ――それが理


 シャルル! シャルル!シャルルゥゥ!
 ニハ、ニハニハニニニハハハ、ニィィハァァァーン!


「そして、その最愛の弟を裏切り毒へと逃げたことこそが」

 シャルルよ、シャルルよ、愛しい我が弟よ。

――モノノ怪の形  

 愚かな兄を、許せ



 カチン


「(うぉぉぉおおおおおおおおおおおおおお!)」



「枕とはすなわち貴方の想い、それを返すとは己のすべてを裏返すことに他ならない」

「これは一体!? ジョゼフ殿下が捲れて……」

「肉体も、魂も、心さえも」

「ひぃぃぃぃぃぃ」

「すべてが裏返り、愛憎さえ一つになるその間隙に、枕返しは枕を返す」

(ニハァァァアアアアアアアアアアアアアアア!)

「もう一度返されますか?」

「否」
「本当に?」
「否否否否否、断じて否!」

「ほう……」
「この思い気づいてしまえば立ち行かぬ! 俺は間違っていた、間違っていたのだ。シャルルは――聖人でもなければ君子でもなかった。ただの俺の愛しい弟だった」

「俺の心だけならばいい、だがシャルルの本当の姿まで穢すのならばこんな毒などいらぬ! この俺の手で枕返しなど八つ裂きにしてくれるわ!」



「ならば解き――」


(――兄さん)


「……放つ!」
『解き放ぁぁぁぁぁぁぁつ』



モノノ怪 枕返し 終幕

 すべてが終わった後、そこには膝の上に眠る姪を乗せたまま玉座に腰掛けるガリアの王の姿があった。
 眠るとも死んでいるともつかないその顔は、これまでペルスランが見たことないほど穏やかで優しげだった。

「やれやれ、面倒臭い」

 そう言うと薬売りが商売道具の入った行李を担ぎ上げた。

「さて帰りますか……」

 その時行李の引き出しから天秤が地面に音を立てて落ち、そしてジョゼフの時とは比較にならないほど大きく傾いた。
 その様子に薬売りは若干驚いたような表情を見せると、ゆっくりと口元を緩めた。

「成程、毒を垂らした杯は二つ。どうやらこのもう一匹、厄介なモノノ怪がいるようですね」



 ――次回、女郎蜘蛛 



続――かない!

「モノノ怪」より薬売り


新着情報

取得中です。