あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

ゼロの軌跡-10


第十話 蝕、繋がる世界


「ヴァリエール様、レンちゃん。ようこそ、タルブ村へ!」
「久しぶり、シエスタ。元気そうで嬉しいわ」
「紅茶とデザートが楽しみで飛んできたのよ」
「今日は村を挙げて歓迎しますから。覚悟しておいてくださいね」

 タルブ村に着いたルイズとレンはシエスタの歓迎を受けた。
 覚悟?と首を捻る二人だったが、それを問う間もなく腕を引かれ彼女の家へと押し込まれる。村人の歓声が、二人の後ろで閉じた扉をこじ開けんばかりに揺るがした。

「来たぞ、われら平民の救世主!」
「ミス・ヴァリエール!気高くも偉大な公爵令嬢!」
「ミス・レン!可愛らしくも異才の天才戦士!」
「新しい貴族。平民を守る女神の来訪だ!」

「村の人達に一体何て伝えたのよ、シエスタ」
「いえ、私のせいだけではないんですよ。だけ、では…」

 恰幅のよい女性がいきなり抱きついてくるのをかわすことも出来ず、ルイズは右腕にレンは左腕にそれぞれかき抱かれた。二人よりも遥かに豊満な胸。濃厚な木と草の香りが立ち込める。
 ひとしきり揉みくちゃにされながらもどうにか解放されたルイズとレンの周りにはたちまち人垣が出来る。口々に褒め称える村人への対応に苦慮しながら、後でシエスタを問い詰めようと固く決意する二人だった。



 遠いところを旅されてお疲れだから、とシエスタのとりなしの甲斐あってかやっと落ち着くことの出来たルイズとレン。客間へとあがり、淹れてもらったお茶を飲みながら話を聞くことにした。

「で、シエスタ。どんな英雄譚を村中にばら撒いたのかしら?レンは何匹のドラゴン相手に大立ち回りをやってのけたことになってるの?」
「そんな人聞きの悪いことを言わないで、レンちゃん。あの、ルイズ様もそんな目で見ないでください。
 ありのままを話しただけですよ。他の貴族が徒党を組む中で彼らに喧嘩を売って、平民の私を助けてくれたんだって」

 悪びれずに答えるシエスタ。思わず頭を抱えるルイズ。一人優雅にカップを傾けるレン。

「それにしたってあの熱狂振りはねぇ…。なんでも私は気高くて偉大な公爵令嬢らしいじゃない」
「レンは天才戦士なんですって。まあ間違いじゃないけどね」
「そうですよ、ルイズ様ももっと堂々と振舞ってください」

 ゼロであることを認めたとはいえ、ルイズから劣等感が完全に払拭されたわけでは無論なかった。
 最後まで一人で彼らに立ち向かえたのならばまだしも、レンに助けてもらったと認めているルイズは素直にその賛辞を受けることが出来なかった。しかも、肝心の決闘は全てレン一人の実力ではないか。

 そう考えるとやはり自分はその賞賛に値しない。ルイズは懊悩する。
 結果、行き場のない戸惑いは糾弾にその姿を変えて矛先をシエスタに向けた。

「それだけでああも歓迎されるとは思えないけど。大方、覚えのない善行を二、三十創りあげたでしょう。今なら正直に話せば許してあげるわよ」
「そんなことしてないですって。本当ですよ。ヴァリエール様。
 もう一つの理由は、あれです。ヴァリエール様とレンちゃんが町や村を周って平民の力になってるっていうじゃないですか。その話を何人もの旅の方が触れ回ってるらしくて。うちの村にも来て熱く語っていましたよ」





 その答えにルイズは目を見開き、レンはカップを持つ手を止めた。
 二人ともそこまで評判になることをやっていたという自覚はなかったのだ。

 メイジではなくとも立派な貴族としての、その自らの修行の一環としてそれを行っていたのだし、
レンはといえばその理由の多くを、帰還の手がかりを探すことが占めていた。無論のこと、ルイズとの旅は楽しかったし、行く先々で感謝されるのには確かに喜びを感じてはいたが。

「あのね、シエスタ。私別にそんなつもりでいたわけじゃ…」
「なら更に素晴らしいじゃないですか!意図しての人気取りでなく、その自らの望む姿にかくあろうとした、無為から生まれた行為だなんて。流石はヴァリエール様です。これはみんなに伝えないと!」
「…もう何を言っても駄目みたいよ、ルイズ」

 早速新たなルイズ伝を広めようと立ち上がったシエスタを押し留める。
 尾ひれ背びれをつけないよう厳重に釘を刺し、給仕のために下に降りていくシエスタを見送る二人。

「大丈夫かしら…」
「レンはシエスタが大騒ぎする方にナサロークの皮三枚賭けるわ」
「私も同じ方にペレグリンの羽五枚」

 賭けにならないじゃない、とレンが口を尖らせた時、階下の拍手と喝采が床を震わせた。

「なんていうか…」
「良くも悪くも田舎よねぇ…」





 夕食までの時間を釣りや散策でのんびり過ごしたルイズとレンを待っていたのは、シエスタが腕によりをかけた料理だった。
 ヨシェナヴェという奇妙な語感のそれは名前と同じく二人の舌には馴染みのないものであったが、美食を食べなれているルイズをも存分に満足させた。
 が、久方ぶりの村の宴がそのまま大人しく終わりを迎えるはずもなく。


「なるほど。覚悟、ね」

 思わずレンは一人ごちる。
 皿に大盛りにされた具もなくなり鍋の底が見え始めた頃には、場は惨状を呈していた。
 周りに赤い顔をしていない人間は一人もいないし、既に足元には酔いつぶれた男たちで立錐の余地もない。
 誰も彼もが相手を選ばずに踊り狂い、歓声と嬌声は途切れずに広間を飛び交う。誰かが歌を口ずさめばたちまちソロはデュエットになり、コーラスへとその場の人間を巻き込み広がっていく。
 主人も客も上座も下座も貴族も平民もなく手を鳴らし足を打ちつけ、笑顔で開かれた口は決して閉じることはない。

 その喧騒の中でも一際大きく響くのはグラスが打ち鳴らされる音。乾杯の声は一瞬たりとも途切れてはいなかった。
 レンは年齢を理由に差し出される酒を断ることも出来たが、ルイズはそうもいかず。一杯飲み干せば二杯の酒が、二杯を空にすれば五杯のグラスが、息つく暇もなく更に多くのワインが注がれた。
 シエスタにいたっては完全に出来上がって、先ほどから少佐もかくやという演説をぶちかましていた。

「私はレンちゃんが好きだ。私はレンちゃんが好きだ。私はレンちゃんが大好きだ」

 酒と料理で熱く火照ったレンの身を貫く悪寒、首に冷たく氷の柱。夜のシエスタには気をつけろと囁く本能に従い、倒れる寸前のルイズを引き摺って外に出る。

 その背中に突き刺さる、シエスタの恐ろしいまでにうららかな宣誓。

「我が家の名物特製ヤムィナヴェ、行きますよー!」

 魔女の釜はまだまだその蓋を開けたばかりのようだった。





「有難う、レン。助かったわ」
「ルイズがまたアンロックでも唱えるのはいただけないからよ」

 涼しい風が二人を優しく撫でる。回った酒も心地いい冷気に醒めていくようだった。

 そういえば数日前にもこうやってレンと歩いたことをルイズは思い出す。
 その時はレンが少しだけ、その外見に相応しい少女らしさを垣間見せた気がする。
 もしかすると今夜も彼女の話を聞けないだろうか。

「ねぇ、レン」
「なあに、ルイズ」
「その…、元の世界にはやっぱり帰りたいのよね」

 直接的に聞くことも躊躇われ、かといって話の接ぎ穂にも困り、ルイズは今まで隠してきた自分の願望交じりの言葉を吐き出してしまう。

 今のルイズにとって、レンはかけがえのない親友でもあり盟友でもある。少なくともルイズはそう思っていた。レンがルイズのことをどう思っているかは未だ確たる答えを得てはいなかったが。
 これを聞いてしまうと、ルイズは自分の心が覗かれてしまうような気がしていたのだ。

「どうかしらね。よくわからないわ」

 返ってきた声は冷静で、以前見せた緩みはなかった。
 レンなりに先日の失態を、勿論ルイズは失態などとは思っていないが、気にしているのかもしれなかった。

「トリステインでの暮らしも悪くないし、リベールに戻って何かするわけではないのだけど」

 レンの答えはそこで途切れる。
 否定で終わったその言葉の続きが気になったが、ルイズにそれを問うことは出来なかった。

 会話がとまり、不自然な沈黙から目をそらす様に向けた視線の先。村の外れ、一角だけ不自然に整理された木立がルイズの目を引いた。
 そこにまるで祀られているかのように、石碑が置かれていた。

「あれ、なにかしら?タルブ村の守り神か何「…ッ!!」」

 ルイズの言葉に視線をそちらに向けた時、レンのつぶらな瞳は大きく見開かれた。
 そしてレンはルイズの言葉を聞かずに石碑に向かって走り出した。





 間違いない。あれだ、あの石碑だ。
 アンカー。アーティファクトによって作られた揺らぐ虚構世界の中で、庭園と星層を繋ぎとめていたそれ。
 あれこそが、トリステインを含むこの世界とリベールを含むあちらの世界を結ぶ鎖。
 遂に見つけた、元の世界に帰るための通行証。

 レンは脇目もふらずに石碑に走り寄る。

「ちょっと、レン。どうしたのよ」
「ティータ、クローゼ。聞こえる?レンはここよ。オリビエ、アガット、ジン。誰か返事をして」

 ルイズの声も耳には入らないのか、闇に佇む石碑に向かってレンは必死に呼びかける。

「シェラザード、ミュラー、ユリア、リシャール、ケビン、リース」

 それでも石碑は何の反応も見せなかった。
 それをわかっていながらも、レンは叫ばずにはいられなかった。

「…エステル!ヨシュア!」

 かそけきその祈りが女神に届いたのか、その名前こそに込められていたものがあったのか。
 石碑は青い輝きと共に、佇む人影をを映し出した。


 中空に描き出されるスクリーンにはエステルとヨシュアの姿があった。
 場所はどこかの湖畔だろうか。雲一つない青空の下、釣り糸をたれるエステルと少し離れて火を熾すヨシュア。
 しかし、姿は見えども声はせず。届けられるのは映像だけで、魚の跳ねる音はおろか、火の爆ぜる音も二人の声一つすら聞こえてはこなかった。

「あの人がエステル…」
「ねぇ、エステル!こっちを向いて!」

 叫べども叫べども、声は辺りの闇に吸い込まれるばかり。
 石碑が青い光を失い、次第に朧げになっていくその姿に耐え切れず、遂にレンは悲鳴のように彼女にすがった。

「助けて!レンを助けて!エステルッ!!」


 その時、エステルが振り向いた。
 無邪気なその顔には驚愕が彩られ、レンに手を伸ばす。

 レンもその短い腕を、あらんかぎりに伸べる。
 しかし、その手は繋がることなく、石碑が光を失うと同時にエステルとヨシュアの姿も溶けるように消えていった。

 伸ばしたその腕を力なく下ろし、レンは膝をついた。
 ルイズもまた、言葉もなく立ち尽くすばかりだった。


 このままではいけないと、一歩踏み出したルイズにレンは一言、彼女を拒絶した。

「来ないで。…しばらく一人にしておいて」



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