あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

ルイズの大冒険-2

 朝だよ。と身体を揺すられる。ルイズは聞き慣れない声に目を覚ました。
 目を開けば、そこには見知らぬ子供の身体。上半身が裸の様子にぎょっとする。
「こ、この子供、なに勝手に部屋に入って……!」
 叫びだしかけるものの、すぐに我を取り戻す。昨日召喚したんだっけ、服がボロボロの少年を。
 思いだしながら身を起こした。大きくあくびをする。いくらか頭が覚醒する。ため息をついた。
 今日は嫌な朝だ。寝起きで一番に視界にはいったのが、平民の裸だなんて。

 ルイズは使い魔に着替えを手伝わせる。
 ダイは抵抗を示していたが、この世界ではこんなものだと言い聞かせると渋々ながら手伝うようになった。
「……ルイズって、自分で服を着れないの?」
「貴族は下僕がいる時は自分で服なんて着ないのよ」
「ふうん……、この世界はなんか、ヘンだよ」
「平民のあんたには理解できないでしょうね」
 別にわからないままでいいと思う。だまって主人の言うことを聞いていれば。いちいち世界の違いを説明するのも疲れるし。
「その貴族とか平民とかっていうのがよくわからない。きみって人間が貴族じゃないと友達になれないの?」
「はぁ? なにいってんのよ?」
 世間を知らない子供の質問が、煩わしかった。

 着替えが済んだルイズは、服を取り出してダイに手渡す。自分が制服としてマントの下に着ているものと同じ、白いブラウスだ。
 男ものの服など所持していないのだから、今日のところは無地のこれで妥協してもらうしかない。
 義理で服をくれてやるのではなかった。ボロ切れを着けているだけの少年を連れまわすような、奴隷商人もどきの真似をするなど外聞が悪すぎる。ただ、それだけのことだった。

 ダイも服を着て、部屋を出ようというところでルイズは尋ねる。
「そういえばあんた、なんでわたしのこと呼び捨てにしてるのよ、わたしはあんたのご主人よ?」
「だってルイズ、おれと同い年くらいだろ?」
 誰と誰が、同い年だって? チビのくせに、ガキのくせに。
 それともなにか、それはわたしのことが子供に見えると暗に言っているのか。
「……わたし、16よ?」
 頬を引きつらせるルイズを恐れるでもなく、ダイはあっさりと答える。
「おれ12。なんだ、4つしか違わないじゃないか」
「4つも違うじゃないのよ!」

 ダイとふたり、ルイズは部屋を出たところでキュルケと鉢合わせた。挨拶を交わあう。キュルケはにやりと、ルイズは嫌そうに。
 キュルケは視線をダイへと移し、含むような笑みと共に彼をぶしつけに眺め回した。
「ふうん……」
「なによ、言いたいことがあるならはっきり言ったらどう?」
「ほんとに平民を呼んじゃったのね、ゼロのルイズ」
「うるさいわね」
「使い魔っていうのはこういうのを言うのよ? フレイム!」
 のっそりとした仕草で、主人の呼びかけに応じて姿を現したのは巨大な火トカゲ、サラマンダー。
 フン、と苦々しい表情でルイズはキュルケを睨みつける。火虫亀山脈がどうした。サラマンダーがなんだ。あんたの使い魔自慢なんか別にどうってことないんだから。
「あんた”火”属性だもんね。ぴったりだっていうのは認めてあげるわよ」
「ええ。微熱のキュルケですもの。ささやかに燃える情熱は微熱。でも、男の子はそれでイチコロなのですわ。あなたと違ってね?」
 そう言ってキュルケは胸を張った。ルイズも胸を張り返す。胸のボリュームの差が際立ってしまっていることは見ないようにした。
 なにが男はイチコロだ。別に誰もがあんたを相手にするとは限らない――と、いるじゃないか、女の身体など相手にしない男の子が。
 ルイズが自分の使い魔に目を移せば、そこではダイがフレイムに笑いかけていた。
 異形とも言える火トカゲの巨体や、大きく燃える尻尾に物怖じする様子もなく。またフレイムも「きゅるきゅる」と明るい鳴き声でダイと接している。
 キュルケは笑みを漏らした。平民の子供でもやはり使い魔は使い魔、通じ合えるものがあるのだろうかと感心する。

「こ、このガキ、使い魔同士でじゃれあってんじゃないわよ!」
「あいさつするくらい普通じゃないか。なに怒ってるの?」
「挨拶が遅れたわね。はじめまして、ルイズの使い魔さん。あたしはキュルケ、フレイムの主よ。あなたのお名前は?」
 怒鳴るルイズと、異を唱えるダイにキュルケは割って入る。
「おれはダイ。よろしく、キュルケ」
「ええ、よろしく。面白そうだわ、あなた」
 そう言ったキュルケは「じゃあ、お先に」とその場を去っていく。
 キュルケがいなくなると、ルイズはダイに苛立ちをぶつけはじめた。
「いい! あんなバカ女ともその使い魔とも仲良くなんかしないで! ああ、みっともない! なんであっちサラマンダーでこっちはこんななのよ!?」
「みっともないってことはないだろ?」
「……ガキのあんたに言ってもわからないだろうけどね、使い魔が主人に、平民が貴族に口答えするなんて、そんなことしたら本当はただじゃ済まないんだからね」
「なんだよ、それ……」
 不満を口にするダイをつれて、ルイズも食堂へ歩きだした。


 食堂の豪華絢爛さに呆けている様子のダイに、ルイズの溜飲が少し下がる。テーブルではダイに床に座るように命じた。
「ルイズ……、そりゃないよ」
「室内で食べさせてもらえるだけありがたいと思いなさい。本当なら使い魔は外なのよ」
「……」

「俸大なる始祖ブリミルと女王陛下よ。今朝もささやかな糧を我に与えたもうたことを感謝いたします」
 貴族たちの、食前の祈りの声が唱和する。
 ダイは溜め息をつき、床の皿に載っているささやかな二切れのパンをぽいぽいと口に放り込んだ。
 当然、足りない。かえって空腹感が強調されてしまう。
「ルイズ、もう少し分けてよ。おれ、昨日からなにも食べてないんだ」
「まったく……」
 ルイズはぶつくさ言いながら、鳥の皮をはぎ、ダイの皿に落とした。
 ダイは溜め息をつき、皿に載っている鳥の皮をぽいと口に放り込んだ。

 黙って空腹をやり過ごしていたダイは、床からルイズを見上げながらふと口を開いた。
「ルイズ」
「なによ、もう分けないわよ」
「この料理作ってるひととか、あそこで給仕をしてる女のひととかも貴族なの?」
「コックもメイドも平民よ、それがなに?」
「……いや、なんでもない」
 それきり、ダイは黙って食堂の様子を見回すのだった。

 四大系統。虚無。土。錬金。シュヴルーズの講義を聴きながら、ルイズは隣にいるダイの様子をちらりと見た。
 いちいち質問を発するでもなく、いまはじっと興味深い様子で講義に集中している。
「わかるの? あんた」
「いや、全然。でも、なんとなくおもしろい」
「なんとなく、ね……」
 これは退屈がるのも時間の問題かとルイズは思う。
「勉強は苦手だけど、こういう雰囲気はちょっと好きかな、おれ」
 意外な一言だった。
「いろいろあって、こうやって他人の講義を聴くことはあまりできなかったし、ぜんぜん勉強してなかったことが足を引っ張っちゃって、ちょっともったいないときもあったから」
「ふうん……」
 傍らの少年が、彼なりに学ぶことの重要さを認識しているらしいことが、ルイズには奇妙だった。それは、教育課程の内の課題のひとつとしてではなく、もっと重要な―――
「だから、こうしてきちんと勉強してるルイズのこと、かっこいいと思うよ」
「な!?」
 唐突なダイの言葉に、ルイズは絶句する。
「怒りっぽいだけの子じゃなかったんだね、見直した」
「……い、言っとくけど、誉めたって食事を増やしたりなんかしないんだからね!」
 授業中だと言うことを忘れて、大きな声を出してしまうのだった。
 そんなふうなやりとりを、シュヴルーズが見とがめる。
「授業中の私語は慎みなさい」
「すいません……」
「おしゃべりをする暇があるのなら、あなたに”錬金”をやってもらいましょう。ここにある石ころを、望む金属に変えてごらんなさい」
 しかしルイズは立ち上がらない。困ったようにもじもじするだけだった。
「どうしたの? ルイズ」
「別に、なんでもないわ……」


 シュヴルーズのもとへ、キュルケの困ったような声が届く。ルイズにやらせるのはやめたほうがいい。危険だ。
「危険? どうしてですか?」
「ルイズを教えるのは初めてですよね?」
「ええ。でも、彼女が努力家ということは聞いています」
 シュヴルーズの言葉に、ダイはひとりうなずいた。
「さぁ、ミス・ヴァリエール。気にしないでやってごらんなさい。失敗を恐れていては、何もできませんよ?」
「そうだよ、ルイズ、がんばって」
 ダイの耳打ちをうけて、ルイズは立ち上がった。ダイの激励に背を押されたのではない。
 平民の子供ごときにそこまで言われるのは、ある意味プライドに関わる問題だったから。
 キュルケの制止を無視し、教壇に立つ。ルイズは短くルーンを唱え、杖を振り下ろした。


「凄かったよ、ルイズ」
「なにがよ!」
 爆発によって大惨事になった教室。それの後始末の最中のことだった。
「あれだけの爆発なら実戦で十分使えるじゃないか」
 そんなことを言うダイが、ルイズには許せない。魔法の失敗に、いちいち触れてくる子供が苛立たしい。
「ふざけないで、からかってるの!?」
「本気なんだけどなあ」
「魔法のことなんてなにも知らない平民は黙ってなさい」
「……俺もさ、魔法の練習したことあるんだ、あっちの世界の話だけど。じいちゃんがさ、俺を魔法使いに育てたがって、たくさん魔法の練習させられたよ」
「あんたみたいなガキに、魔法が出来るわけないでしょ」
「……うん、出来なかった。才能がないって諦めてた」
 それ見たことか、とルイズはダイを細目に睨みつける。
「そのときにさ、友達からこんなアドバイスをもらったんだよ、出来ないものは出来ないんだから今あるものを磨けって」
 ルイズは、硬直した。
「ルイズ、才能あるよ。でなきゃこんな威力の爆発は起こせない。だから―――」
「―――だから、なによ」
 それは怒りだ。ルイズはダイの言葉に憤っている。
「え……」
「出来ないものは出来ない、ですって!? 子供が舐めたクチ聞いてんじゃないわよ!」
 ルイズは、叫んだ。


「……まいったな」
 腹がへった。とぼとぼとダイは歩く。主人を怒らせてしまった。
 結局、後始末が済んだ後、ルイズはダイの顔など見たくないというようにどこかへいってしまった。
 たぶん、食堂にいるのだとは思うが、あれでは昼食を食べさせてもらうことなど出来そうにない。……もちろん、食事目当てに主人の機嫌をとろうしたわけではないのだけれど。

 魔法使いになりたくなかった自分と、魔法使いになりたいルイズとでは、似ているようでまるっきり違っていた。
 傷つけてしまったかな、と気まずい。こう気づいた後ではルイズにかけてやる言葉がなかった。自分の無思慮なアドバイスでは何にもならない。
 改めて”先生”は凄いひとなのだと思う。戦士だろうが魔法使いだろうが勇者だろうが、あのひとは確かに、みなを正しく教え導いていた。
「困ったな……」
 壁に背中を預けて、座り込む。
 もとの世界のひとたちを思うと、やはりあちらの世界への思いが強くなる。昨晩、二つの月が浮かぶ夜空を見上げながら感じたさびしさがよみがえった。
 帰りたい、心からそう思う。空腹と、生活を頼れるひとから嫌われてしまったことが望郷の念を加速する。
「どうしたの?」
 少女の声に、ダイは顔をあげる。心配そうに自分を見つめる顔に見覚えがあった。朝食の時、食堂でみかけた、給仕をしていた女性だった。

 揉め事が起こったのは、自分から離れたテーブルの席だった。香水がどうの、二股がどうの。
 ルイズは騒ぎの方向に目を向けて、舌打ちした。金髪がひとり、黒髪がふたり。
 当事者はメイジのギーシュと、平民のメイド、そして、自分の使い魔の少年だった。

「よかろう。子供に礼儀を教えてやるのも、貴族の仕事だ」
 ギーシュとその友人たちが去ったそこに、ルイズが足を運ぶ。
 残されたメイドは怯え、逃げ去った。それは正しい反応だ。ことの重大さをよくわかっている。しかし、ダイにはそんな様子は一切見えない。これだから子供は。
「あんた、なにやってんのよ、見てたわよ」
「あ、ルイズ……」
 ダイは困り顔をルイズに向けた。なんだ、と思う。ギーシュを怒らせたことを、ちゃんと気まずく思っているようだ。
「ったく……、謝ってきなさい。今なら許してくれるかもしれないわ」
「……嫌だよ。ルイズには謝るけど、あのひとには謝る理由がない」
「は? わたし?」
「うん、さっきは、ごめん。わかったふうなことを言って、ルイズを傷つけた」
「な……」
 ルイズは顔を引きつらせる。それはさっきの困り顔に、ギーシュは一切関係ないということだ。
「そんなことはいいのよ! あんた本当わかってないのね!」
 言いたいことは全部言ったとばかりに、ダイはルイズから視線を外す。
 逃げないようにダイを見張っていたギーシュの友人のひとりに、尋ねた。
「ヴェストリの広場って、どこ?」
「ついてこい、平民」
 堂々と、恐れを知らない足取りで歩いていく子供の後ろ姿を、ルイズは歯ぎしりする思いで睨みつけた。
「ああもう! ほんとに! 使い魔のくせに勝手なことばっかりするんだから!」
 ルイズは、ダイの後を追いかけた。

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