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ゼロの武侠-02


ゼロの武侠-02

使い魔というのはメイジの手足ともいうべき存在である。
トリステイン魔法学院では進級の試験として使い魔召喚の儀を行う。
その大まかな内容は二つ。
使い魔を呼び出すサモン・サーヴァントと、
そして契約を交わすコントラクト・サーヴァントから成り立っている。
契約に必要なのはルーンのと詠唱と術者の口づけ―――すなわちキスである。

「だ・か・ら! 大人しくキスさせなさいって言っってるのよ!」

杖が振り抜かれると同時に爆風が辺りを包む。
白煙が立ち込める中を咳き込みながら梁師範が駆ける。
続け様に起こる爆発を避けながら負けじと言い返す。

「っざけんなァ! 誰がテメエみたいなガキなんかとキスするかよ!
俺はなロリコンじゃねえんだ、お友達と交換日記でもやってな」

目の前の少女が何歳かは知らないが肉付きから見て十代前半ぐらいか。
そんなのとキスしたなんてバレたら即効で蓮苞に愛想尽かされる。
ターちゃん達からも何て言われるか判ったものじゃない。
恐らく性犯罪者を見るかのような白い眼を向けられるだろう。
己の尊厳と純潔を守る為、梁師範は必死でルイズの横暴に抗っていた。

そしてもう一つ、彼には気掛かりがあった。
それは彼を余所に次々と契約していった他の使い魔だ。
あの後、まだ契約を終えていないルイズ達を残して去っていく際、
契約を終えた使い魔は粛々と主に付き従い一匹残らず塔の方へと向かっていった。
中には、およそ人に懐くとは思えない猛獣と思しき物もいたというのにだ。
もしかしたら契約というのは相手の意思を奪い服従させる、
バンパイアの吸血行為に近い魔法なのかもしれないと梁師範は疑っていた。

魔法が実在するのを疑う余地はない。
ワイヤーアクションも出来ない青空の下で空を飛ばれたり、
木の枝みたいな杖を振りかざすだけで爆発を引き起こされては信じる他ない。
前に見た試合会場を利用したトリックとは違う、
本物が放つ匂いを格闘家の本能が感じ取っていた。

進行方向で巻き起こる爆風に咄嗟に地を蹴って反転する。
猫が身を翻すかの如き梁師範の身の扱しに思わずルイズから感嘆が洩れる。
狙いを付けられないとはいえ、まぐれ当たりの一つもないのは偏に梁師範の力量故だった。
どこで起こるとも知れない爆発に対し直前でそれを回避する。
爆風を置き去りにするのにも似た神速の動作を繰り返しているというのに、
先に動きを止めたのは杖を振るう少女の腕だった。
手を休めた彼女に言葉を投げ掛ける。

「俺はアフリカに帰りてえだけだ!」
「アフリカ? 聞いた事ないわ、何処の田舎よ」
「冗談で言ってるんじゃなきゃ、よっっぽど頭が悪いみてえだな。
いいか? アフリカってのはな大自然に恵まれた大地で、そこでは野生の動物達が……」
「野生の動物が野放し? やっぱり田舎じゃないっ!」

びしりと梁師範を杖で指しながらルイズは言い放った。
彼女の一言に強敵と対面した時のような冷たい汗が頬を伝う。
そういえばそうだったな。アナベベやヂェーンさんと一緒にいると忘れがちだがアフリカは秘境だった。
それにベガスやMAX主催の格闘トーナメントに参加してたせいもあるだろう。
己の迂闊さに舌打ちしながら彼は切り返す。
田舎者呼ばわりされて黙っているつもりは毛頭ない。

「……確かに。アフリカは第二の故郷とも呼ぶべき場所だが俺の生まれは違うぞ」
「どうせ生まれも田舎なんでしょ?」
「黙って聞けぇぇい! 西派の総本山は中国の奥深く、
その流派を秘匿する為、切り立った断崖により人里と隔離された……」
「人里離れてるって時点で十分ド田舎でしょうがっ!」

ルイズのツッコミに梁師範の額に太い血管が浮き上がった。
何でさんざ追い回された挙句に田舎者呼ばわりされなくきゃならないのか。
疲れていたのもあるだろうが元々彼は大人気ない性格なのだ。
やられたらやり返す、言われたら言い返すのが彼の中では当然だった。

「田舎者はテメエの方だろうがっ! 
飛行機も知らねえくせにバーカバーカ!
悔しかったらここまでおいでベロベロバァ!」
「殺すっ!!」

あっかんべーしつつペチペチと尻を叩く梁師範に憤怒の形相でルイズが迫る。
既に疲労感も失せ、内に滾る激情の赴くままに杖を振り回す。
立て続けに巻き起こる爆風を背に受けながら梁師範は脱兎の如く逃げ出した。
その後を追跡してくる少女を目線だけで確認し笑みを浮かべる。

実の所、意地を張っているが彼も限界が近かった。
こっそりと見えない所に隠れて肩で息をしたいぐらいに。
それほどまでに魔法という未知の技術との対決は彼に大きな負担を強いていた。
何が起きるか予想できない点ではライフルよりも恐ろしい。
しかも、まるで相手の攻撃が読めないのだ。
相手の意を察し先んじて動く、故に音速を超える銃弾さえ梁師範を捉える事は叶わない。
だがルイズの爆発は彼女の意のままに起こせる代物ではない。
それが逆に梁師範を撹乱する事に繋がっていたのだ。
現に、この爆発が失敗した魔法だとは梁師範も気付いていない。
虚実入り交ぜた高度なフェイント攻撃とさえ思っているぐらいだ。

かといって女、それも子供に手を上げるような真似は出来ない。
逃げる事も考えたが魔法がどこまで届くか判らない以上、気を緩めた瞬間に爆破される恐れもある。
だからこそ彼は挑発してルイズを誘い込んだのだ、トリステイン魔法学院の中へと。

外ならばいくらでも暴れられただろうが此処は違う。
連中の大切な学び舎では先程の様な爆発もそう引き起こせまい。
塔の内部に入り込んだ梁師範は勝ち誇った表情を浮かべる。

「はっはっは、引っ掛かったな! ここじゃあお前さんの魔法も…」

直後、梁師範の言葉を遮るように背後の壁が吹き飛んだ。
パラパラと崩れ落ちる校舎の壁を呆然と眺めながら、
ルイズを差す指が行き場を失ったようにぷらぷら揺れる。

「……覚悟しなさい。今その五体バラバラにしてあげるわっ!」

髪を振り乱し鬼気を背負ったその姿はまさしく般若そのもの。
長い前髪から垣間見える眼がぎらりと狂気の光を放つ。
既に彼女は理屈とか道徳とか常識とは無縁の世界に逝っていた。
蒼褪めていく梁師範の目前で彼女の杖が断頭の斧と化し振り下ろされる。
刹那。ルイズの感情を反映するように今までで最大の爆発が引き起こされた。

飛び散る破片から頭を庇いながら梁師範は廊下を跳躍した。
常人であれば十歩は必要とする距離、それは彼は一足にて成し遂げる。
振り返れば未だに爆心地では煙が立ち込めている。
その中で靴音を響かせながら幽鬼の如く桃色がかったブロンドの髪が揺れる。
少女の姿を確認する余裕さえなく彼は全力で逃げ出した。

「おい! 邪魔だ! どいてくれ!」

学院の生徒達を押し退けながら梁師範は駆ける。
平民風情が何を言っているんだ?と顔を顰める貴族の子弟達も、
後ろから追って来るルイズの迫力に思わず道を開けた。
この追いかけっこは梁師範にとって最も避けたかった展開だった。
如何に脚力に自信があるとはいえ狭い空間では満足に身動きが取れない。
ましてや、そこに人がいるのでは尚の事。
いつ逃げ場のない状況に追い詰められて爆破されるか知れたものではない。
背中越しに爆発に巻き込まれた生徒達の悲鳴が聞こえる。
もはや少女は完全に見境がなくなっている。
このままでは徒に犠牲者を増やすだけだ。

「……やるしかねえか」

呼吸を整えると同時に彼の身体が疾風と化す。
瞬く間に廊下の端まで走り抜けてルイズへと向き直る。
本来、メイジを相手に距離を取るなど愚の骨頂。
魔法の脅威を掻い潜り懐に飛び込まねば勝ち目などない。
しかし彼にはそれを覆す門外不出の技がある。

「煉精化気煉気化神…」

両の手は印を結び、その唇は呪文を紡ぐ。
呼吸と共に全身を巡る内気が練り上げられていく。
それは中国拳法に広く用いられる内気功の所作に近い。
だが彼の駆使する西派白華拳は他の武術と一線を画していた。
内気を己が身体にのみ作用する技法に留めず剄として外に放つ。
それこそが他の流派には有り得ぬ秘伝。

狙うは数瞬の間。掲げた杖を振り下ろすまでの隙。
十中八九、杖が無ければ魔法は使えまい。
ここまで観察した上で梁師範はそう推測した。
無論、的外れな予想となる可能性もある。
それでも女に手を上げるよりはマシだと判断したのだ。

「破!」

突き出した掌に合わせて蓄えられた剄が撃ち出される。
打透剄と呼ばれるそれは反応の間さえ与えず彼女の杖に命中した。
枯れ枝を踏み砕くかのような音と共にルイズの杖が半ばより断たれる。
音を立てて床に転がり落ちるメイジの一部というべき杖。
しかし、ルイズの眼が追っているのはそれではない。
驚愕の眼差しで見上げるのは自分の呼び出した平民の男。
未だに掌に僅かな光を帯びさせた男にルイズは尋ねた。

「アンタ……何者なの?」

少女に名を問われ、彼は首を傾げた。
ああ、そういえば自己紹介がまだだったなと思い出す。
もっとも、それどころでは無かったのだから仕方ないが。

「西派白華拳最高師範、梁」

自身の名と流派を誇るように彼は力強くそう答えた。
今はターちゃん流格闘術の二番弟子なのだが、
バカにされそうなのでそれは絶対に隠しておこうと彼は固く心に誓った。


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