あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

第8話 秘書


 弟子入りから三日ほどが過ぎた。
 基本的に彼らの日常には大きな変化は見られない。
 強いてあげるなら、使い魔と一緒でない授業において、キュルケやタバサが時々ぼうっとしていて教師に怒られたくらいであろう。
 少なくとも表面上は平和であった。



 そしてその日の夜、ルイズの部屋にて。
 弟子達との練習が終わった後、相変わらずパソコンに向かって何かを打ち込んでいるなのはに、ルイズが声を掛けた。
 「なのは、ちょっといい?」
 「はい、なんでしょうか」
 手を止めてなのははルイズに向き直る。ルイズはなのはの全身を一瞥してから、少しもったいぶって声を掛けた。
 「もう三日近く着た切り雀ね」
 「しかたありません。換えもあまりないですし。一応洗濯物が乾いてますから何とかなってますけど」
 何しろ着の身着のままで召喚されたのだ。そうそう替えの服が学院内で手に入るわけがない。
 「そうよね。でも使い魔の管理は主人の仕事。だからね、買い物に行きましょ。明日は虚無の曜日だから、街まで出られるわ」
 「……お願いします」
 一瞬、いいんですかと言いかけたが、ここで遠慮するのはむしろ無礼だとなのはも気がついた。
 「ただあれね。問題なのは街まで行く服装をどうするかね。最初に着ていた服も今着てるメイド服も、町中じゃちょっと目立ちすぎるわ。ただでさえなのはって結構人目を引くタイプだし」
 「うーん、あんまり自覚はないですけど」
 ミッドチルダではかなりの有名人であるなのはだったが、由来が由来だけに町中で取り囲まれるようなことはなかった。だがそれ故に、自分の容姿に関しては意外と無頓着な一面もある彼女であった。
 「誰かから普段着借りてくるしかないわね」
 「誰かいますか?」
 ルイズは少し考える。平民に頼むのは論外だ。その方が目立たないだろうが、なのはには合わないというか、ルイズが認めたくない。それに平民にとって服はどんなものでも貴重品である。かといって貴族となると、なのはと同年代の人物の心当たりは……。
 「ダメ元だけど一人いるわ。行ってみましょう」
 二人は連れだって教職員寮のほうへと向かっていった。



 ミス・ロングビル。表向きは没落貴族の末裔で現在の職業は学院長の秘書。だがそれは仮の姿。実のところ彼女の名前は別のもののほうが有名である。
 土くれのフーケ。
 それは最近トリステインを騒がせている、魔法怪盗の名である。土系統の練金とゴーレム使役を得意とし、ときには繊細、ときには過激な手段でもって盗みを働く。
 あるときは壁や鍵、ときには金庫すらも土に変えてしまい、ときにはゴーレムの一撃で強襲する。
 狙われるのはマジックアイテムがほとんどで、金銭や貴金属類は取らない。そして現場に必ず犯行声明を残していく。まさに『怪盗』であった。
 但し、ミス・ロングビルとフーケが同一人物であることを知るものはこの近辺にはいない。
 そんな彼女が今現在狙っているのは、学院の宝物庫に収められている秘宝の一つ、『破壊の杖』。かつてオールド・オスマンが学外の酒場で酔ったとき話に出た一品である。
 酔っぱらいの話と言うことで話半分に聞くとしても、その杖は一撃でワイバーンを屠る火球を発することが出来るらしい。本人が使ったのなら眉唾だが、話によればそれを使ったのは彼の命を救った人物だという。
 恩人のことで嘘を言う人物は少ない。酔っぱらいの話としても、論理的に破綻したところもない。故にこのネタは信用できる、と彼女は踏んでいた。
 だが、ここの宝物庫はトリステインの仕事でも一番の難物であった。
 さすがは魔法学院というか、掛かっている固定化が半端ではない。固定化と練金は相反する性質があり、強力な固定化の施されたものを練金で変質させることは出来ない。
 ならば力ずくでと行こうにも、壁があまりにも厚すぎて彼女のゴーレムでも破壊は難しい。
 だが世の中に完璧はあり得ない。頑丈な堤も蟻の一穴で崩壊する。そのための下調べを彼女は怠らなかった。

 そんな彼女は、最近宝物庫の裏手で自主練習する生徒を見かけていた。何かと話題の『ゼロ』のルイズとその使い魔のタカマチナノハ。彼女と決闘した『青銅』のギーシュ。あと外国からの留学生である『微熱』のキュルケと『雪風』のタバサ。
 ここ二三日、彼らは使い魔達と一緒にいろいろな魔法の実践を行っていた。
 見つかるとまずいと思い、遠巻きから眺めていたが、中心となっているのはあのタカマチナノハらしかった。彼女の前で他の人が使える魔法を一通り披露しているようであったが、珍しいことに彼女たちが失敗しているのをこの目で見ることになった。
 今日もいるのかと思ったが、さすがに虚無の曜日の前と言うことで誰もいなかった。
 ちなみに現代日本の常識だと休日の前は夜更かししている人が多いと思うが、学院では虚無の曜日は貴重な外出日である。街まで行くのに馬でも数時間かかるため、当日早起きして出かけるために前日早寝する方が多いのである。
 これ幸いとばかりに一通り調べてみたところ、ほんの少し違和感を感じた。
 わずかであるが、『固定化』に綻びが生じている。虫食いの穴のように、壁の一部だけ、固定化が解けているのだ。
 残念ながらそこを突破口に出来るほどの大きさはない。だが、わずかとはいえ固定化が解けているからには理由があるはずである。必死になってここ数日の様子を思い出した。
 そして一つだけ思い当たることがあった。
 丁度目の高さにある、一番大きな綻び。確か昨日、丁度ここに、ルイズことミス・ヴァリエールの失敗爆発が炸裂していた気がする。
 (まさか、彼女のあれ、『固定化』の魔法すらぶっ飛ばすのかい? だとしたら……)
 今の段階ではどうにかなることでもないが、心には留めて置こう。そう考えて自室に戻ったとき、危うく叫びそうになった。
 今の今まで考えていた、当のミス・ヴァリエールとその使い魔タカマチナノハが、自室の前に立っていたのだ。しかもドアをノックしている。
 噂をすれば影が差すというやつだろうか、などと言うことを思いながらも、彼女は二人に声を掛けた。



 ルイズとなのははミス・ロングビルの部屋の扉をノックした。だがなんの返事もない。
 「もう寝ちゃったのかしら」
 「さすがにちょっと早い気もしますけど」
 などと話していたところ、突然背後から、
 「何か用かしら」
 という声がしたので二人は飛び上がり掛けた。
 振り向くとそこには部屋の主が興味深げに二人を見つめている。
 「まだお帰りじゃなかったのですか」
 さすがに少し驚いてルイズが聞く。こんな夜遅くまで仕事だったのだろうかと。
 だが返ってきた答えは少し違うものだった。
 「夜の見回りよ。本当は宿直の担当者の仕事だけど、ここの先生達ったら、誰もやらないのよ。私もやりたいとは思わないけど、ほら、最近いろいろ物騒な噂があるでしょ?」
 「あ、土くれのフーケですか?」
 ルイズも噂は聞いていた。
 「ええ。ここにも貴重なマジックアイテムはいっぱいありますからね。そうそう、だから見てたわよ、ここ数日の自主練習」
 それを指摘されてルイズは思わず顔が真っ赤になっていた。
 「見ていたのですか?」
 なのはも思わず質問する。
 「邪魔しちゃ悪いと思ったから、遠くからですけどね。あそこは一応、見回りのチェックポイントですから」
 そのことには思い至らなかった二人であった。
 「必要なら許可を取りますけど……」
 少し心配そうに聞くルイズに、ロングビルは笑って返した。
 「そんなものいるものですか。現に私が見回るまで、本来の業務であるこれをやっている教師の方、誰もいなかったんですのよ」
 そういって意味ありげに二人の方を見る。最初意味がわからなかったが、少ししてはたと思い当たった。
 許可など出したら、宿直の見回りをサボれなくなる。
 正解が浮かんだとき、それを待っていたかのようにロングビルの声がした。
 「で、何の用なの? まさか立ち話しに来たわけじゃないでしょ?」
 「あ、はい、不躾ですがお願いしたいことがありまして」
 あたふたしながら言うルイズに対して、ロングビルは微笑みを――彼女にしては珍しく心からのそれを浮かべながら、部屋の鍵を開けた。
 「いいわ、お入りなさい。話を聞くわ」

 教職員寮の造りは基本的にはルイズ達の部屋とさしたる違いはなかった。だが彼女の部屋とルイズの部屋を比較したら、それが同じような作りだとはとうてい想像できないであろう。
 一言で言えば、物が極端に少なかった。最低限のものはあるが、どれも年季が入っている。おまけに私物らしきものがまるで見あたらない。
 極端に生活臭の薄い部屋であった。
 「びっくりした? 平民の部屋と変わらないでしょ」
 「ええ少し」
 ロングビルは別段卑下することのない口調で言う。ルイズはその口調に思わず本音で答えてしまった。
 なのはは黙ってまわりを観察している。実は念話でルイズに話しかけていた。
 (お願い、まずかったでしょうか)
 (今更よ。こうなるとお願いしない方がむしろ失礼だわ)
 普通の貴族と変わらないと思っていたルイズにとって、この殺風景は意外であった。
 「で、どんな用? こんな夜にわざわざ」
 傍らでお茶を入れつつ、ロングビルが聞いてくる。実に見事な手つきであった。
 お茶を受け取りつつ、ルイズは頼みを口にする。
 「実は、彼女に服を貸していただけないかと思いまして」
 ロングビルもそれを聞いて納得した。確かに、この学院内において彼女と同年の女性は意外に少ない。生徒はほとんどが十八以下だし、教師は大半が三十以上である。二十代前半の女性比率は、メイド達を入れても意外なほど少なかった。
 考えてみれば当たり前の話だが、意外な盲点と言えよう。
 「明日買ってこようと思ったんですけど、街に行くまでの服にいいのが無くて」
 「それはお困りでしょう」
 このときロングビルは彼女と親交を深めておこうと思った。おそらく彼女らはあの場での練習を続けるであろう。そんな中、あの固定化を解除したと思われる、ルイズの失敗爆発が充分な大きさで炸裂する可能性がある。
 プロバビリティの犯罪、というものがある。ターゲットを『確率的に被害に遭いやすい状況に誘導する』ことによって害する、ある意味気長だがそれ故に完全な犯罪だ。
 彼女らと近づいていれば、それを的確に知ることが出来る。そういう計算が働いていた。

 彼女が出してくれた何着かの服を試着し、一番サイズ的にもぴったりだったものを借りることになった。部屋は殺風景であったが、服そのものはそれなりの数をロングビルは所持していた。
 実は各所への潜入に使うため、ある程度のバリエーションが必要だったためであったが。
 お礼を言ってはいさようなら、では何となく寂しい気がしたので、少し世間話に高じることになった。

 「ミスロングビルって、アルビオンの出身なんですか?」
 「あらよく判ったわね。あまりいい思い出はないけど、今でも大事な人があっちに住んでるわ」
 「お茶の入れ方で……恋人、じゃなさそうですね」
 「当たり前じゃない」
 「あの、ひょっとして、こんなにここが殺風景なのは、仕送りでも?」
 「殺風景はひどいわね。でも正解よ」

 当たり障りのない会話の中、ロングビルは少し心が和むのを感じていた。
 何故か、見た目も性格も全然違うのに、ルイズの姿が妹同然の少女と重なる。
 そのうちにふと思い至った。
 ルイズも、そしてあの子も。環境は違えども、共通する点が一つある。
 二人ともまわりからその存在を否定されてきていた。
 ルイズは『魔法が使えない貴族』として。
 あの子は存在そのものが。
 一見するとルイズの方がましに見えるが、彼女はあのヴァリエール家の娘である。その辺の貧乏貴族とは格が違いすぎる。彼女の感じてきたプレッシャーは並の魔法下手な貴族の何倍にもなるだろう。
 ましてや彼女は『下手』ではなく、『使えない』のだ。魔法至上主義的な色の濃いトリステインにおいては、彼女の否定され方はそれこそあの子に匹敵しただろう。
 そんなことを考えていた彼女の視線が、使い魔の女性の方に移る。
 ここ数日、ミス・ヴァリエールの性格が丸くなったような印象をロングビルは感じていた。
 秘書としてここに勤めてそれほどの時は経っていないが、それでも彼女は悪目立ちする存在だった。決闘前から名前を知る、数少ない生徒でもあった。
 そんな彼女に対する印象は、一言で言えば毬栗。ミス・ツェルプストーとの喧嘩などから、かなり刺々しいところがあると感じていた。
 その刺が随分と抜けている。ある意味初めて魔法に成功――多少問題有りであるが――したことと、このタカマチナノハという女性の性格も大きいのであろう。なのはと呼んでください、と挨拶した彼女からは、見た目の歳より遙かに落ち着いた印象を受けた。
 同時にフーケとしての本能が警告していた。決闘のときに垣間見た実力以上に、彼女が並ならぬ修羅場をくぐっているプロだ、と。
 出来るだけ敵には回さない方が良さそうだ、とフーケとしての彼女は認識している。
 だが、ミス・ヴァリエールの従者としての彼女は、あの子と自分の関係に近いのかも知れないとも感じていた。ナノハの態度にはそんなことを思わせる何かがあった。
 気がつくと結構な時間が経っていた。年の近い女性同士、そして貴族であって貴族でない、魔法を使える平民、といったような立場、そういった面があったせいか、結構深いところまで語り合ってしまった気がする。
 二人が部屋を辞した後、ロングビルは今の逢瀬を思い返していた。
 ナノハのほうも本来話してはいけなさそうなことまで話していたようだ。
 出身地がこことは別の、月が一つしかない世界だとか。
 彼女が使ったあの魔法も、そこではごく一般的なものだとか。
 ルイズが魔法を使えないのは、彼女が拙いせいではなく、もっと根本的なところに理由があるとか。
 ……冷静になってみると、ある意味金になりそうなヤバいネタも聞いてしまった気がする。
 そして思うのはあの子、テファのこと。
 彼女には大きな秘密が二つある。一つは秘密というか、生まれのこと。
 ハーフエルフ。人間とエルフの間に生まれたもの。
 この地において人間とエルフは種族レベルでの宿敵である。だが実際には、両者は意外に近しい存在だ。交わって子がなせる以上、他の亜人とは比べものにならないくらい両者の距離は近しい。
 だが今の世間でこの事実が知られたら、下手をするとエルフ以上の迫害を受けることになる。近親憎悪というのはただの憎悪より激しいものだ。
 だが、それすらもう一つの秘密に比べればまだ小さい。いや、個々の秘密ならそうでもないが、複合したら最悪のことも考えられる。
 テファは……『伝説』の使い手であった。
 『虚無』。始祖の使いし伝説の系統。今では失われた始祖の御技を、よりにもよって人間とエルフの間に生まれた忌み子が担っている。それは考え方によっては、始祖の神性を汚すものともなり得る。
 うまくやれば逆に始祖の恩寵として彼女の立場を守るのにも使えるが、裏目に出たら最悪のこととなる。
 「世が世ならあの子は王弟の娘として世に立つ存在なんだよね……ん?」
 ふと彼女は何か引っかかるものを感じた。そしてはたと思い至る。
 「そういえばミス・ヴァリエールも王の庶子の系列なのよね。立場もあの子に似てたってわけか」
 その時何かが彼女の脳裏を走った。根本的に系統魔法の使えない貴族。
 「そういえばテファも系統魔法はからっきし使えなかったっけ……まさか、ね」
 何かを振り払うようにして、彼女は寝床に入った。







 「勿体ないわね」
 ミス・ロングビルの部屋を出たルイズが開口一番に行ったのがこの言葉であった。
 「何がですか?」
 そう問うなのはにルイズは答える。
 「ミス・ロングビルよ。あの人、没落しているとはいえ、当人はまがう事なき貴族だわ。だいぶ所帯じみてるみたいに見えるけど、心根に貴族の誇りを宿している。なんであんな貴族らしい人が没落して、貴族の誇りをかけらも持たない輩が貴族面しているのかしら」
 だからかも知れません、とは言えないなのはだった。
 「いずれにせよ、悪い方じゃありませんね」
 借りてきた服を手に、なのはも思う。
 はっきりとは言わなかったが、遠い異国に家族同然の人物を残しているらしい。決して安くはない筈のここの給料を、かなりの額送金しているようであった。あちらと違って為替の手段も発達していないここでは、手数料もリスクもかなりのものになるであろうに。
 ものすごく大事にしている様子が、言葉や態度の端々から伝わってきていた。
 「いつか私がちゃんとした貴族になったら、ああいう人をとりたててあげたいわ」
 ルイズはそんなことを言う。
 知らぬが仏、とはよく言ったものである。
 だが、この逢瀬が、世人のあずかり知らぬところで運命を大きくねじ曲げたのも、また事実であった。
 「さ、だいぶ遅くなっちゃったわ。早く寝ましょ。なのはのベッドも入ったことだし」
 「はい、ご主人様」
 仲良く部屋に戻る二人を、双月だけが見守っていた。




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