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新約・使い魔くん千年王国 第十九章 勇気

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《このすべての出来事は、主が預言者イザヤを通して言われた事が成就するためであった。
 「見よ、乙女が身篭って男の子を産む。その名はインマヌエル(神が我らと共にいます)と呼ばれるであろう」と》
  (新約聖書『マタイによる福音書』第一章より)


始祖ブリミル降臨暦6243年、ヤラの月。降臨祭が終わる頃。
アルビオン大陸に攻め込んだトリステイン軍は、謎の反乱とゲルマニア軍の離反により、壊滅寸前であった。
松下率いる『千年王国』軍団は、敗走するトリステイン軍を羊飼いのように導き、スカボロー港へ向かう。
以前に上陸地としたロサイス港には敵の艦隊が待ち構えているのだ。

しかし三万足らずとは言え、これだけの人数を本国へ輸送できるだけのフネの余裕はあるまい。
アルビオンからの脱出は早い者勝ちだ。敵に捕まればどうなるか分からないが、ぼろぼろと投降する者もいる。
そこへゲルマニア・アルビオンの連合艦隊が現れ、空中からぶわっと降伏を促すビラを撒く。
捕虜の生命と身分は保証する、との文面だ。それを見て、投降するものの数はどんどん増えていく。

「ははは、脆いものだな! しかし伯爵、捕虜が何万もおっては負担ではないかね?」
「捕虜諸君の生命と身分は、確かに保証しますよ。有能ならゲルマニアの軍人や官僚にもなれるでしょう。
 ただし、身分と能力の低い奴は武器工場で死ぬまで働かせます。合法的な奴隷としてね」

ゲルマニア艦隊の旗艦では、総司令官ハルデンベルグ侯爵と黒幕ブラウナウ伯爵が笑っていた。
ここまでは作戦通りだ。ゲルマニアとガリアの本国では、何も知らないトリステイン本国を奇襲する手筈になっている。
小国が気張ってあれだけの兵力を動員したところで、両大国はそれぞれが、あの国の十倍以上の国力だ。
マザリーニ枢機卿がいかに有能であっても、資本の蓄積が根本的に違う。日本とアメリカほども違う。

「さあて、アルビオン大戦の仕上げだ。イスカリオテのギーシュくんは、ちゃんと松下を裏切ってくれるかな?
 メシアの持つ強力な『命運』を覆し、死に到らせるには、悲劇的受難というシナリオを作るしか方法がないからなぁ。
 これぞ秘策『シナリオ縛り』の術さ。ははははははは……」

『松下一郎』は一万年前から出現すると預言(予言)されていたメシアであるがゆえに、『預言』の通りの運命をたどる。
だがカエサルもキリストもナポレオンもヒトラーも、飛びぬけた英雄は必ず悲劇的な最期を遂げるものだ。
その筋書きを作ってそちらへと導けば、メシアである彼はそのシナリオに縛られ、遂には『預言通り』死に到るだろう。
風が吹けば木の枝が揺れるように、その呪術的な力は世界という劇場に自動的に働き、役者の運命を動かす。
これこそがブラウナウ伯爵、ダニエル・ヒトラーの秘策なのだ。

「もしあいつが本当にメシアなら、死んだところでいずれ生き返るだろう。
 だが人間である以上、復活には時間がかかる。それまでに僕は僕の『千年王国』の地盤固めをしておくさ。
 そして松下を偽メシア、反キリストとして貶め、僕が『聖地』に先に到達して真のメシアとなってやる!」


敗走が始まって、二日目。トリステイン軍の残りは、もうほとんど降伏するか逃げ散ってしまった。
それでもスカボローへ向かう松下たちのもとに、ギーシュがホウキで舞い戻ってきた。
顔は蒼白で、脂汗たらたら。震える手には、総司令官となったウィンプフェンからの命令書が握り締められている。
それを見たルイズは、いやな予感がした。命令書を受け取り読み終えた松下は、眉根を寄せてふんと鼻息を吹く。

「ぼくとルイズに命令だ。スカボローからの総司令部と非戦闘員の脱出を援護するため、殿軍を務めろ、だとさ」
「し、しんがり……私とあんた、で?」
「まあ『千年王国』軍団も使えということだろう。まったく、無能で臆病な連中だ。
 スカボローから50リーグ手前の隘路に敵を引きつけ、食い止めろ、だと。
 ロサイスも他の軍港も奪い返されているから、スカボローも外側から封鎖されかねん。事態は急を要するな」

「い、幾らなんでも、さすがにヤバイんじゃないかい?
 こっちは千人ちょっとだけど、敵は七万、いやさ十万はいるかも知れないんだぜ」
ギーシュは、がたがたがたがたと震え続けている。松下はそれを聞き流し、ルイズの方を向く。
「ルイズ。護衛をつけるから、きみは命令を聞かなかったことにして、急ぎ脱出したまえ。
 きみに万一のことがあれば、ヴァリエール公爵が怒る。ギーシュは残れ」

こりゃもうダメだと悟り、ギーシュは精神的ショックでぶっ倒れた。しかしルイズは首を横に振る。
「いやよ! 殲滅しろっていうんじゃなく、食い止めればいいんでしょ、食い止めれば!
 私とあんたと、この狂信者たちがいれば、十万の大軍なんかどおってことないわ!
 一騎当千の勇者が千人いれば、計算上は百万の軍集団じゃないの!」

「……もう一度言う。この場は逃げろ、帰国するんだ。きみまで捨石になる必要はない」
「いや。何回言っても聞かないわ、逃げ隠れるのはもうごめんよ。
 貴族は後ろを見せずに戦い、名誉を勝ち取るもんなの。それに……司令部はともかく、非戦闘員は逃がさなきゃ。
 弱い味方を逃がすため、強大な敵に立ち向かう戦いよ。これってとても名誉なことじゃない?」

ルイズの鳶色の瞳は、狂人のそれではない。迷いを振り切り、澄み切った強い意志を感じさせる、凛とした目だ。
彼女はただ、狂おしいほどに『認められたい』のだ。ゼロではない、無能ではない、できそこないではない、と。
両親や家族に、貴族や平民に、学院のみんなに、王軍に、女王や枢機卿に、国家に、世界に認められたい。
そして自分の使い魔、マツシタにも。おお、それにしてもなんという勇気であろう!

「ぼぼぼぼ、僕は、僕は死にたくない! 帰る!」
「ギーシュ。グラモン家家訓、『命を惜しむな、名を惜しめ』、でしょ!
 元帥閣下の家に生まれたあんたが、真っ先に逃げ出すなんて恥を知りなさい!」


ルイズの決心は固いようだ。ギーシュ以外の全員も、松下に従って戦いたいと言う。
松下は、彼らの多くの顔に死相が出ているのを見てぎょっと驚き、深く溜息をついた。

どうやら敵の『シナリオ縛り』の術中に嵌ってしまったようだ。そうすると、ぼくは再び死ぬ可能性が高い。
敵は降伏した兵士や民間人を『人間の盾』に使うかも知れないが、それらをいちいち助けるだけの余裕もない。
総員死に物狂いで戦って、一日だけ進撃を食い止める。それが精一杯だろう。

「しかしルイズ、自信たっぷりのようだが、いい『虚無』の魔法は見つかったのか?」
「ええ、時が来たようね。この『始祖の祈祷書』に使える呪文が出てきたわ。
 一緒に出て来た解説によれば、虚無にもおぼろげながら『系統』みたいなものがあるらしいの」
「ほう。まあ、虚無も四つあるらしいからな」
「私の虚無の系統は『移動』。時空間に『穴』を開き、自分や他者を移動させる系統よ。
 あんたの『ヴィンダールヴ』も、《あらゆる獣を操りて、導きし我を運ぶは地海空》と歌われているものね。
 それでね……(ひそひそ)………どう? 使えそうでしょ!」

ルイズは嬉しそうに、松下に自分が見つけた呪文の事を話す。
それを聞いた松下も、くくっと笑った。

「分かった、ならば戦おう。勝機はある。
 では第七使徒マルトー、きみにはこの『白い粉』の入った壷と、信仰心の特に篤い信徒十二名を授ける。
 万一のときに備え、『千年王国』教団再興のためアルビオンに隠れ潜んでいるのだ。
 絶対に死ぬな、ぼくの帰還を待て。ぼくは必ず帰ってくる」
「承知いたしました、『我らのメシア』」

マルトーと十二人がホウキで飛び去ると、松下は近くの丘の上に一同を集め、両手を振り上げて大声で叫んだ。
「さあルイズ、シエスタ、ギーシュ、そして『千年王国』の諸君!!
 これより我々は、味方の脱出を助けるため、推定兵力十万のアルビオン・ゲルマニア連合軍に立ち向かう!
 戦艦も竜騎士も幻獣も亜人兵もいるし、メイジや火器の質・量とも圧倒的に向こうが上だ。
 だが、我々にあって彼らにないものがある! それは伝説の『虚無』の魔法と正しい信仰、そして鉄の結束だ!」

 「「AMEN(そうだ)!!」」

「世界をひとつにし、貧乏も戦争も病気もない『千年王国』を築き上げるには、
 この戦いはどうしても乗り越えなくてはならない試練なのだ!! 全力で立ち向かわなくてはならない!
 人は我々を狂人の集団と呼ぶかもしれない! しかし彼らは、真の教えを悟らないのだ!
 諸君、この戦いで肉体が滅びても、それは霊となって生き、永遠不滅の生命に与かることだ!
 死に到るまで雄雄しくあれ! そうすれば諸君は、輝かしい至福千年王国に入ることができるであろう!!」

 「「「「AMEN!! AMEN!! AMEN!!」」」」


かくして一同は指定された隘路に潜み、敵の進軍を食い止めることになった。
その近くには打ち捨てられた砦があり、二つの丘の上からスカボローへの街道を見下ろすような地形になっている。
兵力差は数十倍、正面からぶつかるのは無理だ。指揮官たちを潰すか、ゲリラ戦で足止めするしかない。
敵の移動速度から、推定到着時刻は今夜遅くか、明朝になろう。それまでに迎撃準備をしておく。

「土メイジは塹壕と陥穽、それにゴーレムを作っておけ。風メイジは偵察・斥候だ。
 水メイジは衛生兵として後ろに控え、火メイジは敵の『目』を攻撃すること。
 順次、風メイジ・土メイジも攻撃に加える。単に殺すより、恐怖を煽れ! 地形と暗闇を活用せよ!」

松下はメイジたちに指示を与え、平民兵には銃器の点検と食事、交代での休息を命ずる。
「では、この魔道書に封印しておいた『地獄の番犬ケルベロス』を呼び出し、戦列に加える。
 金属の壷に封じてあるデカラビアとブエルも、サポート程度には使えるだろう。
 確か、触れただけで傷を癒す力があったはずだ。使い魔も沢山呼ばせて、盾にしてやるか。
 ルイズは切り札の呪文が完成するまで、この奥でトランス状態に入っているのだ」
「分かったわ。でも強力な分、詠唱が完成するまでにはかなり時間がかかりそうよ」

ルイズの答えに頷くと、松下は地面に魔道書を広げ、壷を置く。その周りに魔力の強い信者たちが集まる。
「さあ諸君、呪文を唱えよう。エロイムエッサイム、我は求め訴えたり……」


《朽ち果てし大気の精霊よ 永遠なる呪いの深淵に転落せる精霊よ 地獄の犬よ
 永遠なる呪いの深淵に転落せる精霊よ
 悪魔の怨霊の大群のただ中に 雄々しく立てる我を見よ
 エロイムエッサイム エロイムエッサイム
 イン ゲ トゥ イ ゲ シ サン ミム タ チュ
 天地万物を混乱に陥れている地獄の魔物よ 陰気なる住みかを立ち去りて 三途の川の此方へ来たれ
 エロイムエッサイム エロイムエッサイム 我は求め訴えたり》
  (18世紀末の魔道書『黒い雌鳥』より)


呪文によって魔道書から巨大なケルベロスが、壷から悪魔デカラビアとブエルが解放され、戦列に加わる。
戦乱の浮遊大陸アルビオンで、人知を超える戦いが始まろうとしていた。


さて、時刻は真夜中。アルビオン軍四万を率いて南下するのは、ダータルネスで不覚を取ったホーキンス将軍。
歩兵、騎兵、砲兵、竜騎士、亜人兵などを纏め上げ、進行方向にいる敗残兵の掃討と投降してきた捕虜の収容に努める。
サウスゴータの反乱兵も加わり、兵力は七万にも膨れ上がる。ロサイスはすでに奪取し、残る逃げ道はスカボロー港のみ。
これだけ脱落者が出れば、トリステイン軍はもはや崩壊、雲散霧消したといってもよかろう。

「この戦は、どうやらこちらの勝利に終わりますかな。『蜘蛛仙人』殿」
「さあてのう、将軍。まだ抵抗する連中が残っているようじゃわい」

200リーグほどを数日で走破する強行軍で、兵にも疲れが見える。
そこで陣営を築いて各地の軍勢を集結させつつ、ホーキンスは天幕の中で軍議を開いている。
蜘蛛仙人と呼ばれた禿頭白髯の小柄な老人は、片手に持った近辺の地図の一点を、とんと指で突いた。
40リーグほど先にある丘陵地の中の、街道の関所でもある隘路だ。

「ここじゃ。この隘路に、千人ばかりの敵が潜んでおる気配がある」
「それだけですか。七万の大軍でかかれば、一揉みではありませんか。放っておいてもいいのでは?」
「いやいや、地形もよく選ばれておるし、どうせスカボローへはこの道を通らねばならん。
 まずはわしが軍団を率いて探りを入れてみようぞ。揉み潰せたらお主はゆるりと通ればよろしい」

そう言うと、彼は手勢数千を率いて空中を飛び、隘路に近付く。彼も『悪魔』のようだ。

「メシア、敵襲です! 空中を飛んで来ます!」
「うむ、この妖気は『悪魔』だな。ではケルベロスよ、敵を充分引き付けてから、火炎と煙を吐き出せ!」
蜘蛛仙人の軍勢が隘路の手前に迫り来ると、物凄い炎と黒煙が彼らを包んだ!
ケルベロスが三つの口から吐き出した、地獄の業火である。煙にはトリカブトが持つような猛毒が含まれている。

「おおっ!? こいつは驚きじゃ、ケルベロスか!
 ならばそこに潜んでおるのは、『東方の神童』マツシタじゃな! 大物が残っておったわい!」

数十の悪鬼が一度に焼き殺されるが、蜘蛛仙人は炎を浴びても平気な顔だ。
彼はしわがれ声で呪文を唱え、巨大で恐ろしく醜悪な悪魔の姿を現す。
体は大蜘蛛、頭は三つ。大きな禿頭には王冠を戴き、その左右にヒキガエルと猫の首が生えている。
地獄における最も有力な魔神、ソロモンの七十二の霊の筆頭、『東方の王』バエルだ。

「「ははは……タルブの戦いでは、よくもわしを『地獄の門』から召喚してくれおったな!
 この『東方の王』にして主(バアル)なる神であるバエル様を、なめるでないぞ小童めが!!」」


「おおっ、バエルか! よりにもよって厄介な奴が来たもんだ!」
バエルはウワッハハハと高笑いし、松下たちに呼びかける。
「「たったの千人で、七万を超える軍勢を防ごうとはのう! 愚かな、そして無駄なことよ!
 トリステイン軍はすでに壊滅し、スカボローにもロサイスから、ゲルマニアのフネが回り込もう!
 それにな、帰還できても本国にはガリアとゲルマニアが攻め込んで来るぞ! 今のうちに、大人しく降伏せい!!」」

「もうあとには引けん、ぼくらはここで戦う!
 ……EXARP、EHEIEH、ORO IBAH AOZPI、YHVH!
 《東の大いなる王》BATAIVAH の御名に於いて、《空気の霊》たちよ、汝の創造主を崇めよ!」

松下が東方に向かって『風の召喚五芒星』を描くと、猛烈な嵐と稲妻が迸ってバエルの軍勢を打ちのめす。
ヘブライの神が偶像神バアルから奪い取った、大いなる天の雷である。

「「ぬう、小癪な小童め! わしに嵐と稲妻で対抗するとは!」」
「堕ちた神よ、今から地獄へ送り返してやる! ぼくに代わって七年の間、不毛な冥土の底で眠りにつけ!
 《アナテマ・マラナ・タ(呪われよ、主よ来たれ)》!!」
「「わしもきさまも、死んで甦る神ということか! しかし、その呪いの言葉にはかからぬぞ!
 死ぬのはきさまじゃ、『東方の神童』マツシタめ!!」」

かーーーっとバエルが三つの口から大量の蜘蛛の糸を吐き出す。
松下は『占い杖』を回転させて『炎の杖』に変え、蜘蛛の糸を焼き払う。
バエルの率いる66軍団の地獄の悪霊どもと、松下率いる『千年王国』軍団の決戦が始まった!

ホーキンス将軍は夜明けを待って進軍を再開することにしたが、凶暴な亜人兵は興奮して騒ぎ立て、先へ先へと暴走する。
その勢いに引きずられるように、やがて七万の軍勢もぞろぞろと、黒い闇の中を地響き立てて進み出した……。


《汚れた霊に憑かれた人が墓場から出て来て、イエスに出会った。
 …彼はたびたび足枷や鎖で縛られたが、鎖を引きちぎり足枷を砕くので、誰も彼を押さえつけることはできなかった。
 そして昼も夜も墓場や山で叫び続け、石で自分の体を傷つけていた。
 …イエスが「何という名前か」と尋ねられると、「レギオン(軍団)といいます、大勢なのですから」と言った》
  (『マルコによる福音書』第五章より)


迫り来るその時を前に、ルイズは暗闇の奥で『虚無の呪文』を呟き続けている……。

(つづく)


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