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イザベラ管理人-06


第6話:翼人と人間・後編

「イ、イザベラ…?」
周りの全ての存在を圧しながらイザベラは部屋に踏み込んできた。
ズンズンと重い足音とともに一直線に耕介へ向かい…
「あの手紙はなんなんだい!!」
耕介とイザベラでは身長が30㎝以上も違うのだが…何故だか耕介はイザベラに見下ろされている気分だった。
「え、何って、そのままだけど…どうしたんだ…?」
全くわかっていない風の耕介にイザベラの怒りは限界を突破し、更なる高みへと上昇していく。具体的に言うと今ならラインクラスになれそうなくらい。
「何が付き合うよ、だ!!あんたが元きょ………」
そこで唐突にイザベラは気づいた。
そう、耕介は何も知らないのだ。
イザベラが何故、耕介に対してあんな態度をとったのか、欠片ほども理解していない。
当然だ、何も話していない上に耕介は異世界からやってきたのだ、世界情勢も一般常識も知らない。
自分の怒りは理不尽極まるものだ。
だが、理屈ではわかっていても抑えることはできなかった。
「え、『げんきょ』…?」
不思議そうに聞き返してくる耕介の間抜け面を見て、いったんは踏みとどまった怒りの奔流が再び溢れ出した。
「子ども扱いするんじゃないよ!あたしはもう17だ!後…イザベラ『様』だって言ってんだろぉぉ!!」
イザベラの次の行動を見ていたヨシアは後に語った。
「あれは…俺たち男にしかわからない激痛です…見ていただけなのにこっちまで痛くなりましたよ…。」
そう、イザベラは激情のままに耕介の股間を蹴り上げたのだった。
「ぐふぅ!!」
如何な神咲流剣士といえど、この部分だけはどうしようもない。
股間に響く呻きだけを残し、耕介は撃沈した…。

耕介が正気を取り戻すのにしばしの時間がかかった。
それまで、耕介は白目をむきながら「筋肉ムキムキの髭のおっさんが『2代目マドモワゼルに!』って俺に黒いビスチェをもって迫ってくる…」とうなされ続けたのだった。
意識を取り戻した耕介が最初に感じたのは、果てしなく重い空気だった。
まず、イザベラが憤怒の表情で仁王立ちしているが、これはいつものことである。
次にタバサが我関せずと本を読んでいる。これもまたいつものことである。エアリード機能などとっくの昔に氷結して壊れているのだろう。
さらにヨシアがガタガタと震えながら後ろにアイーシャをかばっている。彼の勇気ある行動を賞賛したい。
最後に、アイーシャが悄然と俯いている。どうやら見つかってしまったようだ。
ついでにシルフィードが窓枠に頭を乗せて眠っている。主と似て、エアリード機能など壊れ…いや元から存在していないのかもしれない。
有体に言って一触即発の戦場状態である。
「…えっと…何が…起きてるんだ…?」
その耕介の言葉に答えたのは未だ怒り心頭のイザベラであった。
「そこの羽根女がベッドの向こうに隠れてたから引っ張り出してきたのさ。コースケ、説明してくれるんだろうねぇ?」
耕介はヨシアに視線を向け…ヨシアはそれだけで意図を読み取った。
「えっと…実は、アイーシャの体は隠れてたんですけど、翼が隠せていなくて…。」
体隠して翼隠さず。ここにことわざが一つ誕生した。
「い、イザベラ、落ち着いて聞いてくれ。これには色々と理由があってだな…。」
耕介はもう一度金的を食らう覚悟で説明を始めるのだった。

「…………なんだって?」
イザベラの機嫌は怒りを通り越して呆れに到達し、さらにそれを超越してもう一度怒りに戻ってきていた。
「翼人と村人に話し合いの席を作って、和解させる?」
「ああ、その方が丸く収まるだろ?」
耕介の案とは、これだった。
翼人側は巣を作った木を切り倒されたくはないし、季節ごとに住処を変えるのだからこれからも今回のようなことは起こりうる。
村人側は木材を高く売って儲けたいし、それを邪魔されたくはない。
異なる二つの集団が互いの利害を照らし合わせ、譲歩できるところは譲歩し、協力できるところは協力する。
今も昔も変わらぬ組織同士の仲裁手段だ。
何も不思議なことなどない。
そう、これが異種族同士で、かつハルケギニアという閉鎖的な社会でなければ。
「あんたのバカさ加減にはほんとに際限がないね!そんなことできるわけないだろ!」
イザベラがそう叫んだ瞬間、耕介はイザベラの背後に鬼を見た。いや、イザベラの頭から角が生えているのを目撃した。

「そ、そんなにおかしいか…?」
「あ・た・り・ま・え・だ・ろ!!それにあたしが命じたのは掃討だよ掃討!」
耕介とて既に両者の間で戦闘が起こっているのだし、難しいことなどは理解している。
だが、試す価値がないとは思わないし、既に翼人の少女と村の青年のカップルもできているのだ。
利害の調整さえうまくいけば、この問題は丸く収まると考えていた。
だが、イザベラを含めたハルケギニアの大多数の者は、翼人のような亜人を同じ位置に立つ者とは認識していない。
だからこそ、利害の調整など完全に考慮の埒外なのだ。
亜人…いや、他者への認識の違い。それがハルケギニアの大多数と耕介の間の温度差だった。
「なぁイザベラ、一度だけでいいから、試させてくれないか?俺には不可能だとは思えないんだ。」
その温度差を感じながら、それでも耕介は言い募った。
自らがさざなみ寮の管理人槙原耕介であるが故に。
「お、王女様に畏れ多くもお願い申し上げます!一度だけ機会を与えていただけないでしょうか!」
「私からもお願いします、誇り高き人の王族のお方…。」
ヨシアとアイーシャが土下座して頼み込む。
3人の必死な様子にイザベラはたじろぎ…
「く…なんだってんだい…わかった、わかったよ!ただし一度だけだ!それでダメなら…わかってるね?」
折れたのだった。
「ああ、ありがとうイザベラ!」
耕介が満面の笑顔で礼を述べ、ヨシアとアイーシャが手を取り合って喜び合う。
一方、イザベラは自分が信じられない思いだった。
(なんであたしは…!いつもみたいにつっぱねりゃいいのに…!)
以前のイザベラなら、にべもなく突っぱね、タバサに翼人掃討を命じていただろう。
だが、耕介を召喚してからというもの、自分の何かが変わってきている。
そのことに、イザベラは恐怖を感じるのだ。
自分を守るために張り巡らせた十重二十重の棘の鎧を着た自分が…いったいどう変わるというのだ?
そして、部屋の外でずっと待たされている、イザベラに足として使われた東花壇騎士団所属バッソ・カステルモールは呟いた。
「私、忘れられていないか?」
全くもってその言葉は正しい。

既に夜も遅くなっていたので、イザベラも村長の屋敷に泊まることとなった。
アイーシャは事前に他の翼人にも話をしておくと言い置き、去っていった。
村長は顔を青くし、イザベラも粗末なベッド(宮殿に比べればたいがいのベッドは粗末だろうが)に文句を言いつつも朝まで問題は起きなかった。
なんだかんだでイザベラも睡眠不足で疲れていたのだ。
そして翌朝…耕介はいつも通りの時間に目を覚ました。
まずは日課である御架月の点検。昨日は御架月の相手をあまりできなかったので、御架月の考えも聞いておく。
「僕は耕介様ならできると思います!だって、耕介様はさざなみ寮の管理人なんですから!」
御架月は、耕介を信頼しきった声で言う。そしてそれは、耕介の背中を押す最後の一押しになった。
「ありがとうな、御架月。頑張るよ。」
タバサを起こさぬように部屋を出て、気合を入れるために両頬を一発叩く。
「うし、気合入れていくぞ!」
まずは台所へ向かう。
騎士様にそんなことはさせられないと渋る村長の奥方を説き伏せ、料理を手伝いながらこの地方の家庭料理をリサーチする。
この男、骨の髄から料理人である。
朝食が完成した頃、匂いに惹かれたのかタバサとカステルモール、村長が起き出してきた。
タバサは料理を手伝っている耕介を見てわずか首を傾げたが…この男を自分たちの常識で計ることのバカバカしさに気づいたのか、何も言わず食卓に着いた。
カステルモールもいぶかしげに耕介を見つめるが、彼はイザベラの肝いりで宮殿に入ったとのことらしい。
イザベラに気に入られるような者だ、さぞや彼女の退屈を紛らわせる変わり者であるのだろう、と勝手に失礼極まる結論を下した。
面従腹背の男、カステルモールが耕介と関わるのはもうしばし後のことである。
次に、耕介はイザベラを起こしに向かった。朝食のためもあるが…相談したいことがあったのだ。
「イザベラ、起きろー朝飯だぞー。」
しかし、普段から昼まで寝ているイザベラである、揺すった程度で起きるわけもなし。
そこで、寝ぼすけどもを叩き起こす、耕介必殺の一撃を見舞うことにする。
すなわち…
「起きろイザベラー!あーさーだーぞー!」
おたまとフライパンを叩き合せる騒音攻撃。これで起きない奴はまずいない。
「うふぁ!?」
奇声を上げながらイザベラが飛び起き、周囲を見回す。

「起きたか、イザベラ。朝食ができてるぞ。」
「へ…ちょう…しょく…?」
おきぬけで頭が起動していないイザベラは不思議そうに耕介を見つめる。
「ほーれ、いくぞー。」
眠たげに目をこするイザベラを小脇に抱えて耕介は食卓へと戻っていった。

耕介たちが戻った時の彼らの受けた衝撃は相当なものだった。
一国の王女を小脇に抱えて運搬した耕介は、あいていた椅子に適当に座らせ、おたまとフライパンを台所に戻してくる。
あまりにも目の前で起こった出来事が非現実的過ぎて誰も何も言い出せない。
そんな空気を全く読まず、耕介はシルフィード用に作っておいた餌をやりに外へと出て行った。
程なく耕介は食卓に戻り、全く空気を読まずに「食べましょうか!」と宣言した。
事ここに至って、やっと皆が再起動した。いや、タバサだけはすぐに食べ始めたあたり、既に諦めていたのかもしれない。
「き、きき貴様!一国の王女に向かってなんたる無礼!今ここで打ち首にしてくれる!!」
カステルモールの対応はハルケギニアでは全くもって正しい対応だ。
しかし、耕介にそんなものは通用しないのである。
「朝食は一日の活力ですから。イザベラは普段から食べてないらしいけど、今日はそういうわけにもいかないですしね。」
耕介はカステルモールの怒気などなんのその、未だ半分夢の中にいるイザベラに朝食を食べさせながら食事を続ける。
「な…なんなんだお前は…。」
イザベラはまだ意識がはっきりしていないらしく、素直に耕介が差し出すスプーンを口に入れている。
まるで親鳥と雛鳥だ。後でイザベラがこのことを知ったら、証拠隠滅のために村ごと滅ぼしかねない。
耕介のあまりの余裕ぶりに毒気を抜かれたカステルモールは、結局諦めることにしたようだ。
なにせ彼はイザベラの直属の配下、おそらく何らかの事情があるのだろう…かなり無理のある結論だが、そう信じ込むことにした。
カステルモールは表向きは現王家に忠誠を誓っているが、彼の真の忠誠は王弟家…すなわち、最後の生き残りであるシャルロットとその母に捧げられている。
故に、彼女をこき使う王ジョゼフと北花壇騎士団長イザベラの動向を探っている…その関係で彼は耕介の存在を事前に知っていた。
しかし、報告によればこの男は単にイザベラがどこからか連れてきた平民の剣士…ということしかわかっておらず、メイジでないので調査優先度も低かった。
だが、この男は徹底的に調べるべきかもしれない…カステルモールはそう考え始めていた。
ちなみに彼がイザベラの足に使われたのは、プチ・トロワに東花壇騎士団連絡役としてやってきた時に捕まったからである。
騎士として、乗竜術を修めていたのが仇となった形だ。
結局、イザベラが起動したのは食後…しかも、耕介によって顔を洗うために冷水を含んだ手ぬぐいを渡された時であった。
「…あれ…耕介…?………夢……?」
「おはよう、イザベラ。調子はどうだ?」
「……いや…わるかないけど…。」
イザベラは状況を理解できなかった。
何やら無理やり叩き起こされたような記憶があるが、あやふやでどうにも現実感がない。
その後、誰かに子どもの頃のように食事を食べさせてもらったような気もするが…やはり現実感がない。
「耕介…えっと、なんであたしここにいるんだい…?」
状況から考えるに、もしかしたらもしかするのかもしれない。しかし、それはイザベラにとって認めがたい、最悪の想像だ。
「なんでって、昨夜突然やってきたんじゃないか。」
「そ、そういうことじゃ…!いや、やっぱいい…。」
結局、本当だったとしたら耐えられそうにないので、イザベラは忘却することにした。
人間、精神衛生に悪いことは忘れるべきである。
とりあえず手ぬぐいで顔を洗い、目を覚ます。
「で、イザベラ。頼みたいことがあるんだよ。」
「……今度はなんだい。」
イザベラは若干の嫌な予感とともに聞き返してみた。

舞台は村の広場に移る。
そこには既に村の主だった者たちが集められていた。耕介が村長に頼んでセッティングしてもらったのだ。
「騎士様、話したいことってのは、なんですかい?あのバケモノ鳥どもの退治についてなにかありましたかい?」
サムが集まった村の者たちを代表して耕介に質問する。
「こうして集まってもらったのは、俺から提案があるからです。」

耕介とヨシアが先頭に立って村人たちに説明を始める。
後ろにはタバサがシルフィードにもたれかかって、耕介の演説など興味なさげに本を読んでいる。
シルフィードは耕介の試みがどうなるか興味津々で聞いていたが…そのうち飽きたのか、眠り始めた。
イザベラは憮然とした表情で耕介を見つめており、その傍らにはカステルモールが控えている。
「き、騎士様、正気ですか!?あんなバケモノどもと話し合いなんて無理に決まってる!」
村長の言葉を皮切りに、村人たちが口々に不満を口にする。
今まで散々いがみ合ってきた相手だ、この反応は妥当なものだろう。
「皆さん、落ち着いてください!彼らは決して理解できないバケモノなどではありません。彼らにも生活があり、愛する者もいる、同じ森に住む仲間になれるんです!」
耕介の言葉は真摯だが、翼人と村人の溝の深さを簡単に埋めることはできない。
「そ、そうだよ皆!俺は…俺は、翼人のアイーシャと恋人なんだ!アイーシャは俺たちの知らない森のことをたくさん知ってる!俺たちと彼らは助け合えるはずなんだ!」
ヨシアも必死に言い募る。
それでも…
「ですが、奴らが魔法を使ったら俺たちはどうすることもできねぇ!そんな相手と対等に話し合いなんてできるわけありませんぜ!」
サムの言葉が端的に村人側の主張を表している。
彼らは先日、最高の戦力でもって翼人と戦闘し、返り討ちにあったばかりなのだ。
剣を持った相手と、無手で話し合いなどできる者はいないのだ。
「そんなことはありません!アイーシャたちは本来、精霊の力を戦いに使うことは好まない!彼らの魔法は、森と共に生きているから、森から与えられた力なんです!」
それでも、ヨシアは翼人の少女と恋に落ちた。
「みなさん、一度だけでも話し合いの席をもってくれませんか!安全は俺たちが保証します!」
だから耕介もヨシアを信じるのだ。種族を超えて愛を育んだ二人がいるのだ、翼人は害意をもって剣を持つ者たちばかりではないはずだ。
だが、耕介とヨシアが言葉を重ねても、村人たちは未だ踏み出すことはできない。
端から否定するわけではなくなったが、それでもやはり不安なのだ。
村人たちがお互いを見合わせて話し合っている…その時。
「あぁもうまだるっこしいね!あんたたちの安全はこのあたし、ガリア第一王女イザベラが保証してやる!これでどうだい!」
「イザベラ!」
耕介の後ろでイラついていたイザベラが突然宣言したのだ。
「お、王女様が!?」
村人たちに動揺が広がる。当然だろう、こんな小村に一国の王女が訪れるなど、誰が想像できよう。
「奴らが手を出してきた時は、この花壇騎士たちがあんたたちを守るし、翼人どもを退治してくれる!花壇騎士が3人もいて、まだ不満だってのかい!?
それに、あたしが王宮御用達の家具屋の木材買い付け先の候補になれるように渡りをつけてやるよ、選ばれれば儲けの問題も解決だろ!」
耕介がイザベラにした頼み事とはこの家具屋への紹介であった。王宮御用達家具屋ともなれば大口のスポンサーとなる。
もちろん品質によっては選ばれないこともあるだろうが、候補となっただけでもそれなりのネームバリューになるはずだ。
まさしくそれは鶴の一声となった。
わずか、村人たちは顔を見合わせて相談していたが、やはり騎士一人の言葉と王女の言葉とでは重みが違う。
「わ、わかりました。翼人たちと話し合うことにします。」
村長が皆を代表して宣言する。
「やった!これでなんとかなりそうです!ありがとうございます、王女様、騎士様!」
ヨシアが涙を滲ませながら何度も礼を述べる。
「ヨシア、まだ正念場が残ってるんだから、それは全部終わった後にな。」
耕介の言葉にヨシアは気合を入れ直し、村人たちが相談している輪に戻っていく。
「イザベラ…ほんとにありがとうな。イザベラがああ言ってくれなかったら、実現しなかったかもしれない。」
「フン、あんたらがちんたらやってるのがイライラしただけさ!」
イザベラは顔を背け、一息に言い放つ。
一瞬だけ見えたイザベラの顔が赤らんでいたような気はするが…耕介は流すことにした。
優しさを見せてしまったことが恥ずかしいのだろうと結論したからだ。まぁ実際はもっと複雑な理由からだが。
何はともあれ、問題が一つ解決した。だが、まだやらねばならないことがある。

耕介、イザベラ、タバサ、カステルモール、ヨシアはシルフィードに乗って、ヨシアがいつもアイーシャと会っているという森の一角へとやってきた。
なんでも、キノコ採りをしていたヨシアは狼に襲われ、なんとかここまで逃げてきた時にアイーシャに助けられたらしい。
「アイーシャ!来たよ!」
ヨシアが大声を上げて呼ばわって数分後、バサッバサッという羽音とともにアイーシャが木々の間から現れた。
「ヨシア、どうだったの?」
「大丈夫だよ、王女様たちが皆を説得してくれたんだ!」
アイーシャはやはり不安げな声だったが、ヨシアの喜色満面の言葉に安心したように表情を緩める。
「良かった…私も、皆に話してみたの。それで、あなた方に会ってから決めたいってことになったの。」
翼人たちの対応はもっともだろう。彼らにとっては耕介たちは自分たちの邪魔をした騎士でしかないのだから。
「ああ、わかった。どこへ行けばいいんだい?」
耕介は元よりそのつもりであったので快諾したその時、上空から声が響いた。
「いや、我々は既に来ている。貴殿らが話し合いを提案したという人間たちか。」
3人の翼人が空から降り立った。
先頭の一人がこの集団のリーダーなのだろう、白い口ひげを生やした年齢を感じさせない偉丈夫だ。
「お父様…はい、この方々が昨夜話した、王女様方です。」
どうやらリーダーの翼人はアイーシャの父らしい。アイーシャの父は厳しい表情で口を開く。
「私はこのあたりの集落の長を務めています。あなた方が人間との橋渡しをしていただけるとのことだが…正直な話、信用できるのかどうかがわからない。故に、あなた方がそんなことをしようとする理由を聞かせてもらいたいのだ。」
アイーシャの父をはじめ、御付の翼人二人も耕介たちを厳しい目で見つめている。
どんな些細な嘘でも見逃すまいとする、仲間を守る戦士たちの眼差しだ。
だから、耕介も正面から受け止めて答える。
「我々人間と、あなた方翼人は、わかりあえると信じるからです。」
御付の翼人たちが互いを見合わせヒソヒソと言葉を交わす。
「それは何故です?」
アイーシャの父が代表して疑問をぶつける。6000年もの間、翼人と分かり合おうなどと考えた人間がいなかったのだ、疑問に思うのも不思議はない。
「それは、アイーシャさんとここにいるヨシアが愛を育んでいるからです。」
だが、ハルケギニアの6000年など耕介には関係のない話だ。
常に彼は自分が信じるもののために行動する。
すなわち、『皆が幸せな未来』を目指すために。
ある少女が語った、人が生まれる理由…『どんな者も幸せになるために生まれてくるんだ』…それを信じたいのだ。
「我々とあなた方では考え方も生き方も違う。それでも、この二人はお互いを理解し合おうと考えています。理由はそれだけで充分ではないでしょうか。」
『幸せ』とは難しいものだ、人それぞれに形も色も違う。
だから、良かれと思ったことを積み重ねるのだ。だから、ヨシアとアイーシャの愛を信じるのだ。
「俺は、アイーシャを真剣に愛してます!翼人の方々のことももっと知って、理解したいと思ってます!どうかお願いします、話し合いの場に立ってください!」
「お父様、私からもお願い…私もヨシアを愛しているわ。そして、人間たちのことも知りたいと思っているの。」
ヨシアとアイーシャが翼人たちに深々と頭を下げて懇願する。
「だが、奴らが我々にしたことを忘れたわけではあるまい!」
御付の翼人の一人が言い放つ。どちらが先に手を出したのかはわからないが、両者が戦ったのは紛れもない事実。だから。
「そこを曲げて…お願いします。村人たちは、話し合いの場に立つと確約しています。どうか、一度だけでも、承諾してもらえないでしょうか。」
耕介も深々と頭を下げ、懇願する。
しばしの沈黙が降り…アイーシャの父は御付の翼人たちと二言三言交わしてから、耕介たちへと向き直った。
「わかりました。あなた方を信頼します。こちらからは族長である私が参加させていただきましょう。」
「あ、ありがとうございます!」
緊迫していた場にヨシアとアイーシャの喜びの声が上がる。
「よろしければ、貴方の名を教えていただけませんか。」
アイーシャの父が表情を緩め、耕介に尋ねてくる。
「えっと、コースケ・マキハラです。」
聞いたこともないタイプの名に一瞬怪訝な表情を浮かべたアイーシャの父だったが、すぐに微笑みながら言葉を繋ぐ。
「マキハラ殿、貴方のおかげで若い二人を引き裂かずに済んだようだ。父親として、礼を言いたい。ありがとう。」
今の彼は、族長ではなく、一人の父親だった。

「いえ、そんな。彼らの互いを思う気持ちがあったからこそです。」
それは耕介の心からの言葉だった。事実、彼だけの言葉では村人も翼人も説き伏せることなどできなかっただろう。
次にアイーシャの父はイザベラに視線を向けた。
「貴方は人族の国の王族であらせられるらしいですな。」
耕介に複雑な視線を向けていたイザベラは突然水を向けられわずか狼狽したが、すぐにいつもの調子を取り戻した。
「あ、ああ、そうさ。ガリアの第一王女さ。」
尊大な言い方だが、アイーシャの父は特に気分を害さなかったようだ。
「そうですか、人族の王族にも貴方のような視野の広い方がいらっしゃったのだな。我々は森で閉鎖的に暮らすうち、視野狭窄を起こしていたのかもしれない。貴方にも最大限の礼を。ありがとう。」
「え…ああ……。」
イザベラは何故自分が感謝されるのかわからず困惑していたが…簡単な話だ。彼女が今回の計画の発案者だと思われているのだ。
交渉の場に王女が現れたのだから当然の推測と言える。
困惑するイザベラに微笑ましさを感じながら、耕介はこの話し合いは絶対に成功させようと改めて心に誓うのだった。

おそらくハルケギニア史上でも稀な亜人と人間の話し合いは、やはりすんなりとはいかなかった。
だが、ヨシアとアイーシャが懸命に互いの種族を説得したこと、耕介やイザベラ(やはり王女の言葉は説得力が違った)が互いの利害の妥協点を提示したりしたことによって、一応の決着を見た。
村側としては、翼人たちが巣として選んだ一帯の木には手をつけない。翼人たちに外から来た人間が害を及ぼしそうならそれを阻止する。
翼人側としては、村人たちに協力を要請された場合に上空からどんな木があるかを教えたり、林業に協力する。森についての人間の知らない知識を教える。
共通することとして、互いを尊重し、常に協力し合うこと。
大きく言って、これらのことが決まった。
そして最後に、ヨシアとアイーシャの結婚式の日取りが決められたのだった。
そしてその夜。
「今日はめでたい日だ!おら、飲め飲め!!」
サムが酔っ払いながら翼人の青年に酒を勧めている。
「こ、これはなんという飲み物なのだ…?ちょ、ちょっと待、むぐぐ…ゴクゴク………もう一杯もらおうか。」
無理やり飲まされたその青年はたった一杯で目が据わり、次々と杯を空け始めた…彼は翌日、地獄を味わうだろう。
ヨシアとアイーシャは既に主賓ということで散々飲まされ、酔い潰れて仲良く重なって眠りこけていた。
そう、この饗宴…いや、狂宴は名目上、二人の婚約披露宴だったのである。
村中がお祭り状態で、そこかしこに酔い潰れた者たちが折り重なっている。
猟師がいれば、翼人もいる。皆、翼のあるなしなど関係なしにこの狂宴を心から楽しみ、若い二人を祝福していた。
そんな最中、耕介は一人でワインをちびちびと舐めていた。
こうして二つの種族が一つとなって騒いでいる混沌とした風景は、数日前まで彼がいた世界を彷彿とする。
視界の端に、宴が始まってからひたすら料理と格闘し続けるタバサがいる。シルフィードもその傍らで肉をたくさん食べられてご満悦だ。
御架月も今だけはそこらの人の輪に混じって他愛ない会話を楽しんでいる。この混沌とした情景に、幽霊が一人紛れ込んだとて、誰も気にはしない。
カステルモールは先ほど、数人の村人たちに飲まされ続けてダウンしたのを目撃した。あの様子で明日竜を操れるのかはなはだ疑問である。
そういえばイザベラを見かけないな…耕介がそう考えたちょうどその時、イザベラが向こうからやってきた。
手には酒瓶とグラスを持って、顔を赤らめ千鳥足…正直、王女としての品格ゼロである。
「あんた、こんなとこにいたのかい。みみっちい飲み方してるねぇ。」
イザベラは耕介の隣にどっかと胡坐をかくと、早速グラスにワインを注いだ。
「こういうのみ方がしたくなる時だってあるよ。」
その様子にさざなみ寮のとある住人を思い出して苦笑しながら耕介は空しい返答をする。

「ほら、酌してやるから一気にいきな!」
こうなるからだ。酔っ払いとは理不尽なものである。
仕方がないので耕介は一気にワインを飲み干した。
「その調子さ、ほらもう一杯!…しかし、あんた、ほんとにやっちまったね。全く、呆れを通り越して感心するよ。」
耕介のグラスに強引にワインを注いでから、ふいにイザベラはそう言った。
「別に俺が特別何かしたわけじゃない。ヨシアやアイーシャがいたからだし…それにイザベラが手を貸してくれたからだよ。」
それは耕介の本心だし、事実でもある。だが。
「そうだね。でも、あんたが始めたことだ。そうじゃなきゃ、誰もやらなかった。」
酔ったせいか、いつもは決して言わないことでもイザベラはすらすらと言えた。
「ほんとに、なんなんだいあんたは。亜人と話し合おうだなんて考え付くわ、それを実践するわ。単に掃討すれば楽だったろうに。
翼人は10人程度だった。先住魔法を使うとはいえ、エルフほどの使い手じゃないし、シャルロットとあんたなら勝てただろうに。」
掃討すれば、確かに楽だったろう。問答無用で殲滅してしまえば、村人たちは林業でさらに発展しただろうし、耕介たちもこんなにも手間をかける必要もなかった。
だが、そんなことをするのはさざなみ寮の管理人槙原耕介ではないのだ。
「そうかもしれない。でも、相手を傷つけたら、待ってるのは果てしない罪悪感だけだ。だから俺は話し合いでなんとかしたいって思ったんだ。」
耕介の酔いで熱くなった頭が思い出すのは、高校時代の苦い思い出。好きだった人を傷つけ、そのまま会えなくなってしまった、耕介の基礎を作った出来事。
「ふん…なんだ、聖人君子みたいに振舞ってるけど…あんたにもそんな過去があるんだね。」
「当たり前だろ。というか俺は聖人君子なんかじゃないよ。ただの人間だ。」
「…どうだかね…あたしには…あんたが…」
イザベラの言葉は最後まで続かなかった。
飲みすぎが祟り、ついに意識を手放してしまったのだ。
そのままイザベラは耕介の胡坐の上に頭を落とし、寝息を立て始めた。
「おいおい…そこでとめられたら気になるだろうが…。」
少しだけイザベラの頬を突いたりしていた耕介だったが、イザベラは全く起きる気配がないので諦めることにした。
なんといっても今は無礼講だ。ここで起こすのも野暮というものだろう。
未だに宴の余韻が燻る村の広場で、耕介はしばし昔の記憶たちに思いをはせるのだった。
そして、それ故に耕介はイザベラの寝言に気づかなかった。
「あたしには…あんたのほうが…バケモノに見えるよ…。」
エギンハイム村の激動の一日はこうして幕を下ろしたのだった。


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