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イザベラ管理人-04


第4話:最初の試練・後編


耕介は再び霊剣・御架月に霊力を流し込みながら思考を回転させる。
(とりあえず今までは予想の範疇…洸牙で魔法の防御を抜けるのがわかったのが最大の収穫か。)
「耕介様、先ほどくらいの攻撃なら僕はまだまだ大丈夫です!」
今は剣に戻っている御架月が、耕介に報告する。
「多分また魔法にぶつけることになると思う。悪い、無理をさせる。」
「いいえ、そんな!あれだけとは思えませんし、油断せずにいきましょう!」
イザベラのいるあたりから何かが砕ける音が聞こえてくるが…意識を向けることはない。
目の前の相手に集中しなければ、あっさりと敗北するだろう。

(まずは<<エア・ハンマー>>で牽制…手数重視…。)
本気になったタバサの対応は早い。
速度と手数を重視して、耕介にプレッシャーを与えて選択肢を限定させる。
まだ慌てることはない、相手の持つ武器が剣である以上接近戦が主体であるはず。
念のためブラフの可能性も考えておかねばならないが、まずは相手になるべく手札を切らせなくては。

次のアクションは耕介から仕掛けた。
体勢を低く保ったまま、タバサへ向けて駆け出す。
3メイルほど駆けた時、タバサがこちらへ杖を向けるのが見えた。
(何か、来る!)
直感的に攻撃が来ると感じた耕介は、咄嗟に森に向けて飛ぶ。
直後、つい先ほどまで耕介のいた場所を突風が駆け抜けた。
耕介は知る由も無いが、それは風のドットスペル<<エア・ハンマー>>だ。

(避けられた…!)
アイスバレットよりも威力は落ちるが面の攻撃に向いているし、何より肉眼では見えない攻撃であるからこそ選んだ魔法だ。
それをこうもあっさり避けるとは、相手は予想以上の難敵。
(まさか、空気の流れを感じられる…!?)
卓越した風のメイジ…タバサのような…であれば、風の流れを読んで障害物の向こうにいる相手を感じることもできる。
あの敵はそんな技能も有している…断言はできないが、今はそう思って臨んだ方がいい。
戦場では、どんなにありえないことでも目の前で起こったのならばそれも織り込んで戦術を組まねば負けるものだ。

走りづらい森の中で、巧くタバサの視線を遮るようにルートを選んで駆け抜ける。
木々の合間から見えたタバサは飛び退って森から離れているところだった。
(まぁ、そうだろうな…剣を使ってるんだからこちらが接近戦主体ってことはバレバレだし。)
タバサに最も近い木の後ろに隠れた時、複数の氷弾が周囲を襲う。
咄嗟に耕介は跳び退り、もう少し離れた木の背後に隠れてそれをやり過ごす。
次いで耕介はわずかに後退し…先ほど流し込んだ霊力を御架月に力へと変換させる。
「いくぞ御架月…神咲無尽流…洸牙!」
解き放たれた白い炎は、氷弾で折れかけていた木々を斬り飛ばしてタバサへ向けて疾走する。

(来た…!)
耕介をいぶりだすために、大量に氷弾をばら撒いた。
ならば次には森からこちらへ走り出る時間を稼ぐために先ほどの遠距離攻撃を放ってくるはず…そのタバサの予測は正鵠を射ていた。
あの攻撃のスピードは<<エア・ハンマー>>に近いほど早いが、さすがに距離が遠い。
タバサはしゃがむだけで白い炎をやり過ごし…”それ”に気づき、すぐさま<<ウィンドシールド>>を展開する。
二発目の…しかも縦の洸牙が飛来してきていたのだ。
(これほど短い間隔で連射…!?)
咄嗟に張った風の盾を食い破ろうと白い炎が牙をむく。
盾が破れるまでの数秒でタバサは横に跳び、難を逃れていた。
さらに評価を改めなければならない。
あれほどの威力を連射できるのならば、仮に遠距離攻撃があれだけだとしても相当な脅威だ。
となれば、耕介の姿を目視できない今の状態はまずすぎる…。
だが、既にタバサは先ほどの回避行動で耕介の位置を一瞬見失っていた。

(今しかない!)
無理を重ねての洸牙の連射は耕介に相当の負担をかけていた。
元々、御架月は相互循環型の十六夜と違って放出限定だ。
早い話が、十六夜は余った霊力をリサイクルできるが、御架月は込めた霊力を全て吐き出す以外のことができない。
加えて霊剣は燃費が悪く、いかに神咲一灯流当代神咲薫をもしのぐ霊力保有量を誇る耕介とはいえ使いすぎれば霊力の枯渇を起こす。
それでも、タバサの視線をきらせることに成功したのだ、する価値のある無理だった。
「やるぞ、御架月!」
「はい!」
共に死線をくぐってきた相棒同士だ、御架月は耕介の行動だけで、次で勝負を賭けることを理解している。
タバサの隙を突き、耕介が森から飛び出して接近戦を挑むべく疾走する。
やはり遠距離戦では多様な手段のある魔法が圧倒的に有利。
加えてタバサの魔法詠唱速度が早いこともあって、耕介は劣勢に立たされていた。
さらに、耕介には遠距離攻撃手段は洸牙しかない。
魔法で遮蔽物を削られ、細かく魔法を撃たれては耕介に打てる手はほとんどないし、洸牙を無駄撃ちするわけもいかない。
それに気づかれる前に勝負を決める必要がある。
御架月にありったけの霊力を叩き込みながら、体勢を崩したままこちらに杖を向けてくるタバサの周囲に注意を払う。

(速い…勝負を賭けてくる…!)
体勢を立て直した時には、耕介は既にタバサと5メイル程度しか離れていなかった。
すぐさま回避行動中に始めていた詠唱を完成させる…使い慣れたこの魔法ならば他のトライアングルスペルよりも圧倒的に速い。
タバサの周囲に小ぶりの氷の槍が大量に生まれ、冷風とともに耕介へと吹き付ける。
タバサの十八番<<ウィンディアイシクル>>だ。
(あの炎を飛ばす魔法は予備動作が必要…これで詰み…。)
最初に放った時の剣を振る動作…あれはおそらく攻撃の指向性を定めるためのものであるはず。
ならばこの距離からでも充分に回避可能だ。
<<ウィンディアイシクル>>を斬り払われたとしても、隙だらけな振り切った姿勢の耕介をエア・ハンマーなりで狙い撃ちにすれば良い。
タバサは勝利を確信した。

「ぐぅぅ…!」
面の攻撃相手では御架月一本で戦う耕介に対処する術はない。
結果、耕介がとった行動は…。
「……!」
頭を御架月と腕でかばいながら氷の嵐へと飛び込んだのだ。
体のいたるところに氷槍が刺さるが、もう少しだけもてばいい。
ここで退いても結局はジリ貧になるだけ…耕介はなんとしても次で終わらせるつもりだった。

(まさか…飛び込んできた!?)
まさかダメージを無視して突破してくるとはタバサも予想外…この男は今回だけで何度タバサの予想を裏切ったことか。
もしかしたらダメージを回復したりする能力もあるのかもしれない…そう頭の片隅で考えながら未だかつて無い速度で詠唱を完成させる。
タバサの眼前に一本の巨大な氷の槍が生まれる。
タバサの操る魔法の中でも随一の破壊力を誇る魔法<<ジャベリン>>だ。

「神咲無尽流、真威・洸桜刃!!」
体中に傷を負いながらも、氷の嵐を突破した耕介が大上段に御架月を振りかぶる。
御架月の刀身を鎧う煌く白い炎が膨れ上がって、刀身を2倍近くに伸ばす。
(何…足場が…!)
しかし、先ほどの<<ウィンディアイシクル>>で足元がわずかに凍り付いていた。
「ハァァッ!!」
それでも軸足を踏ん張って体勢を保ち、裂帛の気合とともに御架月を振り下ろすが…やはり足に無理な力が入ったせいで全力での斬撃にならない。
(これで…終わる!!)
くしくも両者は同時に同じ思考をしていた。
充分な大きさに達した<<ジャベリン>>が射出される。
炎刃と氷槍が激突し、強烈な水蒸気を発生させ…
「追の太刀・嵐!!」
威力を減じ、それでも氷槍を叩き斬った御架月を、振り下ろした体勢からさらに切り上げる二の太刀による追撃。
水蒸気が炎の剣により切り払われ…そこにタバサの姿はなかった。
「く…!?」
おそらくタバサの反応速度ならば追の太刀・嵐をも避けるだろうと予測はしていた。
だが、視界から消えているのはいったいどういうことか。
周辺は平原で、遮蔽物など何も無い。
嫌な予感に囚われた耕介が焦ってその場を飛びのこうとした時…
「耕介様、上です!!」
御架月の警告はわずかに遅かった。
タバサが空から降ってくる。
ジャベリンを射出した瞬間、タバサは<<フライ>>で上空へ舞い上がっていたのだ。
落下しながら詠唱しておいた<<ブレイド>>で長大な杖に魔力の刃をまとわせ、跳び退り損ねた耕介の肩に触れる直前で止める。
「…私の…勝ち…。」
息を切らしながら、わずかに誇らしそうにタバサはそう言った。
「俺の、負けだ…。」
耕介も息を切らしながら、負けたというのに誇らしげに言った。
そして、耕介はそのまま仰向けにぶっ倒れた。
ダメージと霊力の大量消費のためだ。
タバサも滅多に見られないほどに息を乱して、<<ブレイド>>を解除した杖を支えにしゃがみこんだ。
「わ、わわわ、耕介様!!」
霊剣・御架月から現れた御架月が慌てて耕介に治癒をかける。
珍しく大人しく戦いを見守っていたシルフィードも、タバサの元へ飛んでゆく。
その光景を、イザベラは呆然としながら見ていた。
「あいつ…シャルロットとあそこまでやりあえるなんて…。」
その言葉にはイザベラ自身すらも把握できない様々な感情が篭っていた。
メイドたちがどうすればよいかわからずあわあわしていることにもイザベラは気づかない。
結局、彼女は御架月が耕介の治癒を終えて声をかけてくるまで、自分でもわからない心に苦悩していた。
チーズフォンデュは手付かずのままで冷え切っていた。


耕介は異常な空腹で目を覚ました。
わずかに皮膚が突っ張るような違和感が体中にあるが、特にほかに異常はなさそうなので上体を起こす。
「あ、耕介様!大丈夫ですか!」
そばで心配げに見守っていた御架月が、耕介が意識を取り戻したことに気づいて話しかけてくる。
「御架月…えーっと…俺どうしたんだっけ…あぁ、負けた…のか。」
一瞬、状況がわからなかったが、すぐに倒れる直前まで何をしていたかを思い出す。
周囲を見回すと、どうやらここは自分たちにあてがわれた部屋で、ベッドに寝かされていることがわかる。
ベッドのそばに御架月、少し離れた窓際の椅子に本を広げてタバサが、開け放たれた窓の外にはシルフィードが顔を寄せているのが見える。
「御架月が運んでくれたのか?って無理か…あの風竜?」
「いえ、耕介様をここまで運んでくれたのはイザベラ様ですよ。
凄いんですよ、杖を振ったら耕介様がふわーっと浮かんで!
それで、そこの風竜さんに乗せて、宮殿まで戻ってきたんです。」
「イザベラが…そうか…。お前も、ありがとうな。
御架月も、傷治してくれてありがとうな。」
きゅい!とシルフィードが返事をする。
「いえ、大事なくてよかったです!」
「そういえば、イザベラは?」
部屋をもう一度見回してみても、イザベラの姿はない。
「えっと、何か用事があるとかで、部屋に戻られましたよ。」
イザベラは<<レビテーション>>で耕介と霊剣・御架月をこの部屋まで運ぶと、歯切れの悪い口調で部屋に戻ると言って去っていったのだ。
「そうか…それにしても、負けちまったかぁ…空を飛ぶ魔法まであるとはなぁ。」
ため息を一つつき、耕介はうなだれる。
「試練失敗か…御架月、ごめんな。俺たち根無し草になっちまった。」
そう、負けたということは試練をクリアできなかったことを意味する。
そうなれば、イザベラが耕介たちを養ってやる理由もなくなるのだ。
最悪、逃亡しなければならないだろう…おそらく殺されるようなことにはもうならないとは思うが。
「耕介様…いえ、仕方ありませんよ。耕介様は全力を尽くされたんですから。
でも大丈夫ですよ!耕介様ならどこでもやっていけます!僕もお手伝いしますから!」
御架月が耕介を元気付けるためにことさらに明るく言う。
耕介が相棒の心遣いに感謝しつつ言葉を返そうとした時。
「大丈夫。」
耕介が起き上がった時に、ちらりと一瞥した以外はずっと本に目を落としていたタバサが突然発言した。
「大丈夫って…何がだ?」
意味を図りかねて耕介が尋ねる。
「貴方は、合格。」
言葉が短すぎて耕介も御架月もいまだにきょとんとしている。
「貴方は私をギリギリまで追い詰めるほどの実力者。花壇騎士として申し分ない能力を持っていると、試験官である私が判断した。だから合格。」
耕介はタバサがこんなに長く喋るのは初めて見たが…徐々に意味を理解すると、そんなことは頭から吹き飛んだ。
「え、合格なのか!?でも俺、負けたんだぞ?イザベラはなんて言ってるんだ?」
「私の判断に一任するとだけ。」
「そうなのか…くぅー!御架月、やったな!!」
「わぁ、やりましたね、耕介様!」
消沈から一転、降って湧いた朗報に耕介と御架月は喜びを分かち合う。
「タバサ、ありがとうな!」
耕介は朗報をもたらしてくれたタバサにも礼を言う。
「……私は事実を言っただけ。礼を言われることじゃない。」
タバサは耕介に視線を向け、それから広げていた本をパタンと閉じる。
「それよりも、貴方に聞きたいことがある。」
「俺に?」
タバサの思いがけない言葉に、耕介はいぶかしげに聞き返す…と同時に、脳裏をよぎるものがあった。
「あー俺の技のことか?」
「そう。あんな魔法は見たことがない。あれは火系統の魔法?」
タバサの疑問はもっともだ。
耕介の技は、元々は400年の間に御架月に蓄積された技を、御架月と同調することで使用している。
そして御架月は霊力を込められると、得た力を白い炎として霊的・物理的両面に作用する破壊力として発現させるのだ。
見た目的には火の魔法と思われても仕方がない。
「いや、俺たちが使うのは魔法じゃなくて…なんて言ったらいいのかな…伝統技能…?うーん…」
「魔法じゃ…ない…?」
「えっと、悪い、シャルロット。質問に答える前にちょっと頼みがあるんだけど…。」
「…何?」
疑問を晴らそうと様々に考えを巡らせていたタバサであったが、それを邪魔されて若干不機嫌そうだ。
「腹減って腹減ってたまらないんだ、何か食べながらでもいいかな?」
苦笑いしながら耕介は、先ほどから強烈に自己主張する空腹に屈服した。
霊力とはすなわち人の活力…簡単に言えばカロリーを消費するので、退魔術師はとかく大食いなのである。
「…………わかった。少し待っていて。」
二つ名である雪風のような視線を耕介に向けながら、タバサは部屋を出て行こうとする。
「あぁ、自分でいててて!」
「耕介様、まだ完璧には治りきってませんからまだ動かないでください!」
ベッドから降りようとした耕介は痛みに顔をしかめ、御架月に諌められる。
タバサはそんな主従をちらりと一瞥すると、改めて部屋を出て行こうとした…その時。
「きゅい!お姉さま、シルフィもお腹すいたのね!お肉ちょうだい!」
4人目の声が部屋に響いた。
御架月だけが目を丸くして辺りを見回すが、耕介とタバサには答えがわかっていた。
タバサは無言で振り返ると、短く詠唱、出力を抑えた<<アイスバレット>>を射出しようとして…精神力がきれていたことに気づく。
「いた!痛いのねお姉さま!可愛い可愛い使い魔のシルフィになにするのね!」
結局、歩いて近づき、杖でシルフィードの頭を叩くことにしたのであった。
「え、今喋ったのって…?」
御架月がいぶかしげな視線をタバサに向ける。
「…………。」
無言でシルフィードを叩きながら、しらを切りとおすべきだったかと若干後悔したタバサであったが…仮にそうしていたとしても、無駄な努力であった。
「ああ、今の声はあいつだな。見た目に似合わない可愛い声だよな。」
耕介の言葉にタバサはやっと停止する。
まるでギギギ…という擬音が聞こえそうなほどゆっくりとタバサは耕介に振り返った。
「貴方…知ってるの…?」
「ん、そいつが喋れることか?ああ、餌をやってる時に少し話したよ。」
笑顔で言う耕介の言葉の意味を理解したタバサはさらに強い力でシルフィードを叩き始めた。
「痛い!やめてやめてお姉さま、ごめんなさい、その人がくれたお肉が凄く美味しくてつい喋っちゃったのね!もうしないのね!」
「な、なぁ、シャルロット、いい加減やめてやらないか?もしかして喋れることを知られちゃまずかったのか?」
さすがにシルフィードを哀れに思った耕介がタバサを制止する。
やっと手を止めたタバサはジーっと耕介を見つめ…
「……秘密。」
とだけ言った。
「わかりました、じゃぁ4人だけの秘密ですね!」
御架月が弾んだ声で同意する。
「何か事情があるみたいだな、わかったよ。そいつが喋れることは黙っておく。」
「……ありがとう…。」
かすかな声でタバサは礼を述べる。
「私はタバサ。そう呼んで。」
最後にそう言うと、タバサは部屋を出て行った。
「きゅい…酷い目にあったのね…。」
シルフィードが涙声で愚痴をこぼす。
「まぁ、秘密にしておきたかったみたいだし、お前もこれからは気をつけた方がいいぞ。
そういえばお前、名前はあるのか?」
「きゅい!シルフィはシルフィードって名前なのね!お姉さまにつけてもらったのね!」
先ほどまでの涙声が一気に弾んだ声になる。
今泣いた烏がもう笑ったという言葉が相応しい、感情の起伏が激しいタイプのようだ。
「そうか、じゃあよろしくな、シルフィード。」
「よろしくお願いします、シルフィードさん!あ、一応治癒をかけておきますね。」
挨拶を交わして、御架月が両手に燐光をまとわせながらシルフィードの体にかざす。
「痛くなくなってきたのね…ミカヅキ凄いのね!」
「えへへ、どういたしまして!」
「幽霊って凄いのね!こんな精霊の力初めて見たのね!」
「これは幽霊の力というわけではないんですが…。そういえば耕介様。」
苦笑しながらシルフィードの治癒をしていた御架月が、そのまま耕介へと振り向く。
「シャルロット様、タバサと呼んでって言ってましたけど、あれってどういう意味なんでしょう?」
御架月の疑問は耕介も抱いていたものだ。
イザベラがシャルロットと呼んでいたのもあり、二人とも自然とシャルロットと呼んでいる。
だが本人はタバサと呼べ、という。苗字と名前という可能性もあるが、それはそれで違和感がある。
「俺もそれはわからないが…彼女がそう呼べって言ってるんだから、タバサと呼べばいいんじゃないか。」
だが、疑問を感じつつも耕介はすっぱりと言い切った。
彼には似たような経験があるのだ。その時の少女は、今では彼の家族の一員となっている。
タバサは自ら望んで「タバサと呼べ」と言ったのだ。ならば耕介は理由を問う必要など感じない。
タバサが話したくなれば話してくれるだろうからだ。
「そうですね、耕介様。無粋なこと言っちゃいました、ごめんなさい。」
主らしいその言葉に、御架月が嬉しげに同意する。
「貴方たちとってもいい人たちなのね!お姉さまのお友達になってくれて嬉しいのね!」
「うひゃぁ!」
嬉しくなったシルフィードに舐めあげられ、御架月の素っ頓狂な声が響く。
和やかな雰囲気はタバサが大量の食事を持って戻ってきても崩れることはなかった。

「俺が使ってたのは退魔術っていう技の一種だ。
君たちメイジがどうやって魔法を使ってるのかは知らないが、俺たちの場合は霊力っていう普段は目に見えない力を使ってる。
その霊力を御架月に込めて、御架月が霊力を破壊力に変換して、さっき使ったような技を出してるんだ。」
タバサが<<レビテーション>>と配給車に乗せて運んできた大量の食事を次々と腹に収めながら、耕介は説明していた。
御架月は食事を摂る必要がないので、凄まじい勢いで食べる耕介の給仕をしている。
シルフィードは厨房に残っていた最後のチーズフォンデュに漬けた肉を食べられてご満悦だ。
「タイマジュツ…レイ…リョク…聞いたこともない。貴方、何者…?」
耕介に対抗するかのような勢いでタバサも食事をしつつ(トゲトゲの葉の入った器を耕介の手の届かないところに避けるのも忘れない)タバサは耕介から話を聞いている。
「まぁそこに行き着くよなぁ…。」
何者か、という問いに対して耕介は言いよどむしかない。
異世界から来たなどと言っても信じてもらえるわけもないのだ。
厨房でしたような作り話をしてもよかったのだが…なんとなく、この子に仕方なしとはいえ嘘をつくのは気が引けるものがあった。
「うーん…信じてもらえないかもしれないけど、これから話すことは本当のことなんだ。
俺と御架月はね、多分異世界から召喚されたんだ。」
「耕介様、いいんですか?」
いくら魔法が幅を利かせる世界とはいえ、異世界などという概念はないことはイザベラの反応からわかる。
到底信じてもらえないようなことを正直に話す耕介に、御架月は心配げな視線を向ける。
「異世界…?」
「ああ。俺がいたのは日本っていう国で、そこで俺はさざなみ寮っていうところで管理人をしてたんだ。」
御架月に視線だけで答え、耕介はタバサに自分がここにくることになった経緯を話す。
「サモン・サーヴァントで呼ばれた…異世界の住人…。」
「そういうことになる。
それで、帰る方法を探すにはイザベラに協力してもらったほうがやりやすいだろうから、取引をしたんだ。
俺は帰るまでイザベラの使い魔になる、その代わりイザベラは俺が帰れる方法を探すのを認める…ってね。」
「質問しても…いい?」
「ああ、俺でわかることならなんでも答えるよ。」
それからタバサは1年分以上喋ったのではないか?というほどに耕介を質問攻めにした。
―――貴方の世界では平民みんながそんなに強いの?  人によるとしか言えないけど、俺みたいなのは少ないと思うよ。
―――れいりょくというのは私にもあるの?      あるだろうけど、霊力を扱えるかはわからないなぁ。
―――貴方の世界とハルケギニアはどう違う?     うーん、色々あるけど一番の違いは魔法の有無かなぁ。
―――たいまじゅつは何を目的にしてるの?     退魔術は簡単に言えば人を呪う幽霊を倒すための技だ。
こんな調子である。
そしてタバサは最後の質問の答えに劇的に反応した。
「幽霊…倒せるの…?」
無表情は動いていないが、ずっと椅子に座ったままだったのに今はベッド上まで迫ってきている。
「え、あ、ああ。魔を退ける技だから退魔j。」
「教えて。」
耕介の言葉を半ばで遮り、タバサは酷く真剣な瞳で言う。
「た、退魔術を覚えたいのか…?」
「覚えたい。」
その瞳は酷く真剣で切実である。その理由は…御架月との一連の出来事から想像はつく。
だが、それは耕介には出来ない相談なのだった。
「教えてあげたいのは山々なんだけど、俺の退魔術は御架月を使うことを前提にしてるからなぁ…。」
申し訳なさそうな表情で頭をかく耕介。
神咲の技にはもちろん霊剣を使わない退魔術もあるが、耕介は元々御架月を救うために退魔術を覚えたといっても過言ではない。
そのため、彼は霊剣を使う術以外は呪符を少し扱える程度である。
しかし自分では呪符を書けないのでそれも無理…となると、耕介が教授できることがない。
「そう…。」
ほとんど感情を感じられないが、どうやら残念がっているらしい声を出すタバサ。
しかし、その視線は御架月にジッと向けられていた。
「え、えっと、タバサ様ごめんなさい、僕の主は耕介様なので…。」
背筋にうそ寒いものを感じながらも、御架月は謝罪する。
「仕方がない。」
キュルケならば気づいただろうが、タバサは至極残念そうにしながら椅子へと戻って行った。
しかし、まだ出会って一日しか経っていない二人にそんなことはわかるはずもない。
気づく可能性のあるシルフィードは肉に夢中であった。

日が傾いた頃から沈む頃まで続いた食事を終えてからも2,3質問してからタバサはあてがわれた部屋へと戻って行った。
本来ならすぐにも翼人掃討任務にいくつもりであったようだが、精神力が耕介との戦いできれたので、出発は翌日になったのである。
耕介はやっと動けるようになり、イザベラの元へ向かうことにした。
御架月は治癒を連続で使ったため、今日はもう眠っている。
イザベラの部屋の前のガーゴイルが耕介に反応し、道をあける。
コンコン、と扉をノックする耕介。
だが、反応がない。
もう一度だけノックして反応がないようなら他へ探しにいこうと思っていた耕介だったが、扉越しにかすかに返答があった。
「誰だい?呼んだ覚えはないよ。」
その声は普段の強気なイザベラらしくない、とても平坦な声。
「俺だ、耕介だ。入ってもいいか?」
その声に違和感を覚えながらも、耕介は返答する。
1分以上の間があり…
「入ってきな。」
また平坦な声で返答。
ますます強まる違和感を感じながら耕介は扉を開け、部屋へと踏み入った。
部屋は灯りすらつけられておらず、光源は窓から差し込む月光だけだ。
「イザベラ…?」
そしてイザベラは、テラスの椅子にこちらに背を向けて座っている。
あまりにも様子がおかしい。だが、何故なのか全く見当もつかない。
とりあえず耕介は用件を済ませることにした。
「イザベラ、俺負けたっていうのに試練合格にしてくれたんだってな。てっきり負けたからダメだと思ってたよ。」
苦笑しながら礼を言うが…イザベラからの反応はない。
嫌な沈黙を感じていると…ぽつりと声が聞こえた。
「別に…シャルロットの判断に任せただけであたしはなにもしちゃいない。」
その声もやはり平坦で、感情を感じさせない。
イザベラはどんな時でもプラスにしろマイナスにしろ感情豊かに話す少女であるのに…違和感は最高潮に達した。
「それでも、ありがとう。
でさ…どうしたんだ、イザベラ、なんか様子がおかしいぞ?」
思い切って耕介は直球で聞いてみる。
また、沈黙が降り…
「……別に。どうもしないさ。あんた、明日はシャルロットについて翼人掃討にいきな。これも試練だからね。」
やはり感情を込めず、イザベラは早口に言い切った。
「え、まだ試練があるのか…?というか、どうもしないわけないだろ。話せることなら、俺に話してみないか?」
耕介の言葉は真摯であった。
だが、それ故に。
「誰が試練が一つだけだ、なんて言ったんだい。それと、イザベラ”様”だ。馴れ馴れしく呼び捨てにするんじゃないよ。」
「あ、ああ…すまない、イザベラ様…。」
「わかったらとっとと出ていきな。あたしはもう眠るんだから。」
どう見てもそんな風には見えないが…耕介は自分が拒絶されていることに気づいている。
「わかった…また明日な、イザベラ様。」
こんな状態では話を聞くことなどできようはずもない。耕介は仕方なしに自室へと戻って行った。
結局、イザベラは一度も耕介に視線を向けることはなかった。

イザベラには耕介が煩わしかった。
どうしようもないほどに煩わしかった。
自分がどれだけ傍若無人に振舞っても決して態度を変えない耕介に憎しみすら覚えていた。
他の連中のように自分を恐れたり蔑んだりするような男ならこんなにも煩わしく思うことはなかっただろう。
だが、耕介はそんなことはしない。
「君をバケモノと思ったことはない」…あの言葉は心底、本気で言っているのだ。
出会ってからたった二日だが、それが何故だか理解できる。もはやそれは確信と言っていい。
だが…いや、それ故にイザベラは耕介が煩わしい。
最初はただの妙なインテリジェンスソードを持っている平民としか思っていなかったし、自分がそんなものを呼び出してしまったことに始祖とやらの痛烈な皮肉を感じていた。
だが、この平民の正体はなんだ?
突然常識の違う場所に呼び出され、主には殺されかけ、理不尽なことしか言われない。
それでもこの平民…いや、耕介はそんな境遇に絶望するでも不貞腐れるでもなく、プチ・トロワを歩き、厨房に入り込む。
常に前向きな姿勢を崩さない。
加えて、トライアングルクラスのメイジであるシャルロットと戦わされてもギリギリまで追い詰めるほどの戦闘能力を見せ付けた。
あの妙な力がなんなのかはわからない。だが、あれは紛れもなく耕介自身の力だ。
常識的に考えれば、能天気なところと不敬なところを除けば、耕介は非常に優秀な使い魔だろう。
だが…その主である自分はどうだ?
水のドット…しかも扱える魔法は少なく、精神力も少ない。初歩的な魔法である<<ウォーターバレット>>4発で弾切れになるのがいい例だ。
従妹であるシャルロットの足元どころか影さえ見えない。
メイジの力量を知るには使い魔を見よ、という。
それならば、耕介を召喚した自分は将来凄いメイジになる?そんな笑い話、信じられるはずもない。
考えれば考えるほど、思考の奈落へ落ち込んでいく。
自分と、耕介やシャルロットを比べてその差に泣きたくなる。
どうして自分はこんなにも才能がない?
ハルケギニアでは血筋とはすなわち魔法の才能と言い換えてもいい。
ならば自分は最高級の才能を有しているはずだ。
実際、シャルロットは父シャルルと同じようにその天才性を存分に発揮している。
自分の才能のなさは、おそらくは無能王と呼ばれる魔法を全く使えない父王ジョゼフの遺伝なのだろう。
だが、自分はわずかながら魔法が使える。
そのことも今はたまらなく呪わしい。
父と同じなら諦めもつくだろう。魔法など捨て、父とともに政治の世界に生きることもできただろう。
だのに自分は魔法が使える…父が自分に無関心なのはそのせいではないのかとイザベラは思う。
世界はイザベラにとって、呪わしく、歯車がかみ合わず、酷く生き難い。
いっそのこと命を絶ちたいとすら思う。だが、それは怖い。どうしようもなく怖い。
(ハン…結局あたしは無能で臆病者で…この王女という父上のおこぼれで得た地位にしか意味がないってことかい…。)
だからイザベラは周囲に自分が王女であることを誇示し続けてきた。
この地位が奪われることを恐れ、父を暗殺され、母の心を壊された哀れなシャルロットさえも迫害している。
幼い日には共に遊んだことも、食事をしたこともあるシャルロットとの温かい思い出に唾を吐きかけ、踏みにじっている。
自分が他の人間にどう思われているかなどわかっている。だから他人のことを…過去の思い出さえも含めて、考えることをやめたのだ。
なんて救いようがない…そんな自分が、およそ信じられない聖人ぶりを見せる耕介を召喚した。
よく考えてみればこれは始祖の皮肉なのか。だとしたら始祖はとてつもない天才だろう。
イザベラは双月に照らされたテラスで、ずっとずっと涙を流さずに泣いていた。


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