あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

ゼロの魔獣-26


― 時間にすれば、僅か三分足らず。

だが、互いの全てを出し尽くした死闘は、手負いの獅子に軍配が上がった。
拮抗した実力を持っていたハズの二匹の獣は、いつしか捕食者と餌に分かたれていた・・・。

身を焦がす野望のためならば、腕一本失う事すら恐れてはいないワルドではあったが
奪われた左手を、目の前で貪られる事態までは覚悟していなかった。

「・・・へ へへ ハ ハハハ・・・
 2対1だぜぇ・・・ どうする? 色男・・・」

「俺を忘れんじゃあねえ!」

壁に突き刺さりながら抗議するデルフを尻目に、慎一が歩を進める。
膝が崩れ、大きく体が揺らぐ。 思わず、ワルドが後ずさる。

深刻なダメージを負っているのは、明らかに勝者である慎一の方だった。
あるいはここで、ワルドが気力を奮い反撃に転じれば、彼が最終的な勝者となれる可能性も高い。

―が、その精神面において、両者は既に決着が付いてしまっていた。
 死力を尽くしてライオンを仕留めにかかるゼブラなどいないのだ・・・。

「・・・いいさ 目的の一つは果たした」
ワルドの体がフワリと浮き上がる。

「主亡き城などたやすく落ちる 我等『レコン・キスタ』の前ではな
 魔獣 貴様をこの手で打てぬのは心残りだが
 この場で愚かな主人共ど・・・」
「耳だァッ!!」

慎一の叫びに合わせ、左手を打ち捨てゴールドが跳ねる。
空中で激しくもつれ合い、ワルドの右の耳たぶが削ぎ落とされる。

「キサッ 貴様ァッ!! 死ね!  死ねェ 死んでしまえええェェ!!」

ようやく獅子を振りほどき、右頬のおびただしい流血を抑えながら、
ワルドは子供のように喚き散らして飛び去っていった・・・。

敵が去ると慎一は、ゴールドに自らの左腕を拾ってこさせた。
元の形に戻った右腕とあわせ、肘先から出した獣の顎で繋いで『仮留め』した。

鉛のように重い体を引きずりながら、慎一はルイズの元へと近付く。
胸元の動悸を確認すると、その背に負って、今度はウェールズの元へと進む。

― こちらは致命傷だ。地面を濡らす血の量で、近寄らなくても分かる。

「・・・手紙・・・ は・・・ ヴァリエール嬢の ・・・荷物に・・・」
その震える指先で、礼拝堂の片隅に置かれた鞄を示す。 慎一は無言で頷く。

「アン・・・リ・・・エッタ に・・・」

その左手を、今度は慎一の前へと持ってくる。
慎一はその指先から、大粒のルビーを外す。

「分かった」
慎一が皇太子と交わした、それが唯一の言葉。
左手が重力に任せて垂れ下がり、そこでウェールズは事切れた。
慎一がその両目を塞いでやる。そのまま時間が止まったかのように慎一は動かない。

「おい シンイチ! こりゃ ヤバいぞ!」
デルフに促されるまでもない。
爆発、絶叫、金属音― 喧騒が徐々に近付いてくる。
城は落ち、この礼拝堂にも暴徒が押し寄せてくるであろう・・・。

「お前はそこでじっとしてろ・・・」

「あん! 馬鹿言ってんじゃあねーぞ!
 その体で飛び出して何が出来るっつーんだ!?」

「・・・ルイズを助けるには どの道 正面突破しかねえんだよ・・・」

慎一の静かな口調から、デルフは彼が、ひどく残酷な感情に支配されている事を知った。

二人は恐らくは死ぬであろう。
だが、それまでに慎一は、どれだけの死体の山を築くであろうか・・・。



「また馬鹿なこと言ってるわね ダーリン」

ボゴン、と背後から地面を押し上げる音がして、見覚えのあるモグラの鼻先がにゅっ、と現れる。

「脱出しよう シンイチ 家に帰るまでが任務だよ!」

穴から這い出してきたギーシュが高らかと言う。

「・・・家に・・・?」

「長居は無用」

それだけ言って、タバサはすぐに穴へと引っ込む。

慎一の胸中を支配していた自棄的なオーラが、ストンと抜け落ちる。
そう、これは、地球での明日なき戦いではない。

かりそめのものとはいえ、今の慎一には、帰るべき場所、守るべき仲間があった。

「どしたの? ダーリン  ボーっとして・・・」
デルフを抱えながらキュルケが尋ねる。

「・・・いや」
ヴェルダンデを見つめながら、慎一が呟いた。

「・・・穴を掘れる魔獣ってのも 便利なモンだと思ってな」

ジャイアントモールの大きな体が、小動物のようにプルプルと震えていた・・・。


― 私は夢を見ていた

周囲に広がる美しい高原。 
その余りにも穏やかな雰囲気が、却ってそれが夢である事を強く印象付ける。

彼方から、上空を舞う鷹のいななきが聞こえる。
足元には愛嬌のある小猿。
意外な程に穏やかな目をした熊とゴリラ。
寄り添いあって眠る獅子の親子。

喰う者も、喰われる者も無い、幸福な世界。

そして・・・ 丘の中央には一人の女性。

おそらくは、ハルケギニアの住人ではないだろう。
見たこともない異国の着物に、巻き上げられた豊かな髪―。

(この人は・・・お母さんだ・・・!)

私の母親ではない、けれども、何処かで出遭った事がある。
言うなれば、普遍的な母性を宿した女性。

圧倒的な懐かしさの前に、自然に涙が零れ落ちる。

余りにも幸せで、それゆえに悲しい夢だった。


「・・・まったく 見せ付けてくれるじゃない ヴァリエール」
「無粋」

妬ましそうに振り返るキュルケを、タバサがたしなめる。

「・・・それにしたって こんな風な顔をするんだな 彼も」

慎一の顔を見ながら、ギーシュが意外そうに言う。



慎一は、正に精も根も尽き果てていた。

シルフィードに揺られながら、ヴェルダンデを背もたれにして胡坐をかき
彼は久方ぶりに、深い深い眠りへと陥っていた・・・。

その膝元には、まどろむルイズ。

眠りながら、尚もその小さな主を守るかのように、
慎一の背中の大きな翼が、彼女を包んでいた・・・。


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