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虚無(ゼロ)からはじめる筋肉革命-02

 真人の体に塗りたくった蜂蜜が、場の剣呑さを中和するかのように甘い香りを漂わせていた。

「後は、頼んだぜ」

 そういって恭介たちに親指を突き上げて見せたあとに、蜂の大群に向かって走り出した。
 当然のように無数の蜂に群がられる真人。
 そこへ謙吾が殺虫スプレーの先を向け、恭介がその真下にライターを添えた。
 理樹は唖然として見つめ、鈴はただ兄のその行動を傍観していた。

「まさと、おまえのぎせいは忘れん!」

 声と同時にスプレーから火が放射状に放たれ、その即席火炎放射機で真人の体がぼぅ!と燃え上がり、火柱と化した。
 真人の体が蜂もろとも燃え上がる。



「うおおぉぉおおぉぉーーっ! んなこと頼むかあぁぁぁーーーーーーっ!!!」

 真人は大声を上げながら夢から覚めた。

「「「「…………」」」」

 場を沈黙が支配した。
 だが、2メートルに届かんばかりの見知らぬ大男がいきなり大きな声で叫べば、誰でもこうなってしまうだろう。
 そしてこの空気を作った当の本人は、

「……なんだ、夢かよ。しかし懐かしい夢だったな」

 なぜだか一人で納得していた。


「あ、あんたいったい何なのよ!」

 ルイズが驚かされたことに怒りを露にして、真人に詰め寄る。

「へ?」
「質問しているのよ! いいから答えなさい!」
「……井ノ原 真人だ」

 真人は、なんだコイツ? と心の中で思いながらも、素直に答えたのは根が正直だからだろう。

「イノハラマサト? 変な名前ね」
「いや、名前は真人のほうなんだが……」
「あぁもう! とにかく今日から私があなたのご主人様よ! いいわね!」
「……いや、よくねぇ! なんだよそゃ!?」

 今まで黙っていた真人も、こんな小さい子供に「今日から私があなたのご主人様よ!」と言われて、黙って引き下がるわけにはいかなかった。

「メイジである私がご主人様で、平民のあなたが使い魔よ! これだけ言っても理解できないの?」
「メイジ? 使い魔? なんの話だよ!? そもそもここはどこだよ!?」

 先ほどまでただ見ているだけだったコルベールも、ヒートアップしてきた口げんかを止めにはいった。

「あー二人とも」
「「あ゙ぁっ!?」」

 二人同時にすごい形相で睨まれ、思わず一歩のけ反ってしまったが、挫けずに続ける。

「ミス・ヴァリエール、いくらなんでもあなたの言い方は突然ここに呼ばれた相手に失礼でしょう」
「それは……そうですが……」
「それと……ミスタ・イノハラも、もう一度落ち着いて、彼女の話を聞いてはくれませんか?」
「……あ、あぁ。大人げなくて悪かった。ごめんな嬢ちゃん」

 二人とも自分が取り乱していたことを恥じて、少しだけ反省した。
 一方、キュルケとタバサのほうはルイズと真人の仲が落ちついたと知ると、それぞれの使い魔とともにすでに学院のほうに体の向きを変えていた。


「魔法学院……かぁ」
「そうよ。理解できた?」
「……理解できるもできないも、空飛ぶ人間やあんなもの見せられたら信じるしかないだろ」

 真人はルイズの部屋の窓から見える二つの月を親指でさして答えた。
 とりあえず、ルイズの部屋で話を聞くことになった真人。
 他の人たちは飛んで帰っていったのだが、そんな芸当二人にはできるはずもなく、徒歩で行くことになったのだ。

「こっちだってまだ信じられないわね。月がひとつしかない世界なんて。まるでおとぎ話だわ」
「俺らの世界にしてみれば、こっちのほうがおとぎ話なんだがなぁ……」

 はぁ、と二人で大きなため息をついた。

 真人は湧き上がる知恵熱とも格闘しながら、ルイズになんとか自分の世界の大体のことを説明したが、あえて恭介たちで作った『あの世界』のことは説明しなかった。
 そもそも、そのことは謎が多すぎて自分でもよくわからないのだ。

「だいたい、なんで俺が呼ばれたんだ? こういうファンタジーな世界は恭す……俺の知り合いなら、ものすげー喜ぶと思うんだが」

 真人は『ヒヤッホオォォッーー!ハルケギニア最高ぉぉーーー!!』と奇声をあげて喜ぶ、就職活動をするような歳になっても童心を忘れない自分たちのリーダーが容易に想像できた。

「知らないわよ。サモン・サーヴァントは使い魔を自分で選ぶことなんてできないもの」

 ルイズはベッドに腰掛けながらふてくされたように、椅子に座っている真人からそっぽを向いて答えた。
 どこか幼さを残すその仕草に、真人は少しだけ安心した。
 国や文化は違えども、住んでいる人が、人であることには変わりない。
 自分は何もないところに放り出されたわけではないのだ。
 それに、やるべきことももう決まっている。

「よっしゃ! とにかく俺は使い魔ってやつをやればいいんだな?」
「……その、ほんとにいいの? かってに召喚して契約しちゃった私が言うのもなんだけど、あんたのいた世界の家族や友達とか、心配してない?」

 そう言われた真人が少し遠い目をしたのをルイズは見逃さなかった。
 寂しそうな、けれども幸せそうな今まで自分が見たことないタイプの目だった。

「あいつらのことなら問題ねぇよ」

 目を瞑った真人が思い出すのは昔からどこへ行くのも一緒だった4人の仲間。
 リーダー格の遊びの天才。
 自分がライバルと認めた真面目な剣道男。
 リーダー格の妹でどこか猫っぽい人見知りの激しい少女。
 自分の親友でもあり、いつも一緒にいた優しいだけでなく強さも手に入れた少年。

 そして高校で一気に増えた新しい仲間たち。
 面白いやつ、すごいやつ、騒がしいやつ、元気なやつ、静かなやつ。
 みんなで作った思い出は、どれも掛け替えのないものだ。
 そして、掛け替えのないゆえにもう戻ってこないのだ。
 たとえ自分だけが元の世界に戻ったとしても、だ。

「それにこんなことでうじうじしてたら、あいつらに笑われちまう」

 真人はふっと笑いながらルイズに自分の意思を伝えた。

「ところで、使い魔って何をやりゃあいいんだ?」

 根本的というか一番大事なことを真人は聞き忘れていた。

「あんた、よくそれで使い魔をやるだなんて言ったわね」
「悪い。いつものたのむ」
「いつものってなによ?」

 そんな自分の使い魔に、もう一度深くため息をついたあと、ルイズは説明をはじめた。

「まず、使い魔は主人の目となり、耳となる能力を与えられるわ」
「……あー……なんだ、その……」
「つまり、使い魔が見たものは、主人も見ることができるのよ」
「なんだ、初めっからそう言えよ」
「……どっちにしろ私が見えてないんだから、あんたにこの能力は期待できないわね」
「うっ……」

 自称ティシュペーパーのように繊細な心をもつ真人は、胸にグサリと突き刺さるものを感じた。

「ほ、ほかには?」

 なんとかいいところを見せようと真人はほかの仕事を尋ねた。

「使い魔は主人の望むものを見つけてくるのよ。秘薬とかね」
「秘薬? プロテインとかサプリメントとかか?」
「なんだかよく分からないけど、たぶん違うわ。コケとか硫黄とかよ」
「だな。プロテインはただのタンパク質だし、サプリメントへの依存もあんまりよくないからな」
「……で、見つけられるの?」
「見つけられません」

 とうとう真人は壁に片手をついて、『反省』のポーズをとったまま落ち込んでしまった。
 さすがのルイズもその落ち込み具合になんとかフォローしようと、次の役目を教える。

「え、えっと。あとは主人の身を守ることなんだけど……できる? あ、駄目なら雑用とかもあるし―――」

 真人は壁についていた手を放し、幽霊のようにゆら~と立ち上がるとルイズのほうに向き直り、

「へっ。なんだそんなことでいいのか」

 親指で自分を指しながら、口の端をにやりと吊り上げて、自信たっぷりに宣言する。

「安心しろルイズ。なんかあったら……俺が必ずおまえを守ってやる」

 それは傍から見れば、たいそう滑稽なものだったろう。
 魔法も使えぬ平民が、どう貴族に立ち向かうのだ、と。
 しかし、ルイズは馬鹿にもせず、突っかかりもしなかった。
 ただただ、この男が本当に成し遂げてしまいそうな。
 そんなことをさらりとやってのけてしまうような。
 自分にはない、『大きいなにか』を感じ取っていた。

 ルイズは口を半開きにしていたことに気づいて、慌てて口を手で塞いだあと、一度咳払いをして気を取り直した。

「……わかったわ。とにかく明日から私の使い魔としてビシバシ働いてもらうからね! 覚悟しときなさい!」

 おう、まかせとけと真人の返事を聞いて、安心したのかルイズに今日一日分の疲れが襲ってきた。
 あくびを噛みころしながら自分が着ていたものを脱ぎ終わり、それを洗わせようと自分の使い魔のほうを見た。

 なぜか上半身裸の真人がそこにいた。

 ルイズはギョッと目を見開いたあと、今の自分では理解できない使い魔の奇行を叱責した。

「な、ななな、なんであんた裸になってんのよっ!!!」

 真人は、は? と不思議そうなリアクションをとったあと、

「なんでって、今から『筋肉にらめっこ』をおっぱじめるんじゃないのか?」

よくわらんことを言っていた。

「しないわよっ! 着替えるから脱いでただけよ! ていうか何よ!? 『筋肉にらめっこ』って!」
「おう、『筋肉にらめっこ』っていうのはな。お互い―――」
「そんなことを聞いてるんじゃないの! 女性の前で男がいきなり裸にならないでよ!」

 ルイズは自分が最初に脱ぎだしたことを棚にあげて、自分の目を手で覆いながら怒鳴りつけていたが、指のすきまから真人の逞しい肉体をばっちり凝視していた。

「いいから、これ明日になったら洗っときなさいよ! あと、朝食に間に合うように私を起こすこと! いいわね!」

 そう言って真人の顔に自分の脱いだものを思いっきり投げつけたあと、乱暴にネグリジェを着込み、頭から毛布を被ってさっさとベッドに寝てしまった。
 残されたのは未だに上半身裸の真人だけだ。

「……」

「……きん、きん、筋肉さん、にらめっこしましょ♪ きん、に、く!」

「……」

「さて、俺も寝るか」

 真人はそう言って床に寝そべったと思ったら、すでに寝息を立てていた。
 こうして、真人のハルケギニアでの生活が始まったのであった。

 一方、ルイズは、

(男の人の裸男の人の裸男の人の裸男の人の裸男の人の裸男の人の裸……)

 どうやら真人の引き締まった美しい筋肉は、年頃の女の子には刺激が強かったらしく、さきほど初めて見た男の裸に、なんだか悶々としながら寝苦しい夜を過ごした。



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