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不幸を呼ぶ使い魔

ハルケギニア、始祖ブリミルを崇め、魔法を操る貴族(メイジ)が絶対の力を持つ世界。
ここはハルケギニアの小国、トリステイン王国。
そして、多くの貴族の子弟が集うトリステイン魔法学院。
物語は、ゼロと渾名される少女が、使い魔召喚の儀式に挑んだ事から始まった。


不幸を呼ぶ使い魔 ~summon sheryl~


『………ッ!』

不意に誰かに呼ばれ、少女は目を覚ました。
しかし、周りを見回すが誰もいない。
それどころか、視界は闇に閉ざされ何も見えない。

(今は何時かしら……?)

柔らかいベッドの感触を感じながら、少女は時間を気にして時計を探し…… それを諦めた。
全く闇が見通せなかったからだ。
寝ぼけた眼では、闇に目が慣れていないからだろう。
ベッドから起きて明かりを点ければ良いのだが、春とはいえ夜は冷え込むので、
ベッドから起きる気にはならない。
魔法で明かりを点けようにも、彼女が魔法を行使すると決まって爆発が起きるだけだ。
それに今は、杖の在処も判らないので、魔法が使えようと使えまいと大した違いは無かった。

シェリルは、自分の使い魔は何処だろう?
いつもは同じベッドで寝ているのだが、傍にいる気配は無い。

(夜の散歩かしら?)

犬や猫ではないのだから、おかしな真似はしないだろう。
彼女が帰ってくるまで起きていようか?
私は、彼女の事を余りよく知らないが、傍に居てくれると不思議と心が落ち着く。
まるで優しい何かに覆われているように……。

彼女は何時も深紅の帽子を目深に被り、帽子と同じ色の衣服の襟で口元を隠している。
その隙間から覗くのは、漆黒の髪と紫の瞳。
瞳には憂いを宿し、身に纏う雰囲気と態度から、人を寄せ付け様とはしない。
しかし、その顔の造詣は整っており、絶世の美女と呼ぶに相応しいだろう。
だからそんな雰囲気を纏っていても、ギーシュやマリコルヌ、その他大勢の男は彼女を放って置かない。
寧ろその雰囲気が、彼女の儚さに拍車をかけているのだろうか?
それなら不幸なことだ。
注視される毎に、彼女の悲しみは増大している。

それにしても、一向に目は闇に慣れない。
寝ようにも、妙な時間に起きたせいか目は冴えてしまっている。
仕方ない、眠気が来るまで眼を閉じておこう。

シェリルは自分の事は殆ど話さない。
初めは平民かとも思ったが、整った容姿と立ち振る舞い、そして嵌めた指輪から、
没落した貴族なのかもしれない。
指輪の石は、弱々しく光を反射している。純度の低い宝石なのだろう。
彼女は、多くの不幸を見てきたらしい。
その所為か、自分は周りの人間を不幸にするのだと言う。
そして彼女は語る、悲しい話を……


初めて彼女が悲しい話をしたのは、召喚した次の日だった。
同伴させた授業で、私が盛大な失敗をしてしまい、二人で後始末をしている時だった。
あの時、自分がゼロだと知られた時、彼女に随分と当り散らした。
そして彼女は、静かな声で口を開き……

「あなたを見ると悲しいことを思い出すわ。
 ある王国に生まれた王子の話、彼は生まれつき術が使えなかった。
 それが分った途端、王は王子を追放したわ。
 その王国は、術を至上のものとしていたから、術の使えぬ王子に石コロ程の価値も見出さなかった。
 国を追われた王子は母と友人に支えられて立派に成長し、やがて自分だけの牙を手に入れた。
 そして小国を乗っ取り、祖国の正統を名乗って異母兄弟を下し、凱旋を果たしたわ。
 国を弟に譲り、
 時代の覇者になるため戦い続けたけれど、最後は炎に巻かれる砦で短い生涯を閉じたわ…」

余りにも静かに語られるその話を、私はただ、ただ聞いていた。
先ほどまでの激昂も忘れて、ただ聞き入っていた。
自分以外にもゼロが居た事に驚き、その生涯に思いを馳せた。
その話が本当ならば、壮絶な人生だったのだろう、そして彼は雄々しく生きたのだろう。
不意に自分がちっぽけに思えた。運命を共にする使い魔に、当り散らすなど貴族の行いではない。
今の自分を見て、下の姉は何と思うだろうか? ちぃ姉さまにだけは軽蔑されたくない。
何のことは無い、今まで魔法を何度も失敗してきた、それが一つ増えただけではないか。
魔法が使える者が貴族と呼ぶのではない、敵に後ろを見せない者をを貴族と呼ぶのよ!
敵は自分の弱い心、こんな事で挫けてなるものか!
これまで多くの失敗をしてきた私だ、私を挫けさせるのならこの3倍持って来いというのだ!!
彼女は悲しい話として語ったけれど、私にはそうは聞こえなかった。
どういう意図で話したのかは、その表情から読み取ることは出来なかったが、
軽蔑や罵倒の為ではないだろう。
辛さや悔しさが少し紛れ、私は心の中で感謝した。(言葉や態度は正反対の事をしていたが)


それからも彼女は、事ある毎に悲しい話を語った。
ルイズ以外の人間にも語っているようだが、相手が呆気に取られている内に立ち去るのと、
召喚されて日が浅いのもあいまって、トラブルはまだ起きていない。
その内、トラブルが起きないか心配である。


夢を見ている。

夢だとわかる夢など見た事が無いが、ハッキリと判る。

これは夢だと、過ぎ去った過去を追想しているのだと。


教室の片付けが終わったのは、昼休みの半ば過ぎだった。
シェリルには、朝の様な粗末な物ではなく、もっと上等な物を与えてやろうと思う。
学院の本塔にある、アルヴィーズの食堂に入る。
シェリルはルイズの後を、静かについて来る。
中にいる者たちの大半は既に食事を終え、歓談に興じている。
三つある長テーブルの一角に、青銅のギーシュ以下数名が騒いでいる。
聞くとも無しに聞いていると、ギーシュが誰と付き合っている、いないで盛り上がっている様だ。
女誑しの気障野郎だから気を付けろ、とシェリルに言っておく為に振り向く。
しかし、彼女の姿は無い。
辺りを見回すと、よりにもよってギーシュの目の前に居る。
さすがのギーシュも、これには戸惑っている様だ。
シェリルの周りに静寂が訪れると、静か言葉を紡ぐ。

「あなたを見ると悲しいことを思い出すわ。
 とある発明家の話。
 彼は才能に恵まれ、多くの富と名声を得ていたけれど、心は虚無感で満たされていたわ。
 ある日、彼は一枚のフォートに魅せられたわ。
 彼はその行方を追うけれど、手にした時には灰となって崩れてしまった。
 それから彼は、再び情熱を取り戻すことは無く、虚ろなまま余生を過ごす事と成ったわ」

さっきまで騒いでいたのが嘘かの様に、ギーシュ達はポカンとしている。
シェリルはさっさと踵を返し、こちらに戻って来ようとする。
ギーシュはいち早く立ち直り、シェリルを呼び止めるべく席を立つ。
それがいけなかった。勢い良く立ち上がった拍子に、胸のポケットから小壜が零れる。
それを目聡く拾う人物があった。
ギーシュの背後の席に座っていた栗色の髪をした少女だ、マントの色からすると一年生だろう。

「ギーシュ様…… この小壜は?」
「ケ、ケティ……」

ケティと呼ばれた少女は、悲しげに問い掛ける。
それにギーシュは固まり、周りの奴らは一斉に囃し立てる。

「おお? それはもしや、モンモランシーの香水じゃないのか?」
「そうだ! その香水の色はモンモランシーが自分の為だけに調合しているものだぞ!」
「つまり、いま君はモンモランシーと付き合っている。 そう言う事だなギーシュ!」

その言葉に彼女はボロボロと泣き始める。

「やはりミス・モンモランシーと……」
「ち、違うんだよケティ、これは誤解だ。これは拾っただけで贈り物じゃないんだ。
 いいかい、僕の心の中に住んでいるのは君だけだよケ……」

その台詞が終わる前に、一人の少女が椅子を乱暴に蹴倒し勢い良く立ち上がる。
見事な金髪の巻き毛と、ソバカスを持った少女だ。
その瞳には怒りの炎を燃やし、鋭い眼光を放っている。
そして、ステータス異常に陥りそうな大声を上げ、彼まで詰め寄る。

「ギィィィーシュッ!!」
「や、やあモンモランシー、いい天気だね……」

ギーシュは顔面を蒼白にして脂汗を垂らしている。
怒りに震える声でモンモランシーは、彼を詰問する。

「私の香水を、どうしたって言ったの?」
「ひ、ひろっ……」
「その・香水は、私が・貴方の・為に・調合・した・物・よね?」

聞き取りやすく、一語々々区切って尋ねる。
彼は益々顔色を悪くして、ケティを見やる。
ケティは眼を潤ませ、やり取りを静観している。助け舟は期待できない。
モンモランシーは、さらに顔を近づけて返答を促す。
唾を飲み込み、彼は声を絞り出した。

「そ、そうです……」
「そんなっ!?」

ケティは悲しみに顔を歪ませて、声を張り上げる。

「私の事は遊びだったんですね! 酷い、酷いわっ!」
「ふごっ」

ケティは、熊掌打をギーシュの腹に決めて、泣きながら走り去る。
横隔膜に綺麗に入った一撃は、彼を悶絶させる。
モンモランシーは、冷たい声で彼に告げる。

「やはり、あの一年生に手を出していたのね?」
「い、いや、彼女とは一緒にラ・ロシェールの森へ遠乗りに行っただけ……」

彼の苦しい言い訳を、彼女はワインを頭にぶっかけて黙らす。
辺りにアルコールの匂いが立ち込める。

「うそつき!」
「おぶっ」

彼女はギーシュにハートブレイクを決めて、足早に去っていった。
ギーシュは、心臓打ちで呼吸困難に陥っている。
周りの奴らは、二股は無いだろ常考…… と、言った目で見ている。
早く医務室に連れて行ってやれ。
呆然とそのやり取りを見ていると、隣に来ていたシェリルが暗い顔をしている。

「また、一人不幸にしてしまった……」
「ちょっと違うんじゃない?」

あれはギーシュの自業自得で、遅かれ早かれああ為っていただろう。
そうこうしていると、昼休みの終わりを告げる鐘が鳴り、午後の授業が近いことを告げる。

「あっ、昼ご飯を食べてない……」

ギーシュのせいで昼食を取り損ねた…… 許せない……。



その日の夜は、静かで安らぎを感じる夜だった。
しかし、シェリルは部屋に居らず、向かいの部屋からは騒がしい声が響いてくる。
文句を言おうと、アイツの部屋を乱暴に開けたらシェリルまでいた。
部屋の中は香が焚かれ、ささくれ立った感情を落ち着かせる。
部屋の主であるゲルマニア女は、何故か薄着でベッドに座っている。
褐色の肌を惜しみなく見せつけ、扇情的な雰囲気を醸している。
ついでに窓の外には三人の人影。

「な、な、な、な……」
「チェンジ」
「グフッ!」
「ギャンッ!」
「ゲルググッ!」


ツェルプストーが杖を振り、炎の大蛇で外にいる男達を窓ごと吹っ飛ばす。
そしてシェリルに面向かって、穏やかな声で話し掛ける。

「これで邪魔者はいなくなったわ、ゆっくり話しましょ?」
「な、何してんのよー! 人の使い魔に手ぇ出してんじゃないわよ! アンタそういう趣味なの!?」

私を無視して、シェリルに話しかけるキュルケに、待ったをかける。
気だるげな眼で此方を向き、さもいま気付いたかの様に振舞う。

「あら、何時の間に来たのヴァリエール? いま取り込み中だから後でね」
「だめよシェリル、こんな色ボケに構ってちゃだめ!」
「ご挨拶ねルイズ、私はただ彼女が何処から来たとか、聞きたかっただけなんだけどね。
 人間が呼ばれるなんて前例が無いし、何より貴女の使い魔だしねぇ」

意味ありげな眼で此方を見やる。
その眼に神経を逆撫でられ、激情が湧き上がってくる。

「アンタには関係ないでしょ!」

決闘のGONGが鳴り、お互い口撃の準備が整う。
大きく息を吸い、相手を見据え……
その時、場の空気を、静かな声が断ち切った。

「あなたを見ると悲しいことを思い出すわ。
 偶然に血を与えられ、半妖と成った女の話。
 彼女は血に抗い、愛する者と逃げ出したけれど。
 その人は、彼女を救うために犠牲となったわ。
 そして逃げ出した場所に戻り、妖魔の王を倒して次の王となった。
 けれど前王を超えることに拘るあまり、人の心を無くしてしまったわ」

これには流石のキュルケもポカンとしている。
シェリルはキュルケに背を向けて、私の部屋に帰っていった。
キュルケのあんな表情見たとこがない、少しは溜飲が下がった。 ざまあみろだ。
明日は虚無の曜日だ、シェリルをつれて町に出かけよう。



計画通りシェリルと城下町に出かけ、服や生活雑貨の類を買い与えた。
シェリルに使い魔としての体面を取り繕うため、武器屋を探している最中キュルケと出会った。
彼女は無理矢理こちらについてくる。
彼女は『偶然』だと言っていたが、一緒にいる小柄な青髪青眼の少女は確か、
見事な幼風竜を召喚していた筈だ。
と、なればそれで追って来たのだろう。
そう迄して一体何のつもりだろうか? この女は。
武器屋までの道すがら、武器を買う理由を話す。

本道から外れた狭い路地裏に目的の店はあった。
店に入ると中は薄暗く、ランプが灯っている。
中には所狭しと武器が並べられ、店主と思しき中年の親父が、胡散臭げに此方を見ている。
しかし、此方が貴族だと気付いたのか、愛想を良くして話しかけてくる。
それを無視してキュルケは、シェリルに優美な細工の施されたレイピアを勧める。

「これなんて綺麗で良いんじゃない?」
「何でアンタが選んでるのよ!」
「早い者勝ちよ。この細工の細かさ、彼女に良く似合ってると思わない?」
「あ・ん・た・はぁ~ 今日という今日は、その口を閉ざしてやるわ!」

壮絶な口撃の応酬が始まり、剣呑な空間に変わっていく。
タバサは我関せずと、本を黙々と読んでいる。
店主が何かを言ってきたけれど、そんな事は聞いていない。
あと少しで、この女をやり込められるのだから。

結局決着はつかず、気が付くと夕方になっており、タバサ、シェリル両名の姿は無い。
風竜で一足先に帰る、とだけ店主に伝言してあった。
仕方なくお互い剣を買い、シェリルに選んで貰う方向で話は纏まった。
私とシェリルが乗ってきた馬にお互い跨り、学院へと帰る。
夕日が落ちる中、馬で並走しながら3時間ずっと口論の続きをしていた。
あれ……? もう学院?


「zzz…… はっ、俺の出番は?」
「やいデル公、今日はもう店仕舞いだ。 畜生、ぼったくり損ねた!」
「えっ、えっ? 相棒? 相棒ーー!」


その夜に事件は起こった。
シェリルに剣を選んでもらうために、ロープで縛り、吊り下げようとしている時だった。
巨大な影が、突如現れる。
そいつは、30メイルはある巨大ゴーレムだった。
拳を振り上げ、宝物庫の壁を猛打する。
鋼となった両腕が、壁にヒビをいれ粉砕する。
そして、ゴーレムの肩に乗った人影が飛び降り、宝物庫から何かを持ち出した。
ルイズたちはその一部始終を目撃したことで、翌日院長室に呼び出された。

一夜明け、院長室にて証言を行う。
学院長であるオールド・オスマン及び、ミスタ・コルベール以下教師陣に見た事の詳細を話した。
私達の証言と残された犯行声明により、犯人は『土くれ』フーケ、と特定された。
『土くれ』の名に教師達は尻込みし、互いに責任を押し付けあう。
フーケ捜索に教師の誰も杖を掲げない。
情けない教師達に苛立ち、私は一歩前に出て杖を掲げる。
それに続き、キュルケ、タバサが名乗りを上げる。
生徒が行く事に一悶着あったが、コルベール先生と、
院長秘書のミス・ロングビルが同行することで話は纏まった。


私達は、ミス・ロングビルが御者を務める馬車に揺られている。
彼女はいち早く捜査を開始し、フーケの隠れ家を突き止めていた。本当に優秀だ。
目的地までは4時間ほど掛かるので、雑談で時間をつぶす。
その話でミス・ロングビルは元貴族であり、ある理由で名を失ったのだという。
キュルケが詳細を聞こうと、好奇心丸出しで話しかける。

「もし差し支えなかったら、事情をお聞かせ願いたいわ」

だが彼女は微笑んだだけで、それ以上は話さなかった。
それでも詮索を止めないキュルケを、コルベール先生がたしなめる。

「ミス・ツェルプストーあまり過去を詮索するものではありませんよ。
 人には言いたくない過去など、幾らでも在るのですから……」

穏やかに、しかしハッキリとした口調で言い切る。
何時もの冴えない印象はなく、何かに苦しむような表情をしている。
キュルケはその言葉で大人しく引き下がる。
はじめて見る先生の様子に、影のある男性って素敵ね、これは恋? とか言っている。
だめだ、こいつ…… 早く何とかしないと……

そして、空気も読まずにシェリルが話し出す。

「あなたを見ると悲しいことを思い出すわ。
 ある聖戦士の話。
 彼は戦神に仕えていて伝説の剣を求めていたわ。
 ついに念願かなって、冷気を発する剣を手に入れたけれど、昔の仲間もその剣を求めていたわ。
 その人は譲ってくれと頼んだけれど、彼は頷かなかった。
 そしてその人は刀を抜き、彼を殺して奪い取ってしまったわ」

「な なにをするきさまらー」


先生の一言で、場の空気がgdgdに為ってしまった。
キュルケの瞳からは微熱が去っていた。
微妙な空気のまま馬車は、フーケが目撃された場所に到着する。
そこは森の奥の空き地で、廃屋が一軒建っている。
ミス・ロングビルは森に偵察に行き、私達は廃屋を調べることとなった。
先生が、軽い身のこなしで廃屋を先行偵察を行う。
暫くして、手招きをされた。
どうやら、危険は無いらしい。

小屋の探索を始めて間もなく、タバサが破壊の杖を見つける。

「みつけた」
「間違いありません、これは破壊の杖です。
 其れでは早くミス・ロングビルを捕まえましょう」
「えっ?」

コルベール先生が確認し、あっさりと破壊の杖奪還は成った。
しかし、何故ミス・ロングビルを捕まえるのだろう?





「……ズッ! ル…ズッ!」

私を呼ぶ声が聞こえる。これはキュルケの声だ。
なにを必死に為って呼んでいるのだろう。

「お…いだから、…を開けてっ! ルイズッ! 死なないでっ! お願いだからっ!」

誰が死ぬというのだろう? 全く失礼な女だ。
私の顔に水滴が落ちる。
雨? いや、私はベッドで寝ているはずだ。
雨漏り? けれどこの雨は、なぜか暖かい。

「タバサ、もっと早く飛べないのっ!?」
「これが限界、これ以上は負担が掛かる。余り無理は出来ない」
「私が付いていながら、生徒に重傷を負わせるとは……」
「ルイズ……」

悲しげな声が聞こえる。
一体皆は何処に居るのだろう? 真っ暗で何も見えない。

「お願いだから、眼を開けてルイズッ!」

眼を開ける? 私は眼をつぶっている? そんな筈は……
渾身の力で瞼を上げる。
すると、暗闇に一条の光が差す。
其処には、私を見守るキュルケとミスタ・コルベール、風竜を御すタバサ。
そして、私の体を支える誰か。
ミス・ロングビル? いや、彼女はフーケだった。
なら、この温もりは……

「嗚呼っ…… エロールよっ! エロールよ、この者を助けたまえっ!」

シェリル…… この温もりはベッドなどではなく、彼女のものだったのか。
何故、こんなにも皆は悲しそうなのだろう?
何故、私は体の自由が利かないのか? 
眼ももう開けていられない。
私の中の何かが、零れ落ちている。



コルベール先生が、ミス・ロングビル=フーケだと説明をする。
確かに、良く考えるとおかしな証言だ。
直ぐに言わなかったのは、破壊の杖を取り戻すためだったそうだ。
そして廃屋を出て直ぐに、昨夜見たゴーレムが襲い掛かってきた。
それを見て皆は退却しようとする。
けど私は、背を向けるのが嫌で破壊の杖を手に立ち向かったのだ。
破壊の杖を振る。
だが思うような効果は発揮されず、私はゴーレムに踏み潰された。
掠れる意識の中、皆は私を連れ退却し応急手当を施してくれた。
其処で私の記憶は途切れている。



動悸が早くなる。
今まで感じていなかった痛みが私を苛む。
苦しみに身を捩る。

「あ、あぁ、あぁぁ、あぁぁぁ……っ!」
「ルイズッ! 気が付いたのねっ!」
「ミス・ヴァリエールもう直ぐ病院です、直ぐに水のメイジと秘薬で助かります!」

キュルケと先生は言葉で、シェリルは私を更に抱きしめ、力づける。
私の眼には暗闇しか映らない。
聞こえる声も霞んできた。
しかし不安は無い、闇が私の全てを優しく覆う。
悲しみ、不安、そして死の恐怖ですら私には届かない。
シェリルは闇の雰囲気を持つのではない、彼女は闇そのもの。
闇は私の使い魔。
自分の使い魔を怖がる者が居るだろうか? いや、居ない。
ならば、闇を恐れる理由など無い。
闇は悪ではない。闇から全ては生まれた。
悲しいこと、辛いことを覆い隠す。闇は優しき母。
闇には全てがある。

エオルー・スーヌ・ヤルンサクサ

闇の中から何かが聞こえてくる。
聞いたことが無いのに、懐かしいと感じる。

オス・スーヌ・ウリュ・ル・ラド

これは今、闇から生まれてくる何かだろうか?

ベオーズス・ユル・スヴュエル・カノ・オシェラ

いや違う、これは闇に隠れていたのだ。 

ジェラ・イサ・ウンジュー・ハガル・ベオークン・イル……

これは私の中に隠れていた、いつか使われるその日まで。
これは魔法の詠唱だ、私にしか使えない魔法だ。
その名前は……



白。
一面の白。
暗闇から一転、眼には溢れる光と痛いくらいの白が飛び込んでくる。
白いシーツ、白いカーテン、白い壁。そして金の髪。

「起きた様ね、ちびルイズ」
「……っ!!」

目の前には、自分の未来の姿が写っている。
……わけではなく、眼鏡を掛けルイズに良く似た女性だ。
違うのは髪の色と背丈ぐらいだ。
『姉さま』と呼ぼうとして…… 喉に痛みが走る。

「酷い怪我だったから、しばらく声は出せないし、あまり動くのも出来ないそうよ」

そういう事は、はやく言って欲しかった。
如何にかして首を動かすと、包帯まみれの自分の体がみえる。

「待ってる間暇だったから、こんなのを作ってみたわ」

そういって、アルファベットの書かれたシート(こっくりさんシート)を取り出す。
そして指示棒を使い「い」「た」「い」「?」と、ポイントして聞いてくる。
いえ姉さま、耳は聞こえますから……




一週間後、包帯も取れ日常生活に支障の無い体になった。
寝込んでいる間、多くの人が見舞いに訪れ励ましてくれた。
キュルケ、タバサ、ミスタ・コルベール、etc
しかし、その中にシェリルは居なかった。
誰に聞いても、歯切れが悪くハッキリと答えてくれない。
姉さまと、一週間世話になったメイドのシエスタ(しばらく身の回りの世話をしてくれる)に付き添われ、部屋に帰る。
しかし、其処にはシェリルは居らず、薄っすらと埃が積もっている。
それは暫く間、誰もこの部屋に居なかったという証拠だ。
頭の中が真っ白になる。
気が付くとキュルケの部屋に行き、シェリルが何処に居るのか、彼女に詰め寄っていた。
すると、言い辛そうにゆっくりと話し始める。

結果としてシェリルは学院を去った。
これ以上私を不幸にしない為に。
重傷を負って担ぎこまれた私は、一度心臓が止まったらしい。
だが懸命の治療により、程なくして鼓動を取り戻したそうだ。
しかし、一度私は死んだ。
その事で、シェリルに掛かっていたコントラクト・サーヴァントは効力を失ったのだという。
そして彼女は去っていった。
私は呆然とする、胸に後悔が渦巻き始める。
私があの時素直に逃げていれば、彼女を苦しませることは無かった筈だ。
キュルケが何か言っている、姉さまとシエスタも此方を見ている。
ただ、後悔だけが私の中に広がっていく。
あの時、フーケ捜索に名乗りを上げなければ……

頬に走る痛みが、私を現実に戻す。
私は、ぼんやりと平手打ちをしたキュルケをみる。
キュルケは怒っていた、腑抜けた私を。
これで膝を折ってしまっては、ただの負け犬だ。
そんな事で貴族を名乗るのか?
キュルケは容赦無しに私を責め立てる。
そうだ、ここで立ち止まってはならない。
彼女に胸を張って再会するためにも、立ち止まれない。
自分は不幸になんか為っていないと、証明するために私は涙を拭いて立ち上がる。





再び、ハルケギニア。
どこかの国のどこかの町、その中にある小さなPab。
緑を基調とした衣を纏い、顔を黒く塗った吟遊詩人が竪琴を爪弾いている。
静かな音色の中、一人の女が居た。
美しい女だ、帽子を目深に被り、服の襟で口元を覆って、其処から覗く瞳には憂いを宿していた。

昼間の店は客が少なく、空席が目立つ。
寡黙にグラスを磨く店の主人。
そして、テーブル席に居る怪しい赤尽くめと、少年が独りでカウンター席に居るだけだ。

グラスを磨く音と、竪琴の協奏曲は、突如扉が開かれた事で終わりを告げた。
二人の客が入ってくる。
10の瞳が新たな客を映す。
一人は、黒髪黒目で、背に長大な剣を背負った男性。
一人は、桃色がかったブロンドの髪と、鳶色の瞳の女性。

fin




おまけ

コッパゲ・アナザー

「あなたを見ると悲しいことを思い出すわ。
 ある聖戦士の話。
 彼は昔はフサフサだったのに、リメイクされると寂しい事に成っていたわ。
 そして、殺してでも奪い取っても、冥府直通に為らなくなってしまっていたわ」

マルコメの場合

「あなたを見ると悲しいことを思い出すわ。
 とあるグルメキングの話。
 彼には出来の良い弟が居て、周りは弟にばかり注目していた。
 ある日、弟が交通事故で死んだとき、彼は悲しむよりも先に喜びを感じてしまった。
 もう比べられる事は無い、と。
 その罪悪感から、過食症と新興宗教に嵌り、友人も彼を見放して月は反転してしまったわ」

オールド・オスマンの場合

「あなたを見ると悲しいことを思い出すわ。
 ある町長の話。
 彼は冒険者を騙して生贄に捧げたけれど、冒険者は魔物を倒して脱出してしまう。
 それで心の均衡を失い、一つの言葉しか喋らなくなったわ」

フレイムの場合
「あなたを見ると悲しいことを思い出すわ。
 ある活火山に住むサラマンダーの話。
 彼らは火山の爆発阻止を皇帝に頼んだけれど、冥術習得のために見殺しにされ、その数を激減させたわ」

バッドエンディング用
「あなたを見ると悲しいことを思い出すわ。
 ある公爵家の三女の話。
 彼女は、何時も魔法を爆発させて、失敗ばかりしてたわ。
 けれど、誰よりも努力をしていた。
 ある時、強力な敵に対峙し、貴族の誇りに拘るあまり、命を落としてしまったわ」

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