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るいずととら第二章-6


ルイズはバルコニーで月を眺めていた。
空にかかる、ほとんど重なりそうな二つの月は、涙に濡れてじんわりぼやけている。

(ばかばかばかばかばか。……とらのばかぁ……ぐすっ……ひぐっ……)

さっきから涙と鼻水が垂れっぱなしであった。原因はほかでもない、ルイズとシルフィードの取っ組み合いを見かねたギーシュが、昼間聞いたとらの『婚約者』について話したからである。

(マユコ、マユコって……まさか婚約者だったなんて……というか、幻獣と婚約する人間が世界のどこにいるのよ! なにそれ!?)

それを言うなら、使い魔に婚約者がいたとしてこれだけショックを受ける主人も珍しいだろうが、ルイズは深く考えないことにした。
ショックを受けたと言えば、シルフィードもショックのあまりに気絶した。今はタバサが部屋で慰めているはずである。
かわいそうなシルフィード、とルイズは心から同情する。奇妙な友情が二人の間に芽生えていくようであった。

「僕のルイズ、泣かないでおくれ……ほら、これで涙をふくんだ」

そう言ってワルドがハンカチを差し出す。「ありがと」と言って、ルイズはブーッと鼻をかんだ。ワルドが顔をしかめる。

(やっぱり、所詮使い魔と主人の関係なのかしら……)

ルイズは、そっと左腕にからませた金色の糸を撫でた。とらの毛を抜いて、輪にして手首に通しているのだった。
アルビオンに出発するとき、とらがくれたものであった。
ルイズの脳裏に、とらの言葉が蘇る。

(いいかよ、るいず。わしとオメエが離れ離れになったとき……ヤバくなったら思い切りこいつを引っ張りな……すぐ駆けつけるからよ)

ルイズはその言葉に赤くなって、いそいそと左手にそれをつけたものであった。

(あれは、ただの使い魔としての言葉なの……? そりゃあそうよね……とらは幻獣だもの……)

はあ、と溜息をついたルイズは、ぼんやりと月を見上げる。いや、正確には、見上げようとした。
さっきまでこうこうと大地を照らしていた月は消えていた。
何かが、月を遮っている……ルイズは、ごしごしと目をこする。涙のせいじゃない。確かに何か巨大な影に月が隠れて――

(これは――――ッ……!)

ゴウッ!!

瞬間、唸りをあげて、その巨大な影が拳を繰り出してきた。

「ゴーレムだッ!」

とっさにルイズの腕引っつかみ、ワルドが後ろに飛びのいた。突っ込んできた巨大な拳に、音を立ててバルコニーが破壊される。

(こんな、これだけの大きさのゴーレムを操れるメイジなんて……)

一閃、二閃、ワルドが風の魔法を繰り出し、ゴーレムに叩きつける。土ゴーレムはその巨大な体に似合わぬすばやい動きで、飛んでくる風の刃を拳で受け止めた。
その肩には、緑色の長髪を風になびかせた、すらりとした女が立っていた。

「フーケ……」

ルイズは呆然とする。自分ととらが捕まえたはずの盗賊が、なぜここにいるのだろう?
フーケはルイズの呟きにも反応した様子はなかった。ただ虚ろにゴーレムを操る呪文を唱えるだけである。

「ちょっと、一体これどういうことよ!?」

バルコニーに走ってきたキュルケが声を上げる。一緒にタバサ、シルフィード、ギーシュの三人も出てきた。

「ゴゴ、ゴーレム!? なんてでかさだ!」

ギーシュは叫び声をあげた。同じ土系統のメイジなればこそ、その強力さが分かる。目の前のそれは、動きからしてもトライアングル・クラスをはるかに超えている。
スクウェア・クラスと同等の強力なゴーレムであった。

(おかしいわね……フーケはトライアングル・クラスのはずなんだけど……あのゴーレム、前に戦ったときよりでかいじゃない……!)

いぶかしむキュルケの肩をつついたタバサが、フーケを指差す。

「様子がおかしい」

口を半開きにしたフーケは、先ほどからまったくキュルケやルイズを見ようとしない。
そして、その腕はまるでゴーレムに囚われているように、すっぽりと岩に埋め込まれている。

「……魔力の暴走」

タバサの顔に冷や汗が流れる。フーケは自分の限界を超えた魔力をあのゴーレムに注いでいる。いや、注がされている、と言うべきだろうか?
自分の命さえも脅かす外法……フーケは誰かに操られているのかもしれない。

「……逃げるぞ、ルイズ。裏口から一気に桟橋まで抜ける」

四人が降りてきたのを見たワルドは、ルイズをさっと抱えあげて走り出した。

「ちょ、ちょっと!? みんなを置いていく気なの?)
「今は任務が優先だ! 大丈夫、君の使い魔がいれば彼らでもあのゴーレムは撃退できる! 僕らは一刻もはやく桟橋へ!」
「まって、まってよーっ!!」

ワルドがルイズを連れて走ったのを見て、タバサは杖を握り締めた。大切な任務を帯びている以上、ワルドの行為は悪くない判断ではある。

(時間をかせぐ)

タバサはすばやく呪文をつむぐ。得意とする氷の矢がゴーレムに乗ったフーケを狙うが、ゴーレムの腕がさっと伸びてそれを防ぐ。
タバサの魔法では、あきらかに攻撃力不足であった。

(でも、『あの使い魔』ならきっと――――)

タバサは『フライ』の呪文でゴーレムの拳をひらりと避ける。ギーシュとキュルケはシルフィードに乗せて空中に脱出させた。
三人乗ればシルフィードの動きが鈍り、ゴーレムにつかまる可能性がある。自分は、もう少し足止めをしなくてはならない。

ひらりひらりとゴーレムの拳をかわすタバサ。これなら避けられる、自分の飛行速度の方が、ゴーレムの動きよりも上だ。
そう思った瞬間――

ぼごんっ!!!!

突如、ゴーレムの腹から、砲弾のように巨大な岩が打ち出された。ゴーレムの拳をかわしたタバサに、ものすごい速度で突っ込んでくる……!

(逃げ切れない……ッ!)

杖を握り締め、タバサは歯を食いしばる。『フライ』から一瞬で呪文を切り替え、周りに風の盾をはって衝撃を堪えようとした瞬間だった。

轟ッ!!!!!

タバサの目の前で、まばゆい雷に岩がはじけとんだ。シールドを張るために『フライ』を解いたため落下するタバサを、金色の影がさっとつかまえた。

「わりいな、くく、遅れたみてぇだ……」

そう言って金色の幻獣は月夜に嗤う。タバサはほっとしながら、こつんと杖でとらの頭を叩いた。

「……使い魔失格」
「ひゃ、ひゃっ……言うじゃねーか、たばさ。さぁて……」

パシ、パシ……ととらのたてがみが電気を帯びていく。凶悪な口がにやりと笑みをつくった。

「早速ぶっこわすとするかよ、木偶人形ォ!!」

ドン!!!!!

とらが放ったまばゆい雷光は、一撃でゴーレムの拳を砕く。しかし、次の瞬間には、ぎょむ、とゴーレムの拳は再生していた。
前に戦ったときとは比べ物にならない再生の速度と強度だである。

(ちい、固い上に再生が速ぇ。コイツはちとやっかいだな……)

とらは舌打ちする。と、とらの鼻にあの『ニオイ』がにおってきた。白面の使い、婢妖のニオイであった。

(む……あの女からか――婢妖に取り付かれて操られているってわけかよ)

おそらく限界以上の力を使わされているはずである。とすれば、このまま消耗をまっても勝つことはできるだろう。
だが、それには時間がかかる。婢妖が関わっている以上、まともに相手をしていては策にはまる可能性があった。

(法力か――ふむ、コイツならできそうだな……)

繰りかえって自分を見つめるとらに、タバサは首をかしげた。

「……何?」
「くっく……たばさ、この獲物はゆずってやらあ……おい、ぎいしゅ! わしの荷物はあるかよ!? 『錫杖』をだしな!」

とらは、一声怒鳴ると、びょお、とシルフィードのところに飛んだ。慌てて荷物をかき分けるギーシュから錫杖を受け取ると、とらはそれを無造作にタバサに抛った。

「これは……」
「自分の念をこめて殴りな。あの女のアタマにゃ妖怪が喰らってやがる。そいつを叩きだすのよ……!」
「そ、そんな! いきなり無理よ!」

キュルケが叫ぶ。いくらタバサが優秀でも、いきなりそんなことを言われて出来るはずがない。
だが、タバサはそんなキュルケの予想に反して、こっくりと頷いた。とらはにやりと笑った。

(なんだか、ナガレみてぇだな……くく)

「わしが特大の雷であの『ごうれむ』の腕を吹き飛ばす。再生する間はヤツは無防備よ。その『錫杖』におのれの魔力のありったけをこめてブン殴りな……!」

タバサはぎゅっと錫杖を握り締める。自分の魔力が法具に浸透していくのが感じられる。
研究熱心なタバサは、この錫杖を買って以来、よくその使い方を研究していたのだった。

(やれる……!)

「いくぜ……おぉぉおぉおおぉおぉお!!!!!」

とらの全身が激しい電光に包まれていく。とらの膨れ上がる妖気に、雷光は激しさを増していく。まさに、雷の化生であった。


轟ォオオオッ!!!


巨大な雷は、瞬間、ゴーレムの腕を吹き飛ばし焼き尽くした。ゴーレムが一瞬たたらを踏み、ぎゅるぎゅると腕の再生を始める。
しかし、その時にはもう、シルフィードから飛び降りたタバサが、錫杖を振るいあげていた。

「――ッむ!」

びゅむ、と振りぬかれた錫杖が、フーケの頭を打った。その瞬間、バン!と大きな音と光がはじけた。

『ぎェ、ええエ、あああ!!』

目を見開いたフーケの口から、ボロボロになった婢妖が、ずるりと飛び出した。血走った目玉に耳のくっついたような不気味な形に、タバサはぶる、と震える。
いままで見た、どんな幻獣とも違う。

(幻獣じゃない。『バケモノ』――)

『お、オノれェ……白面サマのぉぉオオぉ……御為にィいイ……!!』

びゅる、と婢妖は身をくねらせ、タバサに襲いかかる。タバサはとっさに錫杖を構えるが、慣れない『法具』に力を吸われたのか、ガクンと動きが鈍った。


「おっと……テメエの行く先は決まってるぜ……婢妖」

はっとタバサが見ると、とらの腕が婢妖を握りつぶしていた。つぶれた婢妖の残骸を、とらは抛り投げる。そして、ごうっ! と火炎を吐き出した。婢妖は一瞬で塵になる。

「灼熱地獄よ……先に行って白面を待つんだな……っと、たばさ、降りるぞ。この『ごうれむ』、崩れるぜ……!」

とらはタバサとぐったりしたフーケを掴むと、崩壊するゴーレムの肩から飛び出した。そのまま激しい地響きを立てて地面に着地する。
タバサがとらから地面に降りると、シルフィードも舞い降りてきた。キュルケとギーシュが地面に飛び降りる。

「やれやれ、出番なしだったわね……タバサ、すごかったわ」

溜息交じりにキュルケが苦笑する。そしてふらつくタバサの頭をくしゃくしゃと撫でた。タバサは相変わらずの無表情だったが、嫌がるでもなくキュルケに頭を撫でられていた。

「とらくん、出番ナシといえば、さっきから君の相棒がうるさくてね……なんとかならないかい?」

ギーシュが荷物からデルフリンガーを引っ張り出す。デルフリンガーはここぞとまくし立てる。

「やい、相棒! 今度という今度は言わせてもらうぜ! 大体相棒はこのデルフリンガーをなんだと思ってやがる!
 やれ戦いにはつかわねぇわ、存在は忘れるわ……」
「あーあーうるせえな」

ぎゅる、ととらはたてがみを巻きつけ、背中にデルフリンガーを背負う。ついでに流走を一緒にぶら下げた。

「さて、わしはるいずたちを追いかけなきゃならねえ……まあ、ニオイをたどって行くしかねえがよ」

幸い風は弱い。ある程度の距離であれば、とらの嗅覚で追跡できるだろう。ルイズにわたした毛の合図もある。
婢妖が出てきた以上、一刻もはやくとらはルイズに合流したいと思った。

「とらさま、とらさま、気をつけて……きゅいきゅい…………あと、うわきもの」

にらむシルフィードに、とらはくっくと笑った。

「しるふぃ、主人を守ってやんな。なかなか大した魔法使いだ……その錫杖は返すぜ、オメエがつかいな、たばさ」

タバサは頷いて錫杖をぎゅっと握り締めた。シルフィードが、ぺろ、とタバサのほほを舐める。タバサはくすぐったそうに使い魔の首に手を置いた。


「さて、行くかよ……」


そういうと、とらはふわりと浮き上がった。ごぉおぉおぉおおお……と風が集まっていく。重なる月がとらの金色の姿を照らし、まばゆい光を放った。
轟と、とらは空に飛び出した。ルイズのニオイをたどって、白の国アルビオンに向かうルイズに追いつくために。

なんだか無性に背中がぽっかりとしていた。

うしおがいないせいで、背中を風が抜けていくのとも違う。奇妙な感覚だった。
いつか、真由子を乗せて飛んだとき、埋められていた感覚。あるいは、遥か昔……自分が人間だったころ、あの姉弟と手をつないだときに埋められたもの。

(守るモンってのは、そいつを弱くするもんだと思ってたがよ……くくく)

風を唸らせ、空気を切り裂きながら、妖怪はさらに加速した。背中に守るべき主人を追いかけて。


ごぉおぉおぉおおおおぉうう……


金色の風は矢のようにアルビオンを目指す。重なる月の光をきらきらと反射させながら――
ハルケギニアの大地は、まだ見ぬ白い絶望の影と、異国の力強い金色の風に震える。

……そんな夜のことであった。



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