使い魔召喚の儀式。それは、快晴の青空の下、トリステイン魔法学園の、ある広場でとり行われていた。
特に問題も無く、生徒達は使い魔を召喚し、口付けをして契約を成功させていく。
サラマンダーを召喚する生徒がいたり、風竜を呼んでしまう者もいたりして、例年よりも優秀な生徒が集まっているな、と監督役のコルベールは思った。
流れるように儀式は進み、そのまま締めくくられるかと思われた。
流れるように儀式は進み、そのまま締めくくられるかと思われた。
―――順調に終わるわけも無かった。最後の生徒はあの、ルイズだったのだ。
使い魔はPSI能力者 第1話
「我が名はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。
五つの力を司るペンタゴン!我の運命に従いし、使い魔を召喚せよ!」
五つの力を司るペンタゴン!我の運命に従いし、使い魔を召喚せよ!」
何度唱えても、何度唱えても、ルイズの勢いよく振り下ろした杖の先には何も起こらない。
(なんでよ!? どうして!? 成功しなきゃ進級できないわ! ヴァリエール家の3女が留年したなんてことになったら、こんどこそお母様に魔法学院を退学させられちゃう! なんでもいいから、来て! お願い……)
ルイズは深く祈った。そうして唱えたスペルも、青空に霧散した。
いつもの失敗とも違い「爆発」すらも起こらない。
だから、少し離れた後ろで、困った顔をしていたコルベールも、周りで野次を飛ばしていた他の生徒達も、その日は全く油断していたのだ。
だから、少し離れた後ろで、困った顔をしていたコルベールも、周りで野次を飛ばしていた他の生徒達も、その日は全く油断していたのだ。
呪文を唱えるルイズの声がかすれてきた頃。
いきなり特大の爆発が起きた。
ルイズを囲むようにしていた彼らとその使い魔達は、悲鳴を上げる間もなく炸裂した白い光に吹き飛ばされた。
爆風にえぐられて土が剥き出しになった、半径4メイル程のクレーターの上に立っていたのは、咄嗟の勘で防御の魔法
を張ったコルベール、キュルケとタバサとその使い魔2匹、そして爆発を起こした張本人であるルイズだけである。
皆、服がボロボロであることに変わりは無かったが。
爆風にえぐられて土が剥き出しになった、半径4メイル程のクレーターの上に立っていたのは、咄嗟の勘で防御の魔法
を張ったコルベール、キュルケとタバサとその使い魔2匹、そして爆発を起こした張本人であるルイズだけである。
皆、服がボロボロであることに変わりは無かったが。
コルベールは冷静に生徒達を見回した。地面が芝生であったことが幸いして、みんな怪我はないようだった。
ルイズが起こす爆発はいつも生身の生き物に関しては、吹き飛ばすだけで傷つけはしない。
その原則は今回も守られたようで、至近距離で爆風を受けた生徒達も大事はないようである。
ルイズが起こす爆発はいつも生身の生き物に関しては、吹き飛ばすだけで傷つけはしない。
その原則は今回も守られたようで、至近距離で爆風を受けた生徒達も大事はないようである。
だが、ルイズの様子がおかしい。コルベールに向けた背中がカタカタとふるえているのだ。
―――プライドの高い彼女のことだ、何度も魔法を失敗してしまった上に、また爆発を起こしてみんなを巻き込んでしま
ったことが悔しいのだろう。
ったことが悔しいのだろう。
コルベールのそんな推測は、彼女の右足と左足の隙間から覗く、「小さな手」を見た瞬間に吹き飛んだ。
召喚されたものの全容は、ルイズが壁になっていてコルベールの立ち位置からは見えない。
だが、その小さな手は、それが繋がっている身体を見たくないほどに、傷だらけだったのだ。
召喚されたものの全容は、ルイズが壁になっていてコルベールの立ち位置からは見えない。
だが、その小さな手は、それが繋がっている身体を見たくないほどに、傷だらけだったのだ。
「先生! 私、医務室のメイジを呼んできますわ!」
「そ、そうだな! 頼む!」
その場で最初に口を開いたのは、コルベールよりも先にそれを見たキュルケであった。
医務室に向かうため、フライの呪文を唱えようとしたキュルケを、隣にいたタバサが制した。
医務室に向かうため、フライの呪文を唱えようとしたキュルケを、隣にいたタバサが制した。
「こっちの方が速い」
タバサはさきほど召喚したばかりの使い魔に飛び乗っていた。自分の後ろに乗って、というようにキュルケの肩を掴む。
頷くだけの返事をしたキュルケが飛び乗った瞬間、韻流は「きゅいきゅいっ」と一鳴きし、空へ舞い上がった。
頷くだけの返事をしたキュルケが飛び乗った瞬間、韻流は「きゅいきゅいっ」と一鳴きし、空へ舞い上がった。
「今ここにいる生徒の中で治療ができる者! 彼女らが医務室から帰ってくるまでの間、応急処置をするんだ! ただし無闇に動かすんじゃないぞ!」
コルベールが上げた声に、呆然としていた生徒達も我に返り、水属性のメイジ達は駆け寄ってきて呪文を唱え始めた。
辺りが騒然とする中、ルイズはへなへなと地面にへたりこんだ。
目の前で、うつ伏せに倒れている子供の背中には、無数の切り傷、刺し傷、火傷。
もうほとんど用を成していない服は血にぬれて、元の色も分からない。かろうじて髪の色が分かる程度。
その金色の髪も、ところどころが焦げていた。
もうほとんど用を成していない服は血にぬれて、元の色も分からない。かろうじて髪の色が分かる程度。
その金色の髪も、ところどころが焦げていた。
―――この子供を召喚したのは、わたし。
サモン・サーヴァントで人間が喚ばれた、というのは聞いた事がない。
でも、わたしが召喚しようとして、呪文を唱えて、杖をふった。
やっぱり、わたしが召喚したんだ。
そして、中途半端な召喚魔法が変なふうにこじれて、彼を爆発させてしまったのだ。
この酷い有様はわたしの所為。
自分の進級の為に何度も召喚を試みた、わたし。
すぐに諦めていれば、この子が傷つくことはなかった。
この子は、どこに住んでいた子供なんだろう。
どんなお母さんにお父さんに愛されてどんな家族に囲まれていてどんな友達がいて―――――!
サモン・サーヴァントで人間が喚ばれた、というのは聞いた事がない。
でも、わたしが召喚しようとして、呪文を唱えて、杖をふった。
やっぱり、わたしが召喚したんだ。
そして、中途半端な召喚魔法が変なふうにこじれて、彼を爆発させてしまったのだ。
この酷い有様はわたしの所為。
自分の進級の為に何度も召喚を試みた、わたし。
すぐに諦めていれば、この子が傷つくことはなかった。
この子は、どこに住んでいた子供なんだろう。
どんなお母さんにお父さんに愛されてどんな家族に囲まれていてどんな友達がいて―――――!
「……イズ、ルイズ! しっかりしなさい!」
地面に倒れ込もうとした身体をコルベールに抱きとめられて、ルイズの目に、ようやく周りの様子が入ってきた。
涙で視界が歪んで見づらかったが、自分の召喚した子供が、フライで浮かされて医務室に運ばれるところのようだった。
涙で視界が歪んで見づらかったが、自分の召喚した子供が、フライで浮かされて医務室に運ばれるところのようだった。
「あの、子……わ、わたしのせいで! わたしが殺し」
「違う。彼の傷は、爆発によってついたものではなかった。君のせいであんなふうになったんじゃない。」
コルベールは彼女が言おうとしたことを強引に遮った。
「ぇ……?」
「すでに何らかの要因で傷ついた状態で召喚されたのだろう。
もし君がここに召喚しなかったら、彼はあのまま死んでしまったかもしれないんだ。
それに、彼はまだ生きているし、死なない。絶対にだ。この学院には腕の良い水メイジがいるんだ。安心しなさい。
むしろ君は、彼を助けたんだ」
もし君がここに召喚しなかったら、彼はあのまま死んでしまったかもしれないんだ。
それに、彼はまだ生きているし、死なない。絶対にだ。この学院には腕の良い水メイジがいるんだ。安心しなさい。
むしろ君は、彼を助けたんだ」
コルベールのまくしたてた言葉には推測と希望が混じってはいたが、錯乱したルイズを落ち着かせるのに効果的だった。
彼女の大きく見開いた目は少しづつ細められ、さらにたくさんのの涙が溢れだした。
彼女の大きく見開いた目は少しづつ細められ、さらにたくさんのの涙が溢れだした。
コルベールは気づいた。他の生徒達が召喚した使い魔達は、爆発に巻き込まれたにも関わらず、暴れる出す事もなく
今の今までじっとしていたということに。使い魔達のその目は、医務室に運ばれていく
傷だらけの子供を、心配そうに見ているかのようだった。
今の今までじっとしていたということに。使い魔達のその目は、医務室に運ばれていく
傷だらけの子供を、心配そうに見ているかのようだった。