あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

ゼロのミーディアム 第一章 -22


「此処は……?」
双月の片割れが赤く満ちた月の下、
黒いドレスに同じく黒い翼を生やした少女がキョロキョロと辺りを見回している。

彼女が今いるのは、魔法学院とはまた、趣の違うどこかの屋敷。

眠りの時間を迎えた水銀燈は、確かミーディアムにお休みの言葉を告げ、寝床である鞄に潜り込んだ筈だったのだが……

ふと気づけば、いつの間にか見慣れぬこの地に立っていた。

もっとも、こんな経験は彼女にとっては珍しくもないので、別段狼狽えはしなかったのだが。
「これは……夢ね」

別に現実を逃避しているのではない。読んで字の如く、ここが夢の世界であると考えた。
薔薇乙女にとって夢の中は言わば彼女達の遊び場のような物だ。
夢と自覚して行動する事など、水銀燈にしてみれば人間が普通に呼吸するに等しい。

「でも…私の夢って訳じゃあ無いみたいねぇ……」
まったくもって見慣れぬ場所なのに、屋敷はおろか遠くの景色まではっきりと見えている。
誰かの記憶がそれを鮮明に映し出しているのだろう。

そうして顎に手を当て何かを考える彼女に、何やら騒がしい声が耳に入った。
「ルイズ、ルイズはどこに言ったの?ルイズ!まだお説教は終わっていませんよ!!」
水銀燈はその声にさっと吹き抜けの柱に身を潜ませ、こっそりと影から声の主を覗き見る。

ルイズと同じ髪の色、そして彼女以上に威厳と、キツさを感じさせる女性が厳しい双眸をさらに険しくして、ルイズの事を呼んでいる。

あの容姿にツンツンした印象、そしてこの言葉。あの女性はルイズのお母さんなのだろう。
……つまりここは

「ルイズの……夢の中?」

ルイズの母が娘を探してどこかへ行き、入れ違いに召使いが入ってきた。
「ルイズお嬢様は難儀だねえ」
「まったくだ。上のお二方はあんなに魔法がおできになるっていうのに……」

本人が聞いてないのをいいことに、召使いのこの言いよう。
(これじゃあ、あの子もあんな性格になる訳だわぁ……)
水銀燈は顔をしかめながら同情を込めて心中で呟いた。
……でもルイズも貴女の生い立ち知ったら同じ反応するでしょうね。


「とりあえずあの子を探さなきゃね……」
誰もいないのを確認し、水銀燈は小さくしていた翼をばさあっと広げる。
「でもどこにいるのかしらぁ?」
彼女はそう独り言を言って、自分の勘に従い適当に庭の方へと飛んでいった。

そのころ水銀燈の御主人様はと言うと、使い魔と同じ星空の下、自分を探す母親や召使いから逃れるために迷路のような庭園を走っていた。

今のルイズはいつもより更に小柄な幼い姿。
彼女は、彼女が屋敷内でも唯一安心できる場所。彼女が『秘密の場所』と呼んでる中庭の池へと息を弾ませながら向かう。

そしてルイズは庭を駆け抜け、開けた場所へと出た。
季節の花が咲き乱れ、昼間は小鳥の集う石造りのアーチとベンチの置かれた秘密の場所。
池の岸には1艘小舟が浮かび、ルイズはそこに急いで忍び込んだ。

彼女は叱られたり、嫌なことがあると決まってここに逃げ込むのだ。


船にあった毛布を被り、涙を拭いてぐずっていると……。
夜霧立ちこめる池の奥から、一人のマントを羽織った立派な貴族が現れた。
「泣いているのかい?ルイズ」
つばの広い羽付きの帽子で顔は隠れているが、ルイズはそれが誰か知っている。

「子爵様いらしてたの?」
彼は昔からいつだって、自分が元気が無いときにこうして励ましてくれてきたのだ。彼女は憧れの男性を前に胸を熱くする。

子爵様と呼ばれた男は唯一覗ける口元をほころばせてルイズに言った。
「今日は君のお父上に呼ばれたのさ。あのお話の事でね」
「まあ!いけない人ですわ。子爵さまは……」
ルイズは頬を染めて、恥ずかしそうに俯く。

「ルイズ。僕の小さなルイズ。君は僕の事がきらいかい?」
おどけた調子の子爵に対しルイズははにかんで返した。
「いえ、そんな事はありませんわ……あなたは私の憧れですもの。子爵さ……」

そしてキラキラと瞳を輝かせて顔を上げたのだが、

「……まっ!?」
彼女は顔を上げた瞬間目に入った物に驚き、素っ頓狂な声を上げた。
「どうしたんだい?僕のミ・レィディ?」
少し芝居がかった仕草で優しく問いかける子爵。だがその後ろには……!。


2人っきりで鳥の一羽もいない筈なのに、池へとひらひら落ちる黒い羽。
ルイズは間抜けな顔でポカンと口を開けて子爵の後ろを注目している。

そう、彼女の言う子爵様の背後には――


銀髪黒翼の使い魔が、意地悪くニヤニヤ笑いながらルイズを見ていたのだった。

「し、子爵様!!ちょーっと動かないで下さいね!?」
憤怒に満ちそうな表情を、憧れの男性の前だからとむりやり笑顔で取り繕い、幼いルイズは杖を引き抜く。
こめかみに青筋立ててる笑顔が地味に怖い。


「……ルイズ?」
フルフルと怒りに身を震わせるその様子に、子爵は首を傾げつつも穏やかに聞き返した。
だが、そんな彼を無視してルイズは後ろの水銀燈に杖を振り下ろす!

「ファイヤーボール!!」
勿論火球がでることは無い。ルイズ本人も期待していない。
とりあえず後ろの、色々な意味で黒いお人形にお引き取り願う目的で魔法を撃ったのだ。

かくして、ルイズ渾身の失敗魔法が炸裂した!!



――敬愛する子爵様に。


「うわー」
やる気の無い叫び声を上げてドボンと池に落ちる子爵様。
「ああっ!ワルド様ーっ!?」
ルイズは船縁に身を乗り出し慌てて手を伸ばした。
しかし一度沈んだ後、ぷか~っと情けなく浮いてきた土左衛門…もとい、子爵様は、
そのままぷかぷかと宵闇の果てへ流され、見えなくなってしまった。


「あ~あ、やっちゃった、殺っちゃった」
その一部始終を見た水銀燈は、愉快そうに両手を叩いている。
その当て字、生々しいからやめて。


「あ、あ、あ、あんたがなんで私の夢にっ!それも私が小さいころの夢に出て来るのよ!?」
少なくとも夢とは自覚しているらしいが、
流石のルイズも自分の使い魔と言う、招かれざる来訪者の出現には面くらったようだ。

「こっちが聞きたいわよぉ。大方、私と貴女の夢が繋がっちゃった。……ってところじゃないの?」
「……その言い方からすると、……もしかして本人?」
「ええ、残念ながら。私は貴女の夢の世界の住人ではなくてよ」

ルイズは頭を抱えた。夢の中の幻影ならまだしも、
よりによってこの腹黒人形本人に幼き日の恥ずかしい姿を見られてしまったのだ。

「ねえねえ、今の誰?誰?」
水銀燈が幼いルイズに並んで、興味津々と言った感じで耳打ちする。

「あんたには関係無いわよ!」
「お父上のあのお話って何なの?……もしかして結婚?許嫁って言う奴ぅ?」

意外にこう言った話に興味あるのかニヤニヤとした顔で、水銀燈はそっぽを向いたルイズに回り込んだ。

「……昔の話よ。小さな子供に言い聞かせる冗談だわ」
だが、ルイズそう小さく呟くと俯いてしゅんと元気を無くしてしまう。

ちょっとからかう程度のつもりで言ってみた水銀燈だが、突然沈んだルイズに調子が狂ってしまった。
「ルイズ…?」
使い魔はミーディアムの名を呟きその悲しげな様子を見ているしかなかった。

「そんな事より水銀燈」
「へっ?」
突然沈んでいたルイズの顔が上がり。水銀燈は思わず声を上げる。

「今の私と子爵様とのやりとりは、きれいさっぱり全部忘れるのよ」
ルイズの、先程の沈みっぷりが嘘のように強い命令口調で告げた。

「そうは言うけどね、忘れられると思う?さっきの貴女ののろけっぷりを?」
水銀燈はスッとルイズから離れ、空へと翼をはためかせる。

「絶対無理♪」
「こんの、腹黒人形~~~っ!!!」
ルイズは小舟の上で悔しそうに地団駄を踏んだ。幼いとは言え、そんな小さな船でドカドカと暴れればどうなるかは察しがつくだろう
小舟はひっくり返り、幼いルイズもドボン!と大きな音を立てて池に落ちてしまった。

「アハハハハ!夢…ではもう会えたから、えーと。……現実で会いましょう?それじゃ、さようなら~!」
高笑いして飛び去る使い魔に、ミーディアムはひっくり返った小舟にしがみつき大声で叫んだ。
「朝起きたらヒドいんだからね!覚えときなさいよーーっ!!」




「あー、可笑しかった!あの子にこんな過去があったなんて!」
夢の世界に輝く月の下、夜空を滑空しながら、水銀燈はまだクスクス笑っている。

このままルイズの夢を渡り歩けば、今のように彼女の秘密を知ることが出来るかもしれない。

「ま、流石にそこまでするのは悪趣味よね。
私もレディの秘密の花園を荒らすほど堕ちてはいないもの」
流石の水銀燈も、自分のミーディアムの秘密や過去に首突っ込むほどデリカシーに欠ける訳ではない。
気にならない。と、言えば嘘になるが、そこは彼女も我慢する。

「いえ、一つだけ。どうしても知っておきたい事があったわ。……私のミーディアムとしてね」
突如思い出したことに、水銀燈は顔を引き締めた。

「せっかくあの子の夢に招かれたのだもの……。あれを見るいい機会だわ」
そして彼女が目をつけたのは眼下に広がる、青々と木が生い茂った森林。

「あるとすればこのあたりでしょうね。
……ルイズ、貴女の心を見せてもらうわ」

漆黒の天使は鬱蒼とした碧に染まった森の奥深くに降り立ち、お目当てのそれを探し始める。

水銀燈が森の中を探し始めてかなりの時間が経った。

夢の中の夜が開け、朝日が顔を出し始めたころに、彼女はついにルイズの『心』を見つける。

森の最深部の広場。朝の日差しに優しく照らされ神秘的に、そして静かに、それは立っていた。

「これがあの子の……ルイズの心の樹なのね」
水銀燈はそう呟いてルイズの心そのものを見上げる。
『心の樹』とは人の夢の中のどこかに存在する、不思議な樹の事だ。

水銀燈の妹である、庭師の姉の言葉を借りれば、
「夢の主が樹となって枝葉を伸ばし、心を形成させていくのですよ~!
そのちびっこいスカスカ脳みそに刻み込んだですかぁ?このアンポンタン!!」
……との事らしい。

なんで罵られなきゃあかんのよ?とか、翠ハァハァとか言いたいことは山ほどあるだろうが、
今は華麗にスルーさせて頂く。あしからず。

「ふぅん。思いの外、よく育ってるじゃない」
水銀燈の言う通り、ルイズの心の樹は決して小さく貧弱な物では無かった。

先程見た通り、もとよりルイズは幼少のころから魔法が使えぬと後ろ指を指されても、卑屈にならず生きてきたのだ。
挫ける事もあっただろう。それでも逆境に抗いつつ、これまでを過ごしてきた彼女の心は強く育っていた。

だが、良いとこばかりでは無いのも確か。
「……歪みっぷりもなかなかの物だけど」
呆れたような表情で水銀燈は言葉を続ける。

まるで樹の成長を阻害するように根元は雑草が生え、
特に目に見えてひどいのが、樹を押さえつけるように絡みついている無数の蔦だ。

おかげで樹は、絡みつく蔦に抵抗して成長を続けるも真っ直ぐには伸びず、少々歪な形に育ってしまっていたのだ。

ルイズの心の成長を阻む原因。つまりは彼女の抱える多くのコンプレックス。

「まあ気持ちはわかるけど、ここまでひどく気にしてるなんてねぇ……」
魔法を使えないと周りから馬鹿にされる声、そして自分への苛立ち、名家故のプライドの高さと、出来のいい姉達とやらに比べられての劣等感。

使い魔とはいえ、他人の水銀燈でもこれだけ想像できるのだ。
ルイズ本人はさらに多くの悩みを抱えている事だろう。

「でも一番気になるのはこれだわ」
水銀燈は翼を広げて飛び上がると、樹を上から見下ろす。

彼女の紅い瞳には、朝の爽やかな風を受け揺れる緑の葉と、
――そして同じく、そよそよと揺れる無数の白い花の蕾が映っていた。

地面にも、半ばまで開きかけた花の蕾がまばらに落ちている。

「どういう意味かしらぁ……?花が咲いたら何かが起こるとか……?」
腕組みしつつ頬に手を当て水銀燈は思考する。

花が咲いたら……?
花が咲く……?
花が開く……?
花開く……?


「才能が、花開く……?」

何気に思いついた言葉なのだが、なる程、理にかなっている気がする。

魔法こそ使えないルイズだが、水銀燈が彼女から引き出した力は30メイルの巨大なゴーレムすら吹き飛ばす。
それだけの潜在能力を持ちながら何故か魔法を使うことが出来ないミーディアム。

地に落ちた開きかけの蕾は水銀燈が引き出した力なのだろう。
だが、それでも花弁は堅く閉ざされ花の形を伺うことは出来ない。

ならば、この数多の花が完全な形となれば、どれほどの力を発揮するのだろうか?

そしてどうすればこの蕾は開くのだろうか?

「せめて今、私が庭師の如雨露か鋏を持っていれば……」
いや、それでも駄目だろうと水銀燈は即座に否定した。
理屈では無い。例え彼女の妹にあたる、第3ドールと第4ドール。
夢の担い手たる双子の庭師が居たとしても、この花を咲かす事は出来ないと直感した。

如雨露があれば樹の成長を促せるだろう、鋏があれば悩みと言う名の雑草と蔓は刈れる事だろう。
「でも、この蕾は変わらず固く閉ざされたままでしょうね……」
どうすれば開花するのかと黒翼の天使が首を傾げ瞳を瞑る。

――だが、思考を始めて数秒後、あたりが地震でも起こったかのように鳴動し始めた。

「……時間切れね」
紫がかった、鋭く紅い瞳が残念そうに開かれた。
「夢が、明けていく……」
樹を探すのに時間をかけ過ぎたらしい。
見ると、遠くの景色が白くぼやけ始めこちらに迫ってきている。

「……まあ、いいわぁ。とりあえずこの子の心だけは見せてもらったのだし。
きっかけさえあればあの花も、その内開くことでしょうし」

水銀燈は、翼を大きく羽ばたかせて空高く飛び上る。

「そう…、何かきっかけがあれば、ね……」
最後にそう呟いて、黒翼の天使はミーディアムの夢から飛び去っていった。
同時に深い森が白い靄の果てへと沈む。

水銀燈は名残惜しさと、ひらひらと舞い落ちる黒い天使の羽を一枚だけ残して、現実へと帰って行った。


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