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KNIGHT-ZERO ep14


「男というものはな!! 追い回されるより追い回したいのだ!!」

榎本俊二 著「えの素」より




実家で過ごしたルイズの数日の不在、その間にトリスティン魔法学院ではある変事が起きていた



アンリエッタの計らいで御料村となったタルブ、戦災で被害を受けた村にもたらされた僥倖だった
村で生産される農作物や加工品は、この世界のこの時代にはとても進んだ才覚を持つシエスタの父が
一種の株式会社を設立して管理し、ハルケギニアで初の先物取引の形式で王宮に献上されて利益を生んだ
村にそれをもたらしたシエスタは、表に出る事を嫌う父によって便宜的な「社長」の座を頂戴していた

地球では石油メジャーを超える穀物メジャーの実力を知るKITTは、冗談めかしてシエスタに言った

「シエスタCEO、貴方の地位は近い将来、多くの貴族や王族、国家元首をも凌駕するものになります」

「その『しーいーおー』って偉いひとはKITTさんを養えるくらい儲かりますか?」とシエスタは笑った

実家まで行くというルイズに「とうとうKITTさんはご両親に挨拶ですか」と頬を膨らましながらも
ルイズの好きなクックベリーサンドを持たせてくれたシエスタは、生き生きとした笑みを浮かべていた



立ち直りつつあったタルブ村の突然の不幸は王都からやってきたという新任の税吏によってもたらされた

農業を主産業とするトリスティンの多くの村は、領主の目録には存在しない隠し畑を共同で開拓していた
その隠し畑は飢饉の時の救荒や不意に一家の大黒柱を失った未亡人や孤児の受け入れ先として村に貢献し
徴税前の検地の時にその隠し畑は見て見ぬフリをするのが、トリスティンの地方貴族の間での慣習だった

タルブにも設けられていた隠し畑、村の外れにある川にほど近い、葡萄や小麦の栽培には向かない低湿地
そこでシエスタの曽祖父が米や大豆を育て、それらから採れる独自の食品や調味料は村の資産となっていた

税貢を決定する秋までにはだいぶ間のあるタルブに突然、寒村には異例なほどの役人が大挙してやってきた
田舎詰めの徴税官吏にしては身なりが不自然に小奇麗なメイジの役人は農村に足を踏み入れて検地を始め
畦の歩き方もろくに知らぬ役人によって念入りな検地が行われたその隠し畑には数年分の税が課せられた

自身も荘園を営み、しばしば税収に手心を加えてくれたタルブ担当の老貴族はどこかに飛ばされたらしい
この世界では飼料として扱われ、徴税の割合も低いはずの米や豆は『贅沢品』と区分され高税をかけられ
物証も無いまま過去に遡ってまで算出された税貢の額は、数軒の畑持ち農家が破産するに充分な額だった

曽祖父から隠し畑を受け継ぎ、村に利益をもたらすと共に孤児や不具者を受け入れていたシエスタの父は
隠し畑で働く村人を庇い、家の資産を全て物納してもなお数十年の税賦が残る程の重税を自ら引き受けた


数ヶ月に一度タルブから学院の厨房に野菜を運ぶ定期便の荷馬車に乗ってきたシエスタの父は
いつも通りシエスタにもコックのマルトー親父にも豪気に振舞い、シエスタを激励して帰って行った
シエスタの父とは旧知の仲であるマルトーは何かに気づいたが、彼の厳しい目配せを察し何も言わない

学院のメイドとして働き、最近はなんだかいいことがあったらしいシエスタに無用の心配をかけたくない
子供は居ないが息子や娘のような弟子を数多く送り出したマルトーにはその気持ちが痛いほどわかった


シエスタがそれを知ったのはとても意地悪な偶然のようで、それは何者かによる作為が産んだ必然だった
タルブが御料村になって以来、新しく運行されるようになったトリスタニアの王宮に直行する荷馬車
中継地の学院で一休みしていた若い御者から、シエスタは故郷の村にもたらされた厄難について聞いた



KITTさんと同じ世界だという、とても遠い世界からやってきたササキタケオと名乗る不思議な男性
それまで荒地でしかなかった湿地帯を開墾しコメやマメを実らせた、魔法使いのようなひいじいさま

「アマテラス」という故郷の神を敬いながら、すべての物に神が宿る「ヤオロズの神」の思想を持ち
骨を埋める地と定めたトリスティンの始祖ブリミルへの拝礼も決して欠かさなかった心優しい曽祖父

シエスタは曽祖父の畑で取れるコメやマメから作られる「サケ」や「ミソ」「ショウユ」は苦手だったが
曽祖父がショウガツと呼んでいた新年の季節祭で作られる「モチ」が大好きで、帰郷の時の楽しみだった


あの曽祖父の遺した畑が潰されるかもしれない、ひいじいさまがこの地で生きた証が消されてしまう


故郷の村への気がかりを残したまま、シエスタは日々学院メイドとしての仕事を粛々とこなしていた

今日はオールド・オスマンの頼みで学院の来客にお茶を出していた、貴族しか口に出来ぬ東方の緑茶


オスマンを通して給仕にシエスタを指名した不遜な来客の名は、ジュール・ド・モット伯爵

先祖代々王室で日本の譜代旗本に似た重職を務める貴族で、王室から学院への下命を担う勅使でもあった


勅命伝達の仕事を早々に終えたモット伯爵は来賓用のサロンを占領し、オールド・オスマンと談笑していた
やれアンリエッタが女王になって以来窮屈になっただの、しかし宮廷の晩餐は最近美味になったとか
くだらない話に目頭を揉むオールド・オスマンに構わず、モット伯爵は上機嫌でお喋りを楽しんでいた

今までシエスタがお茶を淹れても、背筋が寒くなるような好色な目でシエスタの体を見るだけだった彼
オールド・オスマンとその使い魔を言葉巧みに一時退席させたモット伯爵が、シエスタに声をかけた

「君はいつも美味しいお茶を淹れてくれる、何か困ったことがあったらいつでも私に言うといい」

シエスタは儀礼的な微笑みを浮かべながらカップにお茶を注いだ、雑草の汁でも入れてやろうかと思った
モット伯爵はシエスタの少し屈めた腰を眺めながら、ただのお喋りにしては高く耳障りな声で語りかける


「たとえば…最近、私が監督をするようになった農村の税貢について…とか…ね、シエスタ君…」

シエスタの顔が凍りついた




村を襲った不自然な徴税、畑を踏みにじったメイジ達、その元凶が目の前に居る伯爵である事に気づいた
モット伯爵は東方の血が少し入った濃い栗毛をいじくりながら、シエスタの表情を好色な顔で眺めている

「シエスタ君、私は君が困らぬように助力したい、学院のメイドなどといった目立たぬ仕事ではなく
もっと君の適所となりうる職場を紹介してあげてもいい、例えば…私の屋敷で働くとか、ね」

熱いティーポットを持ったまま俯くシエスタに、モット伯爵は語尾が上ずる不快な口調で語りかけた

「シエスタ君が私のメイドとして献身的に働いてくれれば、私は身内の者への便宜を計ることが出来る
君の村のいくつかの税貢を免除の扱いにしたりね、それは先王の時代から慣例として認められている事だ

王室の施政に反した恣意的な領地運用、それを当然のものとしていた貴族はトリスティンにも多く居た

「なに、心配には及ばないよ、朝から晩まで炊事洗濯でその綺麗な手を荒らす学院での仕事より
遥かに楽な仕事内容になることはこの私が保障しよう、シエスタ君、よい返事を期待しているよ」

シエスタは曽祖父が日本の寺小屋を模して開いた学舎で読み書きを習い、平民には珍しく文字が読めた
給金を工面しながら買った恋愛小説をよく読んでいたシエスタには、モット伯爵の言いたい事がわかった

シエスタは貴族が囲うという平民の愛人の存在とその境遇を知らぬほど無知ではなかった



モット伯爵が平民のメイドを愛人にする時によく使った手口、狙った相手の家族や故郷から切り崩し
甘言で包んだ脅しに屈する様までもを楽しみながらも、交わされる約束は半分も履行した事が無かった


一昼夜考え込んだシエスタは、マルトーに学院メイドの職を辞する事を告げ、モット伯爵の馬車に乗った
シエスタの脳裏にKITTの姿と、なぜかその気に入らない乗り手の貧相な胸と桃色の髪が浮かんだ
しかし彼女の両肩には故郷の家族、海軍への入営を控えた弟やまだ幼い妹達の運命が圧し掛かっていた


「…さよなら…KITTさん、直接お別れを言えなかった事は残念ですが、きっとそのほうがよかった…」


昼過ぎ

シエスタとすれ違いに学院に到着したルイズは、事情通のキュルケからシエスタの事について聞いた
キュルケはルイズが帰って来るや学院内のカフェに引っ張り込み、珍しくお茶を奢りながら長話を始める

彼女もまたモット伯爵の卑しい行動に憤慨し、ルイズとKITTの学院帰還を今か今かと待ちわびていた


「まさかメイド一人囲うためにそこまでするとはね、スケベもそこまで行くと見上げたもんよ」
「あのコはああ見えて結構人気あるから…妾にしたがってる貴族連中はルイズの求婚者より多いわよ」

キュルケは今回の経緯を一通り語った後「シャイセ」と付け加えた、母国の方言でクソったれという意味

始祖ブリミルの教義は各国で異なっていて、キュルケの故郷ゲルマニアでは婚姻後の姦淫はご法度だった
だからこそ生涯の相手を見つけるために命も惜しまぬ恋を重ねる、それが当然だと思っていたキュルケは
炎のメイジの名の通りに義憤を顕わにして、モット伯爵の邸を焼き討ちにせんばかりに奮り立っていたが
それとは対象的にルイズの反応は冷淡だった、お茶代の銅貨を数枚テーブルに置き、黙って席を立つ

公爵の娘として、幼い頃から貴族がパーティー後に交わす社交界の下卑た噂話を盗み聞いていたルイズは
モット伯爵の行動についても無関心な様子だった、失望の唸り声を上げるキュルケに背を向けたまま呟く


「連中のやる事にいちいち怒ってたらキリが無いわよ…じゃ、わたしは荷物を片付けなきゃいけないから」


悠然と部屋に戻り、そっとドアを閉めたルイズは溜息をひとつ、それから旅行鞄を思い切り壁に叩き付けた

部屋に残された黒い服、ルイズは丁寧に破れを繕い畳まれた黒い革ジャンを握りしめた、爪が革にくいこむ




「…こんなの…いらないわよ…こんな形で貰ったって…ちっとも嬉しくないじゃない・・・」



ルイズと共に学院に帰ったKITTは到着の少し前から人工知能にはありえない『胸騒ぎ』を感じていた
着いてすぐにルイズに別行動の許可を貰うと、そのままシエスタが居るはずの使用人寮まで直行した


KITTはシエスタの身に起こった出来事をマルトー親父から聞くことになった

かつて王宮で料理長を務め、貴族の飽食に嫌気が差したマルトーは公爵や男爵からのお抱えの誘いを蹴り
弟子達をアゴで動かす立場から、若者の健全な肉体と精神のために日々厨房で汗を流す学院コックとなった

マルトーはKITTのボンネットに腰掛け、学院への奉職以来長らくやめていた葉巻を吹かしながら呟く


「…貴族にはかなわないなぁ、我らの騎士…」


彼は貴族の横暴と、輝ける未来のために無垢であるべき子供達を蝕む大人の汚い手に嘆息していた


地球における古来からの記録と最近加えたハルケギニアの文献をデータベースに納めていたKITTは
モット伯爵のシエスタへの行為に類似した事象など地球やこの国の歴史の中からいくらでも検索できた
欧州の初夜税や日本の夜這い、娘の身売りなどに比べれば今回の出来事はまだ悪辣とは程遠いとも言えた

それでもKITTの人工知能には、この世界で見知ったシエスタの姿が様々なデータとなって残っていた
文字情報の蓄積である歴史データからは感じ取れない痛みが、KITTの演算速度を通常より低下させる



これからシエスタに起こりうる事態を予測したKITTは、人工知能の機能をフリーズさせたくなった




使用人寮から戻ったKITTと、午後からの授業に出ようとしたルイズは学院中央の庭でハチ合わせした

互いに一言も発しないまま、学院の本塔に向けて庭を歩く、最初に沈黙を破ったのはKITTだった


「…ルイズ…シエスタさんの事を聞きました、とても残念な事です」

「わたしも聞いたわ、辛いけどあのコが選んだ事…仕方ないのよ、それはあんたもわかってるわね」

ルイズの歩調と、そこから解析された移動速度に合わせてKITTは音も無く後ろに付き従う

「…承知しております…ルイズさん」

いつもより速く荒っぽい歩調で歩いていたルイズが唐突に芝生を踏み鳴らした、KITTに向き直る

「何よそのルイズ"さん"って…ルイズでいいって言ったじゃない!あんた何か言いたい事でもあるの?」

KITTはいつも並んで歩く時よりもルイズから離れた位置に停止した、感情の起伏の無い声を発する

「私は・・・ルイズ・・・の使い魔です、私の主人で貴族でもあるルイズのご判断に異存などありません」

「その口調が腹立つのよ!なによあんたもわたしを馬鹿にしたりヘンな期待をしたり・・・なによなによ!」

ルイズはKITTを睨んだ、フロント・インジケーターの赤い光が発するフォンフォンという音だけが響く
それっきりルイズとKITTは黙りこむ、ルイズはぷいっと視線を逸らすと、再び早足で歩き始めた


罵りと慇懃口調の応酬よりも一人と一台の沈黙の方が辛いのはお互い様だった、今度はルイズが喋り出す

「KITT…わたしたちをこんな風にした原因はわかってるわね?」

「ルイズ、あなたは冷静さを欠いている状態にあります、私の人工知能も予期せぬ不調を起こしている
それらの原因として最も可能性の高いのは双方に知己のあるシエスタさんの状況変化であると思われます」

ルイズは足を止めた、再び向き直る彼女の顔に浮かんだ三日月の様に邪な笑みがKITTには嬉しかった

「要するに・・・わたしたちはシエスタに文句を言いにいかなきゃいけないのよ!どこに居ようと、ね」


「ルイズ、あなたのその、すぐ人のせいにして人に当たる悪癖が私には…私にはとても頼もしい限りです」


学院の庭を歩いていたルイズとKITTが同時に方向転換した、教室のある本塔に背を向け寮塔に向かう
ルイズはもう寮の自室に向けて走っていた、それに追従するKITTのエンジン音はいつもより元気がいい

せっかく整理した帰省の荷物だけど、どうやらもう一度ちょっとした旅支度をしなきゃいけなくなった
ルイズとKITTは走りながら相談をする、何をするための相談か、もう互いの間に確認はいらなかった

自室に着いたルイズは覚えたばかりのサイレントの呪文を唱える、そしてKITTと物騒な密談を開始した


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