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もう一人の『左手』-04


「ガンダールヴ?」
「ああ、やはり思った通りだ。カザミさん、このルーンは間違いなく、伝説の始祖の使い魔ガンダールヴのものだよ!!」
「分かるように言ってくれ。あんたも知っての通り、俺はこの世界の常識が無い」
「あ、――ああ、そうだったね。では始祖ブリミルの説明からした方がよさそうだ」

 始祖ブリミル――フルネームを、ブリミル・ル・ルミル・ユル・ヴィリ・ヴェー・ヴァルトリ。

 六千年前、東方の聖地よりこの地に降臨し、風火地水の四大系統からなる『系統魔法』の技術を人々に伝え、現在のハルケギニア文明の、ほぼ根幹を創り上げた大聖者。
 だが、本人はその四つの系統のいずれでもない、零番目の系統『虚無』の使い手であったとされ、その力は、生命の組成から時空間への干渉まで及んだという、伝説のメイジ。
 また、三人の子と弟子の一人によって、四つの国家を建国させた、偉大なる為政者であり、そして、六千年前から今にも伝わる『ブリミルの教義』を完成させ、布教した、偉大なる宗教家。
 このハルケギニアにおける、あらゆる価値観、思想、風習、典礼、――いや、それらを内包する社会構造の全てが、彼の存在を抜きにして語ることが出来ない。

「なるほど、……ハルケギニア版イエス・キリストってわけか」
「いえす……? それは?」
「いや、こっちの話だ。続けてくれ」

「つまり、そのブリミルが引き連れていた4人の使い魔の一人、それがガンダールヴであり、そして君とサイト君の左手に刻まれたルーンが、まさしく古文書に記されたガンダールヴのものと一致する」
 コルベールは、『コントラクト・サーヴァント』の時に書き写した、紙をかざして見せる。
「しかし、――やけに簡単に分かったものだな。あたりをつけていたのか、先生?」
「まあね。歴史上、人間を使い魔として使役したメイジは、始祖ブリミルただ一人。そして、複数の使い魔と同時に契約を交わしたのも、やはり始祖ブリミルただ一人。――そうなると、次に何を調べるべきかは、子供でも分かる理屈だ」

「……あんた、何を言ってるのか分かってるのか? それはつまり、あの少女が、始祖とやらの後継者だと、証明したようなものなんだぜ」
「そうとも!! そうともそうとも!! 問題はそれだ!! 確かにミス・ヴァリエールは魔法に関しては、我が校一の劣等生だ。だがそれが、未だ彼女が自分の能力に覚醒していないだけの話だとしたら……!!」

 興奮の余り、椅子から立ち上がり、大変だ、大変だ、と騒ぎ続けるコルベールを見て、風見は静かに溜め息をついた。

「で、先生、話を戻そう。――その、問題の『ガンダールヴ』とは、一体何者なんだ?」
「あ、――ああ。コレは失礼」
 コルベールは、落ち着きを取り戻すと、再び席につき、
「……伝説によると『ガンダールヴ』とは、あらゆる武器を使いこなし、呪文詠唱中の虚無の担い手を、直接護衛する存在といわれている」
「護衛?」
「ああ、何しろ呪文詠唱中のメイジは、完全に無防備になるからね。呪文が完成する前に、矢でも飛んできたら、一巻の終わりさ。どんな威力のある魔法でも、――いや、威力のある魔法ほど、その詠唱は長くなるものだからね」
 中でも、虚無の系統魔法は、詠唱が一際長かったと伝えられている。と、コルベールは言った。

「つまり、戦闘において、虚無の呪文が完成するまでの間、主たるメイジを、あらゆる武器・闘技をもって護衛する。それに特化した使い魔こそが……」
「そう、それが虚無の使い魔『ガンダールヴ』だ」

「そうか……ならば、納得は出来る、か」
「え?」

 風見は、コルベールには答えず、左手を包む革手袋を外した。
 そこには、例のルーン文字が、煌煌と輝いていた。
「……これは!?」
「光りっぱなしなのさ。俺が気付いてから、ずっとな。――いや、それだけじゃない。ここに来てから異常なほどに体調がいい。まるで凄まじいパワーが、全身を駆け巡っているようだ」
 風見は、コルベールに左手を差し出すと、
「あらゆる武器を使いこなす、というのが、このルーンから与えられた力ならば、それも当然だ。俺の体は、例え変身せずとも、武器のカタマリみたいなものだからな」
 風見は、硬い表情のまま、自らの異形なる肉体をそう表現する。

「武器のカタマリ……ねえ……」

 しかしコルベールには、まるで鉄面のように表情を崩さぬ、風見の胸中を窺い知る事は出来なかった。

「まあ、とにかく私は、いま現在判明している事を、学院長に報告してくるよ」
 そう言いながら窓を開け、部屋の空気を入れ替えようとした時、コルベールは、ふと、その騒ぎ声に気付いた。
「何だ? 騒がしいな」

 その歓声は、ヴェストリの広場の方角から聞こえてきたようだった……。



 ギーシュ・ド・グラモンは、眼前の平民に――いや、この戦闘に、いまや大いに戸惑いを感じていた。

 最初は、彼ご自慢のワルキューレを見せ付けてやれば、びびってすぐに逃げ腰になるだろう。そう思っていた。少なくとも、動揺はするだろう、と。
 あとは、何発かワルキューレにぶん殴らせて、歯の5・6本も叩き折ってやれば、すぐに土下座して詫びを入れてくるに決まっている。そう信じて疑わなかった。
 何故疑わなかったのか?
 理由なんて無い。強いて言えば、平民とは、そういうものだからだ。
 いくら強がっていても、所詮は口だけ。メイジたる自分がちょっと可愛がってやれば、すぐに貴族の偉大さを思い出すだろう。
 そう思っていた。
 しかし、その予想は、半分当たり、半分外れた。
 半分当たりというのは――才人がギーシュの予想通り、ワルキューレに驚き、腰を引かせた事。
 そして、半分外れというのが――才人がワルキューレに何発殴られても、何度倒されても、立ち上がってきた事だった。

「はぁっ、はぁっ、はぁっ、はぁっ……!!」

 12回目のダウンから立ち上がった才人の顔は、原形を止めぬまでに腫れ上がっていた。
 プロボクサー並みの威力を持つ青銅の拳。才人はそれを20発は喰らっていただろう。
 左眼はふさがり、鼻は曲がり、唇はズタズタで、前歯奥歯を含めて何本折れているのか、もはや才人自身分からない。
 いや、その凄まじいダメージは顔面だけに留まらない。
 肋骨にも何本かヒビが入っているだろうし、右腕の感覚はもはや無い。腹筋は電流を浴びたように痙攣と激痛を送信し、血混じりの吐裟物と土埃で、服はどろどろだった。
 また、切れた唇と折れた歯から断続的に続く出血、そして鼻血は、彼の呼吸を限りなく困難な状態にし、それでなくとも減少した体力を、さらに削ぐ。
 しかし――それでも彼の戦意が失われる事は無かった。
 そして、そんな彼の姿に、さっきまでギーシュを囃し立てていた観客たちの歓声も、次第にどよめきになり、そしていまや声を失いつつあった。

 この“決闘”が、その名を借りたリンチである事は、このヴェストリの広場に集まった、全ての者たちが知っていた。
 全寮制であるこの魔法学院には、基本的に娯楽が少ない。学生とはいえ、傲慢な貴族の子弟たちにとって、身の程知らずな平民を、同級生が叩きのめすと聞けば、それは見逃す事の出来ない絶好のショーなのだ。
 だから彼らは、互いに誘い誘われ、ここに来た。
 生意気な平民が、その矮小な誇りを投げ捨て、彼ら貴族を前に、ブザマにひざまずく瞬間を、リアルタイムで共有するために。
 だが――。

 才人は、奥歯の破片と血の混じった唾液を激しく吐き捨てると、不明瞭な声で言った。
「どした……攻撃が来ねえが……降参か……?」

「何故だ……?」
「……あン?」
「何故、そこまでワルキューレの攻撃を喰らって、立ち上がれるんだ?」
「……」
「そもそも君がケンカを売ったのは、主たるルイズが、僕に侮辱されたからだろう?」
「……」
「しかし、それでも君は、今日の『サモン・サーヴァント』で召喚されたはずだろう? いくら主といえど、今日初めて会ったような貴族に、そこまで忠誠を誓う義理がどこにある?」
「……」
「それとも、その不可解な忠誠こそが『コントラクト・サーヴァント』の力だと言うつもりかい?」
「……」
「貴族が直々に問うているんだ! 答えたまえ!!」

 広場の観衆たちは、固唾を飲んだ。
 ギーシュが才人にした質問。それこそが、平民への階級的偏見を当たり前に抱く、彼ら貴族が今、最も聞きたい事であった。
 曰く、平民は誇りを持たない。
 曰く、平民は忠誠心が薄い。
 曰く、平民はメイジを恐れる。
 その常識から生み出される平民への感情的蔑視。
 しかし、いま彼らの前で、戦い続ける才人の姿は、彼らが持つ平民への常識を大きく覆すものだったからだ。

 くっ、――。
 くっ、くっ、くっ、くっ、くっ……。

 才人は、笑った。
 それは嘲笑であり、失笑であった。
 実際には、ずたずたになった唇を、僅かに歪ませただけ――ただそれだけの行為ですら、今の才人には、多大なる激痛をもたらした――だったが、ギーシュには、才人の笑いの意味は、十二分に伝わった。

「平民だの、忠誠だの、……まだそんなズレたこと言ってやがるのか……」
「なっ、なにい……?!」
「さっき、教えてやったろうが……女の子を傷つけて恥じないようなクソ男は……俺は気にいらねえ、ってな。――それだけさ」

 その途端、周囲の野次馬たちがザワついた。いや、他ならぬギーシュが、誰よりも動揺していた。
「……そんな、そんな事のために……? ただ、それだけの理由で……ここまで戦ったっていうのか……!!?」

「――そんな事、だと!?」
 その瞬間、笑いを帯びていた才人の目が、カッと開かれた。
「このゲス野郎が!! 人を思いやる事も出来ねえテメエの、人を傷つける事しか知らねえテメエの、一体どこが貴族だってんだっ!!」
「……っ!!」
「いや、テメエだけじゃねえ!! テメエも、テメエも、そこのお前も!!」

 そう叫びながら才人は周囲の人垣を見回した。
 そこにいた貴族たちの、見覚えのある顔一つ一つを睨みつける。
 彼らは、廊下でルイズを嘲弄した連中。
 そいつらと目が合うたびに、才人の脳裡に、小さな肩を震わせ、屈辱に耐える少女の、小さな背中が目に浮かぶ。
 そのたびに、目が眩みそうな怒りが迸る。

「テメエらは貴族なんかじゃねえ! 便所這ってる虫ケラだっ!!」

 才人はそう叫ぶと、口中に溜まった赤い唾液を吐き捨てた。

 観客たちは、もはや、しわぶき一つ立てられない。
 その沈黙の中を、
「……どうした、来いよベンジョムシ……!!」
 才人は重い足取りを、一歩一歩進ませる。――顔面蒼白になったギーシュの方へ。
 いまや呼吸するだけで、身体がバラバラになりそうな衝撃が走る。
 しかし、今の才人には、その激痛さえ、もはや気にならなかった。
 だが――、

 喉元まで込み上げた何かを感じた瞬間、
「ぇぼっ!!」
 才人の口から、おびただしい血ヘドが、彼の足元に撒き散らされた。

 例え、どれだけアドレナリンが分泌されようと、これ以上の活動を続けるには、彼がその身に負ったダメージは、余りにも深過ぎた。
 あたかもボロキレのように力なく、才人はその場に崩れ落ちた。


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