振り返ると野望の塔は地響きを立て、氷山を引き裂きながら極寒の北極海へ沈み行くところであった。
宿命の戦いにとうとう決着がついたのだ。
「建物が沈んでいく。」
断末魔をあげ、消え行く建物を見送る少年。長年にわたり実質一人で行動しているせいか、
最近はついつい独り言を言うようになってしまっているのが悩みだ。
冬の北極にいるにもかかわらず、シャツの上に前を空けた学生服という自然を舐めきった服装。
燃えるような赤い瞳と髪。どう考えても不良である。
海に浮かぶ鉄のなにかに乗っている。何か金属製の巨大な物体が海中にいて、それが背中だけを
海上に晒しているようだ。姿かたちは鉄の巨人の背中といったところか。
「だれも近づく者のない北極の海底で静かに眠ろうというわけか。」
声に感慨と、どことない寂寥を感じる。まるで長年の親友を失ったような、恋人を失ったような。
半身を失ったような、と表現するのがこのさいベストだろう。
『長い戦いだった』
建物が沈んだ後も、いつまでも視線を残し続ける。鉄のなにかが動き出す。それでも視線を放さない。
思えば両親と別れ、チベットの山奥で出会って以来少年の半生はこの時のためにあったのだ。
世界を支配するのに充分な力としもべを与えられたにも関わらず、その力をただ悪の野望をくじくためだけに
使い続けた。およそ私利私欲というものは存在していなかった。両親とも、友人とも、想い人とも別れ、
地位を得ることにも、財産を築くためにも、支配者になるためにも一切その力を使わなかった。レーザーの
ように悪を打ち破るという一点にのみ、その力を集中してきた。
だが、
「これからボクはなにをすればよいのだろうか」
少年は胸にぽっかりと穴が開いたような気分になっていた。
やっと宿敵を倒すことができたというのに、飛び上がって喜ぶことも、ガッツポーズもとれなかった。
無理もない、人生の目標を失ってしまったのだから。
少年はあまりにも純粋すぎた。
悪を倒すことにのみ人生を費やし、命を懸けてきた。結果将来はズタズタに引き裂かれた。
少年にも夢があった。
宿命の戦いにとうとう決着がついたのだ。
「建物が沈んでいく。」
断末魔をあげ、消え行く建物を見送る少年。長年にわたり実質一人で行動しているせいか、
最近はついつい独り言を言うようになってしまっているのが悩みだ。
冬の北極にいるにもかかわらず、シャツの上に前を空けた学生服という自然を舐めきった服装。
燃えるような赤い瞳と髪。どう考えても不良である。
海に浮かぶ鉄のなにかに乗っている。何か金属製の巨大な物体が海中にいて、それが背中だけを
海上に晒しているようだ。姿かたちは鉄の巨人の背中といったところか。
「だれも近づく者のない北極の海底で静かに眠ろうというわけか。」
声に感慨と、どことない寂寥を感じる。まるで長年の親友を失ったような、恋人を失ったような。
半身を失ったような、と表現するのがこのさいベストだろう。
『長い戦いだった』
建物が沈んだ後も、いつまでも視線を残し続ける。鉄のなにかが動き出す。それでも視線を放さない。
思えば両親と別れ、チベットの山奥で出会って以来少年の半生はこの時のためにあったのだ。
世界を支配するのに充分な力としもべを与えられたにも関わらず、その力をただ悪の野望をくじくためだけに
使い続けた。およそ私利私欲というものは存在していなかった。両親とも、友人とも、想い人とも別れ、
地位を得ることにも、財産を築くためにも、支配者になるためにも一切その力を使わなかった。レーザーの
ように悪を打ち破るという一点にのみ、その力を集中してきた。
だが、
「これからボクはなにをすればよいのだろうか」
少年は胸にぽっかりと穴が開いたような気分になっていた。
やっと宿敵を倒すことができたというのに、飛び上がって喜ぶことも、ガッツポーズもとれなかった。
無理もない、人生の目標を失ってしまったのだから。
少年はあまりにも純粋すぎた。
悪を倒すことにのみ人生を費やし、命を懸けてきた。結果将来はズタズタに引き裂かれた。
少年にも夢があった。
学生生活を満喫したかった。女の子と甘い時間を過ごしてみたかった。進路について悩んでみたかった。
だが、その全てを自ら否定して、戦い続けてきたのだ。自分の目標はこれしかないと信じて。
だからこそその戦いが終結したとき、少年は人生の目標を失ってしまった。
大学に行こうにもおそらく高校中退である。今更通いなおす気にも、大検を受ける気にもなれない。
両親の下に返るのは周囲を危険に晒す公算が高い。ヨミの残党はまだいるだろう。何より101と
呼ばれアメリカ政府と戦っていた時代のように政府そのものが牙を向いてくる可能性も高い。
「やはりバビルの塔に帰って、一生を過ごすしかないのか」
眼を閉じ、沈痛な面持ち。
人並みはずれた能力を有しながら、残りの人生を世捨て人として過ごすしかない。
逆だ。人並みはずれた力を持つからこそ、引きこもり外界に姿を晒すわけにはいけないのだ。
「こうなってはヨミの気持ちもわかる気がする。人並みはずれた力を持つゆえ、世を捨てるか、
あれしか道がなかったのかもしれない。」
鉄のなにかはどんどんスピードをあげていく。その速度およそ12、13ノット。
たちまち建物のあった場所も、氷山も見えなくなる。
だが、それでも少年は元の方向をジッと見つめていた。
『ご主人様_』
突然呼びかけられ、はっと振り返ると鉄のなにかの一部が盛り上がり、たちまり黒豹の姿へと変化する。
「ロデム、いたのか。」
『はい_せっかくの最終決戦ですのでついて来ていました_命令がなかったのでジッとしていましたけど_』
「いると知らなかったからな。」
ちょっとトゲのある黒豹、ロデムに対しもっと辛らつに答える少年。何気に酷いやつだ。
『ロプロスの行方は依然として不明です_通常なら自動修復システムがあるので、信号音をすぐに発し
出すのですが_』
ロデム――巨大な怪鳥の姿をした少年の有能なしもべのうちの一体である。
少年を守るため、自ら水爆ミサイルの犠牲となり北極海に消えたのであった。
「そうか。だがロプロスの仇はとった。近くの適当な陸地に上陸して、ポセイドンに探させればいい。」
だが、その全てを自ら否定して、戦い続けてきたのだ。自分の目標はこれしかないと信じて。
だからこそその戦いが終結したとき、少年は人生の目標を失ってしまった。
大学に行こうにもおそらく高校中退である。今更通いなおす気にも、大検を受ける気にもなれない。
両親の下に返るのは周囲を危険に晒す公算が高い。ヨミの残党はまだいるだろう。何より101と
呼ばれアメリカ政府と戦っていた時代のように政府そのものが牙を向いてくる可能性も高い。
「やはりバビルの塔に帰って、一生を過ごすしかないのか」
眼を閉じ、沈痛な面持ち。
人並みはずれた能力を有しながら、残りの人生を世捨て人として過ごすしかない。
逆だ。人並みはずれた力を持つからこそ、引きこもり外界に姿を晒すわけにはいけないのだ。
「こうなってはヨミの気持ちもわかる気がする。人並みはずれた力を持つゆえ、世を捨てるか、
あれしか道がなかったのかもしれない。」
鉄のなにかはどんどんスピードをあげていく。その速度およそ12、13ノット。
たちまち建物のあった場所も、氷山も見えなくなる。
だが、それでも少年は元の方向をジッと見つめていた。
『ご主人様_』
突然呼びかけられ、はっと振り返ると鉄のなにかの一部が盛り上がり、たちまり黒豹の姿へと変化する。
「ロデム、いたのか。」
『はい_せっかくの最終決戦ですのでついて来ていました_命令がなかったのでジッとしていましたけど_』
「いると知らなかったからな。」
ちょっとトゲのある黒豹、ロデムに対しもっと辛らつに答える少年。何気に酷いやつだ。
『ロプロスの行方は依然として不明です_通常なら自動修復システムがあるので、信号音をすぐに発し
出すのですが_』
ロデム――巨大な怪鳥の姿をした少年の有能なしもべのうちの一体である。
少年を守るため、自ら水爆ミサイルの犠牲となり北極海に消えたのであった。
「そうか。だがロプロスの仇はとった。近くの適当な陸地に上陸して、ポセイドンに探させればいい。」
爪先で、乗っている何かを叩く。おそらくこれがポセイドンというのだろう。
「だが各国の調査船が周辺に集結しているはずだ。いそがなければロプロスを先に発見されたら大変だ。
ここから最短でつく島はどこだ?」
『インマイエンという島があります―』
ポセイドンがその速度を上げる。
20ノット、21ノット、22ノット………。
海中を移動しているとはとても信じられないような速度。
だからこそ、それをよけることはできなかった。
「ん?ああ!」
気づいたときには進行方向に鏡のような光の円盤が出現していた。
油断していた。
見通しのよい海上である。敵が隠れるところはない。仮に海中にいたとしてもポセイドンがすぐに報告するはずだ。
そして、いつもの少年ならば楽によけられたろう。
だがこのとき少年は長年の宿敵との対決を終え疲弊していた。終えたことで油断があった。何より3つのしもべへの
信頼感があった。
「よけろ、ポセイドン!」
大声でしもべに命令を下す。だが、遅すぎた。
ポセイドンが速度を落とし、よけようとするが間に合わない。
覚悟を決めて両腕を顔の前で交差し防御する。
少年たちを飲み込むと、鏡は音一つ立てず消え去った。
その光景を見ているものはなく、また痕跡一つ残ることはなかった。
「だが各国の調査船が周辺に集結しているはずだ。いそがなければロプロスを先に発見されたら大変だ。
ここから最短でつく島はどこだ?」
『インマイエンという島があります―』
ポセイドンがその速度を上げる。
20ノット、21ノット、22ノット………。
海中を移動しているとはとても信じられないような速度。
だからこそ、それをよけることはできなかった。
「ん?ああ!」
気づいたときには進行方向に鏡のような光の円盤が出現していた。
油断していた。
見通しのよい海上である。敵が隠れるところはない。仮に海中にいたとしてもポセイドンがすぐに報告するはずだ。
そして、いつもの少年ならば楽によけられたろう。
だがこのとき少年は長年の宿敵との対決を終え疲弊していた。終えたことで油断があった。何より3つのしもべへの
信頼感があった。
「よけろ、ポセイドン!」
大声でしもべに命令を下す。だが、遅すぎた。
ポセイドンが速度を落とし、よけようとするが間に合わない。
覚悟を決めて両腕を顔の前で交差し防御する。
少年たちを飲み込むと、鏡は音一つ立てず消え去った。
その光景を見ているものはなく、また痕跡一つ残ることはなかった。
「あんた誰?」
突如現れた少女がそう問いかける。
この瞬間、少年――バビル2世の夢は、別の世界で叶えられることとなったのであった。
突如現れた少女がそう問いかける。
この瞬間、少年――バビル2世の夢は、別の世界で叶えられることとなったのであった。
ゼロのしもべ ~使い魔2世~