あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

もう一人の『左手』-01


――これは……!?

 コルベールは、思わず身体を堅くした。
 ディティクト・マジックでその男の肉体を走査した瞬間、これまで見たことも無い反応が起こるのを感じたからだ。
 その長身の男は人間だった。
 生物学的に言えば、それは疑いようも無い。
 黒革の上下に、襟元からスカーフをなびかせたその男は、見るからに精悍な相貌をしていた。
 だが、――同時に、男は『ただの』人間ではなかった。
 皮膚、筋肉、神経・骨格をはじめ、ありとあらゆる内臓器官が、コルベールの見たことも無い物質によって組成され、代替され、全身の肉体を構成している。
 しかし、しかしそれでも、“彼”は人間なのだ。
 それはコルベール自身のディティクト・マジックの反応が証明している。

 一体……何者……なんだ!?

 コルベールは、『サモン・サーヴァント』で、ゲートから出現して以来、いまだ意識を取り戻さない謎の男から、彼を召喚した一人の少女に視線をやる。
 少女――ルイズ・ラ・ヴァリエールは、自分が召喚した、もう一人の平民の少年と激しい口論を展開していた。

 そう、このルイズという生徒は、学園創設以来の劣等生として『ゼロ』という、不名誉極まりない二つ名で呼ばれている少女だった。その彼女が、またもトラブル――と呼ぶべきかどうかさえ現段階では分からないが――を起こしたのだ。

 彼女も所属する、トリステイン魔法学園の生徒は、二年生に進級する際、使い魔を召喚する。この儀式は、魔法学園に於ける必修行事であり、魔法関連の科目でことごとく単位を落としている彼女にとって、この儀式での失敗は留年を意味する。
 そして、――案の定と言っては何だが―― 十数回の召喚失敗の果てに、ルイズが呼び出したのは、なんと幻獣でも魔獣でもない、二人の人間であった。

 これは前代未聞の事態であった。
 召喚に応じたのが人間、と言っても、ただの平民であったという珍妙な事実に衝撃を受けたルイズは、再度の召喚のやり直しを主張する。
 が、コルベールはそんな彼女を説き伏せ、ヒラガサイトと名乗る少年と、未だ目を覚まさぬ長身の男に、契約の儀式を結ばせた。
 すると、驚くべし、なんと使い魔のルーンが――しかも寸分たがわぬ同じルーンが――その二人の平民の左手の甲に刻まれてしまったからだ。しかも、コルベールの長い教師生活の中でも、まるで見たことの無いような、変わったルーンが。
 メイジが使役できる使い魔は、通常一体。
『サモン・サーヴァント』で複数の生物が召喚される場合は、非常に稀であるが、在り得ない訳ではない。しかし、契約の接吻を複数の個体全てと交わしたとしても、使い魔のルーンを刻まれるのは、そのうちの一体であるとされていた。
 現役の使い魔が死亡せぬ限り、『サモン・サーヴァント』のゲートが開かないのはそのためだ。
 複数の使い魔と同時に契約を交わし、使役したメイジなど、始祖ブリミルくらいであろう。

 そう考えた瞬間、コルベールの頭脳にもう一つの事実が閃いた。
 始祖ブリミルが召喚した使い魔たちも、また人間であったという伝説を……。

――これは、どういうことだ……!?

 そう思い、召喚に応じた二人の平民たちに――片方は眠ったままだったが――気付かれぬよう、ディティクトマジックをかけてみたが、少年の方は、何の変哲も無い人間だった。だが、――この長身の男は、亜人ですらない、まさしく謎の生物と呼ぶべき人間だった。
 コルベールは、ルイズに二人の平民――特に、この得体の知れない男との契約を強制した事実を、今になって激しく後悔していた。

「では皆さん、教室に戻ってください」
 可能な限り平静を装い、コルベールは生徒たちに指示する。
 長身の男が覚醒する前に、教え子たちを出来るだけ、この場から遠ざけた方がいい。
 そう思ったからだ。
 あとは、未だに少年と口論を続けているルイズだが、……最悪の場合は、彼女を護って、この男と戦う可能性も考えておかねばならない。


「だからっ! お前が何を言ってるのか、全然わかんねえって言ってるんだよ!!」
「いい加減にしなさいよ、この平民っ!! さっきからワケ分かんないこと言ってるのはアンタの方じゃないのっ!! 大体、平民ごときが貴族にそんな口の利き方していいと思ってんのっ!!」
「魔法だの貴族だの使い魔だの、意味不明なこと言ってるのはテメエじゃねえかっ! 頭おかしいんじゃねえか!?」
「あ~~、そこの君、ちょっといいかね?」
「は!? なんスか!? オレいま、このキチガイ女の相手で忙しいんスけど!!」
「きっ、キチガイとは何よっ、この田舎平民!!」
「君は、君とともに現れた、あの男と知り合いなのかね?」
「知りませんよ、そんな奴!!」
「ちょっとアンタ、どっち向いてんのよっ!! こっち向きなさいっ!!」
「ああ!? キチガイがキチガイ語で喋っても、意味分かんねえん……だ、よ……!?」
 自分を召喚した少女と、つかみ合い寸前の勢いで争っていた彼は、突然ぽかんと空を見上げて驚きの表情を見せた。

 フライ。
 魔力によって自分を浮かせ、飛翔する。近距離であれば移動にも使える呪文。
 コモンマジックの中でも初歩に属する魔法。
 しかし、彼――ヒラガサイトという少年は、半ば茫然としながら、校舎に向かって飛んでゆく生徒たちを見て、呟いた。

「――あれが……魔法……!?」

 その表情を見て、コルベールは確信した。
 この少年は、メイジを初めて見たのだ、と。
 いや、魔法そのものの存在をいま、初めて知ったのだ、と。
 ありえない。
 およそ、このハルケギニアの住人であるならば、どこの誰であろうが、魔法の存在すら知らないなどという事は、まず考えられない。
 ならば結論は、おのずと明らかだ。

――彼らは少なくとも、このブリミル教圏の人間ではない……?

「はっ! アンタ『フライ』も見たこと無いの!? それこそが、アンタが未開の国の野蛮人である事の証明じゃないのっ!!」
 驚愕の表情で上空を見上げる少年を、ルイズは更に罵りつづける。
「ミス・ヴァリエール、いい加減にしなさい」
「でも先生、この平民さっきからスッゴク生意気で――」
「いいから、――落ち着きなさいと言ってるんだっ!!」
「……はい」
 普段は温厚篤実なコルベールは、滅多な事で声を荒げるような真似はしない。相手が生徒であれば、それは尚更だ。
 だからこそ、その怒声の威力はさすがに大きかったらしく、ルイズは、たちまち静かになった。「……ええっと、君、名前は?」
「ヒラガ、サイトです」
「ここは、ハルケギニア大陸にある、トリステイン王国王立魔法学院。私は教師のコルベールだ。で、――いま私が言った言葉の中で、一つでも知っている単語はあるかね?」

 そう言われて、才人はしばらく黙っていたが、やがて悲しげに首を振った。
「……ありません」
「はあ!? アンタいくら何でも、そんなわけ無いでしょっ!?」
「君は黙っていなさい、ミス・ヴァリエール」
「……でも、先生コイツは――」
 しかし、コルベールは喚き立てる少女を無視して、なおも才人に質問を続けた。
「では、君の故郷はどこかね?」
「……地球……日本……東京……」
「……」
「聞いた事ありません、か……?」
 初めて聞く言葉だった。
 ルイズは、もう何も言わなかったが、どこの秘境よソレ?と言わんばかりの表情をしていた。

「ならば――四国、高知という地名は?」

 錆びの利いた低い声が、一同の背後から響いた。

「バダン――という名の組織に聞き覚えは?」

 そこには、さっきまで意識を失っていたはずの長身の男が立っていた。
 その精悍な容貌によく似合う、まるで氷のような冷たい瞳を光らせて。
 バカな!?
 この私が、何の気配も感じずに、むざむざ背中を取られただと!?
 コルベールは杖を構えながら、無意識に教え子をかばいつつ、男から距離を取った。
 長いブランクこそあるが、これでも彼は元凄腕の軍人である。気付かぬうちに素人に背中を取られた事なぞ、20年の教師生活の中でも、一度も無いと言っていい。
 つまり――、

 素人じゃない。いや、この男、……素人がどうとかの世界には住んでいない……!!

 コルベールは、半ば絶望とともに確信した。

――この男は、危険だ……!!

 男の眼を見た瞬間に、コルベールには分かっていた。
 男の、その眼光は、ただ単に目付きが鋭いというだけのものではない。それこそ、数え切れないほどの“地獄”を見てきた者でなければ出来ない目だ、という事を。
 そして、自分がこの男に、表現しがたい警戒心を抱いたのは、ディティクトマジックの結果反応だけでは無かったのだ、という事を。
 この男に沁み付いた、一流の戦士だけが身にまとう空気感――同じく戦場を駆け抜けた過去を持つ者として、自分にも共振するような“何か”を感じていたからだ、という事を。

 そして男は、コルベールの警戒に対応するように、じわりと殺気をその眼光に含ませる。

「ミス・ヴァリエ-ル、絶対に私より前には出ないで下さい……」
「コルベール先生……?」

 ルイズの呼びかけにも、もう彼は答えない。
 コルベールは、低く小さな、それでいて恐ろしいほどの早口で呪文を詠唱している。
 この男がメイジであるかどうかは、まだ分からない。
 だが、分かる事もある。
 コルベールほどの者なら、対峙すれば、敵の強さは、おおよそ肌で感じ取れるからだ。
 そして、いま彼の勘は、明確に警報を鳴らしている。

――戦うな、と。

 つまり、それは、この男が現有する戦力は、恐らくトライアングル・メイジである自分をはるかに凌ぐであろう、という確実な予感であった。
 トリステイン魔法学院にメイジ多しといえど、この男とまともに戦える者があるとすれば、恐らくは学院長、『偉大なる』オールド・オスマンくらいであろうか。
 そう思った瞬間、コルベールは、軍を辞して以来、久しく封じ込めていたはずの、戦いの“血”が騒ぐのを感じた。
 ルイズにも、いまやコルベールと長身の男との間に張られた、ただならぬ緊張の糸に気付いている。しかし、彼が一体、何に反応してそこまで戦闘的になるのかが分からない。
 ただの目付きの悪い、しかも丸腰の平民相手に、トライアングル・メイジであるこの先生が、ムキになって杖を向ける理由が分からない。
 彼女の知るこの教師は、少々変わり者ではあるが、あくまで静かで、穏やかな人格者のはずだからだ。
 しかし、それはある意味、当然のことだった。
 お嬢様育ちの公爵家の令嬢などに、しかも階級制の偏見に凝り固まった少女などに、眼前の平民の危険度を測れといっても、当然、出来ない相談であろう。
 それは、歴戦の強者『炎蛇』のコルベールにして、初めて測れる事実だったからだ。

「……どうやら俺の質問の答えは、腕ずくで聞き出すしか無さそうだな」

 そう男が呟いた瞬間、
「寄るな!!」
 コルベールの叫びと共に、杖から赤い火柱が迸った。

「なっ!!?」
 呆気に取れたように、今まで脇で成り行きを見ていた才人は、あらためて驚きの声を上げた。
 コルベールの杖から走った炎は、彼の頭上で収斂され、一個の球体となり、さらに、どんどんその体積が膨張しているのが見えたからだ。
 気が付けば、その炎球は、もはや半径1メートルほどにまで膨れ上がっている。
 あんなものをぶつけられたら、人間なんぞ骨も残らないだろう。

――あのコッパゲのおっさんが、あの玉を造っているっていうのか……!!

 才人は、慄然たる思いで、杖を振りかざす眼鏡の中年を見た。
「平賀才人、だったか」
 しかし、その錆びた声に思わず振り向いた瞬間、才人はさらに唖然とした。
「もう少し退がっていろ。火傷したくなければな」

 男は、笑っていた。
 眼前の奇跡にまるで動じる事も無く、その口元には切れるような笑みが浮かんでいた。
 その笑みを見た瞬間、コルベールは、自分が男に抱いた本能的な警戒心が間違っていなかった事を確信した。それと同時に――今更ながらではあるが――もはや戦わずして、この場を生きてくぐり抜ける事は出来ないであろう事も。
 コルベールが読み取った、男の笑みの意味――それは、もはや覆しようも無いほど明確な“敵意”だった。

「悪く思わんでくれよ……これは正当防衛なのだからな……!!」
「正当防衛……? それはこっちの台詞のはずだがな」
 そう答えた男の笑みに、皮肉的なニュアンスが混じった瞬間、
「黙れっ!!」
コルベールは『ファイヤーボール』を放った。

 彼が持てる魔力の半分以上を込めた、渾身の一発だった。
 しかし、猛スピードで迫った火球が男を飲み込んだ瞬間、コルベールは自分の目を疑った。
 人間の肉体など瞬時に焼き尽くし、溶解させるほどの熱量にもかかわらず、――火球に飲み込まれたはずの男が、
「――ばっ、ばかなぁぁっ!!?」
 何と、火球の内部から、火球そのものを弾き飛ばしたのだ。

 そして、炎の巨球を内側から破裂させ、煙の中から姿を現したその人影に、さっきまでの面影は無かった。
 男は、先程と変わらず“居た”。
 しかし、その姿は一変してしまっていた。
 黒革の上下も、スカーフも、彼は身に纏ってはいなかった。

「……うっ、うそだろ……!!」

 今度は才人が、うめくような驚愕の声をあげる。
 いや、彼のうめき声の対象は、自分の呪文を破られたコルベールの悲鳴とは、明らかに異なる。
 才人は見たのだ。
 明らかに存在すべきではない、存在するはずの無い、その顔を。
 直径2メートルに及ぶ、高熱の球体を内側から破壊して、なおも悠然と屹立する男の顔を。――いや、男の顔を覆う、その仮面を。
 赤い仮面。
 白いマフラー。
 複眼。
 アンテナ。
 立てられた襟。
 そして、腰に巻かれた“変身ベルト”。

 高度成長期以降の日本で育った子供なら、彼を知らない者などいるはずも無い。
 伝説的な人気を誇った不死身のヒーロー。
 だが、あくまでも彼はフィクションの、――画面の中の存在であったはずなのだ。
 しかし、しかし、……“彼”は、ここにいる!
 絶対的なまでの存在感と戦闘力を誇示しながら!

「あ……あんた、一体、何者なの……!?」

 コルベールの背後で、文字通り腰を抜かしたルイズが尋ねる。

「オレの名は風見志郎。またの名を――」
「うそだぁぁぁ!!」

 才人は叫んだ。
 聞くまでもなく、才人は仮面の男の正体を知っている。
 だが聞きたくなかった。
 聞いた瞬間、この覚めない悪夢が本物の現実になってしまいそうだったから。
 聞いた瞬間、もう二度と自分の故郷に――平成の日本に帰れなくなってしまいそうだったから。
 いや、それ以前に自分の、平賀才人という人格が正気を保っているのかどうか、それすら分からなくなってしまいそうだったから。

 だが、そんな才人の思いは、“彼”には全く届かなかった。

「またの名を――仮面ライダーV3」

 才人は、意識を失った。


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