あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

第三話 魔法


 翌日。
 いつものように朝早く起きたなのはは、日課のトレーニングに行こうとして、ふと足を止めた。
 ルイズが起きた時、そばにいないのはまずいのではないか。
 いずれ彼女の起きる時間などが判れば、その辺の塩梅は何とかなるだろうが、初日から目の前にいないのはまずい。
 思い直したなのはは、トレーニングはあきらめて、昨日の続きをすることにした。
 ただのデータとは違い、こういうまったく未知の情報の処理はさすがにデバイス任せには出来ない。
 単純に丸ごとコピーしておく記録はともかく、一度は自分の頭で咀嚼しておかないといけない。
 ちなみに彼女がこうも必死になっているのは、後々帰れた時、こういったことをすべて報告書として上層部に提出しなければならないからである。
 何しろ完全に未知の次元世界との初接触である。責任は重い。まあ、個人的な興味もあることはあるが。
 そうして自分なりに整理したデータの打ち込みを続けていると、やがてルイズが目を覚ました。
 ハンディパソコンをしまい、ベッドの脇に侍る。
 「おはようございます、ご主人様」
 掛けられた声に、一瞬ルイズはびっくりしたようだが、昨日自分が使い魔として自分――なのはを召喚したことを思い出したようだった。
 服を着替えさせろという要求にも、なのはは素直に従った。
 高位の貴族は自分に出来ることでもあえて使用人にやらせるということをさすがになのはも知っていたからだ。
 雇用政策の一環として。
 ルイズの方も、実際のところ、ごく普通に実家のメイドに命令するような口調になっていた。
 年格好や雰囲気が近いせいもあっただろう。
 その後の洗濯も、なのはが素直に了承したため、なんのトラブルも起きなかった。
 なのはが同性の年長だということも大きかっただろう。  


 とりあえず洗濯物をまとめたあと、洗濯場のおおよその位置をルイズに聞き、なのはは現地へと向かう。
 途中で同じような荷物を抱えたメイドらしき少女に出会った。
 「あ、すみません、洗濯物の洗い場はこちらでいいんですか?」
 見知らぬ女性に声を掛けられたメイドは、一瞬とまどったものの、その姿が昨日の夜、まかないの夕食をもらいに来た女性のものであると気がついた。
 「あ、確か、タカマチナノハさんでしたよね。ミス・ヴァリエール様の使い魔になった」
 「はい、そうです。なのは、とお呼びください」
 「あ、はい、こちらこそ。私はシエスタと申します」
 何となく意気投合した二人は、仲良く洗濯場で洗い物をすることになった。
 洗濯板相手に二人で格闘する。
 「こういう上質の布地は洗うのに神経使いますね」
 「洗剤のない洗濯がこれほど大変だとは思わなかったなあ」
 「洗剤? なんですか?」
 「あ~、洗濯用の石鹸なんだけど……」
 「石鹸って、アレですか? 貴族の方がお風呂で体洗うのに使う」
 「あ、あるんだ、石鹸」
 その時、ふとあることに気がついて、なのはは洗っていた下着を見た。ルイズのパンツだ。
 自分たちが履いているものと変わりばえしなかったのでつい見過ごしていたが、こうして隣でシエスタが洗っているものと見比べると、明らかな違いがある。
 こちらのにはゴムが入っていた。シエスタが洗っている下着は紐だ。デザインも違う。
 (アレかなあ、石鹸もこのゴムも、貴族が魔法で作っているのかな)
 だとしたら貴族が力を持っているのも、そして6000年も工業化が起こらずに来ている理由も何となく納得できた。
 (なんか妙に便利すぎ、っていうか、魔法はともかく、その背景にある知識が変にアンバランスだわ)
 秘薬なるものも存在しているから、案外化学水準などは工業化されていないだけで意外と高いのかも、と、なのはは思った。



 洗濯物を二人で干した後は朝食である。昨日の夕食時に二人して気がついたのだが、ルイズもさすがに年上の女性を犬猫同然に扱うわけには行かず、かといって同席させるわけにも行かなかったので、下働きのまかないを分けてもらおうということにしたのだ。
 ついでに、なのははシエスタらメイド達に頼んで、貴族に対する給仕のやり方を教えてもらうことにした。
 この先出かけた時など、ルイズの世話は必然的に自分の仕事になる。そう思ってのことだった。
 幸い、なのはには実家の翠屋でのアルバイト経験があった。
 学院での給仕も、厳密な作法があるわけではないので、なのはにも勤まりそうであった。
 ものはついでと、予備のメイド服から自分にあったサイズのものを貸してもらう。
 着替えがなかったので、なのはとしてもむしろありがたかった。
 着替えた際、シエスタをはじめとするメイドの女性達が、自分の下着をやけに興味津々の目つきで見ていたのが気になったが、そこはとりあえず考えないことにする。
 後で調べないといけないな、とは思ったが。妙齢の女性にとって替えの下着の確保は重大なことなのだ。
 先ほどの洗濯で考えたこともある。
 ルイズは自分の使い魔がメイド姿で給仕をしているのには驚いたが、『後々のための勉強です』と耳打ちされ、なんだか顔がほてってしまった。
 喜びと照れくささの入り交じった、不可解だが悪くはない気持ちだった。  


 朝食が終わると授業である。教室は石造りの大学のような感じであった。
 大きな階段状の部屋で、一番下に教壇がある。その後ろにある黒板を見て、なのはは思わずめまいがした。
 「ん? どうかした?」
 「いえ、ちょっと」
 なのはは聖祥小学校時代、社会科の授業でのことを思い出していた。課題授業で、『身近なものの歴史をしらべる』というものだった。なのはがその時アリサ達と一緒の班で調べたのは、文房具であった。
 鉛筆や消しゴム、黒板やチョーク、定規といったものの歴史を調べて、みんなの前で発表した。まさかその時の知識がこうも生きてくるとは予想もしていなかった。
 黒板やチョークが出来たのは、地球では19世紀である。パンツのゴム紐とかもだ。産業革命以降、爆発的に科学や技術が進歩していく中での事である。
 (社会背景は17世紀くらいっぽいのに、日用品は19世紀くらいかあ。この差を、魔法が埋めてるのかな? 化学とかの参考書、見せてもらった方がいいかなあ)
 そう思うと、これからの授業にも俄然興味がわいてきた。
 「……ずいぶん熱心そうね」
 ルイズは舞い上がっている年上の使い魔を見て、そっとため息をついた。  



 ルイズと一緒に教室に入った時、なのはは態度にこそ出さなかったものの、心底びっくりした。
 教室内が見たこともない動物たちのオンパレードだったからだ。
 猛獣のたぐいならまだしも、目玉のお化けだの下半身が蛇になっている狼だの、ゲームの中にしか出てこないような異様な魔物がわんさかいたのだ。
 そういうのがいるらしいことは昨日の夜の質問で理解していたが、見ると聞くとは大違いである。
 ただ、今が授業の前であることを考えて、具体的な質問をすることは遠慮するなのはであった。
 そうこうしているうちにルイズはいつもの席に座る。なのはも隣に座ると、机の下で何か妙なものを広げはじめた。
 「なにそれ?」
 ルイズが聞くと、なのはは手を止めて答える。
 「あ、これ、魔法のこととかを調べるためのものです。こっちでいうとマジックアイテムみたいなものだと思えば近いかと。ほとんど魔法は使ってないんですけど」
 ちなみに魔法を使っているのは辺境調査時のための個人魔力による充電システムだけである。
 「ふーん、ま、授業の邪魔にならなければいいわ。物音とか立てないでね」
 「はい」
 どうやらよく判らなかったようでスルーしたらしい。と、その時。
 「あら、ミス・ヴァリエール。寂しくなって実家からメイドさん連れてきたの?」
 妙に妖艶な女性の声がした。なのはが振り向くと、そこには声に違わぬ妖艶な女性が大きなトカゲとサンショウウオの合いの子みたいな生物を引きつれて座っていてた。
 「キュルケ!」
 ルイズの声が尖る。
 「これは私の使い魔よ。メイドじゃないわ!」
 「そう言われてもねぇ」
 なのはの服装は朝のメイド服のままだ。
 「ちなみに私の使い魔はこれ。さ、ご挨拶しなさい、フレイム」
 先ほどのトカゲが丁寧に頭を下げる。よく見るとしっぽのあたりに炎が揺れていた。
 なのはも釣られて何となく頭を下げる。
 「なのは、いちいち頭下げなくてもいいわよ、ツェルプストーの使い魔なんかに」
 「っていわれましても……」
 とりあえずなのはは黙ることにした。ついでにどうやらご主人様のライバルらしい女性の方に目を向ける。
 褐色の肌をした、実にプロポーションのよい女性であった。男性なら目を離せなくなりそうな胸が大きな存在感を放っている。
 それを見た時、なのはは親友でもある上司のことを思い出していた。
 彼女は女性の胸を揉むのが大好きなのだ。女性でありながら。
 ふと、彼女たちのことを思い出した時、レイジングハートから警告が来た。
 (“マスター、警告します。例の使い魔契約の術式より、心理抑制の反応あり。遮断しました”)
 (……そう。あり得るわね。記録だけして、以後も自動ブロックして)
 (“了解”)
 ありそうな話だ、と、なのははその魔法の非人道性については流した。使い魔の存在意義を考えれば当たり前のことだ。
 この術式が主に対する絶対的忠誠心を埋め込まないだけましとすべし、と、考えることにする。
 この術はそれこそ6000年前から伝わるような代物なのだから。
 (ヴィヴィオ、お母さん、しばらくお家に帰れなさそう。ごめんね)
 そして、おそらく今頃半狂乱になっていそうな義理の娘と金髪の親友をなのはは思う。
 親友が別の事件解決直後で非番だったのは幸いだ。
 自分が行方知れずになったと聞いたら、その捜索に全力を尽くすと同時に、ヴィヴィオのもう一人の親にもなってくれる。
 (さ、感傷はここまで。今のわたしは、自分に出来ることをしないとね)
 なのはは意識を、先ほどからしょうもない口げんかをしているご主人様の方に戻した。
 たわいもないやり取りを聞いていると、どうやら相手の方が一枚上手というか、余裕があるようである。
 ご主人様は彼女のことを毛嫌いしているが、キュルケというらしい女性の方は、ライバルであると同時にいじりがいのある妹みたいな目でご主人様を見ているのがありありと判る。少なくとも嫌ってはいない。
 後で愚痴を聞いた方がいいかも、と、内心なのはは思った。
 丁度その時、教師と思われる女性がやってきて、二人のいがみ合いも自然に収まった。  



 「みなさん、春の使い魔召喚は大成功のようですね」
 紫色のローブを纏った、ふくよかな中年女性が生徒達に声を掛ける。
 と、ルイズがうつむいたのを見て、なのはの顔が少し曇った。
 「ご主人様」
 なのははルイズに声を掛ける。意図的に、心細げな細い声にして言葉を続ける。
 「私では……不満ですか? 不足ですか?」
 「っ! そ」
 怒鳴りそうになったルイズの口をすかざすふさぐなのは。そのままにっこり満面の笑みを浮かべ、
 「授業中ですよ」
 とだけ言って主を解放する。
 再び前を見るルイズの表情には、生来の負けん気が戻っていた。
 と、それを見計らったかのように、壇上の教師の声がルイズとなのはの上に落ちてきた。
 「まあ、とっても変わった使い魔を召喚した方もいるのですね」
 聞きようによっては侮蔑であるが、彼女から発せられる雰囲気にはそんなところはなかった。
 むしろ、よく主人を支えてくれる、いい使い魔を引き当てたみたいですね、というニュアンスを纏っていた。
 だが、やはりそういう空気を読めない輩というものはいるようで、すかさず今度は間違いなく侮蔑を含んだ合いの手が飛んできた。
 「ゼロのルイズ! 召喚できないからって、実家からメイド呼んでくるなよ!」
 だがルイズはあわてなかった。そう。先ほどのやり取りで、ルイズは理解していた。
 ここで自分が怒ったりあわてたりしたら、それは自分の使い魔を蔑むことになる。そして、ひいてはそれを召喚した自分をも。
 「あら、残念だけど、彼女は実家のメイドじゃなくて私の使い魔なの。メイドみたいに引き抜くのは無理よ、マリコルヌ」
 「な……!」
 マリコルヌと呼ばれた少年は絶句していた。
 「ま、見ての通りの美人さんだからあなたが興味を持つのは判るけど、人の使い魔にそういう目を向けるのは問題ではなくて? 風上のマリコルヌ」
 と、おやおやという目でルイズとマリコルヌを見ていたなのはの耳に、反対側の席から小さなつぶやきが聞こえてきた。
 「あら、ルイズにしては見事な切り返しね」
 「でも詰めが甘い。50点」
 どうやら先ほどのキュルケという女生徒が、そのさらに隣にいた人物と話しているらしい。
 「う、うるさい! 使い魔に負けてるくせに!」
 「なんですって! どこがよ!」
 せっかくつかみ取った優勢が、瞬時に泥仕合に落ちていた。
 「少なくとも胸で負けてる!」
 「うっさいわね! この風邪っぴき!」
 「僕は風上だ! 『ゼロ』のルイズ!」
 その瞬間教室が爆笑に包まれた。生徒の大半の視線が、ルイズの胸に向いている。
 なのはは一人視線をそらす。と、その視界に一人の少女が映った。さっきキュルケと話していたと思われる、彼女の反対側に座る少女だ。
 その青髪に眼鏡の少女は、ほかのみんながルイズを見つめる中、一人自分の胸元を見つめていた。
 なのはは礼儀正しく、自分も下を見た。  



 この混乱は、ルイズをはじめとする主要な人物の口に赤土の粘土が張り付いて強制的に黙らされたことにより、無理矢理収められた。
 ルイズは口に粘土を貼り付けたまま、授業に集中している。
 なのはも一緒に授業に集中していた。
 内容は大変におもしろいものであった。プライドが高いのか、やや自分の使う土がいかに大切かを持ち上げるところはあったものの、土の属性、特に『練金』の魔法がどれだけ深く生活に密着しているかは、はしりを聞いただけでも理解できた。
 彼女が何度か魔法を使った時の記録も、レイジングハートがスキャナを使ってばっちり記録していた。
 そんな授業の半ばで。
 「では、実際にやってもらいましょう。そうですね、ミス・ヴァリエール」
 そのとたん、教室内の雰囲気が一変した。
 「ミセス・シェヴルーズ!」
 「やめてください! 危険です!」
 「先生は一年時、ルイズを教えていませんよね!」
 怒号のような叫びがあちこちから上がる。
 訝しがる中、ルイズは怒りで顔を真っ赤に染めて立ち上がった。口から粘土を引っぺがしつつ叫ぶ。
 「やります!」
 そう答えると、杖を片手に、のしのしという擬音がぴったり当てはまるような歩き方で下りていった。
 その様子にきょとんとするなのは。そんな彼女に、キュルケが声を掛けてきた。
 「ね、使い魔さん」
 「あ、なんでしょうか。あと、わたしのことはなのはとお呼びください」
 キュルケは小さく頷いた。
 「ではなのは、改めて言うけど、危険よ。机の下に隠れていた方がいいわ」
 ふと見ると、前の方の席の生徒達が皆机の下に隠れている。
 「いったい何故……」
 「忠告はしたわよ。さ、フレイム」
 そういうと同時に、彼女もそそくさと机の下に隠れてしまった。
 「なんなんだろう……」
 なのはは再び視線をご主人様の方に戻す。彼女は教壇の前で、石ころを前に、先ほど習った呪文を一心に唱えていた。
 (“マスター、異常です”)
 そこにレイジングハートからの念話が割り込んできた。
 (異常?)
 (“イエス。今まで記録したものとは、まったく異なる魔力の流れが生じています”)
 (それって、彼女の魔法?)
 (“はい。詳しく説明している時間はありませんが、このままだと”)
 (このままだと?)
 (“物質崩壊による爆発が生じます”)
 (え……)
 平たく言うと核爆発である。なのはが思わず冷や汗を垂らした瞬間、

  カッ!

 (“Protection”)
 閃光とともに教室内に爆風が渦巻いた。
 「ご主人様!」
 防御魔法で爆風をやり過ごしたなのはは、あわてて壇を駆け下りていく。
 思ったより威力はなかったが、危険度は極めて高い現象である。
 (“放射能その他の異常は感知されません”)
 実際、爆風が収まると、そこには衣服の一部が破れたルイズと、目を回しているシュヴルーズがいた。
 二人とも目立つ外傷はないようである。
 (“エネルギーの大半は魔力に還元された模様です”)
 (……どういう失敗よ、それ)
 ミッド式やベルカ式ではやろうと思っても出来ない事である。物質の魔力変換というのは。
 それよりも今は、ルイズの無事を確認する方が先である。
 「大丈夫ですか!」
 そう叫ぶなのはに、ルイズは言った。
 「ちょっと失敗しちゃったみたいね」
 「「「どこがだ!」」」
 机の下から頭を出した生徒達から、一斉にツッコミが入る。
 「いつもいつも、成功率ゼロのくせに!」
 そんな中なのはは、黙ってマントの前を止め、破けた服を見えないようにした。  





 「相変わらずね、ルイズは」
 ほこりをはたきながら、キュルケはまわりを見る。と、その視界に意外なものが入ってきた。
 ある意味見慣れたものではある。隣に座っていた親友だ。彼女の顔は、何故かモードが切り替わっていた。
 ごくまれに見かける、何かに注目する顔。
 普段の彼女の顔は、読書時以外は『無関心』という札が貼られていることが多いというのに。
 「どうしたの、タバサ」
 「見間違いじゃなければ」
 その視線は、ルイズと使い魔の女性……なのはの方を向いている。
 「彼女、魔法を使った」
 キュルケも思わず、なのはのことを注目していた。


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