あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

さよなら使い魔、こんにちわ

 あれから、もう二週間が経つことになる。
 わたしの使い魔が――――ゴーレムに踏み潰されて死んでから。

                   ☆

 学院生活二年目に入ってしばらくが経過した、よく晴れたある日のこと。
「あんた誰?」
 春の使い魔召喚儀式で呪文を唱えたルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール
(つまりそれはわたしのことだ。16歳の魔法学院2年生。身長はかなり小柄、体格はかなり細身、顔はかなり可愛い……と自分で言ってみる。愛称は特に決まってないけど、『ゼロ』とかいう超ありがたくない二つ名が広まっているようだ)
は、平民の女の子を召喚した。
 トリステイン魔法学院のものとは違った制服を着ている。
 身長は平均ぐらい、髪型は耳にかかる程度のショートカットで、スレンダーな肢体。
 わたしほどでは無いけどかなり整った顔立ちの、ちょっと吊り上った勝気な感じの大きな瞳が印象的。
 つまる所、極めて記号的に表現するならば『ボーイッシュな美少女』という言葉が適切な外見をしている。
「誰って……。ボクは白咲深春(しらさきみはる)」
「どこの平民?」
 杖もって無いし平民よね。
 なんてことなの、平民を召喚するなんて前代未聞だわ。
「ルイズ、『サモン・サーヴァント』で平民を呼び出してどうするの?」
 誰かがそう言うと、居合わせた人間の半分ぐらいが笑った。
 違うの、わたしはやれば出来る子なの、呼び出すことにはちゃんと成功したじゃない。笑わないでよこれは違うの。
「ちょ、ちょっと間違えただけよ!」
 そうよ次は絶対完璧にちゃんとした使い魔を召喚して見せるわ!
「でも僕もあんな美少女を使い魔にしたい」
「ゼロのルイズは僕らに希望をくれた!」
「俺はもうちょっと幼い子が」
「自重しろ、マルコメ」
 あれ、以外に好評? 評価高い? 羨ましがられてる?
 あっ、ギーシュがモンモランシーに殴られてる。あの二人つき合ってたんだ。
「さあ、ミス・ヴァリエール、使い魔と契約を」
 わたしは言われるままに使い魔と契約した。

「つまり、ボクは勝手にそっちの都合で呼び出されて、年中無休給金無料で一生働かされるという訳だね」
 何よその言い方、まるでわたしが悪いみたいじゃない。わたしだって普通の使い魔が良かったのに。ドラゴンとか。グリフォンとか。
「まあ、しょうがないか。帰る方法が見つかるまではお世話になるね」
「なによそれ、何でわたしがお世話するのよ。逆でしょうが」
 考えてみれば、普通の使い魔と違って人間の言葉は喋れるし、手が使えるんだから……使用人で十分な事ばかりだわ。
「でもねー、使い魔ってなにするの?」
「まず、使い魔は主人の目となり、耳となる能力が与えられるわ」
「どういうこと?」
「使い魔が見たものは、主人も見ることができるのよ」
「へぇ」
「でも、あんたじゃ無理みたいね。わたし、何にも見えないもん!」
 なによその顔、使い魔としての能力が足りないあんたが悪いのよ、わかってるの?
「それから、使い魔は主人の望むものを見つけてくるのよ。例えば秘薬とかね」
「秘薬ってなに?」
「特定の魔法を使うときに使用する触媒よ。硫黄とか、コケとか……」
「えっと、ちょっと無理」
 そうよね、秘薬の存在すら知らなかったものね!
「そして、これが一番なんだけど……、使い魔は、主人を守る存在であるのよ! その能力で、主人を敵から守るのが一番の役目! でも、あんたじゃ無理ね……」
「あっ、それなら自信あるかも」
「魔法が使えない平民がどうやって守るのよ……。あんたなんか特技でもあるの? 料理がうまいとか編み物が得意とか」
 使用人としてしか使えないのなら、使用人として使ってあげるわ。
「特技? うーん、そうだ!」
 えっ、なんでこっちに、ちょっと、制服をっ。

 何が起こったかですってぇ? ああああっあんな恥かしいこと言える訳ないじゃない変態!

 気づいたら、朝になっていた。
 太陽が黄色い。
 使い魔と一緒に部屋を出ると、異常な肉塊を二つつけた女悪魔が現れた。
 しかも、ブラウスの一番上と二番目のボタンを外して、胸元を見せびらかしている。
 わたしに喧嘩を売ってるのか、こんにゃろー! う、うらやましくなんかないんだからね!
「おはよう。ルイズ」
 こいつ笑った、わたしを見て笑った、わたしの胸を見て笑いやがった。
「おはよう。キュルケ」
「あなたの使い魔って、それ?」
 使い魔を指差して、バカにした口調で言った。
「そうよ」
「あっはっは! 本当に人間なのね! すごいじゃない!」
 なによ、そういうあんたは、おおお、おっぱい悪魔じゃないの。
「『サモン・サーヴァント』で、平民喚んじゃうなんて、あなたらしいわ。さすがはゼロのルイズ」 
「うるさいわね」
「あたしも昨日、使い魔を召喚したのよ。誰かさんと違って、一発で呪文成功よ」
 誰もあんたのことなんて聞いてないわよ。
「あっそ」
「どうせ使い魔にするなら、こういうのがいいわよねぇ~。フレイムー」
 おっぱい悪魔は、勝ち誇った声で使い魔を呼んだ。悪魔の巣からのっそりと、真っ赤で巨大なトカゲが現れた。
 ちょっと、暑いじゃない。  
「うわぁ! 真っ赤な何か!」
 使い魔が目を輝かせて近寄る。あんまり近づくと危ないわよ。
「おっほっほ! もしかして、あなた、この火トカゲを見るのは初めて?」
「うん、初めてっ! 何これっ」
「サラマンダーよね」
 わたしの使い魔なんだから、わたしに聞きなさいよね。
「そうよー。火トカゲよー。見て? この尻尾。ここまで鮮やかで大きい炎の尻尾は、間違いなく火竜山脈のサラマンダーよ? ブランドものよー。好事家に見せたら値段なんかつかないわよ?」
 なによっ、自慢して!
「わたしの使い魔だって凄いんだからっ!」
 ゆ、指とか?
「どこが凄いのよ? ふふふ、そんな顔を真っ赤にして考えこまなくてもいいじゃない、おかしな子ね」
 い、言え無い……。
「あなたお名前は?」
「ボクは白咲深春だよ。貴方は?」 
「シラサキミハル? 変な名前ね。あたしはキュルケ、微熱のキュルケよ。
 ささやかに燃える情熱は微熱。でも男の子はそれでイチコロなのですわ。ルイズと違ってね。 
 じゃあ、お先に失礼。今度、じっくりルイズについて語り合いましょう」
 さっさと消えなさい。まったく。
「くやしー! なんなのあの女! 自分が火竜山脈のサラマンダーを召喚したからって! ああもう!」
「いいじゃない、召喚なんかなんだって」
「よくないわよ! メイジの実力をはかるには使い魔を見ろって言われているぐらいよ! なんであのバカ女がサラマンダーで、わたしがあんたなのよ!」
「え~、でも人間だよ? 動物よりすごくない?」
「わたしは使い魔を召喚したのよ。人間じゃないわ」
 なのになんで、人間が呼び出されるのよ。
 ……昨日は本気で動物扱いしてやるつもりだったけど、さすがにそれはひどいかしら?
「ところで、あの人、ゼロのルイズって言ってたけど、『ゼロ』ってなに? 苗字?」
「違うわよ! わたしの名前はルイズ・ド・ラ・ヴァリエール。ゼロはただのあだ名よ」
「あだ名ね。あの人が微熱ってのはなんとなくわかったけど。ルイズちゃんはどうしてゼロなの?」
「知らなくていいことよ」
 むしろ、知ったらいけない事よ。
「むね?」
 ダメ、これはダメだわ。いくらわたしが海よりも深い慈愛の持ち主でもこれはダメ。
 いえ、むしろ躾けてあげるのが主としての愛よね。
「あああ、あんただってそんなに無いじゃないっ!」
 でも、わたしよりも有る。なんて生意気な使い魔!
「かわすな!」
 ええい、ちょこまかと。こいつ、なんで当たんないのよ。どこまでもご主人様に逆らう使い魔ねっ!

   【巻き戻し】
   【再生】
  →【早送り】

【朝食】 
「あのね? ほんとは使い魔は、外。あんたはわたしの特別な計らいで、床」
「ひ、ひどいよルイズちゃん……」
「ちょ、泣かないでよ。わかったわ、半分こしましょ、ねっ?」
「あっ、このお肉おいしー」
「あんた、涙は? 嘘泣き? 嘘泣きだったの?」   

【授業】
 眠い、ううんダメ、って、コイツ早速寝てるぅー!
 ご主人様が、苦労して頑張っているのに。
 起きなさい、起きろ、このバカ……犬じゃないわね、どっちかっていうと猫?
 起きろバカ猫っ!
 えっ、いえ先生、使い魔に躾を、はい、やります。サモン・サーヴァントは出来たんだし大丈夫よね。
 ……ちょっと失敗したみたいね。
「ううん、ルイズちゃんどうしたのー?」
 あんたは、もうちょっと寝てなさい。

【片付け】
 使い魔が寝ていたので自分でやろうと思ったけど出来なかった。
 使い魔を起こしてやらせようとしたら、そこらの使用人に声をかけてあっと言う間に終わらせた。
 どうやら、わたしの魔法がほとんど成功しないことに薄々気が付いていたらしい、なんで?
 使い魔なんかに、慰められたくないわよ。
 まあ、わたしの顔が可愛いことは認めるけど。
 感度って、バカ! バカ猫!

【昼食】
「なんで、あんたがテーブルで食べているのよ」
「うん? あの人が代わってくれたんだよ」
 見れば、豚、じゃない、マ、マー、マルコムⅩ? とにかく太っちょの男子が床に座り込んで幸せそうな顔で使い魔用スープを啜ってた。
 女の子と話したのは数ヶ月ぶりとか、つぶやきながらうっとりしている。気持ち悪い。
 椅子を取りに行って、そのまま永遠に消えればいいのに。

【決闘】
 なんか一年生の女子がからんできた。
 マリーコール・ド・グランドプレとかいう、わたしほどでは無いがそれなりに可愛い子だ。
 兄を床で食事させて、平民の使い魔をテーブルで食事させるなって、わたしは無関係なんだけど。
 それにしても似てない兄妹ね。
 あれよあれよというまに、使い魔が決闘することになってしまった。
 やめてよね、平民がメイジに勝てるわけないじゃないの。
 ああ、でもこの時期の一年ならまだ系統も決まってないし、コモンだってろくに習ってないハズよね。
 あっ、風で吹き飛ばされた。
 なんどやっても近づくことすら出来ないじゃない。一方的ね。一年は。
 わかったでしょ? 平民は、絶対にメイジに勝てないのよ!
 あっ、また。寝てなさいよ! バカ! どうして立つのよ!
「痛いなあ、あのさあ、君、さっきからミニをはいて風を起こしているから、可愛い苺の下着が丸見えだよ?」
 なっ、なんてこと言うのよ。でも、一年の動きも止まったわ。
 速い、一瞬で、一年の懐に潜り込んだ。
 ミシマコウゲンリュウ? なにそれ、あっ、一年、白目剥いてる。

【看護】
 もう、打ち身と擦り傷が一杯じゃない。
 そんなに、意地張ることないのに。
 あれから平民がメイジを傷つけたって大変だったんだからね。
 幸い、気絶してただけで別状は無かったのと、向こうから挑んできたので不問になったけど。
 ふふ、寝顔だけは可愛いわね。

【プレゼント】
「あなたも、まあまあ、役に立つことがわかったし、なにか買ってあげるわ。剣なんかいいかしらね」
「うーん、ボクが習ったのは体術だからいらないかな。それより代えの服や下着が欲しいんだけど。後、お風呂入りたい」
「わかったわ。明日買いに行きましょう。それと今、お風呂入ったらすごくしみるわよ?」
「うん、ありがとねルイズちゃん」
「べ、別に使い魔がいつもみすぼらしい格好をしてたら、わたしが恥かしいってだけなんだからね」

【一週間後の夜】
「誰もいないわよね」
 こんな所、誰かに見られたくない。
「じゃ、いきます」
 杖を構えて精神を集中させる。
 使い魔は明るい性格で、たちまち学院に馴染んだ。わたしにも友達が出来た。
 おっぱい悪魔は余計だけど。
 でも、最近、使い魔が主でわたしがそのオマケみたいな気がする。
 だから、魔法の練習をする。
 大丈夫、わたしはゼロなんかじゃ無い。
 『サモン・サーヴァント』も『コントラクト・サーヴァント』も成功した。
 千分の一でも、万分の一でも、成功した例があるかぎり、ゼロではない。
 それに平民が魔法を使おうとしても何も起こらないけど、わたしが使うと爆発する。これは普通では有り得ない事だ。おそらく魔法に使われる力の暴走、それは言い換えれば、こつさえ掴めばすぐに魔法を使える可能性があると言うこと。
 集中、集中 集中、集中、集中。
「今よ!」
 いままでに無い手ごたえ、これはいける。

 ……うぅ、ケホッ、ケホッ、なんで爆発するのよ。煤まみれじゃない、体洗いたい、それに着替えないと。
 あっ、壁に、見てない、わたしは壁に大穴なんて見てないわよ! 

 翌朝、大騒ぎになってた。
 宝物庫の壁が壊されて、秘宝の『破壊の杖』が盗まれたそうだ。
 わっわっわ、わたしのせいじゃないわよね?
 何、あんたたち、そんな所に集まって、盗み聞き?
「ばかもの! 王室なんぞに知らせている間にフーケは逃げてしまうわ! その上……、身にかかる火の粉を己で払えぬようで、何が貴族じゃ!
魔法学院の宝が盗まれた! これは魔法学院の問題じゃ! 当然我らで解決する!」
 そういって学院長が、捜索隊を募ってるけど。
「し、しかし、あの宝物庫の壁を破壊するなど、どう考えてもスクウェア、到底私たちには……」
 ……どうやら教師たちは、あの宝物庫に穴を開けるなんてってびびっているみたいだけど、たまたま不幸な事故で、ほんの少しだけ、ほんのちょっぴり、人が通れるくらいの穴はあいていたわけで。
 これチャンスじゃない? 
「おらんのか? おや? どうした! フーケを捕まえて、名をあげようと思う貴族はおらんのか!」
 宝物庫に飛び込むと、杖を学院長の前に掲げる。
「ミス・ヴァリエール!」
 教師たちが驚きの声を上げる。
「何をしているのです! あなたは生徒ではありませんか! ここは教師に任せて……」
「誰も掲げてないじゃないですか」
 ここで名を上げとけば、うふふ、もう誰も……。
 あれ、ちょっとキュルケ真似しないでよ。タバサも? 
 教師たちがごちゃごちゃ文句をいったけど、結局、わたしと使い魔、キュルケとタバサ、ミス・ロングビルで盗賊の隠れ家に行くことに決まった。

 ミス・ロングビルが御者を買って出た。
 キュルケが、彼女に話しかけている。
「よしなさいよ。昔のことを根掘り葉掘り聞くなんて」
 まったく、これだから成り上がりもののゲルマニア貴族は。
「暇だからおしゃべりしようと思っただけじゃないの」
「あんたのお国じゃどうか知りませんけど、聞かれたくないことを、無理やり聞き出そうとするのはトリステインじゃ恥ずべきことなのよ」
 キュルケは、舌打ちすると下品に足を組んだ。
「ったく……、あんたがカッコつけたおかげで、とばっちりよ。何が悲しくて、泥棒退治なんか……」
「とばっちり? あんたが自分で志願したんじゃないの」
「あんたが一人じゃ、ミハルが危険じゃないの。ねえ、ゼロのルイズ」
「どうしてよ?」
「いざ、盗賊が現れたら、あんたはどうせ逃げ出して後ろから見ているだけでしょ? ミハルを戦わせて自分は高みの見物。そうでしょ?」
 こいつ、何てこと言うのよ。
「誰が逃げるもんですか。わたしの魔法でなんとかしてみせるわ」
 そう、絶対に盗賊は、わたしが捕まえて見せる!

 そうこうしている間に、馬車が森の中に入っていった。
 薄暗くて気味が悪いわね。
「ここから先は、徒歩で行きましょう」
 ミス・ロングビルがそう言って、全員が馬車から降りた。
 森の小道をしばらく歩くと開けた場所に出た。
 元は木こり小屋だったのだろうか。確かに廃屋がある。
「わたくしの聞いた情報だと、あの中にいるという話です」
 ミス・ロングビルが廃屋を指差して言った。
 人が住んでいる気配は、まったくない。
 わたしたちは、ゆっくりと相談をし始めた。とにかく、あの中にいるのなら奇襲が一番よね。寝ていてくれたらなおさら。
 相談の結果、タバサの立てた作戦にしたがってミハルが中を確認することになった。
「誰もいないよー?」
 ちょっと、皆で小屋に入ってどうするのよ。わたしは外で見張るわ。
 ミス・ロングビルは辺りを偵察してきますと言って、森の中に消えた。

 それにしても、キュルケやけに使い魔と親しすぎない?
 青い髪のタバサとかいう子とも、もしかして、男だけじゃなくてそういう趣味も?
 まっまっま、まさか、あんなことや、こんなこと……そ、そんなことまでっ?
 ダメよ、ダメ、不許可よ! ツェルプストーに使い魔を寝取られたなんてことになったらご先祖様に申し訳がたたないわ!
 ■
 あれ、いまやけに視界が暗くならなかった?
「きゃああああああ!」
 ゴーレム! まさか盗賊の? そんな、こんな魔法が使える相手だなんて話が違うわよ!
 巨大なゴーレムが、いつのまにか現れ、小屋の屋根を吹き飛ばした。
 大丈夫! 自分を信じればきっと夢は適うんだ! 失敗でもいい、あの宝物庫の壁を壊した力なら!
 力が弾けた、だけど、それは、あの時の感覚とは比べ物にならないほど弱い。ゴーレムがこちらを振り向く。
 集中が甘かったようね、もう一度!
「逃げて! ルイズちゃん!」
 使い魔が、叫んでる。
「いやよ! あいつを捕まえれば、誰ももう、わたしをゼロのルイズと呼ばないでしょ!」
 ゴーレムは、迷うなそぶりを見せている。やる、やれる。
 キュルケが、タバサが、ミハルが、何か言っている。
 でも、もうそれは、わたしの耳には入らない!
 逃げたくないといったら嘘だ。でも、きっとこんなチャンスは二度とない、偶然とはいえ一度は起こせた爆発をもう一度、今、起こせれば!
 そう出来る、やれる可能性が1%でもあるなら、それを試さずに引いて後悔するなんて絶対に出来ない!
「わたしは貴族よ。魔法が使える者を、貴族と呼ぶんじゃないわ」
 杖を痛いほど握り締める。 
「敵に後ろを見せない者を、貴族と呼ぶのよ!」
 ゴーレムの足が持ち上がる。魔法を詠唱し、間に合わないっ。
 視界に、ゴレームの足が広がる。引き伸ばされた感覚の中、死がゆっくりと、降りてくる。

 突き飛ばされた。
 ミ、ハ、ル?
 突き飛ばされたわたしの目の前に血が広がっている。
 わたしの使い魔は平民だ。いえたとえ、メイジやエルフだって30メイルもあるゴーレムに踏み潰されて生きていられるとは思えない。
 死んでいる。間違いなく。
 ミハルは、馬車に轢かれたカエルみたいになって生きているような化け物じゃくて肉体的にはごく普通の人間だもの。
 ご主人様の言うことをちっとも聞かなくて、その癖、明るくて、憎めなくて、わたし、あなたに相応しい主なろうと、思って、それで……。
 何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何でこうなるのよっ!
 わたしが、わたしが殺したんだ。こんな任務、志願しなきゃ良かったんだ。
 視界がゆがんだ。
 ああ、わたしは今泣いているだなとここで初めて自覚する。
「ミハル……」
 返事は無い、永遠に。
 ゴーレムが再び、足を上げる。
 足の裏に、人の形をわずかにとどめた肉の塊がこびりついている。
 ミハル、わたしの使い魔、ごめんね。せめて、同じ死に方をするから許してね。
 ああ、キュルケが何か叫んでいる。

「ちょっとぉ、何ぼんやりしてんいるの! ボクが命がけで助けたんだからさっさと逃げなよ!」
 えっ?
 ミハル? ゴーレムの足にくっついているのは? 幻覚?
 おそるおそる伸ばした手は、すり抜けた、ああそうか、と思い至る。
 わたしとしたことが、完璧に失念していた。取り乱しすぎて、完膚なきまでに忘れていた。
 ……そういえば、この世界には、こういう奇跡があるってことを。

                   ☆

 あれから、もう二週間が立つことになる。
 わたしの使い魔、シラサキミハルがゴーレムに踏まれて死んでから。
 ……踏み潰されて死んだあと、幽霊になってから。

 あの後、盗賊(フーケとかいう奴だったらしい)は、幽霊になったミハルに驚いたのか、ゴーレムを操作せずに逃げていったみたい。
 足取りを掴むことは出来なかったけど、『破壊の杖』は小屋に置き忘れていったので、わたしたちは『シュヴァリエ』の爵位をもらった。
 タバサは何故か気絶、ミス・ロングビルも草むらで気絶して居る所を見つけた。そんなに怖いものなのかしらね。
 特にミス・ロングビルは、青い顔で何度も謝ってきた、別に引率者ってわけでもなかったんだから、そんなに責任を感じなくてもいいのに。
 秘書もやめて、田舎に帰るらしい。御札とか高価なお供え物を大量にもって来た。学院の秘書ってそんなに儲かるのかしら?



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