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第五部 第三話 『墜落』



 トリステイン艦隊は、戦う前から既に絶体絶命だった。
 まだ戦端は開かれていない。双方の騎士隊は、隊列を崩さず艦隊と共に、じわじわと間
合いを狭めていく。
 アルビオン艦隊53隻がひいた三列の横陣列。各列の数は右18、中央18,左17。
戦艦の数は右翼6、中央7、左翼5。それら艦列の間は通信が出来るギリギリまで広がっ
ていた。
 各艦列の後ろには焼き討ち船らしき古く小さい船が、最初各艦列後方に9隻ずつ存在す
る。そのうち中央艦列分は、全てトリスタニアの風上に墜落し、炎をまき散らして爆発し
た。


 ∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽

注 艦隊簡易展開図

   戦 戦艦
   ・ 小型船
   ○ 中型船

  トリステイン艦隊   メ:『メルカトール』号  イ:『イーグル』号

     戦戦戦戦イ・
   戦メ ・・・
 戦戦 ・・・
戦  ・・・
             戦         戦
   戦         戦         戦
   戦         戦         戦
 ・ 戦         レ         戦
 ・ 戦         戦         戦
 ・ 戦         戦         戦
 ・           戦          
 ・                     ・
 ・                     ・
   ・                   ・
   ・                   ・
   ・                   ・
                       ・
                       ・
                       ・
                       ・
   ○         ○         ○
   ○         ○         ○
   母                   巣

  アルビオン艦隊  レ:『レキシントン』号  母:『母竜』号  巣:『竜の巣』号


 ∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽



 そして中央列の真ん中には『レキシントン』号、右翼艦列の後ろに竜騎士専用艦『竜の
巣』号、左翼の後ろには同じく『母竜』号が控えている。加えて各艦列には、補給艦とお
ぼしき中型船2隻がいる。
 トリステイン艦隊は、一番戦艦が少ない左翼艦列を狙って進んでいた。縦一列に並ぶ縦
陣列が大きく左に回頭し、アルビオン左翼艦隊を包み込むようにすれ違おうとしている。

 戦艦だけなら、現時点で直接戦闘するのはアルビオン5に対しトリステイン10。圧倒
的数字だ。だが、アルビオン左翼艦隊周囲を、2隻の母艦から飛び立った80近い火竜騎
兵が、隊列を組んで飛び回っている。さらには20騎程が、いまだにアルビオン艦隊周囲
を警護していた。対するトリステイン側は首都警護竜騎士連隊所属竜騎兵にグリフォン・
マンティコア・ヒポグリフら衛士隊全騎を合わせても、半分程度しかない。
 そして、アルビオン側は残りの2艦列が控えている。
 彼等の眼下では、トリスタニアが火の海に飲み込まれつつあった。


「ひっ!怯むなぁ!!やつらは、例のガリア王宮の噂を信じ込み、あの艦列を崩す事が出
来ンのだ!」
 ラ・ラメー伯爵が、既に士気を挫かれかけていたトリステイン艦隊を鼓舞すべく、必死
の形相で叫ぶ。
「例え騎士の数で倍以上だとしても、艦艇数は今はこちらが二倍だ!砲撃と魔法で圧倒す
るのだぁっ!!
 全艦前進!!この一戦にトリステインの未来がかかっている事を忘れるな!」

 トリステイン艦隊は速度を上げ、アルビオン艦隊左翼へ大きく回り込む。
 後方の焼き討ち船も三隻が紅蓮の炎をまとい、アルビオン艦隊左翼へ放たれた。同時に
アルビオン左翼艦列からも三隻の焼き討ち船が、今度は本当にトリステイン艦隊へ向けて
打ち出された。

  ズドドドドドド・・・・

 双方の焼き討ち船が数隻、真ん中で衝突し轟音と共に粉々に砕け落下する。
 その破片と煙が未だ落ちきらぬ空に、騎兵達が殺到した。

 『エア・ハンマー』が、『ジャベリン』が、『ファイアーボール』が、煙を切り裂いて
ぶつかり合う。
 火竜のファイアブレスが、グリフォンを騎乗する騎士ごと焼き尽くす。
 マンティコアの爪が火竜の皮膜を切り裂く。
 落下していく木片と煙に視界を塞がれた火竜騎士達が、煙の合間から突然目の前に現れ
た相手に同時に気付く。双方の竜のブレスがぶつかり合い、『ブレイド(刃)』を付与さ
れた騎士達の杖が切り結ぶ。
 敵味方が入り乱れる空域のど真ん中で、突如煌めく光をまとった嵐が巻き起こる。『ア
イス・ストーム』だ。誰かが放った氷の嵐に、敵味方の区別無く付近の騎士達が巻き込ま
れ、切り刻まれ、吹き飛ばされた。

「左砲戦開始!撃てぇっ!」
 両艦隊の、全艦長が砲撃指示を叫んだ。
 双方の第一斉射が、敵めがけ鉄の塊を放つ。舷側に大穴が幾つも穿たれる。
 大きく扇形を描いていたトリステイン艦隊は、アルビオン左翼艦列の先頭に集中砲火を
放つ形となった。


「よしっ!敵先導艦、轟沈んっ!」
 フェヴィスは艦隊の集中砲火を受けた戦艦を満足げに見下ろした。その艦は一瞬で穴だ
らけになり、火を噴き砕け散り、高度を急激に下げていた。


「焼き討ち船っ!さらに来ますっ!!」
「くっ!?またかぁ!!こちらも放てぇっ!!」
 アルビオン左翼艦隊後方の2隻が再び、炎をまとって向かってきていた。トリステイン
側からも燃えさかる3隻が放たれる。
「面舵一杯!緊急回避!!」
 フェヴィス艦長の指示を受け、『メルカトール』号は船体を軋ませながら右へ回頭する。
他の艦もそれぞれに慌てて回避する。
「さっ!さらに焼き討ち船がぁ!?」
「くそぉ!!負けるな、撃ち返せぇ!!」
 フェヴィスの叫びを聞きながら、ラ・ラメー伯爵は艦隊をじっと見つめていた。
「艦列が・・・崩れる・・・」

 艦隊は、ある艦は前方を塞がれ、またある艦は右へ回頭しすぎてアルビオン艦隊へ背を
向けてしまっている。トリステイン艦隊の艦列は、歪み、曲がり、ちぎれ始めていた。
 もはや、アルビオン左翼艦列への集中砲火は困難な状態にある。
 対するアルビオン左翼艦列4隻は、反撃もせずに全速力で通り過ぎ、トリステイン艦隊
から離れようとしていた。トリステインが放った焼き討ち船は、虚しく何もない空間を通
り過ぎ、爆発する。『母竜』号と中型船2隻に至っては、とっくの昔に遙か遠くへ離れて
いる。

「あいつら・・・砲撃戦をしない!?」
 フェヴィスの言葉は、駆け寄ってきた部下からの報告にかき消された。
「大変ですっ!先ほどの焼き討ち船が・・・艦隊中央へ向かって…いえ、こちらを追跡し
てきますっ!」
「ばっ!!バカなぁ!?自爆する船を操船するやつなんて、いるはずが!!」
 叫んだフェヴィスがいる旗艦『メルカトール』号に向かって、報告された焼き討ち船が
疾走してきていた。
「取り舵一杯!かわせえっ!!」

 先ほどまで右に回頭していた『メルカトール』号が、今度は急激に左へ舵を切る。遠心
力で甲板上も船内も、全ての人と物が右側へ飛ばされていく。船体もきしみをあげ、四方
八方からミシミシという音が鳴り響く。
 焼き討ち船は『メルカトール』号の限界を超えた急旋回についていけず、大きく距離を
開けられた。
 その時、ラ・ラメーもフェヴィスも、焼き討ち船を見る事が出来る全ての人物が、燃え
る船を操船する人影達を見ていた。それらは、自らの体に火がついている事を全く意に介
さずに、平然と『メルカトール』号へ船を向けようとしている。
 甲板上で、その船員達を見たマリコルヌが、ガタガタ震えながら呟いた。
「・・・ガーゴイルだぁ・・・」
 次の瞬間、焼き討ち船が大爆発した。



 中央艦列の最前列で、シェフィールドが遠くの空の『メルカトール』号と焼き討ち船を
見つめていた。『メルカトール』号はギリギリの所で爆発をかわし、体勢を立て直そうと
している。
「ちぃ、船の方が保たなかったわ。おしいわねぇ」
 シェフィールドの額には、ルーン文字が輝いていた。

 シェフィールドの視界には、焼き討ち船を逃れたトリステイン艦隊に、アルビオンの竜
騎士が群がるのが見えた。
 既にトリステイン側の騎士は、ほぼ壊滅していた。そしてアルビオン側の騎士は、未だ
70騎以上が残っている。その数をほとんど減らしていない。そして残存した僅かなトリ
ステインの騎士を無視し、新たな獲物として戦列艦を狙いに定めていた。


「ま、後は竜騎士で十分。さて・・・そろそろかしら」
 そう呟くとシェフィールドは色つきメガネをかけ、太陽を見上げる。そして、ニヤリと
口の端を釣り上げた。
 足下に置いていた大きな鞄からマントを取り出し、黒のローブの上からさらに被る。マ
ントは周囲の風景を見事に映し出し、シェフィールドの姿を隠した――マジックアイテム
『不可視のマント』だ。
「さぁ、この布陣を相手に、どこまでやれるかしら!」
 姿を消したシェフィールドの声は、青空の中に消えていった。




「ふははっははっ!!見ろ、圧倒的ではないか我が艦隊は!?あはっはあははっ!!」
 サー・ジョンストンがトリステイン艦隊へ群がる竜騎士隊を指さし、顎が外れそうなほ
どに笑っている。
「小型高機動大火力の竜騎兵部隊による急襲、魔法人形による自爆攻撃。新しい戦争の形
ですな」
 いつも冷静なボーウッドも、珍しく余裕の笑みを浮かべている。

 二人とも、竜騎士がトリステイン艦隊に襲いかかる姿を思い浮かべていた。事実、火竜
の群れが、散り散りになった艦隊に向けて頭を向けていた。そして、ばらけた各艦の甲板
では、もはや死を覚悟したメイジ達が杖を振り上げようともしていた。


 だが、その全てが、止まった。


 トリステイン艦隊甲板上の全ての人間が、アルビオンの竜騎士全てが、逃走していた左
翼艦隊始め、アルビオン艦隊甲板上の全ての人間が、一瞬動きを止めた。
 彼等は皆、太陽を見上げている。


「なっ!?なんだ??いきなり、どうしたのだ!??」
 驚愕し動揺するサー・ジョンストンのもとへ、甲板から士官が駆けてきた。その報告を
隣で聞いたボーウッドも、「来たか…」というつぶやきと共に、天井を見上げた。
 サー・ジョンストンは窓に駆け寄り、太陽を見上げる。

 正しくは、頭上の太陽の方から鳴り響く、轟音の方を。
 太陽の中には、小さな黒い点があった。轟音を青空に響かせる、ゼロ戦が。




「チャンスは一度!すれ違いざまにぶっ放せぇっ!!」
「オーケーッ!!竜は任せたわよっ!!」
操縦席ではジュンと、席の後ろで杖を構えるルイズが、ゴーグルとキャノピー越しにア
ルビオン艦隊を視界に収めた。

 ルイズ達が乗る零式艦上戦闘機五二甲型の降下制限速度は700km/h以上。ジュンは学
院の滑走路離陸直後から、ゼロ戦を飛行上限高度である約1万メイル近くまで上昇させ、
中央艦列の中でも一際大きい戦艦『レキシントン』号へ向けて、一直線に急降下させてい
た。
 機体が耐えうる限界速度ギリギリを維持しつつ、ゼロ戦のジュラルミン製主翼が空気を
切り裂く音が、空域全てに響き渡っている。空気抵抗に全幅11mの翼が振動し続けてい
た。


「艦隊ど真ん中の、一番でっかい戦艦ですねぇ!?あれが旗艦に間違いないですぅ!!」
「そうね!でも、やはり竜騎兵が守ってるわね!?」
 真紅と翠星石もルイズと共に、アルビオン艦隊の旗艦の位置を見定める。
「来るぞ!ジュン、竜騎士20…ありゃ、全部、風竜だ!どうやらこりゃ、読まれてたら
しいぜ!」
「上等ぉっ!」
 デルフリンガーの言葉を聞いてもジュンは、ゼロ戦の速度を落とすことなく急降下を続
ける――『レキシントン』号へ向けて、一直線に。

 トリステイン艦隊に向かわず、滞空し続けていた竜騎士達が、太陽を背にして飛来する
鉄の鳥を見定めた。騎士達は『ファイアボール』『エア・スピアー』等のルーンを唱えだ
す。騎乗する風竜を急上昇させ、ゼロ戦を迎撃すべく4騎編成で5部隊に分かれ、網を広
げるように広く展開していった。ゼロ戦を、ボールの内側ど真ん中に誘い込むように各騎
が横に広がる。

 アルビオンの火竜騎士達も、甲板上でガタガタ震えながらも杖を構えていたマリコルヌ
も、大急ぎで散弾を大砲に詰めようとしてた砲手達も、操船していた平民の海尉達も、乗
り手の異変に気付いた火竜達までもが、上空を見上げていた。
 十字形に展開した風竜騎士隊5部隊のど真ん中へ、迷わず突っ込もうとする鉄の鳥を。


 ジュンの視界にも竜騎士隊は見えている。恐るべき速さで距離が縮まっていく。

   ――風竜並みに早いゼロ戦相手だから、風竜を揃えてきたのか
    上方を取られた不利も、数で包囲し魔法の一斉集中砲火で補う気だな
    真紅の薔薇や翠星石の水に対応するため、炎や風の魔法を使ってくるか――
「でも、これは知らなかったろ…まだ使った事ないんだから!」

 ジュンの左手は、スロットルレバーの発射把柄を握りこんだ。
 魔法の射程の遙か遙か前で、翼内の九九式20mm機銃が火を噴く。
 ゼロ戦の進路一杯に広がりつつある風竜騎士達へ、初速750m/sの巨大な機銃弾がばら
まかれた。


 アルビオンもトリステインも、両艦隊の全ての人々が見た。
 鉄の翼から噴きだす火を。
 翼や胴体に大穴を開けて墜落する風竜を。
 杖にまとわせた魔法を放つ機会すら与えられず、虚しく肉塊と血しぶきをまき散らす騎
士達の最期を。
 展開する途中だった風竜騎士の編隊が描くボールの、内側に開いた穴を。その穴が、ど
んどん大きくなって行く光景を。
 ほんの一瞬で、風竜騎士隊が壊滅する姿を。
 落下する騎士と風竜の死体の間をすり抜けたゼロ戦が、宙に舞った血と肉片を弾きなが
ら空を貫く―――

 撃ち漏らされた数騎の竜騎士が我に返り、慌てて魔法を放つが、もう遅かった。ゼロ戦
を追って急降下しようともしたが、急降下してきたゼロ戦の速度に、今から降下を始めて
も間に合わない。

「20mm機銃終了ぉ!7.7mmぃっ!!」
 ジュンが覗いている98式射爆照準器、その両横には操縦席内に突き出た機首7.7mm
機銃が2挺ある。威力は小銃の弾とほとんど変わらないものの、携行弾数が各700発も
ある。
 その7.7mm機銃が『レキシントン』号へ向けて火を噴いた。甲板上にいた船員が、杖
を構えていたメイジ達が、風を受けてふくらむ大きな帆が、容赦のない銃弾の雨に晒され
た。ある者は脳髄をまき散らして絶命し、またある者は撃ち抜かれた足を引きずって逃げ
まどう。


 ゼロ戦はついに、『エクスプロージョン』射程範囲に『レキシントン』号を捕らえて
いた。

「開けてぇっ!」「行きなさいっ!!」「ぶぅっとばすですぅっ!!」
 ルイズのかけ声に、真紅と翠星石がキャノピーを開け放つ。荒れ狂う強風が機体内に飛
び込んでくる。
 それでもルイズは、『レキシントン』号へ杖を向ける!
「いけやあーっ!!」
 デルフリンガーの叫びと共に、『虚無』が放たれた。


  「『エクスプロージョン』ッ!!!」


 光の玉が現れた。


 まるで小型の太陽のような光を放つ、その球は膨れあがる。
 そして、『レキシントン』号を包んだ。その前後に並んでいた計6隻の戦列艦も、膨れ
あがる光に音もなく飲み込まれていく。
 光が晴れた後、艦隊は炎上していた。巨艦『レキシントン』号を筆頭に、全ての艦の帆
が、甲板が燃えていた。加えて艦内の風石が消滅してしまった。
 がくりと艦首を落とし、地面に向かって墜落していく。



「『レキシントン』号、が・・・沈む・・・」
 『メルカトール』号では、フェヴィスが光に魅入られていた。

「まさか・・・『ゼロ』の噂は本当だったのか!?」
 ラ・ラメーの口は、顎が外れそうなほどあんぐりと開きっぱなしだ。

「はは・・・ははははっ!『ロイヤル・ソヴリン』号が、艦列ごと墜ちていく!
 さすがだよ!『ゼロ』は、ミス・ヴァリエール達は!!僕をニューカッスルで助け出し
た君達だったが…これほどとは!!」
 『イーグル』号でもウェールズが、炎上するトリスタニアの煙を切り裂くゼロ戦を見つ
めている。

「竜騎士が・・・離れていく・・・スティックス、助かったみたいだ、よぉ」
 頭から血を流して甲板に尻餅をついていたマリコルヌが、それでも離していない杖の先
をぼんやりと眺めている。
「か、勝った?勝った・・・のか!?」
 マリコルヌの隣で膝をつく、スティックスと呼ばれた額に火傷痕のある若者が『母竜』
号へ戻っていく火竜達を見て叫んだ。

 トリステイン艦隊から、嵐のような雄叫びが湧き起こった。




 急降下をしていたゼロ戦は機首を上げ、街の上ギリギリで機体を水平に戻す。あまりに
速度が出ていたため、舵面が受ける風の抵抗が凄まじい。昇降舵につながる操縦索が限界
近くまで伸び、きしみを上げる。
 急降下によって得た速度を使って上昇に転じたゼロ戦は、ようやく艦隊と同一の高度ま
で戻った。巡航速度(約時速250km)を維持しながら旋回するゼロ戦のキャノピーか
ら、ルイズ達は『エクスプロージョン』の光と、その後炎上し墜落する7隻の戦艦を見つ
めていた。
 だがルイズとジュンは、同時に言葉を発した。

「弱い・・・」「・・・小さい」

「どうしたですかぁ?ルイズさん」
「え?えとね、スイ。あのね、『プチ・トロワ』を吹き飛ばした時のヤツ…あれより、今
のは、なんだか弱いなって」
 ルイズの言葉に、ジュンも頷く。
「多分、あれだよ。精神力の溜まり具合だ。この前のはかなり手加減したそうだけど、そ
れでもかなり減ってたんだよ」
 ジュンの予想に真紅も頷いた。
「恐らくそうでしょうね。でも、旗艦含めて戦艦7隻を撃沈したわ。これで指揮は混乱し
て、士気も挫かれるでしょうね」
「・・・?えっと・・・あれ??」

 眉をひそめながら炎上墜落する艦隊を見つめるジュンに、デルフリンガーが怪訝そうに
声をかけた。
「なんだよ、ジュンよ。何か気にくわない事でもあんのかぁ?」
「うん・・・あの『レキシントン』号以外の戦艦、妙に小さくない?それに、向こうの船
が、なんか・・・」

 ジュンの疑問に、皆もキャノピーから炎上落下する艦隊を改めて見つめる。
 それは、確かに小さかった。戦艦である事は間違いないが、どちらかというと小型で、
少々古ぼけてるようにも見える。

「確かに…小さい、ですぅ?」
「あら、どうもその通りみたいね。あれは、多分、戦列艦の中でも小さくて古い船を、集
め、て・・・」

 真紅のとぎれる言葉を聞き、ジュンの背に冷たい汗が幾筋も走る。その視線は彼方の艦
列を見つめる。
 今まで、全く動いていないアルビオン右翼艦列を。


「・・・ま、さか・・・そんな、しまった!やられたぁーっ!!!」


 ジュンの絶叫がキャノピーに響いた。真紅も驚愕を隠せない。
「そんなっ!?あんな巨大戦艦を囮にしたって言うの!?」
「な!?なんなの!??ジュンもシンクも、どういう事よ!」

 ルイズに問われたジュンも真紅も、唇を噛んだまま言葉を繋ぐ事が出来ない。代わりに
答えたのは、わなわなと震える翠星石だった。

「あ、あれは、狙った船は・・・エサですぅ。まさか、あたし達のためだけに、ここまで
するですかぁ・・・」
「本当の旗艦は・・・『レキシントン』号じゃ、ない!旗艦は、あの船だっ!!」

 ジュンが睨み付けるその先には、アルビオン右翼戦艦列の後ろにいる、武装のない巨大
な船があった―――『竜の巣』号だ。

「うあああ、お、おでれーたぁああ!騙されたあーっ!」
 デルフリンガーの言葉は、虚しくエンジン音にかき消された。




「敵魔法・・・次弾、来ません!鉄の鳥は、トリステイン艦隊と同一高度を保ったまま旋
回を続けています!」
「やったぞっ!成功だ!やつら、精神力が尽きたのだ!!」
 士官からの報告を受けたサー・ジョンストンは、拳を振り上げて興奮していた。隣にい
るボーウッドも小さくガッツポーズを取っている。
「よし、もはや偽装の必要はない。信号旗をあげよ、伝令を飛ばせ。二番艦隊に至急連絡
を取り、被害状況を確認するんだ」

 『竜の巣』号のマストには、数々のはためく信号旗があげられた。
 甲板からも他の艦艇に向け手旗信号が送られる。
 信号が届かないほど遠くにいる左翼艦列の残存艦――戦列艦4隻と『母竜』号、武装の
ない中型船2隻と小型船3隻――へは、伝令用カラス型ガーゴイルが何羽も放たれる。
 今や『竜の巣』号は、アルビオン艦隊旗艦として司令塔機能を堂々と現した。


「シェフィールド、戻りました」
「うむ、伝令役ご苦労」
 『竜の巣』号の艦橋で、ボーウッドが声の方を振り向くと、誰もいなかった。
「・・・いい加減、マントをとりたまえ」
「あら、失礼しました」
 ボーウッドの目の前の、何もない空間から、いきなり黒ローブをまとった女性の上半身
が現れた。『不可視のマント』を外したシェフィールドだ。
 サー・ジョンストンがいきなりシェフィールドに駆け寄り、その手を握りしめてブンブ
ン振りまわす。
「いやー!見事だ、全てが作戦通りだよ!!閣下の知謀には本当に感服しましたぞ!この
サー・ジョンストン、閣下の部下として、鼻が高い!!」
「賭には勝ちましたな。ですが、まだ作戦途中です。『レキシントン』号と二番艦隊の状
況を確認しませんと」
「う、うむ、そうだった。そうだったな・・・で、どうだったね?」

 ボーウッドに制されたサー・ジョンストンが尋ねると同時に、ガーゴイルの伝書カラス
を手に持った士官が飛んできた。士官はカラスの首をパカッと開け、中の紙片を読み上げ
る。

「ホーキンス将軍より、被害報告です!
 『レキシントン』号以下、二番艦隊に人的損害…死者無し!不時着時の軽傷者数名のみ
です!風石が消失し、帆と甲板が炎上したものの、不時着と艦からの待避に成功!全陸戦
隊、進軍命令を待つ!
 以上でありますっ!!」

「・・・ぃやったあーー!!降下作戦成功だあーーー!!
サー・ジョンストンは、拳を握りしめて両腕を振り上げた。
「同じだっ!城まで吹き飛ばされながら、全く死人を出さなかったヴェルサルテイル宮殿
と同じだよっ!!
 やつらの致命的弱点、『殺しを嫌う、経験不足の子供』・・・風竜騎士隊が壊滅した時
は誤情報かとヒヤヒヤしたが、まさか、本当に、大当たりだ!!しかも今回は、武具まで
無傷ときたもんだっっ!!」
「し、信じられませんな・・・ここまで上手く行くとは・・・恐るべきは、レコン・キス
タの情報網です。ガリア王宮から、たった数日で、ここまで正確で有益な情報をもたらす
とは・・・」
「いいやいやいやいやいやっ!真に素晴らしいのは閣下の頭脳だよっ!
 ミス・シェフィールド!今回の作戦、このサー・ジョンストンが見事やり遂げた事、是
非閣下に伝えてくれたまえよっ!」
「承知致しました」
 シェフィールドは、ただ旗艦の椅子に座って震えていただけの男に、ニッコリと微笑み
かけた。


「えー、オホン」
 ボーウッドが、我を忘れてはしゃぎまわる艦隊司令長官兼トリステイン侵攻軍総指揮官
の横で、わざとらしく咳払いをした。
「ともかく、まだ上陸が成功しただけです。すぐに残存艦隊と竜騎士の再編成、さらに浮
遊砲台への偽装解除と陸戦隊援護指示を」
「おお、そうだったそうだった。ありがとう・・・えー、コホン!
 トリステイン侵攻作戦、これより第2段階に入る。
 全戦艦に通達!これより、一番艦隊は三番艦隊と合流し再編成を行う!しかる後にトリ
ステイン艦隊を討ち滅ぼせっ!!
 浮遊砲台1番から9番まで全て偽装解除!『竜の巣』号と共に陸戦隊上空へ降下し、陸
戦隊を援護せよ!
 竜騎士隊は、再編成終了まで艦隊周辺にて敵艦隊を牽制するんだ!」

 鼻高々で胸を反らす上司を見て、ボーウッドは呆れつつも高揚感を隠せない。つい興奮
して独り言を口にしてしまう。
「まったく・・・『あの巨艦を気前よくエサにしてしまうとは、なにを勘違いしたのか』
と思っていたが・・・。まぁ、砲艦外交や大艦巨砲主義の時代も終わるようだし、その象
徴としてはいいかもな」
 そんなボーウッドの視界には、トリステイン艦隊から離れてきた左翼艦隊の『母竜』号
が映っていた。




 トリステイン艦隊の人々は、愕然としていた。
 右翼戦艦列後方にいた、巨大輸送艦と思われていた船が次々と信号旗をあげる。甲板で
は手旗手が旗を振り回し、他の艦に指令を送る。幾つもの鳥のようなものが、左翼艦隊へ
向けて放たれる。
 撃墜したはずの艦が、無事に不時着。まだ焼けてない通りや広場の中に、次々と槍や剣
を手にした完全武装の兵士達が降りてくる。その数、3000以上。しかも更に降りてく
る。
 右翼艦隊後方の、焼き討ち船だと思われていたボロ船の舷側にポコポコと穴が開く。蓋
を外して出来た穴に、にゅっと大砲がつきだした。小型の民間船を改造したらしい9隻の
船は、片側に5~10の大砲を備えた浮遊砲台として、真の旗艦に続く。
 そして右翼艦隊後方にいる中型船2隻からは、多くのメイジを乗せた頑丈そうなボート
が発進していく。囮である戦艦列から離れていた、陸戦隊所属のメイジ達が乗った強襲降
下艇だ。
 左翼艦列の残った戦艦4隻含め9隻と、右翼艦列の戦艦6隻、そして中央艦列の最後尾
にいたため『エクスプロージョン』に巻き込まれなかった補給船2隻が集結していく。そ
の周囲を70騎以上の火竜騎士が旋回し、艦隊の再編成を守っている。


 『メルカトール』号でも、フェヴィスがアルビオン艦隊の動きを凝視していた。
「まさか、やつら・・・まだ、やる気なのか?戦艦の1/3以上を、一瞬で失ったという
のにっ!?」
 隣のラ・ラメーが指示を飛ばし、航海士官達が様々な報告をかき集める。うち一人の士
官が二人の前に進み出る。
「艦隊の被害状況、報告します!
 大破ゼロ、中破2、小破5!いくつかの艦に、火竜のブレスなどによる小規模の火災が
発生していましたが、既に鎮火しています!艦隊の戦死者、いまだゼロです!
 で、・・・ですが、その、竜騎士隊、グリフォン隊…あの・・・」
 ラ・ラメーは、青ざめてはいるものの、落ち着いた瞳を士官に向ける。
「はっきり、全滅と言え」
「は・・・はい、申し訳ありません」
「構わん。再編成を急がせろ」


 そしてその隣では、フェヴィスも敵艦隊に関する報告を受けていた。
「そうか・・・あの艦列は、上陸部隊が詰め込まれていたのか。旧式の小型艦6隻と最新
鋭の巨艦を使ってか・・・あの使い魔達を相手にするためだけに、よくやるよ。
 陸戦隊を援護するのは、民間船を改造した浮遊砲台9隻だな。
 そして我らの目の前には、未だ無傷の戦艦10隻に、竜騎士75騎、というわけだ」
 そう呟くフェヴィスが火竜騎士の群れを見つめていると、その一部、10騎以上が地上
へ降下していった。
「地上の援護に割いたか。全く、我らもなめられきったものだ」


 『イーグル』号でも、ウェールズが同じ報告を受けていた。
「パリー、やはり奇跡とは、そうそう起こる物ではないな」
「さようでございますな。とはいえ、ニューカッスル城で5万の敵に囲まれるのに比べる
と、少々物足りなく感じますぞ」
「はは!全くだな。これからが本番、というだけの話だっ!」
 『イーグル』号は再び、艦列を整えたトリステイン艦隊の最後尾に並んだ。




 ルイズ達はゼロ戦を旋回させながら、ゼロ戦から艦隊と地上を見続けていた。
 ジュンはルーンの力で読み取った機体の状態を、皆に告げる。
「機体は、大丈夫。全くの無傷だよ。機銃は、20mmはゼロだけど、機首の7.7mmなら
両方合わせて1000以上残ってる。燃料も、十分ある」

 ジュンはそれ以上、何も言わない。真紅と翠星石がルイズを見つめる。

「ルイズさん・・・どう、するですかぁ?」
「ど、どうするって・・・スイ・・・」
 翠星石に問われて、ルイズは困惑する。デルフリンガーが言葉を続けた。
「娘ッコよぉ、お前さんにゃあ、3つの選択肢があるのさ。
 一つは、艦隊と戦う。つっても、相手は竜騎士60騎以上と戦艦の砲弾だろうよ。
 一つは、地上に向かった小型船と竜騎士を潰す。ああ、この場合トリステイン艦隊は全
滅だなぁ。
 そして、最後の一つは・・・こいつは、剣の俺としちゃ、言いたくねえや」
「帰る、という選択ね」

 デルフリンガーが言わなかった言葉を、真紅が代わりに語る。

「あたし達は、もう十分な戦果を上げたわ。戦艦7隻に竜騎士20騎。敵に読まれていた
とはいえ、それでも大損害を与えた事に間違いないの。そして私達がやるべきは、戦場に
出るあなたを守る事。
 あなたの魔力が尽きたなら、もう戦えないなら、私達はあなたを安全な場所へ送るわ」
「・・・あの、でも、あれは、軍隊が沢山降りてきて・・・」
「『エクスプロージョン』って、狙えるのは物体だけ?人体には影響がでない魔法なのか
しら?」
「・・・ち、違うの!その、あたし、殺すことはないかと・・・船だけ・・・」
「それこそ、彼等の思う壺だったわけだわね。・・・ガリア王に『エクスプロージョン』
を見られたのが失敗だったわ」
「だ!だって!」
「ねぇ、ルイズ。ジュンは立ちふさがった竜騎士を、みんな殺したわ。あなたのために、
ね。あなたには、その覚悟は無かったの?」
「もう…よせよ、真紅」

 真紅の容赦のない言葉に、ジュンが眉をしかめて後ろを振り返る。
 だが真紅の言葉は止まらない。

「いいえ、ジュン、言わせて。
 ルイズ。魔法に目覚めたあなたを、『ゼロ』とバカにする人は、もはやいなくなるわ。
ヴァリエールの名に恥じない貴族になったと、褒め称えられるでしょう。もう十分ではな
いかしら?
 あたし達も、これ以上の危険を冒してまで、トリステインに義理立てする必要は無くっ
てよ」
「あ、あたし、あたしは・・・」

 ゼロ戦の座席後部、狭い空間の中でルイズは迷っている。唇を噛み締め、拳を握りしめ
て。
 うわごとのように、とりとめなく言葉を口にする。

「このままじゃ、トリステインは、負けて・・・でも、あたし、魔力使い切って、いくら
なんでも、あんな沢山の竜騎士なんか、相手には、だって、あたしだって、みんなも、死
んで欲しくなんか、名誉は、そりゃ、貴族だけど、みんなは、戦う理由が無いし・・・」


「あるさ。少なくとも、僕が戦う理由は、ある」

 その言葉に、真紅も翠星石も操縦席のジュンを凝視した。
 ルイズが、恐る恐るジュンに尋ねる。
「ジュン・・・戦って、くれるの?・・・どうして!?」
「それはね・・・えと、う~んっと・・・ああ、あれだよ」

 操縦桿が倒され、ゼロ戦は進路を変えた。
 トリステイン艦隊へ向けて。

「中途半端は、イヤだから」




 ゼロ戦は、再編成を終えて再びアルビオン艦隊へと向かおうとしていたトリステイン艦
隊の上を旋回し始める。
 その姿は、トリステインの人々を勇気づけるに十分な物だった。

「見ろよマリコルヌ!あいつら、俺たちを守ってくれるらしいぞっ!」
 スティックスがバンバンとマリコルヌの肩を叩き、ゼロ戦を指さす。
「すげぇ、や。あいつら、まだやるんだ、まだ、やれるんだ…俺たち、勝てる!?生き残
れるんだぁっ!」
 トリステイン全艦から、再び歓喜の叫びが湧き起こった。


 ジュンは、すまなそうに後ろを振り返る。
「ごめんな。真紅、翠星石・・・こっからは僕一人でいいよ。お前等はルイズさんを連れ
て」
「バカを言わないで、ジュン」「そーですそーです!おまえ一人で、戦えるわけがねーで
すよぉっ!」
 真紅も翠星石も、怒るどころか微笑んでいた。
「いいのか?二人とも、これはアリスゲームと無関係な戦いだぞ」
「その通りよ。でも、もはや、あたし達自身と無関係じゃないの。何より、ジュンが戦う
時は、私達も戦う時よ」
「何度も言わせるなですぅっ!ルイズさんだって、学院のメイドさん達だって、みんな大
事な友達ですぅ!戦いはイヤですけどぉ・・・でも、もう、ここまできたら、引き下がれ
んですぅっ!」

 紅と緑の光に包まれた二人はキャノピーを再び開け放つ。真紅は右の翼に、翠星石は左
の翼に、強風をものともせず片膝をついて取り付いた。


 荒れ狂う風の中、大声で言葉を交わし合うジュン達に、ルイズは言葉もなく涙を流して
いた。
「お前さん、いい友達を持ったなぁ」
 デルフリンガーの言葉に、ルイズはただただ何度も頷く。


 真紅の手から湧きだした薔薇が、竜巻の如く火竜騎士の群れへ襲いかかる。
 火竜がブレスを一斉放射、紅の竜巻を焼き尽くしていく。
 灰となる花びらが舞う空。たった一機のゼロ戦が、60騎以上の火竜騎士の群れに、迷
わず突っ込んでいく。
 これを合図に、アルビオン・トリステイン両艦隊の砲撃戦が始まった。




―――トリステイン魔法学院、学長室

『・・・ザザ・・・右から3騎だっ!ひねりこ・・・やばっ、弾が・・・ザザザ・・
 『イーグル』号が襲われ・・・あれ?・・・あの時の、海賊船じゃ・・・
 ・・・ブレスが・・・ザザ・・・ザ・・翠星・・・!ふぅ・・ザザザ・・・
 ・・上だっ!・・・ホーリ・・・薔薇でけんせ・・・ッザザザ・・・』

 学院長の机の上に置かれた、トランシーバー。
 雑音混じりで、ゼロ戦の通信機から届く音声が流れ続けている。
 その部屋には、いや、廊下にまで人が詰めかけている。
 オスマンが、コルベールが、アニエスが、タバサが、キュルケが、モンモランシーが、
ケティが、ローラが、シエスタが・・・。学院に残るほとんどの人が、トランシーバーか
ら流れるゼロ戦の様子に耳を澄ませ、ひざまずいて祈り、声援を送っていた。


 じっと黙って聞いていたタバサが、すぅっと部屋から出て行く姿など、誰も気にとめな
い。皆、固唾を呑んで戦況に聞き入っている。
 学院長室を出ようとするタバサの肩を、キュルケが掴んだ。
「ダメよ、タバサ。あなたが行けば、ガリア王家が」
「彼等は、あたしの希望」
 タバサは振り向きもせず、ただ前へ進もうとする。
「それでもダメ、ダメよ。彼等のために、行ってはいけないわ」
「行かせて」

 タバサは、キュルケに杖を向ける。その目に、なんの迷いも恐れも無い。
 キュルケは、もはや何も言わない。黙って杖を抜いた。

 その時、トランシーバーから、悲鳴が響いた。
『ザザ・・翼からっ!散弾が・・・ダメ、間に合わな、ザザザ・・・墜ちるぅ!・・・』


 トランシーバーからは、雑音が流れた。

 オスマンが震える手でトランシーバーを持ち上げ、軽く叩いてみる。
 コルベールが、恐る恐るダイヤルをいじってみる。
 それでも、トランシーバーからは雑音しか流れなかった。

 キュルケも、タバサも、アニエスも、誰も彼もが動けなかった。
 ただ沈黙だけが、部屋を覆っていた。

            第3話     墜落    END


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