キュルケは手の甲で頬をぬぐい顔を上げる。
その二つ名の微熱よりさらに熱い物を宿らせた目でゴーレムの肩から見下ろすフーケを睨んだ。
「あなた、ただじゃおかないわよ。覚悟しなさい」
「はっ、それはこっちの台詞だよ。すぐに後を追わせてやるさ」
フーケはゴーレムの腕をキュルケの頭上に上げる。
それが振り下ろされればキュルケの体がどうなるか。
「キュルケ!潰されてしまうじゃないか!逃げるんだ!勝てるわけがない!」
いつのまにか岩陰に隠れていたギーシュが叫ぶ。
「そういうわけにはいかないのよ!」
キュルケは呪文と共に杖を振る。
唱えた魔法はフレイム・ボール。
猛るキュルケの心が魔法の力を強めたのか、一度に数個の火球が生まれた。
「行けっ」
全ての火球に殺到されもフーケは動かない。
「馬鹿だね」
ゴーレムの腕が大きさからは考えられないほど素早く火球を捕らえる。
目標を追い続ける火球も潰されてしまってはそれ以上は飛べない。
ゴーレムの腕に小さい焦げ跡を作っただけだ。
「さあ、つぶれちまいな」
ゴーレムが腕がキュルケに迫る。
「逃げろーーーー!」
ギーシュの再びの叫びも聞かず、キュルケはもう一度唱える。
「炎」そしてもう1つ「炎」さらにもう1つ……
だが、時間が足りない。
最後を組み合わせる前にゴーレムの拳はキュルケの目前にまで迫った。
その二つ名の微熱よりさらに熱い物を宿らせた目でゴーレムの肩から見下ろすフーケを睨んだ。
「あなた、ただじゃおかないわよ。覚悟しなさい」
「はっ、それはこっちの台詞だよ。すぐに後を追わせてやるさ」
フーケはゴーレムの腕をキュルケの頭上に上げる。
それが振り下ろされればキュルケの体がどうなるか。
「キュルケ!潰されてしまうじゃないか!逃げるんだ!勝てるわけがない!」
いつのまにか岩陰に隠れていたギーシュが叫ぶ。
「そういうわけにはいかないのよ!」
キュルケは呪文と共に杖を振る。
唱えた魔法はフレイム・ボール。
猛るキュルケの心が魔法の力を強めたのか、一度に数個の火球が生まれた。
「行けっ」
全ての火球に殺到されもフーケは動かない。
「馬鹿だね」
ゴーレムの腕が大きさからは考えられないほど素早く火球を捕らえる。
目標を追い続ける火球も潰されてしまってはそれ以上は飛べない。
ゴーレムの腕に小さい焦げ跡を作っただけだ。
「さあ、つぶれちまいな」
ゴーレムが腕がキュルケに迫る。
「逃げろーーーー!」
ギーシュの再びの叫びも聞かず、キュルケはもう一度唱える。
「炎」そしてもう1つ「炎」さらにもう1つ……
だが、時間が足りない。
最後を組み合わせる前にゴーレムの拳はキュルケの目前にまで迫った。
キュルケの体が横に飛ばされた。
ゴーレムの腕は上から落ちてきていた。横に飛ばされるはずがない。
その証拠にキュルケは今、地面にめり込むゴーレムの拳を見ていた。
「もう、せっかく助けてもらったのに危ないことしたらだめなのね。びっくりしたのね」
見知らぬ青い長髪の女が側で頬をぷっくり膨らませて怒っていた。
キュルケより年上のようにも見えるが、仕草が子供っぽく見える変な女だ。
だが、その青い髪の色にキュルケはどこか見覚えがあるような気がした。
「あなた……だれよ?」
キュルケはとりあえずその質問をした。
何か、明確な意図があったわけではない。
突然現れて、助けてくれた青髪の女に他に聞くことがなかったのだ。
「私?私はイル……」
突如、青髪の女は頭を抱える。
なんというか、主人に怒られた使い魔のような感じだ。
「違うのね、私はイルなんて名前じゃないのね。えとえと。そう、私はシル……」
また女は頭を抱える。
いきなり、頭を振ったりして変な女だ。
「違うのね、私はシルなんて名前じゃないのね。えとえと。そう、私はアルフなのね。アルフ!」
「そ、そう」
犬みたいな名前だ。
とても怪しいが、青髪の女はすごくいいことをしたように満足した顔つきをしているので、キュルケは追求する気にはなれない。
そこでキュルケははっと気づいた。
こんな事をしている場合ではないのだ。
キュルケは駆け出そうとしたが、青髪の女に襟首を捕まれて止められてしまう。
「だから、やめるのね」
「やめれるわけ無いでしょ!あの女、タバサをどうしたと思うの?」
「どうもなってないのね」
「え?」
キュルケは足を止めて女の顔を見る。
世間話をしているような顔で女は続けた。
「タバサって言うナマイキでいけ好かないチビガキならお姉様が助けたのね」
「お姉様?」
「あそこなのね」
青い髪の女が見上げる先をキュルケも見た。
まず見えたのは、空を見上げる土くれのフーケ。
つい先ほどまで追い回していたキュルケにまったく注意を払っていなかった。
そういえば、少しの間とはいえキュルケはこの女と話していたのだ。
それはゴーレムに攻撃させるには十分な時間だ。
だが、攻撃はない。
キュルケとは別の物に注意を向けなければならなかったからだ。
ならその別のものとは……
キュルケは視線をさらに上に向けた。
ゴーレムの腕は上から落ちてきていた。横に飛ばされるはずがない。
その証拠にキュルケは今、地面にめり込むゴーレムの拳を見ていた。
「もう、せっかく助けてもらったのに危ないことしたらだめなのね。びっくりしたのね」
見知らぬ青い長髪の女が側で頬をぷっくり膨らませて怒っていた。
キュルケより年上のようにも見えるが、仕草が子供っぽく見える変な女だ。
だが、その青い髪の色にキュルケはどこか見覚えがあるような気がした。
「あなた……だれよ?」
キュルケはとりあえずその質問をした。
何か、明確な意図があったわけではない。
突然現れて、助けてくれた青髪の女に他に聞くことがなかったのだ。
「私?私はイル……」
突如、青髪の女は頭を抱える。
なんというか、主人に怒られた使い魔のような感じだ。
「違うのね、私はイルなんて名前じゃないのね。えとえと。そう、私はシル……」
また女は頭を抱える。
いきなり、頭を振ったりして変な女だ。
「違うのね、私はシルなんて名前じゃないのね。えとえと。そう、私はアルフなのね。アルフ!」
「そ、そう」
犬みたいな名前だ。
とても怪しいが、青髪の女はすごくいいことをしたように満足した顔つきをしているので、キュルケは追求する気にはなれない。
そこでキュルケははっと気づいた。
こんな事をしている場合ではないのだ。
キュルケは駆け出そうとしたが、青髪の女に襟首を捕まれて止められてしまう。
「だから、やめるのね」
「やめれるわけ無いでしょ!あの女、タバサをどうしたと思うの?」
「どうもなってないのね」
「え?」
キュルケは足を止めて女の顔を見る。
世間話をしているような顔で女は続けた。
「タバサって言うナマイキでいけ好かないチビガキならお姉様が助けたのね」
「お姉様?」
「あそこなのね」
青い髪の女が見上げる先をキュルケも見た。
まず見えたのは、空を見上げる土くれのフーケ。
つい先ほどまで追い回していたキュルケにまったく注意を払っていなかった。
そういえば、少しの間とはいえキュルケはこの女と話していたのだ。
それはゴーレムに攻撃させるには十分な時間だ。
だが、攻撃はない。
キュルケとは別の物に注意を向けなければならなかったからだ。
ならその別のものとは……
キュルケは視線をさらに上に向けた。
その少女は空に浮かんでいた。
二つの月に照らされる二つに結んだ金糸の髪が風の中に揺れていた。
黒い服、そして黒いマントは闇から浮き出るようでもあり、夜空にとけ込むようでもある。
手に持つ杖もまた黒い。それはインテリジェンスデバイス、バルディッシュ。
「近頃は仮面が流行っているのかい?」
少女はフーケの言葉には応えない。
いかなる思いを抱いているのか、仮面に隠された顔からは伺えるはずもない。
「無視かい。まあ、いいさ。でも、名前くらいは名乗ってもらうよ」
フーケに杖を少女に向けられた少女はなにも答えない。
焦れるフーケが杖を下ろそうとしたとき、少女は口を開いた。
「フェイト」
そして、彼女は続ける。
「ただのフェイト。家名も、過去もない。ただの……フェイト」
その言葉は誰に向けた物だったのだろう。
あるいは、フェイトと名乗るその少女自身に向けた言葉なのかも知れない。
「なら、そのフェイトは何をしに来たんだい?」
フェイトはバルディッシュを両手で持ち、後ろに構える。
斧の刃が持ち上がり、そこから吹き出る金色の魔力が鎌の刃を作った。
「いちいち邪魔が出る夜だね。あんたも潰してやるよ」
フーケが杖を振ると空を見上げるゴーレムの腕が形を変えていく。
空のフェイトに届くように長く、長く。
二つの月に照らされる二つに結んだ金糸の髪が風の中に揺れていた。
黒い服、そして黒いマントは闇から浮き出るようでもあり、夜空にとけ込むようでもある。
手に持つ杖もまた黒い。それはインテリジェンスデバイス、バルディッシュ。
「近頃は仮面が流行っているのかい?」
少女はフーケの言葉には応えない。
いかなる思いを抱いているのか、仮面に隠された顔からは伺えるはずもない。
「無視かい。まあ、いいさ。でも、名前くらいは名乗ってもらうよ」
フーケに杖を少女に向けられた少女はなにも答えない。
焦れるフーケが杖を下ろそうとしたとき、少女は口を開いた。
「フェイト」
そして、彼女は続ける。
「ただのフェイト。家名も、過去もない。ただの……フェイト」
その言葉は誰に向けた物だったのだろう。
あるいは、フェイトと名乗るその少女自身に向けた言葉なのかも知れない。
「なら、そのフェイトは何をしに来たんだい?」
フェイトはバルディッシュを両手で持ち、後ろに構える。
斧の刃が持ち上がり、そこから吹き出る金色の魔力が鎌の刃を作った。
「いちいち邪魔が出る夜だね。あんたも潰してやるよ」
フーケが杖を振ると空を見上げるゴーレムの腕が形を変えていく。
空のフェイトに届くように長く、長く。
振り上げられたゴーレムの腕がうなりを上げた。
岩でできているとは思えないしなやかさでそれは伸び、岩の重さをそのままにフェイトに飛ぶ。
フェイトは金色の鎌を構える手に力を込め、その岩の鞭の前に飛び出した。
鞭のしなやかさを持つゴーレムの腕の動きは人の目で捉えられるようなものでは物ではない。
その中に飛び込むのは自殺作行為という物だ。
フーケもまた、そう考えた。
だが、フェイトが二度、三度、空中で体を回したとき、地面に落ちたのはフェイトではなくゴーレムの腕だった岩の塊。
「なら、これでどうだい!」
ゴーレムが残った腕を振るが、空にはすでにフェイトはいない。
「ど、どこに?」
フーケはフェイトの姿を完全に見失っていた。
岩でできているとは思えないしなやかさでそれは伸び、岩の重さをそのままにフェイトに飛ぶ。
フェイトは金色の鎌を構える手に力を込め、その岩の鞭の前に飛び出した。
鞭のしなやかさを持つゴーレムの腕の動きは人の目で捉えられるようなものでは物ではない。
その中に飛び込むのは自殺作行為という物だ。
フーケもまた、そう考えた。
だが、フェイトが二度、三度、空中で体を回したとき、地面に落ちたのはフェイトではなくゴーレムの腕だった岩の塊。
「なら、これでどうだい!」
ゴーレムが残った腕を振るが、空にはすでにフェイトはいない。
「ど、どこに?」
フーケはフェイトの姿を完全に見失っていた。
すでに地面に降りていたフィイトは金色の鎌にさらに魔力を込める。
一回り大きくなった鎌を右から左へ。
ゴーレムの右足が寸断され、その体が傾いていく。
次にフーケの悲鳴を聞きながら左から右へ。
半ばで切られたゴーレムの足が滑る。
両の足を切られては立てるはずもない。
フーケのゴーレムは轟音と土煙を上げ、その場に崩れ落ちた。
一回り大きくなった鎌を右から左へ。
ゴーレムの右足が寸断され、その体が傾いていく。
次にフーケの悲鳴を聞きながら左から右へ。
半ばで切られたゴーレムの足が滑る。
両の足を切られては立てるはずもない。
フーケのゴーレムは轟音と土煙を上げ、その場に崩れ落ちた。
「あの……ガキ!」
フーケは積もるゴーレムの瓦礫の上で呟いた。
不意に30メイルも落下するのは、メイジといえども危険な事だ。
レビテーションを咄嗟に唱えても体をしたたか瓦礫の山に打ち付けてしまった。
それでも痛みはするが、身体に異常はない。
骨折もないし怪我もない。
「なっ!」
体を起こしたフーケは、目の前の黒い少女の姿に目を剥く。
放電する光球を備えたバルディッシュを、フェイトがまっすぐフーケに突きつけていた。
「冗談じゃないよ!」
光球の起こす唸りでその威力は想像できる。
食らえばただごとでは済まないのは確かだ。
未だふらつく足で走るフーケは、レビテーションを唱えながら崖に飛び込んだ。
フーケは積もるゴーレムの瓦礫の上で呟いた。
不意に30メイルも落下するのは、メイジといえども危険な事だ。
レビテーションを咄嗟に唱えても体をしたたか瓦礫の山に打ち付けてしまった。
それでも痛みはするが、身体に異常はない。
骨折もないし怪我もない。
「なっ!」
体を起こしたフーケは、目の前の黒い少女の姿に目を剥く。
放電する光球を備えたバルディッシュを、フェイトがまっすぐフーケに突きつけていた。
「冗談じゃないよ!」
光球の起こす唸りでその威力は想像できる。
食らえばただごとでは済まないのは確かだ。
未だふらつく足で走るフーケは、レビテーションを唱えながら崖に飛び込んだ。
フェイトの杖から放たれる雷の槍、フォトンランサーが瓦礫を砕く。
小さな石はもちろん、人の身長ほどもある岩ですらかまわず粉々にする。
フェイトはバルディッシュを左右に振り、その場にある瓦礫を片端から砂粒へと変えていった。
やがて、その中から青い宝石が表れる。
「封印」
「Yes sir」
すでに光を失った青い宝石に逆らう力はない。
バルディッシュから伸びる魔力に捕まれ、瞬時にその姿を消した。
「Sealing.Receipt Number none」
ナンバー無し。
バルディッシュの告げるその言葉にフェイトはわずかに首をかしげるが、それもわずかな間。
呆然としているキュルケを目の端で見ると、フェイトは足下に金色の翼を広げ、双月の輝く空に消えていった。
小さな石はもちろん、人の身長ほどもある岩ですらかまわず粉々にする。
フェイトはバルディッシュを左右に振り、その場にある瓦礫を片端から砂粒へと変えていった。
やがて、その中から青い宝石が表れる。
「封印」
「Yes sir」
すでに光を失った青い宝石に逆らう力はない。
バルディッシュから伸びる魔力に捕まれ、瞬時にその姿を消した。
「Sealing.Receipt Number none」
ナンバー無し。
バルディッシュの告げるその言葉にフェイトはわずかに首をかしげるが、それもわずかな間。
呆然としているキュルケを目の端で見ると、フェイトは足下に金色の翼を広げ、双月の輝く空に消えていった。
フェイトが姿を消してもキュルケは呆然としていた。
あまりにもわからないことが多いが、1つだけわかったことがある。
フェイトがジュエルシードを持って行ったと言うことだ。
「ねえ、あのフェイトって娘……」
隣にいるはずのアルフに聞こうとしたが誰もいない。
アルフもすでに姿をくらましていた。
「いったいなんだったのよ」
答える者はいないのはわかっているが、口から自然に漏れる。
それほどに今の状況がよく分からなかったし、これからなにをしたらいいかわからない。
頭の中で整理をつけ、やっと思い出す。
「そう、タバサよ!タバサーーーっ」
助けられたはずのタバサを探そうと走り出したキュルケのマントを誰かが掴む。
くいくいと引っ張られて少し喉が詰まった。
「ここ」
「タバサ!」
唐突にタバサが後ろにいた。この娘は時々こういうところがあるが、こんな時にまでやらなくても良さそうなものだ。
「あなた、一体どうしてたの?」
「フェイトに助けてもらって、崖を飛んできた」
「そ、そう」
それにしては飛んでいるタバサを見なかったような気がするが、キュルケはとりあえず置いておくことにした。
代わりに親友の無事を喜んでタバサの頭に着いていた砂埃を払い落としてやった。
あまりにもわからないことが多いが、1つだけわかったことがある。
フェイトがジュエルシードを持って行ったと言うことだ。
「ねえ、あのフェイトって娘……」
隣にいるはずのアルフに聞こうとしたが誰もいない。
アルフもすでに姿をくらましていた。
「いったいなんだったのよ」
答える者はいないのはわかっているが、口から自然に漏れる。
それほどに今の状況がよく分からなかったし、これからなにをしたらいいかわからない。
頭の中で整理をつけ、やっと思い出す。
「そう、タバサよ!タバサーーーっ」
助けられたはずのタバサを探そうと走り出したキュルケのマントを誰かが掴む。
くいくいと引っ張られて少し喉が詰まった。
「ここ」
「タバサ!」
唐突にタバサが後ろにいた。この娘は時々こういうところがあるが、こんな時にまでやらなくても良さそうなものだ。
「あなた、一体どうしてたの?」
「フェイトに助けてもらって、崖を飛んできた」
「そ、そう」
それにしては飛んでいるタバサを見なかったような気がするが、キュルケはとりあえず置いておくことにした。
代わりに親友の無事を喜んでタバサの頭に着いていた砂埃を払い落としてやった。