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“微熱”の使い魔-08


 トリステイン魔法学院の院長オールド・オスマンは学院長室で読書にふけっていた。いつもだったら秘書のミス・ロングビルにセクハラをしているのだが、今は極めて真剣な表情である。
 読んでいるのは、一応は書物にあたるのだろうが、きちんと職人が作ったものではなく、いくつもの紙片を適当に束ねたような粗雑なつくりのものだった。しかし、それに書かれている文字は、ハルケギニアで使われているものではなかった。
 厳しい表情で読書を続ける中、いきなり学院長室のドアがノックされた。

 「誰じゃね?」

 オスマンはすばやく本をふところにしまいこむ。
 乱暴にドアを開け、飛び込んできたのは頭のさびしい中年教師ミスタ・コルベールだった。

 「オールド・オスマン! 大変なことが……」

 「何じゃね、ミスタ・エグゼビア」

 「コルベールです! どうしたらそんな名前が出てくるんですか!?」

 「おお、そういえばそんな名前じゃったね。それで何事かね、ミスタ・ファンタスティック」

 「コルベールですってば! ますます離れてますぞ!!」

 「しょっぱなの軽いギャグじゃ。……で、何かねミスタ・コルベール?」

 「これを見てください!」

 「えーと、何だっけ、これ? ああ、『始祖ブリミルの使い魔たち』か。また古臭いものを…。で、これが何?」

 「これも見てください! これも!」

 コルベールは何かのスケッチらしきものをオスマンに見せた。

 「これは使い魔のルーンのようじゃが……。むう?」

 オスマンはスケッチと、本に描かれている絵を見比べ、表情を引き締めた。

 「このルーンは、ミス・ヴァリエールの召喚した平民の少年に刻まれたものです。見てください、これは文献に記される、ブリミルの使い魔ガンダールヴと同じものではありませんか!!」

 「……」

 「つまり、あの少年は伝説の使い魔ガンダールヴではありませんか!?」

 「確かに、この二つは同じもの。しかし、じゃね。それだけで決め付けるのは早計というもんじゃ」

 「無論のこと、それだけではありません」

 コルベールはもったいぶって咳払いをする。

 「先日、ミス・ツェルプストーが学院近くの森にいった際のことですが」

 「ああ、報告には聞いとる。ミス・ヴァリエールが狼に襲われて怪我をしたそうじゃな」

 「その際、かの少年は狼の群れを瞬く間に蹴散らしたそうです。それも風のような速さで。その前後……彼はナイフを手にした時からルーンが光り出し、超人的な力を発揮したとか」

 「こういっては何じゃが、そのナイフが何らか特殊なものであった可能性は?」

 「ありません。念入りに調べましたところ、かなり質のいいものではあるようですが一切魔法の痕跡は見当たりませんでした」

 コルベールの説明に、オスマンはむう、とうなった。

 「しかしのう。やはり、それでもまだ伝説と結びつけるのは早計も早計じゃよ。ミスタ・コルベール」
仮にガンダールヴだとしてもじゃ、とオスマンは白いひげをなでた。

 「ならばこそ、なおさら慎重にならねばのう。王室のばーたれどもに知れれば、使い魔もミス・ヴァリエールも何をされるかわかったもんではない」

 「確かに……」

 「ミスタ・コルベール、密かに使い魔の少年のことを調査してみてくれ。あくまで、それとなくな」

 「わかりました」

 「ああ、それから……ミス・ツェルプストーの使い魔も、人であったな。こっちは少女とか……」

 「はい、“シグザール”という、異国の地の人間です。錬金術という未知の技術を持っていて、こちらも……」

 「錬金術か」

 きらり、とオスマンの瞳が光った。

 「何か、ご存知なので?」

 「いやいや…。そちらのほうも、調査をしておいてくれよ? ちゅうかミスタ・コルベール、すでに色々と接触しておるんじゃろう?」

 「まだいくらか話を聞いたり、本を読ませてもらった程度ですが…。錬金術というものは相当に奥深く、高度な技術体系であることは間違いないようです」

 「そうか………」

 こつこつ。ドアがノックされた。
 私です、と秘書ロングビルの声がドアの向こうからした。

 「入りなさい」

 部屋に入ったミス・ロングビルは書類を机の上に置いた。

 「王室からです。最近治安の悪化が激しいので、注意をするようにと」

 「ふーん。わざわざ王室から……。ふん、盗賊やオークどもの動きがのう」

 オスマンは書類を読みながら、顔をしかめる。

 「それに、“土くれ”かい」

 「はい。巷を騒がしている“土くれのフーケ”が城下町を荒らしているとか……」

 「物騒じゃのう。生徒に注意を呼びかけんとな」

 「もしかすると、この学院もフーケめが襲撃してくるかもしれませんぞ」

 「まあ、怖いことおっしゃらないで…!」

 コルベールの言葉に、ロングビルは顔を引きつらせる。

 「いや心配には及びません。もしもの時にはこの“炎蛇”のコルベールがお守りしますぞ」

 そう言って、コルベールはばんと胸を叩いてみせた。

 「まあ、頼もしい」

 笑顔を見せるロングビルに、いやなに、男として、教師として当然のことです、とコルベールはちょっとばかりやにさがった顔で言った。
 その様子に、オスマンはけっとそっぽをむいた。


 ぱかん、ぱかん、と才人は厨房の裏手で薪を割っていた。生来の調子の良さ、もとい適応力が幸いしたのか、もう完全に使用人たちの中に溶け込みつつある。
 最初は皿洗いなどをやっていたが、今では水くみや薪割りなどの力仕事が主になりつつあった。

 「ふう……」

 こんもりと薪が小さな山となった頃、才人は汗をぬぐった。そして、左手のルーンを見る。

 ――コルなんとかという先生、調べておくって言ってたけど……。ホントに何かわかるのかねえ?

 使い魔として契約とした時には特殊な能力を授かることもある。そんなことを話していたが。
 少し休んだ後、また薪割りにとりかかる。その矢先、才人は手を止めた。
 一人の生徒がフラフラと歩いているのが見えたのだ。

 ――あいつは……。

 ギーシュというキザ男だった。食堂での喧嘩騒ぎの時とは裏腹に、妙にやつれているように見えた。

 「やあ、ゼロ…いや、ミス・ヴァリエールの使い魔くんじゃあないか……」

 ギーシュは才人を見ると、覇気の欠片もない顔で挨拶をする。

 「………」

 あの時笑い者にされて悔しい思いがあるだけに、才人はそれを無視する。

 「ふっ……。無視かい、それもいいさ」

 ギーシュは自嘲を浮かべて、才人のそばに立つ。

 「人生とは、愛とは残酷なものだなあ。薔薇とは凡人には理解されにくいものらしいよ……」

 ――何言ってんだ、こいつ………………。

 一人勝手にぶつぶつ言っているが、要約意訳をすると、モンモランシーという子に振られたということらしい。

 ――けっ。ざまーみやがれ。

 まったくもっていい気味である。
 放っておくと、ギーシュは一人でしゃべりっぱなし。ひょっとして友達いないのだろうか。そうか思うと、今度は地面から出てきたでかいモグラと戯れだした。
 ますますもって薄気味悪い。

 ――気持ちわりいなあ…。どっかいけ、おい。

 いらつきながら、才人は薪割りを続ける。
 そこに。

 「ここにいたわね」

 今度はルイズがやってきた。

 「街に行くわよ。ついてきなさい」

 唐突に、そんなことを言う。

 「……なんで?」

 「いいからついてきなさい!」

 ルイズはいらだったように、才人の腕をつかんで引っ張っていく。
「な、何言ってんだよ! まだ薪割り終わってねーし……! つうか何でお前と……」

 才人の言葉に、ルイズはわなわなと震え出す。

 「あ、あんたは私の使い魔でしょうが!? 黙ってご主人様についてくればいいの!!」

 「やだよ」

 才人はルイズを振り払った。

 「最低、理由ぐらい説明しろっての」

 「………………」

 ルイズは怒ったのごとく、ふーとうなった。しかし、しばらくすると、声を抑えながら何やら話し始めた。

 「……この前、森で私を守ったでしょ!! だから、その……忠誠には報いるところがないとね!!」

 「あー、つまりお礼ってことか」

 「ご、ご褒美よ! 忠誠を見せた使い魔に対するね」

 ふんとルイズはそっぽを向くが、その顔はかすかに紅い。照れているのか。
 ふーん、と才人は納得したような顔をした。

 「わかったら、さっさといくわよ!」

 「別にいらね」

 先に立って歩き出そうとしたルイズは、才人の言葉につんのめる。

 「いらないっ!? せ、せっかく私が…………!!」

 ルイズは顔をトマトみたいに真っ赤にさせて才人を睨んだ。

 「別に、あれはお前だから助けたっつーわけじゃねえし」

 「何よ、それ……」

 「ああいう時は、助けるもんなんだろうが、人間として。それとも何か? お前が俺の立場だったら見捨ててたのかよ」

 「……そんなこと」

 「だったら、それでいーだろ。用はそんだけか? だったら俺、忙しいから」

 才人はまたぱかん、ぱかんと薪割りに専念しだす。
 ルイズはそれを見ながら、ぶるぶると震えていた。いつの間にか、手に杖を握っている。

 「こ……の……」

 目に涙を浮かべながら、ゆっくりと杖を振り上げる。

 「まちたまえ、使い魔くん」

 ルイズが杖を振り下ろそうとした時、ギーシュが才人に声をかけた。これにきっかけを奪われ、ルイズは得意の失敗爆発魔法を発動することはなかった。

 「横から見せてもらったが、君は少々冷たいんじゃあないか? レディーのアプローチを断る時には、それなりの作法というものがある。君のはあまりにも野蛮すぎるよ」

 ギーシュは髪の毛を軽く弄りながら、どうだね、とポーズを決めて言った。
「関係ねーだろ。つーか、相変わらずキザなしゃべりかたしやがんなあ……。おめーはちび○子ちゃんの花輪くんか?」

 「……ハナワ? 何だい、それは……。まあ、いい。一人の薔薇の紳士として言わせてもらうが……。ミス・ヴァリエールは、使い魔に対する褒美と言い条、君と親交を深めたいと見たが……」

 「ちょっと!? な、な、何勝手なこと、言ってるのよ……。私は別にこんな犬なんか……」

 「犬!? てめ、人をよくも……」

 「おうっと、待った。短気はいけないよ、使い魔くん」

 犬呼ばれりされてムッとする才人だが、ギーシュが制する。

 「使い魔、使い魔、うっせーな! 俺には、平賀才人……いや、サイト・ヒラガつう名前があるんだ!」

 「では、サイト。君はさっき人として、とこう言っていたね。噂で聞いているが、君は狼に襲われたミス・ヴァリエールを救ったとか……それは人として当然のことだから、別に礼はいらないと」

 「あ、ああ……」

 「だがね、こういう場合礼をのべ、感謝するのも人として当然じゃあないのかい」

 「……まあな」

 ギーシュの意見に、才人はうなずく。

 「そうだろう。そしてだ……その感謝を素直に受ける。これは、悪いことかい? いや、悪いことじゃない。自然なはずだ……」

 「…………」

 「ならば、“お礼”をしたいというミス・ヴァリエールに同伴したって、いいんじゃないのかい。それとも、何か思うところでもあるのかい?」

 何か思うところでもあるのか……その言葉に反応したのは、ルイズだった。何かをうかがうような目で、才人を見つめる。

 「……そんなもん、別にねーよ」

 「というわけらしい。ミス・ヴァリエール、彼は君についていくそうだよ」

 ギーシュはルイズを見て、ひときわキザな仕草で言ってみせた。

 「ふ…ふん!! 最初っから素直にそう言えばいいのよ!! 余計な手間かけさせて……」

 ルイズはわざとらしく大声で叫びながら、才人を引きずっていく。

 「い、いてえな! おい、引っ張るんじゃねーって……!」

 ギーシュはルイズと才人を見送りながら、ふうーと頭を振った。

 「やれやれ……。こういうのは僕のキャラクターじゃあないんだけど……。まあ、たまにはいいさ。そうは思わないかい、ヴェルダンデ」

 そうつぶやき、使い魔であるジャイアントモールの頭をなでる。
 もぐもぐもぐ……。
 モグラは巨大な体躯に似合わぬ円らな瞳で主人を見上げた。

 「ふっ…。人と人と結びつけるのもまた、薔薇の役目か。やっぱり、僕のキャラじゃあないね」

 ギーシュは苦笑して、胸にさした造花の薔薇の弄る。

 「しかし、悪くもないか」


タバサは熱心に本を読んでいた。これ事態はいつものことである。が、いつもとは違っている部分もあった。
 まず本が違う。読んでいるそれは、エリーの持ってきた本のうちの一冊"絵で見る錬金術"。絵本のように、錬金術についてイラスト中心でわかりやすく記した超初心者向けの本だ。
 書かれている文章のほうも実に簡単なものである。
 タバサはそれを食いいるように読んでいた。その横には、エリーの姿が。

 「……これは?」

 「これはねー……ロウのつくりかたで」

 タバサがたずねると、エリーは細かく説明を始める。
 そんな二人の"お勉強会"を横目で見ながら、キュルケはふわあ、とあくびをしていた。

 ――せっかくの虚無の曜日なのに、二人とも熱心ねえ……。

 エリーとタバサは暇を見ては互いの国の言葉を教え合っている。会話そのものは問題なく、言葉の表現や文章の構造なども意外に似ている部分が多いので、それほど難しいものではないらしい。
 もっとも、その"お勉強会"は傍から観察していてあんまり楽しいものではなかった。
 キュルケはしばらくの間ぼけーっとしていたが、急に立ち上がり、部屋を出ていった。

 「どうしたのかな?」

 エリーが首をかしげていると、すぐにキュルケは戻ってくる。

 「二人とも、出かける用意して!」

 キュルケはうきうきとした顔でそう言った。

 「え……なんで?」

 「ルイズと、あの使い魔くんが出かけたみたいなのよ。二人きりで、馬に乗ってね」

 「へえ、サイトが……。あれから、仲良くなったのかなあ」

 「それをこれから確認するんじゃない」

 つぶやいたエリーにむかい、キュルケはにこりと笑った。

 「え」

 どゆこと? エリーはきょとんとする。

 「だから、追いかけるのよ。二人をね」

 「……ええーと」

 「悪趣味」

 コメントに困るエリー。一言で片づけるタバサ。

 「というわけで、タバサ。あなたの力を借りたいんだけど……。お願い、あなたの風竜じゃないと、追いつけないの」

 キュルケは手を合わせてウィンクをする。
 タバサはしばらく黙っていたが、静かにうなずいた。そして、窓を明けて口笛を吹く。
 ばさり、ばさり。
 巨大な羽音をたてて、タバサの使い魔であるドラゴンが舞い降りてくる。

 「うひゃあああ……」

 その姿にエリーは見惚れるしかなかった。
 風竜は大きなくりっとした瞳で主人を、そしてエリーやキュルケを見つめ、きゅい、と鳴いた。


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