あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

ゼロの大魔道士-8


トリステイン魔法学院のアルヴィーズ食堂のレベルは高い。
各国の貴族子弟が籍を置いているだけに、求められる料理の水準も比例して高くなっているからだ。
故に、料理の残しこそはあっても、料理そのものにクレームがつかないという点で料理人達の腕前は押して知るべし。
料理長のマルトーはそんな現状に満足はしていないが、とにもかくにもアルヴィーズ食堂は今日も盛況だった。
しかしその日、明らかに異物とも言える存在が食堂に存在していた。
二人の女生徒に挟まれ、冷や汗を流す中年男性――コルベールである。

「ちょっと、ツェルプストー! なんでそんなにくっついてくるのよ!」
「あら、いいじゃない。別にあなたにくっついているわけじゃないんだし?」

ね、ジャン?
そう言って体を押し付けるように擦り寄ってくるキュルケにコルベールは茹蛸のように顔を染め上げる。
42歳にして独身、過去の経緯により女性経験も皆無に等しい彼は年下の女性の急接近に石像と化していた。
キュルケは間違いなく美人に属する女性であり、しかもそのスタイルは抜群。
現にコルベールの右腕には彼女の豊満な二つのふくらみが押し付けられている。
これはコルベールでなくても固まってしまうのは無理はない。

「こ、この…っ!」

――のだが、そんな男の事情などルイズには関係がなかった。
いや、正確に言えば関係があるからこそ憤慨しているといえる。
昨夜結んだ主従の誓いにより、コルベールは彼女の使い魔となった。
勿論、これは例外中の例外ともいえる事態なのでいくつかの妥協というか折り合いは協議の末定められている。
折り合い、つまりコルベールはルイズの使い魔になったからといってその全てをルイズに捧げるわけではないということだ。
教師を続けることは勿論、彼の趣味といえる怪しげな研究の続行もある程度は許可している。
更に、生活空間も別のままだった。
いわば、表面的にはなんの変化もないのだ。
なお、これはルイズが言い出したことである。
いくらコルベールが構わないといっても年長者で目上の人間を他の人間の使い魔のように扱うわけにはいかないからだった。
ちなみに余談ではあるが、コルベール自身は覚悟完了していたということもあり、
自分を通常の使い魔同様の扱いをしても構わないと申し出、ルイズを大変戦慄させている経緯がある。
「コルベール先生! ツェルプストーなんかにデレデレして、はっ、恥ずかしくないんですか!?」

ルイズの叱責にコルベールはようやく硬直を解いた。
だが、キュルケを振り払うわけにもいかず、状況は依然として変わらない。
ぐぐぐ、とルイズの目が釣りあがっていく。

「あら、いくら使い魔といっても恋愛は自由じゃない? それとも、そこまで彼を縛らないと不安なの?」
「なっ、だ、誰が!」

余裕そうに見下げるキュルケと怒りに瞳を燃やして見上げるルイズの間に火花が飛ぶ。
間に挟まれたコルベールは情けなくもオロオロするばかりだった。
だが、それを情けないと責められる者はいない。
なんせ挟んでいる二人が二人なのだから。

「コルベール先生も災難だよな…」

野次馬の一人がポツリと呟いた。
これは現状に対してと、彼のおかれた立場という二つの意味にかかっている。
コルベールがルイズの使い魔になったという事実は既に学院に広がっていた。
何せ使い魔にされた本人が公言しているし、ルーンも見せて回っているのだから否定の余地はない。
また、使い魔が教師ということもあり、昨日の召喚の場にいたものはこの状況に首をひねるものの、それ以上の詮索をすることはなかった。

「どうぞ」

と、そこにトレイを持った一人の少年が現れた。
少年は修羅場に臆することなく場に踏み込み、素早く料理の乗った皿を並べる。
一歩間違えれば犬猿の仲の二人の暴発に巻き込まれかねない中、黙々と給仕を働く少年に場の感心が集まっていく。

「では」

だが、少年は自分の仕事を終えると素早く身を翻しその場をそそくさと退場した。
一連の彼の動きはルイズたちの目には全く映らなかったらしく、場を離れた少年への関心はあっという間に消えていく。
故に誰も気がつかなかった。
少年が本来ルイズの使い魔になるはずだった存在なのだということを。
(あ、あっぶねぇ~!! まさかあの嬢ちゃんとコルベールさんのいる場所に給仕することになるとは…)

極々自然な動作で場を離れていく少年はポップだった。
テーブルを見た瞬間、危機本能が近づくな! と警告を発していたのだが、仕事は仕事である。
極力印象に残らないように動き、即座に退散。
簡単に見えてなかなかの難易度のミッションを彼は達成していた。

(しかしあれは修羅場なのか? さえない中年のおっさんを挟む二人の美女と美少女…興味深い)

チラリと後ろを見やる。
そこではポップの存在など欠片も気にしていない三人の光景があった。
いや、正確にはポップのことなど眼中にないといったほうがいいだろう。
それだけ三人はお互いに集中しているのだと思うと興味をひかれないほうがおかしい。
しかし触らぬ神にたたりなし。
ポップは後ろ髪を引かれる思いでそそくさと移動を開始する。

(ま、精々両手に花を楽しんでくれよな)

マァムとメルルに挟まれて旅をしていた自分のことを棚にあげてポップは含み笑いをする。
正に他人の不幸(あるいは幸福)は蜜の味である。

「この責任はどうとってくれるのだね?」
「も、申し訳ございません!」

と、少し離れたテーブルの一角から出た聞き覚えのある声がポップの足を止めた。
視線を向ければそこにはシエスタの姿があった。
何か粗相でもしてしまったのだろうか、メイドの少女は顔面を蒼白にしてぺこぺこと頭を下げている。
頭を下げられている対象――金髪の少年はそんなメイドの少女を睨みつけていた。
とはいえ、本気で怒っているようには見えないし、むしろ彼はシエスタの大げさとも言える謝罪に困っているようにすら見える。
一体どうしたんだ? と首をひねるが、恩人の少女の窮地を見過ごすわけにもいかない。
とにかく助けに入らなければ、と場を仲裁するプランを練りつつポップは足を動かした。

(……しかしあの金髪、なんかチウを連想するのはなんでだ? 見た目は似ても似つかないのに)
シエスタははっきりいって浮かれていた。
その原因はポップの存在にあった。
別段、一目惚れしたとかそういう色気のある理由ではない。
学院に迷い込んだ旅人であるという彼はメイド少女にとって興味深い存在だった。
元々はタルブという田舎村の出身であり、今は学院から出ることもほとんどなく働くシエスタ。
彼女は色んな世界を知るポップから話を聞くことを楽しみにしていたのだ。
が、だからこそシエスタは普段ならばやらないであろうミスをした。
いや、厳密にはミスとはいえないだろう。
何せ彼女は床に落ちていた小瓶を拾って持ち主にそれを渡そうとしただけなのだから。

「も、申し訳ございません!」

必死に頭を下げる。
平民が貴族を、メイジを怒らせることの愚かさは骨の髄までしみこんでいる。
だからこそシエスタは誠心誠意謝罪の意を示した。
少し大げさすぎないか? と思うなかれ。
この世界では平民にとってメイジとは絶対的強者なのだ。
しかも、相手の性格が悪ければ問答無用で魔法を打ち込まれかねない。
目の前の少年貴族がどういう性格なのかはわからないが、自分の行動によって不快にさせてしまったのは事実なのだ。

(私のバカ! なんて余計なことを…!)

落し物を拾って持ち主に渡す。
これだけならば全くシエスタに非はないしむしろ褒められてしかるべき行動だろう。
だが、今このときに限ってはその行動はまずかったのだ。
勿論、シエスタは少年の憤慨の理由を知らないのだからどちらにしろ彼女に責はないのだが…
普段の彼女ならばあるいは状況を判断して気を利かせることができたのかもしれなかったのだから不運といえば不運である。

(く、首ですむのかしら? ああ、ごめんなさいお父さんお母さん…)

頭の中で最悪の未来図が駆け巡る。
シエスタの脳内妄想は昨夜読んでいた小説の影響もあってか、身体目当ての悪徳貴族に身売りされるというところまで進んでいた。
何気にこのメイド、余裕があるのかもしれない。
(こ、これは困ったぞ…!)

ギーシュ・ド・グラモンは切実に困っていた。
目の前には壊れたゴーレムのように頭を下げ続けるメイドの少女。
突き刺さるのは周囲からの非難と好奇の視線。

(そ、そんな目で僕を見ないでくれっ! ほ、ほんのちょっと憂さを晴らしたかっただけじゃないかぁっ)

別段彼はシエスタを本気で罰したりするつもりなど欠片もなかった。
ただ単に彼女の行動が原因で最愛の少女に誤解されてしまったから、その鬱憤を少しだけ晴らそうと思っただけなのだ。
それが今はどうだ。
軽い叱責程度で許すつもりだった少女は顔面を蒼白にして頭を下げ続けている。
せめて相手がさえない少年だったならばまだ違っただろうが、目の前にいるのは平民ながらも可愛らしい顔立ちの少女だ。
客観的に見て、今の自分は非常に格好悪い。
かといってこの状況ではもはや引っ込みがつかない。
許してしまいたいのは山々だが、ここに至っては許すの一言ですみそうな空気ではなくなってしまっているのだ。
追い込む立場にいながらも、実はシエスタ以上に追い込まれるギーシュ。
だがその時、彼にとっての救世主が現れた。
周囲を囲むギャラリーの中から、一人の平民の少年がかさかさと場に乱入してきたのだ。

「あ、シエスタ。こんなところにいたのか? マルトーさんが呼んでたぞ?」
「え、ぽ…ポップさん?」

思わぬ人物の登場にシエスタは目を丸くして驚く。
だが、ポップそれにかまわずメイド少女の背を押すようにして彼女を退避させていく。

「ポップさん、私…」
「いいからいいから、後は任せなって」

小声でそう呟くとポップは軽くウインクを飛ばしてシエスタを厨房へと放り込むように押し出した。
残されたのはあっという間の出来事に呆然としていたギャラリーとギーシュ。
そしてポップは、いかにも『俺は空気読めてないぜ』といった間の抜けた表情を作るとへこへこしながら周囲に頭を下げた。
あまりにも見事なその道化っぷりにその場の人間が一様にぽかんとした表情をした。


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