あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

ゼロのトランスフォーマー10

丑三つ時も過ぎた頃。

梟の囀りや、鈴虫の類であろう昆虫達の合唱、夜風が木々を僅かに揺らす囁きの音。
そしてここトリステイン魔法学院に在学する、とある少女の寝息をバックミュージックに、
その少女の安眠の妨げにならぬ様、2つの月の光が僅かに窓から侵入しているのを除いて、
一切の灯りの照らされて無い、真っ暗な彼女の部屋のドアの横で、
それぞれ別の成行きで、この異世界ハルケギニアの大地に足を踏み入れた、
異質なる航空参謀と、剣の柄に納まった特殊破壊兵の2体が、何やらヒソヒソと小話をしていた。
2,5メイルサイズのロボットが胡座をかきながら、壁に凭れかかった柄に話しかける姿は随分と滑稽である。

『破壊の杖の正体は実は破壊大帝だったのだー。なーんて怒涛の急展開言い出さないだろうな、デルフ?』
『クキャッ、無用な心配はするな相棒、ただのM72ロケットランチャーだったよ』

特殊破壊兵フレンジーことデルフリンガーが、毎日学院内をのんびり放浪しているのは周知の事実。
ある時は厨房で、赤ワインやマルトーが残飯で調理した賄食を、給仕達と並んで貪り食ったり、
4つの広場で、ベアードやバシリクス等の、学院の生徒達の使い魔と戯れたり、
かと思えば、学院中の女生徒を数多く軟派し、何度も撃沈し、遂に1人のメイドと仲良くなったりと、
ともかく自由気まま且つ平和に、学院ライフを満喫していた。

‘特殊破壊兵’の名の通り、破壊を生甲斐としていたあの頃の彼の姿は、今や面影を見せていない。
過去に彼から闘争本能を奪う位の、余程の事態があったのかもしれないが、彼の口からは一切の情報は漏れない。
また、彼がここにるという事は、当然彼の‘四角い主’もハルケギニアに紛れている可能性があるのだが、
その話をしようとする度、普段は喧しいまでに口数の多いデルフリンガーは、頑なに口を閉じた。

しつこく尋問するのもなんだと思い、スタースクリームも最近はその件について触れないようにしてやった。
少々前置きが長くなったが、そんなデルフリンガー曰く、
昨日彼は、殆ど気まぐれでオールド・オスマンの尾行を決行。
ディテクト・マジックや、オスマンの使い魔であるモートソグニルの存在に警戒しながら、
瞬時に振り向くだけでバレてしまいそうな至近距離で、オスマンにぴったりくっついて1日中行動を共にした。
たまにはそうやって、学院内の調査の為隠密行動もする様だが、それもあくまで暇つぶしの一環なのだろう。

この日はたまたま宝物庫の点検の日だったらしく、昼過ぎ頃にオスマン(ついでデルフ)は宝物庫の扉の前に訪れた。
前々より、スタースクリームとデルフは宝物庫に保管されている‘破壊の杖’の噂を耳にしており、
その噂の内容は、‘破壊の杖は異世界より流れし物’というものだった。
同じ異世界から訪れしトランスフォーマー達は、それに対し興味が湧いていたのだ。

学院内で唯一、扉を開ける権利を持つオスマンは、特殊な鍵で宝物庫の扉を開け、
中に入るのと同時に、デルフも宝物庫の監視衛士の目を掻い潜り、まんまと宝物庫へ侵入。
数時間かけ、1通りの点検と、序でに埃拭取り掃除を終えたオスマンが、ふと1つの箱を目にし、こう言った。

「破壊の杖、か……」
これが破壊の杖ですよと云わんばかりの独り言を、物陰から聞いていたデルフは、
その箱の中身こそが噂の破壊の杖であると確信。
わざと物音を立て、オスマンの注意を逸らし、その隙に、箱の中身の正体を自らの目で確認した。

そしてその正体こそが、ロケットランチャーだったのである。

『実物見るか? ちょいまち』

と、昨日の状況説明を終えたデルフリンガーが、
柄から飛び出し、昆虫に酷似した形へと変形すると、細い足でちょこちょこと部屋の角隅に駆け寄り、
そこに知らぬ間に敷詰められていた藁の束の中から、長方形の箱を穿り出し、
自身の身長の凡そ半分の大きさのそれを、ずるずるとスタースクリームの元に引っ張って来た。

『うんせうんせ。どっこいせ。ほら、これだぜ』
『盗んできたのかよ!』
『しっ、声がでかいっ。それに盗んだとは失礼だな、ちょっとレンタルしただけだよ』
『平和ボケにはなったが、手癖の悪さは相変わらずだな、お前は』
『お互い様だろ。クキャッキャッキャッ』

呆れるスタースクリームをよそに、デルフは手探りで箱の蓋を開ける。
見ると、箱の中には緑色の筒状の、大きさ70サント程の物体が収納されていた。
見慣れた人工兵器。デルフの言葉通り、確かにそれは1基のロケットランチャーであった。

スタースクリームはそれをひょいと持ち上げ、注意深く調べ始めた。
重量はそこそこあるが、スタースクリームにとっては軽い物である。
成形炸薬弾がまだ装填されているのを確かめる。まだ兵器としての実用は可能だ。
1通りそれを調べ終えると、暴発をしでかさないように、そっと元の箱に戻した。

『はぁーん、確かにこりゃ、元の世界の人間共が使ってたショッパイ火器兵器だな』
『なっ。しかしまぁ存在を知らんとは言え、これを見てよく杖だと言えるよな、ここの連中も』

そう、人間からしてみれば、ロケットランチャーは、戦車とも対抗しうる強力な兵器だが、
まさに存在そのものが兵器である、スタースクリームやデルフにとっては、少々危ない玩具程度の扱いである。
しかも、弾数はたった1発限り。彼等から見れば武器としての魅力は無きに等しかった。

『相棒よぉ、発明に部品が足りないって言ってただろう? 使っちゃえよ。
 ちょっと試して、駄目そうならすぐに返せばいいじゃんかケケケッ』

元々が凶悪な面構えである、デルフの不敵な笑みは、本人が思ってる以上に他人に不快感を与える。
形相の悪さならスタースクリームも引けを取らないが、さすがの彼も宝物庫に保管していた秘宝を、
無断で使用する事に抵抗は生じたが、デルフのその言葉に、結局

『…ま、それもそうだな』

と即答したのであった。



朝日が昇り、日光が部屋に届く事により生じる、室内の気温の変化で、ルイズは目を覚ました。
むくりと上半身を起こし、背伸びすると、目をこすりながら床に足を下ろし、ベッドから立ち上がった。
が、何か思い出したのか、再びベッドに腰を降ろした。

昨夜は、確かスタースクリームの酒屋でのバイトは休みだった。
ならば、今朝は自分で朝の支度をする必要は無い。

営業時間が夜間通しの酒場でのバイトがある日だと、彼女の使い魔の帰宅は早くても朝食の時間の後になる。
その為、普段は使い主として、朝の身支度を命令できないのだ。

「スタースクリーム? あれ?」

だが、この日の朝も、いつもと変わらず使い魔の姿は部屋に無かった。
見れば、使い魔にとって部屋の唯一の出入り口である窓が全開している。明朝出て行ったのだろう。
壁に凭れかかってる1.5メイルの大剣の柄に、デルフが納まってないのは、まぁいつもと変わらぬ光景。
う~、と唸りながら、再度ベッドから腰をあ上げ、クローゼットにのそのそと寄り、
残る最後の制服(しょっちゅう巻き込まれる爆発などで、何着も使い物にならなくなった為)を取り出し、
何やらぶつぶつ文句を言いながら、寝間着から着替え、朝食をとるために食堂へと向かった。

――数十分後

朝食の時間を終え、生徒達が1時間目の授業に取り組み始めた頃、
オスマンがたまたま担当授業の無かったコルベールを引き連れ、学院の本棟内の廊下を歩んでいた。

「オールド・オスマン、宝物庫には一昨日点検に行ったのでしょう? 何故今日また」
「うーむ、何か胸騒ぎがしてな。妙なモヤモヤ感と言うかのぉ」

そうこう会話している内に、宝物庫の巨大な扉の前に到着し、
昨夜から、不眠の番で引き続き職務をこなしている衛兵に、一応何か変わった事が無かったか聞いたが、
曰く特に何も異変は感じなかったとの事だった。扉を開け、オスマンはコルベールを連れ中へ入る。
案の定、オスマンのモヤモヤ感は的中した。


これまた時は経過し、時刻は、2時間目の授業が始まった頃だろうか。

晴天の穏やかな空気の下、以前デルフとギーシュが決闘の地として選んだ、ヴェストリの広場の中央で、
何者かが多くのガラクタに囲まれ、何やら鉄を叩く音を発しながら座り込んでいた。
スタースクリームである。鉄を叩く音の発生原因は、彼が金槌で何か作業をしているからであった。

彼の他に、サラマンダーのフレイムと、ジャイアントモールのヴェルダンデの姿もある。
ヴェルダンデは物珍しさにか、スタースクリームの作業を横から食い入る様に見ている一方、
フレイムは少し離れた場所で、低い欠伸の唸りを気兼ねなく連呼し、目を閉じて日向ぼっこに精を入れていた。

『いいのかい。それはこの学院の秘宝なんだろう? バレたら、怒られるどころじゃすまないと思うよ』
『なぁに、少しイジったら直して返すつもりだ。何より、盗んだ張本人はデルフだしな。俺は知らん』
『なんと言い称えようかな、度胸が座ってると言うべきか。どうなってもぼく達は知らないよ』

本来、蜥蜴や土竜と難なく会話できるような翻訳能力は、さすがのトランスフォーマーにも備わっていない。
しかし、ここで使い魔として召喚された動物や幻獣達とであれば、会話は可能だ。
大抵の場合、使い魔となり知能を得た動物達は言語を理解し、主人の命令を的確に聞く事が出来る。

但し、いかに知能指数が上がろうと、喉の器官までは発達しないため、言葉による会話は不可能だが、
使い魔同士であれば、野生だった頃の本能で、意思の疎通は困難では無い。
例えば、蝙蝠が人間には聞き取れない超音波で、互いのやり取りをする様なものでる。
スタースクリームの場合、電子頭脳でこの音波の周波数を解読し、人語に値する音に読み取っているのだ。

『で、何を作ってるって? さっきはでんちって言ってたね』
『ああ、電池だ。なんでもかんでも魔法に頼るここの無精者どもに、科学の素晴らしさを見せてやるのさ』

現在、破壊の杖――ロケットランチャーは、ものの無残なバラバラの姿に成果てている。
スタースクリームが、コルベールの研究所から借りた金槌や工具用鏝で分解し、
使えそうなパーツに小分けしているためだ。
誤爆を防ぐために信管を引っこ抜いた後、砲弾は危なっかしいので、ヴェルダンデの掘った穴深くに埋めた。
年代物の骨董品だが、部品が殆ど錆付いていないのは、強力な「固定化」の魔法をかけていた御蔭であろう。

胡座で地面に座り込み、ロケットランチャーを解体を続けるスタースクリームの目の少し先には、
約1メイル四方の、コルベールから貰った余りの鉄屑を組み合わせて作った、謎の鉄箱がある。

また、傍らには、何十本もの大小様々な針金があり、これ等は配線部品として使用するらしい。
そして、そこから2メイルほど距離をおいた場所に、3メイル四方の大きな木箱があり、
その箱の上にびっしり敷き詰められた、鏡の様な板が木箱の存在感を際立たせている。

よく原理がわからないが、スタースクリームの言葉を鵜呑みすれば、自己発電バッテリーを試作しているらしい。
木箱の上に敷き詰められた鏡板は、実は太陽発電用のソーラーパネルの出来損ないなのだ。

ソーラーパネルに必要なシリコンは、森林で採取した樹脂をコルベールの研究所で他物質と配合し作製、
1メイル四方の四角い骨組みにその特製シリコンを填め込んで、なんとかソーラーパネルにも見取れる形にこさえ、
同じ物を9枚複製、針金コードでパネル同士を連結し、学院の倉庫で拾った大きな木箱の上に敷き詰め、
その木箱を太陽の光がよく当たる位置に設置した。
さらに5メイル程の延長針金コードを連結、例の鉄箱に接続しているのが今の状態である。

『という理論だ。解ったか?』
『えーと、えーと。うーん』

工具を片手に、発明について、ヴェルダンデに熱心に解説し、感想を求めるスタースクリームだが、
当の巨大土竜は、どう答えれば良いのか判断に戸惑っていた。
そんな彼は、しばらく云々唸った後、返答を誤魔化すためか、きょろきょろと周りを見渡す。

『そう言えば、また彼女がいないなぁ』
『うちの桃色主人か。授業中だろ』
『違うよ。あのシルフィードって名の韻竜さ』
『インリュウ? なんだそりゃ』
『あれ、知らなかったかい? てっきり使い魔同士なんだから解ってたと思ったんだけど』

シルフィード及びインリュウ、なる単語を記憶端末装置から検索するスタースクリーム。
「シルフィ-ド」のワードは、数日前のキュルケの「タバサのシルフィード」という発言から察するに、
ルイズのクラスメートの使い魔である事は解る。
だが「インリュウ」は、広大な電子頭脳内データを洗いざらい調べても、該当するデータは現れなかった。
後で主人にでも聞くとするか、と結論に達しようとしたその時、

『彼女が韻竜だって事は、ぼくたち使い魔同士だけの秘密だからね』
というヴェルダンデの忠告に、その辺ややこしい問題が建立しているのを悟り、
スタースクリームは頭脳から「インリュウ」に関しての興味を完全に解消させ、再び作業に没頭するのだった。

『スタースクリーム、君がいつも広場とかでぼくらと合流する直前に、彼女は君の気配を察知して、
 顔を紅く染めながらどこかへ飛んで行っちゃうんだよ』
『俺が嫌いって事か』
『いやぁ、それは多分違うんじゃないかなぁ』
『じゃあなんなんだ』
『これまたなんて答えたらいいのかなぁ。うーん』

会話の絶えない中、乍作業でスタースクリームの工作は着々と進んでいた。
今彼は、ロケットランチャーの解体を終え、使う予定のパーツを一端小さな空箱に入れて放置した後、
例の鉄箱のいたる場所に、小さな白い石灰岩、つまりチョークで印を刻んでいる。
そして、印を刻み終えると、鉛で出来た50サント程の細い棒と、針金コードを5本用意した。
何をするのか、全く予想が付かない。

さて、戦闘機F-22―ラプターから、手足の生えた亜人の姿へ変形するスタースクリームの外見に、
所々にF-22の名残があるのは至極当たり前の事である。

胸部には本来ならパイロットの命を預かるコックピット。
背中にはラプターの両翼が双方とも折畳まれた形で顕在し、機械の翼人、という言葉にも比喩できる。
そして、両肩にて存在をアピールする、2つのジェット噴射ノズル。
頭部に隣接したこの噴射ノズルは、人型形態でも使用可能で、
世界広しといえども、本来なら大空を飛翔するために開発されたターボファンエンジンを、
少しばかり威力の強いガスバーナー感覚で、別の用途に使用するのは、このスタースクリームぐらいであろう。

彼は座った体勢を維持したまま、右肩のターボファンエンジンを起動、燃焼ガスを最小出力で噴射。
左手で先程の鉛棒を掴み、その棒の先端を噴射ガスに一瞬当てる
(この姿、人間に見立てると、右肩のコリを自身の左手で解すあの仕草に若干似ている)。

ガスの高熱により、鉛棒の先端は瞬時に液体へと物理変化した。
すかさず、鉛棒をガスから離し、鉄箱の印を刻んだ部分に、融けた鉛の滴を垂らした。
そして、針金コードの先端の金属部分を、鉄箱に垂らされた滴に重ねるように浸ける。
これで鉛の液体が、空気の温度で硬直すれば、鉄箱と針金コードの接合完了となる。半田付けの感覚に近い。
他に4箇所の印を付けた部分に、同じ様に針金コードを溶接で接続した。
1通り接着作業を終えると、一休みして工具を弄り始めたスタースクリームの元に、紅い4足の蜥蜴が近づく。

『さっきから会話を聞いてみれば、やっぱり鈍いな。ご主人さまの言ってた通りだ』
『あん? 誰が鈍いだって? この4足歩行風情が』

居眠りから覚めたフレイムの放った言葉に反応し、手にしていた工具を地面に抛るスタースクリーム。
犬猿の仲という程では無いが、お互いの主人同士の関係と相互する如く、彼とフレイムは喧嘩になりやすい。

『なんで‘青いの’も君みたいなのに興味を持ったんだろうか。ああ趣味が悪い』
『てめぇは一々俺に喧嘩売らないと、気がすまないらしいな』
『初対面の時に、ぼくを最初にからかったのは君じゃなかったかな』
『悪かったな、俺は爬虫類嫌いなもんでね』
『見事なり偏見だね。頭冷やそうか? あいや、燃やそうか?』
『上等だ。やってみるがいい』

フレイムが低い唸りを上げ、尻尾の炎を灼熱の勢いに増幅させ、挑発をする。
スタースクリームが立ち上がり、左腕を4mmガトリング砲へと形状を変化させ、構える。
一触即発の状況に、慌ててヴェルダンデが2体の合間に割って入って、仲裁役を買って出た。

『まぁまぁ。ケンカごっこも体を動かすには丁度いいかもしれないけど、今は危ないよ?
 この鉄屑の尖った部分が、足に突き刺さって怪我でもしたら、ご主人さまに無駄な心配をさせてしまうよ』

ヴェルダンデの介入の直後、一瞬の沈黙の間が経過し、フレイムは、あぁ下らないと呟き、
その場を離れ、体を丸くして日向ぼっこの続きを始めた。
スタースクリームもどすんと音を立てて元の場所に座り込み、工具を拾って作業を再開。
ヴェルダンデも、やれやれと胸を撫で下ろし、また発明見学の定位置に就いた。

『それで、発明は巧くいきそうなのかい?』
『ああ、このロケットランチャーの部品の御蔭で、鉄箱に必要だった足りねぇ部品を代用する事ができたからな。
 後は太陽熱エネルギーをなんとかできりゃ、エネルギーをこの鉄箱に蓄電してバッテリーが完成する』
『ふぅん、もし成功したらすごそうだね』
『おうよ、特許でも取りゃ俺も大金持ちかもしれねぇ。そんときゃ蚯蚓の高級サラダでも食わしてやるよ』
『楽しみにしているよ。頑張ってね』

勿論技術的な面ではさっぱり理解はできないが、スタースクリームの熱心さや行動力、
手先の器用さに、ヴェルダンデは素直に感嘆した。


「スタァァスクルィィィッム!!!!」

不意に放たれた、無駄に舌を絡める聞き覚えのある声に、スタースクリームは座ったまま後ろを振り向く。
そこに見えるは、当然ながらルイズであった。えらくご立腹な様子が見て解る。

『あれって、君の使い主さまじゃないか。まだ授業中なのに』
『あん? なんだよ、もうバレちまったか』
「あんたって愚か者は、ついに窃盗にまで手を染めて!!」
『よく解ったな』
「わからいでか! 今朝方宝物庫にこんな張り紙があったそうよ!」

左手を腰に当て、薄汚れた羊皮紙をスタースクリームの目の前に突きつけるルイズ。
見れば、何か文字が並んでるようだが、まだスターはハルケギニアに来て日が浅いので、読む事が出来ない。
それを悟ったか、ルイズが代わりに、紙に記された内容を荒めの声で述べた。

‘破壊の杖、確かに領収いたしました。ご心配無く、ちょっと借りるだけですクキャッ。航空参謀のスタスク’

「なによこれ! しかもクキャって何よクキャって!」
『あー。あんの野郎、勝手に俺の名義語りやがったな』

早くも破壊の杖窃盗が表沙汰になってしまったが、だからと言って、彼から取り乱す様子は見られない。
発明の進行がが順調で心が踊り、その辺の事情はもう眼中に無い様だ。
バッテリーが完成すれば、ルイズを始め皆がその技術に感服して、たかだか杖1本盗んだ事など帳消しになる、
という若干自惚れ気味な余裕もあるのだろう。

ちなみに、ご丁寧に犯行声明を残したのは、盗みの主犯デルフと考えてまず間違いない。
フレンもといデルフリンガーは、本人曰く何千年もの昔に、この地に訪れたらしい。
相変わらず、その理由と経由は、都合よく記憶から消失されているそうだが。
それ程の期間があれば、ハルケギニア語を理解し、巧みに文章を書きとめる技を得るなど容易い事である。

『盗んだのは俺じゃないって』
「この期に及んで見苦しいわ。こうやって自慢げに、盗んだ事を紙に記して主張するのはあんたぐらいよ」
『ひでぇ言われ様だな。そこまで自己満野郎に見られてるのか俺は。
 考えてもみろよ、俺はまだこの世界の言葉を完全に理解して無いんだ。んな文章書けるわきゃないだろ?』

スタースクリームのその言葉に、ルイズは怒りに歪んだ顔を僅かに緩ませ、
手にしていた羊皮紙を検めるように目に通した。確かに、よく観ればけっこうな達筆である。
いかに学習能力の高い者であっても、言語を理解するのは兎も角、
ここまで綺麗に文字を書く技術を得るには、それなりの時間が必要であろう。
まだ召喚されて日の浅いスタースクリームが、この文を書くのは有り得ないのだ。

「でも、杖を弄ってるのは事実なんでしょ! 何よこの散かった鉄のガラクタ。まぁ~た変な物を作って。
 早く杖を返しなさい! というか何処に隠したの!」
『あえて言わせてもらおう。やだね。まぁもう少し待ってろや、今にこの素晴らしい発明が完成するからな。
 そうすりゃあんたへの借金も返せるしうんぬんかんぬん』

そんな具合に延々と自身満々に語るスタースクリームを無視し、
所々に括りつけられた針金コードを、コモンマジックで外そうと、杖を取り出すルイズ。
ほぼ同時に、主人から彼女の危険性を伝えられていたフレイムとヴェルダンデが、各々その場から逃げ出す。
慌てて逃げた2匹の使い魔を目の当たりにし、何事かと演説を止めたスタースクリームの視界に、
今まさに魔法を使わんとばかりに、杖を高らかに掲げるルイズの姿があった。

『わぁっ馬鹿っ! 何やってんだ、余計な事するなぁぁ!』
「ていっ」

最悪の結末を阻止せんと、スターはルイズを止めようとしたが、決して止まらぬ時の流れは残酷なものであった。
彼が何日もの間、材料を集め、こつこつと作り上げていたバッテリーモドキは、
同じくわざわざシリコンから製作した、ソーラーパネルモドキ諸共、粉々に爆発粉砕してしまった。
かくも悲しきかな、「作るは長いが壊れるは一瞬」の摂理は。

『あ、ああ、ああぁぁぁぁ!! 畜生ぉ、珍しく成功しそうだったのに、なんちゅう事しやがったんだ!
 阿呆! 八重歯折っちまうぞ!! この爆発しか脳の無い無能幼女がぁぁ!!』

爆風に巻き込まれ、煤だらけになったスタースクリームが、同じく爆風によって制服がボロボロになり、
薄い肌色の肩や臍を露わにして立ち尽くすルイズに、地団太踏みながら、指差して大いに怒鳴り散らす。
機械の体を持つトランスフォーマーにとって、機械の工作は、ある意味子供を生むようなものである。
そんな我が子を、原形を止めない程に無残な姿に曝された
スタースクリームの怒りの心境は、或いは同情できるに値するのかもしれない。

しかし、ルイズにもルイズなりの思いがあり、
彼女からしてみれば、学院の大切な秘宝を盗んでまで(盗みに直接関与したのはデルフだが)、
ワケのわからない発明に取り込む、時に憎らしくも愛らしい使い魔の今後が色々と心配でならないのだ。
我侭で身勝手な出来の悪い弟を持つ姉の心境とは、こんな具合なのであろうか。

だからこそ、ここは厳しく。
と、自身を無能幼女呼ばわりした使い魔に、ルイズはお仕置きする事を決意した。
決して、制服がズタズタになったからではない。と思われる。

「スタースクリーム。だ、誰に向かって口を聞いてるのか、ちょ、ちょっと自問自答してごらんなさい」
『ああん!? へ!? 誰って? そりゃ目の前にいる、顔を真っ赤にしながら、
 この世の者とは思えない修羅の形相で、杖を力強く握ってらっしゃる俺の使い主様。
 ほほう、だいぶボルテージが上がってるな?』
「い、今までの、た、たた絶えずなる過ちや、愚かなる愚考の数々。まぁ、その、ゆゆ許しましょう。
 謝れば、ね」

明らかに平常心を保てて無い事を体現するように身震いをしながら、あくまで寛大な使い主として、

「素直に謝ったら、ゆ、許してあげないでもないわよ、へぷしっ。
 そうしたら、オールド・オスマンも刑罰を少しは緩めてくれるわ、へっくしょん」

とくしゃみを加えながら、使い魔に謝罪を求めた。
制服が大幅に裂けた事により、身体の8割が露出されている為、体が冷えたのだろう。

『はっはっは、風邪ひいちゃったわ私ったらなんてドジっ娘なんでしょ、のつもりか? 
 笑わしてくれんじゃねぇか』

いつもなら情け無い声を上げながら謝罪表明するスタースクリームも、今回は後に引かない。
発明を失敗に導かれた事への恨みが、彼をいつもに増して強気な態度にさせているらしい。

「だれの……誰の! せいで! 制服が! 何着! ただの薄汚い布になったか! わかってんの!?
 へっくしょい!」
『少なくとも今の爆発自体はあんたの自業自得だろうが!』

両者、全く引けを取らない。ルイズがくしゃみをする度に、唾液がスタースクリームの顔に飛び散るが、
それは言い争いが収まる起因には到底及ばなかった。

「なんで素直にごめんなさいと言えないの、このひよこっ!」
『ほほぅ、挙句の果てにひよこか! この航空参謀様に対してひよこ呼ばわりか! いい度胸してんな!!
 今まで俺様の大いなる心であんたのヒステリーに我慢してきたがもう勘弁ならな』

「う、う、うるさいうるさいうるさいだまれだまれだまれじゃぁーかぁーしぃぃぃぃっ!!!」

ルイズの獣の咆哮に近い叫びを切目に、永遠にも思える空気の静けさが両者の間に漂った。

「もぉ駄目。堪忍袋の緒が切れたわ。一寸そこで待ってなさい」

そう言い捨てると、ルイズは宿塔の方へ去って行き、3分後に何かを抱えて再び現れた。
彼女が抱えていたそれは、3本の箒と、1冊の書物であった。

『なんだその本は』
「‘ガーゴイルを実験的にからかう49の方法’。タバサのお奨めで、この前買ってきたの」
『んなもん買う暇あったら、少しは魔法の勉強なり鍛錬なりした方がいいんじゃねぇか?』
「してるわよ。えぇしてますとも。毎日授業もちゃんと聞いてるわよ。 
 部屋でもコモンマジックの練習を欠かさずやってるわよ。なのにさっぱり上達しないのよ。何故か」
『で、さっさと読んだらどうなんだ』
「そうね。えーと、実験その38、‘魔法で制御不能になった際の応急手段’。
 なになに、先ず1メイル程の細い棒を3本用意します。これは箒でいいわよね。へぷしっ」
『だから箒なんざ持ってきたのか』
「あー、金槌も1本いるのね。忘れちゃった。そこにあるの貸してくれる?」
『ほらよ』

運良く爆風に逃れ、なんの損傷を負ってなかった1本の金槌をルイズに手渡すスタースクリーム。
彼女は受け取った金槌の重さを確認すると、足元に置き、再び本に目を通す。
えらく冷淡なルイズとスタースクリームの対話だが、
そこに秘めたる漠然とした緊張感が、確実に野次馬(主に他の使い魔)をその場から遠ざけていた。

「ちょっとそのままじっとしてくれる? 棒をガーゴイルの適当な処に刺して下さいって書いてあるの」
『どうぞご自由に。その程度じゃ痛くも痒くもねぇけどな』

本を地面に置き、箒を3本手にし、腕を組んで貫禄を示して胡座を組むスタースクリームの元に近寄るルイズ。
ちなみにこの時点で、彼女は先の爆発によりマントは外れ制服が破れたままである。

ニーソックスは殆ど破れてないが、スカートが原形を止めてない故に、所謂絶対領域は消滅しており、
その代わり、薄い桃色のパンツを露わにしてニーソックスは健在という‘聖域’が発生していた。
シャツも下腹部の形状や色を眼に入れれる程に焼け焦げ、もし後十数サント程余分に破れていたら、
ここハルケギニアのブラジャーの概念が無い文化によって、危く発育の乏しい胸部までもが露出される処であった。

本人には自覚が無くとも、そんな淫らな姿で、座ったスタースクリームに密着し、
彼の鉄の体躯に、箒の柄を差し込む光景は、妙になんと言うかアレであった。

「後は、突き刺した箒を金槌で、杭を地中に打ち込む要領で叩き込みます。ですって」
『あ。ちょっとタンマ、地味に痛そうソレ。やめろ、ストップ、やめてぇぇ!!!』

例の如く、体内に喰い込んだ箒による障害で、トランスフォーム不能のスタースクリームが
その場から逃げ出す術は無い。変形せずとも走って逃げる選択肢も、ルイズの不のオーラがそれを消滅させた。
蛇に睨まれた蛙とは、まさにこの事。

『結局いつもの箒折檻の発展型じゃねーかぁ!! うわぁぁぁぁ!! やぁぁめぇぇぇろぉぉぉ!!!!』


「オールド・オスマン、秘宝もあの通り……。
 この場合、そのぅ、彼への厳罰はどう下せばいいのでしょうか」

ヴェストリの広場での騒がしい事の流れを、学院長室から、魔法によっての現場を映し出した鏡で、
半ば傍観していたコルベールの言葉に、オールド・オスマンは鼻を小指で穿りながら答える。

「まぁ、壊れてしまった物はしょうがないじゃろて。それに、罰する必要も無きに等しかろう。見てみ」

金槌の重い一振りが箒を叩く度に、スタースクリームの悲鳴が木霊する。
痛みに耐えられず、ジタバタと暴れる彼を無理やり抑える半裸のルイズの姿は、
肌を露出した異性に対しての感情が芽生える前に、ちょっとした、否かなりの寒気を与えた。

「まったく。使い主も使い魔も揃ってえらいトラブルメーカーじゃのぅ」
「後で傷の補修をしてやらねばなりませんなぁ」
「厳重注意くらいもしておいてくれ。やれやれじゃ」

ため息混じりに呟くオスマンとは対照的に、コルベールは内面で好奇心の心境に浸っていた。
一体何を作り出そうとしていたのか、後で聞いておかねば、と。

絶賛折檻中のスタースクリームに、どうか口だけは聴けるように手加減してくれたまえミス・ヴァリエール、
とコルベールは禿た頭を輝かせて、人知れず祈った。



「何。学院を出るだと」

深夜、トリスタニアの裏街路、チクトンネ街の一角に聳える酒場‘魅惑の妖精亭’にて、
連日のように多くの客で大盛況の中、酔いもせず騒ぎもせず、只淡々とワインを口に含み味を確かめながら、
隣接した別々のテーブルで、お互い同じ方向を向いて、まったく目を合わさず会話している2人の人間の姿がある。

トリステイン王宮の魔法衛士隊グリフォン隊隊長兼、アルビオン反乱軍レコン・キスタの諜報員ワルドと、
トリステイン学院学院長秘書兼、怪盗‘土くれのフーケ’と名を馳せる、ロングビル。本名は別にある。
若い異性同士だが、同じテーブルに座らない所などを見ても、仲のいいカップル、といった印象は受けない。

この2人は紹介文を見て解る通り、揃って同じ組織のスパイである。
何時の間にか、ここ魅惑の妖精亭で、お互いの情報交換するのが暗黙の了解となっていた。
店の客たちが巻き起こす騒音は、下手なサイレントの魔法よりも、
よっぽど効率よく2人の秘密の会話を、他に漏れないよう掻き消してくれる。
わざわざこんな場所で、ディテクト・マジックを張り巡らせている輩もいないであろう。
そして何より、良質のワインを取り扱ってるのが、ワルド個人として存外気に入ったようだ。

「破壊の杖も塵になっちゃったしねぇ。あそこに留まる意味も無くなったよ。
 例の褐色のスコーピスの探求にでも専念するさ」

褐色のスコーピス。
怪盗として暗躍(といってもしっかり犯行声明は残すが)するロングビルが、
その手腕が知られ、ワルドを通してレコン・キスタに勧誘され、最初に与えられた使命が、
極一部の歴史書物にて、その存在が仄めかされている‘褐色のスコーピス’の探索であった。
スコーピスの発見、或いはそれに繋がる重大な情報を手に入れた暁には、
膨大な謝礼金を、ロングビルに渡すという契約である。
彼女はその謝礼金を、アルビオンに住む彼女の親族への援助の足しにしたいのだ。

だが、書物に記されたスコーピスの描写は非常に漠然としたもので、そもそも実在するのかも怪しい。
現在も、東の砂漠地帯にていくつかの目撃証言もあるにはあるが、それも信憑性の薄いものである。
当初はとある酒場で働き情報を収集していたが、そこでオールド・オスマンに気に入られ、
秘書として雇われ、今に至る。
学院の図書館には、職員以外は触れてならぬ貴重な書物があると聞くし、
そして様々な秘宝が納められた宝物庫の存在が、彼女を秘書としての道に歩ませたのだ。
だが、図書館に収められていた書物に書かれていた情報は、殆ど既に得た物だったのに加え、
宝物庫も、さすがに一筋縄では下手に手出しできない仕様になっており、
しかも、一番の目的だった‘破壊の杖’の末路は知っての通り。
これ以上学院で燻るのも時間の無駄だと判断したらしい。
よく言えばまだ若者並みの性欲の持ち主、悪く言えば只の変態爺だったオスマンとも、別れの潮時だろう。

「なんなら俺に着いて来るか? どうせアルビオンに行くんだろう」
「いや、だから先ずは地上でスコーピスを探すわよ。そうねぇ、ラ・ロシェールまでは同行しようかしらね」
「いいだろう。学院を退職する時の口上も考えておけよ」

何日か後に迫ったアルビオンへの旅立ちに、ロングビルも途中まで同行する事で意見は一致した。
2人は相変わらず目を合わせないまま、今後の打ち合わせを行っていたが、ふとワルドが、
懐中時計で時刻を確認すると、それまで一口ずつ味わっていたワインの残りを、一気に喉に流し込んだ。

「すまないが、話の続きは明日に願えないか? そろそろ王宮での勤めがあるんでね」
「仕方ないわね。あんまり頻繁に外出するのは避けた方が良いけど、まぁいいわ。明日、同じ時間に此処ね」
「ああ。なんなら別の場所にするか?」
「ここで結構。わりにいい店だしね」

ワルドは席を立ち、代金をチップ込みの色付きでテーブルに置き、店を後にした。
少し間を置き、ロングビルもフードで顔を深く隠し、席を立った。
まいどありー、と店の給仕長ジェシカが愛想良く見送った後、
ワルド達が座っていたテーブルを布巾で拭き、ワインの空瓶とグラスを下げる。
それらを洗い場に運んだ時、数名の若い女性客が店の入り口を潜った。
客層から見て、彼女たちがこの店に訪れた理由は明らか。
店の給仕であり用心棒でありマスコットである、スタースクリームを一目見に来たのだろう。

「スタスクー、8番テーブル接待お願い。あれ? スタスク?」

ジェシカは店内中を見回すが、
不気味なまでの存在感を放つ、逆三角形スタイルのガーゴイルが店内にいないのは一目瞭然。
厨房や店の外なども探し回ったが、結局見つける事は出来ず、
彼女の父でありこの店の店主であるスカロンに問い掛けた。

「ねぇ、パパ…じゃなくてミス・マドモワゼル、スタスク今日は休みだっけ?」
「そうなのよん。まったく、次無断休職なんかしたら、お給料引いちゃうわよって明日伝えときなさい」
「はーい」

スタースクリームの不在を知り、8番テーブルの客に詫びを入れた後、少し気の抜けるジェシカ。
今夜辺り、普段の労いを籠めてラム酒でも奢ってあげようと思っていたからだ。
酔った勢いで、スタースクリームの事を色々問い質してやろう、という思惑も混みでだが。

だが、現在ヴェストリの広場で、ルイズからの猛絶折檻の末、只の鉄屑となって力尽きていた航空参謀に、
トリスタニアの酒場へ出勤する力など残っていなかった。

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