「ごちそうさん。いや、久々にこんなに美味い飯を食わせてもらいましたよ。」
久しぶりのまともな食事に、ご機嫌な阿紫花は心の底から礼を述べた。
現在、彼が居る場所はトリステイン魔法学院の『アルヴィーズの食堂』、その調理場の隅である。
現在、彼が居る場所はトリステイン魔法学院の『アルヴィーズの食堂』、その調理場の隅である。
「なーに、気にするな。困ったときはお互い様だ、平民は平民同士助けあわねえとな。」
そう言って豪快に笑いながら背中を叩いてくる男は、この食堂の料理長マルトー。
話を聞く限りでは、彼は大層な貴族嫌いであり、阿柴花の食事している間延々と愚痴をこぼしていた。
話を聞く限りでは、彼は大層な貴族嫌いであり、阿柴花の食事している間延々と愚痴をこぼしていた。
「そうですよ。賄いでよければいっぱいありますから、遠慮しないでどんどん食べてくださいね。」
皿を片付けながら言ってきたのは、先ほど食堂で合図をくれたメイド、この世界に来てからほとんど見かけなかった黒眼黒髪の少女シエスタだ。
彼女は阿柴花の食事を世話しながら、元気付けようと励まし続けてくれていた。
彼女は阿柴花の食事を世話しながら、元気付けようと励まし続けてくれていた。
「そう言ってもらえると助かりますね。」
「いやいや、こちらこそすまなかったな、あんな飯を出しちまってよ。平民の使い魔が召喚された噂は聞いてたが、注文を受けて時はさすがに頭にきたぜ。
でも貴族に逆らうわけにもいかなくてな。罪滅ぼしじゃないが、いつでも好きなときに飯を食いにきてくれよ。」
「マルトーさんの言う通りです。いくら使い魔とはいえ、あの仕打ちは酷すぎます。」
「いやいや、こちらこそすまなかったな、あんな飯を出しちまってよ。平民の使い魔が召喚された噂は聞いてたが、注文を受けて時はさすがに頭にきたぜ。
でも貴族に逆らうわけにもいかなくてな。罪滅ぼしじゃないが、いつでも好きなときに飯を食いにきてくれよ。」
「マルトーさんの言う通りです。いくら使い魔とはいえ、あの仕打ちは酷すぎます。」
マルトーは、すまなそうにしながら憤慨した口調で言ってくる。
それに続けて、シエスタも可憐な顔を歪めながら、ルイズを非難する。
それに続けて、シエスタも可憐な顔を歪めながら、ルイズを非難する。
「それじゃあ、お言葉に甘えて、これからもちょくちょく来させてもらいますよ。その代わりと言っちゃなんですが、何か手伝える事でもありませんかねぇ?」
裏のある厚意ならいくらでも受け入れてから切り捨てるが、真に善意からの厚意を一方的に受けるのは主義じゃない。
「そんな、気にしないでください。当然のことですから。」
「そうだぜ。俺の尊敬する偉人の言葉に『泣いている人の隣で食べるご飯はおいしくない。』ってのがあってな。食事ってのは、より多くの仲間と分けあって食べるもんだ。
それを分かってねえ貴族のガキどもに食わせるくらいなら、いくらでもお前さんに食わしてやるさ。」
「そうだぜ。俺の尊敬する偉人の言葉に『泣いている人の隣で食べるご飯はおいしくない。』ってのがあってな。食事ってのは、より多くの仲間と分けあって食べるもんだ。
それを分かってねえ貴族のガキどもに食わせるくらいなら、いくらでもお前さんに食わしてやるさ。」
善意を当然の様に他人に与える。
この二人を見ていると、自分が場違いな存在の思えてくる。
この善意に甘え続けると、本当に自分に価値が無くなってしまう。
この善意に甘え続けると、本当に自分に価値が無くなってしまう。
一瞬そんな考えが浮かんだ。
だが、すぐに嘲笑とともに否定する。
だが、すぐに嘲笑とともに否定する。
自分は、すでに彼らとは違う存在だ。
この身にすでに価値など無い。
この手はすでに血に汚れている。
いままでの人生を後悔するつもりも、罪を懺悔するつもりもさらさら無い。
この身にすでに価値など無い。
この手はすでに血に汚れている。
いままでの人生を後悔するつもりも、罪を懺悔するつもりもさらさら無い。
しかし、
「いや、そうもいきませんよ。受けた恩は返さないといけませんから。」
少しでも自分に価値を見いだそうとする。
僅かでも彼らに追いつこうとする。
自分自身に反吐が出る。
所詮は、他人の血に染まった人生なのに。
僅かでも彼らに追いつこうとする。
自分自身に反吐が出る。
所詮は、他人の血に染まった人生なのに。
しかし、マルトーは、
「よーし、気に入った!それじゃあ、暇なときにでもシエスタの手伝いをしてやってくれ。それでいいか?」
そう言って、また肩を叩いてくる。
「ありがとうございます。そんな訳でシエスタ、お願いさせてもらっていいですか?」
「はい。こちらこそお願いします。それでは、昼食のときにお手伝いしいただいてもよろしいですか?」
「かまいませんよ。そんじゃ、そろそろ行かせてもらいますね。うちのご主人様に怒られちまいますし。」
「はい。こちらこそお願いします。それでは、昼食のときにお手伝いしいただいてもよろしいですか?」
「かまいませんよ。そんじゃ、そろそろ行かせてもらいますね。うちのご主人様に怒られちまいますし。」
阿紫花は、席を立ちながら言う。
「アシハナさん、負けないでくださいね。」
「そうだぞ、夜は酒を用意して待ってるからな。」
「そうだぞ、夜は酒を用意して待ってるからな。」
本当にいい奴らだ。
なんとなく顔を向け辛い。
なので、振り返らずに言った。
なので、振り返らずに言った。
「大丈夫ですよ。アタシは悪運だけは強い方ですからね。」
そのまま出て行こうとした。
しかし、大切なことを思い出して振り返った。
しかし、大切なことを思い出して振り返った。
「どうしました。何か忘れ物ですか?」
「いやぁ、そうじゃなくてですね。マルトーさんに訊きたい事があるんですが?」
「ん、どうかしたか?」
「こんな形の煙草って持ってませんかねぇ?」
「いやぁ、そうじゃなくてですね。マルトーさんに訊きたい事があるんですが?」
「ん、どうかしたか?」
「こんな形の煙草って持ってませんかねぇ?」
新品の箱の封を開けて、煙草を一本差し出して見せる。
二人は、不思議そうに煙草を観察してから。
二人は、不思議そうに煙草を観察してから。
「これが煙草ですか・・・すみません。私は見覚えありません。」
シエスタは、すまなそうに首をかしげた。
「気にしなくていいですよ。どうも、ここらじゃ珍しいらしいですから。
それで、マルトーさんはどうですか?」
それで、マルトーさんはどうですか?」
「んっ~ん、いや、持ってねえな。そもそも煙草は料理人の大敵だからな、あんまり詳しくは知らねぇんだ。」
マルトーも知らないらしい。
やはり、喫煙者に訊いてみるのが一番だろう。
やはり、喫煙者に訊いてみるのが一番だろう。
「そうですか。そんじゃあ、お邪魔しましたね。また後で来させてもらいますよ。」
今度こそは厨房を出る。
「はい。行ってらっしゃいませ。」
「美味いもん作って待ってるぜ。」
「美味いもん作って待ってるぜ。」
二人に見送られ、厨房を出る。
ブラブラと、元来た道を戻っていく。
しばらく人影が無かったが、食堂の入り口に近づくにつれて増えてくる。
ブラブラと、元来た道を戻っていく。
しばらく人影が無かったが、食堂の入り口に近づくにつれて増えてくる。
人の波に逆らいながら歩いていくと、食堂入り口が見えてきた。
「さて、まためんどくさくなりそうですね。」
そう言った阿紫花の視線の先には、眼を見ただけで無差別に生き物を殺す『邪眼』の様な眼でこちらを睨んでくるルイズが見えた。