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ゼロと迷宮職人-03


ゼロと迷宮職人 第三「階」 拳で、決着をつけましょう


/1/


トリスタニア魔法学院は全寮制である。教師も使用人も住み込みだ。
それだけ大勢の人間の食事をまかなうには、それ相応の厨房が必要になる。
そこを取り仕切るのはマルトー親方と呼ばれるいかついおっさんである。
腕は一流、妥協はしない。弟子には厳しさと優しさで接するナイスガイ。
言葉遣いは乱暴であるが、学院で働く平民には慕われている男だ。
今は昼過ぎ、貴族の少年少女のために色彩あざやかなデザートが作られていく。
調理器具が、食器が、時々怒鳴り声が、料理協奏曲を奏でている。
そんな中、こんにちわー、と少年の声。

「おう、ボウズ! よくきたなって、こらぁ! 横着するな!」

前半はアレンへの挨拶、後半は弟子への叱責である。

「こんにちわ、マルトーさん。あの……」
「すまねぇなボウズ! ちょいと忙しくてよ! メシはシエスタにいってくれ!」
「はい」

皆が慌ただしく動く厨房を探すと、すぐにシエスタは見つかった。

「シエスタさん」
「あら、いらっしゃいアレン君」

微笑むシエスタ。子供なのに礼儀正しいアレンをシエスタは好んでいた。普通の感覚で。

「ご飯いただいていいですか?」
「うん、すぐに用意してあげるからまっててね」
「はい」

程なくして、厨房の端でアレンの食事が並べられた。使用人たちが食べるまかないであったが、
そこは監督マルトーによる料理。実に美味しい。献立はパン、シチュー、形の悪いビスケットが二枚。
ひたむきにご飯を食べるアレンをニコニコしながら眺めていたシエスタは、ふと思い出したことを
口にした。

「そういえばアレン君、昨日マルトーさんに何かお願いしてなかった?」

昨晩、初めてアレンが厨房に顔を出した時のことである。食べ終わった後お礼をいったアレンが
マルトーとなにやら話をしていたのだ。まかせとけーがははは、とマルトーが笑っていたのが
印象に残っていた。

「はい、料理のお願いをしました」

ごくり、と口に含んでいたものを飲み込んでからアレンは答えた。

「料理の?」
「はい。これから色々食材を持ってくるので、それでご飯を作ってくださいと」
「食材って……アレン君、狩りとかできるの?」
「そんなところです」

はー、と感心するシエスタ。子供に仕事をさせるのは村でも街でもよくある事だが、
狩りは難易度が高い。ケガじゃすまないことも多いのだ。

「アレン君って村生まれでしょ? どこなのかな?」
「サウスアークの村です。山奥にありました」

聞いたことの無い名前だったが、山奥ならそういうものだろうとシエスタは考える。

「山なら動物がいるから、狩りなんだ」
「いえ、どっちかっていうと家具作りが盛んでした。森もすぐ近くにありましたし。
ぼくも最初は家具屋さんになろうと思ったんだけど、ほかの子がたくさん家具作りの
仕事に就いたからだめで。じゃあきこりかな、と思ったら森に魔物が住み着いちゃって」
「まあ!」

一大事である。そういった場合、領主などに退治を願うのが普通だ。が、すぐに動いてくれる
領主というのは少ない。中には放置し続ける輩もいる。

「ああ、魔物は退治できましたよ」
「え、ああ、そうなんだ。よかっ……」
「シエスター! 手が足りねぇ!」

マルトー親方の大声が厨房の奥から響いた。

「はーい! じゃ、アレン君、ゆっくり食べてね?」
「はい」

デザートのトレイを受け取りながらはて、とシエスタは違和感を覚えた。

「退治できた? 退治してもらった、じゃなくて?」


/2/


食事を終えたルイズは、デザートのケーキを食べつつ午後の予定を立てていた。
今日からダンジョンで魔物退治である。であれば武器が必要だ。誰かに錬金してもらう
必要がある。
それから、家具、家具だ。家具があれば魔物をその場におびき寄せられる、
とアレンが言っていた。家具といっても色々だ。
どんなものが必要なのかしら? テーブル? クローゼット? ベット?
アレンに聞く必要がある。いざ揃えるとなったらどうしよう。王都まで買いにいく?
平日は無理だから虚無の日に……。

そんな風に考えていたものだから、この声が聞こえてくるまで騒ぎに気付かなかった。

「やめてください!」

アレンの声だ。首をめぐらせば、食堂の一角に人だかりができている。アレンの声は
そこから聞こえてくる。今も、だ。なにやら口論している模様。だれと? 席を立って
人ごみに入る。
ルイズには状況が理解できていないが、騒ぎのあらすじはこういったものだ。

二年生でも指折りのかっこつけ、「青銅」のギーシュが落とした香水を、給仕のメイドこと
シエスタが拾って渡した。ギーシュは無視ったが周りの生徒によってそれが
「香水」のモンモラシーが作ったものと発覚。付き合っているのかとはやし立てる声が
一年生ケティの耳に届く。二又されたと気付いた彼女はサヨナラ宣言。さらにモンモラシーにもばれ、
無様に破局。周りの笑われたことも含め、シエスタに八つ当たりするギーシュを止めたのがアレン、
という流れである。

「アレン! ちょっと!」

急がなければならないと焦るルイズ。アレンは非常に、素晴らしく、これでもかというほどの
よい子である。たった二日の付き合いだが、先ほどそれを実感したルイズである。だから判る。
目の前で女の人が謂われなく責められていたらどうか? 決まっている。止める。
というか実際さっき止めていた。
人ごみを急いで進む。まずい、アレンは貴族、メイジというものを分かっていない。
平民が貴族にそんなことをいったらどうなるか分かっていない。
やっとの思いで前に出た。

「よろしい! ならばヴェストリの広場まで来たまえ! 決闘だ!」
「はい!」

事態はすでにとんでもない事になっていた。ルイズが呆然としていたのは数秒か。
アレンはすでにヴェストリの広場の場所を周りの生徒に聞き始めていた。

「待ちなさいッ!」
「あ、ご主人様」

駆け寄ってきたルイズを迎えるアレン。その表情は決闘を決めたというのに
いつもどおりである。

「謝りなさい、今すぐ! いま謝れば許してもらえるから! メイジと決闘なんかしたら
ケガじゃすまないわよ!?」
「そ、そう! ミス・ヴァリエールのいうとおりです! アレン君、お願いだから止めて!
私も一緒に、じゃない、私が謝るから!」
「ダメです」

アレン、一刀両断。思わず硬直する二人を真っ直ぐ見る。ルイズたちは気付かないが、
その表情はいつもと若干違う。眉の両端が少しだけ持ち上がっていた。

「人を傷つけるのは悪いことです。あの人はそれをして、おまけに何もしてないシエスタさんに
八つ当たりしました。そんなのはダメダメです。謝りません。決闘します」
「だから! 決闘はダメ! ギーシュはアレでも戦闘系の授業成績いいんだから! ゴーレムを
錬金させたら二年生指折りなのよ?」
「大丈夫です」

迷い無くアレンは言い放つ。

「ケガなんてしませんさせません。ぼくはダンジョンメーカーです。人を傷つけるのは
僕の仕事じゃないです」
「小僧! こっちこい! ギーシュがまってる」
「はい!」

案内役の生徒にくっついていくアレン。空元気でも、気負っているわけでもなく、
自然体で歩いていく。置いてけぼりを食らう二人。

「アレンったら……ッ!」
「ミス・ヴァリエール、アレン君、あんなに自信満々ですけど、大丈夫なんでしょうか?」

それはこっちが知りたいことだ、と心の中で思うルイズ。

「アレン君、狩人だっていうし……罠とか仕掛けるんでしょうか?」
「罠? 罠……」

アレンはダンジョンメーカーだ。よく分からないが、何かダンジョン的な罠を作ることが
できるのだろうか。と、そこまで考えたルイズの脳裏に、ひらめきが走った。

「そうよ! シャベルだわ!」
「シャベル、ですか? アレン君がいつも持ってる?」
「そうよシエスタ。あのシャベルは魔法のシャベル。土を自在に操るシャベルなの!」
「まあ!」

目を見開くシエスタ。ルイズの思考は止まらない。

「ゴーレムは土から錬金されるわ。つまり、あのシャベルが刺さったが最後、即座に
消滅よ!」
「そ、そんなことができるんですか!」
「たぶんだけどね。でも、いいえ、そんなまどろっこしいことすら不要だわ!
あのシャベルを地面に突き刺して大穴あけてゴーレムを落としちゃえば!」
「ケガ無しで勝てる! アレン君もギーシュ様も!」

思わず手をとって喜び合うルイズとシエスタ。たしかに、この手段ならばアレンの
言葉どおりの結果となる。

「こーしちゃいられないわ! アレンの晴れ舞台を見に行かなきゃ!」
「はい、ミス・ヴァリエール!」

二人は大急ぎでヴェストリの広場へと走り出した。


/3/


決闘会場ヴェストリ広場。中央でかっこつけているギーシュを遠巻きにして、生徒たちが
好き勝手騒ぎながら集まっていた。群集の反応は大きく分けて二つ。
生意気な平民のガキがいたぶられる様を楽しみに待つ者たちと、
子供に暴力を振るうことに眉をひそめる者たちだ。
前半は男子、後半は女子と分けることもできる。
ルイズとシエスタがその場に駆け込むと、丁度決闘が始まろうとしていた。

「よし、間に合った!」
「あ、ギーシュ様が」

シエスタの言葉どおり、ギーシュの杖であるところの造花のバラが振られ、花びらが落ちた
地面から青銅の戦乙女が現れる。

「だ、大丈夫ですよね? アレン君」
「大丈夫よ、ほら、アレンが動くわ」

自信満々でアレンを促すギーシュ。アレンは、はいといつもの如く返事をすると、
ギーシュに指を向けて一言。

「すいみん!」

ばたり、とギーシュが仰向けに倒れた。

「……」
「……」

ルイズ、無言。シエスタ、無言。まわりの生徒たちも無言。先ほどまでの騒がしさは
ぴたりと収まり、響くのはギーシュの寝息ばかり。
そんな中、アレンがてくてくとギーシュに近寄り造花のバラをとりあげる。

「勝ちました!」

一拍置いて。

「「「「「ええええええええええええええええええええええええええええええええええええ」」」」」

ギャラリー一同、これでもかというほどの疑惑の叫び。

「ちょ! ま! 待ちなさいよアレン!」

思わず飛び出すルイズ。

「あ、ご主人様。勝ちましたよ!」
「異議あり! 異議ありよその勝ち方! なによ今の!」

ポーズまでつけて異議申し立てをかますルイズ。周りの生徒たちも異議ありの大合唱だ。

「え? すいみんの魔法ですか?」
「魔法!? 魔法なのそれ!? 何の系統魔法? アレンってメイジなの? っていうか杖はどこ!」
「ぼく、メイジじゃなくてダンジョンメーカーです」
「それは知ってるの! そーじゃなくてメイジの血を引いているかって話!」
「よくわかりません」
「またそれー! っていうか杖ないから先住魔法!? アレンのご先祖様はエルフとかそういうの
なのー!?」
「普通に勉強して覚えましたよ?」
「あーもー! 話が通じてないっていうか使い魔が魔法使えて何で私がっ」

そんな風に(ルイズが一方的に)ぎゃあぎゃあとわめいていると、わりと近距離に
ファイアーボールが投げ込まれた。爆発。

「いー加減にしなさい! 話が進まないじゃないの!」

騒ぐ生徒たちの集団をかき分けて出てきたのは、誰であろうキュルケだった。
その後に青髪の少女が着いてきている。キュルケとは対照的な少女だ。背も胸も。

「あにしにきたのよキュルケ!」
「アンタは黙ってなさい。質問よりこのバカ騒ぎを終わらせる方が先でしょう」

キュルケはギャラリーへと向き直ると、アレンを指差す。

「決闘は、それを行った二人が結果を出すもの。それ以外の人間が結果について
どうこう言うなんて、無作法の極みよ! それを踏まえて異議を唱えるなら
アレン君に決闘を申し込みなさい!」

途端、それまでのブーイングが嘘のようにざわつき出す。彼ら彼女らは
決闘というショーを楽しみにきただけである。得体の知れない、もしかしたら
エルフの血を引いているかもしれない相手と決闘するような気概のある者は
いなかった。
そんな彼らをキュルケは小さく鼻で笑う。

「じゃあ、この決闘はアレン君の勝ちということで……」
「異議ありだっ!」

キュルケの宣言をさえぎって、周りの騒がしさで起きたギーシュが立ち上がる。

「あんなのは貴族の、いや、メイジの戦いじゃない!」
「なにいってんの。眠りの雲って魔法もあるでしょうに」
「卑怯すぎる! 不意打ちだったんだぞ!?」

地団太踏んで喚くギーシュを冷ややかな目でキュルケは見る。
「あんた、かかってきたまえー、って思いっきり余裕綽々で促してたじゃない」
「戦場で負けてもそうやって言い訳するの」

キュルケに続いて、今まで黙っていた青髪の少女まで追い討ちを入れる。

「うるさいうるさいうるさい! ともかくやり直しだ!」

駄々をこねるギーシュ。決闘前にこれでもかというほどかっこつけていたのだが、
今はまるでおもちゃを買ってもらえない子供のようである。

「あんた、いい加減に……」
「いいですよ」

あきれ返ったルイズが話を治めようと口を開いたが、それを遮ったのは今まで黙っていたアレンだ。

「決闘、やり直しましょう」
「アレン! 何を言うのよ! せっかく勝ったのに」

アレンは造花をギーシュに返して距離をとる。

「だって、この人全然反省してません。だったら反省するまでやるだけです。
それに、決闘はぼくとこの人が結果を出すんでしょう? 二人とも納得してないんだから
続けるだけです」

なんで僕が反省しなきゃならないんだ、と喚くギーシュを横目で睨むアレン。
ルイズとしても、そこまでいわれては引き下がるしかない。
ので。

「アレン、ちょっと耳貸しなさい」
「はい」

小声でアレンに耳打ちする。何度かアレンが頷いた。

「ルイズ! 決闘の邪魔だ、はやく下がりたまえ!」
「っさいわね! わかったわよ。アレン、いったとおりにね?」
「はい」

ルイズはキュルケ達と共にギャラリーに戻る。

「ねえ、何を吹き込んだの?」
「すぐに分かるわよ。それにしても、ああ、気付かなかったなぁ」
「何よ?」

再びギーシュと向き合うアレンを見ながら、ルイズは誰にいうでもなく口を開く。

「あの子、声も荒げないし、表情もあんまり変わらなかったけど……怒ってたわ」
「ええ!?」
「かなり、怒ってた」

驚くキュルケの隣で、青髪の少女がルイズに同意する。この少女もまた感情を表に
出さない。そのつながりで分かったのだろうか、とキュルケは思った。
そして再び決闘開始。怒り心頭のギーシュはバラを大きく振り、さらにゴーレムを
6体製造。最初に作った物とあわせて7体がアレンに殺到する。

「うわ、ちょっとルイズ!」
「大丈夫よ、ほら!」

ルイズが指差す先、アレンがもっていたシャベルを地面に突き刺した。途端、
ゴーレム達が走る地面の上に、六芒星が浮かび上がる。
地面が、消えた。当然その上にいたゴーレムは万有引力に引かれて、落下。

「ね」
「うっわー……」

これまた物議を醸し出しそうな勝ちかたである。

「平安京エイリアン」
「なにそれタバサ」
「いってみただけ」


/4/


「な、っとく、いくかぁぁぁぁ!」

喉は大丈夫かと心配になる大絶叫である。もちろんその主はギーシュだ。
じゃあ、とアレンは前置きして。

「拳で、決着をつけましょう」

握った両拳を、見せ付けるように掲げた。

「そ、そんなのは貴族のやり方じゃない!」
「ぼくは貴族じゃありませんし、そのやり方も知りません。ですけど」

真っ直ぐ、ゆるぎない目でギーシュを睨む。

「男のやり方ではあります」

ギーシュは口元をわななかせると、杖とマントを放り出した。ギャラリーが何かを
いっているが、耳に届いていない。怒りで目の前が真っ赤になっていた。
もはや口上は無かった。力いっぱい握り締めた拳を、振り上げた。
が。

「……」

そのまま、動きが止まった。気付いてしまったのである。今、己がいかに滑稽であるかを。
自分より年齢も背も低い子供に手を上げる。そのあまりにも愚かな行為が、ギーシュの目を
覚まさせたのだ。
思えば、何もかも自分が愚かだった。急速に冷めていく意識でギーシュは思い出す。
綺麗な女の子に持てたい。だからかっこつけた。
色々な女の子にちやほやされたい。だから二又をかけた。
モンモラシーの香水を落としたことでそれがばれて破局した。だからメイドに八つ当たりした。
そして今度はこの子供に。

「はは……」

拳を力なく下ろしながら、ギーシュは笑った。自分を笑った。もう、笑うしかなかった。

「僕の、負けだ。はじめっから、僕は負けていたんだ……」
「それは、僕が勝ったんじゃありません。あなたの心が勝ったんです」

アレンも拳を下ろした。まだギャラリーが喚いていたが、二人には届かない。

「笑わないのかい? こんなにも滑稽な僕を」

アレンは首を振る。

「ぼくはあなたに気付いてほしかっただけです。あとはもう、ぼくがする事もいうこともありません」

そこまで言うと、アレンはギーシュに背を向けた。シャベルを地面に突き刺す。すると、
陥没していた地面が何事も無かったかのように元に戻った。命令が無くなって、
ギーシュのゴーレムが小山のように折り重なっている。

「なあ、ひとつ聞いていいかい?」
「なんでしょう?」
「きみ、攻撃する魔法って使えるかい?」

アレンは、ゴーレムを指差した。

「せいなる光」

突如、光の刃が三つ、ゴーレムの上に現れ突き刺さった。あっさりとゴーレムは砕け散る。

「……なんでそれを、最初から使わなかったんだい? 僕に対してつかえば、それで
終わっていたじゃないか」
「さっきもいいましたけど、ぼくは貴方に気付いてほしかっただけですから」

それに、と付け加える。

「ぼくはダンジョンメーカーです。人を傷つけるのは僕の仕事じゃないです」

それだけ言うと、ルイズの元へと歩いていった。
はあ、とため息をついてギーシュは座り込んだ。

「完敗だ……」


/5/


学院の長、年齢不詳の老人オールド・オスマンは決闘騒ぎの一部始終を
「遠見の鏡」と呼ばれるマジックアイテムを使って見ていた。

「いや天晴れ」

満面の笑顔で喝采するオスマン老の隣で顔をしがめているのはコルベールである。

「得体の知れない使い魔、得体の知れない魔法、得体の知れないシャベル……
何もかもが前代未聞です」
「一番初めに現れるものは、何もかも得体の知れないものじゃよミスタ・コルベール。
にしても、見事に争いを収めたものよの、あの少年」

鏡は、主の下に駆け寄るアレンを映し出している。

「それにしても、杖を使わぬメイジとはのう」
「先住魔法も杖を使いませんが、私には違うもののように思えます。あちらと違い、
あの少年の魔法は……なんといいますか、ひどく人間くさい」
「うむ、明らかに人の知恵のかおりがする。学んだ、とも言っておったようであるし……
詳しくは当人に聞くしかないの」

オールド・オスマンは鏡に向けて杖を振り、映し出されていた映像を消した。そして、
コルベールが持ってきた古文書に目を落とす。

「あの魔法もシャベルも気になるが、こちらも問題じゃのう」

古文書に書かれているのは、アレンの左手に刻まれたものと同じルーンである。

「始祖ブリミル。伝説の虚無系統。その使い魔『ガンダールヴ』に刻まれていたという
ルーン……それがあの少年の、左手に」
「古文書の間違いであればよいが、これはこれでまた」

ヤッカイじゃ、とヒゲをなでながらオールド・オスマンは呟く。

「ガンダールヴであるか確認は取れませんが、あの魔法とシャベルについてだけでも
王室に報告する必要があると思うのですが」
「ばーかもん。んなことしてみい、少年もシャベルもアカデミーのモルモットじゃ。
教師として大人として、そのようなこと容認できるか」
「……浅慮でした、もうしわけありません」

頭を下げるコルベールに、よいと手を上げて許す。決して頭が眩しかった訳ではない。

「人の噂は防げぬが、それでも努力はするべきじゃな。ミスタ・コルベール、彼に
杖を持つように指示しなさい」
「杖……なるほど。異質な魔法ですがそれならば多少はごまかしも効きますな」
「うむ、それからみだりにシャベルを使わぬように、ともな」
「はい。強い力を持つマジックアイテムです。近頃城下を騒がせる盗賊に狙われないとも
限りませんしね」
「その通りじゃ」

その盗賊、土くれのフーケが廊下でこの会話を盗み聞きしているということを、
二人は知らない。ここでは秘書ロングビルと名乗り生活しているし、二人とも
助平で目が曇っている。

「それにしても、の」
「どうされました?」

目を瞑りながら、オールド・オスマンは思案に暮れる。

「なんというか、予感がするんじゃよ。あの少年がきっかけで、何かとんでもないことが
起きるんじゃないか、とな」

まさか、と笑えないコルベールである。伝説のルーン、異質な魔法、そしてシャベル。
ドットメイジを手玉に取る力と、何より胆力。あの少年には何かがある、という思いを
消すことができない。
コルベールは、今はただ室内を映し帰すだけの鏡を見る。
あの少年は何者なのだ、と悩む自分の顔だけが映っていた。



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