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“微熱”の使い魔-01


 「あなた、だあれ?」

 「はい?」

 いきなりの言葉に、エリーは間抜けな声を上げてしまった。
 エルフィール・トラウム。
 通称エリー。
 年齢16歳。6月18日生まれ。ふたご座。
 故郷はロブソン村。
 昨年の九月から、ザールブルグのアカデミーで学んでいる錬金術士の卵。
 なのであるが。

 ――ええと、これ、どうなってるのかな???

 今ひとつ、身に起こっている状況が理解できない。
 昨日8月1日、アカデミーのコンテストを終え、一息ついたばかりだった。
 すぐに結果を見に行こうかとも思ったが、散らかりっぱなしになった部屋をちょっと掃除しようと思い直し、まず、大事な参考書をまとめて、

 (本棚に、整理しようと思ったんだよね……)

 初等から高等までの錬金術講座、健康大好き、火薬のしくみ、自分で作れる薬、総合百科事典といったアカデミーで購入した参考書。
 これだけの量になるとさすがに重い。
 ちょっとふらつきながらも、それを本棚へ持っていこうとしたと振り向いた時、何かキラキラとした鏡のようなものが見えた。
 そして、気がついた時には見知らぬ場所に立っていた。
 目の前には、赤い髪をした綺麗な女性。
 ザールブルグでは見慣れない服装。赤い髪に、褐色の肌という見慣れない顔立ち。

 「ええと……」

 どうしたらいいのだろう?
 対応に困っていると、赤い髪の美女はつかつかとエリーに近づいてくる。
 ようく見ると、年齢にそれほど開きはないのかもしれない。
 ただその体型には、だいぶ差があったが。
 褐色の少女はしばらくの間、じろじろと上から下までエリーを見ていたが、ふうとため息をついた。

 「私は、キュルケ。キュルケ・アウグスタ・フレデリカ・フォン・アンハルツ・ツェルプストー。あなたは?」

 エリーはしばし絶句していた。
 これは、名前を名乗ったのか? 魔法の呪文か何かじゃなくて?
 しかし、どうやらそうらしい。

 「エルフィール・トラウム。親しい人は、エリーって呼びます……」

 エリーはおずおずと返事をする。

 「トラウム……」

 キュルケと名乗る美少女は、しばらく考え込んでいた。

 「あまり聞かない名前だけれど、どこの国のかたかしら?」

 「どこって……そりゃあ、シグザールですけど?」

 「しぐざーる???」

 キュルケの顔に、いくつものハテナが浮かぶ。 
 何か、妙なことになっている。
 そもそも、本当にここはどこなのだ。
 次第に、エリーの心に不安の雲が浮き上がり始めた。

 「ちょっと失礼」

 不意にちょっと頭の寂しい中年男性が話しかけてきた。
 その頭に、エリーはよく世話になっている武器屋のおやじさんを思い出した。

 「私は、このトリステイン魔法学院で教鞭をとっているコルベールというものだが……」

 「はあ……」

 魔法学院?
 アカデミーと似たようなものだろうか?
 しかし、トリステインとはなんだろうか。

 「君は、そのメイジ……貴族なのかね?」

 「はい?」

 いきなりのおかしな質問に、エリーは目を丸くする。

 「違います」

 「違う?」

 反応したのはキュルケだった。

 「あの、メイジって何ですか?」

 そうエリーが言った途端、まわりから失笑が飛んだ。

 「メイジを知らないだって?」

 「どこの田舎者だよ、こいつ!」

 「魔法使いといえばわかるかな?」

 笑う周囲を片手で制し、コルベールは質問を続けた。

 「ああ、それなら……。っていうか、私は魔法使いじゃないです。錬金術士……の卵というか、学生です」

 「学生? しかし、君は今貴族ではないと……」

 言いかけてから、コルベールは少し黙り込む。

 「トリステイン、ゲルマニア、あるいはハルケギニア、これらの国名、地名を知っているかね?」

 「どこですか、それは……?」

 「……すまないが、その本を見せてくれないだろうか?」

 「あ、はい」

 コルベールはエリーの持っている本を一冊取り、ぺらぺらとページをめくる。
 キュルケも横からそれを覗いているようだった。

 「ふううむ。いい紙だな……。装丁もなかなか。しかし、見たこともない文字だな……」

 「あのう……?」

 エリーが声をかけるが、コルベールには聞こえていないようだった。

 「ミス・ツェルプストー、どうやら君の召喚した使い魔は、はるか遠方からの来訪者らしい」

 「使い魔……。やっぱり、この子が?」

 キュルケは困ったような顔でエリーを見る。

 「これは、伝統なのだよ」

 「やっぱりねー……?」

 やれやれと肩をすくめ、キュルケはエリーへと近づく。

 「……あ、あの?」

 「まあ、これはこれで面白いかもね」

 キュルケは気を取り直したように微笑んで、杖をエリーに向かって振った。

 「我が名はキュルケ・アウグスタ・フレデリカ・フォン・アンハルツ・ツェルプストー、五つの力を司るペンタゴン。この者に祝福を与え、我の使い魔となせ」

 それから、ひどく手馴れた動作で……

 エリーの唇を奪った。

 「……!?!?!?」

 いきなりの、それも同性からの行為に、エリーは抱えていた本をばさばさと取り落とす。

 「な、ななな……なな、何するんですか!?」

 「あら、ちょっとキスしただけじゃない。もしかして、初めて? 見た目どおり初心なのねえ」

 キュルケはあわてるエリーに対し、コロコロと笑ってみせる。

 「そ、そういう問題じゃあ……ぐう!!」

 文句を言おうとした矢先、エリーは全身に熱いものを感じた。
 ほんの一瞬だが、たぎるマグマのようなものが頭を中心に全身に駆け巡ったような、そんな感覚だった。

 「ふむ。ちゃんとルーンは刻めたようだね」

 コルベールは使い魔のルーンが刻まれたエリーの額を覗きこんでから、満足そうにうなずく。

 「よろしい、ミス・ツェルプストー。使い魔との契約は完了だ。では、次の……」

 「ちょ、あの……」

 あわてるエリーの肩を、キュルケがぽんと叩いた。

 「これから、よろしくね、使い魔さん。まあ、悪いようにしないから、安心してちょうだい♪」

 男だったら、蕩けてしまいそうな笑みを向けられ、エリーは曖昧にうなずくしかなかった。
 これからどうなるんだろうと不安を抱えながら、とりあえず落とした本を拾うことにした。
 向こうのほうでは、モグラだー、カエルだー、フクロウだとか歓声が聞こえてくる。

 (何やってんだろ?)

 振り向いたエリーは、青い髪の女の子の前に、青いドラゴンが立っているのを見て、石のようになってしまった。
 そのため横で、さすがタバサね、と言っているキュルケの声は聞こえなかった。

 「……つまり、その、サモンなんとかは呼び出すだけで、帰す呪文とかなくて、それ自体も使い魔が死なないと無理。つまり、帰る方法はなしってこと……?」

 「そういうことになるわねえ」

 キュルケはちょっとばかりばつの悪そうな顔で言った。

 「無責任……」

 「……考えてみればそうようねえ。でも、人間が召喚されるなんて、前例のないことだから」

 「前例がない? でも、私の他にも人間を召喚した子がいたじゃないですか」

 儀式の最後のほうで、何度も失敗していた桃色の女の子が召喚したのは、エリーと同じ人間だったのだ。
 こちらは、少年だったが。
 興味とか親近感がわいたものの、少年は混乱して桃色の子と口論しっぱなしで、エリー自身もかなり混乱していたので、遠目から見ているだけだった。

 「ああ、あれねえ。私もあなたを召喚しなかったら、さすがゼロのルイズってとこだったんだけど」

 キュルケは苦笑しながら、軽く髪の毛をかき上げた。

 「だけど、こうなった以上あなたの生活は私が責任持つわ。約束する。もしかしたら、帰るための魔法もあるかもしれないしね。代わりといっては何だけど、あなたも当面私に使い魔やってくれると嬉しいんだけど」

 「それはまあ……でも、使い魔って具体的にどんなことするんですか?」

 使いというぐらいだから、お手伝いみたいなこと……手伝い妖精さんみたいなものだろうか?

 ――そういえば、妖精さんたち元気かなあ……?

 エリーは普段仕事を手伝ってもらっている妖精たちのことを思い出した。
 月々定額のお金を払えば、調合から採取まで、錬金術士の仕事を手伝ってくれる妖精たち。
 時間のかかる作業の多い錬金術のおいては非常に助かる存在だ。

 「そうねえ。まずは、感覚の共有。主の目となり耳となる……つまり、エリーの見てるもの、聞いてることが私にもわかるようになるってことなんだけど……なんかダメっぽいわね」

 「ダメですか」

 「使い魔になったら、自然に備わる能力のはずなんだけど……。人間だからかしらね? 次は主人に必要なものを持ってくること」

 「採集みたいなもの?」

 「何それ?」

 「ええと、つまり、薬とか爆弾とかを作るための材料を集めたり……」

 「ば、爆弾? まあ……。そうね、大体そんな感じよ」

 「似たようなことはやってから、できないことはないと思うけど……でも」

 「? でも?」

 「そういうのは、たいてい外ですよね? このへん、魔物とか盗賊とか出ます?」

 「魔物……。そうねえ、森の深いところだと、オーク鬼とか出るらしいわ。見たことはないけど、旅商人とかが襲われたって話は時々聞くわ」

 「それじゃあ、ちょっと無理かも。ザールブルグにいた時は冒険者さんに護衛してもらってたんですけど」

 「ああ、別に気にしなくてもいいから。そんなとこに薬草だのキノコだのとりにいけ、なんて言わないから」

 言葉に濁すエリーに、キュルケはつとめて明るい声で言った。

 ――こりゃ、使い魔は主人を守る……なんて言えないわねえ。

 真面目な子らしいので、そんなことを言うと相当に気に病んでしまうかもしれない。

 「それはそれとして、あなた、何かと特技とかないの? 歌がうまいとか、料理が得意とか」

 「ええと、まだ学生だけど、錬金術で色々……」

 「錬金術か……。それは、錬金の魔法とは違うの?」

 「違います。ええと、その、何ていうか、色んな薬やアイテムを作り出す術で……」

 エリーの言葉を聞きながら、キュルケはきゅぴーんと目を光らせた。

 「へえ? それでどんなものが作れるの?」

 「フラムとか、アルテナの水とか……あ、材料と道具があればですけど……」

 「何かよくわからないわねえ? 具体的にどんなものなの?」

 質問するキュルケに、エリーは参考書をいくつ開きながら、道具やアイテムについて説明する。

 「ふうん。フラムってのは、簡易型の爆弾なわけね……。アルテナの水ってのは……一種の滋養強壮の薬か」

 エリーのしめす参考書の絵を見ながら、キュルケは面白そうに何度もうなずいた。

 「ねえ? エリー、あなた、道具や材料があれば作れるって言ったわよね?」

 「え? ええ」

 「だったら、私が都合してあげるから、色々と作ってみてよ」

 「それはいいですけど……私、まだそんな大したものは作れないですよ?」

 「それでもいーから♪ 何か、その本読むあなた見てたら、妙にわくわくしてきちゃった」

 そういってキュルケは、その大きなバストをぺたりとエリーにくっつけてきた。
 とまどっているエリーに対して、キュルケは不思議な予感に胸を躍らせていた。
 最初人間、それも見たことも聞いたこともない辺境の田舎娘を召喚したとわかった時は、ちょっとがくっときた。
 でも、エリーを見ているうちにそんな気分は次第に薄らいでいった。
 何故だろう。
 ブラウンの髪の毛に、ブラウンの瞳。
 いかにも野暮ったい田舎者という雰囲気だけど、顔立ちは悪くない。いやいや、むしろ磨けばぴかぴかに光りそうな素質があるとみた。
 不思議な感じの異国の衣服。錬金術という見知らぬ技術。
 どきどき、わくわく。
 まだ幼い頃、恋の情熱よりも、寝る前に聞いていたおとぎ話や遠い異国の話に胸を躍らせていた日々を思い出す。

 「ねえ、エリー、あなたの国のこと、色々と聞かせて?」

 そう言って、キュルケはエリーに笑いかけた。
 となりからは、何か争うような男女……いや、少年と少女の声が聞こえていたけど、あえて無視する。

 「……何か、怒鳴り声が聞こえるんだけど?」

 「となり。どーせゼロのルイズが使い魔と何か揉めてるんでしょ。負けん気というか、プライドの高い子だからねー。ま、気にしないでいいわ」

 キュルケはアハハと笑うが、エリーのほうは落ちつけない。

 「となりのことなんか、ほっといて。ほら、あなたのこと色々話してよ」

 「うーん…………。あれ?!」

 うながされたエリーは何からどう話そうかと思案していたが、不意に声を上げた。

 「どうしたの?」

 「月が、二つある――」

 エリーは窓の外から見える、怪しく輝く双月を指差して言った。

 「あら、そんなの当たり前じゃない。月は二つあるものだって、昔から決まってるわ」

 「こ、ここでは……そうなのかな?」

 キュルケにたずねるというより、自分で自分に問いかけるようにエリーは言った。

 「ここではって、あなたの国では違うの?」

 「ええ、月は一つです」

 エリーはどきどきとする胸を押さえながらうなずいた。

 「ところ変われば品変わるっていうけど、遠い国になるとそんなことも違ってくるのね。ますます面白いわ」

 「そういえば……星座なんかは、土地によって見えないものや見えにくいものがあるって聞いたような……」

 「へえ。だったら、土地によっては太陽が二つだったり、月がぜんぜん見えないところもあるのかもねー」

 「さすがにそれは想像できないけど………」

 キュルケの発言に、エリーは苦笑する。
 気がついたら、いつの間にか緊張がほぐれている。
 このキュルケという人は、貴族、すなわち大金持ちのお嬢様であるのだろうが、

 ――アイゼルとは全然違うなあ。

 エリーはプライドと態度の大きな貴族の親友を思い出したが、その豊かなバストを見て、また考えを変えた。

 ――どっちかっていうと、ロマージュさんのほうに似てるかな?

 男たちを虜にする美貌とスタイルを持つ、南方の美しき踊り子の顔が、キュルケに重なる。
 ただし、ロマージュが風なら、さしずめキュルケは炎だ。

 ――私、ほんっとーにこれからどうなるんだろ?

 幸いキュルケは『いい人』らしく、あまりひどいことにはならないようだが、魔法で当たり前のように宙に浮いたり、モンスターを呼び出して召使にしたりと、この国はあまりにも凄まじすぎる。

 「はあ……」

 エリーはちょっと息を吐き出してから、自分の国のこと、ザールブルグの街のことを語り出した……。


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