所変わって、ヴェストリの広場。
そこでは、ルイズ達より先輩であろう男のメイジと、オニクスが相対していた。
その周囲を取り巻くのは、多種多様なギャラリーの人々であり、彼らはこの戦いの始まりをとても楽しみにしていた。
「…本気で勝てると思ってるのか」
「俺はあの『青銅』とやらとは違う!」
オニクスは心なし退屈そうに見えたが、一方の男子生徒はやる気十分で、杖をビシっと、オニクスに向けている。一方のオニクスは素手で、戦闘態勢をとることもなくそれを見つめている。
「…後悔するぞ」
「どっちが!」
それが試合開始の合図だったのか、男子生徒は杖を掲げ詠唱する。瞬間、男子生徒が霞み、3人に増えた。
「行けっ!」
中央の男子生徒が叫ぶ。それと共に増えた男子生徒2人がオニクスに突撃し、その時になってようやくオニクスは、だるそうに戦闘態勢をとる。
「…ライトニングソード」
右手に剣を召還し、オニクスは素早く2人を薙ぎ払った。2人の男子生徒は斬り裂かれると、血を吹くこともなく霧のように霧散する。オニクスはため息をつきながら、男子生徒に言う。
「『偏在』ごときでは俺は倒せないぞ、挑戦者」
そこでは、ルイズ達より先輩であろう男のメイジと、オニクスが相対していた。
その周囲を取り巻くのは、多種多様なギャラリーの人々であり、彼らはこの戦いの始まりをとても楽しみにしていた。
「…本気で勝てると思ってるのか」
「俺はあの『青銅』とやらとは違う!」
オニクスは心なし退屈そうに見えたが、一方の男子生徒はやる気十分で、杖をビシっと、オニクスに向けている。一方のオニクスは素手で、戦闘態勢をとることもなくそれを見つめている。
「…後悔するぞ」
「どっちが!」
それが試合開始の合図だったのか、男子生徒は杖を掲げ詠唱する。瞬間、男子生徒が霞み、3人に増えた。
「行けっ!」
中央の男子生徒が叫ぶ。それと共に増えた男子生徒2人がオニクスに突撃し、その時になってようやくオニクスは、だるそうに戦闘態勢をとる。
「…ライトニングソード」
右手に剣を召還し、オニクスは素早く2人を薙ぎ払った。2人の男子生徒は斬り裂かれると、血を吹くこともなく霧のように霧散する。オニクスはため息をつきながら、男子生徒に言う。
「『偏在』ごときでは俺は倒せないぞ、挑戦者」
「偏在」。魔力によって生み出される、自らの分身。オニクスはそれを看破していたのだった。だが男子生徒はそれでも、勝ち誇ったかのように笑う。
「それはどうかな、足下を見たまえ」
オニクスが言われるがままに足下を見ると、いつの間に仕掛けられたのか、氷の塊がオニクスの足と地面を縛り付ける足かせとなっていた。それこそが、男子生徒の勝利の確信。男子生徒の希望であった。
それでもオニクスは驚きもせず、もし表情が出せたならば「で、何」と言った顔をしていただろう。
「動けまい、これでけりを付けるっ!」
男子生徒は杖を構え、長い詠唱を始めた。すらすらと紡ぎ出される言葉が術を編み上げていくごとに、杖の先端にエネルギーの塊が収束していく。
そして詠唱が終わる頃には、それはバスケットボール大のエネルギー球となっていた。それが男子生徒の「必殺技」なのか、投じる魔力も大きい。
「…これでダウンだ!」
宣言と共に打ち出される弾丸。オニクスはそれを見つめていたが、やがて掌を弾丸に向け、一言言葉を発した。
「-----------EMシェイカー、防御モード」
黒い壁が、掌を中心に広がる。それは弾丸を受け、容易に無力化する。その瞬間男子生徒の勝ち誇った表情は瓦解し、何が起こったのかわからない、理解不能を示す表情に変化した。
オニクスはEMシェイカーを切ると、ぽかんとした男子生徒に声をかける。
「これ以上続けたら無傷では済まされんぞ」
「…え、あ、はい」
「それはどうかな、足下を見たまえ」
オニクスが言われるがままに足下を見ると、いつの間に仕掛けられたのか、氷の塊がオニクスの足と地面を縛り付ける足かせとなっていた。それこそが、男子生徒の勝利の確信。男子生徒の希望であった。
それでもオニクスは驚きもせず、もし表情が出せたならば「で、何」と言った顔をしていただろう。
「動けまい、これでけりを付けるっ!」
男子生徒は杖を構え、長い詠唱を始めた。すらすらと紡ぎ出される言葉が術を編み上げていくごとに、杖の先端にエネルギーの塊が収束していく。
そして詠唱が終わる頃には、それはバスケットボール大のエネルギー球となっていた。それが男子生徒の「必殺技」なのか、投じる魔力も大きい。
「…これでダウンだ!」
宣言と共に打ち出される弾丸。オニクスはそれを見つめていたが、やがて掌を弾丸に向け、一言言葉を発した。
「-----------EMシェイカー、防御モード」
黒い壁が、掌を中心に広がる。それは弾丸を受け、容易に無力化する。その瞬間男子生徒の勝ち誇った表情は瓦解し、何が起こったのかわからない、理解不能を示す表情に変化した。
オニクスはEMシェイカーを切ると、ぽかんとした男子生徒に声をかける。
「これ以上続けたら無傷では済まされんぞ」
「…え、あ、はい」
こうなったのには、色々訳があった。あの戦いの後オニクスを追い回したのは、何も玄武神のことを聞きたがった生徒だけではなかった。
なんとあの戦いを見て、これを倒して名声を上げよう、という魂胆の生徒までもが、オニクスを追いかけ回したのだ。
最初はシエスタの協力もあってやり過ごせたものの、次第に追う生徒の手段も狡猾さを増し、なんとオニクスは捕まってしまった。
そしてこのような無謀な生徒を相手にして、はや三日。
倒した生徒の数は50を越えていた。
オニクスもいい加減退屈して、こんな態度というわけだ。
なんとあの戦いを見て、これを倒して名声を上げよう、という魂胆の生徒までもが、オニクスを追いかけ回したのだ。
最初はシエスタの協力もあってやり過ごせたものの、次第に追う生徒の手段も狡猾さを増し、なんとオニクスは捕まってしまった。
そしてこのような無謀な生徒を相手にして、はや三日。
倒した生徒の数は50を越えていた。
オニクスもいい加減退屈して、こんな態度というわけだ。
次の相手は3人組で、オニクスは今度こそ期待していた。まぁ、秒殺ということは無いだろう。右手にライトニングソードを召還し、掌の上でクルクルと振り回す。すでに3人組は自分を囲むように配置し、戦闘準備を始めている。
まぁ、暇つぶしにはなるか。
「では、始めようか?」
オニクスが軽やかに声をかけると、三人は一斉に仕掛けてきた。3人はそれぞれ3体の偏在を召還し、こちらへとぶつけてくる。
(また偏在か)
オニクスは少し落胆したが、次の瞬間考えを変える。計9体の偏在を、違う方向から違う角度でぶつける。それはあくまで一体しかいないオニクスにとっては有効な戦術であった。
数で対抗しようという考えか。ならば、こちらもとばかりにオニクスは両腕にエネルギーを収束し、相手の偏在を引きつける。
魔法で。打撃で。偏在達が、攻撃を仕掛ける、その瞬間にオニクスは動いた。一流ダンサーのようにくるりと一本の足を軸足に、回転。
黒い躯体の手に収束されたエネルギーが光の残像を残し、偏在がそれに触れる。
瞬間、偏在は切り刻まれ、オニクスの周囲の大気中に数本のエネルギーの輪が刻まれた。オニクスは華麗に膝をつき、回転を止める。その輪はオニクスが作り出した物だった。
(ケーブル・ループ)
超伝導フライホイールにより作り出された光の輪は偏在を容易く斬り裂き、やがて消失する。オニクスは立ち上がり、周囲の生徒達に降伏を勧告しようとした。
だが、生徒達は既にいなかった。オニクスが不審がったその時、生徒の行く先をすぐにオニクスは感知した。頭上に影。
オニクスが上を向くと、既に詠唱を完了した魔力の弾丸と共に、少年が飛びかかろうとしている所だった。
「もぉらったぁあああ!!!」
「どうかな」
振り返り、少年の胴を掴む。弾丸が全身を射るが、この程度のキズはオニクスの問題にはならない。
「EMシェイカー、攻撃モード!」
そしてオニクスの叫びと共に圧縮強化された重力が、掌を伝って生徒に炸裂する。
「うああああっ、まだだ、まだ私はジェロにいいいいいい」
生徒は奇妙な断末魔の後に、地面に落ちて意識を失う。オニクスは気にも留めず、後方から来る第2波に気を向けた。
敵は魔力でもって加速し、長大な槍を構え、こちらを貫こうという魂胆。だが今から後ろを向くのは間に合わない。
(ならば、『後ろに手があれば』いいだけのことだ)
「大樹刈る鋏(ガングレッホ・ティヘーラス)」
瞬間オニクスの背中に、一対の巨大なアームが出現する。それは基部からガバリと開き、巨大な鋏と化して突撃してきた生徒の槍をくわえ、空中で何回転も振り回すとギャラリーの方向に投げ飛ばす。
これで終わりではない。
生徒は3人いた。なら後一人が、どこかに…
「ここだぁあああ!」
その答えはすぐにわかった。二本の剣を掲げた生徒が、正面から急加速でこちらに向かってきている。やけくそになったのか、防御は全く考慮していない。
オニクスは両肩の上からアームを正面に配置し、第三、第四の腕のようにするとそれに相対する。相手の剣の射程に入る前に叩けば、問題は無いだろう。
そして右肩のアームが先ず動いた。展開せず、純粋な打突武器として用いられたそれはまず左手の剣を叩き落とす。
「俺は!スペシャルで!」
生徒の声。気にも留めず二撃目。左のシザーが右手の剣を叩く。剣は破壊される。
「二千回で!」
そしてがら空きの胴にオニクス自身が掌底を叩き込み、試合は決着した。
「模擬戦なんだよぉおお!」
生徒は奇妙な断末魔を上げながら気絶した。
「ふぅ、全く懲りない連中だ」
溜め息をつくオニクス。召還した武器を収納し、周囲の観衆を見渡す。さすがに今日は、もう挑んでくる無謀な奴はいなさそうだ。そう思ったので彼は主の自室に帰ろうとした…そのとき、彼に後ろから声をかける者がいた。
「オニクス!」
「ん」
振り向くと、しばらく眠りについていた主、ルイズが走ってこちらに来ているところだった。オニクスは歩いてそちらに向かう。
調子が良くなったのなら、良いことだ。だが、彼女の顔は何故か怒っているように見える。オニクスは疑問に思った。
怒るようなことがあったろうか?
「やぁルイズ、目が覚めたのか」
「こっちに来なさぁああい!」
接近してくると、有無を言わせずルイズは、オニクスの手を掴んで引っ張っていった。
否、引っ張っていけなかった。
「うぎ~っ、重いのよあんたは~」
「…説明を乞う」
オニクスは仕方無さそうに、ルイズに同行した。
まぁ、暇つぶしにはなるか。
「では、始めようか?」
オニクスが軽やかに声をかけると、三人は一斉に仕掛けてきた。3人はそれぞれ3体の偏在を召還し、こちらへとぶつけてくる。
(また偏在か)
オニクスは少し落胆したが、次の瞬間考えを変える。計9体の偏在を、違う方向から違う角度でぶつける。それはあくまで一体しかいないオニクスにとっては有効な戦術であった。
数で対抗しようという考えか。ならば、こちらもとばかりにオニクスは両腕にエネルギーを収束し、相手の偏在を引きつける。
魔法で。打撃で。偏在達が、攻撃を仕掛ける、その瞬間にオニクスは動いた。一流ダンサーのようにくるりと一本の足を軸足に、回転。
黒い躯体の手に収束されたエネルギーが光の残像を残し、偏在がそれに触れる。
瞬間、偏在は切り刻まれ、オニクスの周囲の大気中に数本のエネルギーの輪が刻まれた。オニクスは華麗に膝をつき、回転を止める。その輪はオニクスが作り出した物だった。
(ケーブル・ループ)
超伝導フライホイールにより作り出された光の輪は偏在を容易く斬り裂き、やがて消失する。オニクスは立ち上がり、周囲の生徒達に降伏を勧告しようとした。
だが、生徒達は既にいなかった。オニクスが不審がったその時、生徒の行く先をすぐにオニクスは感知した。頭上に影。
オニクスが上を向くと、既に詠唱を完了した魔力の弾丸と共に、少年が飛びかかろうとしている所だった。
「もぉらったぁあああ!!!」
「どうかな」
振り返り、少年の胴を掴む。弾丸が全身を射るが、この程度のキズはオニクスの問題にはならない。
「EMシェイカー、攻撃モード!」
そしてオニクスの叫びと共に圧縮強化された重力が、掌を伝って生徒に炸裂する。
「うああああっ、まだだ、まだ私はジェロにいいいいいい」
生徒は奇妙な断末魔の後に、地面に落ちて意識を失う。オニクスは気にも留めず、後方から来る第2波に気を向けた。
敵は魔力でもって加速し、長大な槍を構え、こちらを貫こうという魂胆。だが今から後ろを向くのは間に合わない。
(ならば、『後ろに手があれば』いいだけのことだ)
「大樹刈る鋏(ガングレッホ・ティヘーラス)」
瞬間オニクスの背中に、一対の巨大なアームが出現する。それは基部からガバリと開き、巨大な鋏と化して突撃してきた生徒の槍をくわえ、空中で何回転も振り回すとギャラリーの方向に投げ飛ばす。
これで終わりではない。
生徒は3人いた。なら後一人が、どこかに…
「ここだぁあああ!」
その答えはすぐにわかった。二本の剣を掲げた生徒が、正面から急加速でこちらに向かってきている。やけくそになったのか、防御は全く考慮していない。
オニクスは両肩の上からアームを正面に配置し、第三、第四の腕のようにするとそれに相対する。相手の剣の射程に入る前に叩けば、問題は無いだろう。
そして右肩のアームが先ず動いた。展開せず、純粋な打突武器として用いられたそれはまず左手の剣を叩き落とす。
「俺は!スペシャルで!」
生徒の声。気にも留めず二撃目。左のシザーが右手の剣を叩く。剣は破壊される。
「二千回で!」
そしてがら空きの胴にオニクス自身が掌底を叩き込み、試合は決着した。
「模擬戦なんだよぉおお!」
生徒は奇妙な断末魔を上げながら気絶した。
「ふぅ、全く懲りない連中だ」
溜め息をつくオニクス。召還した武器を収納し、周囲の観衆を見渡す。さすがに今日は、もう挑んでくる無謀な奴はいなさそうだ。そう思ったので彼は主の自室に帰ろうとした…そのとき、彼に後ろから声をかける者がいた。
「オニクス!」
「ん」
振り向くと、しばらく眠りについていた主、ルイズが走ってこちらに来ているところだった。オニクスは歩いてそちらに向かう。
調子が良くなったのなら、良いことだ。だが、彼女の顔は何故か怒っているように見える。オニクスは疑問に思った。
怒るようなことがあったろうか?
「やぁルイズ、目が覚めたのか」
「こっちに来なさぁああい!」
接近してくると、有無を言わせずルイズは、オニクスの手を掴んで引っ張っていった。
否、引っ張っていけなかった。
「うぎ~っ、重いのよあんたは~」
「…説明を乞う」
オニクスは仕方無さそうに、ルイズに同行した。
ルイズはオニクスを自室に連れ込むと、乱暴にドアを閉めて、づかづかと歩いてベッドに座った。部屋にはキュルケとタバサもおり、オニクスは困惑しつつもドアをくぐった。
「説明してくれ」
「アンタに聞きたいことがふたつあるわ」
「…手短に頼む」
ルイズは右手の指を立てた。
「まずひとつ。なんでアタシが魔法、いや『アンタの力』を使えたわけ?」
「…ハ?」
「もっかい言うわ、なんでアタシが魔法、いや『アンタの力』を使えたわけ?」
「…覚えてないのか、俺がお前に言ったろう、あの時」
「あのとき?」
「お前がビームを喰らって瀕死だったとき、お前の心理にレイラインを通じて接続した。要はテレパシーの高位版だ」
「そうだったのね…そんなことが出来るなら早く言ってよ」
「…そして、俺はそのままのことを伝えた。それだけだ」
「あんなときだったからよく覚えてないし、あんな説明でわかれって方が無理よ!それにレイラインて…」
「…仕方ない。説明しよう。後ろの2人にとっても有用な話かも知れないぞ」
オニクスが言うと、キュルケとタバサもオニクスの方を向いて聞き耳を立てる。オニクスが説明を始めた。
「ルイズ。俺がお前と契約したとき、俺の手にはこんな風に」
オニクスが腕を上げて手の甲を見せる。
「ルーンが刻まれた。なんでかわかるか?」
「…そんなの、使い魔と契約したら出来るとしか言いようがないわよ」
「そうね。ルイズと同意見だわ」
「……」
「これはレイラインの接続がなされたという一種の『証』だ。魔力を伴った『サモン・サーヴァント』などの高位の契約においては、契約を結んだ者の間に一種の回路が作られる。これがレイラインだ。
これはお前らの中に通る魔術回路と似た物で、契約内容によって異なるが、契約者の情報を共有する。『運命の赤い糸』などの糸に関する伝説は、このレイラインのことが伝承化されたものの一種だろう。
さて本題だ。レイラインは情報を共有すると言ったが、例えば、とても簡略化した場合だが…」
そう言うとオニクスは右手の指を立てる。
「Aという魔術師が『氷を使う』魔術が得意だったとしよう」
さらに、左手の指を立てる。
「Aが、Bという魔術師と契約する。Bは『人を治す』魔術が得意だとする」
するとオニクスは、両手の指を交差させて×印を作る。
「するとAはBの『人を治す』力の影響を受けてその系統の魔術が強化され、BはAの『氷を操る』力の影響を受けて、その系統の魔術が強化される。これがレイラインの効果のひとつだ」
「…それで、ルイズがあなたと力を共有した」
タバサが尋ねる。
「そういうことだ。まぁ、魔力は自前で支払ったようだがな」
「それで倒れたのね」
「そういうことだ。神の力は強大だが、故に使用魔力もバカにならない。ほぼ無尽蔵のパワーを持つ神だからこそ、あのような動きが可能となるのだ」
「ほんと、ルイズもすごいのを呼んだのねぇ」
キュルケは感慨深そうにつぶやくと、続いてオニクスに質問を投げた。
「それより、それがどうして私たちのためになるのよ」
「お前らとその使い魔にも当然、レイラインがあり、力が共有できるということだ。練習は必要だろうがな」
「なるほどね」
「話を逸らさないでよ。まだ質問は終わってない」
ルイズが少し大きな声で、オニクスに次の話題に移行するよう促した。オニクスはそれに応じ、再び部屋が静まり返る。ルイズが切り出した。
「次。『カナ』って誰」
「!?」
動揺。ここがメタルギアソリッドの世界ならば、オニクスの頭上には「!」マークが浮かび、キュルケとタバサの頭の上には「?」マークが浮かんだだろう。オニクスが質問に、質問で返す。
「何故お前がそれを!」
「あんたは、私があの光に射抜かれた時私の名前じゃなくてその人の名前を呼んだ。誰だって気にするわよ」
「…っ」
(しまった)
オニクスが内心で舌打ちする。あまりにもその姿を重ねるあまり、それが表にも出てきてしまったのであろう。オニクスが頭を下げ、しばらく考え込む。
そしてオニクスは決意を決めたのか、顔を上げて語り始めた。
「かつての世界。俺達は巨人だった」
「巨人?」
「そう。おとぎ話に登場するかのような巨神の姿を借り、俺達はこないだのように殺し合っていた。だが、俺達は今のように単独で動けず、力もなかった」
「それで」
「戦うには人間の力が必要だった。そこで俺達はその世界の人間達に神の力の一部を提供する代わりに、ある条件を課した。
ひとつ、俺達がこの世界で活動するための、『躯』を用意すること
ひとつ、俺達が世界を見聞きするための『眼』となり『耳』となる人間、俺達の声の代弁者を用意すること
ひとつ、俺達がスムーズに動作するための触媒となる、『騎手』を用意すること」
俺とその同族達はそれぞれ対立する国々に属し、その国の手先となって殺し合った」
「で」
「その代弁者、トランスレーターが『神代カナ』という名の少女だった。彼女は今までの人間のように俺を兵器として見ることをせず、俺を一人の『オニクス』という存在としてみてくれた。
俺はそれが…嬉しかった。だが、俺が『嬉しい』とか『楽しい』とか思う程に、彼らの精神は病んでいった」
「…なんで」
「神を人間が御すにはやはり無理があるんだ。奴らは俺が活性化すればする程に、精神を、肉体を喰われていく。
やがてはギガンティックの部品となるものもいた。そして、俺は…俺はっ…」
声が途絶え、オニクスが再び顔をさげてうつむく。意味の分からないルイズは、オニクスに再び説明を促す。
「それで、どう関係あるのよ、それと私が」
「俺が…アイツを…破滅させた」
「ハ?」
「俺は…ある男に復讐を行うために、その人間達を利用した。カナは幼かった。あんな子供まで手足にして…そして俺は自分のエゴを成した。
だが、俺の胸には後悔の念が渦巻いた。
そこまでして成したかった出来事か?俺は本当に復讐を望んだのか?ただ衝動的に沸き上がった心で、大事なものを失ってしまったのではないのか?
そう。心から望んでもいない復讐のために、俺は失った…多くのものを。
そして俺は死んだ。何もかも失った俺は討たれた。勝てようはずもない。背負っていたものが違いすぎた。そして俺はこの世界に現界した。そしてお前に出会った。
きっとカナが成長していたら、お前と近い年だったろう。だが、お前はカナとは正反対だった…意地っ張りで、やさしくなくて、ガキ大将みたいで、劣等感の塊に見えた。
だがな、お前が笑ったり、泣いたり、勇気をふるって立ち向かうその姿だけは…本当にアイツによく似ていた…
だから俺はせめて…この笑顔だけは…お前だけは護りたかった…もうくだらないエゴに誰かが巻き込んだり巻き込まれたりするので、人死にを出したくなかった…」
オニクスが重く絞り出す声は、部屋に重く響き渡る。誰もが黙っている。
「カナの事は、一生忘れることは無いだろう…これは償いだ」
「…重いわね」
キュルケに、タバサが同調する。重すぎる過去。彼は償うために戦っていたのか。そしてオニクスの決意に、誰もが、心を打たれたかに見えた。だが、違ったようだ。
ルイズが突然立ち上がり、怒声を上げる。
「ハァア!?ふざけるんじゃないわよ!じゃあアンタは、私のためじゃなく、その女に対する償いのために戦ってたわけ!?使い魔のくせに主人のために戦わないなんて、アンタばっかじゃないの!?
それにその女が酷い目にあったのだって、自業自得じゃないの!そのせいで私はガキ大将みたいとか比べ物にされるし、アンタ主人をなんだと思ってんのよ!
使い魔のくせにあんなに私より目立っちゃって、アンタ自覚あんの!?」
どうやらルイズはオニクスが自分より2倍も3倍、いや何百倍も強いことに対して劣等感を抱いていたらしい。それがこの機会に吹き出してしまったようだ。
それに自分の使い魔が(あくまでルイズの思う)使い魔の規範から逸脱していたことも、ルイズの琴線に触れたようだ。
「使い魔なら主人を立てなさい!」
「……」
気まずくなったのか、キュルケが止めに入る。だがルイズは制止も利かずに言葉を続けた。
「ガキ一人死んだくらいでうだうだして、男ならしゃんとしなさい!!」
「…なんだと…貴様っ!!」
案の定ルイズの言葉は、オニクスの琴線に触れたようだ。オニクスは狭い部屋の中、スマートに技を放った。怒りと戦闘は別腹のようだ。
放たれた光弾はルイズだけを正確に射抜き、窓の外に弾き飛ばした。窓が凄まじい音を立てて粉砕され、ルイズが空中に投げ出される。オニクスはすかさず窓の外に飛び出し、墜ちるルイズに右手をかざした。
指先から放たれたケーブルがルイズを墜ちる寸前に捉える。だがオニクスは、ルイズを助けたのではない。
「いいいいいりゃぁあああっ!!」
そのまま糸に囚われたルイズを、ブゥンと空中に放り投げるオニクス。墜ちていたルイズは今度は飛んだ。
「ひぃいいいやぁああああ」
「捕らえよ」
そしてケーブルは増殖し、拡散してルイズを包み込み繭のように覆って空中に固定する。ルイズはケーブルに包まれ、声を上げることすら出来なくなった。そしてオニクスが再び声を上げた。
「…苦しめ」
ケーブルの繭の中から瞬間、光が溢れた。殺意の光は赤く、周囲をパトランプのように染め上げる。
中で何が起こっているのかは想像できないが、繭の中からはルイズの声にならない苦悶の叫びが漏れ、想像を絶する苦しさを伝えていた。オニクスはそれでなお、その攻撃をやめることはない。
ケーブルに力を込め、更なる痛みを与えるオニクス。
「…お前は電子レンジに入れられたダイナマイトだ。ナーブケーブルの閉鎖空間の中で分解されるがいい」
「オニクス!」
いつのまにか部屋を出ていたのか、2人はオニクスの下の地面にいた。
下からキュルケがオニクスに叫ぶ。オニクスは顔を向け、キュルケに答えた。
「これは戒めだ、痛みが伴わなければ覚えない」
「かもしれないけど、離してあげて!」
「カナのことを侮辱されて黙っているわけにはいかない!」
「その子だって馬鹿じゃない!本当はわかってるはずよ、貴方の苦しみを!」
「なら何故!」
「…嫉妬」
そこでタバサが、ボソリとつぶやく。オニクスが疑問を浮かべた。
「ハ?」
「…ルイズはその子に嫉妬してる」
「それはなんだ、ルイズがカナに…嫉妬しているというのか?」
「…カナはオニクスと仲良し。お互いが満足してる。
けど、ルイズはオニクスと仲良くない。オニクスはルイズをカナの代わりと思ってる」
「ばっ…代わり…!?」
タバサは表情を変えずに続け、オニクスもまた姿勢を変えずに続ける。
「少なくとも私にはそう見える。例えそうでなかったとしても…きっとルイズはそう思ってるはず」
「…俺も、そう思っているつもりはなかったが…」
オニクスの怒声は小さくなり、やがて普通の声に変わる。オニクスはケーブルの束縛を解き、ルイズをゆっくりと解放した。
怒りはタバサにより鎮められ、オニクスは自分にも原因があったのか、と思い直したのだった。
そしてゆっくりとオニクスは地面に降り立つ。ルイズは空中に浮き上がり、ゆっくりとオニクスの両腕の中に収まった。
「…そうか…そういうこと…なのか」
「まぁ、その子に聞いてみないとわかんないけどね」
キュルケがオニクスの腕の中で気絶しているルイズを指差す。ルイズの服はボロボロになり、オニクスの攻撃の苛烈さを物語る。そこまでにオニクスのカナへの感情は、凄まじいものだったのだろう。
「あんたも、すぐに切れたら駄目よ?」
「…」
「説明してくれ」
「アンタに聞きたいことがふたつあるわ」
「…手短に頼む」
ルイズは右手の指を立てた。
「まずひとつ。なんでアタシが魔法、いや『アンタの力』を使えたわけ?」
「…ハ?」
「もっかい言うわ、なんでアタシが魔法、いや『アンタの力』を使えたわけ?」
「…覚えてないのか、俺がお前に言ったろう、あの時」
「あのとき?」
「お前がビームを喰らって瀕死だったとき、お前の心理にレイラインを通じて接続した。要はテレパシーの高位版だ」
「そうだったのね…そんなことが出来るなら早く言ってよ」
「…そして、俺はそのままのことを伝えた。それだけだ」
「あんなときだったからよく覚えてないし、あんな説明でわかれって方が無理よ!それにレイラインて…」
「…仕方ない。説明しよう。後ろの2人にとっても有用な話かも知れないぞ」
オニクスが言うと、キュルケとタバサもオニクスの方を向いて聞き耳を立てる。オニクスが説明を始めた。
「ルイズ。俺がお前と契約したとき、俺の手にはこんな風に」
オニクスが腕を上げて手の甲を見せる。
「ルーンが刻まれた。なんでかわかるか?」
「…そんなの、使い魔と契約したら出来るとしか言いようがないわよ」
「そうね。ルイズと同意見だわ」
「……」
「これはレイラインの接続がなされたという一種の『証』だ。魔力を伴った『サモン・サーヴァント』などの高位の契約においては、契約を結んだ者の間に一種の回路が作られる。これがレイラインだ。
これはお前らの中に通る魔術回路と似た物で、契約内容によって異なるが、契約者の情報を共有する。『運命の赤い糸』などの糸に関する伝説は、このレイラインのことが伝承化されたものの一種だろう。
さて本題だ。レイラインは情報を共有すると言ったが、例えば、とても簡略化した場合だが…」
そう言うとオニクスは右手の指を立てる。
「Aという魔術師が『氷を使う』魔術が得意だったとしよう」
さらに、左手の指を立てる。
「Aが、Bという魔術師と契約する。Bは『人を治す』魔術が得意だとする」
するとオニクスは、両手の指を交差させて×印を作る。
「するとAはBの『人を治す』力の影響を受けてその系統の魔術が強化され、BはAの『氷を操る』力の影響を受けて、その系統の魔術が強化される。これがレイラインの効果のひとつだ」
「…それで、ルイズがあなたと力を共有した」
タバサが尋ねる。
「そういうことだ。まぁ、魔力は自前で支払ったようだがな」
「それで倒れたのね」
「そういうことだ。神の力は強大だが、故に使用魔力もバカにならない。ほぼ無尽蔵のパワーを持つ神だからこそ、あのような動きが可能となるのだ」
「ほんと、ルイズもすごいのを呼んだのねぇ」
キュルケは感慨深そうにつぶやくと、続いてオニクスに質問を投げた。
「それより、それがどうして私たちのためになるのよ」
「お前らとその使い魔にも当然、レイラインがあり、力が共有できるということだ。練習は必要だろうがな」
「なるほどね」
「話を逸らさないでよ。まだ質問は終わってない」
ルイズが少し大きな声で、オニクスに次の話題に移行するよう促した。オニクスはそれに応じ、再び部屋が静まり返る。ルイズが切り出した。
「次。『カナ』って誰」
「!?」
動揺。ここがメタルギアソリッドの世界ならば、オニクスの頭上には「!」マークが浮かび、キュルケとタバサの頭の上には「?」マークが浮かんだだろう。オニクスが質問に、質問で返す。
「何故お前がそれを!」
「あんたは、私があの光に射抜かれた時私の名前じゃなくてその人の名前を呼んだ。誰だって気にするわよ」
「…っ」
(しまった)
オニクスが内心で舌打ちする。あまりにもその姿を重ねるあまり、それが表にも出てきてしまったのであろう。オニクスが頭を下げ、しばらく考え込む。
そしてオニクスは決意を決めたのか、顔を上げて語り始めた。
「かつての世界。俺達は巨人だった」
「巨人?」
「そう。おとぎ話に登場するかのような巨神の姿を借り、俺達はこないだのように殺し合っていた。だが、俺達は今のように単独で動けず、力もなかった」
「それで」
「戦うには人間の力が必要だった。そこで俺達はその世界の人間達に神の力の一部を提供する代わりに、ある条件を課した。
ひとつ、俺達がこの世界で活動するための、『躯』を用意すること
ひとつ、俺達が世界を見聞きするための『眼』となり『耳』となる人間、俺達の声の代弁者を用意すること
ひとつ、俺達がスムーズに動作するための触媒となる、『騎手』を用意すること」
俺とその同族達はそれぞれ対立する国々に属し、その国の手先となって殺し合った」
「で」
「その代弁者、トランスレーターが『神代カナ』という名の少女だった。彼女は今までの人間のように俺を兵器として見ることをせず、俺を一人の『オニクス』という存在としてみてくれた。
俺はそれが…嬉しかった。だが、俺が『嬉しい』とか『楽しい』とか思う程に、彼らの精神は病んでいった」
「…なんで」
「神を人間が御すにはやはり無理があるんだ。奴らは俺が活性化すればする程に、精神を、肉体を喰われていく。
やがてはギガンティックの部品となるものもいた。そして、俺は…俺はっ…」
声が途絶え、オニクスが再び顔をさげてうつむく。意味の分からないルイズは、オニクスに再び説明を促す。
「それで、どう関係あるのよ、それと私が」
「俺が…アイツを…破滅させた」
「ハ?」
「俺は…ある男に復讐を行うために、その人間達を利用した。カナは幼かった。あんな子供まで手足にして…そして俺は自分のエゴを成した。
だが、俺の胸には後悔の念が渦巻いた。
そこまでして成したかった出来事か?俺は本当に復讐を望んだのか?ただ衝動的に沸き上がった心で、大事なものを失ってしまったのではないのか?
そう。心から望んでもいない復讐のために、俺は失った…多くのものを。
そして俺は死んだ。何もかも失った俺は討たれた。勝てようはずもない。背負っていたものが違いすぎた。そして俺はこの世界に現界した。そしてお前に出会った。
きっとカナが成長していたら、お前と近い年だったろう。だが、お前はカナとは正反対だった…意地っ張りで、やさしくなくて、ガキ大将みたいで、劣等感の塊に見えた。
だがな、お前が笑ったり、泣いたり、勇気をふるって立ち向かうその姿だけは…本当にアイツによく似ていた…
だから俺はせめて…この笑顔だけは…お前だけは護りたかった…もうくだらないエゴに誰かが巻き込んだり巻き込まれたりするので、人死にを出したくなかった…」
オニクスが重く絞り出す声は、部屋に重く響き渡る。誰もが黙っている。
「カナの事は、一生忘れることは無いだろう…これは償いだ」
「…重いわね」
キュルケに、タバサが同調する。重すぎる過去。彼は償うために戦っていたのか。そしてオニクスの決意に、誰もが、心を打たれたかに見えた。だが、違ったようだ。
ルイズが突然立ち上がり、怒声を上げる。
「ハァア!?ふざけるんじゃないわよ!じゃあアンタは、私のためじゃなく、その女に対する償いのために戦ってたわけ!?使い魔のくせに主人のために戦わないなんて、アンタばっかじゃないの!?
それにその女が酷い目にあったのだって、自業自得じゃないの!そのせいで私はガキ大将みたいとか比べ物にされるし、アンタ主人をなんだと思ってんのよ!
使い魔のくせにあんなに私より目立っちゃって、アンタ自覚あんの!?」
どうやらルイズはオニクスが自分より2倍も3倍、いや何百倍も強いことに対して劣等感を抱いていたらしい。それがこの機会に吹き出してしまったようだ。
それに自分の使い魔が(あくまでルイズの思う)使い魔の規範から逸脱していたことも、ルイズの琴線に触れたようだ。
「使い魔なら主人を立てなさい!」
「……」
気まずくなったのか、キュルケが止めに入る。だがルイズは制止も利かずに言葉を続けた。
「ガキ一人死んだくらいでうだうだして、男ならしゃんとしなさい!!」
「…なんだと…貴様っ!!」
案の定ルイズの言葉は、オニクスの琴線に触れたようだ。オニクスは狭い部屋の中、スマートに技を放った。怒りと戦闘は別腹のようだ。
放たれた光弾はルイズだけを正確に射抜き、窓の外に弾き飛ばした。窓が凄まじい音を立てて粉砕され、ルイズが空中に投げ出される。オニクスはすかさず窓の外に飛び出し、墜ちるルイズに右手をかざした。
指先から放たれたケーブルがルイズを墜ちる寸前に捉える。だがオニクスは、ルイズを助けたのではない。
「いいいいいりゃぁあああっ!!」
そのまま糸に囚われたルイズを、ブゥンと空中に放り投げるオニクス。墜ちていたルイズは今度は飛んだ。
「ひぃいいいやぁああああ」
「捕らえよ」
そしてケーブルは増殖し、拡散してルイズを包み込み繭のように覆って空中に固定する。ルイズはケーブルに包まれ、声を上げることすら出来なくなった。そしてオニクスが再び声を上げた。
「…苦しめ」
ケーブルの繭の中から瞬間、光が溢れた。殺意の光は赤く、周囲をパトランプのように染め上げる。
中で何が起こっているのかは想像できないが、繭の中からはルイズの声にならない苦悶の叫びが漏れ、想像を絶する苦しさを伝えていた。オニクスはそれでなお、その攻撃をやめることはない。
ケーブルに力を込め、更なる痛みを与えるオニクス。
「…お前は電子レンジに入れられたダイナマイトだ。ナーブケーブルの閉鎖空間の中で分解されるがいい」
「オニクス!」
いつのまにか部屋を出ていたのか、2人はオニクスの下の地面にいた。
下からキュルケがオニクスに叫ぶ。オニクスは顔を向け、キュルケに答えた。
「これは戒めだ、痛みが伴わなければ覚えない」
「かもしれないけど、離してあげて!」
「カナのことを侮辱されて黙っているわけにはいかない!」
「その子だって馬鹿じゃない!本当はわかってるはずよ、貴方の苦しみを!」
「なら何故!」
「…嫉妬」
そこでタバサが、ボソリとつぶやく。オニクスが疑問を浮かべた。
「ハ?」
「…ルイズはその子に嫉妬してる」
「それはなんだ、ルイズがカナに…嫉妬しているというのか?」
「…カナはオニクスと仲良し。お互いが満足してる。
けど、ルイズはオニクスと仲良くない。オニクスはルイズをカナの代わりと思ってる」
「ばっ…代わり…!?」
タバサは表情を変えずに続け、オニクスもまた姿勢を変えずに続ける。
「少なくとも私にはそう見える。例えそうでなかったとしても…きっとルイズはそう思ってるはず」
「…俺も、そう思っているつもりはなかったが…」
オニクスの怒声は小さくなり、やがて普通の声に変わる。オニクスはケーブルの束縛を解き、ルイズをゆっくりと解放した。
怒りはタバサにより鎮められ、オニクスは自分にも原因があったのか、と思い直したのだった。
そしてゆっくりとオニクスは地面に降り立つ。ルイズは空中に浮き上がり、ゆっくりとオニクスの両腕の中に収まった。
「…そうか…そういうこと…なのか」
「まぁ、その子に聞いてみないとわかんないけどね」
キュルケがオニクスの腕の中で気絶しているルイズを指差す。ルイズの服はボロボロになり、オニクスの攻撃の苛烈さを物語る。そこまでにオニクスのカナへの感情は、凄まじいものだったのだろう。
「あんたも、すぐに切れたら駄目よ?」
「…」
気絶したルイズを自室のベッドに寝かせると、オニクスは溜め息をついた。
「…ふぅ」
「…オニクス、言葉に気をつける」
「あぁ、わかっているつもりだ…」
ルイズの自室を出ると二人と一機は階段を下り、廊下を歩く。向かう先は次の教室。昼休みが終わった以上、次には授業しかない。
「先生には私から言っておくわ。次の授業は欠席にしておく」
「そういえば、次は三限目だったな」
「…物理」
「…はぁ。めんどくさいわねぇ」
「…物理の先生が風邪だから、今日の授業は自習」
キュルケが小さくガッツポーズを取った。
「…ふぅ」
「…オニクス、言葉に気をつける」
「あぁ、わかっているつもりだ…」
ルイズの自室を出ると二人と一機は階段を下り、廊下を歩く。向かう先は次の教室。昼休みが終わった以上、次には授業しかない。
「先生には私から言っておくわ。次の授業は欠席にしておく」
「そういえば、次は三限目だったな」
「…物理」
「…はぁ。めんどくさいわねぇ」
「…物理の先生が風邪だから、今日の授業は自習」
キュルケが小さくガッツポーズを取った。
次 回 予 告
決意を新たに進む道。
だが、運命は一本道ではない。
新たな試練は黄金の輝きと共に
憎悪を伴い、オニクスの前に立ちふさがる。
だが、運命は一本道ではない。
新たな試練は黄金の輝きと共に
憎悪を伴い、オニクスの前に立ちふさがる。
次回「翼腕」 光の神は、安息の神。