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ゼロの夢幻竜-06


ラティアスはやってしまったという顔をする。
変身の瞬間こそ見られてはいないが、誰もいない内に念動力を使ってさっさと洗濯を終わらせようと思っていたからだ。
目の前にいるメイドは黙っていたが、直ぐに首を傾げてごく当たり前の質問を投げかける。

「あのう、新入りの方ですか?」

新入りという言葉にラティアスはぴんと来た。
どうやらこのメイドは自分をここに着たばかりのメイドと勘違いしたようだ。
いいえと答えたら怪しまれてしまう。
一応調子を合わせる様にラティアスは頷いた。
だがそれがまずかった。メイドはにこにこしながら当然出るであろう質問を口にする。

「そうなんですか!ここでは貴族の方が多いものですから緊張してしまって……私シエスタって言います。あの、あなたのお名前は?」

答えられるわけが無い。
ラティアスとその雄の形態にあたるラティオス一族は、人間に変身する事は出来る。
だが、声帯とそれに準じる発声機能の忠実な模倣は何代続いても不可能だった。
その為ラティアスは人間の外見に姿を変える事は出来ても、音声を使った意思疎通に関してはほぼ無理だった。
目の前にいるシエスタと名乗ったメイドの物腰は柔らかそうで、且つこちらへの敵意は無い。
それでも今、質問に意思疎通形式で答えたら何が起きるか分かったものではない。
しかし答えないままでは状況はより一層悪くなるだけだ。
耐え切れなくなったラティアスは、ままよ、と思い意思疎通を始める。

「嘘吐いてすみません。わたしはルイズ様の使い魔でラティアスといいます。」

瞬間シエスタは狐に摘まれた様な表情をしてその場に棒立ちになった。
何が起こっているのかよく分かっていない表情その物とも言える。
それはそうだ。いきなり自分の心に誰かの声が聞こえてきたのなら誰だって驚く。
ましてや目の前にいる人物が発しているとその本人に言われたって、口が動いていないじゃないかと言われるのがオチだ。
次に彼女は耳に手を当てる。しかし当然の如く何も聞こえない。
説明の為にラティアスはもう一度心の声を口にする。

「今あなたの心に直接話しています。ちょっと理由があって口がきけないのでそうさせてもらっています。それと……ほら、ちゃんと使い魔のルーンもここに。」

そう言ってラティアスは使い魔のルーンが刻まれた左手を相手が見やすいようにさっと掲げた。
シエスタはそれに顔を近づけるがそれでも信じられないといった顔をする。
それに未だに自分の手で耳の辺りをこんこんと叩いていた。
ラティアスは困った顔をし、小さな溜め息を吐いて考える。このままでは埒が開きそうもない。
鬼が出るか蛇が出るか。正にそんな雰囲気だったが至善の策が尽きたなら次善の索を使うまでだ。

「仕方ありませんね……私の本当の姿を見せます。でも絶対に人に言わないで下さいね。」

……とは言っても実際に見る以外信じて貰えなさそうだが。
そう思いつつラティアスは目を閉じて再び深呼吸をする様なポーズをとる。
そして目も眩む光と共にラティアスは一瞬で元の姿に戻る。
これで信じてもらえるかとラティアスは目を開けたが……
甘かった。その光景を穴が開きそうなほど見つめていたシエスタは、あまりの出来事に気を失い、ばったりとその場で後ろ向きに倒れてしまった。

やっぱり不味かったか……とラティアスはつい思ってしまうのであった。
彼女の所属する仕事場まで運んでいってやろうかと考えはしたが、何処が彼女の仕事場なのか見当がつかない。
どうにもしようが無いのでラティアスはシエスタを水汲み場の縁にもたれ掛かる形で寝かせる事にした。
さて次は洗濯である。
洗濯といっても洗う為の石鹸や洗濯板を持って来ていなかった。
しかしラティアスはそれでも一向に困る事はない。
服が格段に汚れていない今、石鹸は兎も角として道具に頼る必要は無かったからだ。
ラティアスは先ず、空中に直径2メイル程ある水の玉を作り出す。
そしてその中に洗濯物を入れ、後は目にも止まらぬ高速回転を行う。
その間彼女は体を少しも動かす事は無い。
全ては彼女自身が持つ強力な超能力という力によって起こされている事なのだから。
大きな竜巻の様な形を取っているそれを、ラティアスは時たま横向けにロールした状態で回転させたり、玉の状態に戻して激しく振動させたりする。
誰か見ていたら先ず間違い無く何事かと目を疑うような光景ではある。
5分ほどそれを繰り返すと、元からあまり汚れていなかった事もあるが洗濯物は染み一つ無くなっていた。
ラティアスにとって幸いだったのはその間の光景を人間は誰一人として見ていなかった事だった。
見ているとすればかなり離れた位置からではあるが、昨日召喚された使い魔達ぐらいなものだろうが、彼等の大方がそんな事は何処吹く風といった感じで思い思いの事をしている。
と、その時気を失っていたシエスタが目を覚ましその身を起こす。

「あ、気がつきましたか?と言うより大丈夫ですか?」

屈託の無い笑顔でラティアスは話しかけた。
しかしそれはシエスタにとっては少々パンチの効きすぎた寝覚めの一言だった。

「りゅ、りゅ、竜が喋ったぁあああああ~!!!わあわあわあ!!!」

シエスタは元の姿で宙にふわふわと浮いているラティアスを指差し、腰が抜けた姿勢で絶叫し動転する。
そんな彼女をラティアスは必死で落ち着かせる。

「落ち着いて!落ち着いて下さい!たのみますから落ち着いて下さい!何もしませんから!お願いですから落ち着いて静かにして下さい!」

その言葉に、それまで散々おろおろ喚いて再び気絶しそうだったシエスタは漸くある程度の平静さを取り戻した。
まだ体の隅は小刻みに震えているが、それでも話が通じる様な状態になっただけまだましである。
ラティアスはそれを確認すると一回小さく咳払いをして話を続けた。

「よかった……。私はこういう風にして意思疎通をさせる事が出来ます。あと人間への変身も。
さっき変身していたのは一種の試験です。その……上手く変身できるかどうかの。
……それで、あの、さっきの姿になっていいですか?もう気絶しないって言うのならやりますけど。」

その質問にシエスタは首をぶんぶんと振って頷く。
許可を貰ったラティアスは竜の姿を掻き消し、メイド姿の似合う少女にする。
最初の内は震えが止まらなかったシエスタも徐々に冷静になり、改めて人間状態のラティアスをぐるりと一周する形で眺める。

「本当に人間の姿になれるんですねえ~。」
「声が出せないのが残念です。本当はご主人様が意思疎通していいって言った人だけに喋っているんですけど、今回は事情が事情でしたから……」

照れ臭そうに俯くラティアスの姿を見てシエスタは先程の事を全て無かった事にし、微笑みながら右手を差し出す。
親愛の印とも言える握手の誘いだ。

「改めまして、ここでメイドをさせてもらっているシエスタです。」
「こちらも改めまして、ルイズ様の使い魔、ラティアスです。」

ラティアスも自身の右手を出して握手しながら挨拶し直す。
やがてどちらからともなく、小さな声を出してくすくす笑い出した。
シエスタは思う。
とんだ一日の始まりとなったが色々と面白い一日になりそうだと。

その模様の一部始終をほんの一瞬も目を離す事無く見つめている物があった。
使い魔の一匹、風竜の幼生であった。


ルイズは『アルヴィーズの食堂』でラティアスを待っていた。
朝食はつい先程始まりを告げたばかりで、テーブルの上にはまだ栄養のしっかり取れそうな料理が幾つも並んでいる。
今来たのならまだ楽しい食事は出来るだろう。
周りを見ると給仕として忙しそうに働くメイド達がいる。
ラティアスの分は彼女達に口利きさせてもらった方が良いかしら?
そうルイズが思った時、校門に面した入り口から一人のメイドがそおっと入ってくる。
遅刻したのかしらと、厨房から出入りしていない事を理由に訝しんだ。
が、そのメイドは脇目もふらず真っ直ぐに自分の所に向かってやって来る。

「何か用?」

そう言ってルイズはグラスに入ったワインをほんの一口だけ口にする。
が、次の瞬間聞こえてきた声に危うくそれを思いっきり目の前にある皿やテーブルクロスに向かって盛大に噴き出しかけた。

「只今着きました、ご主人様!」


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