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豆粒ほどの小さな使い魔-18




ヴァリエール家までは、シルフィードが乗せて行ってくれる。
キュルケとシエスタはそこで一泊、次の日に故郷に向かうって。だから手荷物だけにして、嵩張るものは先にそれぞれのお家に送ることになってる。
まだ二日あるのに、ガッコウの中、どこか浮ついてるみたい。授業中なのに、ざわめきが収まらない。先生も、諦めてるのかな。簡単なおさらいだけ。
「ハヤテも、家に帰りたいわよね……」
「帰リタイケド、今ジャナクテモイインダ」
少し強がって、笑ってみた。
「旅行好キナ人間ノ『トモダチ』ニナッタころぼっくるモネ、長イ間帰ッテコナカッタヨ。ソレデ、旅行記書イテタ」
私も読んだことがある。私が書き溜めてる手紙が、私の旅行記になるのかな。
だから、寂しくなんてないよ。


* *



懐かしいヴァリエールの屋敷が、どんどん大きくなる。
ありがとうシルフィード。首筋を撫でる。あともう少しだから、頑張ってね。
まだ小さくしか見えないけど、あの窓の辺りがお父様の書斎。あっちの東屋ではよくお茶会をした。それから、
「流石は名立たるヴァリエール公爵家。上から見るのは初めてだけど、大したものだわ」
豪華さじゃうちも負けないつもりだけど、こういう景観との一体感とかは負けるわ。
キュルケの軽口に、こみ上げてたものが引っ込んだ。そうよ、一人じゃないんだから、泣きたくなることなんてないんだから。
「当たり前でしょ、先祖代々ヴァリエールの一族が愛してきた屋敷なんだから」
「あ、あの、私なんかが来ても、本当に宜しかったんでしょうか?」
「ルイズがいいって言うんだからいいのよ。ルイズ、仮にも友人として引っ張ってきたんだから、ちゃんと責任は取りなさいよ」
分かってる。シエスタを平民扱いなんてさせない。私にとって、彼女は恩人なんだから。気持ちは、全部手紙に込めた。
お母様は厳しいけれど、受けた恩義はちゃんと返すことを知ってる人だ。
「ごめんね、ちょっと居心地は悪いかもしれないけど、でもシエスタにはどうしても来て欲しかったの」
私は、魔法を使えるようになった。お母様たちにそれを見せるのが、夢に見るくらい楽しみだった。でも、一人で魔法を使えるようになったんじゃない、支えてくれた人たちがいることも見せたかったから。
「気弱になってるわけじゃないの。ただ、見ててもらえたら、嬉しいかなって……キュルケっ 笑わないでよっ」
ふわりと、ゆるやから螺旋を描きながら、シルフィードが館の前庭に降下していく。
誰かが伝えたんだろう。人が出てきてる。竜で降り立つなんて、まるで凱旋だ。
案外当たってるのかもしれない。ゼロだった私が、メイジになって帰って来たんだから。
なんて、まだ卒業したわけじゃないのに、気が早いかな。
「お母様! お父様! ルイズ・フランソワーズ、ただ今戻りましたっ!」
行儀が悪い。こんなに大声で叫ぶなんて。でも、目が合ったら我慢できなかった。


「改めて紹介いたします。こちらはミス・ツェルブストー。学院での私の友人です」
ツェルブストーの名前を出したとき、お母様の目元がぴくりと震えた。
「キュルケ・アウグスタ・フレデリカ・フォン・アンハルツ・ツェルプストー。ミス・ヴァリエールのお招きに預かりまかりこしましたわ」
場所を第二応接室に移して。
「お久しぶりですね、ミス・ツェルブストー。幼い頃の面影がありますね」
虚勢かもしれないけど、それでも大したものだと思う。私だってお母様は怖いもの。
だけど面識があったなんて知らなかった。
「こちらはタバサ。ガリアからの留学生です。彼女はシエスタ。二人とも私の大切な友人です」
「ちょっとルイズ、私は大切じゃないっていうの?」
うるさいわね、言葉の綾よ。
「いや、ユニークな友人を持ったものだね。風竜の主は、君か。素晴らしい竜だ。厩で休ませているが、他に何か希望があれば、使用人に言いつけてくれたまえ」
くすくすと、お父様が楽しそうに笑って。私もつられて肩の力が抜けた。そう言えば、お姉様の姿が見えない。
「エレオノールは、実験の手が放せないと手紙が来たよ。三人とも、よく来てくれた。是非自分の家とも思ってくつろいでくれたまえ」
「は、はいっ ありがとうございますっ」
タバサは軽く会釈したけれど、シエスタはがちがちだ。
でも、返ってそれがよかったみたい。お母様の目元が、何となく和らいでる。
「じゃあ、カトレア姉様は?」
「お前が帰ってくるというので、はしゃぎすぎてしまってね。少し熱を出したので休ませているんだ」
無理をさせてしまった罪悪感と、私のために無理をしてくれたって嬉しがる自分が、私の中でぶつかる。
「この後行っておあげなさい。無理に休ませたから、今頃うずうずしてるかも知れないわ。それより」
お母様にしては珍しく、そわそわ? そんな感じの声。
「はい、お父様、お母様、紹介いたします」
一歩前に、でもまだ遠いから、そのまま二歩、三歩。
「私の大切な、大切な使い魔、コロボックルのハヤテです」
肩から、腕を伝って、手のひらへ。お父様たちの目が見開かれる。
「ハジメマシテ。私ハ、はやて。るいずノ使イ魔デス」
真っ白い布を肩から斜めにかけて、マメイヌ隊の剣を腰に挿したハヤテは、昔話に出てくる異国の剣士のよう。シエスタが細い銀糸で縁に刺繍をしてくれたので、元がハンカチだったとは思えないくらい可愛い。
この服は皆で作った服だから、これで行きたいと言われて、ハヤテがもう少し大きかったら抱きしめられたのに。
「……手紙にはありましたけど、まさか本当に小人とは。それに、不思議な装いですね。でもよく似合っていますよ」
きっと、シエスタもくすぐったい気持ちだろうな。


「ハヤテは、とても笛が上手いんです。お父様たちにも聞いて欲しいの」
「ほう? それは楽しみだ。夕食の後にでも是非聞かせてもらおう」
ヴァリエール領で取れたお茶の香りを吸い込むと、帰ってきたんだっていう気持ちがまた胸に広がる。
ハヤテが殻のコップを両手で持ってる姿は、二人にも好評だった。それに、ようやくシエスタも、お茶を味わう余裕ができたみたい。
「ねえルイズ、魔法のお披露目をするんじゃなかったの?」
キュルケがこそりと囁いてきた。本当はそのつもりだったけど、でも、
「あのね、最初は、ちい姉、カトレア姉様に見て欲しいの」
私が魔法を使えるようになるって、本当に信じて、一番待っていてくれたのは、ちい姉様だから。
熱が上がるくらい喜んでくれたって聞いて、本当は今すぐ駆け出したい。
二人も私のそんな気持ちを知ってるから、言い出さないでいてくれるんだと思う。
目が、ついドアの方に向かう。さっき、ちい姉様の様子を見に行かせた、そろそろ戻ってきてもいい頃。
ハヤテが、とことこと歩いて――人目のあるところでは、本気で走ったり跳んだりしないで置こうって決めたから――お母様の手のひらに腰を下ろした。
こんな風に固まってるお母様は、滅多に見れない。吹き出しそうになったけど、後が怖いから、お父様と目配せするだけ。
「お館様」
メイドが戻ってきた。
「おお、どうだったかね?」
手が震えて、テイーカップがぶつかっちゃった。
「お医者様の許可も頂きました。興奮させなければ大丈夫だと」
「だそうだよ、ルイズ。行っておあげ。カトレアも待ってる」
「はいっ ハヤテ、皆も行くわよ」
一礼をして、皆を急かしちゃう。早く、ちい姉様が待ってるんだから。
「待ちきれないのはルイズでしょ。はいはい、分かってるわよ」
階段を駆け上がる。
最初はなんて言おう? やっぱり、ただいま、かな。それから、それから、
「よっぽど好きなのねぇ」
「私も、カトレア様のお話は何度も聞かせていただきました」
そうよ、好きよ。悪い?
ドアをノックして、返事を待つのももどかしい。息を整えながら、

「ルイズ?」

その優しくて懐かしい声に、ドアを開けて中に飛び込んだ。




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