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宵闇の使い魔 第弐拾壱話

鶏冠に来たぜ、もう容赦は無しだ。
懺悔を済ませな、ワルド。
もう一度終わらせてやる。


宵闇の使い魔
第弐拾壱話:嵐の中の輝き


「おらぁッ!」

怒声と共に振り下ろされたデルフの刀身が、ブレスを放とうと口を大きく開けた竜の首と胴体を断ち斬った。

ワルドとの戦いのなかで低気圧としての貌を顕現させた虎蔵は、
逃走しようとするワルドとその後を追う二騎の竜騎士にあっさりと追いつき、背後から襲い掛かった。

竜騎士の一人は、追いつきざまに背後から斬りつけられ、既に大地に地面へと落ちてしまった。
そして今まさに騎竜を失い、フライで逃げようとする竜騎士には背後から蹴りを叩き込む。
骨の砕ける音ともに背中がグロテスクに陥没すると、彼もまた抵抗一つ出来ずに地面へと落ちていく。

背後からの高速接近による不意打ちはといえ、あっという間に二騎。
馬によってそうとう強化されているワルドにしても、その不利は一目瞭然であった。

「くッ――――他の竜騎士はまだかッ!」

けん制に《エア・ハンマー》を放ち、虎蔵へと竜の頭を向ける。
背中を向けて逃げるのは危険すぎると判断したようだ。
しかし今の虎蔵には風系統の魔法はほぼ意味を成していない。
せいぜい風の刃がスーツを切り裂く程度だ。
相性は最悪で、一対一では勝ち目がない。

だがその時、艦隊から飛び立った竜騎士達が近づいてきた。
待望の援軍に、流石のワルドも歓喜の声を上げる。

「やっと来たか!」
「ちッ――うじゃうじゃと来やがったな」

合流した彼らと睨み合う。
流石は名高きアルビオンの竜騎士隊である。
虎蔵の姿を見ても、明確に怯えを見せる者は居ない。

「結構な数だぜ、相棒。行けるか?」
「カカカッ! 上等ッ!」

しかし、虎蔵は二十近い竜騎士にも臆する様子を見せず、左手で印を組む。

「我、雷牙雷母の威声を以て五行六甲の兵を成す! 千邪斬断万精駆逐電威雷動便驚人!」

唱える口訣はワルドに放った物と同じだ。
だがしかし、虎蔵自身がその時とは異なる。
その威力を暗示するかのように、荒れる空で雷が鳴り響く。

「――――起風、発雷ッ!!」

虎蔵の掌から巨大な東洋竜が放電しながら放たれた。
ワルドを目掛けて放った物だったが、彼はギリギリのところで竜を急降下させて直撃を逃れる。
しかし、彼の背後にいた不幸な竜騎士は避けることが出来なかった。
その不幸な騎士を基点として放電を伴った大爆発が起きる。周囲の竜騎士すら巻き込んで。
ギリギリで回避出来ていた筈のワルドも、騎竜ごと爆風よって吹き飛ばされた。

「ははッ! こりゃ凄ぇや! 相棒、突っ込め!」

デルフが上機嫌に叫ぶ。
ニィッと犬歯を剥き出しに狂気染みた笑みを浮かべ、竜騎士の群れへと突撃した。
それに対して騎士達が慌てて詠唱を始めるが、大爆発に動揺しているためか精彩を欠く。
詠唱を終える頃には虎蔵は一団の中に飛び込んでいた。

「くッ、撃つな! 味方にあたるぞ!」
「カカカッ、そんな余裕があるのか?」

右腕を振るって窮奇を発生させ、手近な竜騎士を切り刻む。
直撃を避けた竜騎士には肉薄し、デルフで止めを刺す。
竜の首を刎ね、騎士を切り裂く。
次々と空に血が舞い、虎蔵のスーツをどす黒く染めていく。
しかしその時、何かに気付いたデルフがガチャガチャと刀身を鳴らした。

「相棒、右上! ありゃ、嬢ちゃん達じゃねえか!」
「んだと? チッ、何しにきたんだ――こっちゃ、手加減なんて出来ねえってのに、よぉッ!」
「向こうも気付きやがったぜ」

周囲に睨みを利かせながら視線を向ければ、シルフィードとその背に乗る二つの小さな人影が見えた。
だが周囲の竜騎士達もそれに気付き、一騎が彼女達の元へと向かおうとする。
虎蔵はそれを追おうとするのだが、行く手を防ぐように無数の火球やブレスが飛んできた。
ギリッと歯を鳴らして右腕を振るう。
暴風を起こしてそれぞれを散らすと、残像でも見えそうな高速機動で竜騎士達を掻い潜り、
シルフィードの方へと向かった竜騎士を追いかける。
風を切り、高速で飛びながら虎蔵はデルフをその竜騎士目掛けて投げつけた。

「うおおぉぉッ!?」

よもや自分が投げられると思っていなかったデルフは盛大に悲鳴を上げるが、
狙いは過たず、竜騎士の背中に突き刺さった。
竜騎士は突然自らの胸から生えた刀身に驚くが、開いた口からは悲鳴の代わりに血が飛び出す。

「ッあ――――あ――」
「クカカカッ! 余所見はいけねぇなぁ」

絶望に震える竜騎士の耳に、即座に追いついた虎蔵の声が聞こえる。
だが、振り返ることすら出来ずに、右手の巨大な爪で頭を握りつぶされた。
怪力でそれを振り回し、慌てて追いかけてきた竜騎士達へ向けて放り投げる。

「ハハッ! やるねぇ、相棒! 最高だ、全身の錆が落ちていく感じだぜ!
 次に魔法が来たら俺を向けろ。凄ぇこと思い出したぞ!」

デルフが上機嫌に声を上げると、騎士の血に塗れながらも刀身が淡く輝いていく。
虎蔵は返事もせずに、再び竜騎士の群れの中へと飛び込んだ。
しかし、二度目ともなれば相手も対応してくる。
数騎が囮となり突っ込んでくる。
竜の爪が、騎士の魔法が襲い掛かるが、右腕から生まれる暴風に体勢を崩され、逆に一刀の元に叩き斬られる。
だが、その間に距離をとった竜騎士が次々と詠唱を終えていた。
彼らの杖先で風が渦巻き、火球が膨れ上がる。

「撃て!」
「相棒、今だ!」

号令に合わせ、多方面から同時に飛来する魔法。
ワルドが行った四面攻撃以上の数だ。
しかし、虎蔵がデルフが言うように切っ先を飛んでくる無数に魔法へと向けると、
どういう事か、風が、火炎がその刀身へと吸い込まれるように消えてしまう。

「ははッ、思い出した! 思い出したぜ! 相棒、俺ぁ魔法を吸収できるらしい。」
「おいおい、随分な隠し玉じゃねえか――」
「しかたねぇだろ、なんせ六千年も前のことだかんなぁ!」
「六千か。なら仕方がねぇな」

虎蔵はニヤッと笑いながら更に飛来する竜のブレスを避わすと、魔法を吸収されて驚く竜騎士へと肉薄する。
一振りで騎士を逆袈裟に斬り裂き、返す刀で竜の首を斬り落とす。
喉元には油袋がある事をデルフから聞いているため、狙うのは首の根元だ。
地上に落ちた死骸は、なかなか無残な姿を晒していることだろう。

魔法をデルフで吸収し、ブレスは避けながら一騎一騎確実に屠っていく虎蔵。
だが、相手も見事なもので、連携によって出来る限り接近を許さないようにしてくる。

「使い魔ぁぁぁぁッ!」

そこに一際強い風が吹き付けてくる。
爆風で吹き飛ばされていた筈のワルドも舞い戻ってきたのだ。
風でダメージを受けることはないが、体勢は崩しかねない。
そこに別の火竜のブレスが飛んでくる。

「小賢しいッ――――」

ギリギリと歯を鳴らしながら、右腕を振って暴風を巻き起こし、ブレスを弾き飛ばす。
しかし。ワルドは更に詠唱を続けながら突っ込んでくる。
服は焼け焦げ、幽鬼もかくやという形相である。

「貴様ッ、だけはッ!」
「しつこいッ!」

放たれたのは《エア・スピアー》。
面で駄目ならば、一点集中でということなのだろう。
しかし、今の虎蔵にはデルフの魔法吸収まで備わっている。
威力とスピードのせいか"吸い漏らし"が発生するが、頬を浅く裂く程度にとどまる。

「なんだとッ!?」
「カカカカッ! 腕の次は首だぞ、ワルド!」

デルフが吸収能力を思い出した時には爆風で吹き飛ばされていたためか、その能力に驚愕するワルド。
その一瞬の隙を突いて虎蔵が肉薄、デルフを振り下ろした。

「ちッ――――ただの剣ではなかったか」

しかし刎ね飛ばす事が出来たのはワルドが駆る風竜の首のみ。
ワルド自身はとっさに飛び降りと《フライ》を唱え、距離をとる。
虎蔵は追撃しようとするのだが、そこには竜騎士隊の妨害が入る。

絶妙な連携をしてくる竜騎士達に、虎蔵の苛立ちはつのる一方だった。
もっとも、竜騎士が倒されるスピードはどんどんと速まっているのだ。
デルフ曰く"心の振るえ"が強まっているためか、ガンダールヴの能力で虎蔵自身の身体能力も向上しているし、
数が減る度に連携が取れなくなっているためだ。

だが、低気圧としての貌を顕現させている虎蔵はちまちまとした戦闘に耐えられなかった。

「あぁぁッ! うぜぇッ! まとめて落とすぞ!」
「相棒ぉ、どうやってだよ。あの雷か? って、あ、相棒ぉぉぉぉぉッ!?」

ブチッと音デモしそうな勢いでキレると、方法を問いかけるデルフに答えることもせず、
それどころか彼を空高く思いっきり放り投げる。

「力尽くでだッ!!」

デルフの尾を引く悲鳴など一切お構いなしで、虎蔵が右腕を振り上げた。
今までのように窮奇を警戒した竜騎士の一人が声を出す。

「散開! 散開!」
「無駄だ――――宗州草薙!」

竜を失い、フライで戦闘空域から離れようとしていたワルドは、背後から感じる気配に振り返る。
そこで目撃してしまった。
虎蔵の右腕が禍々しい剣に変わるところを。
今まで手にしていた剣よりも遥かに長大で、刃は鋸状。
柄が右手と融合しているようで、其処を左手で支えている。
どんな剣で打ち合ったとしても、叩き折られてしまいそうな威圧感を感じた。
かなりの距離があるにも関わらず、だ。

虎蔵は逃げようとするワルドの方を向き、彼を目掛けるように誰もいない空間で剣を振り下ろした。
馬がどれだけ弄り回したのかは知らないが、これで終わらせるという殺気をこめて。
ワルドは逃亡も忘れ、その姿を眺めてしまった。
距離がある事に安心したのか、あるいは叩きつけられた殺気に縛られたか――それは彼自身でも分からないが。
しかし――――――

刹那、切っ先が走った空間から轟音を上げて暴風が走り――竜巻が発生した。
虎蔵の近くに居た竜騎士を巻き込みながら、ぐんぐんと巨大化していく。
ワルドの目にはコマ送りのようにゆっくりと写っていたが、それは一瞬の出来事であった。

「馬鹿な――――使い魔、貴様はいったい――」

迫り来る竜巻越しに呆然と虎蔵を見つめながらワルドが呟く。
虎蔵と関わることになった多くの者が口にする疑問である。
だが、答える者はこの場には居ない。

そしてワルドの意識は途絶えた。




「ワルド――――」

虎蔵達を迂回して艦隊へと向かうシルフィードの上から、彼らの闘いを眺めていたルイズが呟く。
あれは敵だ。頭でも心でも理解している。
それでも元婚約者が竜巻に飲み込まれる瞬間を目撃するのは、複雑なものがあった。

数多くの竜騎士が回避行動も虚しく風に巻き込まれ、竜巻の中へと消えていく。
もはや生存どころか、姿形が残っているかどうかも怪しいだろう。
そして竜巻が叩きつけられた平原には放射状に爪痕が残されている。
美しかった草原の一部が抉れ、荒地と化していた。
艦隊から降下していた陸戦部隊の一部も巻き込まれているようだ。

暴威。
その一言に尽きた。
今更ながら、自らの呼び出した使い魔の特異性を思い知らされる。
タバサもまた衝撃を受けているようだが、ルイズとは異なり何かを考え込んでいる様子だ。

だが、その間にも虎蔵は残り少ない竜騎士達を次々と屠り、
とうとう二十騎近いアルビオン竜騎士を全滅させてしまった。

「これで一安心なのね! きゅい! あっちに行くのね!」

それを見たシルフィードは、タバサに確認を取ることもなく虎蔵の方へと針路を変える。
艦隊へ向かうにもその方が早いので、タバサも咎めることはせずに、姿が変わったままの虎蔵を見つめていた。

虎蔵の近くにつくと、彼は変身らしき物を解除してシルフィードの背に飛び乗ってきた。
普段は眼帯に隠れている右目は、ぼさぼさに乱れた前髪に隠されてしまい、
どうなっているのかは窺い知れないが。
右腕は何時も通り、人間の物に。
翼も消えている。

「――――あの姿は?」
「あー、本気モード? 上手く説明できるもんじゃねーんだが――ま、疲れるし今日は打ち止めだ。
 加減も出来ねえしなぁ」

デルフの峰でぽんぽんと肩を叩く虎蔵。
その姿からは、一撃で眼下に広がる平原――荒地の惨状を作り出したとは思えない。
"疲れる"という理由も、虎蔵の今までの言動からすればもっともらしい。
真実はもう少し別のところにあるのだが、虎蔵はそれを口に出すつもりは無かった。
面倒だから。

「んで、こんな所まで何しにきたんだ?」

アルビオン艦隊は、目と鼻の先とまでは言わないが、すぐ近くだ。
竜騎士が更に出て来る事になれば一瞬にして戦闘空域になるだろう。
いまだに暴風に晒されているフネで満足な砲撃が出来るとも思えないが、
対空砲撃にさらされる危険性もゼロとは言えないのだ。
タバサはそれを十分承知のようで、ほんの少し困った様子を見せてルイズに視線を向けた。

「アルビオン艦隊を落とすわ」
「あ?」
「これに書いてある《虚無》の魔法――――これなら出来る気がするの」

そう言って差し出してきたのは《始祖の祈祷書》。
虎蔵から見れば白紙の本だ。
タバサに助けを求める視線を向ける。

「――――試す価値は」
「ある、と」

こくりと頷く。
ルイズがそれに続けて喋る。
その目は真剣そのものだ。

"フーケ"のゴーレムと対峙した時や、アンリエッタからの頼みを受けた時だって真剣ではあった。
この少女は、ルイズは何時だって真剣に何かをなそうとしてきた。
だが、今はそれとはまた異なる意思以上の物を感じる。

恐らくそれは――――自信。

「トラゾウ、貴方のさっきの――魔法なのか何なのかは分からないけど、あれでも落とせるとは思うわ」
「まぁ、なんとかなる――――かな」
「でも、それだと沢山の人が死ぬ」

別に太陽が出て眩しい訳でもないが、自然と掌を翳して艦隊を見る虎蔵。
しかし、続けられたルイズの言葉に呆れた様子で彼女へと視線を戻した。

「今更じゃねえか?」
「今更でも、よ。私はトリステインを守りたいだけ。敵を滅ぼしたい訳じゃないわ。
 臆病だと思ってくれても良い。でも、今は私に従って。トラゾウ」
「うーむ。まぁ、別に構いやしないがね。《虚無》の魔法とやらは、不殺の上で艦隊を落せると?」
「えぇ。きっと。きっと出来るわ」

頷くルイズ。
その様子に虎蔵は肩をすくめる。

「なるほど。じゃあ、良いんじゃね? そもそも、止める理由も無いしな」

馬が関わったのはワルドだけであるようだから、彼を倒した今、積極的に動く理由は虎蔵には無い。

「気の抜ける返事ね――――じゃあ、やるわ。支えてて。タバサ、もっと近づいて」
「――わかった」
「ありがとう。さぁ――――使い魔だけに良い格好なんてさせないんだから」

相変わらずの様子の虎蔵に、ルイズは少しだけ肩の力を抜いて笑みを見せと、杖を取りす。
未だに強い風に飛ばされないように、虎蔵の腕が主の小さな身体をしっかりと支えた。

「エオルー・スーヌ・フィル・ヤルンサクサ」

古代のルーンが、リズミカルにルイズの口から流れ始める。
耳朶を打つ強い風の音にも負けない、朗々とした声で。

ルイズは感じていた。
自らの内に脈打つ、熱い何かを。
心音とは違う、もっと熱い鼓動だ。
《ゼロ》と蔑まれていた自分の、本当姿がそこにあると信じて手を伸ばす。

恐怖は無い。
虎蔵の力強い腕に支えられているのを感じる。
これほどの使い魔を呼んだのだ。
それだけの実力が、自らにはある。
ルイズは確信していた。

「オス・スーヌ・ウリュ・ル・ラド」

詠唱は続く。
長い。
虎蔵は系統魔法について殆ど何も知らないが、今まで聞いたタバサ達の詠唱と比較すると相当な長さだ。
実戦に向いているとは思えない。

「娘っ子、左だ! 散弾が来るッ!」
「きゅぃ!」

デルフの警告に、シルフィードが甲高くひと鳴きして急降下する。
あまりの急制動に詠唱に集中しているルイズは吹き飛びそうになるが、虎蔵が何とか押さえ込んだ。
しかし、それでもルイズは詠唱を続けている。
それほど本気ということなのだろう。

追撃の弾はまだこない。
虎蔵が元の姿に戻ったせいか、低気圧による暴風は少しずつ落ち着いてきている。
とはいえ、連続で砲撃できるほどの余裕は持てないようだ。

しかし、長く留まれば危険には変わりない。

「上だ。フネの上には弾を撃てねぇ」
「わかった」

タバサが頷くと、シルフィードが再度きゅぃ!と鳴き声をあげて、今度は急上昇する。
見事な加速でぐんぐんと上昇し、一気に艦隊の上をとった。
竜騎士が打ち止めならば、甲板から魔法を打たれる危険性は残るものの比較的安全な位置だ。

「ジェラ・イサ・ウンジュー・ハガル・ベオークン・イル――――」

詠唱を終えるころには、ルイズはその呪文の特性を理解していた。
この《虚無》は艦隊全てを巻き込む。
伊達に伝説と謳われてはいない。
単純な破壊力では確実に虎蔵を上回る。
多くの人が死ぬだろう。

――けれど、殺す必要なんて、きっと、ない――――

ルイズはその双眸に艦隊中央に陣取る巨艦、レキシントンを捉える。
殺す必要は無い。
破壊するべきものは――――

宙の一点を目掛け、杖を振り降ろした。
吹き荒れる暴風の中、《虚無》が発動する。

レキシントンの真上に光球が生まれる。
みるみるうちに膨れ上がっては、艦隊の全てを飲み込んでいく。
それはまるで、産声を上げる太陽のようであった。



「全軍ッ、突撃ッ!」

アンリエッタが水晶の光る杖を振り下ろすと、盛大な雄叫びと共に王軍がタルブ平原へと進軍を開始した。
悪夢の如き空と、竜騎士隊を屠った翼人の存在。
更には謎の光球によって艦隊は炎上し、全てのフネがゆっくりと墜落していった。
もはや降下しているアルビオン軍――レコンキスタの陸戦部隊にも、まともに戦う力は残っていないだろう。
斥候からの報告によれば、翼人が放ったと思われる竜巻に部隊の一部が巻き込まれたという。
彼らは士気だけでなく戦闘能力の一部も失っているのだ。

「――――奇跡に奇跡が重なった、といった所ですな」
「えぇ。何もかも、謎だらけですが――勝ちは勝ちです」
「損害を考えれば敗北に等しい勝利ですが――その通りですな」

マザリーニの言葉にアンリエッタが頷く。
とはいえ、二人とも表情は明るいとは言えない。
王室が常備していた空軍は全滅しているのだから。

「あの翼人と竜についての調査は速やかに。ただし、結果は密に、私にだけ報告させてください」
「かしこまりました――――何か心当たりでも?」
「えぇ――少し。良い予感なのか、悪い予感なのかははっきりしませんが」

突撃する王軍の姿を眺めながら、アンリエッタはそっと目を閉じた。

――ルイズ。まさか貴女なのですか?――

双眼鏡越しに見た光景を思い出す。
大荒れの空のなか竜騎士隊を絶滅させた翼人の服装に見覚えがあった。
謎の光が現れる直前に艦隊上空に現れた竜に見覚えがあった。
その背中に小さな人影が二つあった。

勘違いならば良い。
双眼鏡を使ったとは言え、結構な距離だ。
見間違える可能性はあるし、竜を個別に見分けられるほど詳しくも無い。
しかし、何故だろうか。
アンリエッタの胸には、確信にも似た感情が芽生えていた。

そして考える。
あの翼人がトラゾウと名乗ったルイズの使い魔で、あの光を放ったのがルイズであったとしたら。
その力のために、友人を――――たった一人の友人を"使う"のだろうか、と。
アンリエッタの悩みはつきそうになかった。




「ルイズ!」
「きゃっ!ちょ、ちょっとキュルケ。離れなさいよッ!」

シルフィードの背に乗りタルブ村へと戻ってきたルイズ達は大勢の人間に迎えられていた。
キュルケとマチルダだけではない。
シエスタや、避難していた筈の村人達まで戻ってきている。
ルイズが虎蔵によってシルフィードの背中から下ろされると、いの一番にキュルケが抱きついてくる。

「凄いじゃない! 貴女、もうゼロなんかじゃないわ!」
「わ、分かったから離れて!」

いつもは何だかんだとからかって来るキュルケに手放しで褒められ、
ルイズは妙な気分になりながらも彼女を押し返す。
だが、キュルケは何か変なスイッチでも入っているのか、聞く耳持たずに抱きついてくる。
ともすればキスでもされてしまいそうな勢いだ。
それだけは防ぎたい。
助けを求めて虎蔵へと視線を向けるが、彼の元にはマチルダとタバサがおり、気付いてはくれそうにない。
《虚無》を使った反動でくたくたの身体に鞭打ってでも、自力で唇を守らなければならないようだ。



「ご苦労さん。二人とも」
「まったくだ。風呂でも入ってひっくり返りてーわ」

ぎゃーぎゃーと騒いでいるルイズとキュルケを尻目に、マチルダが虎蔵とタバサの元へと歩み寄った。
虎蔵は肩をすくめて答えると、デルフを地面に突き刺して両手でゆっくりと伸びをした。
まるで日曜大工でも終わらせたかのような物言いにマチルダは笑みを見せる。
タバサもたいしたことは無いとでも言うように、首を振った。

「――あの姿は――――」
「まぁ、後で良いじゃないか。そいつはさ。ま、後で説明はしてもらうけどね?」

そして、当たり前といえば当たり前の事を突っ込んでくるのだが、それはマチルダに遮られた。
彼女はタバサの肩をぽんぽんと叩くと、虎蔵にもしっかりと釘を刺しつつ笑う。
マチルダにしてみれば、親の敵の敵をルイズが討つという複雑な状況ではあったが、
何故か、妙に嬉しく感じている自分を見出していた。

――もうこいつらに肩入れしちゃってんのかね――

そう心中で呟くと、苦笑しながら肩をすくめる。
当のルイズは、村人たちに温かく見守られながらまだキュルケと騒いでいる。
虎蔵はポケットから葉巻を取り出して銜えてしまった。完全にリラックスモードだ。
とりあえず今は、自分がまとめるしかないらしい。
名前を偽っている割には、ずいぶんと保護者役が板についてしまった気もする。

「ほらほら、そこまで。
 長居してるとトリステインの軍が来るよ。鉢合わせすると、ちょいと面倒になるんじゃないかい?」

マチルダの言葉にハッとして、ルイズとキュルケが目を合わせる。
確かにその通りだ。
大慌てで村人達に別れを告げる。
シエスタは村の建て直しを手伝ってから学院に戻ってくるらしい。
全員でシルフィードの背に乗ると、タバサの合図でようやく青を取り戻した空へと舞い上がる。

「さあ、帰りましょう。私たちの学院へ!」
「きゅい!!」

ルイズの声に、シルフィードの鳴き声が重なった。

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