あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

第9話 偽りのはずなのに


酷薄な笑みを浮かべる言葉。
腰の後ろには、尖った枝を隠し持っている。
殺傷力は神殺し――チェーンソーより格段に劣るが、
森の中に吹っ飛ばされたコルベールを殺すには絶好の得物だ。
枝で刺し殺せば、コルベールが森に吹っ飛ばされた際、
木々の枝が偶然刺さってしまったが故の事故死を偽装できる。
殺すため、言葉は一歩、コルベールに近寄った。
「待ちなさい」
これから何をされるのか解っているかのような発言に、言葉はわずかに双眸を細め警戒した。
もし目論見が見抜かれているのだとしたら、炎の魔法で返り討ちに遭うかもしれない。
「どこか怪我をしていらっしゃるなら、早く手当てした方がいいですよ」
「まあ、聞きなさい。愚かな罪人なりに、学んだ事もあるのだ」
「罪人?」
「私は人殺しだ。国の命令で、罪も無い村を焼き払った事もある。
 精神の壊れた人間も、何人も見てきたよ。時に魔法で、時に残酷な現実で、人は壊れる」
聞きながら、言葉は瞳の端である物を捉えていた。
杖。
地面に転がっている。誰の杖か? もちろん、コルベールの物だろう。
ゴーレムに殴られた時、彼は杖を持っていた。
恐らく森の中に突っ込んだ時に手放してしまったのだろう。
ああ、そうか。だから彼は、反撃のための詠唱をせず、時間稼ぎの戯言を抜かしているのだ。
一歩、彼に近づく。
「過ちに気づいた私は、残りの人生を贖罪に捧げようと決めた。
 私が傷つけてしまった者だけではない。戦禍や弾圧、暴力、裏切り……。
 傷つき悲しむ人々を、救いたいと、思った。聞かせてくれ、なぜ彼の首を切り落とした?」
「あなたには関係ありません」
言葉自ら誠の首を切断した事実に、この男は気づいていた。
何という危険分子。
生かしておけない理由がひとつ、増えた。
一歩、彼に近づく。
「私は、まだ誰も、救えていない。目の前にいる君も、結局救えなかったようだ。
 念のため教えてくれ。どうして私を殺そうとするのだね?」
「私から誠君を奪おうとしておいて、そんな口をお利きになられるんですか?」
「そうか、そう思われていたか。しかし死者は安らかに眠らせるべきだと思う」
「誠君は死んでなんかいません。私を待っていてくれてるんです」
「……。そうか。君がそう思っているのなら、今の君にとっての真実はそうなのだろう」

コルベールは身じろぎをし、苦しそうな目で言葉を見上げる。
怪我をして動けないのなら好都合。
一歩、近づく。
コルベールはもう目の前に横たわっていた。
「……。私を殺すのか」
「まさか」
「だったら、後ろに持っている物を捨てたまえ。それは、よくない」
持っている物が何かバレているなら隠す必要もないと、
言葉は尖った枝を見せつけるようにしながら、その場に屈んだ。
「女性の力では、服の上から致命傷を刺すのは難しい。
 かといって、他に刺せる場所といったら首くらいだろう。
 しかしそんな所に、偶然枝が刺さるなど、不自然だ。だから……」
「だから見逃して欲しい、ですか? 生憎、私、意外と力あるんですよ?」
「それは『ガンダールヴ』の力あってだろう。今は無理だ」
ガンダーと自分を呼んだ水の精霊を思い出し、
言葉は枝の先端でコルベールの喉を軽くつついた。
「……私の力の事、何かご存知なんですか?」
「あらゆる『武器』を使いこなす伝説の使い魔、ガンダールヴのルーン。
 君の左手に刻まれている、それが、そうだ……」
「そうですか。他に何かあるなら、手早くお願いします。
 ルイズさんが来る前に、殺したいですから」
深く息を吸い、コルベールは両目を閉じた。
「ミス・ヴァリエールが、あるいは、他の誰かか。
 いつかきっと、君を救ってくれる人が現れるだろう。
 だから、その時のために君は、人を殺めるべきではない。
 殺めれば、それはそのまま君自身の傷となってしまうだろう」
「もういいです。さようなら」
「……私の死は、私の罪がもたらしたものだ。
 だから君は、私の死を背負う必要は……無い。だから、殺すな……」
今さら命乞いなど、何と無様なのだろうか。
しかしそれでいい。無様な姿をさらして死ねばいい。
この枝を突き刺し、確実に息の根を止める。
力いっぱい振り下ろすため、力いっぱい振り上げる言葉。
枝を握る手に力がこもる。

そして。

その瞬間を目撃した言葉は、双眸を見開いた。

学院に戻ったルイズと言葉から土くれのフーケの正体を聞き、
さらに炎蛇のコルベールの死を知らされたオスマンはショックを隠せず、
力ない声で人を呼ぶと、コルベールの遺体の回収に向かわせた。
ロングビルの正体、土くれのフーケは牢に入れられ、
後日城の衛士が引き取りにくる予定だ。
そして土くれのフーケを捕まえ、神殺しを奪還したルイズには、
シュヴァリエの称号が贈られる事となる。
だが活躍したのは言葉だ。ルイズはそれが気にかかった。
しかしオスマンは、言葉が貴族ではないという理由で褒美は出せないと言う。
そこで言葉は意外な頼みをした。
「でしたら、オールド・オスマンから個人的に褒美をもらうというのは可能ですか?」
「私からか? うーむ、まあ構わんが、公的な許可の要る物は難しいぞ」
「神殺しを譲ってもらえませんか?」
「何じゃと?」
「あれの使い方、私、知ってるんです。折れてしまったノコギリの代わりに使おうかと。
 私はルイズさんの使い魔ですから、ご主人様を守れるよう、神殺しが欲しいんです」
オスマンは顎ヒゲをさすりながら、遠い目をして語り出す。
「むうう……しかしあれは、私の恩人の形見だしのー。
 そう、あれは数十年前、神の向こうにある扉とやらを通って来たという男と出会った。
 彼は『ハートが後ひとつしかない』『HPがやばい』と謎の言動を取っており――」
「興味ありません」
「あ、そう……」
残念がりつつ、オスマンはそれもいいかと考え直した。
恩人はこう言っていた。
『武器は使ってこそ価値がある! 使用回数なんて気にすんじゃねえ!』
だから、使える人がいるのなら、その人が使えばいいのだ。
「よかろう。じゃが、ひとつだけ質問に答えてくれるかな?」
「はい、何でしょう」
「ミスタ・コルベールは……『どうやって死んだ』のかの?」
「森の中に殴り飛ばされた時、折れた枝が身体に刺さってしまったようです」
事務的に言葉は答え、その様子を見てオスマンは天井を仰いだ。
「……そうか。まあ、いいじゃろう。神殺しは持っていくがよい。
 だが、チェストの中には適当な物を入れて誤魔化しておくため、
 それが神殺しである事を他人に知られてはならん。
 仮にも魔法学院の宝物庫にあった物を与えたという事実は伏しておくべきじゃ」
「ではそのように」
頭を下げて礼を言うと、言葉は退室を命じられて出て行った。
残されたルイズは、オスマンの表情が悲しみに満ちているのに気づく。

「オールド・オスマン。あの……まだ、私に何か?」
「あの娘、よく見張っておくのじゃよミス・ヴァリエール。
 これは恐ろしい想像じゃが……私は事実であると確信しておる。
 ミスタ・コルベールは、恐らく、殺されたのじゃ」
誰に、なんて問いをするほどルイズは愚かではなかった。
けれどオスマンから説明をされる間でもなく、
学院の生徒達は『捜索隊に参加したミスタ・コルベールが死んだ』事と、
『ルイズの使い魔も捜索隊に参加していた』という事実をつなぎ合わせていた。
その晩の、フリッグの舞踏会が開催される頃には、ひとつの噂が完成していた。

ルイズの使い魔がミスタ・コルベールを殺したに違いない……と。

今日の主役と着飾ったルイズが舞踏会のホールに入ると、
その意外な美しさと、噂の使い魔の主という事実にホールの空気がざわめいた。
ルイズにダンスの誘いをかける者は無く、唯一声をかけてきたのはキュルケだった。
「シュヴァリエの爵位をもらえるんですって? よかったじゃない」
「……まあ、ね」
その後、二言三言交わしたはずだが、ルイズはその内容を覚えていない。
楽しいはずの舞踏会の雰囲気が自分のせいで悪くなっているため、
いたたまれなくなったルイズは人気の無いバルコニーへ向かった。
双月を見上げ、それからふと下を見ると、言葉が誠の頭を持って座っていた。
夜の散歩だろう。舞踏会の賑わいを音楽にくつろいでいるらしい。
ルイズの足は自然に動いた。

「誠君。みんな、噂してます。私があの先生を殺したって。
 そんな噂、私は別にどうでもいいんですけど、でも……」
誠を膝の上に置いて向き合うようにしながら、言葉はずっと語りかけていた。
もちろん返事は無い。彼は話せない、喋れない。
だから言葉が望む事を言ってはくれない。
「ありがとうございます。やっぱり誠君は優しいですね」
だから彼がなんて言ってくれるかを想像して、それを真実とする。
誠はいつだって言葉の味方だから。

そう、誠だけが言葉の味方。
ルイズは違う。
誠を死んでいると認めさせ、言葉と別れさせたいというのがルイズの本音だから。
誠を愛する自分を気持ち悪いと言って、大嫌いだと言って、拒絶したルイズ。
でも、埋めてしまった誠を掘り返し、言葉を狂気に戻してくれたのもまた、ルイズなのだ。
「……ルイズさん…………」
「呼んだ?」

呟きに応じるように、ルイズが言葉の前に立っていた。
舞踏会から抜け出してきたらしく、綺麗なドレスに身を包んでいる。
楽しい舞踏会はまだ続いているのに、どうしてここに。
「視線が鬱陶しくて、抜けてきちゃった」
「視線……?」
「噂、聞いてない? ミスタ・コルベールは自殺したんじゃなく、あんたに殺されたって」
「ああ、その話ですか」
興味なさそうに視線を誠へと落とし、微笑む言葉。
丁度ルイズの事を考えていたところに本人が出てきたから面食らっただけで、
一番深い本音の部分では敵であるルイズが来たからといって、嬉しくなどない。
ただ言葉に誠を捨てさせようとしているため、ルイズ自身が誠を捨てるという事はなく、
誠を手放さなければならない状況において唯一預けられる人間というだけ。
言葉にとってルイズはそういう存在。それだけの存在。

だから、大丈夫。
ルイズに何を言われようが大丈夫。
心なんて傷つかない。

「ねえ、コトノハ」
「何ですか?」
「あんな噂、否定しなさいよ。本当にミスタ・コルベールを殺したって訳じゃないでしょ?」
「そうですね。でも私が殺したか殺してないかなんてどうでもいいです。
 あの人は死んだ。それでいいじゃないですか」
「……殺したの? 殺してないの? どっち?」
ほら、きた。
言葉は心を閉ざす。傷つかないように、悲しくならないように。
「殺してないって言ったら、信じますか? 私が言って、信じますか?」
「ん……そうね、難しいわ」
結局はそういう事なのだ。
言葉を本当に信じてくれるのは、誠だけ。
だから、言葉はつい、言ってしまう。
「私が殺しました。そう言ったら、信じますか?」
「うわぁ、すごい説得力。百人が百人信じるって答えるわね……。
 多分私が知る今までの中で、誰よりも何よりも説得力にあふれる答えよ」
嬉しそうな笑い声が小さく漏れる。
予想通りすぎて、勝ち誇った気分になる。
西園寺世界の中に誰もいなかったと確認した時のように。

「でも、私は違うと思う」

しかしルイズは言った。
「コトノハが殺したって言っても、私は違うと思う。
 だって、さっきから自分がミスタ・コルベールを殺したかどうか、
 わざと答えを言わず、相手がどっちだと思うかを試すような言い方してる」
そんなつもりは無いと反射的に言葉は心中で否定したが、
否定した瞬間、それが真実だと気づかされる。
閉ざした心の扉が、わずかに開いて、狂気の渦巻く瞳がルイズを見る。
「コトノハはさ、『殺してない』って言って欲しかったんじゃないかな……って思うの。
 本当は殺してないのに、みんなから殺したって思われて、違うって言っても誰も信じない。
 だからどうでもよくなって、でもやっぱり……信じて欲しくて……違う?」
ルイズの微笑が眩しくて、言葉は目頭が痛くなるのを感じた。
咄嗟に顔をそむけ、瞳にあふれそうになるものを隠す。
「……違います。私は、本当にどうでもいいんです。
 誠君だけは私を信じてくれるから、他の誰に、どう思われても」
「私はコトノハを信じちゃダメ?」
 そりゃ確かにさ、あんたならミスタ・コルベールを殺しかねないと思う。
 もしかしたら、私の考えは間違いで、本当は殺してるかもしれない。
 客観的に見ればやっぱり怪しいもの。私だって、ほんと言うと、殺したって思ってた。
 でも今ここにいるコトノハを見たら……さ、すねてるみたいで」
誠を抱き上げ、黒髪に顔をうずめる言葉。
表情を隠しながら、自分が今どんな表情をしてるのか見当もつかない。
目頭が熱い。痛烈なまでに。
「ご、ごめん、怒った? すねてるなんて、子供みたいな言い方しちゃって」
「……別に……怒ってなんていませんよ」
「それならいいけど、あの、もしかしたら私全然見当違いの事を言ってたのかなって」
ルイズは敵。自分に誠を捨てさせようとしている。
目的のために利用するだけの存在。
惚れ薬を飲んだ時の、あの感情は偽り。
唇にぬくもりが蘇る。解除薬を飲む前にした、ルイズとのキスを思い出す。
ルイズへの想いは、偽りのはずなのに。

   言葉は木の枝を振り下ろそうとして気づいた。コルベールから漂う血の匂いに。
   そしてコルベールの胸が上下するのをやめるのを見て、双眸を見開く。
   まさか。
   コルベールの身体を引っくり返すと、背中にはすでに、木の枝が深々と刺さっていた。
   殺そうと思った。現に殺そうとした。でも、彼はその前に、息を引き取った。

「……あの、言い返したい事があったら言ってね。
 私ばっかり、好き勝手自分の思った事を話しちゃったみたいで。
 だから、私の言った事が間違いなら、遠慮なく文句言っていいから」
しばらくルイズは言葉の返事を待ったが、彼女は誠の頭に顔をうずめたままで、
ルイズに見向きもしないし、話を聞いている素振りも見せない。
「……じゃ、私、行くね」
このままここにいても言葉の機嫌を害するだけかなと、
ルイズは落胆に肩を落としながらその場を立ち去ろうと彼女に背を向け、
「……いて……」
言葉が何か言ったような気がして振り向き、
「ここに、いてください」
確かに言葉がそう言っているのを聞いたので、ルイズは言葉の隣に腰を下ろした。
舞踏会が終わるまで、ルイズと言葉は一言も口を利かなかったけれど、
不思議と心安らぐ静かな時間をすごせたと後になって思った。
きっと、言葉も同じ気持ちだったと思う。

第9話 偽りのはずなのに


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