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ディセプティコン・ゼロ-14

何処だ、此処は?

『それ』は眼下に拡がる青い惑星の大気組成を分析しつつ、見慣れない形の大陸を凝視していた。
『それ』が僅か数分前まで見下ろしていたものとは、明らかに異なる形状の大陸。
そして頭上には、在る筈の無い『2つ目』の衛星。
有機生命体とは根本から異なるにも拘らず奇妙な類似を示す思考は、在り得ない状況の説明に理論的な根拠を求め、即刻調査を開始すべしとの結論を下す。
そして未知の推進機関を始動させ、想像を絶する推力によって惑星外周を回り―――――導かれた結論は、信じ難いものだった。



この惑星は、『地球』に非ず。



呆然と―――――ただ呆然と、眼下の青い惑星を視界に収め―――――

次に沸き起こったのは、歓喜。
予期せぬ時、予期せぬ形で転がり込んだ、予期せぬ幸運。
最大の障害と共に、目的を、配下を、全てを失った矢先に開けた、新たなる道。
これが歓喜せずにいられるものか。

やがて『それ』は紅蓮の火球となり、青い惑星の大気へと降下を開始した。
その擬似視界に、またしても―――――在り得ない、在り得る筈の無いものが映り込む。



遥か彼方の地平。
夕焼けに照らされた、紅い草原。
そのほぼ中央に刻まれた、深く長い溝。
『何か』が高速で衝突した事によって抉られた事を示す、巨大な爪跡。
既に相当の年月が経過しているのか、溝の内外は青々とした草に覆われている。



そして―――――その先に鎮座する、捻れ、潰れ、黒く焼け焦げた、歪な鉄塊。



知っている―――――『あれ』を知っているぞ。
覚えている―――――忘れるものか。
あの屈辱を―――――その滑稽さを。



知っているぞ―――――『地球人』!



嗤い声。
人には決してそうとは解らぬその声は、耳障りな電子音として中空に鳴り響く。
そして轟音と共に鉄塊の上空を横切った『それ』の視界に、非常に原始的な建築物が寄り集まった集落が移り込んだ。
更に―――――その外れに位置する、明らかに異常な文化的差異が見て取れる建築物内に安置された、またも異常な構造物の存在も。

『それ』は嗤い、呟く。



正しく『この宇宙は望みを捨てぬ者を助ける』、だ。



それは、ルイズがブラックアウトを召喚する8年前の出来事。
季節外れの冷たい風が吹く、夕暮れの紅い草原に面した小さな村での事だった。





未だ微かに白煙の燻る、サウスゴーダ、ウエストウッドの森。
一昼夜にも亘る消火活動を終えた水系統のメイジ達が、その表情に疲れを色濃く滲ませて、ロサイスへの帰路に就く。
周囲には無数の兵士達が其処彼処と騒がしく駆け回り、大地に刻まれた巨大な暴力の爪痕に対する検分に追われていた。

そんな中、1人の女性が焼き払われた森の中へと歩を進める。
彼女は森の奥深く―――――破壊が最も集中している地点へと辿り着くと地面へと屈み込み、散乱する黒く炭化した木片を手に取った。
自然には存在し得ないその造形は、何かしらの家具の破片だろうか。
元がどの様な意図を持って創造されたものかを窺い知るには、この場は余りにも閑散とし過ぎていた。

黒く焼かれた木々。
抉られた消し飛んだ大地。
鼻を突く異臭。

嘗ては子供達の笑い声と優しい旋律に満ちていたウエストウッドの森の一画は、あらゆる生命の存在を拒絶する死に支配された領域と化していた。



「此処に居たか」

彼女の背後、掛けられる声は若い男性のもの。
しかし彼女はその声に振り返る事無く、手の中の木片を見詰めている。
男もそれを気に留める様子は無く、淡々と言葉を続けた。

「此処に来たという事は、既に聞いているな?」

彼女は答えない。

「想定外だった。まさか彼女の使い魔があの様な……『化け物』だったとはな」

ふらり、と彼女は立ち上がり、男へと向き直る。
歩み寄るその姿を感情の窺えない瞳で見詰めていた男は、同じく無感動な声で言葉を紡いだ。

「これも、その使い魔の仕業らしい」
「……!」

その言葉と同時、彼女は男の襟首に掴み掛かる。
男はそれを払い除けるでもなく―――――ただ静かに、劇場に身を震わせる彼女を見据えていた。

「あいつらは……」

ここで初めて、彼女が声を発した。
絶望と、憤怒と、悲観と、憎悪が入り混じった、低く、暗い声。
そして―――――その感情は抑えられる事無く、爆発した。



「あいつらは―――――ヴァリエール達は何処だッ!」





アルビオンより帰還してからというもの、ルイズとっての日常とは現実感に乏しいものだった。

アルビオン、ロサイス近郊―――――あの森の中で、己の使い魔と銀のゴーレムが繰り広げた、想像を絶する闘い。
吹き飛ぶ木々、微動だにしないスコルポノック、血溜りに沈む友。
そして―――――彼女を殴り、昏倒せしめた、平民の少年。

暴行を受け意識を失った彼女が次に目覚めた時、其処は既に見慣れた学院の自室だった。
現状を把握出来ずに戸惑う彼女の前に現れたのは、何時だったかギーシュが絡んでいたメイドの少女。
意識が戻ったのか、身体に違和感は、記憶ははっきりしているか、と詰め寄る彼女を宥めて、ミスタ・コルベールを呼んできてくれないかと頼めば、数分後にはその人物が室内に佇んでいた。
同じ様にルイズの身体を気遣う質問の後、彼は事の仔細を語り始めた。



彼が言うには、フーケ討伐の際を再現するかの様にブラックアウトが中庭へと飛来。
その機体下部に吊り下げられた物体が『地球』のものであると看破したコルベールが、直々に彼女等を出迎えたのだという。
しかし、機体から恐る恐る降りてきたのは10を超える人数の子供、そして見慣れぬ少年少女。
少年は明らかに右腕を骨折しており、更に全身が血に染まっている。
少女は見慣れぬ服装だったが、その胸部もまた喉下からの出血により朱が滲んでいた。
更に、デルフの声に従い機内へと踏み入れば、其処にはルイズを含め、意識の無い4人の生徒達の姿。
またもや学院は上を下への大騒ぎとなり、4人は水のメイジによる集中治療を経て自室へと移されたのだという。
それが3日前。

ルイズはこうして目覚めたが、残る3人は未だに意識が戻らないのだという。
コルベールが言うには、3人は身体の各所を高威力の、恐らくは『地球製』の銃弾によって射抜かれており、一時は生死の境を彷徨った程の重傷を負っていたとの事。
それでも今は持ち直し、後は意識の回復を待つばかりだという。

その言葉に安堵し、ルイズはあの2人―――――平民の少年と、ハーフエルフの少女について訊ねた。
彼等はどうなった、此処に居るのか、安全は保障されているのか?
コルベールは最後の言葉に意外そうな表情を浮かべたが、心配は要らない、2人とも学院が保護していると返答。
後は自分達に任せ、もう少し休みなさいとだけ言って、部屋を辞した。
そうなれば、ルイズも再び襲い来る睡魔に負け―――――

そういえば、デルフの声を聴かないな。

そんな疑問を脳裏に浮かべながら、安らかな眠りへと墜ちていった。



「よう」

再び目覚めた時、彼女は枕元に立った小柄なメカノイドに見下ろされていた。
常人ならば驚き、肝を潰す光景であろうが、ルイズにとっては何よりも安心を齎す存在。
安堵こそすれ驚愕などする筈も無い。

「……おはよう、デルフ」
「おはよう、っつーにはちょいと遅いな。今は夜中だ」

その言葉に意識を覚醒させれば、成る程、窓からは月明かり。
これだけ明るければ十分だろうと、ルイズはランプを灯す事も無くベッドの上でデルフへと向き直る。
蒼い月明かりに照らされた少女とメカノイドの姿は何処か幻想的ですらあり、同時に鋼の様な冷たさをも併せ持っていた。
しかし2人―――――1人と1体の間に流れる空気は、穏やか且つ緩やかなもの。
暫し静謐のままに時は過ぎる。

「……状況は?」

不意に紡がれた二言目に、デルフが低く笑いを洩らす。
むっ、と眉を寄せるルイズに、デルフはひらひらと手を振り、答えた。

「段々と『らしく』なってきたな、ルイズ。それでこそ俺達の主だ。順応してきた、ってとこかな」
「何の事よ」

ふん、と鼻を鳴らしてデルフを睨むルイズ。
対してデルフは、打って変わって何処か真剣な声で彼女を諭す。

「此処で余計な会話から始める様じゃ、まだまだだって事だ。お喋りは状況確認の後でも出来るんだからな」

そう言ってまた、くく、と笑いを洩らすデルフに、ルイズは照れ隠しの様に咳払いをすると報告を求めた。

「私が寝ている間に何が在ったのか、報告しなさい」
「了解」



デルフの報告は簡潔で、且つ驚くべきものだった。

王党派の乗り込んだ『ビクトリー』号は無事にラ・ロシェールへと入港。
予め待機していたアンリエッタ王女からの使いの者により、王宮への取り次ぎに成功したという。
亡命という扱いになるとの事だが、その辺りは王宮の問題なので省略。
本来の目的であった『手紙』がレコン・キスタの手に渡ったか否かは不明だが、恐らくはブラックアウトの攻撃によって焼失した可能性が高いとの事で一時保留。
王女はウェールズの生存を喜び、同時に意識の戻らぬルイズを心底案じている様子だったとの事。

と、此処で、ルイズが報告を続けるデルフの声に割り入った。

「何でそんなに詳しいのよ」
「俺も話の席に居たからだ」

聞けば先日、デルフはオスマンに掛け合い、共に王宮を訪ねて報告を行ったのだという。
変形する事を王女に明かしたのかと問えば、既に彼女はウェールズから直々にデルフ、ブラックアウトについて聞かされていたとの事だった。
どうにもウェールズは、デルフやブラックアウトを危険視しているらしい。
王女に余計な事を吹き込まなければ良いのだが。

「覚悟しとけよ。下手すりゃお前さん、あの姫さんの都合の良い『兵器』扱いされるぜ」
「そんな事……無いとは言い切れないわね」

溜息を吐くルイズ。
感情や過去の記憶に惑わされる事無く冷静に判断するその姿に、デルフのプロセッサに満足感を表す信号が走る。
無論、そんな事は露知らず、ルイズは続きを促した。

「続けなさい」
「はいよ」

デルフはその言葉に従い、報告を再開する。


王女、そしてウェールズ、ジェームズ1世は、最早レコン・キスタとの開戦は避けられぬと判断。
手紙が焼失したのならば、予定通りゲルマニア皇帝との婚儀を執り行うとの結論に達した。
無論、其処には苦悩と葛藤が渦巻いていただろうが、其処はデルフにとって感心事足り得ない。
ルイズにしても、納得のいかない事ではあるが、取り立てて今口にするべき事ではないとの認識が在った。

「で、此処からが本題だ」
「……あの2人の事ね」
「それとあの『お友達』の事だ」



此処からの報告は、更なる驚愕と混乱をルイズへと齎した。

先ず、あの戦闘だが……仕掛けたのは、此方からだったとの事。
ブラックアウトが『ミサイル』とやらを発射、それをあの銀のゴーレムが撃ち落としたのだそうだ。
あの爆発は敵の攻撃ではなく、射出されたミサイルが迎撃された際に起こった爆発だという。
何故、勝手に攻撃したのかと問えば、それについては後ほど話す、とはぐらかされた。

驚いたのは、あの平民の少年についての報告だった。
彼は何と『地球』の住人であり、あのハーフエルフの少女に使い魔として召喚された存在だというのだ。
これにはルイズも心底から驚愕し、しかし同時に納得した。

あの少年の振る舞いと言動―――――デルフから聞かされた『地球』の体制からすれば、ハーフエルフを迫害する者も、暴虐に映る貴族の振る舞いも、両者共に嫌悪の対象だろう。
聞けばあの少女、アルビオン王家の関係者らしい。
父親がエルフの妾を囲っている事が発覚し、家族、従者諸共に皆殺しにされたのだという。
怨んで当然だ。
それを守護する使い魔なら尚の事、貴族というだけで十分に排除の対象となり得る―――――



「……随分冷静だな、ルイズ」
「……まぁ、ね。仕方無いわよ、非はこっちに在るんだし……それに『地球』にはもう、貴族なんて特権階級は無いに等しいんでしょう? なら、軽蔑されるのも仕方な―――――」

と、ルイズはある事に気付き、デルフへと疑問を投げ掛けた。

「ねぇ、デルフ。アンタ、私の事、名前で―――――」
「んで、だ。2人は学院の方で……」

唐突に、デルフは報告を再開。
ルイズは質問を遮られた事にむくれたものの、直にそれがデルフなりの照れ隠しなのだと悟り、悪戯っぽい笑みを浮かべる。
デルフは相変わらず報告を続けていたが、もしその顔に表情というものが在れば赤面していたのかもしれない。
楽しげに先を促すルイズを前に殊更、無機質さを心掛けて音声を紡ぐ。



2人は学院側が保護する事で決まった。
ジェームズ1世は、即刻処刑すべし、と主張したが、デルフの『説得』により学院にて監視するとの名目で保護が決定したと言う。

「『説得』って、何言ったのよ」
「事実を言っただけだ。『今あの2人を殺せば、あの銀のゴーレムが黙っちゃいない。相棒も損傷が激しく、それを撃退出来る可能性は低い。運良く撃破出来たとして、その頃にはトリスタニアの人口は半分以下になってるだろう』ってな」
「……それは脅迫っていうのよ」

2人は教員棟の一室に住む事となり、彼等と共に暮らしていた孤児達に関しては、王都の孤児院に預けられる事となった。
ジェームズ1世はいずれ、その子供達を人質に2人を処刑するつもりだったのだろうが、それは叶わないとデルフは言う。
この件に関しては、ウェールズに入れ込んでいる為に王女は当てにならないが、先ずオスマンが黙ってはいないだろうとの事。
彼の手は長い。
王都の子供達に何か在れば、それは即座にあの2人とゴーレムに知れ渡る。
その際に何が起ころうとも、こっちは責任を持たない……という様な事を暗に仄めかすと、ジェームズ1世は口を閉じたという。
そのジェームズ1世の頭の固さ、思想に若干の嫌悪を抱きつつ、ルイズは内心、良い気味だ、とほくそ笑んだ。
一方、デルフはといえば何処までも現実的で、折角の手駒を失う訳にはいかないと、彼の王を嘲笑うかの様に言い捨てる。

「手駒?」
「ああ」
「どうして? ブラックアウトにとっては敵なんでしょう?」
「味方になれとは言ってない。交換条件だ。俺達はあいつらを護り、更にその為に必要な『手段』を与える。あいつらはお前と、お前のダチを護る。悪くない話だろ」
「『手段』?」

首を傾げれば、デルフは何でもない事の様に返した。

「『銃』だ。同郷のモンだし、問題は無ぇだろ」

驚愕し、然る後に納得した。

成程、あれだけの力を持つ兵器だ。
それを使えるとなれば、例えメイジであっても敵ではないだろう。
詠唱を行っている間に仕留められる。
だが……

「それって、弾切れになるまでの関係じゃないの?」
「お前、相棒がどうやって弾薬を補給してるか忘れたのか」
「あ……」

そうだった。
ブラックアウトやスコルポノックは、消費した弾薬を自己生成しているのだ。
ならばあれらの銃の弾薬を生成する事も不可能ではあるまい。

「でも、それならあのゴーレムにも出来るんじゃ……」
「だとしても逃げられはしねぇさ。王都のガキどもが居る。ジェームズは人質としての活用を諦めた様だが、こっちは精々利用させて貰うさ」
「……ホンっと悪どいわね」
「要領が良いと言ってくれ……で、あの『お友達』だがな」

デルフの話では、あのゴーレムはブラックアウトの同類らしい。
同じ要因、同じ過程で誕生した存在でありながら、その起源を異にする永遠の敵対的存在、その一員。
名は『ジャズ』。
幾度も映像で見た、『地球』の主要な乗り物である『自動車』に変形するとの事。

「一度に乗れるのは2人までだが、速度はなかなかのモンだ。少なくとも、陸上を走るモンでアレに追い付ける奴ぁ居ねえ。流石―――――」
「デルフ」

唐突に、ルイズがデルフの言葉を遮る。
彼女はその目に殊更真剣な色を浮かべ、目前のメカノイドを見据えていた。

「……何だ」
「教えて頂戴。ブラックアウトは……スコルポノックは、あのゴーレムは……一体何者なの?」

部屋に沈黙が降りる。
真っ直ぐに自身を見据えるルイズを見返し、次にデルフは窓の外へと視線を向けた。
其処に座するは、月明かりに蒼く照らされた巨大なペイヴ・ロウと、シルバーの塗装が輝くソルスティス。
正面から向かい合い、互いに軸をずらして最大限に距離を置いた位置に着いている。
決して『敵』から注意を離さず、互いを監視し合うポジション。
しかし間違い無く、彼等はルイズとデルフの会話をモニタしている事だろう。
それでも、何ら通信が入らないという事は―――――



「良いだろ―――――」
「もう寝るわ、デルフ」

またもや唐突に―――――そして一方的に、ルイズは会話を切り上げた。
心底驚いているのか、はたまた呆れているのか、デルフは呆然とルイズを見詰めたまま、シーツに包まる彼女を止めようともしない。
それでも、何とか言葉を発しようと試み―――――

「デルフ」

―――――しかし、それは先手を打たれる事によって頓挫した。
ぴたり、と伸ばし掛けた腕を止め、シーツに包まり背を向けて横になったルイズを凝視する。

「キュルケ達は、目覚めた?」

その会話の切り替えを訝しく思いながらも、デルフは答えを返した。

「……ギーシュと青い髪の嬢ちゃんは起きたが、あの嬢ちゃんはまだだ。出血が酷かったからな。一時は本当に危なかった」

それだけ聞くとルイズは寝返りを打ち、デルフへと向き直る。
そして、言った。



「なら、今はまだいいわ。貴方がそれを語るのは、全員が揃ってから。その時こそ、全部話して貰うわよ」



おやすみ、と言い残し、ルイズはすぐさま寝息を立て始める。
デルフは暫く、その寝顔を呆然と見詰め―――――



「……おやすみ」



やがて一度、優しくその髪を撫ぜると、瞬時に剣へと変形し部屋を飾る置物と化した。
そして、更に3日後―――――即ち、現在。



「……」
「……」

ルイズ、キュルケ、タバサ、ギーシュの4人とデルフは教員棟の一室、1人の『地球人』と1人のハーフエルフに割り当てられた部屋に居た。
室内には張り詰めた空気が漂い、ルイズを除く3人の手には杖が、ハーフエルフ―――――テファに寄り添う『地球人』―――――才人の手にはStG44が握られている。
正に一触即発の空気の中、部屋の中央に置かれたテーブルの上に、デルフが1冊の古惚けた本と2つの指輪を置いた。

「自己紹介は―――――必要無ぇか。ま、いいや。聞こえてるよな、相棒、ジャズ?」

6人の耳には何も聞こえなかったが、確かに返答が在ったらしい。
デルフは何処かに向けていた視線を本へと戻し、語り始める。

「先ず、確認だが……ジャズはお前さんの召喚の際に、付近に現れた。本人が言うには記憶が無い―――――これは間違い無いよな?」

才人とテファは無言のままに頷き、ルイズ達は首を傾げた。

「ヘリも車も『地球』のもの、しかし人型になるモン何ぞ存在しない―――――少なくとも現時点では。そうだな?」

その言葉に、弾かれる様に皆がデルフ、そして才人を注視する。
そして5対の視線に晒される中、才人はゆっくりと、だがはっきりと頷いた。

「……どういう事?」
「彼等は……『地球』の兵器ではないのかい?」

俄かに色めき立つギーシュ、キュルケ。
ルイズは口に手を添えて思案に沈み、タバサは無言。
テファは驚きを隠そうともせず、隣の席に腰掛ける才人を見遣っていた。
そんな中、才人が口を開く。

「逆にこっちが訊きたいぜ。お前等は何なんだ? ジャズはともかく、いきなり攻撃してきたあのヘリといいテメェといい、一体何者なんだ」
「宇宙人」

即座に返された答えに、才人は音を立てて立ち上がる。
はっとした様に杖を握り直すキュルケらを制止し、デルフは静かに語り掛けた。

「落ち着け、『使い手』」
「こないだといい今日といい……『使い手』ってのは何の事だ。大体『宇宙人』だと? ふざけるのも大概に―――――」
「ふざけてなんかいない」

才人の言葉は、デルフの硬質な音声に遮られる。
思わず小柄なメカノイドを見遣れば、それは卓上の本に手を置いたまま、才人を真っ直ぐに見据えていた。

「……」
「お前さん方は炭素原子を基本骨格とする有機生命体、俺達は異なる原子からなる無機生命体。お前さんは『地球』で、嬢ちゃん達はこのハルケギニアで発生した。そして、相棒達は―――――」

デルフは一旦間を置き、答えた。



「『セイバートロン』で」



誰もが顔を上げ、呆然とデルフを見詰める。
その視線の先で、メカノイドは始まりの惑星、その記憶を語り始めた。



「『セイバートロン』には、起源を異にする2つの勢力が在った―――――」



1時間後―――――疲れた様な表情を浮かべる面々を前に、デルフは古惚けた本を掲げてみせた。

「『始祖の祈祷書』」

その言葉に、弾かれる様にして視線を集中させる面々を無視し、デルフは卓上の2つの指輪を指す。
そして指輪の正体に気付いたのか、ルイズが声を洩らした。
同時にテファもまた、その一方を見て口元に手を遣る。

「あ……」
「『風のルビー』、『水のルビー』」

一心にそれらの国宝を見詰めだす6人。
デルフは続いて、ルイズとテファに指輪を嵌めるように指示した。

「いいの?」
「元々その為に借りてきたんだ。いいから嵌めろ」

そして2人が指輪を嵌めた事を確認し、デルフは『始祖の祈祷書』を捲り、2人の眼前に翳す。
あ、という小さな声が2つ、洩れた。

「読めるか?」

何が何だか解らず、訝しげに互いと視線を交わす面々。
それにも構わず、只々一心に『始祖の祈祷書』を覗き込んでいた2人の口から、ほぼ同時に同じ句が零れた。



『序文。これより我が知りし真理をこの書に記す―――――』



全員が動きを止め、2人へと視線を向ける。
しかし当の2人はそれにも気付かないのか、淡々と言葉を紡ぎ続けた。



『―――――神が我に与えしその系統は、四の何れにも属せず。我が系統はさらなる小さき粒に干渉し―――――』



どうしたのか、何を言っているのかと口にしようと試みるが、そのどれもが声にならない。
得体の知れぬ重圧が部屋に満ち満ち、誰もが口を開けないのだ。



『―――――四にあらざれば零。零すなわちこれ《虚無》。我は神が我に与えし零を《虚無の系統》と名づけん―――――』



『《虚無》!?』

聞き捨てならない名称に、サイトを除く周囲の3人が立ち上がると同時、音を立てて『始祖の祈祷書』が閉じられる。
それと同時、ルイズとテファが我に返った。

「あ……私……?」
「『虚無』……伝説の?」

戸惑う2人。
デルフはそんな2人へと歩み寄ると、その指から『風のルビー』、『水のルビー』を抜き取る。
そして、再び『始祖の祈祷書』を開いて翳した。

「読めるか?」

その問いに、全員が開かれた頁の正面へと移動する。
しかし―――――

「……何、これ」
「白紙じゃないか……」

誰もが首を傾げ、ルイズとテファを見遣る。
2人もまた混乱し、目に手を遣ったり、額に掌を当てたりしている。

「お前ら、誰でもいい。この指輪を嵌めて、これを見てみろ」

その言葉に、才人を除く全員が代わる代わる指輪を嵌め、『始祖の祈祷書』を覗き込む。
しかし、其処に文章を見出す事が出来たのは、ルイズとテファの2人だけだった。

「どういう事……?」

ふとタバサが洩らしたその呟きに答えたのは、デルフだった。

「その書を読む事が出来るのは、『虚無』を受け継ぐ者だけだ。ルイズ―――――」

再び指輪を嵌めたルイズに、デルフは先を読み進めるように促す。
ルイズはそれに従い、何処か興奮気味に声を紡いだ。



「―――――たとえ資格なきものが指輪を嵌めても、この書は開かれぬ。選ばれし読み手は『四の系統』の指輪を嵌めよ。されば、この書は開かれん―――――」



そこで再び、書は閉じられる。
もう、誰も言葉を発しようとはしなかった。

「もう解ったろ? お前さん達は『虚無の担い手』なんだ。系統魔法が使えねぇのも、爆発が起こるのも、『虚無』が原因だ。お前さん達は『ブリミル』の意思を継ぐ者なんだよ」

呆然と―――――只管、呆然とする面々を余所に、デルフは才人へと向き直る。

「お前さんの力……あらゆる武器、兵器を使いこなす能力はな。即ち『使い手』―――――『神の左手』、『ガンダールヴ』。『神の盾』。色々呼び名は在るが―――――」
「『ガンダールヴ』だって!?」

唐突に、才人が叫ぶ。
それに対し、意外とばかりにデルフが返す。

「何だ、知ってたのか」
「テファ。確か、あの歌……」
「歌?」

聞き返すデルフに、今度はテファが恐る恐る頷く。

「……この指輪を嵌めて、王家の秘宝であるオルゴールを回した時に聴こえてきたの。随分と昔の事だけど……はっきり覚えているわ」
「そりゃ『始祖のオルゴール』だな。成程、それを聴いて忘却の魔法が使えるようになったって事か。歌の内容は?」

デルフが、その歌詞を述べるよう促す。
テファは頷き、しかし、ふと才人を、続いて他の面々とを見遣ると、歌にする事なくただ歌詞を詠み上げた。

「『神の左手』『ガンダールヴ』。勇猛果敢な『神の盾』。左に握った大剣と、右に掴んだ長槍で、導きし我を守りきる」

テファを除く全員の視線が、才人の左手に刻まれたルーンへと注がれる。
才人は右手でそれを抑え、信じられぬとばかりに目を見開いていた。
歌詞は、さらに続く。

「『神の右手』が『ヴィンダールヴ』。心優しき『神の笛』。あらゆる獣を操りて、導きし我を運ぶは陸海空」

誰もがブラックアウトを思い浮かべ、しかし直に否定する。
確かにあらゆる場所へと主を運ぶが、あらゆる獣を操る能力など持ち合わせてはいない。
そもそも、『ガンダールヴ』のルーンが歌詞の通りに左手に刻まれている事から推測するに、『ヴィンダールヴ』のルーンは右手に刻まれている筈だ。

「『神の頭脳』は『ミョズニトニルン』。知恵のかたまり『神の本』。あらゆる知恵を溜め込みて、導きし我に助言を呈す」

これも違う。
デルフを通じて齎される知識は膨大だが、ハルケギニアについては殆ど何も知らない。
これでは『ミョズニトニルン』とはまるで逆である。



そして遂に、その一節が詠み上げられる。





「そして最後にもう一体―――――記すことさえはばかれる―――――」





窓の外、快晴の空。
重々しい風切り音と共に、巨大な影が蒼穹を横切った。





ティファニアが最後の一節を詠み上げる頃。
ブラックアウトは自身の思考中枢より溢れ出る膨大なデータを処理せんと、プロセッサへの負荷を無視して状況確認を開始した。



此処は何処だ?
自分は何故此処に居る?
『オールスパーク』はどうなった?
連絡の取れなかった『スコルポノック』が何故此処に?
何故システムが起動している?
自分はカタールの生存者である『地球人』にスパークを射抜かれ、活動を停止したのではなかったか?
『バリケード』は?
『フレンジー』は?
『デバステーター』は?
『ボーンクラッシャー』は?
あの忌々しい副参謀は?





『メガトロン』卿は、どうなったのだ?





気付けば、空を飛んでいた。
何処へ行くべきか、何をするべきかも解らない。
ただ、空へと舞い上がる。

その時、ブラックアウトは己のシステムに介入する、未知のプログラムの存在に気が付いた。
この惑星の原生生物によって構築されたらしき、原始的で粗悪なプログラム。
しかし如何なる原理か、それは着実に防壁を突破し、徐々に、徐々にブラックアウトの思考中枢を侵してゆく。



電子の咆哮。
巨大な金属音が、周囲の大気を揺さぶる。
怒り狂うペイヴ・ロウは気流をかき乱して転進、巨大な石造りの建造物に向かって突進を開始した。

距離60リーグ、目標『1』。
原生生物、有機生物学上分類結果『ヒト』。
未知のエネルギーを保有。
現在侵攻中の攻性プログラム発信源と断定、早急な排除が必要と判断される。
最適武装システム、多目的ミサイル。
武装選択、ロック。
発―――――



絶叫。
擬似視界の片隅、突如現れたルーンの切れ端が、視界全体を覆い尽くしてゆく。
ブラックアウトは自身のシステムが乗っ取られてゆく異常な感覚に、堪らず狂気の雄叫びを上げる。
ジャズによって破壊された正規の発声モジュールを介したものではなく、各部制御系が上げる、システムの電子的絶叫。
有機的生命体の耳には決して届く事無く、しかし確かに発せられるスパークの悲鳴。



その絶叫は徐々に小さくなり、やがて消える。
高速で学院へと突進していたペイヴ・ロウはその速度を落とし、程無くしてギアダウン、学院中庭へと着地した。



もし、普段からこの使い魔を目にしている者がこの場に居たとして、果たして『それ』に気付いただろうか。



蛇の様に蠢き、装甲の隙間へと消えてゆく、古代文字のルーン。
情報媒体という仮初めの形を取った鎖はその役目を果たし、在るべき姿へと戻る。



誰にも、自身の主にもその役目を悟られる事無く。
主の命を繋ぎ止める、唯一にして絶対の『命綱』は、ただ静かに、己が繋ぐべき『獣』の身体に捲き付いた。





ルイズ達が解散したのは、それから更に2時間ほど後の事だった。
デルフは、今はまだ『虚無』の目覚めるべき時ではない、とだけ告げ指輪を没収。
部屋へと戻るや否や、白紙の『始祖の祈祷書』をルイズに押し付け、王女の言葉を伝えた。

「ゲルマニア皇帝との婚儀で巫女を務めて欲しいそうだ。まあ、コイツを貸し出す為の大義名分なんだが。式の詔を考えておきな。そいつを持って、それを詠み上げるんだと」

未だ思考が追い付かず、曖昧に頷くルイズ。
既に限界に近い思考を持て余し、ベッドへと倒れ込もうとした、その時―――――

「ルイズ」

デルフが、剣の形態のまま、無機質に声を発した。

「……なに?」
「1つだけ言っておくぜ。よぉく考えるんだ。お前さんが、その力を振るうべき時は何時か」

そして、とデルフは一端の間を置き―――――





「最初に『消す』ものは何か。よく考えておけ」





それは、アルビオンからの帰還より7日後。
キュルケの提案により、トリステイン国内の『異物』探索が開始される4日前の事だった。

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